真剣で京に恋しなさい!   作:やさぐれパパ

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第三話 「京が俺を愛しているって?」

 

 

 

通称「変態橋」に差し掛かった所で、黒塗りの高級車が武達のすぐ横に止まった。

運転席から品の良い老執事が降りてきて、後部座席のドアを音も無く開ける。

そこから降りてきた、およそ高級車に似つかわしくない学生服に赤いバンダナをした男に風間ファミリーの一同は目を丸くした。

 

 

「いや~わざわざ送ってもらって悪いな。ありがとうよ!」

 

 

誰あろう風間ファミリーのリーダー、キャップこと風間翔一その人であった。

全員が唖然としているなか、同じ後部座席に乗っていた銀髪の少女が翔一の手をとる。

 

 

「風間様…」

 

「また困った事があったら何時でも呼べよな。俺が…いや、さっき話したここにいる俺の仲間と俺が必ず駆けつけてやるからよ!」

 

 

少女の手を握り返して翔一はニカッと笑う。

その笑顔に何か言いかけた少女は口を噤み、手を離すと老執事に目で合図を送る。

 

 

「風間様、この御恩は生涯忘れません」

 

「気にすんなっ!」

 

 

老執事は後部座席の扉を閉めると、翔一に深々と礼をして運転席へと戻る。

少女が前を向くと、静かに車が動き出して景色が流れていく。

 

 

「良かったのですか?お嬢様」

 

「ええ…最初からあの方の中に私の居場所はありませんでしたわ…それに」

 

 

車内からもう一度だけ振り返ると、翔一は既に仲間達と楽しそうにしている。

 

 

「私もあの方の様に前を向いていかなくては」

 

「ご立派です。お嬢様」

 

「さようなら……私の愛した風…」

 

 

 

 

 

 

などと言うやり取りが車内で行われているとは、翔一は夢にも思わないだろう。

 

「いや~ふらっと出掛けた先で追われていた女の子を助けたら、なんかすげぇ金持ちの家の娘で、遺産相続のお家騒動に巻き込まれて、黒スーツの追手に銃撃されたりカーチェイスで崖から落とされたり相手の根城を爆破したりで楽しかったぜ!!」

 

「休日にふらっと出掛けただけで小説が書けちゃうような体験してくるとかどんだけなのさキャップ」

 

「俺、そのモロの突っ込みを聞くと帰ってきたんだって感じがするから好きだぜ」

 

「突拍子もなく怖いこと言わないでよ!!」

 

 

予想の斜め上を常にいくキャップの行動に、慣れているはずの面々も驚かされるのが風間ファミリーの日常であった。

 

 

「つーかひでぇよキャップ…日曜日は俺と出掛ける約束してたろ?携帯も繋がんねぇしさ」

 

「わりぃわりぃ携帯壊れちまってさ、その代わりと言っちゃーなんだが、武が喜ぶ土産をもらってきたぜ!」

 

 

翔一は拗ねたように言う武を手で制して、持っていた大きめに袋をあさり始める。

 

 

「んだよ、俺が喜ぶ土産なんて京関連以外で在るわけがー」

 

「じゃじゃーん!幻の小豆「丹波黒さや大納言」だ!!」

 

「キャップ大好きだっ!」

 

 

武は迷うこと無く翔一の胸にダイブした。

同時に京が何時もの赤い10GOOD!!の札をあげる。

 

 

「素晴らしい友情だっ!!」

 

 

声こそあげなかったが、クリスも顔を赤くして食い入るように見ている。

 

 

「わーい♪また美味しい水羊羮が食べられるわ」

 

 

一子が喜びの声を上げているのを、意味がわからずに不思議そうに見る由紀江に、気付いた大和が解説する。

 

 

「武は夏に大好物の水羊羮を作るが趣味なんだよ」

 

「水羊羮ですか?」

 

「今水羊羮って単語が聞こえて」

 

 

刹那、轟音が響いて百代の拳が言いかけた武の頭を地面にめり込ませた。

 

 

「めんどくさいから寝ていろ。武が作る水羊羮は絶品だぞ。なにせ賞を取ったこともあるくらいだからな」

 

 

百代はピクピクと痙攣している武を無視して、食べた時の事を思い出しているのか、自然と喉が鳴っている。

 

 

「ほんと凄く美味しいよ…まぁ問題もあるけどね」

 

「問題、ですか?」

 

 

地面にめり込む武を苦笑いで見る卓也。

百代は痙攣している武を心配そうにツンツンとしている由紀江に説明する。

 

 

『たけ坊が沈むとかモモ先輩、万力込めて殴りすぎじゃね?つーか死んでるよこれ』

 

「すぐ起きるから心配するな。良いかまゆまゆ、武にとって水羊羮作りは趣味と言う枠に収まらず、生き甲斐というか最早夏に行う神聖な儀式になっていると言っても過言ではない。例えるなら弟のヤドカリだ」

 

「そ、そこまでですか…」

 

『こ、こいつは危険な香りがするぜぇ』

 

