ACE COMBAT ZERO-Ⅱ -The Unsung Belkan war-   作:チビサイファー

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Mission7 -恐怖の井戸の底で-

 

 スザクの精密検査の結果は異状無しだった。脳にダメージも無く、左腕以外は五体満足。日常生活にもさほど支障はないと言う事から、病室から退院となった。

 

 それで、一応ゆたかに付き添われてスザクが向かったのは格納庫。そしてその視線の先には見るも無残になった愛機、Su-47の姿。それを見て一言、スザクは呟いた。

 

「木っ端みじんだな」

「木っ端みじんに近いですね」

 

 一応、フォローになるようにと少し軽い言葉で表現したが、目で見てみたら全くフォローにならない程の損傷だったからやはり無駄だったかもとゆたかはほんの少し後悔した。

 

 すっかり分解されたSu-47は、垂直尾翼と主翼が外された状態で鎮座していた。主脚は根元から外され、整備用の台座の上に置かれて、使えない装甲は剥がされて銀箔丸出しの合金が代わりに溶接されていた。つぎはぎまみれである。

 

 コックピットに近付き、タラップを上って中を覗いてみると、計器類は取り合えず砕け散っている物が大半である。キャノピーは救出の際に吹き飛ばして残ってはいない。ノーズコーンなんて物も残って無い。中に入っていたレーダーももぎ取られていた。

 

「…………はぁ」

 

 ためが出た。かれこれ五年近く乗っていた愛機だ。情だって生まれるし、愛着もある。何よりスザクはベルクート自体が好きだったから、なんともやるせない気分だった。

 

「お、もう動いていいのかい?」

 

 そうやって声をかけられた方向を見れば、油まみれのにとりがタオルで顔を拭きながら近寄って来た。ちなみにサイファーは哨戒飛行で朝から居ない。

 

「ああ。これと言って障害は無かったし、こちらとて早く復帰したいからな。と言っても、機体がこれじゃ何もできないが」

 

 ため息交じりにそう言うと、スザクはもう一度皮だけになった愛機を見た。

 

「……こいつ、どうなるんだ?」

「普通なら処分だね。新しいのが勝った方が早いのは間違いない。けど、もしかしたら起死回生の一手があるかもしれないよ」

「どういう意味だ?」

 

 んふふ、とにとりは面白い事を考える子供の様な顔になる。にとりがこういう顔をすると、大抵何か企んでいるのでスザクは察しがついた。

 

「詳しくはまだ言えないね。確定もしてないから。けど、このままベルクートを鉄くずにするか、鉄くずにされるの覚悟で私に任せて見るかのどっちかの選択肢があるね。さぁどうする?」

「後者だ」

 

 スザクは迷わずに言い放った。ああそうだろう、とにとりは満面の笑みを作り上げ、持っていたボードと紙をめくり、少しばかりメモを取ってからまた口を開いた。

 

「その言葉、確かに聞いたよ。じゃあとりあえずベルクートはこっちで空輸して預かるよ。期間はどれくらいかかるかは分からないけど、何とか頑張ってみるさ」

「ああ。頼む。で、俺はそれまで暇人か」

「ふっふっふ。誰が君を休ませる時間をあげると言った?」

 

 怪しい笑みを浮かべるにとりに、スザクはまた何か企んでいるとすぐに察しがついた。もちろんゆたかもである。というかゆたかの方が察しは鋭い。何を企んでいるかも察しがついた。

 

 懐から携帯電話を取り出して、コール音の後二、三口ほど話した後、にとりは格納庫の外に向けて指をさした。

 

 首を向けてその先を見て数十秒。3tトーイングトラクターが現れて、その次に引っ張って来た機体を見てスザクはまず頭に疑問符を浮かべた。ゆたかでさえも、不思議そうな顔をして現れたそれを見つめていた。

 

 無理もない。スザクどころか、その場に居た整備士、基地関係者全員が現れたその機体を見つめていた。

 

 目に着くのはその鋭い嘴のような機首。現れたエンジンエアインテークは特徴的な流線型の形をして、F-22にもF-15にも、Su-27系統にも当てはまらなかった。

 

 機体が全体像を表して、斜めに配置されたおそらく水平尾翼も兼ねた垂直尾翼、そして下方にはステルス性を思わせる同じく下方に向いた尾翼が取り付けられていた。

 

 何を取っても見た事の無い機体だった。一体この機体は何なんだ? 主翼の付け根にはある程度の隙間、おそらく可変翼戦闘機と思われる。そして長い機首、キャノピー。

 

 まるで槍のように鋭い戦闘機で、スザクはベルクートの流線型と鋭さを兼ねそろえたラインと、この謎の機体のラインを見比べてそう思った。まるで触れただけで怪我しそうな、俺に触るなと言いたそうなラインが目に焼き付いた。

 

