Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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*注意。

一部、真女神転生3のセリフが出てきます。
その内容を変えているため、注意してください。




第x9話 Moment

「手伝い?」

「ああ、頼めないかな?」

 

鳴上が珍しく人にモノを頼む。

だが、込み入った理由がある訳ではない。

 

何でも、鳴上のアルバイトである『夜の病院の掃除』のアルバイトで人が足りなくなってしまっているらしい。

初めは花村に頼もうと思ったが、花村はジュネスのバイトでいつも遅い。

完二は最近、編みぐるみの販売を始めた為に、夜に時間が取れなくなっていた。

 

そこでシンに白羽の矢が立ったわけである。

 

「別に構わない」

 

シンはふたつ返事で答えた。

シンとしても、マヨナカテレビが無くなり、映画を見るのも流石に飽きてきた頃である。

アマラもセラフの進軍失敗以降、平和である。

無論、ボルテクス界は荒れ放題だが、それがボルテクス界の日常なのだから、問題ない。

 

 

 

 

午後8時から2時間ほどの清掃。

 

綺麗好きなシンは徹底的に掃除を始めた。

鳴上と廊下の窓を拭く。

 

「それで、六股はどうなんだ。里中さんに、天城さん、りせに、文化部とかあと……授業中に居なくなって一緒に出かけててた、人だったかな?あと義姉…」

「…もちろん。奈々子が一番だ」

鳴上はさも当然のように言った。

 

「『色好みの果ては怪しき者にとまる』というし、程々にな」

シンは窓ガラスを下から見て、汚れを確認する

 

「そういう、シンはどうなんだ?」

「何がだ」

「直斗と」

「?」

 

鳴上は少し笑う。

鳴上でなくても、直斗がシンを好いていることは明らかであるが、シンがどう考えているのか、まったくもってわからないのだ。

 

「一緒に下校してたり、休日に会ったりしてるのに?」

「?別におかしな話ではないと思うが。親しい人なら、それが至極当然だと思うが」

「……」

鳴上は呆れた顔でバケツを持ってどこかへ行ってしまった。

 

 

「?訳が分からないな」

シンは肩をすくめると窓を拭く作業に戻る。

外は雨が降り、酷く暗く見える。

星も見えない。

 

ポツポツとその暗闇の中で住宅の光が見えるだけである。

 

「……お疲れ様です」

「…おい」

 

シンの後ろを車椅子に乗った少女が通り過ぎた。

シンはすぐにそれを止めた。

 

「何ですか?」

「何ですかではない。この階の病室に居る人は居ない」

「……あれ?そうなんですか?間違えたのかな?」

 

少女は目に包帯を巻いていた。

ぐるりと何周かされたその包帯はまだ新しかった。

 

「とりあえず、ナースステーションまで押していく」

「ありがとうございます」

 

シンはいつものように観察を始めた。

 

(―脚。外傷あり。両脚に包帯。左手首、頭部にも縫合痕あり。交通事故。

脚部、頭部以外軽傷。右手小指に独特の凹み。スマートフォンの操作時間が長い。歩きスマートフォンによる事故?)

 

そして、ふと、その高速に動く瞳が顔で止まった。

顔の形に既視感を覚えたからだ。

 

(―誰かに似ている……)

 

シンはそこで思考をやめた。

他人の人生に興味を持ちすぎるのは問題だと自制した。

ましてや、他人も他人。もう会うこともないだろう。

 

関係の無い人間だ。

 

「…私より年上みたいですね」

「この病院で一番年上だ」

「え?そんなはずないでしょ?」

 

そういうと、少女は笑った。

シンは本当にこの病院で一番の年上だろう。何百年と生きているのだから当然だ。

 

 

シンがナースステーションに彼女を連れていくと、ナースが微笑む。

 

星奈(せいな)ちゃん、また散歩?」

「ええ。でも、帰り道を間違えちゃったみたいで」

 

彼女は恥ずかしそうに笑った。

ナースに彼女を渡すとシンは仕事に戻ろうと歩き始めた瞬間、服を掴まれた。

 

「また、会えるといいですね」

「……」

シンは答えるでもなく、無言でその場から去った。

 

 

 

翌々日も鳴上の手伝いをしていた。

 

今日は病院でも本館の空の部屋を掃除することになった。

シンが4人部屋に入った瞬間、記憶がフラッシュバックする。

 

 

 

「……っ!!んーだよ!驚かせるなよシン!

