前書き注意!!
・このお話は、本編内で登場する組織の補足話みたいなものです。
・モンスターがほとんど出てこず、ハンターもほとんど出てこないです。
・世界観の補足を、と銘打っておきながら、ダラダラと設定を垂れ流しているようなものです。
以上を踏まえたうえで、お読みだくだされば幸いです。
◇閑話 【テンプエージェンシー】
ルトガル、と呼ばれる国がある。
それはルクレイアから遥か西方へと海を渡った先にあり、メトレルン山脈地帯に囲まれるようにして存在していた。
国そのものが自然の要害にも囲まれ、幾重にも及ぶ防壁で囲まれた堅牢な城塞国家として有名だ。
国内のあちこちには自治都市があり、それぞれの領主が自己の権限と責任の中で運営を行っている。
一応国王も存在はしているのだが、その権力が及ぶ範囲は他国に比べると著しく狭いといえる。
国民自体が独立独歩を謳い、国家の介入を嫌うゆえであった。
なんなら、領主ですらも一方的な介入を許さぬ構えであり、『国民のトラブルは国民自身で解決すべし』という考えである。
その理由、もとい原因の一つは国内最大の組織でもある【テンプエージェンシー】の存在が極めて大きいだろう。
テンプエージェンシーとは一般的に傭兵派遣組織で知られている。
ただ、正確にはあらゆる分野においてエキスパートを派遣する、大規模な何でも屋である。
身の回りの小さな雑用から、国家規模での大仕事まで、多岐に渡って人材を派遣している。
所属する人材も数万人以上とも、あるいは十万人をも超えるとも言われていた。
予想する人数の揺れ幅が非常に大きいのは、世界のあちこちに支部があるためだ。
しかも、各支部で各々の裁量に任せているため、正確な総数を誰一人把握できていないのが現実である。
それほど巨大な組織をまとめ上げる代表の名はコンセイユという。
中肉中背の平凡な青年で、のんびりとした性格で知られている。
代表となる前だが、元は騎士だったとも、ハンターだったとも、はてさて一介の村人であったとも、何らかの大罪人であったなど、その経歴は謎ゆえに様々な憶測が飛び交う。
そもそも、このルトガルでの出身者であるかさえ、誰も知らないというのだから、謎だらけであった。
コンセイユの姿を見た者からすれば、強そうにはとても見えないという印象で統一されている。
よしんば前職がハンターであったとしても、大したランクまでは上がれそうにもない、と。
ただ一ついえるのは、このコンセイユの存在によって救われた人間は多くいるという事だ。
それだけは紛れもない事実である。
普段の彼はそれこそ、のんびりと椅子に座り、コーヒーを飲み、新聞を読むだけの生活を繰り返す、平凡なのんびり屋だった。
だが、どこから着想を得たのか、独創的な考えをいくつも巡らせ、困っている人がいれば、それを救うためのあらゆる努力を惜しまない一面があったのだ。
それは、周囲の人々をも巻き込むほどに活力に満ちた行動であった。
話を戻すと。
ルトガルがここまで巨大な国家となる前は、他国との戦争に明け暮れていた。
その挙句、何も得る事もないままに停戦し、終戦時には失った国力の補填とばかりに国内のあちこちで貧困を招いていた。
国の中央である王都周辺はまだしも、地方などでは騎士や兵士、傭兵たちは仕事をなくし、司祭や商人、村人などは家をなくした者が続出した。
そして、国のあちこちで【宿なし】と呼ばれる貧困者達が増えていくのだった。
コンセイユが街を歩けば、大して探さなくても、道端に座り込み、目が虚ろで表情も暗い、自分の殻に閉じこもる宿なし達が視界に収まる。
それらの者達はいずれもが、活力も気力も、果てには生命力でさえも静かに、だが着々と流れ続けているようだった。
道端に落ちている石ころを蹴れば、宿なしに当たるなどと揶揄されるくらい、宿なしはあちこちに点在していた。
多少意地の悪い者などは、宿なしよりも石ころを探すのに苦労すると笑うほどだ。
飢えに飢えた宿なしが石ころでさえも口に含んでしまい、やがて喉に詰まらせて死ぬか、あるいは口に含んだまま息絶えている事も多いゆえである。
ちなみに、コンセイユ自身は戦力としての期待もされず、戦争に駆り出される事もなかった。
親の残した財産もあってか、このような状況でもひもじい思いもせず、暮らしていけた。
仕事にしたって、趣味で毎日のささやかな情報をまとめた新聞を作るくらいで、元々あってないようなものだった。
紙やインクも手に入りにくくなったし、刷るための印刷機も壊れてしまったので、新聞づくりも難しくなった。
そもそもが、作っても買ってくれる人間が減ってしまったので、困ったといえば困っていたが。
だが、親の財産を食いつぶしている内は当面の生活費にも困らず、自宅があるだけ相当にマシ、否、この時世においては豊かな部類だった。
そうでもなければ、これからコンセイユのするような事は不可能であったはずだ。
否、多少豊かであっても同じような事を出来ただろうか。
同じ事を模倣する者はのちのちに現れたが、この時期に同じ行動を起こした者はいなかった。
のちに後世の人々はどうして彼は、コンセイユはこのような考えに至ったのだろうかと幾つもの論争の末、いくつもの結論に至るのだが、そのどれもがもしかしたら当てはまるのやもしれないが、そのいずれもが確信に至らない有様だった。要は分からないのである。
特に情緒あふれるわけでもないコンセイユが突如として自己犠牲の精神に価値を見出したのか。
道端で転がり、死に絶えていき、貧困にあえぐ街の人々に憐れみでも覚えたのか。
それとも、何もしなければ自ずと自身も将来的に死に至っていくのだから、やけくそで起こした行動であったのか。
はてさて、天上の神々にでも使命を与えられ、唐突に天啓に従う敬虔な使徒にでもなったのか?
