Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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第57話 Phantom 12月7日(水) 天気:曇

「記憶が…記憶が歪んでいく…

悪夢は見慣れて、真理もないことに気が付いた。

世界に絶望して、僕はこのまま?」

 

シンのシャドウ?はそういうと、未だに戦闘態勢。

だが、目を閉じている。それに、今のシンよりも酷く幼く見える。

雰囲気が明らかに違う。こちらのほうが優しい雰囲気がある。

 

「…シンのシャドウかこりゃ。だとしたら、ヤバいかもな」

花村は仕方なく構える。

「でも、本物のシン君がいないよ?」

天城はあたりを見渡すが、何もない。

と、天城に魔法が飛んできたが、完二が防ぐ。

 

「四の五のいってると、やられちまいますよ!センパイ!」

「う、うん」

完二の言葉で天城も構える。

 

 

「本物の間薙センパイより全然弱いよ!っていうより…弱すぎるかも…」

 

 

「…歯車が狂いだした。」

シンのシャドウはそういうと、飛び跳ね鳴上に殴りかかった。

だが、それは素人の動きで動きも遅い。

鳴上が避けるのは余裕であった。

 

鳴上はバックステップで避けると、剣で斬り付けた。

だが、それは感触がなく、霧のように消えた。

 

 

『このまま覚めない方が良い…覚めるな、幻影の中から』

そう声が響くと、一瞬で鳴上達の前に現れた。

 

「厄介すぎるって!」

千枝はそういうと、『ゴットハンド』をシンのシャドウに放つ。

だが、感触がない。

 

再び鳴上達の前に現れた。

「…霞む…僕の空隙(くうげき)は埋められない。僕は…必要ないのか!」

そういうと、頭を抱えて『マハラギダイン』を唱える。

 

「あぶねっ!」

皆は何とかそれを避ける。

 

「来い!ヤマトタケル」

直斗はメギドラオンを放つがまた、まるで感触がない。

 

 

 

 

『…僕は…僕は…気付いた。見えなくなった…もう…何も見えない。何も感じたくない。』

 

 

 

 

「!!」

『み、みんな!』

 

先ほどまで見えていた白い空間が、シンのシャドウから黒い霧が出され、一瞬で辺りが真っ暗になり何も見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

真っ黒な空間。光も何もない。ただ黒が続いている。

 

鳴上はその黒さに思わず身震いした。

深淵。まさにその言葉が相応しい。

何もない。本当にただただ黒い空間なのだ。

自分の姿さえ見えない。

 

鳴上は口を開き声を出し誰かを呼ぶも、声にならない。

 

だが、そんな空間に声を聞こえた、その声はどこかで聞いた覚えがある。

 

 

「…悠、大丈夫。これは"幻影"、幻なの。」

「…誰だ?」

鳴上は声をもとを探すが見えない。

そして、その声が誰なのか思い出そうとしたが、思い出せない。

 

「いいの!思い出さないで!…これでいいの…それより、悠。見えてるでしょ?」

「…なにが?」

「あなたの倒すべき敵が。目を閉じれば見えるはず…」

「…」

 

鳴上は目を閉じた。先ほどと変わらない暗闇の中だが、うっすらと人が見える。

それは白く頭を抱えている姿。

 

「…あとはどうすればいいかわかるでしょ?」

「…ああ!ありがとう、マリー」

「…」

 

その声で鳴上の不安は少しだけ、晴れた。

鳴上は刀を握り絞めると、一閃その人の形に見える何かを斬った。

 

 

すると、まるでガラスでも割れるような音がして、白い部屋に戻ってきた。

 

「うお!まぶしっ!」

鳴上は仲間の声で戻ってきたのだと気付いた。

 

『大丈夫?みんな!』

りせの声もハッキリと聞こえる。

 

 

「…」

シンの影は鳴上に斬られてもまだ立っていた。

感触はあった、だが、まだ消えない。

 

「…どうして、間薙センパイがいないのに、シャドウだけが居るんだ?」

完二がシンのシャドウを見ながら言った。

 

「…このシン君のシャドウおかしいクマ。なんていうか…空っぽクマ」

「なんていうか…悲しいそう」

クマとりせは悲しい顔でシンのシャドウを見た。

「…どういうことなんだ?」

 

 

皆がシンのシャドウを見ると突然笑い出した。

そして、シンのシャドウが目を開くと、目から血が流れ出した。

 

「アハハハハハハハ、誰も…誰も彼も死んじゃった!!!

