第22話 Unexpected "Death" 7月10日(日) 天気:曇/晴
6月25日以降、りせの回復が望まれる中、変哲もないただの日常がシンの生活を満たしていた。
何故なら…いや…後に語るべきだろう。
シンは高校生活も慣れてきた。
だが、未だに人間の接することに違和感を覚える。
(うまくいかないものだ…)とシンは思いながら生活していた。
7月9日の夜には濃霧が立ち込めた。
これでまた一人救出できた。鳴上達はそう思い、目を閉じ眠っていった。
「…」
シンは深夜、自宅の窓から霧を眺めていた。
シンはこの静まりかえった世界に、自分が溶けていくような感覚で満たされていた。
温泉にでも浸かるような、満足感に満たされる。
メリーはそんな雰囲気を見てぼそりと呟く。
「…やはり、間薙様は"王"です。」
「?」とシンはメリーの方を見て首をかしげた。
「私はこれほど夜に溶け込み、幻妖な姿をした方を知りません。」
「…そうか。嬉しいね」とシンは淡々と答えると、ソファに座り軽く目を閉じた。
…7月10日。
町はサイレンに包まれていた。
鳴上はそれを気にし、窓の外を眺めていた。
(…何か、あったのだろうか)と鳴上は思う。
一抹の不安が鳴上の胸中に去来していた。
そこに携帯が鳴る。千枝からであった。
「はい。鳴上です」
「た、た、たいへん!商店街の外れで、し、死体が見つかったって!」
「!?本当か!」
「ね、なんで!?だって、あたしたち…とにかく、ジュネスで待ってるから、急いできて!」
鳴上は慌てて、携帯を閉じ階段を駆け下り、「行ってきます!」と菜々子に言うと、走って出て行った。
ジュネスの屋上に行くと、すでに天城と千枝、完二が座っていた。
千枝は鳴上に気が付くと、立ち上がり
「あっ、こっち!今、花村とシン君が現場見に行ってる。たぶん、もうそろそろ…」
そこに花村が走ってくる。
「ハァ…やっぱ、殺人だ。死体、アパートの屋上の手摺りに、逆さにぶら下がってたって…」
と花村は息を切らしながら皆に説明する。
「そんな…そんな事って…」
「それよか、大変なんだよ!!殺されたの…“モロキン”だ。」
「モ、モロキン…!?」
花村の思わぬ被害者に皆が驚いた。
「モロキンって、あのモロキンか!?先輩らの担任の…」
「な、なんで…!?なにそれ!?」
「知らねーよ!けど、見たヤツが居たんだ!間違い、ねーよ…」
と花村も慌てている様子である。
「んだよコレ…狙われんのは、テレビ出た奴じゃねえのかよ。
夜中の番組も、普通のニュースも、モロキン出てるとこなんて見た事ねえぞ!?」
「くそ…どうしてこんな事に…」
「…」
「…」
千枝は俯き言う。
「色々、分かったような気してたけど…結局、全部ただの偶然だったのかな…」
「マヨナカテレビも、本当は関係無いのかな…」
「ちっくしょ、ここまできて振り出しかよ!!やっぱり…警察も捕まえらんない犯人を俺らで、なんて…無理だったのか?」と花村は机を叩いた。
「諦めるのは早い」と鳴上は皆に言った。
「ったりめーだぜ、鳴上先輩!」と鳴上の言葉に完二は応える。
「そもそも、警察にゃ無理だろうって始めたんじゃねえスか。
オレらが腰砕けんなったら、犯人は野放しんなっちまう。
泣きゴト言ってる場合じゃねえ…オレらなりのやり方で、前進むしかねんだ。
間薙先輩だって言ってたじゃないっすか!
