真剣で京に恋しなさい!   作:やさぐれパパ

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第二十二話 「お前は大和だけ見てろ!」

 

 

最終決戦の場では、文字通り激戦が繰り広げられていた。

S軍から裏切った吉川、小早川部隊が合流し、S軍本隊を叩くが、英雄が投入した三体の戦闘用に改造されたクッキー、マガツクッキーと不死川軍の残党によりほぼ壊滅する。

忠勝、一子もマガツクッキーをそれぞれ一体倒すが、残り一体により窮地に追い詰められていた。

 

 

「体力値が低下していくぞ?生身と機械では差が出て当然だがな」

 

「そんなもの、根性で何とかするわ!覚悟おおおおおっ!!!」

 

 

一子の渾身の力が込められた薙刀の軌道はマガツクッキーに読まれていた。

しかし、ふいに側面から鋭い矢がマガツクッキーに突き刺さる。

その方向を見なくても、一子には何が起きたか分かっていた。

 

 

「さんきゅうね京!はぁあああああっ!!!」

 

 

全力で振り下ろされた一子の薙刀が、マガツクッキーを真っ二つに切り裂く。

言葉も無く爆発するのを見届けて、一子も膝を突く。

その遥か後方に武と京はいた。

 

 

「さすがだな京、ナイスフォロー」

 

「言ってる場合?ワン子達はもう限界だよ」

 

 

体力を使い果たした一子と忠勝に敵が迫るのを見て京が弓を構える。

 

 

「安心しろ、あのクリ吉が最初に作った借りを返 さないわけないだろ?」

 

 

まるで、その光景が見えていたかのように言う武の言葉通りに、クリス率いる白の隊が敵本隊の真横から突っ込んできた。

 

 

「犬!借り一つ、今返すぞ!!」

 

「クリッ!!」

 

 

しかし、それも相手には想定の範囲内だったの か、すぐ数を集めて壁を作り対応してくる。

だが、そこに駆けつける一陣の風がた。

言うまでも無い、翔一率いる黒の隊だ。

 

 

「黒の隊、風間翔一来たぜぇえええっ!!!」

 

 

その黒の隊に対しても防御策は出来ており、不死川の残党により英雄には届かない。

キャップは部隊を二つに分けて一部隊で一子と忠勝を守るように陣を取った。

 

 

「よぉ、二人とも無事か?」

 

「キャップ…動きたいけどあたし」

 

「ああ、俺も…」

 

「心配すんな!後は俺に任せて休んでな!!」

 

「だったらこの二人の護衛は俺等に任せて、ここに居る部隊も全部連れて大将首取ってくれよ キャップ」

 

 

武と京が一子と忠勝の前に立つ。

 

 

「武に京!」

 

「ようやく到着ってね」

 

「…後は任せて」

 

「お前ら…へへっ頼んだぜ二人とも、よっしゃ!!黒の隊、最後の突撃だぁあああ!!」

 

 

掛け声と共に黒の隊は白の隊と合流して敵本隊へと突撃をかけていく。

しかし、いくら精鋭部隊とは言え流石に疲弊しており数でも負けている。

敵総大将九鬼英雄までのあと一歩が遠かった。

だが、もう一隊声を張り上げながら戦場に参戦する部隊がいた。

 

 

「直江隊、突撃ぃぃいいいいいっ!!!」

 

 

軍師である大和自らが隊の先頭を走り、戦列に参加してくる。

 

 

「京、お前は大和の援護を!!」

 

「…武、でも」

 

「良いからお前は大和だけ見てろ!お前らは俺が守ってやっからよ!!ワン子!」

 

 

呼んで手を出すと、一子が薙刀を武に投げ渡す。

それを豪快に振り回して、こちらに気付いて襲い来る敵を睨む。

 

 

「ここに居る全員の首をとりたきゃ、この俺を倒してみな!!」

 

 

気迫と共に、薙刀が唸りをあげて敵を薙ぎ倒していく。

武は疲労などまるで無い様に動く体で、嬉々として戦場を駆けていく。

だが、武は自分で気付いていなかった。

普段の状態にもかかわらずキレている時に近い 程の力が出ている事に。

心の中に在る守ると言う気持ちが敵を倒すと言う心を覆い、獣になること無く力を発揮していた。

 

 

