Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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少し時を遡り、元旦の話である。






第x6話 Meta

元旦。

 

 

堂島と菜々子が仮退院の為に自宅に帰ってきた時に、シンもおじゃまをしていた。

 

鳴上お手製のおせちに菜々子は嬉しそうにそれらを食べていた。

 

食べ終わり、鳴上の部屋でシンはくつろいでいた。

片付けも終わり、鳴上が階段を上がり部屋に来ると、早々に溜息を吐いた

 

「…なんだ、らしくないな。おせちを作るのがそれほど大変だったか?」

「いや、そうじゃないんだ。…その、なんというか…」

鳴上は机の椅子にゆっくり凭れると話し始めた。

 

 

「時々、テレビの中で死ぬ夢を見るんだ。寝てるときに見るんじゃなくて…その、テレビの中の戦闘で死ぬんだ。」

「…続けてくれ」

「とても、変なことだとは思うんだが、俺がどこか違う視点で、俺が死ぬのを見ていて、りせなんかが、声を掛ける。

それで、暗転して、気が付くといつも、テレビの中の広場にいるんだ。」

 

シンはふむと、唸ると思考を巡らす。

「…俺もそれは何度もあった。ムドやハマで俺が即死して、天使に囲まれてあの世へ旅立つのをどこか他人事の様に眺めていて、気が付くとターミナルまで戻っていたりな」

「シンもあったのか?」

鳴上は驚いた様子だ。

 

「ああ。それに、会ったことさえないヤツの弱点を何故か知っていたり、殺されたハズのボスと何回も何回も戦ったり」

「俺もあった…でも、それはいつも、シンが居なかった…」

「何故だ…」

 

その後、数分。

2人とも黙ってしまった。考えたくもない。

自分が死ぬ夢など、あまり気持ちのいいものではない。

 

それと同時に、2人とも今の自分への不信感が増幅される。

 

本当の自分は既に死んでいて、これはいわば夢。

あるいは、こうしたいと願った自分の妄想。

 

目の前に広がっている景色や光景すら、偽物で、本当の現実ではないのではないか。

ふとした瞬間にこんな脆い現実が崩れ去る。

 

勝ち得た勝利も、美しい景色も、大切な絆も、大切な愛情も。

 

全てモノがまるで、売られている程度の『陳列された偽物の世界』だとしたら。

 

そんなモノの為に自分をすり減らして、生きている意味とはなんだ?

 

やさしいやさしい夕焼と恋人との愛はなんだったんだ?

友人との間に感じた絆とはなんだったんだ?

確かに救った世界はなんだったんだ?

確かに壊した世界はなんだったんだ?

 

深く考えれば考えるほど、頭の中で何か巨大偶像が立ち上がり、自分の頭を喰らい尽くす。

そんな一抹の不安が不意に肥大化し、表面化してきた時、言い難い恐怖が体中を蝕み始める。

 

 

今、まさに2人の体を蝕んでいた。

 

 

「…やめよう。気が滅入る。」

鳴上はそう言うと、椅子に深く凭れる。

その言葉にシンも頷いた。

 

「…いわば、警告なのかもしれないな。」

鳴上はうんと頷きながら言う。

 

「?というと?」

「夢でおかした間違いを起こさないように、夢でそう警告しているのかもしれない。」

「予知夢か…それに白昼夢のダブルコンボとはな…だが、そう思うしかあるまい。」

シンもうんと頷く。

 

「あるいは違う世界のお前がそう警告しているのかもしれないな。」

「…なるほど。でも、もう、テレビに入ること無いだろう」

「さぁ、な」

シンは返答を濁した。

 

 

 

 

その頃、完二、花村、クマはジュネスの搬入口でトラックが来るのを待っていた。

 

「いつも、思うんスけど、鳴上先輩ってどうやってあんだけ大量な飲みモン持ってきてるスかね」

「そりゃお前…」

 

花村は説明しようとしたが確かに不自然極まりない。

武器や防具はいつも、だいだら.に全員が連れていかれて、新調されるので、まぁそこはいい。

だが、あの気持ち悪くなるほどのリボンシトロンや盆ジュースはどうやって持ち運んでいるのだろうか。

 

「…どうやってだろうな」

「きっと、クマみたいにセンセイも懐が大きいから、そこに入ってるクマ」

「さりげなく自分を棚上げすんな…」

花村はそういいながら、手をすり合わせる。

 

「それに、あの人、魚を丸ごと持ってきて食ってましたよね…」

完二は不思議そうな顔で言う。

 

「…なんか、恐ろしいわ。そう考えっと」

「そんなことより、サブイクマ」

凍り始めたクマを見て、花村は溜息を吐く。

 

