Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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第72話 Make Me Mad 20XX年1月7日(?) 天気:不明

階段を上がると、すぐにまた、荘厳な声が響いた。

 

『神への反逆と知りてなお進むか?』

「人を殺すのが神の意思だっていうのかよ!!」

花村は天に向かって叫んだ

 

『…然り。それが、絶対なる秩序への道程である。』

 

「だからって!!」

と千枝が反論しようとすると、鳴上が止めた。

 

「何を言っても無駄だ。」

「でも!…」

「俺達は自分達の価値観の議論しに来たわけじゃない。」

鳴上の言葉に千枝は言葉を飲んだ。

 

「…兎に角、今は進もう。」

 

 

 

 

 

「…」

 

シンは万全ではないものの、なんとか死の瀬戸際は脱した。

目を開け、おもむろに檻から出ようとしたが、頑丈に封印されていた。

当たり前かとシンは思い、再び辺りを見渡した。

 

檻は天井に吊り下げており、底はシンの視力を持ってでも見えないほど深かった。

 

檻は黒く、特殊な結界のような形で防御されているが大天使が1,2体欠けてしまえば、この程度なら壊せるとシンは思った。

 

 

「おやおや、凶暴な王が目覚めましたか。」

「…マンセマット」

「…いい眺めですね…罪人はやはり、牢の中に居るべきでしょう。」

「お前が仕組んだか…」

 

シンはそれと同時に笑い出した。

 

「なにがおかしいのです?」

 

「…いや、お前みたいな雑魚で助かったのさ…

熾天使でも、メルカバーやセラフ相手では、流石の俺も戦いにくいということだ」

 

真っ黒なオーラがシンの体から溢れ出てきていた。

 

 

「その足掻き、いつまでもちますかな?」

「貴様こそ」

 

 

お互いにそう言って笑っていた。

しかし、シンは同時に不審にも感じていた。

 

それはどうもこの作戦全体が甘い気がするのだ。

 

確かに初めのうちは実に巧妙に見えていたが、冷静になるとそうでもないのだ。

 

もっと。何か巨大な計画が裏で動いているような気がしてならない。

 

「ああ、それと」

マンセマットはシンに言う。

 

「あなたの仲の良い人間達があなたを助けに来ていますよ」

その言葉にシンは溜息を吐き、首を振る。

 

「……まさか、本当に来るとはな。」

「それだけをお伝えしようかと。では、また(・・)

「どこへ行く?見張ってなくていいのか?」

「ええ。あまり大きな声では言いませんがね、わたしはこの作戦、大きな欠陥があると考えているんですよ」

 

マンセマットは呆れた様子で首を振る。

 

「なぜならば、我が主の意向ではないからですよ」

「………」

「では、失礼しますよ。私もまだ死にたくありませんから。」

 

 

 

 

 

 

鳴上達は角を曲がろうとすると

 

「お、ニンゲン」という軽い声と共に突然、襲ってきた悪魔に何とか身構えたが、無防備な状態で迫ってきた。

 

それは虫のような、しかし、どこか鳥のような雰囲気のあるあくまであった。

 

「迷ってこの中に来たんだけど、ちょうどヨカッタ。次のうち、好きな悪魔を答えるといい。マッカあげーる」

 

「…は?…どーする、相棒」

思わずヘッドフォンを外した花村が鳴上に尋ねる。

 

「…きくだけ、聞いてみよう」

鳴上は武器をおろした。

 

「1!モスマン」

「…うん」

千枝が相槌を入れた。

 

「2!モスマン」

「は?」

完二が首をかしげた。

 

「3!モスマン!ドレダ!」

 

 

「全部同じじゃねーか!!ゴラァ!!」

「いえ!実は番号に意味があるのかもしれません。」

完二がツッコミを入れる一方、直斗は冷静に考える。

 

「…どれも、同じだよね。」

「はよーはよー」

天城が尋ねるもモスマンは羽をはためかせ。聞いていないようだった。どうやら、答えが必要らしい。

 

「2のモスマン、クマ!!」

クマが適当に答えると、モスマンは翼をはためかせて言った。

 

