「たく、情けねーぜ・・・
こんなんが、オレんなかに居るとか思うとよ・・・」
悔しそうな表情で完二は完二の影を見つめる。
「完二、お前・・・」と花村は先ほどとは打って変わって、完二を見る。
「知ってんだよ・・・テメェみてぇのがオレん中に居る事くらいな!
男だ女だってんじゃねえ、拒絶されんのが怖くてビビってよ・・・
自分から嫌われようとしてるチキン野郎だ。」
そういうと、完二は少しうなだれる。
「それも含めて完二だ」と鳴上は言う。
「フン、なんだよ・・・分かったような事、言いやがる・・・」
完二は口ではそう言っているものの、少し照れがあるようにも見える。
そういうと、完二は完二の影に言い放つ。
「オラ、立てよ・・・
オレと同じツラ下げてんだ・・・ちっとぼこられたくらいで沈むほど、ヤワじゃねえだろ?
テメェがオレだなんて事ざ、とっくに知ってんだよ・・・
テメェはオレで、オレはテメェだよ・・・クソッタレが!」
自分自身と向き合える強い心が、"力"へと変わる・・・
完二はもう一人の自分。
困難に立ち向かうための人格の鎧、ペルソナ"タケミカヅチ"を手に入れた。
「うっ・・・くそ・・・」というと完二はグロッキーのボクサーの様に倒れ込んだ。
「完二君!」と千枝が言うと皆、駆け寄った。
「とにかく、外へ運ぼう!」と花村が言うと鳴上が背負い、皆歩き出した。
(自分自身と向き合うか・・・)とシンは靄の掛かった部屋でぼんやりと天井を見つめる。
何を俺は後悔しているんだろうか。
自分で決めた道だと言うのに・・・
「なにやってんだ、シン!早く出ようぜ」と花村の声が聞こえる。
「ああ、今行く」シンは花村達の方を見て、走って駆け寄って行った。
テレビの外へ連れ出すと、花村たちはとりあえず疲れていた完二の事を考えて後日、完二には説明すると言い、今日は解散となった。
「・・・すんません、手間ぁ掛けます。」と完二はシンに肩を借り歩いている。
「気にするな。どうせ近くだ」
「しかし、さっきオレの前でおきたのぁ・・・本当になんなんすか?」
「・・・さぁ?俺も正確には伝えられん」
「はぁ・・」と話しながら、巽屋の前に着く。
「ホント、すんません」
そう言うと完二は巽屋の中へと入って行った。
「さて、帰るか」
「あれ?君、確か鳴上君の・・・」
「あぁ、足立さんですか」とシンは相変わらずズボラな外見の足立に声を掛けられる。
「ん?ああ、悠の友達か・・・」と隣にいた堂島にもいわれる。
「堂島さん。こんばんは」
「こんなところで何やってるの?」
「え?自販機で飲み物を買ってました」とポケットから"盆ジュース"を取り出す。
「ああ、そう。もう、いい時間だから、早く帰りなよ」
「はい」とシンはポケットに手を突っ込み、神社の角を曲がって行った。
「いやぁ、彼。僕を頭のいい人だっていうんですよ」と足立は照れながら、堂島にそういう。
「そりゃあれだよ・・・お世辞だよ」と堂島は真剣な目でシンを見ていた。
「ええ!?そうなんですか!?」と大きな声を出した足立の頭を叩き、巽屋に入って行った。
堂島家では堂島が買ってきたジュネスの弁当を食べながら、他愛もない話をしていた。
ふと、堂島は思い出したように鳴上に言う。
「そうだ、言ってなかったな。巽完二ってヤツ、前に話したろ。」
「ええ、あの特番の」
「そうだ。実は、実家の染物屋から捜索願いが出てたんだが、無事に見つかった。
一応、お前と同じ高校だし、知らせとこうと思ってな。」
「・・・それはよかったです」と鳴上は悟られないように淡々と相槌を打つ。
「・・・ああ」と納得しない様子で堂島は箸を進める。
「それとな…
実は最近、お前があの染物屋に来てるのを見たってヤツが居るんだが・・・なにか用事か?
