「不本意だが、再び都会から転校生だ」
そう前歯のでた教員、通称『モロキン』が嫌そうな顔でその生徒を見る。
名前を書こうとシンはチョークを持つ。
だが、シンが書いているにも関わらず、シンの方に顔を向けながら、そして、唾が飛ぶほど大声で言う。
「鳴上のようにだ!
ただれた都会から、へんぴな地方都市に飛ばされてきた哀れな奴だ。いわば落ち武者だ、分かるな?」
「女子は間違っても色目など使わんように!間薙、簡単に自己紹介しなさい」
「・・・間薙シンです。よろしくお願いします」とシンは淡々と且つ無表情に自己紹介をする。
「よろしい」と諸岡は満足そうに言うと、空いている席にシンを座らせる。
休み時間になると花村が話しかけてきた。
「シン・・・大丈夫か?」
「ああ、大丈夫。」
「鳴上が同じ紹介された時にな、確か『誰が落ち武者だ』って言ったせいだと思うんだわ」と花村は鳴上を見る。
「・・・ん?なんだ」
「それで、多分更に高圧的になったんだな」そういうと花村は笑う。
シンは鳴上を見る。
(思ったとおり、肝が据わってるんだな・・・)
授業が始まると俺はアマラに待機している、オーディンを呼ぶ。
(・・・なんだ。主)
(あとで授業の内容を教えてくれ)
(・・・ふっ。真面目な主だ)とオーディンは笑うと念話を終える。
俺はこの数日この町の事を知った。
街が一望できる高台や、稲羽市立病院、だいだら.という怪しい店も。
そして、奇怪な事件。
アンテナに吊るされた死体。
連続して、殺人事件が起きている。
・・・実におかしな話だ。
理由は吊るす理由。仮に・・・目立ちたいというのならもっとあると思う、だが、それをわざわざ、アンテナにつるす。
・・・こんな世界だと知ってルイは俺を送り込んだな。
そして、彼ら。
鳴上悠。花村陽介。里中千枝。そして、近くに居る長い黒髪の少女。
彼らから何か不思議な力を感じる。
悪魔・・・に近い力だ。
(・・・探ってみる価値はあるだろう)
そして、噂の『マヨナカテレビ』。
なんでも、
『雨の夜の午前0時に、消えてるテレビを一人で見て、誰か映ったら、それが運命の相手。』という何とも不思議な話。
・・・なんとも、信じがたい話だ。
だが、アンテナ・・・テレビ・・・関係性がないとは言い難い。
そもそも、こんな摩訶不思議なことが日常的に学生の間で浸透していること自体、実に不思議でならない。
・・・いずれにしても、彼らは何かを知ってる。
昼休み。
屋上に見慣れた三人と紅いカーディガンを着た生徒に連れていかれた。
「にしてもだ、どんまいだな。相棒と同じ様にしょっぱなからモロキンクラスか・・・」
と花村はシンの肩を叩く。
「でも、同じクラスでよかったね」と千枝はフォローするように言う。
「これからよろしく頼む」
そういうとシンは軽く頭を下げる。
「・・・えーっと、知り合いなの?」と紅いカーディガンを着た生徒は少し戸惑った表情で尋ねる。
「まあ・・・そんな感じかな」と千枝は言う。
「彼女は天城雪子」と鳴上が紹介するようにシンに言う。
「俺は間薙シン。よろしく」
「う、うん。よろしくね」と少し躊躇しながら返答する。
「・・・そう言えば、俺はここにきて日が短いが、随分と奇怪な事件が起きてるんだな」とシンがそれを言うと、少し驚きながら四人は応える。
「そ、そうだな。」
「怖いよねぇ」と花村と千枝は少し動揺しながら言う。
「君達も気を付けないと。」とシンは淡々と言い、昼ご飯のパンを齧る。
「・・・何が言いたいんだ?」と鳴上はズバッと斬り込む。
シンはパンを呑みこみ、シンは少し考え、口を開く。
「・・・俺は君達が何かを知ってると踏んでいるんだ」
その言葉に4人は少し動揺する。
「な、なんでかな?」と天城はシンに尋ねる。
「それは「ヒホー!アマラはつまんないホー!!!」」
「「「「!!!!!」」」」
四人は突然現れた、ジャックフロストに驚く。
そして、シンはため息を吐く。
「な、なんで!?」と千枝は思わず口に出す。
「おいおいおい!『ペルソナ』は『テレビ』の外じゃ出せない筈だろ!?ってあー!!!」
花村は驚きのあまり、弁当を落とす。
シンはジャックフロストを膝に乗せると、口を開く。
「『ペルソナ』・・・『テレビ』・・・実に面白そうな話だね」
シンは好奇心が止められず、口を開く。
その眼はまるで子供の様に輝いていた。