もしかするなら、退屈で変わり映えもせず、しかも右肩下がりに落ち込んでいくであろう人生に嫌気が差し、だったら最後に善行の一つでもと思い至ったのだろうか?
あまりにも突飛で、しかも彼のそれまでの平凡で平坦な大きな波の一つもなかったであろう人生歴を踏まえて考えれば考えるだけ、この行動を起こす理由や原因が分からないのだから。
もっとも、この行動は彼の人生でもっとも大きな波を、それもいつまでも穏やかならざる波紋を引き起こした点について、何人たりとも否定しえぬ事実であった。
「…………ふーむ」
ある日、彼は何を思ったのだろうか。使われなくなった建物をいくつか借りるべく、交渉に出向いた。
借用するに際し、賃料を払うといえばこの不景気。建物の持ち主は喜んでコンセイユに貸してくれた。
この時世に保証人もいらぬというのだから、よほどに困窮していたのは疑いようもない。
それから、いくつかの建物をめぐり、果てには教会まで出向き、一日を歩き通していった。
そして、道端で無気力に座ったままの宿なし達へと声をかけていくのであった。
良い話があるから。
そんな言葉を頭から信じるようなら、その者は底なしに能天気であるか、阿呆であろう。
だが、かといってここで付いていかずとも、何か転機があるわけでもなし。
道端で座り込んでいたり、壁にもたれかかったり、あるいは寝転がっていた宿なし達は、とりあえず、何かすることがあるわけでもないので、言われた場所へとぽつぽつと集まりだした。
それでも、コンセイユが声をかけた内の一、二割程度の人数だったが。
あたりが暗くなってきた夜分、建物の中にはどこから持ってきたのか、油を浸した布に火が灯され、ぼんやりと照明代わりになっていた。
指定された建物の中には、壊れた道具や家具などが集められていた。元々はなんらかの店であったのだろうか。
ぼんやりとした視界の中、それらの廃品を囲むようにして、宿なし達は訳も分からないままに待って過ごしていた。
やがて、そこへ現れたコンセイユはにこりと笑って話し始める。
「さっそくだけど。皆にはここで仕事をしてもらいたいと思っているんだ」
いきなり、このような事を言い出すコンセイユに対し、集まった宿なし達は一瞬静まり返り、次いで口々に反発する。
突然集めたと思ったら、何を言い出すのかと。
こんなゴミだらけの場所で何が仕事なんだと。
いくら貧乏で泊まるところがないからと、馬鹿にするのも大概にしろと。
そもそもお前は何者なのかとも声が聞こえた。もっともである。
鋭い視線を幾重にも受けているのが、コンセイユは怯むどころか、気にするそぶりも見せぬ。
予想の範囲内だといわんばかりに、うんうんと頷いていた。
「まあ、最後まで話を聞いてから決めてほしいな。あ、ちなみに僕の名前はコンセイユ。まあよろしく」
平静のまま、落ち着いた口調を一切崩さず、コンセイユは笑顔を浮かべる。
話に乗る、乗らないは別に、ここへ来てもらった礼に食事や飲み物は提供するから、と。
そう言って、袋に詰め込んでいた干し肉やビスケット、チーズに葡萄酒などを見せた。
誰かがごくり、と喉を鳴らす音が聞こえた。お腹が静かに悲鳴を上げる音も。
あるいは自分かもしれない、と幾人かが恥ずかしそうに俯いたり、お腹を押さえだした。
そう言われ、実物まで見せられてしまうと、「じゃあ話だけでも聞いてやろうか」等と誰かが言い出すもので、それを反対する者もあらわれなかった。
とりあえずと、宿なし達はコンセイユの言葉に耳を傾けた。
まあ、食事が出るのであれば、この与太話も仕事代わりかといった様子だった。
一通り静かになったのを見計らい、コンセイユは続きを口にする。
「ここにあるのは、町のあちこちから貰った廃品だ。見ての通り、壊れて使えない家具だの、古くなった日用品だとかが積まれているのは分かると思う」
壊れたクローゼットやチェスト、取っ手の外れたドレッサー、脚の折れた椅子などの家具。
ほつれたジャージーや破れた衣服、汚れの目立つスカートといった衣類。
穴の空いたポーチに、チェーンの千切れたアクセサリといった日用品。
それらを指さしながら、コンセイユは集まっていた宿なしの一人を指す。
皆の視線もその一人に集まった。当の本人は困惑げな表情を浮かべていた。
それなりに年季の入った妙齢の女性である。
「貴方は裁縫をした事が?」
「す、少しでしたら」
「なるほど。では貴方。貴方は、この椅子の修理をするのは可能で?」
「あ、あぁ。釘とか金槌があればそのくらいは……」
「ふむ」
次々と辺りにいた人々へと声をかけ、これは出来るか、あれはどうか、等と尋ねるコンセイユに対し、人々は不安や疑問を抱きながらも答えていく。
やりとりを見聞きしながら、これから何をさせるつもりなのか身構えた。
このゴミ同然の道具を直させて仕事にするのだろうか? だが、直したとして誰が買い取るというのか?
