Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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真の理解は思いやりと同時に批判である。
チェンバレン 「日本事物誌」より





第x10話 Sympathizer

 

 

『次のニュースです。7年前に発生した"代々木公園惨殺殺人事件”で問題を起こした元通信会社サイバースの技術主任である、氷川氏に最高裁で殺人教唆、公的機関に爆発物使用により死刑判決が言い渡されました。氷川氏の表情は変わることなく、それを受け入れていました。』

 

ガイア教…本部…

幹部たちがそれそれ話していた。

 

「……あの噂、本当か?」

「どうせ嘘情報だ。あの『人修羅』がこの世界にいるという話だろう?」

「だが、6月以降、あの田舎町に悪魔の目撃談が絶えない」

「悪魔…か…。

実際、氷川を逮捕できたのも、奇跡的なものだったらしい。悪魔を倒しちまった刑事がいるって話だ」

「知ってる。確か、『周防』という名前だったな」

「ああ」

ガイア教徒幹部は腕を組む。

 

「本当に悪魔なんて居るのか?あるいは、集団幻想か?」

 

 

「だってさ!宗一(しゅういち)!」

彼女は八十稲羽の特集記事を見せ付けながら言った。

 

「突然、でかい声出すなよ…なんだって?」

 

東京に住む二人はオカルト研究部に所属する2人で、女子生徒の名を須永鏡子(すながきょうこ)。男子生徒を五月雨宗一(さみだれしゅういち)という。

彼女たちの関係はただの部員という訳ではない。今では腐れ縁と宗一は思っているが、鏡子はそうではないらしい。

2人は幼稚園からずっと一緒に居る。クラス替えでも、ずっと同じだったりする。唯一、去年の高校入学時に初めてバラバラになった。

 

元々、宗一自体が片親という境遇もあってか、しっかりとした子供だった為、2人のあいだに喧嘩も少なかった。小学生の時にラブラブなどと冷やかされても、宗一自体悪い気分でも無かった。

だが、鏡子はまだ“好き"などというものが分からず、妙に嫌がっていたのがショックでそれ以降、そういうのは無いと宗一は思っている。

 

しかし、鏡子は成長するにつれ、彼に惹かれていた。理由は分からない。だが、隣にいるのが当たり前で去年、それを初めて思い知ったのだ。いつものように呆れた顔で自分を見てくれている人がいない。それだけで、さみしく思えた。

だが、昔あれ程拒絶してしまった手前、自分の口から言うのが恥ずかしくなってしまっている。

彼女はとにかく行動的な人間で、活発なタイプだが、どうもそういうことには疎いらしい。そんな2人はオカルト研究部の部室で集まっていたところである。

 

「行くわよ!八十稲羽に!」

鏡子のその言葉に宗一は驚愕する

「は!?馬鹿じゃねぇの!?学校どうすんだよ!」

「ははーん…いいんだ。美優ちゃんのメールアドレスを「だー分かった!分かったよ!!全く」」

宗一はため息を吐き、鏡子は鼻で偉そうに笑った。

 

「それに、明日から土曜日よ?」

「は?……あーそうだっけ」

「……大丈夫なわけ?あんた」

「大丈夫だよ…俺は至って正常運行さ…」

 

宗一は色々と面倒ごとを抱えてしまうたちで事実、バイトの人が足りていない時期を何とか1人で、耐えた男である。その分、人からの信頼は厚く、良い人だと口々に言うだろう。

 

だが、本人はその捌け口を持ち合わせていない。

溜まった疲労を癒す方法は寝るという方法しか知らないほど、無趣味なのだ。

良い人間だがつまらない人間であるという自覚をしている。だからこそ、オカルト研究部に入ったというのもあるのかもしれない。

本人はそのことまでは考えていない。単純に少し意識している女子部員に「数合わせでも入って」と言われ入ったが、思いのほか面白く、また腐れ縁が居るために、こうして部室に集まっている。

一方、鏡子は初めから、オカルトが好きで入っていたがまさか宗一が入ってくるとは思わず、嬉しくベットの上で飛び跳ねたのは彼女の恥ずかしい思い出である。

 

「それで……その、美優さんは」

「来ないわ。用事があるって」

「ですよねー……」

 

宗一はそういうと、肩を落とした。

 

 

「はぁ……これで、俺の今月バイト代飛ぶな……さらば、オラの輝かしい現金たちよ」

 

