再度登場しました。
これから、僕が語ることは紛れもない真実であり、決して公表されるべきモノでもない。
思うのは自由だが、口に出すことまでは誰も保証してくれはしないということだ。
だからこそ、この真実は公表されるべきではないし、折角本来の鞘に納まったこの町を騒がしくしてしまうに違いない。
それはこの町が好きだからこそ、あまりにも不本意な事だろうし、僕がおかしいだけなのかもしれない。
権力とは暴力によって成り立っている。
ウラジーミル・レーニンの言葉を借りるのであれば、『国家権力の本質は暴力である』と。
あながち間違いではないと思う。
権力は暴力によって成り立っている。
この現代でも全ての権力は暴力によって支えられている。
そこに、資本主義、社会主義、民主共和、民主主義それら全てに関係なく、権力は暴力によって支えられているのは自明の理である。
政治学の基礎概念だ。
暴力とはある種の『強制力』と言った方が分かり易いのかもしれない。
強制力無しに法律を守らせることは出来ない。
その力によって、全ての権力は成り立ち、その権力によって社会が構成され、存続しえているのだ
少し脱線だが、だからと言って、私は国家のために死ねるかと聞かれたら真っ先に『No』と答える。
強制力を持ってして、国のために戦えというなら、僕は兎に角、逃げることを考えるだろう。
別に僕は国家公務員ではないので、恩も義理もない。
主観的に国家というものに、大した価値はないのだから。
少なくとも、僕自身は個人の自由を尊重したい人間なのだ。
理想主義者なのは今に始まったことでもない。
……話を戻そう。
その身近な例は国家に属している『警察機構』だ。
その力は我々に一番近い場所にあり、強力なモノだと言える
市民から見れば少なくとも、軍隊よりも力の象徴である
その警察機構なるものは、絶えず矛盾を抱えながら危うく、且つ絶対的とは言えない正義を成し得ている。
その矛盾とは、警察機構は上に行けば行くほど、現実なるものの存在が失われていき、しかし、下の現場はその現実なるものと常に戦わなければならない。
その結果が警察機構という巨大組織のそのモノの存在価値を失う結果になる可能性が十分にある。
その矛盾に関して、今回の事件が警察上層部と現場の矛盾を酷く、そして、克明にさらけ出す事になった。
『八十稲羽怪奇連続殺人事件』
この際、名称はこれで良いだろう。これ以上の名称があるだろうか。
この事件の発端は『山野 真由美』が死体で上がってきたことに起因する
不倫騒動で番組を降板させられた地元テレビ局の元女子アナウンサーである。
遺体は4月12日の正午ごろ、鮫川付近の民家のテレビアンテナに吊り下げられた状態で発見された。
その死体に外傷がなく、死因も不明という実に奇妙な事件が世の中を騒がせた。
この八十稲羽は何も無い言ってしまえば、辺境だ。
東京から車で3時間ほどの場所で、
山に囲まれた辺鄙なこの地を騒がせるには十分過ぎる事件だった。
自殺なのかあるいは、他殺なのか。
それさえも掴めずにただただ、マスメディアによって事件はその真実性を失いつつあった。
その際にとりあげられたのが、第二の被害者『小西 早紀』。
彼女は山野真由美の事件の第一死体発見者だった。
それを彼ら我々、マスメディアが嗅ぎつけ、取材の応酬である。
我ながら、大衆向けは下衆な内容で発行部数や視聴率を撮りたがるものだと再認識した。
そうでもしなければ、儲けが出ないと考えている時点で既に下衆な集団にほかならない。
……その一部に数年前まで自分が組み込まれ、奔走していたと思うと尚更嫌になる。
話を戻そう。
そんな『小西 早紀』も死亡した。殺害されたというのが正しかった。
こうして警察も殺人事件だと理解し、事件の捜査を進めることとなった。
しかしながら、その二件は証拠という証拠が上げられず、捜査は難航を極めていた。