それらの疑問は当然のものだった。
ここにいる者だけが貧しいわけではない。町中のあちこちが不景気な顔をして、事実その通りに経済的にも苦しい状況下にいるのがほとんどだ。
買い取るだけのお金もあるまい。
「これらの廃品を直して、売りに出すつもりさ。僕が売りに行くし、利益は皆でどうぞ。もちろん、売るツテはあるから、心配しないでいいよ」
「え?」
「はぁ?」
「なんで?」
コンセイユの言葉に、次々と周囲の宿なし達が声を短く上げる。
思わず口に出てしまったという感じだろう。
どうやって? どこに売るというのか? しかも、利益は渡す? なぜ?
どういう計算で、どういう分配をするつもりなのだろうか。
疑問はとめどなく水の如く、しかも注ぎ足す必要もないほどだ。
「他に、宿泊するための空き家を二軒だけだが借りたところでね。寝床はそこを使ってもらって結構。部屋の分配も不満のないように。毛布も今集めて……」
「ちょ、ちょっと」
「なんだい?」
宿なしの一人が、コンセイユの言葉を遮る。
その宿なしは、不可解だ、といわんばかりに困惑した様子を見せる。
周囲にいた宿なし達も似たような空気を醸し出している。同じような事を言おうと思っていたのだろうか、うんうんと首を次々に縦に振って同意しているみたいだった。
「どうしてそんな事を? 私達は大したお礼もできませんよ」
「あぁ。そんなのはいらないよ。安定してさ、豊かになったと感じたら、その時に少しずつでもくれればいい」
ははは、とコンセイユは笑い、続けていいかなと口にする。
まだあるのか、と宿なし達は思ったが、それ以上は声に出さない。
だが、ここへ来た当初に比べると、表情も雰囲気も変化が既にに生じ始めている。
暗く、生気も活力も感じられなかった表情の一部には、期待の色が見え始めているように思えた。
言葉の節々にはもしかしたら、との願望の微粒子が浮き隠れしているように感じられた。
だが、まだまだ足りない。まだ始まってすらいないのだ。これから軌道に乗せねばならない。
こんな序の口で満足されては困るのだ。歩みを止めてもらってはいけない。
どんどん巻き込んでもらわねばならない。
コンセイユは弁舌を続けた。
仕事場の一つにここで廃品を集め、直し、使えるようになった売りに出す。
軌道に乗ったら、廃品を集める場所も増やし、どんどん呼びかける範囲も広げていく。
宿泊できる場所を借りてあるから、そこで寝泊まりをしてほしい。今は二軒だが、どんどん増やす。
もし、スペースに余裕があるなら道端で寝ている宿なしに声をかけてほしい。
まだ本格的な材料こそないが、料理が出来るように元食堂も借りていく。
今はとりあえず、買い集めた食材で我慢してほしい。あと、料理のできる人間もいたら、協力を呼び掛けてほしい。
町の水が出る場所には、湯あみが出来るよう、燃石炭などの準備中。
水道の技術者がいれば、声をかけてほしい。湯を浴びる順番などは公平に決めていく事。
王都周辺での清掃や商品の配達、手紙の郵便などの仕事をもらえないか交渉の真っ最中。
今は自分がやるが、これもすべて委託していくと。
矢継ぎ早に、次々と彼はこれからの未来図を口にする。
しかも、現在進行形でそれらは進んでいて、着々と完成へ向けて着工している最中だ。
だが、言われた方は情報量の多さに、突然の展開に思考が追いついていないようだった。
無理からぬことである。初対面でこの短時間にどれだけの驚きをもたらすというのか。
聞けば聞くほどに疑問は募り、不可解さが増していく。
こんな事、こうなる前の普段通りの暮らしをしていてもなかったことだ。
「そんなことして、あんたに何の得が?」
「今はないかもね。でも、将来はきっと良い事づくめだと思ってるよ」
いわく、ここの宿なし達が安定した収入を得ていったら、いずれはちょっとずつ余裕のある範囲でお礼をくれれば結構だと。
いわく、ここの仕事が安定して回るようになれば、あとは自分たちで管理し、分担して取り組んでくれれば、あとは任せると。
いわく、ここの評判が広がっていけば、人も増え、仕事も増え、それはやがて何もしなくても自分に収入が入り、しかも増えていくのだから万々歳であると。
いわく、みんなが貧しさから抜け、寂しさから抜け、辛さや悲しみから抜け出せるのであれば、それに越したことはないのだと。
皆は寝床が確保され、働く場も与えられ、仕事をすれば食事も得られる。
コンセイユは感謝され、いずれは金も勝手に入る不労所得での悠々自適な生活を夢見る事が出来るというもの。
まさに一挙両得。お互いに良い事づくめではないか。
コンセイユはそう言い、笑う。
「貴方は神の遣わした使徒でしょうか?」
「いや、ただのくたびれた一般人です」
敬虔な神の信者であったのだろうか、修道服であっただろうボロを身に纏いながら一人の少女が崇めるような視線を送る。
それを困ったような笑顔でコンセイユは応答し、笑う。