そう言って泣く泣く、宗一は券売機にお金を入れ、HEHOCO(ヒホコ)にお金をチャージした。ジャックフロストの描かれたICカードで彼のお気に入りである。

 

「そんなお金に執着してると、ろくな事ないわよ。」

「うるせっ……」

「お金は目的を達成するための手段でしかないのよ。お金は手段よ、手段。お金が目的って、相当寂しい考え方よ。改めなさい」

「……お前ってそーいうところだけ、大人な。」

そう言って、宗一は視線を鏡子の顔から体にスライドさせた瞬間、足の先を踏まれた

 

 

案外、八十稲羽までは近かった。始発の電車に乗り、電車を何本か乗り継いだ所であった。2人が八十稲羽に着いたのは、午前9時くらいだった。

 

「で?どうやって、探すんだよ」

「えっとね、目撃談としては色々あるみたい。

例えば、激走する金髪悪魔とか、神社で泣くアリスとか、ドッペルゲンガーとか色々。」

鏡子はスマートフォンを見ながら言った。

 

「…なんつーか、ありきたりではないな。」

 

宗一は腕を組み、ふむと考える。ドッペルゲンガーは有名な話だが、激走する金髪悪魔。なんとも、一見古臭さがあるが、田舎故なのか。問題はアリスの方だろう。明らかにあの格好で居たら浮くが、『噂』程度に収まっている辺り、不思議なものだ。

 

「じゃあ、とりあえず、その目撃場所を周りましょう」

「そうだな」

そう言って、2人はバスの時刻表を見るやいなやため息を吐くのであった。

 

「色んな目撃談があるけど、この商店街が数としては多いの」

宗一たちは噂の数の多いところから行くことにした。

そこは少し寂れた『稲羽市中央通り商店街』という商店街であった。先ほどの噂たちも此処での目撃談が多い。

 

「しっかし、この廃れた感じはなんだろうな…」

「仕方ないわよ」

鏡子は歩きながら流暢にいう。

 

「何もしない地方都市の行き着く先は、老人達だけの集落になって、過疎化と高年齢化。あとは緩やかな終わりだけ…」

 

宗一は雑誌を見ながら答えた。

「まぁ、ここはまだ、ましな方かもな。人は居るし、都市伝説のブームでそれなりに人が来てるそうだからな。それに、ホラー系のテーマパークまで立ったそうじゃねぇか」

「運良くって意味合いか、あるいはそういうのが建ったから、こんな奇妙な噂が立ったのか。謎なところね」

「…」

宗一は鏡子の顔を見る

 

「な、何よ!」

「いや、嬉しそうな顔してんなーとおもってな」

「そ、そうね」

鏡子は恥ずかしそうに顔を逸らした。

 

「しっかし、なんつーか、お前変わってるよ」

宗一は歩き出すとそう言った。

 

「そうかしら。」

「女子でSCP Foundationとか神話とか読んでるやつあんま、いないぜ?オカルトつーか、もう、なんか関係ない気がするけど。それに、それで、英語が読めるようになるとか、ある意味尊敬に値するよ」

 

鏡子はうーんと唸る。変人だと言われているが、悪い気分ではなかった。そもそも、彼女がこういったことが好きになったのは今となってはよく思い出せない。

ただ、他の女子たちが話題の服やイケメンな芸能人の話やファッションの話をしている中、自分や美優はSCP-999が自宅に欲しいとか、神話の話をしたりと、男子寄りの会話であることを思う。そのためか、鏡子は思春期の男子たちでも気兼ねなく話せる女子生徒なのかもしれない。

 

「……そうかもね。あんたは無趣味だし」

「自覚はあるんだな。それに、軽く人をディスってるし」

「でも、他人と違うことに怯えてたって、どーしようもないでしょ?」

鏡子は呆れたように答えた。

 

「…それはさ、理解者がいるからだろ?美優さんとか、清一郎とかオカルト研の連中とか。」

「そうね。じゃなきゃ、私は……」

鏡子は言葉を詰まらせた。

 

(……じゃなきゃ、今頃、私は1人だったかも…)

そんな不安が彼女の言葉を詰まらせた。

 

「ん?なんだよ」

「な、なんでもないわ!」

 

だが、そんなことを考えても仕方がない。何より、その一番の理解者であり、初めての理解者は紛れもなく、目の前にいるこの五月雨宗一に他ならないのだから。

 

 

「で、ここが、そのアリスの居た神社か」

2人バス停から少し歩いたところの神社に入った。

そこはこじんまりしているものの、静かで良い場所だ。

が、異変に2人はすぐに気がついた。

 