誰も、僕を視てはくれない。だって誰もいないんだから!アハハハハ!!

誰かいないの?何も見えないんだ!幻なら覚めて!

僕は…僕は…ひ…と…り…?

認めてくれる人も、必要としてくれる人も、誰も誰もいない…

…僕は…またあのくらい世界に戻るのか…?

嫌だ…戻りたくない…

僕は…僕は…ただ退屈でいたくなかっただけなんだ!」

 

頭を抱えて倒れ込む。

 

「僕は生き残ることに選ばれた?

…違う。死ぬ事に"選ばれなかった"んだ…

僕は…余り物だ…余分な…存在?

僕は…独りだ…」

 

 

 

 

 

 

 

「…だからどうした」

 

一陣の黒い疾風が鳴上達の前に現れ、シンのシャドウの首を掴みあげる。

それは刺青の入った本物のシンだ。

 

 

あの黒い世界のように黒い黒い唯唯、黒い雰囲気を持った紛れもない間薙シンだ。

 

 

そして、シャドウのシンを床に叩きつけると馬乗りになり、無表情で顔を殴り始めた。

重い重い一発一発がシャドウのシンの顔を歪めていく。

 

「『鳥の血に悲しめど、魚の血に悲しまず。声あるものは幸いなり。 』

お前が声があるから、悲しまれるのだな。」

シンはそういうと、口を無理矢理開け、シャドウのシンの舌を引きちぎった。

普通なら出来ない。

だが、異常な指先の力と引っ張る力がそれを可能にした。

 

そして、再び殴り始めるシン。

「…そんなことは、知っている。

オマエの言っていること…すべて知っている。

理解しているつもりだ。」

シンは渾身の力を込めて殴り続ける。

 

「ただ、勘違いしている。

お前は俺ではない。お前はもう置いてきた俺だ。

この平和で退屈で平凡で何の展開もない、何もない世界でクソ野郎の手の上で踊り続けるのはこれ以上ウンザリだ。」

シンは殴る手を止めた。

 

「お前は俺じゃない。思い出の中から消えてくれ。」

「…」

 

シャドウはシンに本物のシンの顔に触れ、問いかける。

その手は冷たく、死人のようだ。

口をパクパクとさせる。シンにはそれがなんと言っているか分かった。

 

 

何故なら、それはコイツから聞き飽きるほど聞いた言葉だ。

 

 

『…コレハカワリマスカ?』

「…変わらない。永遠に…変えようが無い。」

 

 

 

 

 

 

シンは無表情で自分のシャドウの言葉に答えた。

シンのシャドウは最後に笑みを浮かべると、自分で自分の首を絞める。

苦しそうな顔で更に自分で締め上げる。

本物のシンはそれを手伝うようにシャドウのシンの手を握り締め上げる。

そして、苦悶の表情のまま、動かなくなり霧のように消えた。

 

 

 

「…」

皆はそれを悲しそうな目で見ていた。

それは、これがシンの本心なのかと思ったからだ。

何よりも、初めてシンの弱い部分を垣間見えたからだ。

 

いつも、淡々と何かをこなし、常に氷水でも被ってるが如く頭は冷静で、無表情だ。

自分たちのように、将来の不安もなく、気ままな生活をしている。

 

羨ましくもあったが、彼の過去を考えるとそれ相応の事だと思えた。

 

そんな彼のシャドウは優しい雰囲気があったものの、どこか狂気的だった。

言葉の意味も分からないし、他の人のシャドウよりも違う意味で過激だった。

 

 

そして、どこか空っぽで悲しそうな佇まいだった。

 

 

そんなことを考えている面々。

シンは立ち上がり、膝を払い息を吸い、ゆっくりと吐き出した。

 

「…これが現実なんだ。俺にとっての現実はボルテクス界であって、こっちではない。

あれはこっちの世界に来たから生まれた"シャドウ"…。

名称上そう呼称しているが、シャドウというよりは、人間的な俺だったわけだ。俺の幻影だったわけだな。

迷惑をかけた。」

 

「…どうしても、"ボルテクス界"にいなきゃいけないクマ?