どんなことがあっても前に進むしかねぇって!」と完二はみんなに言い聞かせるように言った。
「完二くん…」
「ふん…完二のクセに、生意気だ。」と花村は完二を叩いた。
「な、何スかソレ!」
そこにゆっくりと歩いてくるシンが居た。
その隣にはクマが居た。
「お、おまっ…何でココに…!?」と花村は思わない存在に驚いた。
「クマさん、出ちゃっていいの!?」
「つか、出れるんかよ!?」
「そりゃ出口あるから出れるクマよ。今までは、出るって発想が無かっただけクマ。
でもみんなと一緒にいたら、こっち側に興味がムックリ出たクマよ。
シンクンのせ…」とクマは何かを言いかけ、シンに後ろから軽くど突かれた。
「痛いクマ…」とクマはシンにだけ聞こえるように言った
「秘密」
「…そうだったクマ」とクマは思い出したように言った。
「え?なんだって?」と花村が不審がる。
「それで、それで、考えてみたら行くトコ無いし、戻るのも勿体無いし、椅子に座ってて、まってたクマ」とクマは慌てた様子で話をする。
「そこに俺が鉢合わせた。それでここに連れてきた」とシンは言う。
シンは続けて、自分が調べてきた情報をみなと共有する。
「…俺が聞いた話では、やはり被害者は諸岡金四郎。」
「やっぱり…」と天城はショックそうにため息を吐いた。
「もう一回しつこく確かめるけどさ。
あっちの世界の霧が晴れた時まで、中にはお前だけだったんだな?」
「そう言ってるクマ」
「でも、天城先輩の話だとすっと、今度こそしくじらねえように、
いよいよ外で殺りやがったって事か。クソ…もしそうなら、
もう犯人押さえねえと防ぎようねえぞ!?」と完二はため息を吐いた。
「手掛かり要るよね…りせちゃん、そろそろ話聞けないかな。」
「そうだな…それに期待するしかねーや。」
「ハァ~、それにしても暑っクマー。…取ろ。」とクマは自分の頭に手を付けた。
外そうとしたクマの頭を叩き花村が戻す。
「取るって、まさか“頭”か?やめろよ、子供見てんだろ!
ったく…中身カラッポで動いてるとか、トラウマ残るっての…気ィ遣えよ。」
「でも、元気になってよかったね。毛もフサフサ。」と天城はクマの毛を見て言った。
「さ、触っていいか…?」と完二は手をわきわき動かしていた。
「ダメックマ。
てゆーか、ふふーん。クマもうカラッポじゃないクマよ。
チエチャンとユキチャン逆ナンせねばって、復活頑張って、中身のあるクマになったクマ!」とクマは両手を上げた大喜び
。
「はいはいエラい、よくやった。」
「もう! 逆ナン、いつまで引っ張る気?」
「だいたい、中カラッポなのに、頭開けたって暑さ関係ねーだろ。」と花村はクマの頭を叩いた。
「だから、カラッポじゃないってーの!
あーっち。
もう、限界クマ…」
クマが頭を開けた瞬間、皆が口を開いたまま驚いた。
シンだけは特に淡々とステーキを食べていた。
商店街近くのアパートに白鐘直斗はいた。
聞き込みである。
(…間薙…あの人の家か)と直斗は思い、インターフォンを押す。
「…はい」と女性の声がした。
「今朝あった、事件について調べています。」
「…少々お待ちください」と女性は言うと、すぐにドアが開いた。
直斗はその恰好を見て少し驚いた。メイドの恰好をした顔の整った女性が出てきたからである。
しかし、目が赤く独特の雰囲気を醸し出していた。
「ご用でしょうか」
「今朝あった事件について調べています。今朝、何か不審なものなどはみませんでしたか?」
「特には見ておりません。眠っておりました」と女性が話していると、
「…メリーさん。わたし、いまあなたのうしろにいるの」とメイドに金髪の少女が抱き着いた。
「…失礼」とメリーと言われた女性は淡々と、その少女に「お嬢様。今はお話しています」というと、少女は頬を膨らませて部屋の奥に戻って行った。
「…そうですか。ありがとうございました」と直斗は頭を下げ、次の家へと向かおうと思うと、シンが来た。
「こんにちは」と直斗は帽子を外し挨拶をした。