宿なし達の方は、彼ほどに笑えなかった。
浮かぶ表情は期待や希望の微粒子が含まれているものの、そう上手くいくものだろうか、と不安や心配といった部分はやはり大きい。
どうしても、そう易々と楽観的には考えられず、悲観的に捉える者は少なくなかった。
だが、あのまま道端で寒さに震えながら、打ち捨てられた布を纏って寝ているだけの生活より、失敗するとしても立て直しを図る方がよほど有意義な人生ではないだろうか。
「やるよ。アンタの話に乗ろう」
「そうこなくちゃ」
一人、宿なしがコンセイユの手を取ると、まばらに続く者が現れていく。
やがて、この屋内にいた宿なしのすべてがコンセイユの提案に乗った。
それからというもの、コンセイユは人々が動くための準備はしたが、簡単ではなかった。
とはいえ、停滞をするわけでもなく、頓挫する事もなかったのだから、それだけでも褒められるべき手腕であった事は疑いようもないだろう。
少しずつ、少しずつ仕事が増え、住むところも増やし、集まる宿なし達。
コンセイユが自宅にあった財産を使い切ると、食料集めが最初は苦労の連続だった。
そんな中である日。
元料理人だった宿なしが、かき集めた食材の一部で大きなパイを作った。
小麦粉だのバターだのも最低限の量でしかなく、果物などのトッピングなど望むべくもなかった。
焼くための道具だって満足になく、煉瓦をかき集めて手作りで作ったそれで焼いた。
それはそれは薄く薄く広げてばかりの慎ましいパイだった。誰かが「ピザじゃないの」と思わず言って、皆が笑った。
みんなでパイだったものを引き延ばし、みんなで笑いながらそれを食べていった。
コンセイユは満足した。それでいいのだと。
一番誰よりも動き、誰よりも犠牲を払いながら、誰よりも笑っていた。楽しげだった。
「この熱を作りたかったんだ、僕は」
そう、コンセイユはパイを一口齧りながら話した事があった。
人々は真剣に、一字一句を聞き逃すまい、脳裏に刻み込もうと視線を向け、耳を澄ました。
「気力をなくし、活力を失って、外の世界に関心を閉ざし、殻に篭もって心を固く閉ざした皆に。僕は熱中できるものを作りたかった。共に生きて、人から感謝され、再び前を向いて立てるようにしたかったんだ。そして、これからみんなはきっと元の、いや、もっと豊かで楽しい生活をしてもらいたいと思う」
人々はこの日の出来事を決して忘れなかった。
あの日、宿なしを呼んで回ってくれ、働き場を住む場所をその他も次々にと与えてくれたコンセイユに感謝し、感謝だけなく、行動で示す事を心掛けた。
それから数年が経ち、コンセイユの住んでいた町は変貌を遂げた。
そこに暮らしていた人々は変化を求められ、それに応えた。
その周りにいた人々も、周辺の町々も、やがてはルトガルという国そのものも。
テンプエージェンシーを創立する前の出来事である。
この頃、すでにコンセイユは【導者】として知られるようになっていた。
後々となっても、彼の功績、働き、異名、名前は知れ渡っていき、いつまでも残るのであった。
あれから幾年。
あの日、借りてきた建物の中で宿なしだった人々へ声をかけてから色んな事があった。
人々の貧しさがすべて解決したわけではない。だが、道端で寝転がっていた宿なしの姿は激減した。
仕事がないなら作ればいい。家がないなら見つければいい。お湯が出ないなら出るようにすればいい。寂しくなったら楽しくすればいい。お金がないなら引っ張ってこよう。
言うは易しだが、行うには困難が伴うはずだったそれらは、いくらか実行しつつある。
廃品の回収は相変わらず続けているし、それらを修理、あるいは加工して売って、お金に換えるまでの流れは継続できている。
今ではすべて宿なしだった面々が取り仕切り、廃品の回収ルートも販売ルートも考え、販売路の開拓も自分たちで進めている。
宿泊施設代わりだった借家も立派な宿屋と化し、管理も宿なしの仕事だ。
寝室や寝床の掃除や、シーツの洗濯にも宿なしで担い、任せてある。
生活がままならない者は無料で泊まれるように、とのルールも守られているようだ。
燃石炭が安定した供給を行えるようになり、技術者も見つかって協力もあり、お湯も使えるようになった。
宿なしの面々はもちろん、町の誰もが使えるように開放できるようにもなった。
人々の行き交う道路や、色んな店や家などの建物を清掃する仕事も、今では当たり前のように成立している。
ゴミを集めれば、それもまた活用できると知れば、今では町でゴミを見かける事さえ減ってしまった。
夜中に見回りをする者もおり、女性や子供が安心して歩けるように治安も守られている。
働いた者への賃金もきちんと支払いが滞りなく進んでいるようだ。
郵便や配達などのサービスも順調で、今や王家の者や貴族達もそれを認知し、活用するまでに至った。
嘘か誠か、コンセイユの名は王族にまで届いているとさえまことしやかに噂されるくらいだ。
