Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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第37話 Summer Gone 9月10日(土)・12(月)

子供の頃、大人たちが何をしているのか、今一理解できなかった。

疲れ切った顔で何処に行き着く訳でもない。

何か目的があるようでもなかった。

ため息ばかり吐き、そして、父母は玄関から出て行く。

 

少学校もそうだった。

周りは見慣れた顔ばかり、単純で酷くつまらなかった。

 

この世界の事はどれもこれも面白いことと言われれば面白いし、それが悲しいことなら悲しい事なのかもしれない。

 

目を閉じたまま、この世界を生きていくのだと思ったとき、

俺は言いようの無い、倦怠感と嫌悪感を覚えた。

 

…伝えることはあまりにも難しい。

何故なら、それは俺にとってとても

 

狂った世界で理解の出来ない世界だった。

狭い世界に居たと言われれば確かにそうだ。

しかし、世界はどこまで行っても"世界"でしかない。

どこまでも…どこまで…狂ってる。

 

俺が異常?正常?

正常とはなんだ?社会的正しさか?人間的正しさか?

ならば、俺は『社会不適合者』でいい。

それに、俺は…そんな世界にはいない。

 

 

「どうでもいい…か」

 

 

シンはソファの上で目覚めたそして、ここがホテルだと言うことを思い出す。

「おはよう」

鳴上がシンに声を掛けた。

その手には珈琲がある。湯気が立っていた。

まさに、ベストタイミング。

 

「…ん。すまない」

シンは大きなあくびをして、珈琲を啜った。

 

「今日で終わりだな」

鳴上は少し残念そうな顔で言った。

 

「…何事にもおわりがある。だからこそ、旅行は良いものだと感じるんだ」

「…そうだな」

鳴上は納得したように頷いた。

 

 

駅前商店街…

ラーメン屋はがくれで皆はラーメンを食べていた。

シンは用事があると言って、すぐに出ていった。

 

 

「…どうだった?」

シンはたこ焼き屋オクトパスでたこ焼きを買っていた。

「指示通り…望みを叶えておきました」

紺色のスーツを着たまるで就活生のような女性がそう答えた。

「…ごくろう。それと、メタトロンは?」

「問題なく。すべて排除されたようです」

「ん。了解した。帰還してもらって構わない」

「…仰せのままに」

 

そういうとスーツの女性は立ち上がり、近くにいる少年に席を譲った。

隣には青い髪の少年が座った。

 

「…まさか、ここまで読まれてるとはね…びっくりしたよ」

「…これでも、伊達に何千年も生きてない」

「フフッ…そうか。そうだね」

 

「ありがとう。間薙シン。」

そういうと少年とスーツを着た女性は町の喧騒に消えていった。

 

 

 

「…『さよならだけが人生だ』」

 

 

 

そんな世界だ。どこでも、あそこでも。

 

…悲傷は火に焚くべよう。

 

 

 

 

 

一方、はがくれ…

 

「…間薙さんはどういった人なんですか?」

直斗は鳴上達に尋ねた。

「なんだ?気になるのか?」

花村が冷やかしながら言った。

「ち、違います!!

ただ…その、僕にも掴めない人でしてね…それに…どこか…不思議な人だと思います。」

 

 

「そうだね…確かに、不思議だね。間薙君は」

千枝はそう言った。

「その…なんつうか、俺達も良くわかんねーんだ。」

花村は頭を掻いた。

「う、うん…なんていうか、彼…悩みとかあんまり言わないし」

と千枝もまたそう言った。

「やはり、そうですか。」

直斗は腕を組んで言った。

 

「…」

完二は黙ったままそれを聞いていた。

 

「でも…きっと彼も何かかかえてるんだと思う。」

「私もそう思う。…私たちよりもっともっと、深いところに居る感じがするの」

「…」

 

皆のテンションがグッと下がった。

 

 

「何を憂鬱な顔をしている。」

「シン」と鳴上は入ってきたシンを見て言った。

 

「…どうせ、くだらないことを考えていたのだろ」

「ち、ちげぇよ!」と花村は大きな声で否定した。

 

「そんなことをしていると、麺が伸びるぞ。」とシンは腕を組んだ。

 

「…あーもう…そうだな。」と花村は何かを言おうとしたが、ラーメンをすすり始めた。

「…そうだね」と千枝もまたラーメンを食べ始めた。

 

「そんなことしてるから、クマが食べたクマ。ゲップ…」

「ああ!!…私…冷ましてただけなのに…」と天城は無くなったラーメンのどんぶりを見ていた。

「てめぇ!クマ公!!」と完二が言った。

「…本当にバカ軍団ですか…」

直斗は呆れた様子で言った。

 