「……金色の賽銭箱?趣味悪」

宗一は賽銭箱を見るや否やそう呟いた。

 

「浮きまくりね」

鏡子は賽銭を入れ、幽霊に会えることを祈願した。

2人は神社の中の茂みや本殿の裏まで調べたが特に異変はなかった。

 

「でだ、特に不審なところはなさそうだな」

「うーん、早々に会えるようなものではね」

「だな。次はどこいく?」

「このへんで、聞きこみかしら」

 

聞き込みを続けると、金髪のガラの悪い少年がいるらしい。金髪の悪魔の手がかりとして2人はその店へと赴いた。店に入ると、そこにはハンカチなどの染物系の商品が置かれていた。

その中に人形もある。

 

「あ…結構、かわいいかも」

鏡子はそういうと、それを手に取った。

 

「すみませーん」

鏡子がそう呼ぶも奥から人が出てくる気配があった。

 

「あ、なんだ、いるんじゃない」

「ああん?何だァ、テメェら」

奥から出てきたのは如何にもヤンキーと言った風体の高校生であった。

 

「客よ。これ頂戴」

「……ちっ」

そういうと、その高校生はあみぐるみを袋に入れて渡した。

 

「いっぱい種類があるな。それにどれも丁寧に作られてるし」

「もしかして、作ったのあなた?」

鏡子は何気なく尋ねた。

 

「そ、そうだよ!!わりぃか!!」

高校生は恥ずかしそうに声を荒らげた。普通の人間ならここで、恐怖で逃げていただろう。だが、彼らは変わり者だ。

 

「ふーん。凄いのね」

「そーいう趣味でここまで、出来るんだったらすげぇよ」

「……お前ら、変だとか……言わねぇのか?」

高校生は驚いた顔でふたりを見た。

 

「ああ。あなたの外見でこれはって思われると思ったの?」

「…」

「なら、こう答えるわ。別に?

人には色んな趣味があるものよ。それに良し悪しなんてないわ。どんな人間がなにをしようが自由だもの。犯罪でもないわけだし」

鏡子は真っ直ぐとした目でそう答えた。

 

「……そうか。わりぃな、突然?怒鳴っちまって」

「それでなんだけどさ。あなた、この商店街を激走したことある?」

「ゲキソウ?………あー、確かあったな……」

「…相手は自転車?」

「そん時は……いや、そーじゃねぇと思う」

高校生は頭を掻いた。その言葉に2人はため息を吐いた。

 

「スカだな。この人は悪魔じゃねぇ」

「ごめんね。じゃあ」

そういうと、2人は店をあとにした。

 

「…悪魔ぁ?…センパイに電話しておくか」

完二は珍しく頭が冴え、シンに電話をかけた。

 

 

2人は様々な場所を歩き回るも、結局、それらしい超常現象に遭遇することはなかった。

 

「どんだけ、手際いいんだよ。ビジネスホテル取ってるとか」

宗一は沖名にある、ビジネスホテルの前でそう漏らした。

鏡子は偉そうに胸を張る。

 

「も、もちろん!部屋は別よ!!」

「あたりめーだろ、常識的に考えて」

鍵を受け取った宗一はすぐにエレベーターの方へと向かった。

 

(す、少しぐらい期待したっていいじゃない………)

宗一の素っ気ない反応に鏡子はしょんぼりと宗一について行った。

 

 

次の日、宗一たちは八十神高校に来ていた。理由は『街の中を激走して金髪の悪魔』あの店にいた少年ではないとわかったので、他の方向性で調べていた。それはこの地元にある、八十神高校の制服を着ていたという証言があり、彼らはそれを頼りに高校に来たというわけである。日曜日のため朝からの部活に行く人を捕まえることに成功した。

 

「何か知りませんか?」

校門前で鏡子は八十神高校の女子生徒2人に話を聞いていた。

 

「あー、ほら、あの先輩の事故の話は?」

「詳しく、聞かせて!?」

鏡子は目を輝かせながら、グイッと寄る。

 

「え?えーっとね、確か、登校中だったその先輩に車が突っ込んだんだけど、なんでも、先輩は無傷で車の方が廃車になったとかなんとか」

「でも、あの……間薙先輩は金髪じゃないよね?」

「確かに…」

女子生徒達は首をかしげた。

 

「ありがとうございました!」

鏡子が女子生徒達を見送ると宗一が来た。

 