順調すぎるくらいに物事は進みつつあった。
さて、その立役者であったコンセイユがどうしているかというと。
彼はいつも通り、これまで通りの生活を続けている。
朝起きて、美味くもないコーヒーを淹れて作り、苦い顔をしながらそれを飲む。
窓の外で人々が行きかうのを眺めながら、うんうんと頷く。
そして、テーブルの上に置かれていた羊皮紙に何やら書き込んでいく。
「今日はこの内容でいくか」
コンセイユは日常を取り戻していくにつれ、まだいる宿なしや、あるいは宿なしになりつつある者に向けて、新聞を配布、あるいは掲示していた。
中には、仕事の斡旋先や無料で宿泊できるところ、お湯の開放日などを記載してあり、果てには食事が無料で得られる日や場所、タイミングなどを記してあったのだ。困った時、どこへ、誰に相談すべきであるのか、分かりやすいようにと。
それだけであれば、貧困者向けの情報提供で、ちょっとした慈善行為だったろう。
だが、不思議と貧しくもない者達もこの新聞を求めた。
というのも、文章の内容などがただ情報を羅列するばかりでなく、コンセイユなりの表現を用いておかしく記述してあったからである。
たとえば、とある料理店のとある曜日は、閉店間際に裏口へ行くと、その日に余って処分せねばならないパンを分けてくれるから、ここへ向かえばいいと書いてあった。
だが、その料理店の誰々がいる日は、ケチで無愛想だから避けるように。その誰々は若いくせに偉そうなヒゲを生やして威張っているからすぐに分かるなどと書いてあり、それを見て人々は「あぁ、アイツか 」「今日はパンも貰えそうにない」などと面白がるのだった。
当の記事に書かれた本人からすれば、気の毒に思えるかもしれない。
だが、ケチなどはともかく、無愛想な面は多少あらためるかもしれなかった。
別段大きな情報を取り扱うわけではない。
だが、日常の些細な、こうした情報をちみちみとコンセイユは綴り続けた。これからもそうするだろう。
「コンセイユ様」
そんなコンセイユを、人々は今じゃ救世主もかくの如きに敬うようになってしまった。
このあたりは本人にとっても誤算であった。誤算である事自体、人々には不思議でならなかったが。
働く場所、機会を増やしていった。教えていった。任せていった。
住む場所を増やし、その管理も任せ、暮らせる人もどんどん増えていった。
食事や水、酒に困らないようにお金の流れを作った。お金がない人でも困らないようにできた。
町は綺麗に、道や建物も整え、人々に心の余裕もできつつある。
決まり事を作り、人々に考える力を動く流れを整えていく事も出来つつある。
宿なし達の集う組合を拠点とし、心や身体を養い直し、再び社会へと出ていけるようにするのがコンセイユの考えだった。
ただ、ここに一つの誤算が生じた。
「今月の復帰者なのですが、そのう……」
「またかい? 弱ったなぁ」
「一人も出ていくという者はおりませんでした」
とある日。
コンセイユは時々、宿なし達の自治する建物の一つへと足を運んでいる。
その建物は、宿なし達の数ある拠点の中でも心臓部に近く、その名をコンセイユの再生拠点という。
まさかの自分の名前を用いたネーミングセンスに、変化の乏しいコンセイユも流石にたじろいだが、名前の変更は断固として拒否された。
そこでは、定期的に収益の一部をコンセイユに渡す他、各部門の決算報告や、販路拡大状況、各種相談やその結果報告、最後には宿なしの社会復帰に関しての報告も行っていた。
今、ちょうど今月に宿なしを無事卒業した者の人数を聞いていたところであった。
申し訳なさそうに一人の女性が頭を下げる。
まだ若く、前も後ろも綺麗に整えた亜麻色の髪が印象的な女性だった。
確か、宿なしであった者の一人だ。
最初にコンセイユがこの事業を行うと宣言したあの日、ぼろぼろだった修道服を着て、あのような状況に身を窶しても神を信じ続けた敬虔な少女だった彼女。
コンセイユを神の使いか何かだと、恐れ多い事を言ってのけ、神を見たかの如く感動していた情緒あふれんばかりの少女だ。
かくいう彼女も、社会に出て元の生活に戻る復帰者になる事もせず、宿なしの一員として生活を続けている。
いくつになったか、コンセイユにも把握できていないが宿泊施設の中の一軒で他の宿なしと共同生活を営んでいるようだ。
宿なし歴は長く古株であり、ある程度のグループを管理すべき立場にまで上り詰めていた。こうして、コンセイユに直接対面して報告できる事自体がその証明なのであった。
お金も十分に集まっただろう。食事などにも困らず、栄養状態も良くなった。
身なりだってしっかりし、容姿にも気を配れるほどに心身ともに余裕も出来たと見える。
このように仕事も出来るはずなのに、いつでも元通りの、いや、それ以上の生活とて望めるであろうに。
それでも宿なしをやめようとしない。属したがる。
はて、どこで間違えたのだろうか?
