真剣で京に恋しなさい!   作:やさぐれパパ

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第十九話 「必ず守ってやるからな」

 

 

川神大戦当日がやってきた。

皆が朝の始発で決戦の地、丹沢に向か為に川神駅に集合している。

 

 

「一人でどうしたんだ?」

 

「あ、おはよっすモモ先輩」

 

 

一人離れた所でファミリーを見ていた武に百代が気付く。

 

 

「いやぁなんだか皆やる気満々って感じで良いなぁって見てました」

 

「それはそうだろ、皆私を倒そうと意気込んでいるからな…ところで、お前少し変わったな」

 

 

百代は武の体を舐める様に確認する。

 

 

「朝から視姦プレイとかエッチ♪」

 

「なんだ?川神大戦の前に戦闘不能になりたいんだったらそう言えば良いじゃないか」

 

 

拳を鳴らす百代から武は慌てて距離をとる。

 

 

「冗談ですって…まぁあれですよ、士別れて三日なれば刮目して相待すべしってね」

 

「ほほぉ、あれだけ嫌がっていたのにどこで鍛えてきたんだ?」

 

「そんな面倒な事するように見えます?ちょっと荒療治と言いますか心境の変化と言いますか、色々ありまして」

 

「ふーん…まぁ私としては楽しませてくれるなら何でも良いんだがな、で?お前はどちらが勝つと思う?」

 

「うーん、戦力差が二倍ですからね」

 

「それは違うぞ、クリにも言ったが私一人で百万だ」

 

「そんな自信満々に…まぁ実際そうだから流石モモ先輩って感じですけど、まぁそれでもF軍が負ける事は無いですね」

 

 

何時もと変わらない口調だが、確信めいたものを感じさせる口ぶりの武に百代が笑って答える。

 

 

「はははっ!頼もしいなぁ、さっき大和にも言われたよ勝つのは俺達だって、時代は武力から知力だって」

 

「大和らしいな…でも、モモ先輩なら圧倒的な力で全てを粉砕しそうですよね」

 

「武は分かっているじゃないか、それなのにF軍が勝つと?」

 

「そうですよ、モモ先輩が圧倒的な力ならS軍が勝っていたでしょうがね」

 

 

武の言葉に百代は訝しげな表情を浮かべる。

 

 

「どう言う意味だ?」

 

「ふっふっふ、さぁどう言う意味っすかねぇ」

 

「武の癖にな・ま・い・き・だ・ぞ~」

 

 

惚ける武の頭を百代のヘッドロックがギリギリと締め上げる。

 

 

「ぐあぁっ!?ギブギブ!今敵軍に攻撃するのは反則っす!学園長にチクっちゃいますよ!」

 

「おっと、忘れていたすまんすまん」

 

「絶対確信犯だ!」

 

 

武は頭を摩りながら不敵な笑みを浮かべる百代に抗議するが、馬の耳に念仏だと諦める

 

 

「馬の耳に念仏だな」

 

「声に出てるぞ…よぉし決めた、お前は大和の次に狙ってやろう」

 

「あーあー聞こえない聞こえない」

 

 

武は両耳を塞いで百代から逃げる様に大和たちの元に向かう。

大和には負けられない理由がある。

武には果たさなければならない約束がある。

それぞれの想いを胸に、決戦の時は近付く。

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

丹沢には多くの参加者が終結しつつあった。

マスコミも多数来ているようで、学園長が受け答えをしている。

各部隊がそれぞれの配置を終え、大和は各部隊長を集めて軍営会議を始めていた。

 

 

「布陣図を確認してくれ」

 

 

スグルがスパイから集めた情報をまとめ作成した布陣図を広げ、それを各部隊長が確認しながら、大和の作戦に耳を傾けている。

多少の意見の衝突も有りつつ、細かい配分、動き、一朝一夕では用意できない完璧な作戦を伝え、滞りなく時間に余裕をもって会議を終わらせるあたり、大和の軍師としての手腕は確かなものだった。

 

 

「以上だ、皆自分を信じて仲間を信じて、S軍に勝利しようぜ!」

 

 

大和の激は各部隊長から隊全体に伝わり、開戦を目前にF軍の士気は最高潮に達していた。

 

 

「川神大戦開始十五分前っ!!」

 

 

鉄心の声に、丹沢の穏やかな自然の空気が、張り詰めた戦場の空気に変わっていく。

そんな中、大和は風間ファミリーと忠勝を集めていた。

 

 

「皆、これまでの協力、本当にありがとう」

 

 

大和は深々と頭を下げた。

ファミリーにこんなに改まって礼を言うのは初めてであり、言われた方も当然初めてであった。

 

 

「なによ改まっちゃって」

 

「いや、結果がどうなろうが、やっぱりきちんと礼が言いたくて、皆の協力がなければここまでの準備もできたかどうか…」

 

「結果がどうなろうがなんてらしくねぇぞ大和!俺達は絶対勝つ!大将首はこの黒の隊率いる風間翔一があげてやるぜっ!」

 

「キャップ…」

 

「待て待て!大将首を上げるのは白の隊率いる自分だ!!」

 

「い~や黒の隊だな、何せ黒の隊にはこの俺様がいるからな」

 

 

何時ものポーズを決める岳人の頭を武が叩く。

 

 

「んな事言って、お前だけ真っ先にやられるなよ」

 

「っだとてめぇ武!お前こそ何したのか知らねぇけど、ついこの間までボロボロだったくせに、使い物になるのかよ」

 

