Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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第24話 BORED! 7月23日(土) 天気:曇

退屈…退屈…退屈…

 

シンは肘を突いて、問題を解く。

どれも簡単で仕方ない。怒りのあまり、シャープペンシルを折りそうになる。

 

昔からそうだった。テストというのはそうだ。

周りからは『頭が良い』などという評価をされたが、そんなものは違う。

ただ覚えればいい。教科書の端から端まで。

ただそれを使って応用すればいい。公式、計算式を当てはめる。

突拍子もないことは起きない。回答用紙が燃えたりもしない。

第三者も現れない。問題が一分前に変わったりもしない。

 

映画や小説の様な感動や興奮、怒りや悲しみはない。

いや、問題が解けない場合は葛藤があるのかもしれないが…

 

しかしこうやって、答案用紙を見ていると、感情欠落者にでもなったようだ。

 

俺は思わず、紙を持ち上げた。

 

空欄は無く、綺麗な字で書き上げられた、文字が並ぶ。

俺はそんな紙を睨み付ける。

(お前はどうしてそんなに退屈なんだ。)と俺は心の中で言ってしまう。

 

小説の紙と答案用紙の紙。

同じ紙だと言うのに、これほど違う。

 

…もし、真犯人がいるとしたら、何をやっているんだ。

俺を退屈で、殺す気か?

 

 

退屈…退屈…退屈…

 

 

 

バキッという音と共に、テスト終了のチャイムが鳴った。

 

 

 

 

 

「終わったー!くあー、も、ちょー眠ィ…」

「うぁっ、もー!人の顔見てあくびしないでよ。」と千枝は嫌そうに花村の欠伸を跳ね除けた。

 

「ね、英語の問3、熟語に書き換えのやつは?」

「えっと…“used to”にした。」と千枝の質問に天城が答えた。

「また間違った…」とショックそうにうなだれた。

 

「里中、一生日本暮らしだな。和を満喫しろ、和を。」

「かーもう、いちいちムカつく!」

 

「うーっス…」「お疲れさま…じゃないや、こんにちは…」

と一年組が教室へと入ってきた。

 

「うわっ、ここにも負け組が!」と花村は一年組の二人を見て言った。

 

「何よ、英語くらい!いざとなったら、通訳でも何でも付けてもらうもん!」

「先輩は?」とりせが尋ねる。

 

「ペンは止まらなかった」

「さすが、先輩は違うなぁ…」とりせは感心したように言った。

 

「も、いースよ、テストの話は…それより、事件の方どうなってんスか?」

「そうだな。久々に“特捜本部”に行っとくか。」

 

久々にフードコートで集まる事にした。

 

 

 

やはり、疑念が多い。あまりにも多い。

これを排除できない限り、疑う余地はありそうだ。

 

…しかし、本当にこれで収束だとするなら、直斗の言うとおり、本当につまらない幕引きだ。

しかし、ここに残る意味はもう一つある。

 

"マヨナカテレビ"という存在を作り出したやつを殺す。

となればだ、犯人から追跡は無理となる。

 

しかし、焦る必要はないか…

何百年かかるかな。俺としては構わないんだがな。

 

 

そう考えると、少し怒りが収まる。

 

 

犯人なんかに興味はないな。

犯行の方法の思いつき方、手段なんかは面白いね。

それは評価する。

 

寧ろ、俺はそこに興味があるね。

 

動機も興味ある。

マヨナカテレビを使った犯行予告、霧の日に死体が出るなんて、面白いことをしてくれる。

 

 

「ちょっと、先輩聞いてる?」

 

シンが辺りを見渡すと、すでに皆椅子から立っていた。

 

「…すまん。訊いてなかった」とシンはステーキを慌てて食べる。

「…間薙先輩って、オーラと目力あるのに…なんか抜けてるね」

そのりせの言葉に皆が笑った。

 