「…そっか、変わったんだね」

 

 

その武の様子に京は口元を緩める。

乙女から受けた教えと、京が教えた自分自身を出す事、それらが武に良い変化をもたらしているのが嬉しくて。

その時、ふいに花火が上がった。

それは大和が川神院の僧兵に出した合図であった。

 

 

「やっべ、これがあがったって事は…」

 

 

武の嫌な予感通り、空から楽しそうな笑い声を響かせて恐怖の大王、もとい百代が振ってきた。

その瞬間、全軍の動きが止まる。

 

 

「大和…あーそーぼー」

 

 

歪んだ笑みを浮かべて百代は大和をみる。

しかし、大和は余裕の笑みを崩さない。

この時の為に用意した策に、大和は絶対の自信があった。

 

 

「やーだーよー」

 

「なに?」

 

「僧兵隊の皆さん、お願いします!」

 

「川神流極技・天陣!!」

 

 

大和の合図と共に僧兵二十名が一斉に技を発動させた。

百代を弾き出す様にして、敵味方問わず円形に広がる見えない壁が包んでいく。

 

 

「結界か、防御のみに特化させた故に暫し無敵…これで私を止めたつもりか?」

 

「この間に英雄を倒せば俺達の勝ちだからね」

 

「ははっ、私なら気で探し出して、お前達の大将を倒すのに十秒あれば十分だぞ?」

 

「ならやってみれば?姉さんには無理だろうけどね…もう一度言うよ?姉さんは負けるんだよ」

 

「…大和、私を怒らせたな?いいだろう、お前の口車に乗って大将の元に行ってやる」

 

 

そう言って百代は空高く跳躍すると、一瞬で大将である真与を見つけだして飛んでいく。

 

 

「さぁ!姉さんは居なくなった!この隙に全てをかけて九鬼を討ち取れ!!!」

 

 

大和の言葉に全軍が突撃を開始する。

 

 

「はっはー!モタモタしてっと大将がやられて、てめぇらの負けだぞっ!!」

 

 

武は言葉で揺さぶるが、武達に向かってくる敵は、百代が総大将を討ち取ってくれると信じている為に引かない。

二十名ほどを京達を守りながらに相手にしている武は、相当数被弾し体力も底を尽きかけていた。

それでも、体が言うことを聞いてくれる。

仲間を、家族を守る為に動いてくれている。

 

 

「一騎討ちを申し込む!!」

 

「受けてたつぜっ!」

 

 

名乗りをあげて鉄パイプを振りかぶってきた男を武が薙ぎ払おうとした時、その後方に居た敵が一斉に持っていた 武器を武の後ろめがけて投げつけてきた。

 

 

「っ!?きたねぇ真似しやがってっ!!」

 

 

後ろに打ち漏らす訳にはいかない武は、薙刀で落とせない分を素手と体で受けてとめる。

その隙をついて振り下ろされた鉄パイプが、武の頭を直撃した。

鈍い音に咄嗟に京が振り替える。

 

 

「武っ!?」

 

「大和だけ見てろって言ったろ!!」

 

 

頭から流れる血をそのままに、武は殴ってきた男を打ち倒して声を荒げる。

 

 

「あいつは今一人で突っ込んでんだ!お前が守ってやらなくて誰が守るんだよ!!」

 

「武…っっ!!」

 

 

京はすぐに武から視線はずして、大和に襲い掛かろうとしている者達に矢の雨を降らせる。

 

 

「それで良いんだよ…おらぁっ!どんどんかかっ てこい!!」

 

 

ふらつく武の声に一斉に敵が襲い掛かかってくるが、武と交差する瞬間、横から現れた二つの影が敵を吹き飛ばす。

 

 

「てめぇばかりにかっこつけさせねぇよ!」

 

「そうよ、あたしにだってもう少し見せ場をよこしなさいよ!」

 

 

言葉とは裏腹に、震える膝を手で押さえて、必死に倒れるのを堪えながら一子と忠勝は笑う。

 

 

「無茶しやがって…」

 

「それはお互い様よ、京だってとっくに限界超えているのに私達だけ休んでなんていられないわ!」

 

「ああ、そうだな!んじゃ最後にもう一暴れすっか!!」

 

 

武は一子に薙刀を投げ返すと拳を鳴らす。

 

 

