真剣で京に恋しなさい!   作:やさぐれパパ

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第六話 「家族じゃないか」

 

 

「なっ!?これは武が放っているものなのか!?」

 

「こ、この力…信じられません」

 

 

クリスと由紀江が驚愕の声を上げる。

 

 

「ははっ凄い闘気だ。こんなにキレた武は久し振りだなぁ…あいつ死ぬぞ?」

 

「まぁ死んでもらって全然構わないんだけど、武を人殺しにするわけにはいかないから姉さん、京、準備しておいて」

 

 

大和の言葉に百代は渋々、京は黙って頷いた。

 

 

「な、なんなんだよちくしょう!…ひぃっ!?」

 

 

男は封じた筈の武の視線を感じて悲鳴をあげる。

それは人間に少しだけ残された動物的本能からくる警告だった。

生存本能を脅かす死への警鐘。

血で拭われた赤い瞳から向けられる、明確な殺意の前に男はミスを冒す。

これは殺し合いではなく、決闘だと言うことを忘れて背を向けてしまったのだ。

一言「まいった」と言えば、それで決着だったにも拘らず。

そしてもう一つ、これはミスではなく不幸と言うべきだろう。

今日から夏服だったと言うことは。

 

 

「ぎゃああ"あ"ああ"ああ"あ"あああっ!!!」

 

 

物凄い絶叫が体育館に響いた。

背後から武に襲われた男は、その肩口をシャツごと食い千切られていた。

武は血飛沫が上がる男の後頭部を掴んで、そのまま頭を床に叩きつける。

一度、二度、三度、四度、男が動かなくなるまで叩きつけた後、人形のようになった男を引き起こしてから後頭部から手を離し、倒れ行く男の脇腹を全力で蹴り上げる。

骨が砕ける音が響いて、まるでトラックにでもはねられたかの様に吹っ飛んだ男は、原型を留めていない口から血の泡を吹いて床に転がると、ピクピクと痙攣したまま動かなくなった。

 

 

「それまで、っておい二条!」

 

「があぁああっっ!!」

 

 

巨人の言葉を無視して、武はなおも倒れている男に飛び掛かる。

 

 

「そのへんにしておけよっ!!」

 

 

その瞬間、間に割って入った百代の全力の蹴りが武を真横に吹っ飛ばす。

轟音と共に館内の壁につけられている防御壁に背中から打ち付けられるが、武はまるで効いていないかのように瞬時に体勢を立て直すと、再び倒れている男に襲い掛かろうと地を蹴る。

 

 

「やはり駄目か、京!!」

 

「武大好きっ!!」

 

 

体育館内に京の場違いな声が響いた。

 

 

「「…え?」」

 

 

ぽかーんとしているクリスと由紀江の前を、急に方向転換してきた武が横切って京の元まで駆け寄るとその両手を握った。

武の顔は返り血よりも赤く染まっている。

 

 

「みみみみ、みやこ!?いいいいいいまいます好きってすすす好きって言ったかっ!?」

 

「あー…ごほんっ」

 

突然の状況についていけてないだろう二人に風間ファミリー解説が始まる。

 

 

「簡単に言うと、ああなった武は殆ど無意識で敵を徹底的に潰そうとするわけだ」

 

「しかも、力で止められるのがお姉様だけって言うのもたちが悪いわ」

 

「さらに言うと、京の刺激ある言葉じゃないと元に戻らないんだぜ!」

 

「昔それがわかる前に全治一年くらいの大怪我負わせちゃった事もあるよね」

 

「そうそう、しかも止めに入ったモモ先輩の方が楽しくなってきちまって二重に大変だったぜ」

 

「あれは楽しかったな…まぁ終わると武は全然覚えてないんだけどな」

 

「あ、呆れた奴だな…」

 

「ですけどあの力、一瞬でしたけど凄かったです」

 

『いや~まさかこんな近くに凶戦士が居るとは思わなかったぜマジパネェよ』

 

 

百代達はやれやれと肩を竦めて武を見る。

 

 

「す、すすす好きって俺に言ったんだよなっ!?そうだよなっ!?」

 

「あれ?間に私は大和がって入れたの聞こえなかった?」

 

「ぐぎぎぎぎ~や"~ま"~と"~!」

 

「おい!血の涙を流しながらこっちに来るんじゃねぇ!!」

 

「おーい、お取り込み中のところ悪いんだけど、とりあえずこの血だるま何とかしろよ。本当に死んじまうぞ」

 

「ああ、すっかり忘れていた」

 

呆れた様に言う巨人の言葉に、思い出したかのように百代が携帯で川神院に連絡を取る。

普段は保健室行きだが、怪我の程度から川神院に任せるのが良いと判断したためだ。

恐らく半年はまともに食事すら取ることは出来ないだろう。

それほどキレた武の攻撃力は高い。

 

 

「死んでないわよね?」

 

「まだ息はあるね」

 

「辛うじてって感じだがな」

 

「ほらほら、オジサンが応急措置しておくから蹴るのは一発にしといてさっさと帰れ」

 

「ヒゲ先生ありがとうね。止めるタイミングわざと遅らせてくれたでしょ?」

 

「これで何個か借りてた分チャラだぞ」

 

「何個と言わず全部チャラで良いよ」

 

「そいつは助かるな。おい川神百代お前は蹴るなよ」

 

