Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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第71話 Make Me Sad 20XX年1月7日(?) 天気:不明

「あったりめぇ、じゃねぇっすか!こっちは1回命を救われてんだ!!」

完二はやる気充分のようだ。

完二だけではない皆がバアルを見た。

 

「そうクマ!」

 

だが、その反応とは裏腹にバアルはため息を吐く。

 

「…言葉の意味を分かっていないようだな。」

「どういう意味だ?」

鳴上はぐいっと前に出て尋ねる。

 

「相手は大天使、最悪、熾天使。そう簡単に倒せるとでも思っているのか?」

 

「相手が誰であれ、やるしかないっしょ!」

千枝は軽く跳ねながら言った。

「珍しく、お前に賛成だよ…」

花村も準備を始めた。

 

「可能性か」

バアルはそう呟くと目を閉じた。

 

「あら、やっぱ、捕まっちゃったんだ」

『これはピクシーか』

フワフワと来たピクシーにゴウトが反応した。

 

「"やっぱ"とは?」

ピクシーの言葉に直斗が反応した。

「…とりあえず、行きましょ。説明しながら。」

 

ピクシーはライドウに軽くお礼をする。

「ライドウ、ありがとうね」

 

「報酬は貰ったから構わない」

ライドウはそう答えると、1マッカを指で弾き、マントを靡かせ、去っていった。

 

ピクシーはそれを見送ると建物の方へと向かった。

皆もそれについて行った。

 

 

 

「シンはハメられたのよ。天使たちによってね」

「どういうこと?」

千枝も含めた皆が意味不明と言った感じだ。

 

「あなたが上手く使われちゃったのかな?」

ピクシーはマリーを指さした。

「私?」

「そ。あなたを助けることでハメられたの。手順としては至って、簡単。アマラ経絡に準備していた大量の悪魔をなだれ込ませた。」

 

「でも、それだけ倒せるほどやわじゃないって知っていたのよ。だから、タイミングを合わせることにした。

あなたたちが、彼女を助けることによって、世界は消えることを知っていたの。それに、シンが助けるだろうって予測もしてた。」

 

ピクシーは建物前にくると、その丸い扉に触れた。

すると軽い音ともに開いた。

 

「だから、あなた達を返すことに専念する。結果的に無の世界にシンを追いやることができた。というより、大天使 ハニエルが出てきたみたい。

それでも、シンは他の仲魔が崩壊に巻き込まれないようにって、強制的に帰還させちゃった。

だから、被害としては明らかに天使達のほうが大きいわ。

大天使ハニエルを含めた、多くの大天使を消せたのは大きいわ。」

 

そういうと、ピクシーは止まった。

 

「でも、それ以上にこっちは大きな被害を受けそうになっていたわ。というより、受けたでしょうね。」

「…そしたら、どうしてた?」

鳴上は少し不安げに尋ねる。

 

「…私はいつだって冷静よ。そうありたいと思っているわ…でも…シンが居なくなっていたらって考えると…私は冷静でいられる自信はないわ。」

 

ピクシーは濁りなく、鳴上達に言った。

 

「私にとっては大切な()だもの。シンがどう思っていたってね…」

 

 

「…」

 

その言葉から、信頼よりも、もっともっと深い意味を感じ取れた。

 

ピクシーは首を振り話を戻した。

 

「…まぁ、結果的には監視者ってやつに助けられたのかな?」

 

「監視者?」

「シンにしか姿を見せたことが無いのよ。でも、隠密的に入らせた悪魔から、白い少年と共に檻の中にいるって話よ。」

 

ピクシーは止まるとため息を吐いた。

「…檻の中ということは…」

直斗は不安げに言う。直斗の言葉を引き継ぐようにピクシーが言う。

「あいつらの想定の範囲内ってことね。こんな建物まで建ててね。それに、シンは別になんとも思ってないだろうけど。」

 

ピクシーの話に改めて深くシンを知れた気がした。

 

「…やっぱ、センパイ人間らしいスね」

完二はしみじみと呟く。

「真意が読めませんからね。僕達よりも遥か先を見てますから」

「でなきゃ、王で居続けることなんてできやしないわ。」

ピクシーは自慢げに言った。

 

「ってか、マリーちゃん大丈夫なわけ?」

「…しらない。でも、多分大丈夫。」

「そんな時はクマがマリちゃんを守るクマ!!」

クマはやる気満々だ。だが、マリーがちょこんと押すとクマはゴロンと倒れてしまった。

 

「た、立てないクマー」

「相変わらずなのかよ…」

 

「…ここまで来ちゃったんだし、私が守っておくから、あなた達だけでも行けば?」

「私もここから、案内するよ!」

りせはそう言って意気込む。

 

「じゃあ、お願いします。」

そう言って、鳴上達は歩き始めた。

 

