Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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第67話 Forgotten 1月5日(金) 天気:晴れ

スキー二日目

 

その日は日が暮れるまで、ゲレンデで過ごすことにした…

 

 

「よーっし!今日も滑るぞーっ!」

千枝が昨日と同じテンションでそう宣言するが、男性陣は少し疲れているようだ。

 

「お前、元気あんな。

昨日…ってか今日の夜中えらい遅くまで騒いでたのに。」

花村は少し疲れた表情でそういった。

 

「なんで知ってるの!?まさか…」

「あれだけ騒げば、聞こえますよ…

壁薄いですって、何度も言ったのに…」

「し、仕方ないでしょ!?間薙センパイが本気でビビらせにきてたんだから…」

りせは動揺しながら言った。

 

「でも…音だけなんだ。」

天城は安心したようだ

「…見られたのかと思った…あのカッコ…」

 

「トークも途中から結構キワドかったけどね。」

りせはそういうと、完二を見た。

「ごめーん完二、枕に鼻血ついちゃった?」

 

「アホか、誰が好き好んでオメー声に聞き耳たてんだよ。」

「俺は、ちょっぴり立てちゃうかもな…聞き耳。」

「クマは、ちょっぴり立てちゃったかな…聞き耳。ナオチャンのおっきさが…とか、ユキチャンの形が…とか、聞こえちゃった!」

クマは適当に話をでっちあげる。

 

 

「作んな、クマ吉!してないでしょ、そんな話!」

「ていうか"形が"って、それ、今考えたの…?わ、私…なんか変わってる!?」

天城は慌てた様子で言った。

 

「気にしすぎですから…というか、踊らされていますって…」

「もー、そんなことより早く滑ろ。」

そうりせがいうと、鳴上の腕をつかんだ。

 

「いこっ、先輩」

 

「…ちょっと待った。」

千枝がそれにどこかの衛兵並にストップをかけた。

「く、久慈川さん?ちょっぴり、あれですわよ?同じ人とばっかり滑り過ぎですことよ?」

「えー、だって丁度いいでしょ?千枝先輩と花村先輩はボードだし、クマと雪子先輩は直滑降ばっかで合わせてくんないし。」

 

「間薙先輩と直斗は完二に教えてもらえばいいわけだし?」

シンは今日はスキーをやるそうで完二に教えてもらうことになっていた。

 

熱戦を繰り広げる鳴上に好意というか恋愛をしている女性陣はそこから激論を始めた。

流石は六股。流石に鳴上もこういった状況に慣れてきたようだ。

冷静に状況を判断して、頭の中を高速回転させているようだ。

 

シンは大丈夫だろうと思い頷く。

 

「…俺たちは先にやっていよう」

「うっす!やりましょうセンパイ!!」

完二は気合充分といった様相だ。

 

「ま、まぁ、ノンビリな」

「お願いします」

 

 

山の中腹でシンと完二、直斗が練習を始めた。

 

 

「…どうだ?滑れそうか?」

「いえ…全く…」

直斗はへっぴりごしでブルブルと震えている。

「ビビってねえでもっと踵開かねえと逆にスピード上がっちまうぞ。

だから膝は内側に入れんだって。」

「でも、これ以上開くと絶対…こ、転ぶから!」

 

「大丈夫だつってんだろ。滑っちまっても俺が止めてやるから。」

 

そんな三人の横を早速、天城とクマが滑って行った。

 

「あれじゃ、何をしに来ているかわからんな」

「つーか単に止まれねぇとかじゃないすか?」

「クマはそうかもな。まぁ、俺たちはのんびりとやるか。スノボーより、俺にとってはスキーの方が難しいようだ。」

 

シンはそう言いながらも、徐々に慣れてはきているようだ。

 

 

 

 

その日はシンと完二、直斗は殆ど、練習をして終わった。

 

 

夜…

すっかり、日も落ち、ロッジ前に皆が集まっていた。

しかも、少し風も強くなってきた。

 

「おっせーな、相棒たち。」

「携帯もつながらないしね。」

「どうしちゃったんだろう。」

 

鳴上とりせ二人で滑りに行ったようだが、どうやらまだ帰ってこないようだ。

 