突然、音立てたらビクっとするだろ!」

 

そこには、帽子をかぶりオシャレをした新田勇がいた。

 

部屋の中はベットは壊され、カーテンは破れ、窓が開いていた。

勇がそうしたのではないのだろう。当たり前だ。彼にベットを壊すほどの腕力はない。

 

「悪いな」

そんなシンの言葉に勇は軽くため息を吐く。

 

「…とにかくもう。遅れて来たくせにこんなことするか、フツー。」

「…悪い」

 

感情なく謝るシンを見て、勇は帽子を外し、頭の髪の毛を直す。

 

「ああ、もう。…まあ、いいや。

それにしてもアレだよ、誰もいないだろ、キレイさっぱり。

ちゃんと先生に電話して確かめたんだぜ。入院してるの新宿衛生病院だって」

 

「何かあったのかもな」

シンはベットなどの下を覗く。埃が蓄積しているだけであった。

 

「案内も何も無しに、こんなだもんなぁ…さっぱり訳わかんねぇよ。

ヤバイウイルスが逃げ出した。なんてことは無いよなぁ…

お前の好きそうな話題だけど、リアルに起きたら迷惑だからな」

勇は帽子をかぶり直した。

 

「先生の居そうな所は一通り周ったつもりなんだけど、どこか他にいるのかなぁ……」

「分院は行けたか?」

 

「いや、カードキー無くていけないな」

「……そうか」

シンは顔を顰める。それは何か嫌な予感がしたからだ。

奇妙な感覚が徐々に強くなっていたのは事実だ。

 

「……まあ、いいや。オレ、そこら辺もう一回見て、千晶のとこ戻って確認してくるよ。

待たせたから、また怒ってるかなぁ……

ハァ、お嬢さん育ちの相手は大変だわ。

じゃな、シン。」

 

勇は部屋の出口に向かう。

 

「しかしまあ、ヤバイことになってなきゃいいけどねぇ……」

勇はそんな呟きを残して部屋を出た。

 

 

 

シンは目を閉じ、首を横に振った。

すると、普通の病室に戻っていた。誰もいない、静かな病室に。ベットも壊れていないし、窓も開いていない。

八十稲羽の病院だ。

 

「…白昼夢とはな…まったく」

 

シンは呟くと掃除を始めた。

 

シンと鳴上はその手際の良さですぐに2人の目標数が終わってしまい、主任にそれを言うと休んでいていいと言われたため、廊下にあるソファで休んでいた。

 

鳴上は他の人を手伝いに行った。シンは所詮、手伝いなのでそこまでやらなくていいと鳴上に言われ、廊下にいた。

 

 

外はまだ雨が降り続いていた。最近は夜になると降ることがある。

季節の変わり目という訳でもないが、不安定な天気が続いている。

 

 

シンは廊下にあるソファに座り窓から外を見ていた。

そして、懐かしい思い出を思い出していた。

 

 

「お帰りなさい。」

 

橘千晶は新宿衛星病院の1階のエントランスで椅子に座って、シンが聖に貰い渡した『月刊 アヤカシ』を読んでいた。

 

「ねぇ、シンくん。

これの巻頭に載ってる『特集・ガイア教とミロク教典』ってやつ……ちょっと、気になること書いてあるの。」

 

そういうと、千晶は雑誌を捲りながら話し始めた

 

「ガイア教団とか言う、悪魔を拝んでるカルト集団があってね……この日本によ。

その人たちは『ミロク教典』っていう予言書みたいなものを信じてるらしいの。

予言書には、世界に『混沌』が訪れる、みたいな事が書かれてて……」

 

「教団は、それを本気で実現させようとしてるんだって。

『混沌』ってのがテロか何かを指すのか、それともただの世迷い言なのか、まだ詳しい事は分かってないらしいけど、でも……」

 