 

「…ころーす」

 

 

「うお!!」

モスマンは突然、火を吐き、鳴上たちを燃やしに掛かった。

油断したこともあって、皆、いつもよりも大きなダメージを負った。

 

「クソ!不意打ちかよ!」

完二は咄嗟にペルソナを召喚し、モスマンを倒した。

 

 

「な、なんなんだよ!!あれ!全部同じだったろ!?」

「…何か理由があったのでしょうか。」

直斗は首をかしげた。

 

 

「それにしても、ここ、広くない?」

「それもそうだけどよ…一向に階段が見つかんないな」

 

確かに見た目よりも広く感じたのは事実で、既に階段を見つけられずに1時間は歩いている。

 

天使の悪魔たちは問答無用で襲ってくる時があるので、楽なのだが、先程のように突然会話をしてくる悪魔もいるため、どうもまだ、慣れない鳴上達である。

 

シャドウは話さないし、酷く無機物的で情も湧かない。

 

だが、悪魔は感情があるし、表情もある。

情が湧いてしまう時がある。

 

「間薙先輩が引用していた言葉を思い出しますね。」

「?」

 

直斗は声を整えると言う。

 

『刀を鳥に加へて鳥の血に悲しめど、魚の血に悲しまず。聲ある者は幸福也、叫ぶ者は幸福也、泣得るものは幸福也』

 

「?どういう意味なんだ?」

完二はちんぷんかんぷんである。

 

「声のあるものは気にかけてもらえますが、無ければ同情は薄い。泣けるもの叫べるものは幸福だとそういう意味です」

 

「…確かにな。」

花村はそう声を漏らした。

「私達、声の出さないシャドウと戦ってたから、現実感がなくなってたのかな?」

天城は少しだけ、思案する。

 

悪魔は命乞いをしてくるやつもいるし、その後直ぐに嘘だといい反撃してくる奴もいる。

彼らには感情があり、事実、完二が脅したらマッカを出すやつもいた。

 

それが妙に人間味がある。

 

それに、倒した時のこちらを見る目があまりにも脳裏に残ってしまっているのだ。

 

「俺…改めて、俺達は命掛けてんだなって思ったわ…」

花村は拳を改めて握り締めた。

 

「…難しいクマ…」

「でも、俺たちゃ、やらなきゃ、やられるッスよ。」

 

 

「間薙先輩…」

 

 

 

 

 

 

 

「どの位、集まった。」

「ざっと、20万かしら。もっと来るでしょうけど」

バアルの言葉にティターニアはそう答えると、カテドラルを見た。

 

「…忌まわしい…」

「実に…な」

 

そこへ、クーフーリンが来た。

 

「早いわね。流石、ゲリラ戦の名手ですこと。」

「マサカド公は動かず、シヴァ様、ルキフグス様、共に出陣なさると。」

 

「…シヴァ直々の出撃とはな…大事になったな」

「それもそうでしょう?王の誘拐ですから。」

「それで?門の突破どうなっている?」

バアルはクーフーリンに尋ねる。

 

「力技で開けるそうです。それは、マーラ様が到着次第開始するそうです」

「それは心強い…」

バアルはそういうと、ワインを飲んだ。

 

 

「ルイ様やニャルラトホテプは動かずか…あるいは絶対なる勝利を信じておられるのか?」

 

 

 

 

「…迷宮だなこれじゃあ…」

花村がそうボヤくのも無理はない。

 

ここカテドラルは元々、地上8F、地下8Fという構造になっている。構造上、上にいけば行くほど、下に行けば行くほど、1階当たりの面積は狭くなる。

 

やっとの思いで、2階から3階こ階段を見つけたところで、りせから連絡が来る。

 

 

『気をつけて!!何かいるよ』

 

 

そんなりせの声とともに、召喚の雷撃に似た音と共に右手に剣を持ち、左手に花を持つ天使が現れた。

 

「やっと、お出ましか。」

 

「…来たか。罪深きアクマになった、友を救いに来たモノたちよ。我が名はガブリエル、神の命により、汝らを倒さねばならない。」

 

「砕け!ロクテンマオウ!」

完二はそうそうに、ロクテンマオウのマハジオダインを放つ。

それは当たるも手応えがないのか完二は舌打ちをした。

 

「効かぬよ。我に雷撃は効かぬ。」

『センパイ弱点無いよ!』

「ならっ!来い!!ヨシツネ!!!」

 

 

 

 

 

「…」

シンは鳴上達が戦っていることに勘づいた。

 

シンは目を閉じ、回復に努める。

 

 

色々と彼らには迷惑を掛けたと思っている。

そもそも、彼らとの出会いは偶然だった。

 

偶然?