「おいにとり、何だこの機体は……?」

「結構前に、ユージア大陸でクーデター起こったの覚えてる?」

「ああ、たしかスカーフェイス隊の活躍で鎮圧されたあれだろ?」

「そう。この機体はそのクーデター鎮圧に猛威をふるった、究極を目指して開発された戦闘機。“XFA-27”だよ」

「X……FA-27?」

 

 聞き慣れない名前だった。FAナンバーと言えば、F/A-18シリーズを思い浮かべるが、その前に取り付いたXナンバーでその共通性を遮断された。Xは試作という意味で、この名前があるのは超音速ロケット戦闘機X-15、X-31など試験用の機体である。だが、Xの後にFAが続く、ということは少なからず実戦に投入される前提だということが推測できた。

 

「開発メーカー、開発経緯、開発時期、設計者、それら全てが一切不明の戦闘機。知られているのは『究極』を目指して作られたと言う事だけの機密まみれの戦闘機さ」

 

 XFA-27と呼ばれた機体がゆっくりと牽引されて機首をこちら側へ向けられた。真正面から見ると、意外とシンプルな形をしていた。だが、その鋭さは一切損なわれていなかった。

 

「何でそんな機体が……」

「保有していたユージアのとある企業からのデータ収集依頼が来てるんだよ。クーデターの際の実戦データは機密のため削除。だから新しいデータが欲しってさ」

「……そんな機体を何で俺に?」

「この機体がとんだじゃじゃ馬だからさ。究極の速さ、究極の機動力、究極の攻撃性能を求めた結果。安定性が極端に低くなったんだよ。言いたいこと分かる?」

「つまり、同じく安定性の低いベルクートを乗り回していた俺にならってことか」

 

 可変翼を搭載している辺り安定性は高そうだと思われる。F-14シリーズだって、より幅広い速度域での安定した旋回性能を求められているのだから。

 だが、このXFA-27は安定性が低いとのこと。謎すぎる。一体どこのメーカーがこんな物を作ったと言うのだろうか。

 

「そんなこんなで、しばらくこの機体に預けるよ。ユージア側からは塗装だけなら自由にして良いってさ。どうする?」

「……いつも通りで頼む。黒に紅だ」

 

 オッケーと、にとりはにっこり笑い、既に用意された黒と紅の塗料が詰まれた作業場に居た塗装要員に二言ほど声をかけると、作業に入った。

 

「……スザクさんって、いつもこの組み合わせですよね。意味あるんですか?」

「ま、好きな色って言うのが一番だ」

「まぁそうですよね」

「しかし、こんな機体を俺がねぇ」

 

 ハンガーインしたXFA-27を見て、スザクは息を漏らした。改めてみると鋭い。F-22も鋭いイメージがあったが、それ以上だ。もはや針と言いたくなるようなデザイン。だが、嫌いでは無い。ベルクートの前進翼も好きだが、こういう変わった機体も悪くは無い。というのも本音である。

 

 これで商売道具の目途はついた。だが、問題はまだ残ってる。機体を与えられて嬉しいのはあるが、その他に抱えてる問題が約一つ。

 

「……さて。どうするかな」

「……もしかして、やまとさんの事ですか?」

「察しがいいな」

 

 事故から三日目。格納庫を見回してみるが、あのポニテ生意気整備士は見当たらない。XFA-27の整備に取り掛かる連中のなかにも見当たらず、察するにまだ参っているのだと分かった。

 

「行った方がいいと思いますよ?」

「んー……だがな、迂闊に触れてもダメな気がするんだわ。特にあいつは俺の事嫌ってるし」

「そんなことないと思いますよ。ああ見えて遠まわしにスザクさんの事褒めてることもありますし、女の子は男の人に大丈夫って言われると立ち直る物ですよ?」

「…………そう、かねぇ?」

 

 そうですよ、というゆたかの顔を見れば、それが嘘でないということは容易に想像できた。もともと嘘をつくような子でもないし、それならばとスザクは声をかける事に決めた。

 

「はい、行ってらっしゃい」

 

 笑顔で手を振るゆたかに会釈してスザクは女性宿舎へ向けて歩き出す。ゆたかは気を使ってか、はたまた一人で行けと命じているのか着いてこようとはしなかった。

 

 しばらく歩いて、男子宿舎を抜けてその先の女性用宿舎に入るまでには結構時間が掛かる。基地は広いのだ。三日ほど動いて無かったので、若干体が怠けていた。

 

 だるいわ。そう思いながらも、スザクは女性宿舎にたどり着いてやまとの部屋、もといにとりの部屋を目指す。途中すれ違う女性士官の目を感じてしまうが、スザクの腕のギプスを見てどうやらスルーされたようだった。ありがたい。普段なら勝手に男子が入れば寮母から尋問を喰らって、内容次第では雪山に埋められてしまうのだから、おお怖い怖い。

 

 しばらく歩く事一分。宿舎のほぼ真ん中に位置するにとりの部屋に到着し、スザクはノックをしようかと手をかけるが、何やら部屋の中からいかにも重いオーラを感じて思わず手を引っ込めてしまう。

 

(入りずれぇ……いや、待て。入る必要はあるか? 取りあえず声かけだけでもして一回様子を見るとかそんな感じでいいか?)