「おいおい、脳筋ゴリラが人類の心配とか二億年はえぇよ」

 

 

武と岳人は笑い合う。

そして、何時も通りお互いの拳が顔を捉える。

 

 

「けっ!ガクトの癖に気合い十分じゃねぇか」

 

「へっ!お互い様だコラッ」

 

 

言って拳と拳を合わせる。

 

 

「まゆっちは平気?緊張してない?」

 

「ははははい!だ、大丈夫です!!」

 

『安心しなモロBOY、こう見えてまゆっちは気合い十分余裕たっぷりなんだぜ』

 

「うん、本当に余裕そうだね」

 

 

松風の絶好調な喋りに卓也は苦笑いしつつも、何時ものペースを崩していない由紀江に安心する。

 

 

「ゲンさん、一番きつい所だけどワン子の事よろしくね」

 

「一子は俺に助けられるほど柔じゃねぇよ…ま、後で文句言われてもウゼェから、そのくらいの頼みは聞いといてやるよ」

 

「私が一番手柄を上げるから見ていなさいよ!」

 

「ありがとうゲンさん、頼むぞワン子」

 

「…私もサポートするから」

 

「ああ、京、F軍唯一の弓使いであるお前だけが頼りだ」

 

「…大和…この戦争が終わったら付き合って!」

 

「死亡フラグを立てるな縁起でもないお友達で」

 

「お"~の"~れ"~や"~ま"~と"~!」

 

「極限まで近づいてくるんじゃねぇっ!…はぁ、武、京を頼むぞ」

 

「お前に言われるまでもねぇよ」

 

「そうだったな…それじゃあ!」

 

 

大和は手を伸ばす。

その手に全員の手が重なる。

 

「やってやろうぜ!」

 

「「おーっ!!」」

 

 

気合いと共に全員の拳が突き上げられる。

川神大戦開始まで後五分と迫っていた。

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

「始まるね」

 

「ああ」

 

 

武と京は指定の配置についていた。

 

 

「必ず守ってやるからな」

 

「…弓を持った私を守るとか、面白い冗談」

 

「いやまぁそこは言い返せない部分もあるが、少しは俺をたててくれよ」

 

「…じゃあ守られる、だから…武もちゃんと戦ってね」

 

「わかってる、これはあくまで競技、スポーツって名目だからな…受け身で耐えてお前の手を煩わせるなんて事はしねぇよ」

 

「…良い子だ」

 

 

京は10Good!!の札をあげる。

 

 

「それにしても…」

 

 

武は京を見ると頬を赤くする。

その様子に、何事かと京は自分を見るが、服装に乱れもなく何時もと特に変わりないので首を傾げる。

 

 

「…なに?」

 

「い、いや…弓道着姿の京も凛々しくて素敵だなぁって感動して、あぶおっ!?」

 

 

咄嗟に首を倒して避けた場所を通過して、矢が武の後ろの木に刺さる。

 

 

「…チッ」

 

「なんだその舌打ちはっ!!って言うかお前今俺が避け無かったら絶対脳天に刺さってたろ!!さらに言うならちゃんと大戦用に加工しとけよ!!」

 

「…大丈夫、その一本だけだから」

 

「さも試し撃ちしましたみたいな涼しい顔で言うな!軽く殺人未遂だぞ!!」

 

「打たれ強い武なら大丈夫かと」

 

「打たれ強さ関係ねぇよ!」

 

「はいはい、そんな大声出さないの」

 

「っっ……ったくよ」

 

 

武はまだまだ出てくる恨み言を飲み込んで、やれやれとその場に座る。

 

 

「…こんな時まで下らない事を言う武が悪いと思う」

 

「俺にとってはくだらなくないんだけどな…お?大和から最終確認のメールだ」

 

 

見れば京も携帯をしっかりとチェックしていた。

 

 

「開戦一分前!!!」

 

 

学園長の怒号が戦場全てに響き渡る。

その声を合図に武は立ち上がると、体を解し始めた。

京も精神を集中し気を練っている。

その時、上空をヘリが一機通過するのと同時に空から山を覆い尽くすほどの威圧感が降ってきた。

素人の武だが一つはこの間、自らの体で味わった事のあるものなのですぐにわかった。

 

 

「頼みますよ…鉄先輩」

 

 

もう一つは大和が用意した切り札で、その正体は聞いていないが乙女と互角の威圧感を感じた。

しかし、それは一瞬の出来事ですぐにその威圧感は戦場の空気に紛れて消え、何事も無かったかのように静まり返える。

 

 

「川神大戦、開・戦っっ!!!!」

 

 

そして学園長の開戦の合図が戦場にこだました。

 

 

「はぁああああああっ!!」

 

 

吼えた一子が、敵本隊その数三百に真正面から突撃する。

敵の先手と交差する刹那、一子の薙刀が豪快に敵を捻じ伏せた。

 

 

「一番手柄!川神院、川神一子っ!!!」

 

 

戦場に一子の声が響き、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 




思ったより話が進まなかったです。
予定では川神大戦の中盤くらいまでいく予定だったのに…まぁ良いか。

話は変わりますが、最近私の拙い文を評価して下さる方が増えているみたいで、正直驚いて居るのと同時に、凄く感謝しております。
なにぶん小説を書くのは初めてなもので、期待に答えられるか分かりませんが、楽しんで下さる方の為にも必死で書かせていただきます。
好き勝手書いてる自分が一番楽しんでますけど…。
この場を借りてお礼申し上げます。

ではまた次回で。


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