 

シンはそれを眺めていた。

(お前らはそれでいい、俺とお前たちでは違うのだ。住む世界も感覚も、痛みも、すべて違うのだ。)

 

「あ…」と直斗がシンを見て声を漏らした。

シンはその視線に気が付き、言った。

「なんだ」

「…いえ、なんでもないです。…では、先に失礼します。」

 

そういうと直斗は先に集合場所へと行った。

 

 

 

 

彼らも知らない、彼のことを僕は気になる。

そ、それはもちろん…そういう意味ではない。

探偵として…憧れとして、僕は気になる。

 

そして、先ほど、彼は…少し笑みを浮かべていた。

そんな顔を見たのは初めてだ。

 

だからこそ、僕は知りたくなる。

彼の洞察力、思考経路、観察眼…

 

恐らく、彼を見ていれば、僕はもっと成長できるはずだ…

 

だから…僕は彼の考えるとおりに動いてみよう。

 

それが、賭けだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私にはこれしかないの!!」

そういうと少女は自分の頭に銃を突きつけた。

 

「やめるんだ!!」とスーツを着た男性が少女に言った。

 

「…それは自分の意志か?」と怠そうな顔で少女を見たもうひとりの男。

「そうよ!!!」

少女は銃を強く握った。

 

「…いいか、不細工。人間に自由決定などという体のいいものはない。

あるとすれば、それは他人との関係性で生じた選択肢でしかない。

お前の言う、自己などという薄っぺらいものは何一つない!」

 

「な、何言ってんのよ!頭、おかしいんじゃない?」

少女は怠そうな目で自分を見る男に言った。

 

「俺が?この俺がか!?冗談は顔だけにしてくれ、不細工。」と嘲笑しながら男性は笑った。

 

「なんですって!?」と女は男に銃を向けた。

 

「俺が異常だったら

世界はもっとハッピーな常に笑顔に溢れている最高で最低な世界になってるだろうな。

俺は正常だ!正常すぎて、精神科医でも開けそうだ!!」と高らかに笑った。

「あ、あなたって人は!」とスーツを着た男が言った。

 

「何か勘違いしてねぇか?

ハッピーなことはネズミの国か、フォイフォイのとこか、夢の中にしかねーんだよ。」

 

「魔法少女だって首ぶっ飛ばされたりしてんだよ?

ツンデレなんて、リアルじゃただのムカつくやつなんだよ。」

 

「…それにな今は、お前みたいな連中がウヨウヨしてやがる。

けど、俺は別に『それはお前だけじゃない!みんな苦しいんだ!』『明日生きれなかった人がいる』とかそういう、わかりずれぇことは言わねぇ

 

お前の悩みはお前にしかわからねぇからな。

 

ただ、一つ言えんのは。

 

お前が死ねば明日が晴れる訳でもねぇ。誰かが救われるわけでもない。

戦争が終わる訳でもねぇ、赤ちゃんが生まれるわけでもねぇ。

政治が良くなるわけでもねぇし、もちろん、サッカーのルールが変わるわけでもねぇ。

貧しい子供の腹が膨れるわけでもねぇ、新しい学校が建つわけでもねぇ!!!

温暖化が解消されるわけでもねぇ、世界が幸せに包まれるわけもでねぇ

 

何にもねぇ普通の時間が流れて行くだけなんだよ…

 

 

だから、思う存分無様に死ね!!不細工!!」

 

 

 

 

「「「「「えええぇええええええええ!!?」」」」」

少女も駆けつけた警察官やその少女の親が思わない言葉に大声を出した。

 

 

「いやいや!!今のは絶対、いいこと言う感じだったでしょ!?」

スーツの男性は怠そうな顔の男に言った。

 

「は?いや、俺にそういうの求められても困るから…ほら、俺って空気読めないし。

空気詠み人知らずだし…」

 

「しらないですよ!!ああ、もう彼女なきそうじゃないですか…」

「銃持ってるくせに泣くのかよ…え?恥ずかし!お前いくつだよ。中学生だろ。」

「彼女だっていろいろあるんですよ!!」

 

いつの間にか少女は銃を地面に落としていた。

 

「は?しらねーよ。だって、俺あいつじゃないし」

「あなたには人の心を思いやるってことを知らないんですか!?」

「…いや、だから、俺興味ないし、あのクソ餓鬼とも関係とかないし、赤の他人だし、ってか、こんな時間に起こされている俺の身になってほしいというか。」

 