クマみたいに外に出れないクマか?」

「そ、そうだぜセンパイ。あんなところにいる必要はないっスよ!」

クマや完二はシンを見て言う。

 

シンは暗い表情で言う。

 

「…幻想に逃げてしまったら、俺はオレが信じてきた事がすべて曲げられてしまう。

俺は何の為に友人を殺して、世界を変えた。

それは俺が信じる自分の世界を作るためだ。

ジャンプしてる最中で降りることは許されない…いや、オレが許したくない。

弱い俺は…もう置いてきたんだ。」

 

シンがそういうと、辺りの風景が崩れていく。

そして、いつものジュネスの入り口と繋がっている広場へと戻っていた。

 

 

「…幻想は所詮、幻想だ。真実はいつも辛く苦いものだ。

さっきの奴の言葉を真に受けるな?あいつと俺は違うやつだ。」

シンはそういうと、広場に座った。

 

 

「足立はこの先の部屋に居る。」

そういって、指を指しただが、誰も動かない。

 

シンはため息を吐くと言う。

「やっとつかんだ真実だろ。早くしろ」

「…シンはどうする?」

 

 

鳴上はシンに尋ねる。

 

 

 

 

 

 

「俺は…今後どうするか考えている。」

 

 

 

 

 

 

シンだけになった広場にルイが現れる。

シンは目を閉じたまま、動かない。

 

「…無様だな」

「知っている」

「どうして、今更シャドウなど出た?」

「恐らく、長時間この世界に居過ぎたせいかもしれん。

実時間は1日以上だろう。」

シンは淡々と答える。

 

「…あれはいわば人間のお前か…さな」

ルイが話をしようとすると、シンが口を塞いだ。

 

 

 

「お前が言わなくてもわかっている。俺は昔の人間の俺とは違う。

俺はここで、この世界で少しだけ良い学生生活を送れた。

まともな、青春というやつだ。

考えられなかった。俺が友人と海に行くなど…」

シンはそういうと少しだけ笑った。

 

 

「…昔の俺は自分の事を"僕"と言っていたのだな…

どこで変わった…」

シンは思い出すように言う。

 

 

シンは数秒、思いに耽る。

 

「…後は、この霧まみれの世界の創造者でもぶち殺して終わりにしようか。」

シンは立ち上がると、伸びをした。

 

「まずは見つけなければな」

「ああ。」

 

 

 

 

 

鳴神たちが部屋に着くと足立が拍手で迎えた。

「いやぁ、本当に追い掛けて来ちゃうなんて、君達、正義感強いねぇ」

「…てめぇ…」

花村は今にも殴りかかりそうな表情で足立を見る。

 

「足立さんが山野アナをテレビに入れたのか!」

「あれは事故だよ。聞きたいことがあったから?ロビーに呼んだんだよ。そしたら、たまたま落ちちゃった…それだけ」

足立は皮肉そうな笑みで鳴上達をみる。

 

 

「小西先輩を入れたのもてめぇか!」

「…ああ、アイツ小西っていうんだ。

小西ね。アイツは取り調べ室のテレビは小さいけど、細身の女子高生だから入っちゃったよ…

…ったく、何が女子高生だ。

世の中クソだな。

僕が学生の頃は、勉強しかさせてもらえなかったっての…」

足立はぼやくようにいう。

 

「許せねえ…!」

 

「おいおい、僕の身にもなってくれよ。

テレビの中が危険だとか知らなかったし、殺す気なんて無かったんだ。

て言うか、どうせあいつら自分の方から生田目をたぶらかしたに決まってる。

議員秘書は、そのまま行きゃいずれは議員だ。

真由美も女子高生も、そこ狙いだろ?