「…トラック…遅くねぇっスか?」

「クマ、ナカ、ハイル」

「つっても、これだけ従業員居ないんじゃ、帰っちまうよ」

クマは既に中に入ろうとしていた。

 

「今年、マジで気候おかしくねぇっスか?」

「寒すぎだろ。」

「ってか、なんで、俺がこんな寒みぃ所にいなきゃなんねぇんだよ」

「…なんでお前いんだよ!!」

「いや、てめぇが呼んだんじゃねぇか!!」

そんな会話をしながら、彼らは来るはずのないトラックを待って元旦を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

人の人生をひとつの作品としたとき、作者とは誰のことを指すのだろうか。

そこには、無数の答えが存在する。

ただ、1つ確かなことをいえば、その人生の主役であるはずの君が『主役』ではないこと。

 

所詮、その人物は役者でしかない。

 

君が自分で物事を決め選んでいるつもりだろうが、どんな人間も他人との関係性によって生じた動く何か勘違いした生き物のようなものだ。

 

例えば、自分は今日の朝飯に何を食べるか。

明日は何をするか、全部君が決めて生きてるつもりである。

それが一種の自己証明だった。君の人生を君が作り上げているという確証であった。

 

ところが、それの決定すら何者かによって決められていたとするなら、どうする?

例えば、妻。例えば、親。例えば…神。

例えば、顔も知らないような赤の他人。

例えば、コンピューター。

 

君の人生に君の知らない脚本家が存在するとしたら?

 

そうすると、君はもう、どこにもいない事になる。

なぜなら、他者がいないと自分は成立しなくなってしまうからだ。

 

そう。自己証明だったはずの自己選択が、他者によって支配されているということで、自己証明ができなくなってしまっている。

 

 

では、他者が君の人生の作者か?

では、他者は神か?

 

あながち間違いでもないかもしれない。

今の君を作り上げたのは他ならぬ親であったり、環境だったりする。環境も結局のところそういった他人によって作り上げられたものだ。

君一人でそんな所に立っているわけではない。

必ず誰かによって君は作り上げられた。

 

では、彼は誰の影響でこうなるのだろうか。

時々、そう思う。彼はどうして、これほどまでに友人を作れるのだろうか。

 

 

「…忙しそうだ」

「?」

 

シンは元旦のつぎの日の朝。

外を歩いていると千枝と会っている鳴上を見た。

シンは邪魔をしては悪いと思い、特に声を掛ける事もなくジュネスへ向かった。

帰りにりせと会っている鳴上をジュネスで見かけた。

シンは特に気にすることなくそそくさとジュネスから帰った。

 

お昼を済ませ、直斗が暇だという事で、商店街で待ち合わせをしていると、鳴上が見たことあるような女子生徒とあっていた。

 

海老沢だったか?とシンは思いながらも、直斗が来たために、気にすることをやめた。

 

 

「待たせてしまいましたか?」

「待っていない」

「それは良かったです」

 

直斗は安心した様子でふうと息を吐いた。

 

「さて、何をするか」

「実は僕…その」

直斗は少し恥ずかしそうにしている。

 

「なんだ。なんでもいいぞ。どうせ、暇だ。」

「その…いえ、あ、そうだ。この街を歩きませんか?僕はあまり詳しくありませんから。」

「うむ。そうしようか」

シンはコートに手を入れた。

 

まず、すぐ近くにあるだいだら.をみる。

「鎧か…考えたこともなかったな」

「僕も不思議です。何故、間薙先輩が鎧を買わなかったか。」

「それは単純だ。」

シンは刀を持つと言う。

 

 

「何処にも売っていなかった」

 

「そうでした」

直斗は自分の質問で笑ってしまった。

 

こんなお店は普通はない。ただ、この街に来てから、そういった感覚が少しだけおかしくなっていることは確かのようだった。

 

「そうですね。こういったお店があること自体、僕も驚きですよ」

 

 

シンは何だか分からない鉄の塊を買うと直斗と共にだいだら.を後にした。

 

「…何故、商店街に異質な"だいだら."という店が生き残っているのか…」

「…客単価が高いのかもしれません。」

「なるほどなー」

シンのその返答に直斗は笑った。

 

「まるで、ロボットみたいでした。」

「そうか?」

シンもそう言われ、少し口元を緩めた。

 

 

「…次は、本屋は普通の本屋なので、神社でも行きましょうか」

「そうだな」

直斗とシンは神社へと向かった。

 

「そう言えば、今年の2月ににスカイツリーという電波塔が建つらしいですね。」

「ああ、そうらしいな。開業は5月らしいが…そしたら。行くか?」

「え?」

直斗はシンの思わぬ言葉に足を止めた。

 