しかし、その後ぱったりと事件は止んだ。
止まぬ雨はないと言うが、市民は少なくとも徐々に平穏な日常を取り戻しつつあった。
雨が少しでも止めば、気持ちも少しは楽になるものだと。
だが、事件は着実に起きていたのだ。
テレビ報道された、人物。取り分け、この八十稲羽に住み、妙な注目のされ方をした人物が誘拐されていた。
そもそも、捜索願が月に一回程度の回数で、テレビ報道された人物たちで、且つ高校生たち……
あまりにも奇妙なことだ。
注目されたから、家出や隠れたということがあるにしても、家の人が捜索願を出すまでとなると、それは異常なことが起きているにほかならない。
また、未成年であることや一部の人間の知名度を考えても潜伏するのはあまりにも多難だと推察される。
その期間もまた短く、失踪後は何日か体調が悪かったという話を聞いた。
自己の意思で失踪したとも取れる行動だがやはり疑念が残るのだ。
では、仮に誘拐だとして、彼らはなぜ救出されているのか。
僕はそこで、表沙汰にならないような、奇天烈な事がある様な気がしてならかった。
正直、この洞察に関しては勘の域を出ていない。
今年の霧の発生率は高く、また、霧の次の日に2件の事件の死体が上がっている。
3件目の摸倣犯もそれを正確に真似ることで摸倣犯足り得たのだが、あまりにもお粗末な模倣だったために、僕としては落胆せざるを得ない。
そして、冒頭の矛盾に関してこの3件目で明確となっていた。
警察上層部も未だに逮捕できない犯人に焦りを感じ、私立探偵の『白鐘家』に捜査協力を頼むほどであった。
しかし、一向に成果の上がらない中、その摸倣犯の登場である。
上層部はありとあらゆる疑念を無視して、摸倣犯に全ての罪を押し付けることによって、この事件の幕切れを図ろうとした。
そこで現場との相違が生まれたのは間違いないだろう。
初めは『堂島遼太郎』刑事を含めた数十名はそれに異を唱え続け、捜査を続行していた。
だが、警察組織は階級社会。上がそれを許すはずが無く、次々とその疑念を抱えながらも、捜査をやめざるを得なかった。
しかし、私立探偵『白鐘直斗』。そして、前記した堂島遼太郎刑事は解決ムードの中、事件を調べていたそうだ。
その空気の読めない行動が上層部やそれに逆らえなかった人達に煙たがられていたのも事実だろう。
では、世間はどうだろうか。
一部ネットでは一つの作品となりうるほどに今回の事件がネットの住民たちの妄想や感情を揺さぶったのだろう。
多くの憶測や情報がありとあらゆる場所に転がっていた。
では、旧情報源となりつつある、テレビや、マスメディアはどうだったか。
鮮烈に残るほどの報道はなかったように記憶している。
発生当時はニュース番組のトップ。
どこのチャンネルを回しても、同じことしかやっていないし、内容も言葉を変えただけで大した違いはない。
違う角度からの同じ映像。中央テレビ局はヘリを飛ばして映像を取る。
視聴者はウンザリするほどの、小西早紀のモザイク加工された映像を見たし、山野真由美の旅館から出てくる映像も目に焼き付くほど見せられた。
そのうち、しつこさを感じ苛立つ。
視聴者自身と関係がなければ無いほどなおさらだ。
しかし、事件が沈黙し始めるとまるで、男に興味を失せた女のようにすぐに捨てて別の新しい男に付いていく。
マスメディア……自分がそのなかに内包されているからこそ、酷い嫌悪感を覚える。
マスメディアなんてものは、歪み軋み亀裂の入った建物でしかない。
……少しばかり本音が出たか。
さて、マスメディアに関しては置いておいて。
次にこの町を騒がしたのは第一被害者と不倫していた『生田目太郎』が未成年者誘拐で逮捕されることとなった事件だ。
白鐘直斗が失踪して、復帰するという事件を挟んですぐであった。