 

いや、この世には偶然などというモノはないという考え方をする奴もいる。

全ては神の手のひらの上、定めを知らぬが故に必然を偶然と思ってしまう愚かさがあると。

 

しかし、自分の想像しえぬ神の手を想像して気を病むくらいなら、そんな神は不要だ。

 

あるいは神の存在は病か?

 

「違いない」

シンは鼻で笑うと、目をあけた。

 

神など病だ。それに、シンでさえ、どれが本物の唯一神なのか知らない。

あるなしで語れるようなものではないのかもしれない。

 

シンは檻に触れるとガタガタと揺さぶる。

感覚的に少し柔らかくなった。

だが、それは妙なことであった。

 

何故なら、鳴上達と対決していた悪魔の気配よりも、はるかに強い気配が近づいていたからである。

 

 

 

 

 

「何故、手加減をした。人の子よ…」

「別、俺たちはあんたを殺す必要はないからな…」

花村はそういうと、医療用セットで治しながら言った。

 

「倒すだけで、いいなら。僕たちにも可能ですから。」

「…何と、慈悲深い…それも『愛』だというですか…」

ガブリエルはそういうと、微笑む。

 

「…愚か也 」

「鳴上くん!!!」

 

ガブリエルは最後の力で鳴上に向け剣を投げた。

皆、気を緩めていた為に判断が遅れた。

鳴上の眼前まで剣が迫った途端、何かがそれを遮った。

 

そして、鳴上の頭、僅か数センチで剣が止まった。

 

「…愚者は汝だ、ガブリエル」

「!?なぜだ!なぜあなた様が」

 

目を大きく開きその遮った悪魔をガブリエルは見た。

 

 

「セラフ様!!」

 

 

そのガブリエルの刀を掴む人の形をした、その悪魔はガブリエルの投げた刀をガブリエルに投げ返した。

無論避けることなどできずに、ガブリエルは絶命した。

 

「…助かった」

「気にすることはない」

 

中性的な顔立ちの悪魔?は白いローブに身を包み、鳴上達を見た。

 

「我が名は熾天使 セラフ。愚かな、天使達を倒さんとする、汝らに伝えなければならぬことがある。」

「天使!?どういうこと?」

 

千枝は構えた。無論、皆も武器を構えた。

 

「我に敵意はない。あるのであれば、助けたりはせぬ」

 

鳴上を見てそういった。

鳴上はみんなの武器を下ろさせた。

 

 

「我にとっては人修羅は敵。しかし、それ以上に『反逆』は大罪である。やつらは(たぶら)かされたのだろう。」

 

「話が見てこないですね」

直斗は首をかしげた。

 

 

セラフの話はこうだ。

 

我々は人修羅を捕えようとこうして、カテドラルを造り上げたし、時空の歪みの中にこのカテドラルを作った。

ここは時間が進まないらしい。

 

だが、明らかな欠陥があったのだ。

 

人修羅が神に愛されていたのだ。愛されすぎていた。

 

故に熾天使は手出しできない。

それをルシファーにつけこまれ人修羅となってしまったのだが、寛大なる我ら主はそれすらも、許されてしまったという。

 

 

「だが、こうして大天使が主の言葉を告げた我の言葉を無視し、それを実行した。

そして、ハニエルを失うという失態まで犯した…

反逆の大罪は許し難き行為である。」

 

セラフは微笑むと鳴上に言った。

 

「汝らの目的は人修羅の救出にあるのだな?」

「そうクマ」

「…ならば、良いか。我が手を出すこともあるまい」

セラフはそういうと、眩しい光の中に溶けていった。

 