「ん。こんにちは」とシンは言うと、「今朝の事件か?」とすぐに尋ねた。
「ええ。」
「そうか。…頑張ってくれ」とシンが家に入ろうとしたとき、直斗が口を開いた。
「あなたは、あなたはどう考えていますか?」
「…さあな」とシンはそれだけ言うと、家の中へ入って行った。
鳴上達男子は四六商店前にいた。それはりせに会いに行くためである。
「ん~。"ホームランバー"の季節っスねー。」と完二はホームランバーを食べながら熱い空を眺めていた。
「さっきから何本食ってんだよ。腹壊すぞ」と花村はため息を吐いた。
そこに千枝と天城が合流する。
「ハァッ、ごめん、遅くなった…」と千枝は暑そうに顔の汗を拭いた。
「ったく、クマきちの服なんか別に何でもいーだろ?」
そこに颯爽と現れる金髪美少年。
彼がクマの中に居た。クマ。
つまり、本当に中に人間のクマが生まれたのである。
そのクマの恰好は王子様風で金髪美少年。それに全員が驚き、数秒時間が止まったように感じた。
「のぁ…!ク…クマか、お前?」
「イッエース、ザッツライト。イカガデスカ?」と外人風にクマは鳴上に尋ねた。
「ブリリアントだ」
「や…合わせなくていいって。」と千枝は鳴上に突っ込んだ。
「あたしもビックリだけどさー。間違いなくあのクマくんだから。
てか、性格まんまでまいったよ…見るモン全部新鮮らしくて、もう大騒ぎでさ。
女性モノのフロアじゃ、コーフンしてワケ分かんない事叫ぶし…
あんた、以後このカッコん時は、本能のままにはっちゃけたらダメだからね?」
千枝に怒られたクマはショックそうに俯いた。
「でも、仕方ないよね。ほんとに初めてなんだもんね?」と天城は励ますようにクマに声を掛けた。
「ハァ…わかったよ、そこまでヘコまなくていいから。別に許さないとか言ってないでしょ。」
「よかった! 嫌われたのかと思って、ドキドキしちゃった。」とクマは嬉しそうに千枝をみた。
「ふふ、まったく…大人しくしてりゃ、見た目はカワイイのに。」と千枝はクマを見ながら言った。
「待たせた」とシンはメリーと少女を連れてきていた。
金髪の少女は嬉しそうに四六商店の中へと入って行き、それに淡々とメリーはついていった。
「はは…なんつうか、もうなんでもありだな」と花村はもう頭の速度が追い付かないのかため息を再び吐いた。
「悪魔?」と鳴上はシンに尋ねた。
「そう。すこしばかり預かってる」とシンは言った。
「クマは何か食べるのか?」とシンは財布を出そうとしたが
「しゃーないな。」と花村は財布から千円札をだし完二に渡した。
「完二、これで好きなだけアイス買って、クマと分けろ。
俺たち、ちょっと豆腐屋行って来るから、ここで大人しくしてろよ。」
「ワーオ、リッチマン!」とクマは嬉しそうに飛び跳ねた。
「そんな、イキナリもらえねっスよ!」と完二は花村に千円を返そうとするが
「リニューアルしたクマきちの、歓迎ってとこだ。その代わり騒ぐなよ。」
花村は少しかっこよく言った。
「お~、どーしたの花村、急に"先輩"じゃん。
そっか、口じゃ色々言っても、ほんとはクマくんにも優しんだ。
よかった、花村がオトナで。オトナは細かい事気にしないよね。」と千枝は何かを含みながら言った。
「何だよ…何かあんな、その言い方?」と花村は千枝に尋ねる。
「クマくんの服さ、持ち合わせで足りない分、花村のツケで買ったから。」
「ツケ?はぁ!? ツケ!?何だそれ、聞いてねーぞ!?」と花村は叫んだ。
「お金無いんだからしょーがないじゃん!ジュネスのくせに、服高いし!」と千枝もそれと同じくらいのボリュームで声を出した。
「ツケって、マジでツケたの?どどどーしてくれんだ! 俺がバイク
買ったばっかで貯金カスカスって知ってるだろ!?」
「いーじゃん別に。 どっちにしろカスカスなら、大して変わんないって。」
「何いぃ!?」と更に花村は怒り、声が大きくなる。
「オーケー、ベイベ。ボクのためにケンカは…「だぁーってろ!