 

 考えて見れば、いきなり部屋に入るのもどうかと思う。まぁ様子見が今は一番かもしれないと判断する。偵察は大事だ、うむ。スザクはもう一度息を整えてノックした。

 

「俺だ。その、なんだ……別にこれと言って様は無いが、取りあえず無事だ。だからあまりに気に病みすぎるな。自分が持たなくなるぞ」

 

 そう言って、返事があるか待って見る。一分、二分と経過するが反応なし。やはりまだ無理があるのだろうか。

 

 長居するのも少しあれな気がした。あまり待ってても無いなら一旦引くべきだろう。スザクはそう思って、一旦戻る事にした。

 

「……早く出てこいよ。にとりも心配してるからな」

 

 そう言って、スザクはドアの前から立ち去った。しばらく歩き続けていると、出口でゆたかが待っていて、スザクが戻って来た事に気がついて、とてとてと近寄って来て「どうでした?」といった顔で見つめた。

 

「だめだ、反応なし。声かけて待ってみたがなんにもない」

「そうでしたか……にとりさんからはやっぱり食事に手をつけてないって言ってましたからちょっと心配です……」

「そうか……どうすっかな……」

 

 もしかしたらここまで手こずりそうな女性問題は、妹のプリンを勝手に食べて一週間口を聞いてもらえなくなったとき以来かもしれないとスザクは思った。ゆたかはいい子だし、にとりはむしろからかわれる側だしで、こんな問題に当たったのは十年以上久しぶりの話だった。

 

「はぁ……なーんで俺が気を使ってるのかね」

「女は理不尽な事が多いんですよ? 知りませんでしたか?」

「俺には分からないって……」

 

 まだまだですね、とゆたかに言われてしまい、スザクは俺も末期なのだろうかと思いながら食堂へ向かった。

 

 

 

 

 サイファーが任務から帰還して格納庫に入ってみれば、これはびっくり。見慣れない戦闘機が並んでいるではないかとテンションが上がった。しかも、現在進行形で赤と紅に染められている辺り、スザク専用機になるであろうとも察しがついた。

 

 ほうほうと言いながら機体を見周り、コンコンとインテークを叩いてみる。多分材質は新素材だと思う。F-22とは違う、あまり見た事の無いタイプだった。

 

 さて、コックピットはどんな具合なのだろうかとタラップを上ってみると、その中には右手のみでキーボードを叩く、ギプスを左腕に巻いた相棒の姿があった。

 

「お、なんだ出てきたのか。調子はどうだ?」

「精密検査では異常無しだ。取りあえず一番厄介なのは左腕だ。動かせない事は無いが長くは出来ない」

「ふむん。で、塗装とコンピューターの調整か」

「ああ。ちなみにこの機体の名前は……」

「XFA-27だろ?」

 

 いとも簡単に機体の名を言い当てて見せたサイファーに、スザクは思わず顔を見上げた。

 

「知ってるのか?」

「ああ。ユージアのクーデター起きた時に、ネットで話題になったんだ。謎の新型戦闘機がクーデター鎮圧したってな」

「そんな事があったのか」

「一応撮影された画像もあったんだが、ピンボケとかブレでよく見えなかったんだよ。だからただのコラ画像とか合成画像とかって言われてあまり大きな話にはならなくてな。ちなみに名前だけならちょっとした伝手で知ってたからな」

 

 ふーんとスザクは鼻を鳴らして、無駄に詳しいサイファーの知識を改めて評価(?)した。まぁサイファーは子供の時からこんな調子だったのをよく覚えている。隣でよく言いふらされて耳タコだった。

 

「で、調整はどうだ?」

「コンピューターにインプットされていたデータを見る限りでは、ベルクート以上かもしれない。だが実際に飛ばさないと分からないからな。けど、インプットされているデータと操縦回線、電気系統が複雑すぎて厳しい」

 

 キーボードを打ち込むが、画面に映し出された複数の数字は消えて行っては増えて増えての繰り返しである。思わずスザクは頭を抱え、サイファーもモニターの表示を見て「わーお」と漏らした。

 

「手伝いますよ、スザクさん」

 

 そうしてキーボードを叩いては首を傾げ叩いては傾げの繰り返しで唸っているうちに、サイファーの隣からひょっこり現れたゆたかがスザクのキーボードを見ながらそう言った。

 

「あれー、ゆたかちゃん今日仕事は?」

「明後日まで非番ですよ。ちょっと失礼しますね」

 

 ゆたかは体を乗り上げてコックピットに入ると、スザクの膝の上に座りこんでキーボードに指を置いて、かちかちとマウスをクリックして画面を切り替えていく。

 

「おいゆたか、大丈夫なのか?」

 