 

 

 

「ああ、あと。」

ピクシーは鳴上達を止めていった。

 

 

「ここはあなたたちの世界とは違うわ。価値観も思想も、考え方も。それだけは言っておくわ。」

 

 

鳴上達は頷き、丸い扉をくぐった。

 

 

「大丈夫なの?」

マリーは少し心配そうに言った。

「恐らく…ね。」

ピクシーはマカロンを齧る。しかし、その瞳はどこか不安そうだった。

りせはペルソナを召喚し、サポートを始めた。

 

「クー・フーリン!フーリーの羽衣借りて来なさいよ!!」

「…はっ!」

「属性を誤魔化さなきゃ、カテドラルへの道には入れない…あるいは、Lawかしら…全く!セトはどこに行ってんのよ!!」

ピクシーはカテドラルのてっぺんを見つめる。

 

 

 

 

「…いつものように帰ってきてよね」

 

 

一抹の不安の中、ピクシーは目を閉じた。

 

 

 

 

 

中は白を基調とした、ダンジョンとなっていた。

1階の中央は吹き抜けており、上から光が差し込んでいた。

 

「ここまでくると、如何にもって感じだな。真っ白な感じとかさ」

花村は辺りを見渡し言った。

 

「天使って言ってたよね…相手。でも、天使なのに『悪魔』って言ってたね」

「結構、フクザツなんじゃない?そういうところさ。」

「ある種の名称みたいなものかもしれません…」

 

そんな会話をしていると、声が響いた。

 

 

 

 

『…おお。何者か、迷える神の子らよ。汝ら、なぜこの地に赴いたか。』

 

「知ってて聞いてんだろごらァ!!」

「シン君を助けに来たの!!」

完二と天城が答えた。

 

『何と、何と愚かな事を…堕されたモノたちに仲間した混沌王を助けると?何故、助けるのだ?』

 

鳴上は上を見上げて、真っ直ぐとした目で答えた。

 

「友人を助けるのに理由は必要ない」

『…何たる浅慮。ヤツは神に選ばれながらも、多くの大罪を犯したのだ。そんなモノを助けると?』

 

 

『…その浅慮、救い難いぞ。』

 

 

そう答えると、声は聞こえなくなった。

鳴上達は特に気にすることなく、先のドアを開けた。

 

 

「なんか、白いね」

鳴上達は辺りを見渡すと、広く小部屋が何ヶ所かあるような雰囲気があった。

 

 

早速、一つの小部屋の中に入ると。

 

「人!?」

「…おや。」

 

そこには白いローブを着た男性がいた。

 

「あわわわ!何やってるクマ!?早く戻るクマ?」

「戻る?どこへ戻るのですか?」

「どこって…」

花村は辺りを見渡したとき、気がついた。

 

「ちょっとまて…霧ないぞ」

花村はメガネを外した。

皆もメガネを外すと変わらぬ景色が広がっていた。

 

「ど、どういうこと?」

仲間たちが慌てている中、鳴上はその男性に尋ねる。

 

「あなたはここで何を?」

「私は神に選ばれた為、大洪水を免れたのです。これも、神の思し召しでしょうか。」

「洪水って…あの、水がそうだったのかな…」

千枝はあの草原の前にあった、シーンを思い出した。

 

「ここは、何ていうかところなんですか?」

天城が尋ねる。

「知らないのですか?…まぁ、いいでしょう。ここはカテドラル。私達、メシア教徒が建てた聖堂ですよ。」

「聖堂?何の為ですか?」

 

 

「無論。唯一神を迎え入れる為ですよ」

 

 

 

鳴上達はその後、様々な人と話した。

 

悪魔が出る様子もないのでふた手に別れた。

 

 

 

「俺は選ばれたんだ…選民なんだ…俺の人生は正しかったんだ!」

周りに人だかりができている。その男の表情は恍惚とし、天を見上げ、笑い声を上げていた。

 

「…あのツラァ、やべぇっス」

「…」

 

 

「先ほど、天使、パワー様が人を裁いておりました。神に従えないと言ったので、仕方ありません…私の夫だったんですが…仕方ありません。それが、すべての秩序のためなのですから」

 

白いローブを着た女性が黙々と答えた。

 

 

「大洪水は神が我々に与えた試練なのです。我々は千年王国の到来をただ信じていれば、救われるのです。

神は我々を試されているのだ。」

 

 

 

皆、次の階層へと向かう階段の前で集合した。

 

 

「そっちはどうよ。」

「口々に神、神、神、だから、なんか、ちょっと気持ち悪かったかな…」

千枝はため息を吐いた。

 

口々に出てくる言葉は、神、千年王国。

まるで、宗教のようなそんな気さえした。

 

「…完全に盲信しているといえるでしょう。」

直斗は冷静に答えた。

 