その目にやられたのか鳴上は「・・・わかった。話すよ」とため息と共に話し始めた。
マヨナカテレビあれは理想の相手を映すのではなく、『次の被害者を映す』というものだった。
始めはうっすらとシルエットが見える。
だが、その被害者が『テレビの中に入れられている』と鮮明に映るそうだ。
それだけしか未だに分からない。
そして、天城雪子もまた被害にあったが、彼らによって救出されたということらしい。
前に被害にあった、アナウンサー『山野真由美』。
陽介の想い人でもあり、先の事件の第一発見者でもあった『小西早紀』。
小西早紀に関しては前日にマヨナカテレビに映ったらしい。
それは苦しんでいるように見えたそうだ。
「・・・共通点は『女性』か。」とシンはヒーホーの頭に顎を乗せ唸る。
「あんまりグリグリやらないでほしいホー」
「ん?ああ、悪かった」とヒーホーを地面にヒョコっと降ろす。
「そ、それで、そのこれはなんなの?」と千枝が尋ねる。
「これじゃないホー!!ヒーホーだホー!!!」とプンプンしながら屋上を歩き回っていた。
「・・・後で話す。恐らく今話すと話がこんがらがる」とシンは言う。
「共通点はあと『事件関係者』という点だ」と鳴上は言う。
「天城さんは関係者なのかい?」シンは尋ねる。
「うん。うちの旅館にね、山野さんが泊まっていたから」
「なるほど・・・」とシンは頷く。
「俺たちじゃこの共通点が限界だな。・・・俺の空腹も限界だけど」花村は弁当を拾いながらシンに言う。
「・・・じゃあ、次。『ペルソナ』ってなんだい?」
ペルソナは自分自身と向き合える強い心が「力」へと変わる。
それが人格の鎧、ペルソナである。
そして、テレビ。
「先ほど『テレビの中に入れられる』と言っていたが・・・君達はテレビの中に入るのか?」とシンは至って真面目にその質問を鳴上達にする。
「こればっかりはそうとしか言いようがないよね」と千枝は花村と顔を見合わせる。
「そうなんだ」と鳴上は言う。
「テレビに入る・・・本当に不思議な事だ」
「俺たちも驚いた」と鳴上は手を見て言う。
「・・・でも、これで納得だ。君達に感じていた『力』それが『ペルソナ』というモノだった。
そして、この事件が『非現実的』であることも。」
そういうと、ヒーホーを呼ぶ。
「こっち来て」
「ヒホー!」
「こいつは「ジャックフロスト」・・・知っているのか?」とシンは驚き鳴上を見る。
「俺のペルソナにも同じのがいる」
「そうなんだ。けど、これはね『悪魔』なんだ」
「あ、悪魔ぁ!?」と花村は少し後ずさりしジャックフロストを見る。
「こ、こんなに可愛いのが悪魔なの?・・・ブフフッ」と天城は思わず吹き出す。
「ヒホー!オイラは此れでも立派な悪魔ホー!!」と少し怒ったようだ。
「立派・・・あははは!!!」と更にツボに入ったらしく激しく笑い出す。
「なんで普通に喋ってんのよ・・・」と千枝は天城を見て困った表情をする。
ヒーホーは怒りながら鳴上に近づくと。
「ヒホー!『魔石』ほしいホー」
「ごめん。今は持ってないんだ」
「ナメてもらっちゃ困るホ」とヒーホーは更に怒った様だ。
「俺のをやるよ。」そういうと、手品のように『魔石』を何もない空間から取り出し、ヒーホーに投げる。
「ヒホー!!!感激の涙がとめどなくあふれるホ!」とそれを受け取り小さく跳ねる。
「か、かわいい・・・」と爆笑する天城の横で千枝はそう呟く。
と、学校のチャイムが鳴る。
「マジかよ!昼飯食ってねーのに!!」
「あんたが弁当落とすのが悪いんでしょ」
「しょ、しょうがねーだろ。あんなのが突然でてくるんだからさ!!!」
「俺のあげるよ」と鳴上が花村に弁当を渡す。
「マジで!?いいの!?ありがとな!相棒!!」といいガツガツと食べ始めた。
「・・・シンは不思議だ。」と鳴上はシンに向けて言う。
「俺か?」
「ああ、会った時からそう思ってた」
「・・・そうか。・・・さ、『魔石』もやったんだ。かえれ」とヒーホーを帰還させる。
「ほ、本当にきえちゃった」と千枝はヒーホーが居たところを眺める。
放課後・・・
「なるほど・・・ここがあのCMの『ジュネス』か」とシンは鳴上と花村に連れられてジュネスへと来ていた。
「花村のお父さんが店長なんだ」
「おお。ってことは、お前の名前でツケが出来る訳だな」とシンは花村に向かって言う。
