Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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第50話 Yearning 11月7日(月)~10(木)

皆が祈る気持ちで、面会謝絶の部屋の前に居た。

その中では、堂島菜々子が必死に生きようとしている。

 

鳴上達は"クニノサギリ"を倒し、生田目は警察に連れて行かれた。

 

しかし、菜々子は危ない状態である。

皆、気が気でない。

 

「ナナチャンはまだ小さくて、みんなみたくもう一人の自分、ちゃんと出なかった…

その上、アイツの暴走にも巻き込まれて…大丈夫だといいんだけど…」

クマは心配そうに言った。

 

「てか、普通の医者に治せんのかよ…」

花村は心配そうにうろちょろと歩き回る。

 

「よよよよ…ナナチャンが心配クマー!」

 

「けど…こっから先は、あたしたちには、どうにも出来ないよ…」

 

しかし、皆が不安そうな顔をしているなか、シンは窓の外を見ている。

 

「…お前は相変わらず、なんつーか落ち着いてんな。」

花村はため息を吐いた。

 

シンは無言で肩をすくめた。

 

「…生田目という"運送屋"の存在…菜々子ちゃんが狙われる可能性…

いつも思う…もっとマシな推理が出来てもよかったはずなのに…!

そうすれば、菜々子ちゃんはこんな目に遭わずに済んだのに…」

 

直斗は悔しそうに言った。

 

「んなの…俺だって同じだ。

あいつの前で、あと一瞬早く反応出来てれば菜々子ちゃん、無事だったかも知れないのに…」

「あたし…ホント自分がやんなる…いっつもイザって時、オロオロしちゃって…」

「私も…何もできなかった…」

「アイツの様子が何か変って…私、もっと早く気づくべきだったのに…」

皆、各々が悔しさをにじませていた。

 

 

「生田目の言い分なんて、聞いてる場合じゃなかったんだ!

あの時、僕が余計なことを言わずに、すぐに菜々子ちゃんを助けていれば!

そうすれば…こんな事には…!」

 

「誰のせいでもない」

鳴上は皆に言った。

 

「でも、僕は…」

「ハァ…やめだ。弱音はその辺にしようぜ…

オレらがやんなきゃならねえのは、ここでピーチク言ってる事か?

テメェを責めて、キズ舐め合って…そんであの子の為んなんのか?

…今は信じるしかねえだろ。過ぎた事言ってんな。

シャキッとしろ…直斗!」

 

「ごめん…キミの言うとおりだ。」

 

「悪ィのは全部、生田目の野郎だ…アイツはキッチリふん縛ったろ?

それに、菜々子ちゃんだって、救い損ねたワケじゃねえ。」

 

「うん…そうだよね。」

天城は頷いた。

 

「ナナチャン、早く元気になるように、クマ、毎日お見舞いに来る!」

「それが、今の私らにできる事…だね。

なによ…完二のくせに、ちょっとだけカッコイイじゃない。」

りせは完二に向かって言うと、完二は恥ずかしそうに頭を掻いた。

 

 

「あれ、キミたちまだいたの?」

足立が疲れた様子で、鳴上達に声を掛けた。

「足立さん、あの…何か、分かった事は…」

天城がそういうが、足立の顔はどうも曇っている。

 

「堂島さんが今、担当の先生と話してるけど詳しい事は、色々検査してみないと…

菜々子ちゃんもだけど、容疑者がなあ…聴取始められるの、いつになるんだか。

ま、とにかくもう遅いから、早く帰りな。

君らまで倒れちゃダメだよ。」

 

「そうだな…今日んとこは、俺たちも帰るか…

菜々子ちゃんは元気んなって戻ってくる。

だから俺らも、暗くなんないでおこう。」

花村は足立の言葉に頷いた。

 

 

「菜々子ちゃんの退院のお祝い、何にしよっか?」

「早ッ!…早くね?」

「ジュネス貸切りパーティとか。」

「スーパー貸し切るって、意味分かんなくね?」

 

そんな会話をしながら、皆は歩いていった。

 

 

 

河原…

 

日は既に落ち、月が河を照らしていた…

 

「…」

鳴上達は話しながら、土手をあるいている中、シンは少し離れて月を見ながら歩いていた。

 

「お、なんか黄昏てるね。シン君」

そんなシンに千枝が声を掛けた。

「別にそういうわけではない。ただ…昔から月というものが好きで…よく眺めていたことを思い出した」

 

「うーん…私は、おなかを膨らませたいけど」

「千枝なら、御団子でも食べたらいいんじゃないかな?」

「お前の場合は肉団子だろ…」

「し、失敬な!」

千枝の言葉に皆が笑った。

 

「…」

シンは感慨深い顔をしながら、再び月を見る。

 

 

「そういえば、月にはウサギがいるなんて話があったスね」

「え!?いるクマか!?」

クマは驚いた表情で言った。

 