 パソコンをよく使う、とは聞いていたがジャンルが違う。こっちは機密まみれでパイロットもさっぱりなデータの固まりである。一管制官であるゆたかには荷が重いのではと思ったが、構わずゆたかは作業を続けた。

 

「取りあえずこのバグと要らないデータを削除、アップデートの繰り返しで必要最低限に、それでいてそのデータの中からスザクさんのために使えそうなサポートアプリをインプットすればいいんですね」

「ああ、取りあえずは……」

「分かりました」

 

 そう言うとゆたかは、また数回程マウスをクリックして、数値の入力画面が表示されて、ゆたかはキーボードを打ち込んで……

 

「はぁ?」

「はぃ?」

 

 サイファーとスザクは声を上げた。ゆたかがキーボードを叩き始めたと思ったら、コンソールの表示が見る間に消えて行き、そして驚異的な速さで最新の更新情報に書きかえられていく。苦戦していたスザクにはそれはありがたい光景である。だが、二人が驚いたのはそこでは無い。

 

 ゆたかの指が見えないのだ。少し大げさかもしれないが、常人ではまず越えられない程の速度でキーボードを叩きこんで情報を書き換えていた。

 目を見て見れば、キーボードには目を向けていない。画面だけを見て操作していた。いや、これは慣れてる人物ならできることだろう。だがよく見てみれば、ゆたかは時折目を離して左にクリップで止められていた解説書を読んでいた。事実上目を閉じタイピングしているのと同じである。

 

 さらに良く見てみれば、書き込んでいく過程で現れるエラーメッセージをいち早く読みとって数秒で修正を加えてさらにアップデートを加えていた。大雑把に言えば、一度に五つ以上の作業をしていたのだ。

 

 ゆたかは確かに航空管制や支援能力の任務を担当している。その指示の的確さは全ヴァレー所属の兵士の度肝を抜いて、一躍有名人にのし上がったのも周知の事実である。冷静な判断力、的確な指示能力は非常にレベルが高かった。

 

 だが、それだけではなかった。このタイピングの早さ、人間業では無い。スザクもサイファーも、ゆたかと飛ぶ事はあるが直接見てはいない。無線機の向こう側の彼女は、こんな作業をやっていたと思うと世の中分からないと思えた。

 

「ゆ、ゆたか……お前……」

「ちょっと今話しかけないでください」

「え、えっと……すまん」

 

 いかん、本気だ。スザクは本気の目でキーボードを叩きこむゆたかに思わず身震いした。女って怖い。まるで話しかけたら殺すと言わんばかりの目つきである。仕事中もこんな顔なのだろうかと思うが、定かではない。

 

 それから、ゆたかがタイピングを続けること約五分。モニターの表記がほとんど消えて、データ容量が随分と軽くなり、ふぅとゆたかは息を吐いて伸びをした。

 

「はい、終わりましたよ。これでデータの編集はだいたい終わりました。それといくつかあるデータからスザクさんの役に立ちそうなアプリと支援ソフトが見つかったのでインストールしておきました。一つ目は兵装管理のアプリ。この機体はミサイルの搭載量と発射用の電気信号が他機と比べて複雑なので、少々扱いづらいです。なので、このソフトを使う事によって武器系統の大きな支援になります」

 

 いくつか表示されたウインドウの中から、XFA-27の武器系統のモニターを表示した。まるで迷路だ、というのがスザクの感想である。

 

「XFA-27には、通常戦闘機には無い武器管制があって、通称四連ミサイル発射システム、“scarface MBS”と呼ばれています」

「四連ミサイル発射システム?」

「この火器管制を使う事により、通常ミサイル、主にAIM-9シリーズの瞬間火力が高くなります」

 

 またキーボードを叩いて、簡単な図面が現れてミサイルの表示が出る。

 

「当時、クーデターの際に起こっていたユージア軍側の装備状況はいいと言えなかったんです。特にミサイルに関しては、現在のXLAAなどの特殊兵装は特に品薄状態でした。それを打開したのがこのXFA-27の四連ミサイルベイです」

 

 淡々と説明しながら、ゆたかはまたウインドウを立ち上げた。

 

「長距離射程ミサイルが無い代わりに、ステルス性を利用して敵地に進入し、一機で複数の敵とドッグファイトに持ち込む。この機体はそういう戦闘を想定しています。さらに調べてみた結果、クーデター時には軍備もままらない状態だったそうで、この機体は地上に対しても大きな威力を発揮します」

 

 表示されたウインドウに、搭載可能兵装の一覧が表示されてスザクが口を漏らした。

 

「つまりマルチロール機ってことか」

「はい。ついでに言うと、当時は空母運用がメインだったため、艦載機としての機能も有してます。艦載仕様マルチロール機はホーネットにもありますが、レベルが違います。こんな機体正直反則と言えますよ」

「だよな」

「四連ミサイルシステムは、地上の敵に対しても低空で進入し、そして装甲の厚い車両でも複数のミサイルを一気に打ち込むことで破壊を可能にしていました。やろうと思えばフリゲート艦ですら航行不能になるそうです」