「どう?そっちは」

「ダメだな。まず、裏門は開いてなかったな」

「まぁ、そうよね。予想は付いてたわ」

「なら行かせるなよな……たっく」

彼女たちはその『間薙先輩』なる人物を探すことにした。

 

 

「マナギ?アー、良く食べに来てくれる子アル」

「ほんと!?」

「待ってれば、来るアルヨー」

 

鏡子はガッツポーズをする。宗一はふぅとため息を吐いて席についた。

 

(…どうせ、偽物だろうけどな……)

宗一のため息は疲れもあるが、そんな猜疑の意味も含まれていた。偽物というのは、宗一は事故の話など、たまたま無傷なだけで変な噂がそうやって流れただけなんだと思った。

 

(…そう考えっと、そのマナギ先輩ってのも可哀想かもな。ありもしない噂を勝手にされてさ)

 

「はい、チャーシューメンネー」

そう言ってカウンターに座る男に店主はチャーシューメンを出した。

2人が店に来てから数分後にパーカーを着た少年が店に来た。

 

「あ、イラッシャイネー」

「間薙さん。お客さん」

あいかに言われ、シンは奥のテーブル席に座る鏡子と宗一を見た。

 

その瞳を見た瞬間、宗一は先ほどの猜疑など空の彼方へと飛んでいっていた。

吸い込まれそうなほど、黒く深みのある瞳をしている。

それと、同時に明らかに普通の人間ではないと2人は悟る。彼らが変わっていたからこそ、感じ取る『異常』であった。

 

「あ、えーっと、あなたが間薙さん?」

「……そうだが。何か」

鏡子はジロジロとシンを見る。

 

「以前、金髪にしていたことは?」

「ない」

その否定に鏡子は腕を組んだ。

シンは怪訝な顔で2人を見ていた。無論、シンはその観察眼である程度は予測が付いていた。

 

(…テーブルの雑誌…『月刊 アヤカシ』。この1年でのオカルトブームにつられてきた、高校生くらいか。)

 

宗一は慌てた様子でシンに自己紹介をする。

 

「俺達、東京の『吉祥寺高等学校』のオカルト研究会の五月雨宗一っていいます。で、こっちが、須永鏡子っていいます。」

「…分かった。とりあえず、席に付け。話はそれからだ」

奥のテーブル席に3人は座る。

 

「それで、オカルトの話で何で俺に用事だ」

「いえ、学校で事故られたのに無傷だったという話を聞きまして「ちょ!おま!いきなり過ぎんだろ!!」」

宗一は驚いた顔で鏡子を見た。

 

「え?だって、面倒臭いじゃん、時間もないしちゃっちゃと真相から聞かないとね」

「た、確かにそうだけどよ」

「で、どうなんですか?」

鏡子はジッとシンを見た。

 

「確かに無傷だったけど、運が良かっただけ」

「……」

シンの言葉に鏡子はじっと無言で見つめる。鏡子は彼の瞳を見た。その瞬間に何か黒いモノに全身をつかまれて引きずり込まれそうになって、彼から目をそらした。

 

「そ、そうなんですか…」

「…期待に添えなくて悪かったな」

(当たりだわ!完全に当たり!)

そんな鏡子の気持ちとは裏腹にシンはちょうど来た炒飯を食べ始めた。

 

「なんだ、結局そうか。完全に空振りだな」

「そんなものでしょ?」

2人がそんな会話をしていると、シンが手を止めた。

 

「わざわざ、そのために東京から?」

「そうなのよ」

シンは何かを考えるように数秒固まったあと、口を開いた。

 

「……そうか。なら、深夜。この商店街に来てみるといい」

「何かあるの?」

鏡子が喰い気味にシンに問うと頷き答えた。

 

 

「いいものを見せてやろう」

 

 

「本当に来るかよ…ってか、明日普通に学校なのに、普通にホテルとってるあたり、人を休ませる気満々じゃねぇか…」

「いいじゃない、高々1日、それも1時間目くらい。それにしても、本当に真っ暗ね」

鏡子はそう呟くと、ふと隣を見た。辺りは本当に暗く、宗一の顔だけが見える。街灯があるのに、1個もついていないし、店も開いていない。それもそうだ。深夜も深夜。まさに丑三つ時であった。

 