「興味深いと思わないか?東京の結界を破る、あの塔。マサカドは何を思うんだろうな。」

「え?あ、そ、そうなんですか。」

直斗は少しショックそうに俯いた。

てっきり、デートの誘いかと思ってしまった。

 

 

「…なんだ、不満か。旅費は気にするな。最悪、セトに乗ればいい」

「い、いえ!是非、行きましょう!」

「ああ。」

 

シンはそう答える。

それは、まるで子供のようにも見えた。

 

 

2人は適当に様々な場所を回って、帰宅した。

 

 

 

2日

 

「大丈夫かーヨースケ」

「なんで、てめぇは…ハックシ…元気なんだよチクショウ」

花村はジュネスでマスクをしながら品出しをしていた。

クマもそれを手伝う。

 

「ったく、昨日のせいだよなどー考えても」

「陽介」

「うおっ!相棒!」

鳴上に突然声をかけられて、花村はびっくりする。

 

「センセー、おはよークマ」

「おはよう、クマ。陽介は風邪か?」

「だらしないクマ…」

「俺はお前らと違って。ずっと待ってんたんだよ!!…ヘッション!!」

 

花村は大きなくしゃみをした。

 

「来るはずのない、トラック待ってたんだよ…」

「忠犬クマねー」

「俺は…犬じゃねえっつーの。」

「スキーの旅行も近いし、治さないとな」

鳴上の言葉に花村は頷いた。

 

「ヨースケ、次は飾り付けクマ」

 

そして、花村は言う。

「…疲れた」

 

 

「…疲れた」

シンは部屋でソファに倒れ込むように座った。

そして、すぐにメリーが飲み物を出した。

シンは元旦から睡眠をしていない。

それが、非常に辛くなってきた。

 

「…睡眠なんていう習慣をつけるべきではなかった」

シンはそういうと、何も入れていないブラックコーヒーをグイッと飲み干した。お腹が空いた。とシンは思う。

そして、シンはメリーに言う。

「…何か膨れるモノはないか?」

 

 

「風船?…正月関係ねぇし」

「でもでも、ヨースケ。子供は喜ぶクマ!!」

「まぁ、そうちゃ、そうなんだけどよ…他にもあんだろなんかさ。子供喜ばすやつがさ」

 

 

「ハンバーグか…まぁ、この際だ頼む」

シンがそう言うと、メリーはウデを捲った。

このサインはシンは知っている。長くなるだろうと思いテレビをつけた。

そして、メリーの料理のことを考える。

「…大作(・・)でも作るのだろうか…」

 

 

対策(・・)になるだろ?こうやって、しっかり落下防止しときゃな」

「ほー!!ヨースケあたま良いクマ!!」

花村はそういって、正月飾りを両面テープで止めた。

 

「でーもー、ヨースケ。これは、吊るすものじゃないクマか?」

「いいんだよ。そんなの。誤魔化しだよ誤魔化し」

「ひ、卑怯(・・)クマ」

 

 

秘境(・・)特集…こんな|時期に…」

シンはテレビを見て言う。この時期は視聴率を取ろうと似たような番組をやることが多い。しかし、このチャンネルは違うようだ。

どうやら海の秘境らしい。

「ほう…すごいヒトデ(・・・)

 

 

「にしても、人手(・・)がたらねえ…」

「クマ。もう…テンテンテン…クマ」

クマはモゴモゴしながら、答えた。

 

「それに、人出(・・)も凄いな。「いらっしゃいませ」クマ!」

ジュネスは凄い人出である。この時期は皆、惣菜を買いに来るのだろう。

「やっぱ、この時期は帰省中(・・・)の人が多いのかもな。時機か」

 

 

寄生虫(・・・)か…ジャングルというのはそういうのが多いのか…」

シンはテレビを見て唸る。

「…あとは、何かやっていないのだろうか。…」

シンはチャンネルを回す。

「…ほう、サスペンスか…」

シンはチャンネルを回すのをやめた。

「…すみませんが、調味料をとっていただけませんか?」

「どこのだ?」

 

 

「ってか、俺がクマ。お前、つまみ食いしたな!?」

「してないクマ!」

「付いてんだよソースが!!」

 

 

 

「「目と鼻の先(・・・・・)にな!!!」です。」

 

 

 

 

 

 




メタ的な内容と、フラグと、ちょっと遊び心で後半は書きました。
後半のモノはとあるコントをオマージュしました。知っている人は知っています(´・ω・`)

さて、本編も鋭意製作中ですので、気長にお待ち下さい。

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