「勘弁してくれ。俺のバイク免許が遠ざかるから・・・」
「冗談だ」とシンは淡々と言う。
「なんかお前がいうと冗談じゃない気がしてきた・・・」と花村は困惑しながら言う。
「あれ?君達、なにやってるの?」
「足立さん」と鳴上が言うとそこには寝癖と、いつ見ても曲がっているネクタイ等、身なりを気にしないズボラな外見が特徴の男性が鳴上達の方へとくる。
「どうも、こんにちわ」
「君達、またなんか・・・って友達かい?」とシンを見て言う。
「ええ」
「間薙シンと言います。」とシンは無感情に自己紹介をする。
「へぇ。僕は足立透。刑事をやってるんだ」
「刑事さんでしたか。優秀そうですね」と少し頬を上げる。
「お!わかってくれるの?間薙君」と足立は少し嬉しそうに応える。
「それでですね、俺は引っ越してきたばっかりなんですけど、なんか怖い事件が起きてますね」
「心配しなくても大丈夫だから。・・・って言っても、まだ犯人の目星がついてるわけじゃないし」と足立は困った表情で語る。
「元議員秘書の生田目はアリバイがあったとニュースでやっていました。」
「そうなんだよねー・・・ってダメダメ!また堂島さんに怒られちゃうから!!じゃあね。君達も早く帰るんだよ」と足立はそそくさと去って行った。
「あの人が優秀そうに見えるって・・・どんな目なんだよ・・・」と花村はシンを見て言う。
「人ってのは案外、何か隠してるものさ」とシンは足立を見つめて言う。
「シンも何か隠しているのか?」と鳴上は言う。
「・・・そうだね、沢山あるよ」とシンは間を開け淡々と言葉を口にする。
「・・・さ、次はどこに案内してくれるんだい?」
「そうだなあ。とりあえず中に入ろうぜ」と花村は言うとジュネスの中に入って行った。
シンは防水テレビを手に取り、機能などを確認してそれをレジへと持って行く。
「あれ?そういえば、シンって一人暮らし?」
花村は防水テレビを買ったシンを見て言う。
「そうだね。親が海外に長期出張だから。ついて行くのは億劫だし、親戚もいないし、どうせなら独り暮らししたいって言ったんだ。」
「相棒と同じ感じか。って言っても相棒は親戚と同居か・・・」と花村はテレビを見ている鳴上を見て言う。
この話は無論嘘だ。
俺が『いやぁ違う世界から来たんだ』といったところで彼らを混乱させるだけだ。
それにルイは言った。『限りある時間』と。
昔、学生の頃はそんなことを考えなかった。
この時間が永遠に続くものだと思っていた。
あのときだってそうだ、先生のお見舞いに『新宿衛生病院』に行ったときだって。
「ん?どうしたんだ?」
「そうだな」とシンは花村に声を掛けられ、ハッとしテレビをレジへと持っていった。
夜・・・
シンは大きな52インチのテレビでニュースの特集を見ながら先ほど買ったDVDプレイヤーを開封していた。
『静かな町を脅かす暴走行為を、誇らしげに見せ付ける少年たち・・・』
少し緊迫感のあるナレーションがテレビから聞こえてくる。
(いつの時代も、若者は変わらず暴走するんだな)とシンは思いながらそれを見ていた。
『そのリーダー格の一人が、突然、カメラに襲い掛かった!』
『てめーら、何しに来やがった!見世モンじゃねーぞ、コラァ!!!』
(モザイク掛かってても迫力・・・ん?)とシンはその恰好を見て気付く。
(うちの学校の生徒なのか・・・学年は一年か)
「何をしていらっしゃるのだ。主よ」とバアルが現れる。
「バアルか。というか、貴様らなんでかってにホイホイと出てくる。」
「それは我が主の身を案じているからでございます」
「心配ない。それに腑抜けた王のつもりはない」と不気味な笑みを浮かべバアルを見る。
「フフッ・・・それでこそ主だ。明日の夜は雨にございます」
「『マヨナカテレビ』か」
「ええ、恐らくあのマヨナカ「いや、言わないでくれ。結論までの工程が面白いのだ」」とシンはバアルの言葉を遮り、言う。
「・・・左様ですか。では、我は此れにて」とバアルは少し微笑みそのばから消えた。
シンは考えるように腕を組む。
「・・・とりあえず・・・ハラヘッタ」と嘆くシンであった。
そう言い、惣菜をレンジに入れそれをじーっと待っていた。
悪魔の口調が難しすぎて泣けてきた。
それとバアルはメガテン4のやつですね。
3だと『バアル・アバター』というのが居てしまうので、そことの違いには注意を。