放課後の屋上…
10月だというのに既に寒さを感じる程であった。
「うおっ、さみー!」
完二は肩を震わせながら、いつもの定位置に付いた。
シン以外はまだ夏服である。
「なんでこんな日に屋上集合?」
「急用ってなに、花村先輩?」
「まったくだクマ!クマはジュネスのチラシ配りでお忙しいクマよ。」
「や、校門でナンパしまくってたでしょーが。」
クマは千枝に突っ込まれた。
「事件に何か進展でも?」
花村は突然両手を合わせてきた。
「…祈る神を間違えている」
シンは淡々とボケる。
「いや、もう…この際だから、悪魔でもいいから頼む!
お前らだけが頼りだ!今週末…空けてくれ!」
「今週末…もしかして、中止になった稲羽署のイベント絡みですか?」
直斗が思い出すように尋ねる。
「何の話?」
「今度の日曜日、アイドルの"真下かなみ"さんが一日署長をする予定だったんです。」
「ナント! 花丸急上昇中の"かなみん"がこのようなド田舎に!?」
クマは少し興奮したように言った。
「かなみ、もうそんな仕事取るようになったんだ…」
「確かに最近テレビでよく見るかも。りせちゃんと同じ事務所なんだ。」
「てか、いま稲羽市に来るって、地味に私の騒ぎ追い風にしようって事じゃん…」
「…エグイな、やることが」
鳴上がシンに同意を求めるとうなずいた。
「それがポシャると、なんで花村先輩がヤバいんスか?」
「ちゃっかり便乗セールを企画してたらぁ、裏目に出ちゃったクマねっ!」
「笑い事じゃねー!
警察の中止決定遅くてさ。
親父、マジ困ってんだ…超頑張って準備してたのに、見てらんねー…
てかもう残念じゃ済まねーんだよ、色々。」
そういうと花村が頭を抱えた。
「僕の失踪騒ぎで、警察署の受け入れ準備が出来なかったと聞きました。
すみません…僕のせいで。」
「や、お前が気にすることねーけどさ。…まあ、そういう事らしい。」
「で、オレら呼んで、どうしろっつーんスか?」
「そこまでの話だと、正直あたしらには…」
「みんなには、色々準備とか手伝って欲しいんだ。
で、その…久慈川さんには…ナンだ、ジュネスで、イベントなど…」
「私にかなみの代わりをやれってこと?」
りせは驚いたように言った。
「…やっぱ、ダメ?」
りせは考えるように間を開けて言った。
「もしかして、マジで結構ヤバイの?」
「分かんねー。」
花村はため息を吐き、続ける。
「俺、息子ったってバイトだし…けどなんか…親父が妙に優しいんだよ。
まさかクビとか、あんのかな…そしたらまた転校とか…
はは…マジかよ、どーしよ。」
再びりせは考えると、ぼそりと言った。
「…歌と握手だけ。」
「サインとか、高校生って肩書きで出来ない事は全部NG、逆に大ごとになっちゃうから。
で、先輩たちも一緒に出るなら、考えてもいい。」
「一緒に出るって…ア、アイドルとか、そういうの困る。」
「スカウトとか来たら困る。」
「ジュネスと専属契約してるから困る。」
「や、困り方おかしいだろ…でもよ、お前が歌うとしてオレら何すんだよ?」
完二がりせに尋ねる。
「バックバンドに決まってるでしょ。言っとくけど、アリモノは流せないからね。」
とりせは言った。
「いやいやいやっ…!バンドとか無理ゲーすぎだろ!」
花村は両手を振って拒否した。
「鍵盤なら少し弾けなくもないです。
祖父の薦めでピアノを習ってましたから。
持って来れますよ、キーボード。」
「乗り気!?」
と直斗の言葉に千枝は驚いた様子で言った。
「今回の件は僕のせいでもありますから。やれることは、やりますよ。」
「直斗…サンキュな!そういうことなら、俺もギターはあるぜ!
弾いた事はあんまねーけど。てか、うっかり買ったベースも、物置にあった気すんぞ!?」
「うっかり買うか!どうせ間違ったんでしょ。」
「そういう事なら、ウチにも宴会用の何かある。」
「何か…っスか。」
「じゃあ決まりっ!私、バンドスコアのある曲探してくる。
先輩たちは楽器と場所、なんとかしといて!」
「わかった!なるべく簡単なやつにしてね!?よぉ~し、やるってなったら燃えてきた!