「…?」

シンが皆とは違う方向を向いた。

そして、携帯電話を取り出した。

 

「…なんだ?…では、今がチャンスということか…

…ああ…そうか、アマラ経絡を通らなければいけない…か」

 

「どうしたんです?」

直斗がシンに尋ねるが、手を前にだし、待てと言う合図を出していた。

 

「ああ。彼女もそれに感づいている?…おそらく。だが、つなげられないのが現状だろう

…ああ、接触してみてくれ…簡単にできるだろう?」

シンはそういって嘲笑すると、携帯を切った。

 

 

「…恐らく、迷っている。」

「えーっ!!!ど、どうするの?」

「といっても、鳴上の事だそれほど遠くには言っていないはずだ」

 

シンはそういうと、ライホーを召喚した。

 

「鳴上悠、久慈川りせを探せ」

「ナルカミ?クジカワ?…わからんホー」

「あー…」

シンはそう唸ると、他の皆を見せた。

 

「この中に居ないニンゲンを探せ」

「ヒホー!!"テイク イット イージー"ホー」

そう答えると、鬱蒼とする森の中に消えた。

 

「わ、私たちも探す?」

「いや、寧ろそれの方が危険だ。あいつはああ見えて優秀だ。すぐ見つかる。」

 

 

やはりすぐに近くの廃屋に居たとライホーから連絡があった。

シンに皆が付いていく。

 

 

「でもよ、この展開だと…ふつーにヤバい(・・・)状況だよな」

「小屋に居るらしいから問題ないだろう」

「ちげーよ…その…なんだ」

「?」

シンは完二の顔を見るが完二も分からないようだ。

 

 

林を抜けると、廃屋のような小さな小屋があった。

ドアを開けようと花村とクマが近づくと。

 

「ちょ…先輩、本気?」

ガタガタと物音がする。

 

「あわああああああ!!!!」

花村とクマがよからぬ想像をして、一気に小屋に突入した。

 

それに続くように皆も入って行った。

 

 

「ななな、なにやっとんじゃーお前らー!アイドルがそんなん、許されませんよ!?」

「ストォォップァァア!!全国が敵んなっちゃうクマァァー!!」

 

鳴上達は花村やクマに気が付き、立ち上がった。

 

「花村先輩…!?それに、みんな!」

酷く驚いた様子でりせは皆を見た。

 

「あれ…服、着てる。」

「このクソ寒みーのになんで脱ぐんスか。つーか花村先輩ら、テンション高すぎだろ。

さっきから何なんスか?」

「それ、口に出して説明しなきゃ、ダメかな…」

直斗は呆れた顔で答えた。

 

シンは鳴上達の後ろにある、テレビに目をやる。

シンには分かった。これがどこか繋ぐ地図になるような、そんな予感がした。

予感というより、確信に近かった。

 

そして、念通を始める。

 

『おい。バアル』

『はい』

『…運命とやらを信じるか?』

『さぁ?興味もありません。我々は常にやりたいことをやってきましたので。

それが例え、あの神の意志だとしても』

『…これは運命なのだろうな…ターミナル生成を頼む。』

『了解した。主よ』

 

 

「うお!!!」

突然現れた、バアルに皆が驚いた。

 

「失礼するぞ。」

バアルは鳴上にそういうと、テレビに触れる。

 

「シンも気が付いたか?」

「これは運命だよ鳴上。Deus ex māchinā(機械仕掛けの神)だ。」

シンはそう答えるとバアルと話を始めた。

 

「デウス…エ…なんだって?」

花村は首を傾げる。

「デウス・エクス・マキナです。簡単に言ってしまえば、どんでん返しです。しかし、…全く意味が分かりません。何がどんでん返しなのでしょうか。」

 

シンは話が終わったのか、立ち上がり腕を組んだ。

 

 

「さて…どこから話すべきか…」

「全部頼むぜ?分かりやすくな。」

シンは手を擦り合わせると、何かを始める様子だった。

 

 

 

「事件はすべて解決し、『アメノサギリ』を倒し、全てが元通りになった。」

「ああ。そうだけど…」

「だが、一つ欠けていることをお前たちは知らない。…正確には"覚えていない"というべきか。」

シンは白い息を吐いた。

 