そういうと、怠そうな男は時計を見た。

 

「ああ!!バッ!おま、もう10時じゃねーか!!なんか眠いな…って思ったら、もう10時じゃねーか!!どうすんだよ!!毎日の楽しみ『放送休止』が見れなくなったらどうすんだよ!!ゴラァ!!」

 

「…うわぁああああああああああん!!!」

少女は泣き出した。

 

「あー…もう、どうしてくれるんですか!」とスーツの男性が少女に駆け寄った。

 

「…なんだ、おめぇはあれか?『あーもう』って鳴く、あーもう星人か?」

「知りませんよそんな星人!」

「知るはずねーだろ?テキトーに言ったんだからよ

…とりあえず、俺はかえって寝る。25時から『放送休止』が始まんだ。

あれみてると、どうも落ち着くんだよ…こう、バーがな重要で、そこにある色合いだとかそんなんがな」

 

 

 

 

シンはテレビを消した。

 

修学旅行後から、直斗はコツコツ準備をしているようだ。

シンにとっては選択肢。非道、外道と言われる選択肢もシンにとっては選択肢の中に含まれている。

 

「…間薙様、そろそろ学校の時間ですよ?」

「そうか。わかった」とシンはカバンを持った。

 

と、メリーが珍しいものをシンの前に出した。

 

「…弁当…か」

「は、はい。」

メリーは少し残念そうにシンの前から弁当を下げようとしたが

「出過ぎたまねを「いや、そうではない…ありがとう」…はい」

一転、メリーは少し嬉しそうな雰囲気でシンに弁当を出した。

 

 

「じゃあ、行ってくる」

 

 

その日の夜…

 

 

シンは相変わらず、テレビを見ていた。だが、ニュースである。

それは目的がある。

 

「はい"報道アイ"の時間です。先日、無事に犯人逮捕となった、

稲羽市の"逆さ磔・連続殺人事件"。解決の陰に、なんと現役高校生の、文字通り

少年探偵の活躍があった事、ご存知でしょうか。

今日は、甘いマスクでも話題をさらいそうな

"探偵王子"、白鐘直斗くんの特集です。今日は宜しくお願いします。」

 

「はい、よろしくお願いします。」

 

シンはそして、笑い始めた。

 

「はい、よろしくお願いします。」

 

「手柄と呼べる程のものじゃありません。

確かに、先日の諸岡さんの事件については犯人の仕業に間違いありません。

ですが、事件の全体像を見渡したとき、僕には幾つか違和感が残ります。」

「はあ…と、言いますと?」

アナウンサーが直斗に尋ねた。

 

「具体的な事は、残念ながら、まだ何とも。

ですが、事は三人もの犠牲が出た殺人事件です。

小さな違和感でも追及すべきだと僕は思います。」

 

「は、はあ…警察会見の内容と、若干異なるようですが…

で、では次に、"探偵王子の素顔"と題しまして、

直斗君自身のことを聞いていきたいと思います。

"探偵王子"が今まで解決してきた事件は

何と24件。 そのうち16件が…」

 

そこでシンがテレビを消した。

 

そして、不気味に笑い続ける。

シンは顔を押さえ、笑い続ける。

 

真っ暗な部屋の中で、重い声が響いた。

その中、黒い影が蠢いた。

 

「ククッ…やはり、お前と同じか。無知故に知に貪欲になる。

しかし、それを知ったとき、人は虚しさを感じるのだ」

ニャルラトホテプが真っ黒な人間の形で出てきた。

 

「クックックッ…クックックッ…」

 

シンは不気味に笑い続ける。

 

「そして、どうするのだ?お前は…」

「クククッ…どうもしない。同じ方法だ。そして、やつの証明で犯人が絞れてきたのだ…

クククっ…こうでなければな」

そういうと、シンはニャルラトホテプに耳打ちした。

 

「…なるほど。…あいつに与えたものが、ルイの探しているモノだと言うことか」

「そう…そして、犯人に能力を与えたのもこいつだな」

 

「クククッ…そいつは運がなかったようだな。混沌王、明けの明星、そして、この這い寄る混沌を相手にしたのだ、ただの地獄、煉獄ではすまさんぞ…」

そうニャルラトホテプは言うと、影に消えていった。

 

「面白くなってきた…」

シンはそういうと、自分のベットへと向かった。

 

この先の好奇心を満たしてくれるようなことが起こることを思い。

 

 

この世界に来て初めてシンは大声を出して笑った。

 

 

 

 


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