「それで、何を話していたんだ?」とシンはステーキを綺麗に食べ、話を聞く。

「足立さんが来て、容疑者は確定したんだけど、容疑者が消えたっていう話を言ってたの。」

千枝の説明で、シンは唸る。

 

りせと鳴上は何やら話している。

 

それ以外のメンバーはクマをいじりに来ていた。

クマはジュネス働くことになった。花村が家に住まわせているようだ。

 

「…お?まさか名探偵のアンテナに何か掛かった?」と千枝は少し嬉しそうにシンに尋ねる。

「いや…特に、何も」と首をかしげる。

「何かが起きなければ、何も進まない。」とシンは言い切った。

 

「そういえば、シンって東京じゃ何してたんだ?」と花村が何となく尋ねる。

「それは…気になるかも」と天城は言う。

 

「…そうだな。別に大したことはしてない。

バイトしたりして、友達と遊んでいた。」

シンは遥か昔の事を思い出す。

 

「へぇーやっぱり高校生のやることって変わんないか」と花村は納得したように言う。

そこに鳴上とりせが合流した。

 

 

 

 

 

壊れた世界で俺は生まれた

 

俺は変わらない。悪魔のままずっと行く。

 

俺は悪魔だ。

 

 

 

 

『違う』

 

 

「?」

「どうした?」と帰り道にシンが後ろを向き、足を止めたことに鳴上は気が付いた。

「…いや、なんでもない」とシンは再び歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

「なに?なんかおかしい?」

 

シンは『シンジュク衛生病院』を出れば、きっと変わらない日常があると思っていた。

確かに、平凡な日常は望んではいなかった。

 

だが…それがいざ変わったとき、過去も未来も真っ黒に染め上げられた。

細かい粒子の砂が空を舞っていた。砂漠の砂の様な、細かい粒子が。

 

 

「…」シンは思わずめまいがした。

「ちょ、大丈夫!?」とピクシーは驚いた表情でシンを見た。

 

「…どうなったんだ。世界は…僕の家族は、友人は…」

「何言ってんの?全部なくなったわよ」

ピクシーが軽くそれを言い放った。

 

 

俺は…高い崖から落とされたような気分だった。通常は深淵を覗くだけで、怯み、恐怖する。

だが、俺は覗くまでもなく、突き落とされた。

気が付かないウチに。

そして、気が付くと、底だった。

いや、起きたときは底だって気付かなかった。

 

やっと、光のあるところに出たら、何もなくなっていた。

 

ピクシーはシンの表情を見て慌てた。

 

「で、でも、えーっと…まだ人間が生きてるってフォルネウスが言ってたじゃない」

「…わかってる」とシンは前を見据えた。

「とりあえず!私はヨヨギ公園まで連れてってもらうからね!」とピクシーは言った。

 

 

わかっていたさ、絶望ならすでに何十回としてる。

 

今更、世界崩壊で動じることはない筈だ。

 

それに、もう俺の中には絶望はない。

 

好奇心。それのみ。

 

 

 

 

 

「…ヒホー」とジャックフロストはアリスに相変わらず頬を抓まれ伸ばされる。

「ふにふに」

 

「おかえりなさいませ」とメリーはシンが帰ってくると、すぐに玄関に向かいシンの持っているカバンを受け取った。

 

「変化は?」

「特にございません」

「ん」とシンは着替えに自分の部屋と向かった。

 

「…相変わらず、主は厳しい顔をしていらっしゃる」とクーフーリンは和みながら、お茶をすする。

「そう簡単に変わんないでしょ?」

「そうですね」とクーフーリンはピクシーの言葉に笑った。

 

シンは着替え終わり、新聞と同時に買ってきた映画を入れた。

シンがソファに座るのと同時に、机にお茶が置かれる。

 

「それで?事件はどうなの?」

「…容疑者が挙がったが…どうだろうな?まだ不確定事項が多すぎて予測できん」

「面倒だから、悪魔使ってパッと終わらしたら?」とピクシーは言う。

 