「彼らをロウ(Law)と呼ぶ。主の世界では力が全てだと言っていた…」

「誰!?」

突然声をかけてきた男に千枝はすぐさま反応した。

 

その男は腕を組みほくそ笑む。黒いスーツが良く似合う黒髪の男性だった。

 

「私はセト。主を助けるために来たが、Law-Darkの私ではここが限界らしいな」

「Law-Dark?」

鳴上は首をかしげた。

 

「お前たちは…属性無しか。ニュートラルというわけでもなさそうだが」

「ちょっと、待ってくれ!なんの話なんだ?」

 

 

「…属性も知らぬか…まぁ良い。この世界ではLaw、Chaosに属性が分けられる。Lawは秩序を。Chaosは混沌をそれぞれが思想として持っている。Light、Darkは性格を表すものだ。

しかし、主の世界は違った。コトワリという思想に分かれ、そして我が主の"混沌"という思想があの世界を統治している。」

 

「…元々、天使たちはLawであった。しかし、主の世界ではヨスガに加担した。弱肉強食の世界を創ろうとした。

ある種の選民思想なのだと、私は解釈した。

しかし、我が主の混沌となった世界では、彼らは耐えきれず、他の世界でLawとなって、こんな大聖堂などを作り上げていた。それを導いたのは熾天使か、あるいは大天使か。」

セトがクマを見ると、クマは眠っていた。

それに気付いた花村がクマを叩いた。

 

「…簡単に言ってしまえば、コインの裏表。水と油のようなモノなのだ。Law-Chaosという属性は。Neutralというのもあるが、これは揺るぎやすいものだ。」

 

「人を殺すのが秩序なのか?」

花村は強くセトに尋ねた。

 

「絶対的な統制には不穏分子は邪魔なのだろう。

それも、秩序の為、千年王国のため。神を信じるものだけが、選ばれた民。選民になれると。」

 

「お前たち、人間も傾けばそうだろう?」

セトはそういうとニヤリと笑みを浮かべる。

 

「聖地奪還といい、多くの遠征を行った。

救われるためにと関係のない人間を多く殺している。

宗教や思想が違うだけで多くの血を流し、争っている。何一つ変わらない。何世紀も変わらぬことをしている。固い信念や信仰がロクでもない大量殺戮を正当化する。そうではないか?」

 

「そ、それは…そうだけど。」

 

多くの争いの世界史や日本史で学んでいる。

だからこそ、セトの言葉は納得せざるを得なかった。

 

「だから、絶対的な統治が必要なのだと奴らは思っているのだ。

絶対的な救世主(ヒーロー)、あるいは可視化された唯一神。それらが必要なのだ。偽物であってもな。人にとって、絶対的な何かが必要だと考えているのだろう。

だが、カオスやダークのような自由を好むものには虫酸が走るのだろう。」

 

「シンを主と言っているが…あなたはLaw-Dark」

「確かに。なんつーか、逆なモノのようなイメージだけど…」

鳴上の疑問に花村も同調する。

 

 

「…私は秩序的に破壊行動を好んでいるのだ。

しかし、あの世界においては属性というものは意識的に薄いものだ。コトワリと言う形で、その属性を踏襲していることには間違いない」

 

「それに、あの世界は混沌としているが、弱肉強食の世界ではない、事実、弱者のマネカタも不自由なく生きている。

一方で、他のコトワリ残存を圧倒的な力で殲滅することもある。」

 

セトはそういうと、少し不気味に笑った。

 

「そう考えると、私の主は非常に面白いのだ。コトワリに属さないマネカタを救いつつ、他のコトワリには苛烈に攻め立て殲滅する。矛盾。実に矛盾している。だが、それこそが、まさに混沌たる所以だ。全てを殺すニュートラルとも違う。ただ、自己の赴くままに統治し、反応を楽しんでいる。怒れば殺す。楽しければ良い。まさにカオスに相応しい。」

 

それにと、セトは続ける。

 

「あの世界での属性は無意味だ。混沌というコトワリが開かれた今、唯一神と闇とのそのどちらしかないのだからな。まさに、天使と悪魔の戦いなのだ。」

 

「…ややこしいね」

流石の天城もスケールが大きすぎて完全に理解はできていない。

完二やクマに至っては完全に思考停止。白い壁の汚れを見ている状態である

 

「…何れにせよ、お前たちはあの階段を上がれるだろう。この先は敵の警戒が厳しくなる。気をつけることだ。」

 

 

鳴上達は頷くと、目の前の扉を開けた。

 

 

 

 

「全く…緊張感に欠ける連中だ。」

 

 

 

 

 





Lawは全体主義、Chaosは個人主義みたいな感じです。

今回はLawのエグイ部分メインで進みます。

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