「ちぇっ」

 

「ほらいったいった」

 

 

巨人の声に無事落とし前をつけた武達は解散して帰ろうとする。

 

 

「…武はこっち」

 

 

京はそのまま行こうとする武の襟を引っ張る。

 

 

「な、ななな、まさか教会に!」

 

「…しょうもない…額から血が出ているし、あちこち傷だらけだから保健室に行くよ」

 

 

武は京に言われて初めて自分の額から血が出ていることに気付いた。

 

 

「ばっ!こんなの舐めときゃ治るって!」

 

「自分の額を舐められる人間が何処に居るか」

 

「そ、それだったらなんだ、その、み、みみ」

 

「ロードランナーの真似?」

 

「ちげぇよっ!!」

 

「私が治療してあげるって言ってるんだから大人しく来なさい」

 

「わんっ!」

 

 

武は大人しく京に引きずられながら保健室に向かった。

しかし、保健室に着くと入り口には先生が不在である事を告げる看板が掛けられていた。

 

 

「…チッ」

 

「なにその舌打ち!さてはお前先生に任せて帰る気だったな!?」

 

「ソンナコトナイヨ」

 

「ひでぇっ!!」

 

 

京の反応に、半泣き状態で抗議の声を上げる武を無視して保健室に入っていく。

京は納得のいかない様子の武を椅子に座らせると、慣れた手つきで治療セットを用意する。

 

 

「随分詳しいんだな」

 

「ん?…ああ、ワン子にキャップとうちのファミリーは怪我する人が多いからね」

 

「そう言えばそうだな。まったく京に迷惑かけやがって」

 

「…一番怪我が多い人が言う台詞じゃないと思うよ?」

 

「スイマセン」

 

 

京が額の傷を見ようと武の髪に触れようとした瞬間、武はおもいっきり体を引いてその手を避けた。

 

 

「…?」

 

「あっ!いやちがうっ!ほら、俺今汗かいているし血で汚れて汚いから、手袋しろ、なっ!」

 

 

武の反応に京は呆れた様にため息を一つ吐くと、構わず素手で髪を掻き上げて傷を見る。

 

 

「こんな時にしょうもない照れ方しないの」

 

「だ、だってよぉ」

 

 

既に武の顔は赤くなっている。

 

 

「…うん、そんなに深くないね。少し沁みるよ」

 

 

消毒液を含ませた綿で丁寧に傷を綺麗にしていく。

消毒液の匂いに混じってする、近づいた京の優しい匂いに武はさらに顔を赤くする。

 

 

「…ねぇ武」

 

「な、なんだよ」

 

「…ありがとうね」

 

「止せや、別に礼を言われる事をしたつもりはねぇよ」

 

 

武は惚けたようにそっぽを向く。

 

 

「動かない」

 

 

その頭を強引に戻される。

ふと目が合うと、京の瞳には悲しみの色が浮かんでいた。

悔しそうに唇を噛んで、搾り出すように言葉を吐き出す。

 

 

「今さら、何を言われても、平気だって思っていたのに……」

 

 

武の額に触れている京の手が震えていた。

 

 

「…もう、平気だって……」

 

「京…」

 

 

武はその手にそっと自分の手を重ねる。

 

 

「平気じゃなくたって良いさ」

 

「…で、でも」

 

「無理して平気でいる必要なんてない…お前には俺が、俺達が居る。辛い時は頼ってくれよ…家族じゃないか」

 

「……うん…」

 

 

京は小さく頷いて治療を続ける。

武は自分の手が京に触れているのを思い出して慌てて引っ込めるた。

 

 

「あ~いやそのなんだ、ところで京さん?もしかしてこの治療って」

 

 

武は照れているのを誤魔化そうとおどける武に、京の優しく冷たい声が届く。

 

 

「保健の適用外です」

 

「えっと、あまり高い医療費には控除が」

 

「椎名国にそんな制度はないんだ」

 

「いやいや京大統領、ここは日本で学園の保健室の中なんですけど!!」

 

「…私が一歩踏み入ればそこは椎名国となる」

 

「とんでもねぇチートの侵略者がいる!」

 

「それに、さっき私の匂い嗅いだでしょ?」

 

「ばっ!?そりゃ不可抗力だろ!!」

 

「…モモ先輩に武に保健室で襲われたって報告しておく」

 

「捏造なうえに脅迫罪だ!おまわりさ~ん!」

 

「…ククク」

 

 

夕陽が射し込む保健室で京が笑う。

その瞳には先ほどまでの悲しみの色は無くなっていた。

 

 

「はい終わり。噛み締めて砕いた歯は歯医者で診てもらってね」

 

「さんきゅう京」

 

「…武…あり」

 

「さてとっ!!疲れたから帰ろうぜ」

 

 

武は京の言葉を遮るように勢いよく立ち上がる。

 

 

「…うん」

 

 

その日、夕日に照らされて伸びる影は珍しく武一人のものではなかった。

武より短い影が、隣と言うにはほんの少しだけあいた距離で伸びていた。

 

 

 




特に強さについては触れませんでした。
まぁ獣みたいな奴と思ってください。
噛みついてますし…キョウリュウジャー見ながら書いてたわけじゃないですよ?
次回は金曜集会とかちょいちょい説明回になりそうです。

ではまた次回で。



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