コンセイユは別に悲観的になる事もないが、不思議には感じていた。
豊かになった宿なしは、コンセイユとの約束通り、お金をきちんと支払っていた。
仕事で得た報酬の一部を、食事代を、湯浴み代を、家賃をと。
おかげをもってコンセイユの懐事情は、あの日以前より既に何倍も膨らみつつある。
だが、お金に余裕ができた宿なしは、社会へ出て復帰者となれば、その先はコンセイユに支払う義務もなくなると伝えてあったのだ。
にもかかわらず、わざわざ宿なしとして残り続け、払う必要もない出費まで続けている。
まったく出ていく者がいないわけではないのだが、宿なし全体の一割にも満たない有様だ。
昔から残っている宿なしの大半はそのまま今も残り続けていた。
ワケが分からなかった。
「一つ、聞いてもいいかね?」
「は、はい。なんでしょうか。なんなりと」
「君もそうだが、なぜ誰も復帰者に、元の生活へ戻ろうとしないのだろうか? 恥ずかしながら、僕には分からない」
「それは、そのう……」
「いや、言いにくいのであればいいのだが」
おずおずとしている女性を見て、コンセイユは手を開いたままに前に突き出す。
無理に言わなくても構わないとのジェスチャーのつもりだったのだが、女性は意を決したように口を開く。
「それは、コンセイユ様がいらっしゃるからです。あとは、これまで一緒にやってきた皆と、これからも一緒にやっていきたいからでしょう」
「一緒にやっていくのは、別に社会へ復帰してからで構わないじゃないか。どこぞで家を買っても、会うのは自由だ。一緒に食事をしたって、湯浴みをしたって構いやしないのに」
「いえ、そういう事ではなく。ここに、宿なしの集まりに属していたいのだと思われます。少なくとも、私は宿なしであった事に、貴方の元で働けることに誇りに思っています」
どこか熱っぽい視線で見つめられているとコンセイユが感じたのは、あながり自惚れでもなかったのだろう。
亜麻色の髪の女性は、話している内に気持ちが高ぶっているのか、頬が上気しつつあった。憧れの存在と言葉を交わすだけで感極まっていた。
物事に万事鈍いコンセイユでも分かるほどに、今や彼女の顔は紅潮していた。
これを風邪でも引いたのかと考えるほど、コンセイユも朴念仁ではない。
だからといって、どうこうとする気もないのだが。
コンセイユが精力的にこの宿なしグループを引っ張ったのは、本当に最初期の頃だけである。
状況に慣れてくると、早々に宿なし達は要領を掴み、自分たちの役割を明確に、将来を見据えて動き始めていった。
コンセイユが悠々自適の生活を送るまでに、長い年月を必要としなかったのだ。どんどん自分の手を離れていく彼ら、彼女らにコンセイユは満足した。
想像よりも早く、良い意味で想像を裏切ってくれた。
だからこそ、完全に手を引こうとしても、その都度猛烈に熱烈に大反対を受け、このように月に一度は宿なし達の元へと顔を出す習慣は続いた。
もしも誤った方向に進みはじめていたら、軌道修正をしてほしいと。その顧問料も追加で支払わせてほしいなどと言われ、困惑せざるをえなかった。
励みになるから、時々は顔を出してほしいと。別に褒める必要もないが、挨拶をしてくれるだけでも宿なし達にとっては名誉であると言われ、驚愕した。
そんな偉い存在ではないのだとコンセイユは反論もした。一蹴された。
「うーむ……虚像の僕がどんどん大きくなっていっている。今じゃ、手直しも施しようがないほどに」
「虚像? 私たちは貴方のありのままを見て、そのうえで尊敬し、おそれながら敬愛を抱いております。その点、一つの曇りもございません」
きっぱりと言ってのける女性に、コンセイユは頭を掻くしかなかった。
彼女は、どこまでも我が事であるかのように誇らしげであった。
最初に少々動き、あとはほったらかして小銭だけを懐に分けてもらうこの寄生虫さながらの男をどこまで誇張するのか、とも思うと戦慄も覚えた。
だんだんと、自分の描いていた未来予想図よりも、ずっと大きくとめどなく、拡大をし続けているのではないかと恐怖した。
そして、その想像はまさしく的中した。
「コンセイユ様。宿なしの我々に新たなお名前を授けていただけませんか?」
さらに別のある日。
自宅で求人情報や、町の中のお昼寝スポット特集を気ままに書いていたコンセイユの元へ、団体で宿なし達が現れた。
いずれも見覚えのある顔で、今では幹部といってもいい立場の古株達だ。
そこには、先日の亜麻色の髪の彼女も含まれていた。
自宅であるはずなのに、肩身の狭い思いをするようにして座るコンセイユの前で、宿なしの一人が発した言葉が先ほどの台詞である。
新たな名前とは、なんだろう。
いや、宿なしに代わる別の名称ではあろうが。
「今では、宿の経営も幅広く行い、王都にまで知れ渡り、都市の一等地にも高級宿泊施設を建てる許可も得られました」
「ほう。それは素晴らしい。あの王都にまで」
「これもコンセイユ様の薫陶あればこその賜物でございます。そこで、宿まで経営している我々が宿なしと名乗るのは如何かと言われまして……」
「まあ確かに」
王都の中心部にまで宿を建てておいて、宿なしと自称するのはあまりにも滑稽であろう。
その名に信頼を寄せ、身元が保証されるとしても、どうしてもどこかで引っかかるのかもしれない。
「だが、別に僕が名前を考えずとも。今では君たちにすべてを任せている。僕に裁可を得る必要などないよ。別に宿なしだって、とりあえず名乗っていただけなんだから」
「畏れながら申し上げますと、コンセイユ様から命名していただく事に我らは至上の喜びを得られ、かつ、皆が納得できるのです」
至上の喜びと来たか、とコンセイユは思った。
どうにも先ほどから大袈裟というか、お偉い立場の者に仕える家臣みたいな物の言い方をする男だと感じざるをえない。
なんなら、忠臣さながらに振舞う自分に酔っているのは? とも思ったが、流石にそれは穿った見方かもしれないと思い、あらためた。
まあ、コンセイユの記憶が確かであるなら、この男は元騎士だったはずだ。自分のかつての振る舞いに名残惜しさがあるのやもしれない。
それにしても、名前、か。
今では、本当に幅広く活動するようになった。
中古品や廃品の回収から修理、果てには販売を行い、街中の清掃活動や治安維持、浴場の管理運営、飲食店や販売店、宿屋の経営店舗数も増え続け、郵便や配達事業も拡大の一途をたどる。
国内の盗賊や騎士くずれといった類と戦うための傭兵事業も進みつつあるという。近頃は行動が活発になったモンスターの類と戦う、いわゆるモンスターハンターを現地派遣する働きもあるとか。
国内どころか、国外にすらも支部を置くという話も先日聞いた。
コンセイユの手を離れて久しいが、その広がりぶりは留まるところを知らぬ。
ふと、彼は思った。結構、この組織って巨大じゃあないか? と。
「名前を考えるのは分かったんだが、一つ聞いてもいいかい?」
「はっ、なんなりと」
「今、君達の組織は何人ぐらい所属しているんだったかな?」
「……現在進行形で増え続けておりますゆえ、正確な人数とはいいがたいですが、ざっと三万人程度かと」
「さんっっ!!?」
幾年ぶりにか、コンセイユは声を大きく上げそうになり、しかも出し慣れていないために声を詰まらせた。
桁を数え間違えていないか、と思わず言いそうにもなった。
もはや、一介の貧困者グループの自助相互の組合とは到底呼べぬ規模、影響力になりあがっていた。
創立者であるコンセイユなどより、ここまで規模を拡大させた幹部たちこそが偉大なのではないかと思った。
だが、後日にそれを言っても彼ら、彼女らは一様に首を振り、ありえぬ事ですと口を揃えて答えるのであった。
コンセイユは頭を悩ませた。めちゃくちゃに責任重大じゃないか、と。
国家にまで影響ある巨大組織に、なんと名づける?
