Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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第68話 Hollow Forest 1月5日(金) 天気:晴れ

着くとそこには、竹薮の広がる場所であった

遠くには大きな埴輪が埋まっていたり、和テイストな風景が広がっていた。

大きな馬の埴輪、竹林、大きな岩。

そんな、場所の少し開けた場所に出た。

 

なにより、雪のような花びらが舞う美しい世界でもあり、それと同時に儚さも感じた。

 

「…大当たりってやつだな。」

シンはどこぞのデビルハンターのような言葉でこの世界への到着を表した。

「テレビの中って感じじゃねーな。」

 

皆が周りを見ている中、マーガレットは花村達を見る。

「ご挨拶が遅れました。皆様には初めてお目にかかります。マーガレットと申します。」

 

そういうと、マーガレットは鳴上を見た。

「私はこの方の"旅"を手助ける者…皆様に害をなすことはありません。」

「…"ありません"って

…でも、まあ、ここまで来た感じだと大丈夫かな?」

千枝は仕方ないといった雰囲気だ。

 

「さて、本来手順というものがございましたが…」

「そういった、くどいやつは嫌いでな。」

シンは遠くにある古墳のようなものを見ている。

 

「…ということですので、私も少々驚嘆してる状況です。」

 

マーガレットは奥にある古墳のようなものを見た。

 

「ここは”虚ろの森”。”人の心の世界”であるテレビの中に、あの子が作り上げた“閉ざされた領域”…。

私どもの元を去ってから、マリーはずっと、この場所に閉じこもっているようです。」

 

「なぜだ?」

鳴上はマーガレットに尋ねた。

 

「私もすべては存じません。

あの子はあなたと心を通わせた結果、ついに記憶を取り戻した…。

ですが、その記憶は、あの子が望んだようなものではなかったようでございます。」

 

マーガレットの話に花村が突っ込む。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。さっきから一体何の話してんだよ?

”マリー”って、あのマリーちゃんか?お前と一緒にいた…」

その花村の言葉に皆が思いだしたように口々に言う。

「あたしも覚えてる。帽子かぶって、お洒落な感じの子だよね!!」

 

「…この世界がつながった今、記憶の鎖は解かれたが…鳴上は覚えていたようだが…」

「…彼女がここにいるって、どういうこと?今、記憶がどうかって…」

 

心配そうに皆がしているため、鳴上がマリーのことを話し始めた。

記憶がないこと、行方不明になっていることを話した…

 

「マリチャン、キオクソーシツだったクマか…」

「ここ、テレビの中だよね。行方不明の人がテレビの中にって、それ…」

天城は心配そうに言う。

 

「おそらく、事件とは関係ない。

この世界に閉じこ(・・・)もっているという言葉。」

 

「…さすが…ということでしょうか。」

マーガレットはそう言ってほほ笑むとシンは肩をすくめる。

 

「間薙様の言うとおり、マリーの失踪は、皆様方の追っていた”誘拐事件”とは関係ないかと。自らこの場所に閉じこもっているようです。」

 

「自分からテレビの中に…ということは、マリーさんもペルソナ能力を?」

直斗はマーガレットに尋ねる。

 

 

 

「いいえ、マリーはもともと、”こちら側の住人”なのです。」

 

 

 

その言葉にシンと鳴上以外は驚きを隠せないようだ。

「お前はどういう子を連れ歩いてたワケ!?」

 

「ねえ、待って。ここってテレビの中なんだよね?だったら、シャドウいるんじゃ…」

「…まじかよ…ってことは」

「マリーが危ない。」

鳴上の言葉に直斗はうなずく。

 

「鳴上先輩の言うとおりですね。もし、彼女がシャドウに襲われたら…」

 

「危険がないとは申せません。。ですが、それは皆様方も同じこと…この先へ進み、マリーを探すおつもりなら、相応の覚悟をしていただかなくてはなりません。」

「…それに、アマラ経絡のこともある…不安要素は少ないほうがいい」

 

シンはそういうと、入口に触れるが弾かれた。

 

「やはりな…」

「?」

「…俺はこの結界を解く作業に当たる。」

シンはそういうと、鳴上を見た。

シンのアイコンタクトの意味を理解し鳴上は頷いた。

 

皆も鳴上を見る。

 

「…俺達はいつもの様にジュネスのテレビから入ろう」

「しかし、ここは閉じられてるって話では?」

「…そのための私でございます」

マーガレットは千枝の疑問に答えた。

 

「場所が分かった今、私が、この世界への道を開ける役目を果たします。テレビの世界からの道を」

マーガレットも本を開き作業にはいる。

 

 

「…とりあえず、俺たちは戻ろう」

「チェックアウトまでには戻る。」

「うん!いつもの様にやればきっと助けられるよ!」

鳴上達はクマの出したテレビで戻っていった。

 