「対艦番長F-2も真っ青だな」

「いやスザク、あの機体は海洋迷彩でだいたい青いぞ」

 

 サイファーの突っ込みはさておいて、スザクは気になる点があったためモニターに映し出されたXFA-27の図面を指差した。

 

「一つ気になるんだが、この機体機種が長いだろ? 下方部の視界が不安だと思うんだが」

「心配には及びません。これも解析しているうちにわかりましたが」

 

 コックピットのボタンを少し探す動作をしてあ、っと小さく声をあげて、COFFINと書かれたスイッチを押しこんだ。

 

 と、軽い起動音がしたと思ったらラダーペダル付近が透明になり、ノーズギアの点検をしていたにとりの頭が映った。

 

「おおう?」

「なんだこれ?」

 

 サイファーとスザクがまたも驚愕の声を上げる。一瞬装甲が無くなったのかと思ったが、よく見ればこう映像を映しているかのような、というか事実ラダーペダル部分が可視化していた。

 

「スザクさんの言った通り、この長い機種では下方部の視界がよろしくないです。よって、この半コフィンシステムシステムを使うことによって死角を無くしています。ただ飛ぶと怖いですけどね」

 

 そのまま自分が浮いてる気分になりますから、と付けくわえた。

 

「取りあえず説明するとまだまだ長くなるんですが、今回はこの辺で終わらせておきます。残りはにとりさんに聞いたり、飛行中に知っても十分な内容です」

「まぁ本当に最低限ってとこだな」

「はい。あとは一時間もあれば処理できると思いますよ」

「あいよ、サンキューなゆたか。今度はサーロイン入りお子様ステーキ奢るよ」

「サーロインでもお子様というのはいただけません!」

 

 むっと顔を膨らましてゆたかは抗議の顔を作り、サイファーは癒しだと思い、スザクはやっぱり可愛いと思い、その頭をなでて「分かった分かった」となだめてやった。

 

 

 

 

「でさ、その新人ちゃんが結構メンタルにダメージ食らっちまってよ。かれこれ三日は閉じこもってるんだわ」

 

 夜である。ヴァレーは相変わらず哨戒機の出撃するとき以外は静かで、サイファーは自室でノートPCを広げてボイスチャットをしていた。

 

「ふーん。まぁ16歳で人の命預かる仕事するのはすごいとは思うけど、やっぱり失敗した時が怖いわね。相当ダメージ大きいと思うわよ」

「だよなぁ。生存報告にスザクが声かけに行ったんだが、無反応だったそうだ。こりゃかなり厳しいとみた」

「三日もご飯食べてないとなるとそろそろ体が危なくなるかもしれないしね……」

 

 PCのモニターには、自分用のカメラに映ったサイファーと、もう一人の少女の姿があった。

 少女、というよりも女性に近い顔立ちだったが、それでもどことなくあどけさの残る彼女の髪の毛は、こげ茶色。だが、光に当てられると美しく光り、艶やかさを際立たせていた。

 

 彼女の名前は如月海里。サイファーの幼馴染兼恋人兼世話女房である。

 

「どうすっかねー。正直俺がどうこうできそうにないし」

「よく話すんじゃないの?」

「いやー、業務に必要なことは話すが、スザクに対しては毒吐きまくってる」

「ふーん…………」

 

 画面の向こうで、海里は指をとんとんと頬に当てて考えるしぐさをする。その間にサイファーはお茶を飲み、ついでにつまみのチーズかまぼこを口に入れた。

 

「もしかしたらその子、スザク君のこと好きなのかもね」

「うぇ? あの子が?」

「だって、他の言いよる男たちには反応しないんでしょ? でもスザク君には毒を吐く、それだけの話し相手として認識してるって言えるでしょ」

「けど、ただ単に整備担当だからって理由は?」

「だからこそ意識し始めるでしょ」

「あー、なるほど…………」

 

 サイファーはポリポリと頬を指でかいて、海里は自分の意見がサイファーを納得させたという成果に満足げな顔になった。

 

「ま、スザク君が一番いい薬になると思うけどね。あんたじゃ荷が重いわ」

「なんだそれ?」

「こういうのは一番近い人物が行くべきだし、それにあんたには垂らしはできないってことよ」

「なんだよそれ。それともあれか、私以外の女に言い寄るなっていいたいのか?」

 

 と、サイファーの言葉に画面の向こうの彼女は黙り込んでしまい、よく見てみれば顔がほんの少し赤くなって目線を反らし、サイファーはそれを見てこれでもかと嫌なニヤニヤとした顔を作った。

 

「図星? なぁ図星?」

「う、うっさいわよ! 当り前でしょ、最後に会ったのいつだと思ってるのよ!」

「二年くらい前」

「そうよ、よく覚えてるじゃないの! こっちは寂しいのよ、たまには顔出しなさいよバカ!」

「あー…………すまん……」

 