「ちょっ!?姉さん俺と武を一緒にしないでよ!まゆっちも若干引いてるし」

 

「いや、どう考えても同じだな。俺様に言わせれば水羊羮食わせてくれる分、武の方が大和のヤドカリよりマシだぜ」

 

「あ?ガクトお前ヤドカリ馬鹿にしてんの?」

 

「ヤドカリじゃなくてお前だっつーの!…ったく、そう言う所のタチの悪さはどっちもどっちだな」

 

「こんな感じで武も水羊羮を作っている最中に邪魔されるとキレちゃうんだよね」

 

「なにせ京にでさえ怒ったからな」

 

「ええっ!?そ、それはなんと言うか尋常じゃないというかなんと言うか」

 

『たけ坊が京姉さん怒るとかどんだけだよ』

 

「じ、自分も大和にヤドカリの件で相当怒られたからな…気を付けよう」

 

 

クリスは以前、大和のヤドカリを水槽から出してして一匹行方不明にしてしまい、泣くまで怒られたのを思い出して項垂れる。

 

 

「いててて…いや、あれは京が勝手に冷やしていた水羊羮に激辛ソースを注いだから…」

 

 

京と言う単語が聞こえた瞬間、地面からべりっと頭を上げて慌てて武は言い訳をする。

 

 

「私もまさかあそこまで武に怒られるとは思わなかった…よよよよ」

 

 

泣き真似をする京に武が大袈裟に慌てる。

しかしそれは何時もの感じとは違っていた。

決して大袈裟ではなく、本当に慌てていると言うか悲愴感すら漂っている。

 

 

「あ、いや、み、京、泣くなよ…あの、あ、お、俺…」

 

 

武は本気で泣きそうな顔をして、京の前でオタオタしている。

何時もと武の様子が違う事に、クリスと由紀江が不安そうにしているのを見かねて、百代が京にチョップした。

 

 

「こーら京、武の前で泣き真似は禁止だと言ったろ」

 

「あうう、痛いよモモ先輩。軽いジョークなのに」

 

「軽いで済んでないだろう。ほら」

 

「はーい…武、ごめんね」

 

 

優しく微笑む京に、武は一気に茹で蛸のように真っ赤になる。

 

 

「ぜ、全然きにしてないって!ほんと1ヨクトメートルも気にしてないから付き合ってくれ!」

 

「…それは良かったお友達で」

 

「ね、ねぇ大和…よ、よくとめーとる?って何?」

 

 

知っていなければいけないような常識的な知識を聞くと怒られる一子は、おっかなびっくり伏せ目がちに大和に質問する。

 

 

「そんな事も知らないなんてお仕置きだな」

 

「ひぃいっ!?」

 

 

大和のサドい目付きに一子は怯えて震える。

 

 

「なんて冗談だよ。まぁ日常生活ではまず使う事も聞く事もない単位で、0.000000000000000000000001メートルの事。つまり全然気にしてないって事だ 」

 

「おぉなるほど…つまり愛なのね」

 

「京が俺を愛しているって?嬉しい事言ってくれるじゃねぇか」

 

 

武は一子をひっつかまえて頭や首をわしゃわしゃと撫でてやる。

 

 

「はふ~ん」

 

「てめぇはどういう風に聞いたら今のがそう聞こえるんだよ?」

 

「無駄だってガクト。武には京関係の事は全てプラスに聞こえちゃうからね」

 

「ある意味幸せな奴だな」

 

「私と幸せな家庭を築きたいだなんて結婚して大和!」

 

「そんな事一言も言ってませんお友達で」

 

 

もじもじと照れる京にあきれる大和。

 

 

「おいモロ、もう一人耳のおかしい奴がいるぞ」

 

「無駄だってガクト。京には大和関係の事は全てプラスに聞こえちゃうからね」

 

「会話がループしてるからそろそろ行くぞ」

 

 

促す百代に翔一が勢いよく前に躍り出た。

 

 

「よーし!風間ファミリー全員集合って事で、これからどっか遊びに行くぞー!」

 

「おー!」

 

「おー!じゃないだろ犬!」

 

「あはははっ…つ、つい」

 

「はわわ、が、学校にはいかないといけないと思います…で、でもせっかくのキャップさんのお誘いに」

 

『遊びにいっちまえよまゆっち』

 

「まゆっち、そんなに真剣に悩まなくて良いからね」

 

「夏服の女子が俺様を待っているからパスだ」

 

「私は遊びに行っても全然構わないぞ」

 

「はいはい、姉さんも行くよ」

 

「俺は京が行くならどこへでも行く!」

 

「・・・しょうもない」

 

「なんだなんだ皆ノリわりぃぞ!!」

 

 

こうして風間ファミリーの学園生活が始まるのであった。

 

 

 

 




風間ファミリー全員集合って事で次からはちょっとずつ京分を増やしていこうと思います。
これを書きながら改めてゲームを最初からやっているのですが、結構忘れていることが多くて焦ります。
オリジナル展開って言っておいて良かった…。

ではまた次回で。


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