生田目は逮捕の際には非常に精神的に疲労しており、病院での治療後、立件や取り調べが行われる事となっていた。
だが、調べてみるとその被害者及び被害者家族を同じ病院に移送していたそうだ。
警察の明らかな失態だ。
だが、それは一人の人物によってなされた作為的な事だった。
としたら、それは酷く小説かドラマみたいに思える。
『足立 透』なる人物だ。
何より、この真実を教えてくれのは紛れもなく彼であったのだから。
透明なアクリル板を隔てて、明智と足立は椅子に座り向かい合っていた。
「それで、興味深い言葉で僕を引っばり出してきたと思ったら……なんだか、キミ、冴えないね…」
足立はそう言うと嘲笑する。
明智は椅子に深く寄りかかると、頭を掻いた。
「そうだね。僕は別に冴えてる必要もないからね…」
「皮肉だねぇ?法外電波受信機だっていうのに、冴えてないんじゃさ」
「…僕のこと知ってるじゃないですか」
明智は頭を掻く手を止めた。
「キミがよーく警察署に顔を出してたからね。キミの後輩の西崎って警官に聞いたんだよ。そしたら、『あの人のアンテナは思いがけない真実を引っ張り出して来るって。でも、本人は法外電波受信機って自称してますよ』と楽しそうに話しててね。記憶に残ってるよ」
足立は机に両腕を置く。その手首には手錠がしてある。
「…それで、僕の話はどうだったかな?」
「記事には…できないね。」
明智は肩をすくめる。
「僕たちは別にオカルト雑誌じゃないんだ。」
明智は懐かしそうにそう言うと椅子に座り直した。
「いや、失敬。それで、その『テレビの世界』っていうのはそもそもなに?」
「さぁ?僕も詳しくは知らないよ。でも、あのテレビの世界は人の心の世界。そうとしか言い様がないね」
「……だから、報道された人がマヨナカテレビに映るのか……そして、それを生田目太郎が誘拐し、安全な場所。つまり、テレビの中に入れていた。」
ポツポツと明智は呟くように言う。
「…そうではないか?」
「……そうだね。」
明智は確認するように足立を見た。その目は温厚ながらも足立は見覚えのある、そして、あまり好まない目であった。
(…どうして、こうも真実ってやつを追いたがるんだか……)
足立はそんなことを思いながら、鳴上達を思い出す。
「……それで?聞きたいのはこれだけかい?僕もいい加減疲れたよ…」
「最後に1つ」
明智は人差し指を立てた。
「どうして自殺しなかった」
「…」
「これだけのことをしておいて…それに、この先のことを考えれば尚更ね」
「……さぁね。今となっては分からないよ」
足立はそういうと、椅子から立ち上がった。
「じゃあ、また」
明智は立ち去り背を向ける足立に声を投げた。
「………」
『…お前は人を殺した。手口がどうであれ、それが"あの世界で生きるお前の罪"だ。
そして、裁く裁かれないにしても、お前が生き続けることが"こいつたちの考える罰"だろうな。
…お前がクソだと評した世界を生きろ。
あそこはあまりにも美しい』
(……僕にはいつになったらわかるんだろうねぇ……このクソな世界の美しさってやつがさ)
足立は連れていかれながら、窓から外の景色を見る。
雲が疎らにある空がそこにはただ広がっていた。
(……何てことはないね。ただ、つまんねぇ現実がまだ広がってるよ。)
足立はそう思うと牢屋に入れられると笑った。
「…やっぱり、世の中クソだな…」
『光を失っても麻痺しなかった連中は途方もない速さで歩き回っていた。』
僕がこれまでの『真実を追う人』に共通する事だ。
堂島刑事を含めた学生達。不自然なほど、デパートに集まる彼らはこの事件の関係者だ。
だが、僕がそれを問いただしたところでただの自己満足だ。
事件が解決し、平和な日常となった今、彼らも途方も無い平凡な日常に戻る。
すべてが全て元の鞘に戻る。
昔とは違う、あまりにも忙しく明滅するように日々が過ぎていたあの時とは違う。