「いねーよ!呼吸できねっての!」

「花村は夢がないねぇ…」

花村のツッコミに千枝は呆れた顔で言った。

 

「…lunatic」

「え?」

千枝はシンの言葉を聞き返した。

 

「Lunaticは狂気じみたであるとか、狂人を意味するが、それの語源はLuna。つまり、月だ。」

「へぇ…そうなんすか」

「満月の狼男の話を考えると何となく、納得できるな。」

シンはそういった。

 

「ということは、シンクンは狼男クマね!」

「もう、突っ込むのがめんどくせぇよ…」

そういうと、花村はため息を吐いた。

 

 

 

 

 

旅を続ける。

幾つもの路地をさすらい。

いつしか道は見えなくなっていく。

 

 

 

 

 

そんな日から彼此、三日たった放課後…

直斗に呼び出されたシンは高台に来ていた。

 

「あなたも人が悪いですね」

「?」

「分かっていて、あんなことを言ったんですか?」

そういうと、あぶりだされた文字が出た白い紙を取り出した。

シンと直斗は椅子に座った。

 

「結局、お祖父さまは、僕に大切なことを思い出させようとしたということでした。

そのために、僕が作った探偵七つ道具を探し出させたんだと分かりました。

それと、お祖父さまがあなたにヨロシクと言っていました」

 

「だと思っていた」

シンはため息を吐いた。

 

「執事が態々、あんな暴挙を一人でやるはずがないからな。ともなれば、頼まれたに違いないだろう。そして、そんなことをするのはお前の事を良く知っている人物。

手口は子供じみていたから、実にお前に効果的だったのだろうな。」

 

「…恥ずかしいですが、確かにそうです」

直斗は帽子を深く被り恥ずかしそうに言った。

 

「…僕は侮られないように、見下されないようにって頑張ってきたんです。」

「見事に見透かされていたようだがな。そこは流石というべきか…いや、褒めるべきだな。」

「でも…僕は勘違いしていました。僕には初めから居場所があったんです。

そして、それを増やしてくれたのはあなたや、鳴上さんたちなんです…」

直斗は真剣な顔で言った。

 

 

「…だ、だから、その…いつまでも僕の目標で居て欲しいんです。

僕は女だし、あなたとは違う。でも、"探偵"としてあなたを目標にしたいんです」

 

「…好きにするといい」

シンはそういうと、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。

直斗もそれを真似するように突っ込んだ。

 

「まずは行動からです」

キラキラした目で直斗はシンを見た。

「…そういう、子供っぽいところから直した方が良い」

シンは肩をすくめた。

 

 

 

「…それで、話は変わりますが。間薙先輩はどうおもいますか?」

「救い=殺しでないことは確かだろうな。事実、あいつが殺しに来なかったことが証拠だと思う」

「…あるいは、テレビに入れることが救いなのかもしれませんね」

「まだ、あまりにも情報が少なすぎる。あいつに会ってみなければ分からないことが多すぎる」

シンはそういうと、立ち上がった。

 

 

と、シンの携帯が鳴った。

『鳴上 悠』と画面に表示されていたので、出ることにした。

 

『菜々子はまだ不安定な状況だが、今日は特別に面会できるそうだ。』

「…わかった。直斗には伝えておく」

『助かる。俺は病院に向かってるから…』

「わかった」

 

そういうと、シンは電話を切った。

直斗にそれをいうと、病院に行こうということになった。

 

 

「…」

直斗は恥ずかしそうにバイクの後ろに乗る。

シンは特に何も考えずに乗っているが、相変わらず直斗としては気が気ではない。

どうしたら、いいのか。何を話したらいいのか、もう頭の中は何をしたらいいのかわからない。

 

 

信号で止まる。

「ああ、ああの間薙さんは好きな人とかいるんですか?」

「は?」

突然の質問にシンは驚いた声を出す。

「え、あ、いえ、なんでもないです」

 

 

「…いたよ。殺されたけど」

「え?」

「子供の頃に一回だけな。

自分よりはるかに年上で、俺にとってはそれは救世主の様な人だったのさ。その人のおかげで俺は少しだけ、深淵の底から上がれた。

…だが、突然いなくなった。そして、再び前に現れたけど、あの頃の人とは変わってしまっていた。

それで、俺の恋はおしまい。それに、それを好きと言っていいのかさえ不明だった。

恋というにはあまりにも、お粗末だ。」

 

「それって…あの高尾という女性でしょうか。」

「そういうことだ。」

「…なんだか、悲しい話ですね。」

直斗の回答にシンは少し笑う。

 

「悲劇というよりは、今ではまるで、ファンタジーの喜劇だな。その位、ありえないの話だし、もうどうでもいい笑い話さ。

当時の俺には兎に角、居場所が無かった。

その居場所を与えてくれたのは、紛れもなく先生だった。それだけの話だ。」

 