学生が立ち寄る様なみせじゃないからな。」
「友達付き合いで」
「ああ、あの旅館の子か・・・ふぅ・・・まあ、いい」と少し困った顔で鳴上を見る。
「ただ、危ない事に関わるなよ。いいな?」
鳴上は頷く。
「あと、お前の友達の・・・なんていったか」
「?」
「ああ、そうだ。間薙とか言ったか。」と堂島は思い出す様に話す。
「ええ、シンがどうかしましたか?」
「間薙だが、今日、巽屋に居たが・・・お前は何か知らないか?」と鳴上に尋ねる。
「・・・わかりません」
「・・・そうか。ぶしつけですまなかったな」
そんな会話を聞いていた菜々子は箸を止め二人を見る。
「・・・またケンカ?」
そう言われると二人は慌てて、箸を進め始めた。
シンは部屋に入ると、大きく息を吐いた。
こういう時にこの謎のシステムは便利だ。
そうシンは思うとふくらみのないパーカーのポケットから"盆ジュース"を取り出す。
とっさの機転をシンは利かせた。
まさか、タイミング悪く刑事と鉢合わせるとは思わなかった。
鳴上の親戚のおやじさんの職業まで知らないが、足立さんが刑事だと、知っていた。
故に、刑事だとわかった。
だが、オレの居た場所が巽屋が目の前だ。
そこで、オレはとっさにあの四次元ポケット的なサムシングからこの盆ジュースを取り出した。
恰も偶々、自販機で買った帰りのように見せる為に。
だが、あの顔は少し疑っている顔だった・・・
明日、鳴上に聞いてみた方がいいかもしれん
次の日の昼休み・・・
「昨日、堂島さんと偶然に会った」とシンは鳴上たちに言う。
「そういえば、堂島さんもそんなことを言っていた。
シンが巽屋に居たことを堂島さんに尋ねられた。」
「うっそ!タイミング悪かったね」と千枝はシンに言う。
それを聞いたシンはやはりといった顔をする。
(何故だ?暗いから、わからないと油断したが流石は刑事・・・あなどれない)と腕を組む。
「しっかし、堂島さんに若干疑われてるってやばくねーか?」と花村は言う。
「まだ、疑ってるって感じではなかった」と鳴上は言う。
「でも、今後気を付けないとね」と天城が言うと丁度鐘が鳴り、午後の授業が始まる。
「なるほど、あなた様との絆でございましたか」とイゴールは納得したようにシンに言う。
「・・・絆で彼は成長するということですか」
「左様でございます。」とマーガレットは言う。
「それにしても、マリー」とマリーをマーガレットは呆れた顔で見る。
マリーはジャックフロストと戯れている。
「いいんですよ。どうせ、暇ですし」
そう暇なのだ。バアルが言うには当分、雨が無い。
つまり、当分『マヨナカテレビ』が映らない。
それは困った状況だと言える。ルイが言った"限られた時間"それがいつなのか俺にはさっぱりわからない。故に、焦りを感じている。こんな中途半端な状況で結果も知れずに退場とはモヤモヤとしたものが残る。
まるで、いつ死ぬかわからない余命宣告でもされたようだ。
「しかし、実にあなたは強そうに見えます」とマーガレットはシンに向かって言う。
「・・・そういうあなたも」とシンは特に興味なさそうに言う。
「実は私、これほどまでに力量を感じたのは生まれて初めてでございます」
そういうとマーガレットは不敵に笑う。
「・・・そうですか・・・まあ、いずれ」とシンは椅子から立ち上がる。
「帰るよ。」
「わかったホー!!」とマリーの膝からピョコっと降り、シンと手をつなぐ。
「ま、また来て」とマリーは照れながら、シンを見送った。
ドアから出ると、すぐ近くに鳴上が居た。
俺がドアの目の前で突っ立っていることに驚いたそうだ。
「シンにも見えるのか?」と鳴上は不思議そうにシンを見る。
「イゴール曰く『同じ種類』らしいから。それが何を意味するのかは、お察しの通りだと思う。」とシンは淡々と説明する。
人間ではない。ということなのか、或いは別に意味があるのか、鳴上にはどちらだか、わからなかった。
「・・・にしても、そのエプロンは何だ?」とシンは鳴上の恰好を見て淡々と尋ねる。
「アルバイトだ。始めたんだが、ここ最近忙しくてな」そういうと少し恥ずかしそうにエプロンを外す。
「成程。君は忙しそうに見える。リーダーという役目もやっているからな」
「じゃあ、また」と鳴上は青いドアを開いて入っていった。
既に斜陽してきた影を見て、随分と長くいたと実感する。
そして、相も変わらずその足で愛屋へと向かう。
「そういえばさ、相棒」と夜、花村は鳴上と電話で話していた。
「シンのやつって悪魔って言ってたけどさ、あいつの影って出て無くないか?」
「・・・確かに」と鳴上は電話越しに納得したような声で言う。
「悪魔って事だから、やっぱりもう自分ってやつを知っているのかもしれない」と鳴上は付け足す様言う。
「あーなるほど。でも、あいつって悪魔っぽくないよな。どう見ても・・・人間だし・・・ん?ちょっと待てよ。」と花村は思い出したように話を続ける。
「あいつ2004年に世界は様相を変えたって言ってたよな。でも、俺の記憶が正しけりゃさ、別に2004年ってなにも起きてないよな」
「・・・シンは『君達は知らない』って言っていたから、多分シン自身の何かだろう」
「でもよ、それが『悪魔』になるキッカケってしたらさ、もっとなんか大事になってそうな気がするんだけど・・・俺の考えすぎか?」
「・・・どうだろう・・・」と鳴上は少し唸り答える。
「・・・あーわっかんねー!・・・ってもうこんな時間かよ!じゃあ、明日な!」
そう言って花村は電話を切った。
「ああ」
確かに、と鳴上は疑問を抱く。
『東京受胎』と言っていたが、そもそも受胎とは何だ?