好きでもない下衆な記事を書くことも、下らなく興味もないゴシップのために心身をすり減らす必要もない。
何もないが、僕の平穏の全てがある。
そんな街に戻るんだ。
これ以上の望むのは余りにも強欲というものだ。
警察組織のその後について話すべきかな。
堂島刑事は管理責任能力を問われたが、堂島刑事なしにこの事件は解決できなかっただろう。
堂島刑事はお咎め無しと判断された。
しかし、捜査を早々に集結させようとした県警の上層部はその殆どが左遷された。
そうさせたのは紛れもなく、その更に上だろう。
警察組織に限らず、大衆や大勢の人間は生け贄を欲している。
それは、今の社会構造を浮き彫りにしている。
君主制で国王を処刑することで民衆の怒りを塞ぐように、生け贄として、ミスをした人間を処分する必要があった。
それだけは、確かなことだろう。
「……続きがある。そう言ったらどうする?」
シンは隣に座った明智にそう言った。
しかし、明智は肩をすくめると癖のついた髪の毛を掻いた。
「…興味はあるけどね、足立さんにも言ったけど、僕はオカルト新聞は雑誌を書いてる訳じゃない。」
「オカルトは『月刊アヤカシ』にでもやらせておけばいい。『聖丈二』の十八番だ……」
「……そうか。因果ものだな。」
シンはそういうと、腕を組む。
「月刊アヤカシの内容は知っているか?」
「…唐突だね。そっち系が好きなのかい?」
「ある意味そうだ。」
シンは料理を待ちながら、記憶の奥底の言葉を口に出した。
「『特集・ガイア教とミロク教典』というのを覚えているか?」
「……覚えてるよ。聖が最後に書いた記事だ。」
「ガイア教団幹部の氷川が代々木公園に電波塔を建てた。それに対するデモで死傷者が出てんだっけか…
世間はだいぶ騒いでたけど、聖は氷川の所属していた教団とその教団のミロク教典との関係を示唆していた」
「その中で、世界が転生するとか、何とかだったかな?…でも、この世界は何もなかったね。変な噂は確かに世間に広がっていたね。」
「新宿衛生病院」
「そうそう。よく覚えているね……あそこは建て替えとかなんとかだったかな……
でも、その理由が不明瞭だったことで、色々と噂されてたね。それのせいで客足が遠のいた。」
明智は手帳をめくりながら答えた。
「……調べていたのか?」
「一応ね、興味本位で。収賄とか色んなネタがあると思ってね…」
明智はページを捲る手を止めると言う。
「えーっと……その後、氷川は殺人教唆で逮捕され、実行犯も捕まった。それによって、ガイア教団は危険集団として認識されているね。氷川は未だに何も語らない。
来週辺りに最高裁でその判決を言い渡されるらしいけど、世間はほぼ無関心だね。騒ぐ様子もない。」
明智はそういうと、ブランデーを飲む。
「……その聖という人物の最後の記事と言っていたが、どういう意味だ?」
「どういう意味も何も、聖はその後死んだんだ。まるで、役割でも終えたようにぽっくりと。死因は心臓発作。」
「……そうか」
「唯一あの会社内じゃ仲が良かったんだけど…ね…」
明智はそういうと、ブランデーを一気に飲んだ。
「どうして、僕の周りの人は早死に何だろうね。親も、友人も…」
「……」
「全く、世の中クソだ…」
明智はそういうと、おどけて笑みを浮かべた。
「なーんてね、足立さんなら言いそうだねこの言葉」
「…そうかもしれませんね」
世の中クソ。
この言葉が明智の本心だったか、シンにも分らなかった。
しかし、少なくとも彼はまだ足立のようにこの世界には絶望していないようにシンには見えていた。
最近、忙しいということもあるんですが、話がとにかく思い付かない。
今回のやつも某映画を久しぶりに見て書き始めたモノです。
次の話は徐々にですができてます。
数字として明らかに更新速度が落ちていますが……
コンゴトモ シクヨロ…