音楽室借りれないか、すぐ聞いてこよ?」
そう言うととある四人以外は屋上から降りて行った。
茫然と鳴上とシン、完二とクマ、そして、直斗が屋上に居た。
「…シンは何か出来るのか?」
「…できなくもないはず」
「センパイ、マジぱねぇっす」
「うひょー!!なんだか、テンションあがってきたクマ!!」
そして、すぐに音楽室へと皆が集まってきた。
「マリーちゃんも?」
「うん…思い出つくり…」と少し嬉しそうに言った。
「で、どうすんのこれ。
吹奏楽部で余ってんのとか、適当にかき集めて来たけど。」
と千枝が楽器を持ってきていった。
「…アレなんすか?」
完二が指を指したのはドラだ。
「ドラだけど?」
「や、"知らないの?"みたいに言われましても…」
と花村が天城に突っ込んだ。
「千枝がね、鳴らしたいかと思って。ほら、中華っぽいし。」
「や、中華かどうかは、この際どうでもいいけど…」
そして、それぞれ楽器を持った。
「シン先輩は何か出来るんでしょうか?」
と直斗が尋ねる。
「…別になんでも」「私も…」
「じゃあ…ギターとか?」
「マリーちゃんもどうするの?」
そして、マリーはギターを持つと、『ベルベットルーム』のギターだけ弾ける。
「おお!!うめぇ!!」と花村が興奮気味に言った。
「じゃあ、これを弾いてみてください」
バンドスコアを直斗が差出し、言っては見るものの弾けなかった。
「間薙センパイは?」
「…」
シンはギターを持つと、花村が持ってきた本を見た。
「初めて?」
「ああ。」
シンは本をさらっと読むと、ギターを弾き始めた。
正確な弾き方でまるで機械のように弾き始めた。
曲は『邪教の館』の曲である。
見事にワンフレーズだけ弾いた。
「…こんなもんだ」
シンはギターを置いた。
「…センパイこれは弾けますか?」
「…」
そういうと、『True Story』のバンドスコアを見て軽く弾き始めた。
「いやいや!!充分すぎんだろ!え?なに?お前なんかやってたのか!?」
花村は驚いた顔でシンに言った。
「…やっていない。」
「じゃあ、なんでできるんだよ!」
「…指さえ動けばどうということはない」とシンは再びギターを置いた。
シンがある程度すべての楽器が出来ることが分かったので、皆に教えるということをシンは行うことにした。
「なるほど…」と鳴上が頷きながら、シンの弾くベースを見ていると、ドアがノックされた。
「…ちょっといいかな?」
そこには制服を着た、二年生の長髪で軽い茶髪の女子生徒が居た。
「は、はい!なんスか?」
花村がその人に対応する。
「間薙君いるかな?」
「はい!いますよ。シン!」
花村がシンを呼ぶとシンはその人物の顔を見ると、頷きついていった。
「誰なんスか?」
「さぁ?…ってか同じ学年であんな子いたっけ?」と千枝は言う。
「うーん…どうかな?」と天城は首を傾げた。
「ま、まさか!?」
クマが思いっきり立ち上がった。
「か、彼女さんクマか!?」
「「「な、なんだってー!!!」」」
日が落ちて、すでに屋上は真っ暗であった。
そこに女子生徒と二人でシンはいた。
「気持ち悪い恰好をするな。ルイ」
「そうか?便利な恰好なのだよ、こういう恰好はな」と手をぶらぶらさせながらいた。
「それで、わざわざ来る用とは?」
「…やはり、お前の考えは当たっていそうだ。あの鳴上というやつに能力を与えたのやつが、マヨナカテレビを作り上げた。さも自分が神であることを主張しようとしている。」
ルイは鼻で笑うと、フェンスをよじ登った。
「それだけというわけではないのだろう?」
「雨や霧…天候に能力を向ける程の奴だ。それに私や這い寄る混沌、そしてお前にも気づかれないほど、うまく身を隠している…」
すると二人は口を噤んだ。
「…実にやっかいなことをしてしまったようだ。ではな、少年少女・・・・たち」
ルイは屋上の扉をちらりと見ると、屋上から飛び降り、深い闇に消えて行った。
「…まったく盗み聞きとはな」
「悪い」と鳴上がドアを開けてきた。
「誰?今の」
マリーがシンに聞く。
「…明けの明星さ」