「え?何かあったっけ?」

「うーん…」

「…曖昧なものだ、人の記憶というのは」

「何がいいたいんだ?」

鳴上がシンに言った。

 

「…繋がったぞ」

「少し強引だが、時間がないのは事実だ…」

「ちょ、詳しく説明してくれないと」

「悪いが時間がない…ついてから説明する」

 

シンはそういうと、バアルの生成したターミナルで消えた。

 

「…どうするんだ、悠」

「…シンのことだ。何か大切なことなんだろう。」

 

「行くなら早くしろ。あそこまで離れるとアマラはとても不安定な場所だ」

バアルはそういうと、ターミナルに寄り掛かり、ワインを飲む。

 

「とりあえずいきやしょう。ここに居たって埒があかねぇ」

完二はそういうとターミナルで移動した。

 

「…そうですね。突然の事で何がなんだか分かりませんが…仕方ありません」

直斗の言葉に皆が頷いた。

そして、皆がターミナルで移動した。

 

 

 

 

 

「…開いたぞ」

ルイがベルベットルームで言った。

 

「…こうして力を借りるとは思いませんでした。」

「私もだ。感謝することだ。混沌王に」

「…」

 

マーガレットはそう答えると、ターミナルで移動した。

ルイもそれに続くようにターミナルを手で回した。

 

 

 

鳴上達が目を開くと、そこには真っ黒な透明な床の中を無数の赤い玉が一定方向に流れて行き

少し濁ったような金色の壁に囲まれた通路だった。

 

しかし、入った時から感じた不快感が強烈であった。

ここに居たくない。まるで服の中を何かが這っているような、そんな感覚があった。

 

「ここはアマラ経絡。本来は直接つなぐつもりだったが…少しばかり色々と問題があってな。」

シンはそういうと、歩き始めた。皆もそれに付いていく。

ゾロゾロと歩いている中、千枝はりせに声を掛けた。

 

「大丈夫?りせちゃん」

「う、うん。ここ、すごいヤバい感じがしてて、気分が悪くなりそう…」

 

「この下の赤い玉は何クマか?」

クマは興味深そうに、床の中を流れる赤い玉を見ている。

 

「マガツヒと呼ばれるものだ。悪魔のエネルギー源みたいなものだ。」

シンは淡々と歩きながら説明する。

 

「…でも、これスゴい嫌な赤だね…濃くて…」

天城は少し困惑した表情で言った。

 

「意識存在が持つ精神エネルギーをマガツヒという。これは意識存在に苦痛を与えると放出されるものだ。」

「苦痛…ってことは」

「肉体的苦痛、精神的苦痛。拷問が一番手っ取り早いか。」

「…」

「事実、俺の友人は吸われすぎておかしくなった。最悪、吸われすぎると死に至る。

探査用ペルソナのりせは不快感を覚えるのだろうな」

「うん…なんていうか、テレビの中よりもっと、タチが悪いカモ」

 

「少しばかりの辛抱だ」

「大丈夫か?りせ」

鳴上がフォローに入る。

「ダメそう…背負って先「わ、私が背負うよ」えーっ…」

笑顔のりせを遮るように千枝がそういう。

 

「元気そうで何よりだ。」

 

シンは別れ道を左に曲がる。マガツヒも左の方へと流れている。

 

「これは、どこに流れてるの?」

千枝は不思議そうにシンに尋ねる。

「昔はアマラ神殿、ナイトメアシステムなど様々な場所に分散していた。しかし、今の殆どは俺の住む『アマラ深界』の宝物庫に流れるようにされている。ターミナルと同じ原理で集めている。だが…」

シンはそういうと、足を止めた。

 

「ここらはどこへ行くのかは知らん。アマラ深界からは遥かに遠くだからな。いわば、ここは無限廊下」

「ふーん…」

 

シンとともに再び皆が歩き始める。

 

「そういえば、何がデウス・エクス・マキナなのでしょうか。」

 

 

「…正直、これはタイミングが良すぎる。アマラ経絡は常に変動している。無論、お前らの世界と俺の世界を繋ぐように安定させることも可能だ。」

 

「だが、今回のところは元々閉じられ、開かれることのない世界だった。その世界の入口を無理矢理繋げたが、不安定な状態が続いていた。」

 