つか、お前のせいだろーが!!」」とクマの言葉は遮られしょんぼりとクマはする。
「くっそ~…いいかクマ…
それ、大事に大事に大事に着ろよ。
イタズラして破いたら、次からはお前の脱いだ“クマ皮”で仕立てるからな!」
その言葉に更にクマはしょんぼりしている。
「おいクマ、しょげてんな。"ホームランバー"食い行くぞ。」と完二の言葉に表情が一転し、四六商店の中へと入って行った。
陽介と千枝は再びケンカしている。
「先、行こう。千枝たち…長そうだから。」
「そうしよう」と鳴上が言うと、シンもそれにうなずき豆腐屋へと向かった。
「おや…やっぱり来ましたね。間薙さん」
「君も大変だな」とシンは直斗に言う。
「いえ、そうでもないですよ」と直斗は帽子を深く被り直した。
「今度は、久慈川りせを懐柔・・ですか?」
「懐柔とは…別に俺たちは宗教家じゃないぞ?」とシンは鼻で笑う。
「ったく…店員の方もツケで売んなってん…
あれ、こいつ…確か、完二ん時の…」と花村が入ってきて直斗を見るとそういった。
「…後ろの人たちはあれ以来ですかね。まだ名乗っていませんでした。
僕は白鐘直斗。
例の連続殺人について調べています。
ひとつ、意見を聞かせてください。
被害者の諸岡金四郎さん…皆さんの通う学校の先生ですよね。」と直斗は鳴上達に尋ねる。
「そ、それが何?」と千枝は少し動揺したように言った。
「第二の被害者と同じ学校の人間…世間じゃ専らそればかりですが、そこは重要じゃない。
もっと重要な点が、おかしいんですよ…
この人…“テレビ報道された人”じゃないんです。どういう事でしょうね?」と直斗は鳴上達の反応を見る。
「しっ…知るかよ、そんな事。」と花村もすこし焦っているようにも見えた。
「…」
直斗はじっと鳴上達を見回すと、
「…まあいいです。とにかく…僕は事件を一刻も早く解決したい。
では、また」と直斗はシンにアイコンタクトをすると、でていった。
シンもそれが外に来いということの合図だと分かり、外に出て行った。
シンは直斗についていき、だいだら。のまえで話を聞く。
「…やはり、あなたより彼らを揺さぶった方がいいみたいですね」
「さあね」
「…あなたは本当にそれが口癖ですか?」
「興味ないね」とシンは傑作RPGの主人公風に言った。
完全に煽っている。
直斗はふぅと一息吐き、シンに言った。
「今回に関しては確実にあなたたちではない。ですが、これ以前のものは…まだ疑問が残っています。」
「そうかね…」
「…では、また」と直斗は頭を下げ、去って行った。
そこに、鳴上達が丁度豆腐屋から出てきた。
「…なんだ、知り合いだったのか?」と花村は少し驚いた表情でシンを見た。
「…そうだな」とシンはうなずいた。
「どんなやつなんだ?」
「頭の回転は良いが、どうも子供っぽいな」
一行は神社の境内に来ていた。それはりせの話を聞くに他ならない。
「それで何か覚えてることないか?」と鳴上はりせに尋ねる。
「うん、家に居た事は覚えてるんだけど…気が付いたら、もう“向こうの世界”だった。」
「またしても、犯人については手がかり無し、か…」と千枝はため息を吐きながら言った。
「さっき、白鐘ってヤツに会ったけど」
「あいつは、探偵だ。警察に協力要請を出されたから、来ているんだろう」とシンは花村の疑問に答えた。
「一応だけど、向こうの話はしてないんだよね?」と天城はシンに尋ねた。
「無論」
「あの…その…」
「…ん? どしたん?」
りせの言葉の含みに千枝が反応した。
「あの…助けてもらっちゃって…
…ありがとね!嬉しかった!」と飛び跳ねて嬉しそうな顔で言った。
「えっ…あはは。いーって、そんなの。」
「やば、カワイイ…あー、今やっとホンモンって実感した。確かに“りせちー”だ。」と花村は嬉しそうに言った。
「その…最近の私、疲れてて少し暗かったから、嫌かなと思って…
喋り方…へん?あ、でも、世間的には今の感じの方が、私の“普通”なのかな…」
そういうと慌てた様子でりせは話を続ける。
「ごめんなさい、私…どの辺が“地”だか、自分でもよく分かんなくなってて…」
「はは、そんな、謝る事?いいじゃん、その時々で。」
「無理に決めなくても、誰だって色んな顔があると思う。」と天城が言うと千枝は天城をみて笑った。
「あはは、雪子が言うと説得力あるわ。」
「えっ…そ、そう?」
「……。ありがとう。」そういうとりせは笑った。
「ふふ、よかった。最初に知り合ったのが、先輩たちで。」
その後、りせにあの世界の事、めがねを渡し協力を要請したところ、協力してくれることになった。
クマはシンが引き取ると言ったが、花村が「ジュネスでこき使う」と言っていたのでクマは花村のところで引き取ることとなった。
これでまた最悪の事態を回避できた。
犯人への目星はついていない。
だが、確かに我々は一歩前進したといえる。
所謂、ストーリーのセリフにシンを混ぜることをしていたら、とんでもなく文章量が増えてきて、話が進まない。