 

 

『汝等に神の祝福を』

 

 

 

「なんつーか、色々とややこしいな」

花村はそういうと、頭を掻いた。

 

確かにややこしい。

 

「えーっと、つまり、どういうことなの?」

千枝も理解できていないようだった。

 

「そもそも、間薙先輩を捕まえることを考えていたのは事実みたいですね。ですが、それは大天使達の暴走に過ぎないという話ではないでしょうか。」

「でも、あれだけ神を信じていた悪魔が裏切るとは思えないよ」

天城は直斗の話に疑問を投げ掛けた。

 

「あー言われてみりゃそうっスね」

「?」

完二の言葉に皆が反応した。

 

「いや、だって、あんだけすげぇ信じてるヤツがいたンで、上のやつが裏切るってのは、やっぱりおかしくねぇスか?」

 

"すげぇ信じてるやつ"というのは恐らく、狂信者達であろう。

 

「…分かりかねますね。内部分裂とは考えにくいですしね。」

「それに、さっきのやつの言葉、信じていいのか分かんねーしな…」

 

油断させるための罠かもしれない。

 

やはり、信じきることができない。それは、Law属性の負の面を生々と感じ取ったからである。

真っ白な正義などありはしないと改めて感じた鳴上たちであった。

 

「…"正しい"っていうことが、"正しい"って信じれ無いなんてことにならないよね…」

「少なくとも、でめぇの身内は信じられないようになっちまったら……」

 

そんな不安な顔で皆が語る一方、直斗はLawという属性の最悪の面を垣間見えたように思えた。

それを考えると皆よりも不安な顔で眉間にシワがよる。

 

「大丈夫クマ?ナオちゃん。」

「…先ほどの悪魔にとっては大天使たちも所詮は駒という捉え方もできると思いましてね。」

「…つまり、使い捨ての駒。胸糞わりぃぜ」

完二は意味を理解した。

 

大天使という高い地位の奴も所詮は神の駒でしかない。

そう考えると、血の流れていない機械のように残酷な属性なのだと、改めて理解する。

 

「とりあえず、進もう。シンを早く助けよう。」

鳴上の言葉で皆は思考をやめ、歩き始めた。

 

 

 

シンは大きくため息を吐く。

それは、友人たちにとってこの世界が辛いところうとし思ってのことだ。

 

この世界において何が正しいことなのか悪いことなのか、さほど明瞭ではない。

この世界に限った話ではない。

 

言い方の問題なのだと言える。

 

『秩序ある統治』というのは聞こえはいいが、『自由な意思』を奪ってしまうことにもなる。

『破壊』では、『弱者』は淘汰されるだけになってしまう。

 

どちらが、正しい、悪いと一方的に決めつけられない。

ここには裁判所も裁判官もいないし、憲法も民法もない。

いたとしても力のないそんなものは無意味に違いない。暴力の前に同じ力を持たない言葉はあまりにも無力だ。

 

故にスタンス(立場)がどちらなのかをしっかりと持たなければならない。

 

 

そんな選択をしなければならない時が来る。

 

 

 

 

 

 

 

「…愚かなり。人の子よ。我らを倒すとどうなると思う。」

ウリエルまで倒した鳴上は順調に頂上を目指していた。

 

大天使たちは鳴上達にとっては苦戦する相手であるものの、着実に相手の体力を減らしていけていた。

 

何よりも、多勢に無勢。

戦闘の基本は数である。

 

 

「どーいう意味クマ?」

「…我々がただ汝らを此処に招いたと?」

「罠…ですか?」

「…我々とて、汝らの到来を拱いていた訳ではないのだ。我々とて、そこまで愚かではないのだ。」

ウリエルはそれだけいうと目を閉じた。

 

そして、マガツヒがウリエルの体から漏れ出す。

 

 

 

「この世界に来たことを怨むが良い…人修羅の為に死ぬなど愚の骨頂なり」

 

 

 

 

 

 

 

 




突然の閃きでバッと書いたんで、だいぶあれかも。

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