「…相変わらず、めんどくさがりだな」

「知ってるわよ」

「…そうだな。」とシンは言うと、思い出すように言う。

 

 

「『おもしろき こともなき世を おもしろく すみなしものは 心なりけり』」

 

 

「…そうね。それの方が面白いかもしれないわね」とピクシーは微笑んだ。

「というより、面倒だけど、あなたは好きそう。」

「…分かってるじゃないか」

「そりゃね。もう、どれだけ一緒にいると思ってんのよ」とピクシーは微笑んだ。

 

「の割には…退屈そうな顔ね」

「…まあ、呆気なすぎる幕引きというのは、どんなことでも退屈なものだ。」とシンはため息を吐いて、深くソファに座る。

 

 

「…というか、この家も騒がしくなってきたな」

「そうね。ニャルラトホテプのおかげでゲートが安定したからかな?」

「…そうか…それであいつらは?」

「独自に動いてるみたい。」

 

そう言いながら、首をかしげている。

あそこらへんの上位悪魔は自由な奴が多い。

基本、アマラにいることが多いが、ふらっとどこかへ行き、ふらっと帰ってくる。

 

俺はそれを咎めたりはしない。

それを知っているから、ルシファーやニャルラトホテプに始まり、シヴァやオンギョウギなど自由を満喫している。

 

「…にしても、退屈だ」とシンは言う。

「あの、前見てたドラマみたいに銃をお撃ちなればよろしいんでは?」とティターニアは椅子に座ってこたえる。

 

「銃なんてない…それに捕まる」

 

「なんて、退屈なお国でしょう。好きに銃を撃てないなんて…」

「平和…か…あるいは停滞か…それは考え方によって違うだろうな…」

 

争いで種の進化を促す…なんて、設定があったが、事実はどうなのだろう。

淘汰され、優秀な者が残る。

それを差別主義者という人たちがいるだろうし、恐らく考え方は限りなく"ヨスガ"に近いのかもしれん。

 

「ヒホー、おいしいヒホ?」

「うん!おいしい」とヒホーがかき氷をつくりそれをアリスが食べていた。

 

 

この部屋はとんでもなく広いが、とんでもなく物は少ない。

 

ダイニングキッチンにその先に一人では余りにも大きいソファと大きなテレビ。

その後ろには部屋とが二部屋ある。

一人ではあまりにも広いがこうして悪魔が来てもあまりにも広い。

 

 

ふぅとため息を吐く。ゆっくりと、ゆっくりと息を吐く。

 

「Bored…」

 

そんなシンの言葉が部屋にこぼれた。

 

 

「…なら、サツジンゲンバを見に行こ!!」

そのアリスの言葉で皆が、どうしてそれを思いつかなかったのかと思った。

 

 

 

真夜中…

 

「ったく、何で俺がこんなこと…」

「仕方ないだろ。それに警官ってのはこういう地味なもんだ。」

 

警官二人は殺人現場の警備をしていた。

やはり、注目の集まる事件のために長めに警備の時間を取っていた。

 

そこへ暗い影がゆらりと不気味に近付いてきた

 

 

「「!?」」

 

警官たちはその暗い影から手が伸びてきたことに気付いたが何も出来ずに意識を失った。

 

「『ドルミナー』」と現場を見張る警官達にシンは目の前で魔法を唱え、眠らせた。

倒れそうになった二人をクーフーリンが受け止めた。

「大胆ね」とピクシーは笑った。

 

シンはアパートへとジャンプで移動するが、

すでに証拠やどうやって死んでいたかは分からない。

 

それでもシンは貯水タンクの手すりだと気が付いた。

シンはまず、周りの手すりを見て、すぐに死体がどこにあったか理解した。

 

貯水タンクの手すりだと。

シンは梯子を登り、ものすごい近い距離でその死体がぶら下がっていたであろう場所を眺め、においを嗅ぐ。

(…微かな血の匂い。やはり、ここか。)

 