自業自得さ。僕、なんか悪いことしてる?」

 

「ふざけんなッ!こっちへ人を入れりゃ死ぬって、

山野真由美んときに知っただろ!!」

「僕は入れただけだよ、死ぬなんて知らなかったなぁ」

足立はそういうと笑う。

 

「小西先輩の後は何をした」

鳴上は足立に尋ねる。

 

「何もしてないよ、後は生田目だろ?

生田目の奴は、小西って子の死体が上がった後、夜中に警察に電話してきてさぁ。

まぁ、ちょっとだけ背中を押しただけなんだよねぇ」

足立は笑いながら答えた。

 

 

「ふざけんなッ!」

完二が足立に飛びかかるが、足立は霧のように消えてしまった。

 

 

 

 

『アハハハハッ!馬鹿だねぇキミ。僕はこの世界に好かれてるみたいでね。そんなことも出来るだ』

「…信じてたのに足立さん!」

鳴上は拳を握り締め悔しそうに言った。

 

 

 

 

 

「…馬鹿だね。キミも。

そっちが、勝手に期待して、勝手にそういう人間だって決めつけてたんじゃない。

それで、勝手に失望して、僕の責任にするのかい?

それは、お門違いじゃないかな。」

「…」

鳴上は答えられなかった。

 

「このままこうしていてもいいんだけどね。

仕方ないけど、入り口作ってあげるよ。

じゃないと、僕、殺されちゃうから…アハハ!」

 

足立の声が消えると、大きな穴が壁に空いた。

 

「みんな!終わらせるぞ!」

「おう!もちろんだ!」

 

 

 

 

 

「…これでいいのかい?」

足立は瓦礫の上に座るシンに言った。

「大変結構」

「でも、キミの目論見ってやつはなんだい?春の事ばっかり聞いてさ。」

足立は暇そうに銃を回す。

 

「鳴上悠、生田目太郎、足立透。

この3人には共通点がある。」

シンは指を3本立てる。

「それはテレビに入る前から、テレビに入る能力を持っていた。」

「確にそうだねぇ。って事は、君が追ってるってやつが、僕達3人に能力を与えたってことかな?」

「…オトボケ刑事は随分と頭のキレる人物だ」

その言葉に足立は鼻で笑った。

「バカを演じるのは楽だからねぇ…それに、それの方が楽だから」

 

「違いない。

…それで、その3人と恐らく何かしらの形で接触しているはずだ。

それぞれが街の外からやって来た人間。

街の内側と外側。これは大きな意味を持っている。」

 

「インドから香辛料が運ばれ、西洋人の生活が変わったように、日本で開国後大政奉還、そして、明治維新。

第二次世界大戦後の世界のパワーバランス。

全ては自国あるいは、個人単位でも起こりうる可能性。

外から来るものは、内側を激変させる可能性がある。」

「可能性…ねぇ。」

足立は銃を回す手を止めた。

 

「つまり、お前たちは黒船。可能性を見るために仕組まれた、役者。

お前が勝とうが、負けようが、そいつには何の影響もない。」

だが、とシンは耳に指を突っ込みながら言った。

 

 

「そういうやつほど、ツメが甘いしふんぞり返って俺の存在に気がついていない。

いい証拠の悪魔が街にいようとも何も行動をしてこない。

ルシファーや、ニャルラトホトプ、バアルという超上位悪魔が居ても何もしてこない…」

シンは耳に突っ込んだ指に息を吹きかける。

 

「そいつは気がつくべきだった。

俺が来た時点で、脚本通りに行かなくなると。」

 

 

「…万が一、僕が負けたらさ」

足立はそういうと、シンに銃を向けた。

 

 

 

 

 

 

「そいつ、殴っといてよ。」

 

 

 

 

 

 




シンのシャドウなんで、クレイジーな感じにしたかった。
あと、ほんとに足立の口調が不安だ。
手直しするかもしれません。

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