そんな会話をしていると、勇がエレベーターから降りてきた。

 

「……うーん、先生いないよ。男子トイレまで探したんだぜ。」

 

千晶は呆れた顔で勇を見た

「……やぁね、もう。戻ってくるなり。今まじめな話してるのよ。ちょっと黙ってて。

でね、ここなんだけど」

 

そう言って、千晶は雑誌を広げ、シンに見せた。

 

「『新宿の東に位置する某病院。ここに彼らの計画を解くカギが……』」

そう書かれていて、勇が続けるように言う。

 

「……で、『待て、次号!』なワケね。」

勇はそういうと、辺りを見回しながら言う。

 

「その病院っての、意外とココかもよぉ。

この新宿衛生病院、実は怪しい話があるんだよなぁ。

人体実験やってるだとか、霊視した霊媒師が逃げ出したとか『カルトの息がかかってる』ってのもあったなぁ……」

 

千晶は嫌そうな顔をした。

 

「……そうなの?

わたし、何も知らなかった。やだ、来るんじゃなかったなぁ。

こんなトンデモ雑誌の記事なんて鵜呑みにする気は無いけど…でもこの病院、明らかにおかしいわよね。」

 

「…俺も知らなかったな」

「意外だな。知ってると思ってた。」

勇は驚いた顔で言った。

 

「…それに…人の気配がない」

シンは高い天井を見上げ言った。

 

勇は一変して、不安そうな顔で言った。

 

「……先生のこと、心配になってくるなぁ。

しょうがない、もうちょっと探そうぜ。何にも無きゃ、何にも無いで良いわけだし。

なんかね、分院があるみたいなんだよ。2Fから行ける所。

オレ、そこら辺あたってくるわ。」

 

勇はそういうと、ポケットからカードを取り出しシンに渡した。

 

「ハイこれ、シン。おまえは地下を探してきてくれ。」

「カードあるなら、あんたが地下探せばいいじゃん。

……それとも、怖いの?」

 

勇は否定するように首を横に振る。

 

「こ、怖くなんかないっての!

どうせ地下になんか先生はいないからシンに頼むの!

こいつなら、霊感あるし、度胸あるし……な?」

 

「俺も地下がいいと思ってた」

「だろ?お前そういうの好きそうだもんな

シンは、先生がいないことを確認してくれればOK。

出会いを果たすのはオレの役目。

じゃあな、シン。何かあったら、すぐ逃げろよ。」

 

勇はそういうと、エレベーターの方へと歩いて行った。

 

「……まったくもう、調子いいわね。

でも、正直わたしも先生のこと心配だわ。もう少し探してみましょ。」

 

千晶はそういうと、雑誌を見た。

 

「……記者かぁ……」

「……興味ある?」

 

千晶は少しうなだれて答える。

 

「…そうね。こういうのじゃないけど、新聞記者は面白そうかなって、父親もそういうのだしね…」

 

千晶は首を横に振る。

 

「それより、先生大丈夫かなぁ……」

 

 

 

 

シンはふと、現実に帰ってきた時に後ろに人が立っていることに気がついた。

 

「…久しぶりね」

 

シンはその声に内心驚いたが、その表情を一切変えることなく答えた。

 

「初めまして」

「あら?2回目よ?」

その言葉にシンは顔を顰める。

 

「……まだ、こんな田舎に?」

「ええ。まだ、療養中なのよ。」

 

それは嘗て、好きになった女性であった。

今となっては、もう何も感じない。ただの他人の1人。

それに、彼女は彼女ではないのだから。

幸せそうに年を取り、幸せそうな彼女に最早、未練などない。

それにシンにとって、それは救いだったのかもしれない。

違う世界線であれ、彼女は幸せそうなのだから。

 

だからこそ、自分などと関わる必要はない。

そう考え会うことは避けてきた。

 

 

彼女の名前を高尾 祐子。

 

 

シンは祐子の方を見ることなく、外を眺める。

 

「外は雨ね」

 

シンは表情を変えずに答えた。

「何も語らうことはない。

語れる言葉全て、俺の知るあなたの墓前に話した」

シンはため息を吐く。

 