 彼女の言うことは正論だ。確かに会えてない。このところずっとビデオチャットだったから彼女の肌を感じたのはもう結構前になっていた。正直休暇をもらえば帰れたのだが、ウスティオ軍はヴァレー所属全兵士の退去を禁止していたから帰れない状況だった。

 

(クリスマスには帰ってやるつもりだったんだがな……)

 

 こんな状況じゃ帰れそうもない。彼女には申し訳ないことをしたとサイファーは少々気に病んだ。もともとは寂しがりやな面があるから離れるのはどうかと思ったが、昔『鬼神』から聞かされていた言葉が引っかかってヴァレーを離れられずにいたのが現状だった。

 

 そんなことを考えていたサイファーの気持ちは本人が思っていた以上に顔に出ていたのだろう。海里は「あっ」と言いたげな顔になって、ばつが悪そうに目線を下した。

 

「……ごめん。ちょっとわがままだったかも」

「いや、俺の方ももう少し計画的になるべきだったわ。すまん」

「……ったく、久々の会話がこれじゃあだめね。切り替えましょ」

「そうだな。そっちは就活どうだ?」

 

 それから二人は他愛のない世間話をした。近所付き合いの事、最近よく猫がすり寄ってくるとか、楽しそうに話していた。

 

 それからしばらく、サイファーが一旦手洗いに席を立った後、再びパソコンの前に戻った時、海里は机に突っ伏して寝息を立てていた。

 

(ちょっと付き合わせすぎたかな)

 

 サイファーはほんの少し申し訳なく思いながら、チャット機能の方に「おやすみ」と打ち込んでパソコンの電源を落とし、背もたれに体重をかけた。

 にとりが部屋に入ってきたのはそのタイミングだった。

 

「うっす」

「よっす」

 

 軽く手を挙げて返事し、はぁ、と疲れた息を吐きながらにとりはそのままベッドに倒れ込んだ。ああ、今日は床で睡眠だなとサイファーは自分の今晩の行く末を呪った。

 

「調整はどうだ?」

「ずいぶん前から散々手を加えて来たけど死にそう……」

「お前がそんなになるなんてとんでもない機体だな」

「整備性はいいとは言えないよ……あちこち改造されてるから基本スペックが初飛行時と全く違うんだよ。東側のパーツもあれば西側もある、規格を無理やり合わせた違法ともいえるパーツもある、そんなのばっかりだからマニュアル探して探して、規格の合わない部品は複製して作り直し……私今なら死ねる」

「頼むから死ぬな」

「心配してくれるの~?」

「それなりな付き合いだしな。信頼を置かないとパイロットなんてやってられん」

「そだね」

 

 にとりは体を動かし、うつ伏せから仰向けの状態になる。ちらりと顔色を見てみれば、いつもよりも疲労の色が濃く見えた。

 

「……なんか飲むか?」

 

 ちょっとした気遣いである。少なくともサイファーはそんなにとりの顔を見るのは好きじゃない、というか基本女がそんな顔を見たくないのでなに気を使わないと気が済まない性格だった。スザクには甘すぎると言われていたが。

 

「じゃあ……栄養ドリンクか何かある?」

「オラナミンCならあるぞ」

「それで……」

 

 机の隣に置かれていた冷蔵庫を開け、蓄えていた栄養ドリンク一本をにとりに手渡す。少々力のない動きでキャップを開けると、口に入れてこくこくと流し込んだ。

 

「やまとちゃん、様子見たか?」

「うん……ダメみたい。やっぱり誰かが、主にスザクが話すべきだと思う」

 

 要はスザクじゃないと無理って話じゃないかと頭の中で思い、サイファーも栄養ドリンクを一瞬で飲みほした。

 

「ま、あいつも動けない奴じゃない。とは思うが」

「耐性はあるのは知ってるけどブランクの問題かな?」

「さすがだな、その通り」

 

 飲み干した栄養ドリンクの瓶を机の上に置いて椅子を回してにとりの方に向き直る。窓の外は雪明かりでほんの少し明るくなっていた。

 サイファーは15年前のあの日を思い出していた。故郷は南国で雪なんて降らない。けど、それだからこそ故郷とヴァレーを比べて思い出したのだ。

 

「スザクはあれから随分と性格が曲がっちまったからな。ま、今はゆたかちゃんのおかげでほんの少し持ち直したみたいだが。それでもあいつはまだ自分の殻に引っ込んでるところがある。少なくとも俺はこのままっていうのは著しく推奨しないがな」

「同感。人にはいつか必ず転機が来る。それを良いものにするか、悪いものにするかは本人次第だしね」

「ああ。俺たちがとやかく言って変わるもんじゃない。今は見守ることだけだな」

 

 ぎしっ、とサイファーが椅子に体重をかけて、ほんの少し椅子が悲鳴を上げるが、すぐに部屋の空気の中へと消えていった。

 しばらくそんな状態が続き、サイファーは天井をじっと見つめてこれから自分の行く末を少しだけ考えて、まぁいいかと息を吐いた。

 