「そうだな、昔だが僕が作ろうとした人材派遣の組合にテンプエージェンシーとか考えていたんだが……他に」
「テンプ……エージェンシー?」
「いいですね! それでいきましょう!」
「賛成! 賛成!!」
「今日から、我々の新しい名前はテンプエージェンシーだ!」
「さっそく、皆に知らせ、大々的に告知するぞ!」
「おー! 創設者にして、代表はコンセイユ様で異論はないな!?」
「当たり前です! コンセイユ様が名づけてくださった旨も余す事なく伝えましょう!! 一字一句、誤る事も脱する事もなく!!」
「おぉ! 我らがコンセイユ様の新たなる組織の誕生だ!」
いくつか、案を恥ずかしながら提案しておいて、しっくりこないようであれば、早々に幹部に振ろう。
そして、自分はもっと遠いどこかで隠居しよう。
そうコンセイユは考えていた。だが。
試しに放った一つ目の案であっさり通ってしまった。
しかも、当の本人への確認もしない内に創設者兼代表で通すつもりらしい。
ちょ、ちょっと、等と反論する事さえもできぬ内に幹部たちが去っていってしまい、伸ばした手が虚しく宙を切るばかりであった。
「お、おぉ……もう……」
こうして、世界的に有名な人材派遣会社であるテンプエージェンシーが誕生した。
元々は、貧困者が立ち直るための環境を整え、自助相互の意識をもった組合であった。
事実、ルトガルではその面が強く残り続け、未だに熱烈な支持者にして、支部長になで成り上がった亜麻色の髪の女性が高らかにコンセイユの教え(コンセイユ自身に覚えのない教え)を広め続けている。
他国との戦争を避けるため、政治的な面でも働きかけを行うほか、戦う気も起きぬようにと国土を巨大な防壁で覆うことまで進めていった。
もはや、一介の女性とは呼び難い功績をあげていく彼女である。
だが、世界のあちこちに支部が出来てくると、他国ではどちらかというと傭兵派遣会社としてのイメージが強くなりはじめていった。
人同士での争い、あるいはモンスターの討伐などの方が需要も高く、そうした荒事専門の者達が増えていったからだ。需要があればこその供給ともいえた。
その内、世界でも最高峰といわれるG級のハンターまでもが所属するようになり、その戦力は各国の無視しえぬ規模にまで膨れ上がった。
無論、経済面や政治面でも少なからぬ影響を各国に及ばせつつあり、その存在感も無視できぬものであっただろう。
なにせ世界中の品物を一挙に取り扱う事もできるし、世界各地の主要たる人物にもつながりを持つのだから。
ルトガルという王国自体、もはやテンプエージェンシーに逆らおうとは思わなかった。それを行えば、瞬く間に滅ぼされるのが目に見えているからだ。
だからこそ、ルトガル各地での独立独歩を掲げた自治都市の制度を許容したし、テンプエージェンシーにも掣肘を加える愚かな真似もしなかったのである。
コンセイユに危害を加えるなど、もってのほかだった。
さて、次第に各国でテンプエージェンシーの存在が知られると共に、それらをまとめる者への興味や関心、疑問が沸き上がるのは当然の帰結であろう。
巨大なるテンプエージェンシーを束ねるコンセイユとは、一体全体、何者であるか。
G級のハンターをも従えるのだから、彼自身も海千山千にして、百戦錬磨のつわものであろうと。
戦う者のみならず、経済面でも政治面でも日常の些細な物事に至るまで、ありとあらゆる人材すらも輩出するその手腕、かつてはどこぞの国の権力者であった過去があるのやもとも。
これほどの人材を一挙に揃える人望や求心力、よほどのカリスマであり、その容姿や性格もまた、人並み外れた魅力の持ち主であろうとも言われ。
次第に、そうした風聞がどんどん広がり、当の本人のあずかり知らぬところで広がりは留まるところを知らない。
今や、世界制覇を狙う膨大なる野心を持ち、それに伴う実力や器量を備えた奸雄にして、世界を視野におさめ、実際に手中に収めつつある悪の枢機卿とも呼ばれた。
彼の虚像は膨れ上がり続け、もはや原形などは欠片ほどにも残っていない。
当のテンプエージェンシーに新しく所属していく者達ですら、その虚像を心の底から信じている有様で、幹部も心酔するコンセイユであれば、その程度は可能だと捉えて訂正するそぶりも見せぬのだから、もはや虚像は人々の中での実在する姿となりつつある。
では、当のコンセイユはというと。
無論、それらの風評や風聞をコンセイユは知らない。多少の噂を聞いても、またか、で済ませるだけだ。