 

 

その広場にはマーガレットとシンだけとなった。

 

 

「…」

「…目的はなんでしょうか?」

マーガレットは本を開いたまま、目線も本に向けたままシンに言った。

 

「目的ね…この世界にいる目的は、このテレビの世界を作り出したやつに興味があるだけだが。」

「…それが、どのようにマリーと繋がるのでしょうか。」

「…彼女がある種の手掛かりである。それに、正体も概ね予想はつく。」

シンは結界から手を離した。

 

 

「…これだけ、長く生きていれば…すぐに見抜ける」

そう言って肩をすくめた。そして、再び、結界に触れる。

 

マーガレットにはその言葉の意味がなんとなくだがわかった。

マリーは途中から気付き始めていたのだろう。

あの客人と出かける度に精神的に不安定になっていたのは事実である。

 

自分が他人とは違うと。

 

しかし、それを認めたくない。

そんな思いで、途中から暮らしてきた。

 

だからこそ、自分の正体がわかったとき大切な人達に迷惑を掛けないように、この世界に篭ったのだろうと。

 

 

「…前回までなかったんだがな…」

シンはコンコン叩きながら、天を仰ぐ。

半円状に結界が生成されていることを確認する。

「…」

 

シンは一体の悪魔を召喚した。

その瞬間、地鳴りが起き、大きな召喚音がした。

いつもの召喚とは明らかに異なる。

 

 

その悪魔の威圧、そして、場の支配力にさすがのマーガレットもきつい表情になる。

 

 

「…久しい哉。人修羅よ」

「マサカド。本当に久しいな」

「トウキョウの守護をしている、余をこの地に呼ぶとは、無論、余程の事なの」

マサカドはじっとシンを見つめる。

 

「当然。この結界について、尋ねたい。」

シンはそう言って、結界の膜に触れる。

「…ほう…」

そう興味深そうに、マサカドは結界の膜に触れた。

 

「できる限り早く、中に入りたい。」

「…ふむ…跋扈(ばっこ)する奴らと闘い、約束通りトウキョウを平定した汝の頼み…よかろう…」

 

そう答えると、マサカドは刀をカチリと音を立てた。

すると、結界全体に無数の線が走り、ガラスが割るように結界が割れた。

 

「…容易い」

「…力技だが…まあ、いいか」

 

マサカドは刀を納めると、じっと古墳の方を見た。

「…強き意思を感じる。人の子ならぬ、大きな意思を余は感じる。

しかし、心憂いも入り交じり、決意はぬかるんでいる」

「…この世界じゃ、どこにでも雨は降るのさ」

シンは大きな馬の埴輪にジャンプで登ると辺りを見渡した。

 

「…だからといって、雨は全てを流してくれる訳でもない。消えぬ痛みもある。癒えぬ傷もある。」

「…然り。」

 

シンは埴輪から飛び降り、マサカドの前に来た。

 

「助かった」

「…ではな、人修羅よ…余は再びトウキョウの守護へと戻るぞ」

「…頼んだ」

 

マサカドはそういうと、消えた。

 

 

 

「…やはり、私には分かりません。あなたがそれ程の力を持ちながら、何故、鳴上様達の世界を支配しないのか」

マーガレットは本を閉じた。

 

シンは肩をすくめて答えた。

 

「…今はそんな気分にはなれないというだけだ。気が向けばやるかもしれんな」

不敵にシンは笑みを浮かべた。

 

シンは出口へ向かおうとすると、紙切れが落ちていた。

それをシンは見て、ポケットに入れた。

 

 

 

 

シンがコテージに戻る頃にはすっかり、朝に近かった。

シンは静かにリビングに行き、ソファに座った。

何をするでもない、ただ呆然と天井を見上げた。

 

何も無い、ただ空調の為のプロペラがあるだけの変哲のない天井である。

今回の話で思い出すことがあった。

 

 

 

 

 

シブヤのクラブ…

 

「街の外がどうなってるか…もう見たでしょ?」

千晶は不安そうな顔で言った。

 

「…何も無くなっていた…」

「わたしの家なんて、何処に建ってたかも分からなくなっちゃった…

もしかしたら人間は世界中でわたし1人なのかもって、本気で考えてたわ」

千晶はそういうと、シンを見て辛いながらも笑みを浮かべた。

 

「…シンくんに会えて良かった。

ちょっとだけ…希望が見えた気がする。

無事だった人、他にもきっといるわよね。

祐子先生だって、勇くんだって、何処かにいるかも知れない」

シンは無言で頷いた。

 

「わたし、探してみるわ…このままじゃ、気が済まないもの。みんな…きっと生きてる、」

 

 

「運命は、そんなに残酷じゃない。」

 

 