「そう言わないで。私だって暇なのよ?何も無い病院だからね」

「……まぁ、いいだろう。」

シンは仕方ないと言った顔で答えた。

 

「…私の娘に会った?私は来年から隣町の高校教師をするの。夫の母校よ。あの子は来年には八十稲羽高校に行くわ」

「……ああ。そうか。」

シンは思い出したようにそう口走った。

 

あの顔に包帯を巻いていた少女。

彼女の顔の形に既視感を覚えたのは祐子に似ていたからだと気が付いた。

 

祐子はシンの隣に座り、自分の膝に肘を置き前屈みになる。

 

「この世界でも、私は巫女として生まれたわ。受胎の為の巫女として。でも、あなたの世界線と違ったのは、私には世界をやり直したいという気持ちが無かったわ。氷川に連れていかれる前に、私はこの世界が好きになってしまったのよ。」

 

「そして、氷川は捕まり、受胎を回避したと。」

シンは窓から顔を正面に戻し、ソファに深く座る。

 

「それから、私は平凡な人生を送ったわ。子供も生まれて、それなりに幸せよ。」

「そうか…」

 

シンは天井を見上げる。

 

「…俺はいつも、こうしていればと思う時がある。だが、それは自己過信だ。

あの時の自分にとって、それが最善だと思ったから、そうしたのであって、今ならばというのは、自己過信に過ぎない。」

 

「私もそうね。でも、今の私にはあの時、歩かせて駅まで行かせなければ、娘が事故に遭うこともなかったと後悔したわ。」

 

「その他の選択肢が最善だったかなど、永遠に分からない。考えるだけ、億劫だ」

 

「……変わらないわね」

祐子は少しだけ微笑む。

 

「…捉え方の違いですよ。"変わらない”のではなくて"変われない”んですよ。変わる必要も無い……です。」

 

 

最後に彼女と交わした言葉は確かに昔の『間薙シン』の言葉であった。

 

 

 

 

 

その日の深夜

 

 

『その様子だと上手くいったみたいだな。』

「…ああ。良かった」

『余計なお世話かもしんねーけどさ、友達として、やっぱり、ちゃんと向き合って欲しいつーかさ……あいつ、俺たちの弱みばっかり見てるから、ずりぃなって気持ちもあったけど』

「…そうだな」

『ってか、それいちゃ、お前もそうか』

 

鳴上と花村のたわいもない話は続く……

 

そんな話を聞く人物がいるとも知らずに

 

 

屋根の上に居たシンはなるほどと頷いた。そして、ニヤリと笑みを浮かべると、暗い空に消えた。

 

 

 

次の日の花村はとにかくついていなかった。

 

深夜に突然、何者かに殴られたような夢を見るし、朝の登校中に自転車のタイヤが取れ、股間を強打したり。

シャープペンシルの芯は異常に折れるし、購買のパンは買い損ねるしと取り分け今日はついていなかった。

 

「ああ、クソッ…」

花村は落ち込んだ様子で、前輪タイヤのない自転車を押していた。そして、花村はタイヤを自転車に縛り付けている。

 

「大丈夫なわけ?花村」

「……笑いながら言うなよ」

鳴上と千枝に花村が共に帰っていた。

 

何か企んだんじゃないの(・・・・・・・・・・・)?」

「いや、そんなことは……まさか……な」

「バレたか?」

鳴上はゾクりと背筋が凍る。

 

 

一方、シン、直斗、完二の方面では…

 

「なんすか?それ」

完二はシンが虫かごを下げていることに気が付いた。

その虫かごには、 『運』と書かれ、お札で封をされたいた。

 

「虫だな。少し特殊な。」

「へぇ、でも少し気持ちが悪いですね」

「しかし、便利なヤツなんだ」

 

「「?」」

2人はシンの言葉の意味が分からず首をかしげるのであった。

 

 

 





本当に閑話は好き勝手書いてて、時間軸とかもあんまり気にしなくていいので、気が楽です。

本編はハッキリ言って、0%です(´・ω・`)
お待ちください。

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