 それから程なくして、にとりの寝息が聞こえたからサイファーは自分も寝るかと床に寝転がって割と早く眠りに入ることができた。

 

 

 

 

 事故から四日。格納庫に入れられたXFA-27は相変わらず整備兵泣かせで今度は動翼の系統にあちこち抜けている場所があると判明し、工作班はまたも部品作りに追われ、にとりは起きて食事をした後、疲れている体に鞭を打って立ち上がり、それでもねじ一本の不具合を許さずに正確な整備を全うしていた。

 

 そんな中コックピットで作業をしようとスザクは思ったが、既に他の整備兵が座り込んでいて、何をしているかと聞いてみれば回線接続のテストとの事だったので、そっちはスザクの専門ではないためこれは出る幕なしと判断した。

 

 で、どうしようかと思った結果いつの間にかにとりの部屋に行きついてしまい、そしてその中にいるであろう整備士はどうしたもんかと考えてノックをしようとして、しかし躊躇ってしまうと言う動作の繰り返しだった。

 

 さっき格納庫でにとりに聞いてみたが、やはり食事には手をつけていないという。四日も飲まず食わず、本当に何も口にしていないと仮定すれば正直シャレにならない状況になるのだが。

 

「…………」

 

 やはり、入る気にはなれなかった。だが、心配だと思う気持ちもあった。少なからず機体を整備してくれたことに感謝していたし、ここまで落ち込まれるとなんだか申し訳ない気分になってしまう。

 

 だが、女がナイーブになっているときにずかずかと入り込むのも、一種のデレカシーの問題になる。っというか今回はそれ以前の問題になるかもしれない。判断を慎重にさせるほかなかった。

 

「入ってやれよ」

 

 声がした。左に首を曲げてみれば、フライトジャケットのサイファー。その後ろに、同じくぶかぶかのフライトジャケットを着ているゆたかが立っていた。

 

「お前ら……」

「こういうのは、ヴァレーでにとりに並みにあの子に近いお前が行くべきだろ」

「そうですよ。前にも言いましたけど、女の子は男の人に慰められると元気が出るものです。ちなみにソースは私です」

「ああ……そういやそうだったな……」

「それに、デリケートな女の子の扱い方はお前の方が長けてると思ってたんだがな。何なら一緒に行ってやろうか?」

 

 少し挑発的な顔だった。俺が一緒に行ってやってもいいんだぞと言いたげなサイファーの顔に少し腹が立ったが、それが自分を押すためのものだということを知っていたからスザクは皮肉そうな笑みで答えた。

 

「いらん。俺一人で構わないさ」

「そうか。なら行ってこい」

「ああ」

 

 グッドラック、とサイファーが言って、ゆたかも笑顔になってその場を後にする。立ち去りながらサイファーがお子様セットをおごると言って、それを聞いたゆたかは取りあえずサイファーのひざ裏を蹴り飛ばした。

 

 それを見て思わず笑みがほころんだが、これからアタックする問題を考えるといつまでもそうしていられないと思い、一度深呼吸をしてドアをノックした。

 

「俺だ。話したいことがある。入っていいか?」

 

 それからほんの少し待ってみる。返事はやはりない。確実に聞こえる声だったから、聞こえていないとは考えにくい。いつもならここで手を引くが、今日はそうはいかない。

 

「聞いてるのか? 入るぞ」

 

 そう言ってもう少し、数秒ほど待つ。これで何か反応があったらまだ考えを変えたかもしれないが、拒否もしないということでスザクはドアノブを捻った。

 

 キィ、と小さく音を立ててドアをほんの少し覗いてみる。部屋を見回して、まず机の上に本人がいないことを確認。その後ベッドの方に目を向けて、二段ベッドの下の段に丸まった布団の固まりが見え、その隙間から人間の体のラインが見えていた。

 

 ここで入ったと分かりやすいように大きめな足音を立てるが、反応なし。机の上に置かれた、朝食のプレートは全く手がつけられておらず、まるで部屋の時間がそのまま止まったかのように静かだった。それがある意味怖かった。

 

「おーい? 大丈夫か?」

 

 丸まっている毛布に声をかけてみるが、もちろん返答無し。これは相当なダメージだと思い、もう一歩近づこうとして毛布が波打つかのような動きを見せて、声が上がった。

 

「来ないでっ!!」

 

 声が上がる、といっても、かすれて力のない声だった。それでも、まるで猫のように素早く、それでいて毛布で体を包んで、飛び上がり、ベッドの隅へと、奥へ奥へと逃げれないのにその先へ逃げようとする。まるで逃げ場を失った猫の様だった。

 

 だが、スザクは四日ぶりに見たその整備士の顔を見て、人はこんなにも変わるのかと思った。

 