「明けの明星?」
「知らないっスか?カップ麺すよ、カップ麺」
「なんか、突っ込むのもだりぃ」と花村はあきれた顔で言った。
最終下校時刻を過ぎた為、ジュネスでの倉庫での練習となった。
天城たちはやっと吹ける様になり、あとはパターンを覚えるだけとなった。
「幸いで、この曲が簡単でよかった」
直斗が言った。
「そこは流石、りせのおかげだと言える。」
シンはりせを褒める。
「まぁ、数日で出来る曲っていったらこういうのしかないからね。」
「…うむ。そうか。」
「…間薙センパイ」
「ん!?」
シンの頬を突然、りせが引っ張った。
「センパイっていつもそんな顔してるよね」
「
「…生きづらくない?」
そういうと、りせは手を放した。
「…生きづらい…か。そうかもしれんな。」
「だったら、もっと笑ったり、泣いたりしたらいいのに」
「…俺は悪魔だからな。泣かせることはあるかもしれんな」
そういうとシンは鼻で笑い、外へと出て行った。
「…うーん、りせちゃんでもあの鉄壁はやぶれないか」
「あ、あ悪魔ってど、どうどういうことですか?」と直斗は動揺したように皆に尋ねた。
「あーそうか。直斗は見た事ないんだっけか」
花村がそういうと鳴上が続ける。
「シンはああ見えても悪魔なんだ。『ミロク経典』というやつに書かれている、『東京受胎』に巻き込まれて、悪魔になったそうだ。」
「ミロク…経典?…ちょっと待ってください」
直斗は実家に電話をかけ始めた。
「なんだろう、突然」
千枝は少し動揺している。
「…何か思い出したんじゃないか?」
直斗は何かをメモすると、携帯を切った。
「皆さん少し…間薙さんについて話があります、」
「…なんか本人、いないけどいいのか?」と完二が動揺したように言う。
「恐らく、彼は少しづつですが。僕たちに情報を与えてくれていました。
『新宿衛生病院』『ミロク経典』『東京受胎』…
僕はミロク経典という言葉を見て思い出しました。
2004年に東京の代々木公園にガイア教という新興宗教が、暴徒化し死亡者が出ました。」
「あーなんか、あったっすね。テレビで大分騒いでたな」
「そして、警察の押収物でミロク経典の重要な部分を電話で祖父に聞いたんです。」
そういうと、直斗はメモを見て言い始めた。
「『諸の声聞に告ぐ 我は未来世に於て 三界の滅びるを見たり
輪転の鼓、十方世界に其の音を演べれば
東の宮殿、光明をもって胎蔵に入る
衆生は大悲にて、赤き霊となり
諸魔は 此れを追うが如くに出づ
霊の蓮華に秘密主は立ち 理を示現す
是れ即ち創世の法なり』」
「おお、いかにも…って感じだね」
千枝が言うとりせもうなずいた。
「問題はここです。」と自分のメモを見せた。
「しゅ…しょう?」とりせが首を傾げながら言った。
「
「そして、大悲…これは衆生の苦しみから救うとされている仏です。」
「救うって…何から?」
「…恐らく、生きる事の苦しみ。」
「…?どういうことなんだ?」
「つまり、この世のすべての人間が死んだということです。」
「?どういうことだ?死んでないぞ」
「そうなんです。そこが今一訳がわからないんです」
「…」
「!?間薙さん」と直斗は驚いた顔で言った。
「…今はやるべきことがあるように思えるが?」
シンはギターを手にすると、弾きはじめた。
「…そうだった!俺が転校したらそれどころじゃねええええええええ!!!」
その後も、皆で朝から夜まで練習を続け、形にはなった。
本番では緊張しながらも、皆楽しくできたことに充実感を得ていた。
マリーも思い出づくりになったと嬉しそうに言っていた。
シンは結局、裏方ということで演奏をすることはなかったが、
それでも本人は満足そうな顔だった。
学生の身分だからこそ、これだけの早い投稿が出来るのだッ!!
黒歴史に成ろうとも知った事ではないッ!!
何故なら!俺の存在自体が!この鼓動自体が!黒歴史なのだッッッ!!!
…と中二病ぽく言ってみたりする。
こんな性格なんで、たぶん「なんて無駄な時間を過ごしたんだろう」って思うんだろうな。
…最悪。自己嫌悪。