今日も、彼は自宅で美味くもないコーヒーを飲み、焼きすぎたパンを齧りながら、面白くもなさそうに新聞を読んで、毎日を過ごすのであった。
時々、否、連日と暇さえあれば足繁く通ってくる亜麻色の髪の、今となっては上から数えた方が早いであろう大きな権限と責任を持つ彼女と他愛もない話をして。
知らぬ者が見れば、彼こそが世界最大の人材派遣会社、テンプエージェンシーの頂点に立ちうる者であると分かるはずもない。
「おはようございます、コンセイユ様」
「やあ、おはよう」
今日もコンセイユの周りは平和そのものだった。
あ と が き
※疑問となるだろうが、めんどくさくなって描写しなかった点
話を作るうえで、以下の三点は特に出やすそうな点
・元々、国同士の戦争によって疲弊したツケを食らったのであれば、コンセイユ周辺での経済の回復を知って、よからぬ考えを巡らせるのでは?
・コンセイユの名が知られたら、その人望や知名度、能力を活用、もしくは利用しようと考える人間や組織は現れないの?
・平和的な思考をしているように見せて、傭兵派遣だのいわれて、戦争に駆り出されるのはコンセイユ的には無問題なの?
本編でも若干関わってくる部分もあるので、ここで書くには時期尚早かとも思い、記述していない点があります。
特にコンセイユの正体。街で住んでいながら、誰も知らないという事があるのでしょうか? 引きこもっていたにしても、近隣の人間なども知らない事があるのか?
そのコンセイユを利用とすれば、当然ながらテンプエージェンシーは反発します。その恩恵に預かっている領主だの貴族だの、商人などの利権争いや権力争いなども想定されます。
まあ、ご都合にもほどがありますが、テンプエージェンシーの面々の中にも権謀術数に長けた人物がいたりします。コンセイユの正体にも関わってくる人物ではあるのですが。
このお話の中で出てくるテンプ(長いので略)の面々は、あくまでも綺麗で都合のいい展開しか知りません。暗い背景を見せぬための努力がコンセイユや、一部の知られざる人々にはあるのです。
ここまで書いてなんですが、まあ、都合の良い言い訳ですな。
そう都合よく物事が回るか! と仰りたい方もきっといらっしゃるでしょう。そのご意見は至極もっとも、その通りだと私は同意します。
だったら、もっと丁寧に書けよという話ではあるのですが。
あんまり細かく書くとさらにモンハン要素も薄々に、カルピスほんとに入ってる? ただの水じゃないこれ? レベルで薄っぺらくなっちゃうので、書いてないです。
ただの中世世界の与太話にしかなりません。
あくまで、本編でランポス並にぽこすか沸いて出てくるテンプの面々の背景をざっと書いただけですので、細かい部分の追及や指摘は、ほどほどにして見逃してくださると助かる次第でございます。
今後も困ったら「テンプから派遣、でいいか」くらいに出したりしてます。色々と使いやすいもんで……。
※ゴマしお程度のオマケ
小一時間もかけずに描いただけのイメージです。
コンセイユはなんとなく優しそうだけど、頼りなさそうに。某銀河の英雄が伝説を繰り広げるお話の主人公が頭に浮かび、真似てます。
似てるといわれてもアレですので、言われてみたら、そうかな? そうかも? と思っていただける程度に意識して描きました。
亜麻色の髪の人はなんとなく愛が重そうな感じに。
こちらは、本編内で登場するキャラクターと関連してくるので、そのキャラと似るようには気を付けてます。
【挿絵表示】
◆◇>>ж・ コンセイユ ・ж<<◇◆
異名・所属:テンプエージェンシーの創設者
平凡な外見ではあるが、人材派遣会社テンプエージェンシーが出来上がる礎を築いたとされ、本人の当初の考えとは裏腹に、組織内の人々はどんどん神の如く崇めてくるため、困惑中。
毎日の朝のコーヒーと、新聞作りが趣味の一般人……でいたかったが、周囲がそうはさせてくれない現状。
表舞台に出たがらないので、結果的に未知の存在としてイメージが膨らみ続ける人。
本編内で出てくる時にはどうなってる事やら。
【挿絵表示】
◆◇>>ж・ 亜麻色の髪の乙女 ・ж<<◇◆
異名・所属:テンプエージェンシー・【不明】
テンプエージェンシーに所属する幹部の一人。
幼い頃、貧しさに飢えていた時にコンセイユと出会い、その教えに従う。
もはや心酔の域に達し、彼女の中では神格化すらしつつある。
妄信しつつも、仕事には一切の手抜きをせず、いつの間にか巨大な組織の中心部に位置する上位者となっていた。
隠すつもりもなくコンセイユに好意をぶつけつづけている。