何が起きたのだろうか。
そう思い、鳴上はネットで検索することにした。
当然、そんなものは出てこなかった。だが、カルトのページを見ると。
「・・・ミロク経典?」
だが、それについては詳しくは書かれていなかった。
気が付くと、すでに午前2時を回っていた。
「・・・寝よう・・・」
鳴上は布団を開き、そのまま眠りへとついた。
シンがベットで寝ていると、ヌルリとどこからともなくケルベロスとジャックフロストが出てくる。
「アチラモコチラモ退屈ダナ」
「そうだホー。こっちには悪魔もいないんだホー」
そして、同じような感じでピクシーも出てくる。
「あんたら静かにね」
「わ、わかってるホー」とジャックフロストはピョコピョコと歩き、リビングへと行く。
ピクシーはシンの寝ているベッドに座ると少し微笑む。
「ふふっ、こんなにぐっすり寝てるのを見たの初めてかも」
「我ハモウ何度モ見タゾ」
「うるさい。メギドラオン撃つわよ」
「・・・ソレハコマル」とケルベロスはアマラ経絡へと戻って行った。
「あっちは相変わらずよ・・・賑やかで、混沌としてる。馬鹿が多くて困るときもあるけどね」
そういうとシンの髪の毛を触る。
「思い出すわ。あなたと初めて会ったときはもっとヒョロっとしてて、情けなかったもの。でも、今や混沌王か・・・」
「随分と遠くに感じるわ」
「って言っても、私はそれを補佐してる訳だし・・・」
そう呟いた瞬間、氷が落ちる音がし、シンが目を開ける。
「ん?なんだ、お前か」と眼を擦るシン。
「まったく、あのバカ!」とピクシーはスライドドアを引き、リビングへと行く。
シンも眠そうな目を開け、リビングへと行く。
「ヒーホー!!この中は快適だホー」
そうヒーホーはいい、冷凍庫の中にすっぽり嵌り顔を出している。
「あのね!シンが寝てるんだから静かにしなさいって言ったでしょ!!」とピクシーは頬を膨らませて怒る。
「ヒーホー」
「ヒホ?」と首を傾げてシンを見る。
「・・・片付けろよ」
そういうとシンはヒーホーを睨みつける。
「わ、わかったホー」とヒーホーは冷凍庫から出ると氷を拾い始めた。
それを見たシンは再び寝室へと戻って行った。
「あれ?シンならもっと怒ると思ったけど」
「・・・眠いんだ。それに連絡なら、テレパシーがあるだろ」そういうとシンは布団に潜り込むように入った。
「時には顔を見たくなるのよ。それでね、あっちは相変わらずだから。あの『酒飲み』もしっかりとしてるし、問題ないわ」
「そうか・・・」そういうとシンは目を閉じた。
「でも、あいつら酒臭いのよ。特にマダだとかデュオニソスだとか臭くって。女性連中は切れてるわ。まったく・・・」とピクシーはシンを見ると、既に寝息を立てていた。
「寝るの早すぎ・・・じゃあね」
そういうとピクシーは消えた。
「オイラも帰るホー」とヒーホーも部屋から消えた。
少し経つとシンが目を開く。
「・・・俺は変わったのか・・・」とシンは再び目を閉じた。
すみません。なんだか、超迷走してます。