シンが左に曲がろうとすると、突然、その通路の先が消えた。

「ごらんの通りだ」

シンは肩をすくめると、右へ戻った。

 

「ここで、迷ったらどうなるスか?」

「永遠に迷い続ける。息絶えるまで。あるいは殺されて悪魔の餌になるか…」

「そ、それは最悪だ」

千枝はブルっと体を震わせた。

 

「その絶望的な状態でたまたま、先程安定し始めた。

しかし、道が変わってしまい、前に行った行き方は出来なくなっていた。だから、再びこうして、アマラ経絡を通らなければならない。」

 

「しかし、闇雲に歩くわけにはいかない。そんなとき、あのテレビが反応した。そして、道を示した。

あのクソ野郎の仕業でなければなんだというのだ。

まさに、解決困難な状況をクソ野郎が一石を投じたらご覧の通り、いとも容易く行けてしまう…」

 

シンは嫌そうに語る。

 

「あの状態のテレビはあくまでも、道標的な意味合いしか無かった。そのまま入ったとしても、恐らく拒絶され、入ることはできなかった。

だから、俺たちがこうして、それを辿りその世界の入口まで足跡を残さなければならない。

それと同時に、接続の安定化もこれで可能な訳だ。」

 

シンは行き止まりの壁の前で止まった。

 

「ちょっと待ってください。ということは、テレビの中の世界へ向かっているわけですか?」

直斗の質問に皆がそうだと思った。

 

バアルがテレビを調べていたのもそれが理由だと理解した。

 

「ああ。そして、場所さえ分かってしまえば、彼女が繋ぎ一定時間なら安定化してもらえる。」

 

 

「!?」

 

突然、目の前の壁が無くなり、光が射してきた。

そこから1人、人が歩いてくる。

 

「こんにちは。」

「…うわ…すげぇ、美人」

花村は思わずため息を漏らした。

 

「見とれてる場合じゃないって。誰?シン君か鳴上君の知り合い?」

千枝が鳴上に尋ねると鳴上は頷いた。

 

「…ご挨拶をしたいところなのですが、時間がないようなので先を急ぎましょう」

「とにかく今は、先にその場所に着くことが重要だ。」

そういうと、マーガレットとシンは歩き始めた。

 

マーガレットと共にルイが付いてきた。

 

みんなはとりあえず時間がないことだけを感じ取り歩き始めた。

 

 

 

「…掃討を誰にやらせた?」

シンは周りを見ながらそう言った。

 

「真面目が取り柄のやつだ。」

「クー・フーリンか…あと誰だ?」

「多過ぎて分からんな。溜りに溜まっている連中が大暴れしていたことくらいしか、私は知らないからな」

 

シンには容易に想像がついた。

概ね、セイテンタイセイやアルシエルなどの破壊神や魔王が出て行ったのが、容易に想像がつく。

 

シンは何もない、壁の前で立ち止まった。

 

「ん?どうしたんだよ。」

「開くぞ…」

 

シンがそういうと、まるで壁が嘘のように消えた。

先ほど、マーガレットが入ってきた場所のように光が射していた。

 

 

「さて、パンドラの箱になるか…俺にとっては楽しみだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

肝心なことを忘れてる、安全な場所から離れているけど、記憶は私を逃がそうとしない。

 

「…思い出…」

 

嘘だらけの自分をうめつくす。

呼ぶ声に安心して目を開けるとまた自分が作った世界の景色。

私は再び目を閉じる。記憶の中で私はキミを見つける。

 

記憶が私を縛り付ける、あの楽しい思い出に私を縛り付ける。

 

「…何期待しちゃんてんだろ…バカみたい…」

『マ…』

「!?」

『マ…』

「…うるさい!!」

 

耳を塞いでも聞こえてくる声。

私を記憶の中で呼んで、またあの思いを蘇らせた。

私が言いたいことは、もう思い出なんて忘れてしまいたいということばかり。

 




Forgottenはマリーの心情を思い、題名に付けました。
でも、未練があったりなどの気持ちを最後に少し抽象的に書いてみました。

発想は有名海外アーティストの曲名からです。
最後のものちょっとその歌詞を変えただけのオマー…もほ…パクリです。

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