「そうでなきゃ…あんまりだわ。」

千晶はそう言って分厚い扉から出ていこうとすると。

 

「あ、」

「?」

千晶はシンの声に足を止めた。

 

「…気をつけて」

「…うん。シンくんもね」

千晶はクラブの扉を開けて出て行った。

 

「良かったのー?とめなくてさー」

ピクシーがフワフワと浮きながらそう尋ねる。

「…いいんだ…俺も少し…希望が見えたかな」

 

 

 

 

 

"運命はそんなに残酷じゃない。"

 

 

今となっては、そんなものは幻想でしかなかったと思う。

運命は残酷だ。時間と同じように多くのモノを傷付ける。

そんな傷は雨じゃ流せない。癒せない。

 

「…虚ろの森(Hollow Forest)か」

 

オレの予測が当たっていれば、非常に的を射たネーミングだ。

彼女は恐らく、生田目に宿っていた『クニノサギリ』。そして、足立に宿っていた『アメノサギリ』。

これらの関係者。

理由は様々だが、まず、アメノサギリの撃退後に消えたこと。

次に、ベルベットルームという、『夢と現実の狭間』の場所にいたこと。

その時点でただの人ではないことは確かだ。

 

それに、テレビの中を自分の死に場所としたとするなら、尚更である。

そして、テレビの中に自分の世界を作り出せたこと。

それが何よりもの証拠。

 

だからいつもそうなのだ、運命は残酷だ。

 

シンはポケットに入れた紙切れを見た。

 

 

 

『キミは本物の様な気がする。

キミは本物の味がする。

でも、私の感情は"まがいもの"。

 

私にはどうしようもない

でも、もし、私がホンモノなら、キミの元へすぐでも行きたい…

私がキミの望むような人間だったら…

いつだって…いつだって…』

 

 

 

誰かへの想いが綴られていた。

 

所々、濡れて滲んでいて読めない。

 

シンはそれをポケットにしまうと、自分の事を思った。

 

 

自分は誰かに愛されていただろうか。

自分は誰かを愛していただろうか。

 

少なくとも、自分は誰も愛してなどいなかった。

自分にとって、この世にあるもので、愛しいモノなどなかった。

 

少なくとも、普通に高校生をやっていた時はそうだった。

 

選択を迫られ、どちらかしかない時は、思いつくままに、選択してきた。

 

しかし、世界の命運となったとき、その重さがグッと変わった。

当たり前の事なのだが、眼前にその選択肢が提示されたとき、身震いしたのを覚えている。

しかし、少なくとも、ボルテクス界で自分は変わった。

そして、何も無いカオスを選択した。

 

だが、結局のところ、愛するモノなどない。

というより、自分には愛が分からないのだ。

 

仲魔との連帯感は感じるが、愛ではない。それに、ピクシーやジャックフロストなどの長年の連れは、愛などという幻想のようなモノで片付けられる程、簡単ではないのだ。

多くのことを共に勝ち取り、得てきた戦友であり、親友であり、名称できない何かなのだ。

 

それが、愛する者とはどうも違う。

言わば、老夫婦のようなものだと思う。

 

 

では、自分は愛されていただろうか。

親…いつも、割れ物を扱うようなものだった

 

…そればかりは今となっては分からない。

自分はそこに"意味を与えること"しかできない。

理解は願望に基づくものでしかない。

 

告白も…分からない。あったのだろうか。

恋愛には疎くてとにかく分からない。

 

 

 

そこまで考えて、シンは渋い顔をした。

何だか、くだらない考えだと自分で思ったのだ。

 

シンは湯を沸かすため、ソファから立ち上がった。

やかんに凍るほどの水を入れ、沸かす。

 

シンは天井を見上げた。

 

謎の病で死んだ少女の手記にも書いてあった言葉を思い出した。

 

『知らないうちに私は多くのものを抱え込み愛していたのだとわかった。(第x3話 Ghostより)』

 

だから、死ぬことが悲しいし、怖い、そして、虚しいのだと。

 

…自分も死と向き合ったとき、そう思うのだろうか。

少なくとも、マリーはそう思ったのだろう。

 

マリー自身が皆と同じだったら…

マリー自身がホンモノだったら…

 

そう上を見上げてシンが考えていると。

ドアが開く音がした。

 

「…おはようございます先輩」

「おーシン君!どうだったの?」

女性陣が起きてきた。そして、千枝は元気そうにシンに尋ねる。

 

「問題はない」

「さっすが!センパイ!」

りせは嬉しそうに答えた。

 

 

 

死か…

 

悲しいこと…なのか…まだ、分からない

自分自身の死…ケヴォーキアン同様、興味は尽きない

 

 

 




ちょいちょい書き足して書いたものなので、誤字などが多いと思われます。

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