「オオオオッ!!」

 

 

三人は吼えて敵に突っ込む。

背後では指から血を流しながらも、京が最後の援護射撃をしている。

誰もが体力の限界を超えているのに、その顔に悲壮感は無く、むしろ笑みが浮かんでいた。

戦う仲間を信じて、信じ合う仲間と戦える喜びを噛み締めるように。

 

そしてその時は来る。

 

一際大きな花火が、まだ青い空に大輪の花を咲かせた。

 

 

「川神大戦終了!!勝者、F軍!!!!」

 

 

同時に学園長の怒号が戦場全てに響き渡り、戦争の終わりとF軍の勝利が告げられた。

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

「…また一人で居るの?」

 

「またって、いつ俺が一人で居たよ?」

 

 

武は川神大戦に勝利し、褒美として与えられたバーベキューを楽しむF軍と、風間ファミリーの様子を少しは離れた場所から見ていた。

 

 

「今朝も駅で一人でそうして見てたよね」

 

「そうだっけか?」

 

「…そうだよ」

 

 

京は武の横に静かに腰を下ろす。

武の視線と同じ方を見れば、大和は卓也や参謀本部の皆に揉みくちゃにされ、翔一とクリスは隊の者達笑い合っている。

忠勝が部下に囲まれて鬱陶しがっているのを、一子が一緒になって囃し立て、岳人は自分の功績が認められないのが悔しいのか、一人で肉を自棄食いしている所を翔一に引っ張られていく。

 

 

「京、指大丈夫か?」

 

「…大袈裟に包帯巻きすぎ…武こそ頭大丈夫?」

 

「なんか若干引っ掛かる言い方だが問題ねぇ」

 

「…で?さっきの質問だけど」

 

「ああ、こうして家族を離れて見ていると、なんだか何時もと違って見えてくるんだよ」

 

「武は何時も一番近くで皆を見てきたからね」

 

「近づき過ぎて見えなくなってた事もあるのかなぁなんて思ったりしてさ…」

 

「…随分と感傷的だね」

 

「似合わねぇか」

 

「似合わないよ」

 

 

その時、大和が然り気無く輪から離れて行くのが見えた。

それを黙って見守る京。

 

 

「良いのか?」

 

「…邪魔はしないよ」

 

「そっか」

 

「どうなるかな…なんて聞くまでもないよね」

 

「あいつはモモ先輩に男を見せることが出来たからな…」

 

「だよね」

 

「京……飲むか?」

 

 

武は懐から川神水大吟醸と、ぐい呑みを二つ取り出した。

 

 

「この日のために用意したとっておきたぜ?」

 

「年寄りくさいよ…でも、貰おうかな」

 

 

京が受け取ったぐい呑みに、零れる程の川神水を注ぐ。

 

 

「この場合、何に乾杯だ?」

 

「…F軍の勝利に?」

 

「だな、F軍の勝利に」

 

 

キンッとぐい呑みを合わせる澄んだ音がして、二人は一気に飲み干す。

疲れた体に染み渡る様に、心地の良い火照りが体を包む。

 

 

「…ふぅ」

 

 

艶やかな吐息をもらす京に武は見惚れる。

武の目には、少し赤くなった京の肌が、照明のせいか光反射してきらきらと光って見えた。

 

 

「京の肌、綺麗だな」

 

「…大和の為に綺麗にしていたからね」

 

「じゃあ京が綺麗なのは大和のおかげだな…って、え?…今、過去形…」

 

「…さぁ?」

 

 

惚ける京に、武は急激に高鳴る鼓動を抑えるように胸に手を当てて深呼吸する。

そして真剣な眼差しで京と向き合う。

 

 

「京、明日俺に少しだけ時間をくれないか?大切な話しがあるんだ」

 

「…うん」

 

 

それ以上言葉を交わさなくても、二人の心は一つの結論を導き出そうとしていた。

 

 

 




前回気合い入れすぎて、今回相当はしょりましたごめんなさい。
四天王対決は元々省く予定でしたけど、その他はこうもっと盛り上げて書きたかった…。
次回から話は一気に終わりに向かいます。
たぶん年内には終わるかと思いますけど、毎回思い付きで書いているので予定は未定と言う事で。
最後と言うか次回の話ですらまだなにも考えていませんから。

ではまた次回で。



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