手すりを指でさっと辿り、観察する。

「相変わらず、好きね。そういうの」

「…面白いものだ」とシンは笑みを浮かべ、指を拭く。

そして、両手の指先同士をくっつけ、考える。

 

 

やはり、来るのが少し遅すぎたようだ。

証拠は殆どわからない。

しかし、はっきりしたことがある。

 

 

こいつは真犯人ではない。

 

 

 

 

 

「いませんねぇ…どこに行っちゃったんでしょう」

「ったく、少しお前は黙れねぇのか」と堂島は足立の頭を叩いた。

 

堂島と足立は容疑者を探すため、歩き回っていた。

 

 

「いっ!…そんな、つよく…」

と足立がふと、足を止めた。

 

「何やってんだ!足立ぃ!」

「堂島さん!警官が倒れてますよ!!」と足立が指を指すと、そこには壁に寄りかかるように二人の警官が倒れていた。

 

奇しくも、そこは三件目の殺人現場。

 

二人は駆け寄り、息を確認する。

「本部に連絡しろっ!」と堂島は足立に警察に連絡するように言い、アパートの上へと駆け上がった。

 

 

「誰か来たみたい。」とピクシーはシンに言うと、まるで風のように消えた。

 

シンはぶつぶつと何かを言っていた。

 

「お前…何をやっている。」と堂島にはシンの顔は見えていない。

原因は田舎のせいだ。

あたりには街灯もなく、真っ暗に近い状態である。

 

シンはその声に気が付くと、堂島のほうを向いた。

堂島が一歩、足を出した瞬間

シンはニヤりと笑う。

 

「!?」

 

堂島が驚いたときにはすでにシンは手すりを掴み、飛び降りていた。

 

堂島はすぐにシンの降りたであろう、場所を見たが、そこには何もなかった。

 

 

 

「顔とか、見えなかったんですか?」

「…ああ、暗くてな」と堂島は救急車で運ばれる警官たちを見て、煙草をふかす。

「一体、誰なんでしょう。それに、この高さから飛び降りて、消えるなんて…。」と足立はその人物が飛び降りたであろう、場所を眺めて言った。

「…見回りに戻るぞ。」と堂島は煙草を携帯灰皿にすり付けると歩き始めた。

 

 

 

 

 

「無茶をするな」

ニャルラトホテプとシンが影からヌルッと這い出てきた。

 

「別にこれ以外の方法は13通りはあったが、偶々、お前の気配がしたから、この方法を取った。」

「全く…」とニャルラトホテプはあきれた顔で、影へと消えていった。

 

深夜になりつつある、静寂に包まれた道をシンは自宅方面へと歩いていた。

 

「そんなに少ないの?予想数は」とピクシーは突然現れ、歩いて帰る、シンに言った。

「相手が相手だ。仮にも鳴上の叔父。

魔法なり何なり使って、問題が起きてはな。」

「ふーん。あの鳴上ってニンゲンに肩入れしてるの?」

 

 

 

「…肩入れ…というより、共に居て退屈しないのさ」

「…それを肩入れって言うんじゃないの?」

「…そうかもな」とシンはポケットに手を入れ、近くの自宅へと帰った。

 

 

 

 




何だかんだ、すぐに帰ってきました。

それで、私事ですが、とあるドラマの新しいシーズンが始まりまして、嬉しいかぎりです。

今回の内容にも、「退屈なら銃でも撃てば?」というセリフがありますが、それはそのドラマで主人公が「退屈だ!」と言いながら銃を撃つシーンがありまして、それを入れてみました。

この作品を作るにあたって、その主人公を少し意識したところはあります。
それで、その主人公はその才能と能力で孤独な印象を受けました。(性格もあるかもしれませんが…)
シンも孤独なんじゃないかな?と思い、この作品を書き始めました。

「似てねぇよ」と言われればそれまでですが、今回はそれが少しだせた気がします。
そのうち、「○○、しゃべるなこの町全体のIQが下がる」とか言わせてみたいな…とか思ったりする。


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