「…似てます…僕と先輩は」

「…そうかもな」

気が付くと、直斗は自然と落ち着いていた。

落ちないように、シンに抱き着く。

耳をすませるとシンの体からは何も音がしない。

心臓の鼓動も血液の循環の音さえ無い。

 

しかし、少しだけ温かい。

 

それが、風で寒いバイクには丁度良い温かさであった。

 

「…」

直斗は何も言わずに、ギュッとしてしまった。

「?」

シンは首を傾げて、納得したようにバイクを飛ばした。

 

 

 

 

 

 

バイクを降りた直斗は終始恥ずかしそうにしていた。

シンはそれが不思議だった。

 

てっきり、バイクに乗っているのが嫌なので、締めつけを強くしたのかと思ったがどうやら、そうではないと察した。

 

そして、シンはまるで首を傾げる犬のような気分で、頭の中をフル回転させ、何故そうなっているのか考える。

だが、残念ながら分かるはずもなく、シンも思考迷路をさまよっている。

 

終始無言という、不思議な状況で菜々子の病室前まで来た。

 

すると、皆もやはり来ていた。

しかし、さすがに大勢で押し寄せても、少ない人数で何回かに分けて、行くことにした。

 

皆、それぞれが病室に入り、励ましの言葉をかける。

だが、反応はない。

 

シンは淡々とそれを見ていた。

 

皆が出たあとに、シンは菜々子の近くへと行く。

 

「…これを持っているといい。」

シンはそういうと、不思議な色をした欠けたような石に紐が通してあり、それを菜々子の手首につけた。

 

無論、反応はない

 

「…未来は君の中だけにあるべきものだ」

 

シンは呟くようにそういうと、シンは病室から出ていった。

 

 

 

 

 

結局、また、皆で帰ることとなった。

 

いつもと変わらず、シンが皆の後ろを歩いていると、クマが話しかけてきた。

「ナナチャン大丈夫クマか?」

クマは不安そうな顔でシンに尋ねる。

 

「…大丈夫だ。お前が強く願えばな。」

「…分かったクマ。」

クマはそう答えると笑った。

 

 

 

 

 

夜…

月夜の光に照らされる、眠っているシンの横にルイが現れる。

 

「…衝撃の行動だな」

ルイはシンにそういった。

「本当に“ヨミノタカラ“にマガツヒを貯め、砕き割ったモノを人間に渡すなど…」

「あんなガラクタ、もういらない。

それに…ある種の反逆さ。神があの子を殺す気だとするなら、ただ、俺は俺の気が赴くままに行動しただけだ。」

シンが目を開けると、その瞳は金色に光っていた。

 

「…お互い暇なのだな」

「今の俺は何にも縛られないからな。好きなようにやるさ。」

シンの言葉から、数秒沈黙が流れた。

 

「なるほど…それが本来の目的か。ついでに偽神まで釣れれば儲け物ということか。」

ルイは鼻で笑うと、シンは肯定もせず、否定もしなかった。

 

「これで釣れなければ、本当にただ、傍観しているだけなのだろうな。」

「違いない」

 

ヨミノタカラ。

嘗て、創世の時に使われた、簡単に言ってしまえば、膨大なマガツヒを貯めていたものだ。

元は勇がアマラの神殿で手に入れたモノで、マガツヒを貯めていた。創世後、空になっていたが再び満タンにしていた。

 

しかし、出てこない偽神に対して業を煮やしているニャルラトホテプが何かないか?と訪ねた時に、思い切って

それを持っていくことを、提案した。

しかし、あまりにも強大なエネルギーの為に運び出すのが困難だと判断された。

 

皆が知識を出し合い、どうするかと話してあっていた時に、シンが来て。

思いっきり殴った。

 

だが、流石に一撃とはいかず、『乱入剣』という名の手刀を何発も当てると砕けちった。

そして、その一部を菜々子に渡した訳だ。

 

欠片といえども、そのエネルギーは凄まじく、そこら辺のパワーストーンよりも、何百倍もの効果があるのは確かだ。

 

シンの見立てでは、体力的なものもそうだが、精神的な問題があるようにも見えた。

それ故に、シンでも治すことは困難だ。

 

だが、目に見るほどの回復があるかと言われればそういうものではない。

もっと、別の使い方があるのだ。

 

シンはあくまでも種を蒔いたに過ぎない。

 

それを生かせるかは…可能性のほうが大きいだろう…

 

 

 

 

 

「…肩入れするな、お前は」

ルイは鼻で笑う。

「お前が俺に目をつけた理由と対して変わらない気がするがな。可能性…俺には選択しえない可能性を信じてみたくなるものだ。」

シンはそういうと、横を向いた。

「久しぶりの睡眠だ。寝かせてくれ」

「…分かった。」

 

 

 

 

 




こういうの書くのは苦手で、ホントに書きにくかったんですけど、なんとか完成させました。



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