「そういや、1回星見に行ったよな。すげえ、小さい頃さ」

「何年前の話よ?もう10年前じゃない」

「俺にとってはまだ10年なんだけどさ、まぁ、そこは良くて。こうやって、お前と2人って何だか懐かしいな」

宗一はそういうと、笑った。

 

「未だに傷ついてんだぜ?お前に『あんたとはそーいうのないから』って言われたの」

「それは……素直に謝る……」

「お互いに幼かったしな。別に」

そんな会話をしていると、街灯が一つだけ明滅し始めた。

 

「ひゃっ!」

「!?」

突然、街灯が一つだけ光ると、そこにはじっと二人を見つめる何かがいた。黒く何かレンチのようねものを持っており、一本足で立っていた。それはじっと彼らを見ていた。数秒間、その緊張状態が続くが、街灯が明滅したほんの一瞬でそれは消えた。

 

「な、なに!?あれ!」

「し、知るかよ!!」

 

ふと2人は自分たちの距離に気がついた。暗闇の中で2人は抱き合っていた。

 

「あ!?わ、わりぃ!!」

宗一は離れようとすると、鏡子はギュッ強く抱きしめた。

「な、なんだよ……」

「もう少しだけ」

「…」

 

バクバクと高鳴り続ける鏡子の心臓は宗一が近いからなのか、あの謎の者に出会ったからなのか分からないくらい動転していた。だが、鏡子には先ほどの恐怖が嘘のようにきえていくのが分かった。

暗闇の中で聞いた宗一の鼓動が優しくて、何よりも温かかったから。

 

「いつまでくっ付いてんだよ。それに、早く行こうぜ。寒い」

「あ……ごめん……」

 

 

そんな2人をこっそりと影から見る二つの影があった。

 

「センパイって、やっぱりロマンチスト?」

りせはシンにそういうと、笑った。

 

ロマン(・・・)を理想主義という意味でとるならな、そうかもしれない」

「でも、珍しいね。センパイが愛のキューピットって」

りせは不思議そうにシンを見て、尋ねた。

 

「…理解者が1人でもいれば、どんな人間だって救われる。エジソンが母親に救われたように、俺が先生に理解されたように。」

そういうと、シンは頭を掻いて、立ち上がった。

 

「あれ?もう帰っちゃうの?センパイ」

「野暮用を済ませる」

 

 

とある刑務所……

 

「こりゃ……ひでぇ…」

「恨みの犯行か?」

「でも、どうやって……」

刑事たちはじっと、現場を見ていた。

 

「先日、死刑判決が下された元通信会社サイバースの技術主任の氷川氏が遺体で発見されたってのは知ってますよね?

でもあれ、氷川の死体は肢体がネズミのようなやつに喰いちぎられた跡や何百箇所もアイスピックで刺されたような傷など、拷問された形跡があったんですよ!?

そんなことされてるのに、声一つあげなかったんですよ!!だから、警察も悪魔の仕業だっ、イテッ!」

「西崎ッ!お前もベラベラと話すな!」

「すみません!堂島刑事!」

西崎が通りかかった堂島に頭を叩かれる。

 

「いや、妙な話だなと思い、僕が聞いたんですけどね」

明智はその寝癖の頭をポリボリと指で掻いた。

「ってことだからさ、じゃ、先輩」

「ん。」

西崎はそういうと、そそくさと署内に入って行った。

 

明智は『月刊 アヤカシ』を開いた。

その一部にこんな見出しが躍っていた。

 

『孤高の氷川氏。その素性に迫る!!』

 

("孤高”……ね。言葉のアヤだなぁ。

氷川にはガイア教の理解者は居なかった。と言うべきだろうな……警察はあの暴動を『集団幻覚』だとしたけど、『操られていた』って聖は言ってたな……)

 

明智は『月刊 アヤカシ』を閉じると頭をかいた。

 

(……彼は一体誰に恨まれたんだろうね。敵は多そうだ)

明智はそう思いながら、頭をかいていない方の手で丸めて持っていた『月刊 アヤカシ』で肩を叩きながら、ゴミ箱に捨てようとゴミ箱を見た。そして、『月刊 アヤカシ』を広げ、数秒考えると再び丸め、肩を叩き始めた。

 

(それにしても、『ミロク経典』。興味はあるけど、内容は極秘中の極秘。広大なネットの海にも一部しかない……)

明智はふと、肩を叩く手を止めた。

 

「……まさか……ね」

明智は頭を横に振ると歩き始めた。自分のポっと出た考えを頭から追い出すためだった。

 

 

 

 

 


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