 一言で言うとひどい顔だった。髪はぼさぼさで、大きく乱れていて、目は真っ赤に腫らしてたぶん頻繁に泣いていたんだと推測できた。この年頃の女子がこんななりなんて見ていられない。綺麗好きな性格なスザクがまず思ったのがそれだった。

 

「おい……落ち着け」

「来ないで……来ないでぇ!」

 

 スザクは落ち着いた口調でなだめようとするが、やまとはスザクが発すつ言葉一つ一つに恐怖を覚えて身体が跳ね上がる有様だった。ああ、いくら強がってもこいつはやっぱり子供だったなとスザクはある意味安心した。

 

 思っていたほど、スザクは落ち着いていられた。なんとなく前もこんな場面に出くわした気がしたからだ。いや、たぶんある。あるはずだ。だが記憶が古くてよく思い出せない。それでも、この先どう動くべきか分かっていたのだ。

 

「なにもしないって。別に怒ってねぇよ」

「ごめんなさいごめんなさい!! お願いだから来ないで、何もしないで!!」

 

 やまとの恐怖は見るからの最高潮だった。頭を手で押さえこみ、消えてなくなりたいと言ってるかのようにこれでもかと体を縮めていた。さすがに見ていられなくなったから、スザクはそっと手を挙げる。やまとはそれに思わず自分に何かされると、今度こそ恐ろしい目にあうのだと思い、声を殺した。

 

 だが、スザクは持ちあげた右手をそのままゆっくり下し、そして優しくやまとの頭の上に置いてやると、これまでにない落ち着いた口調で語りかけた。

 

「大丈夫だって言ってるだろ。そんなに泣くな」

 

 優しく頭を撫でまわし、出来るだけ優しい声でやまとに話しかけた。思い出した。スザクは似た状況を経験したことがあった。そうだ、妹にこんな事をしたんだった。ああ、同じだった。作ったプラモデルを誤って壊した妹がこんな感じで怯えていたんだったなと、スザクは思い出した。

 

 しばらく、静寂が続いた。だが、それからやまとは泣き叫ぶことも怯えることもなく、ただスザクの行く末に任せているようだった。手に取るように分かるとは、こういうことか。

 

「…………落ち着いたか?」

 

 頃間とスザクは一言声をかけた。やまとの震えは収まり、うっすらと見える顔の表情は幾分落ち着いたように見えた。スザクの言葉に、やまとは軽く息を吐き、ゆっくりと大きく頷いた。

 

「そうか」

 

 手をそっと離し、ベッドに座ってひとまず安心とスザクは息を吐いた。

 

 それからはまたしばらく沈黙が続いた。回復の兆しがあれども、まだ落ち着く時間は欲しいのだろうとスザクは知っていたからしばらく座って待つことにした。

 

 そうやってまた数十分ほど時間が過ぎて、さてこちらから声をかけようと思っていた矢先に、意外にもやまと自らが口を開いた。

 

「…………怪我、どうなの?」

「ん、平気だ。擦過傷と打撲とかだ。左腕に部品か何かが刺さっていたらしいが、生活に支障はないし一週間くらいで戦闘機には乗れる。完治は一カ月くらいだが」

「そう…………よかったわ」

「お前からそんなこと言われるなんて意外だな」

「私だって心配くらいするわよ」

 

 じとり、とやまとが軽くスザクを睨む。おぉ、こわいこわいとスザクは適当にあしらってそれを回避。やまともこのネタを長くやるつもりはないので、さっさと次の話題に移行した。

 

「…………ベルクートは?」

「分解して胴体部分だけをにとりに預けた。何かしでかすみたいだからとりあえず分解作業中だ」

「しでかす? 改造でもするっていうの?」

「たぶんな。正直買い換えようかと思ってたんだが、まぁ本人もツケてくれるって言ってるしいいかなって」

 

 ふーん、とやまとは鼻を鳴らすように答えると、またもう一度息を吐いた。安心しきったのだろうとスザクも察して、しかし気が付かれない程度に笑みを浮かべた。

 

 と、まさにそのタイミングだった。

 

―グゥーー……―

 

 と、ガスがうごめくような音がして、そしてその音は聞けば誰しもが分かる音で、しかもスザクの目の前にこの腹の虫が泣き喚かない訳のない人物がいたのですぐに察しがついた。

 

 興味半分、確認半分で顔だけをやまとの方に向けてみれば、約一時間ほど前まで死人寸前の様だった永森やまとの顔は、見る間に真っ赤になっていき、スザクが自分を見ていることに気が付いた瞬間またも毛布を頭からかぶった。

 

「ぷっ……ははははは!」

 

 スザクは、それを見て思わず声をあげて笑ってしまった。それもそうだ、いつもつっけんどんで強がって、クール気取りで大人ぶっているやまとの弱みを初めて見たのだ。

 

 だが、当の本人からしてみればたまった物ではない。面子が潰れてしまう。それはご免であると、声をあげて抵抗を試みた。

 

「う、うるさいわよ! 誰だってお腹は空くものでしょ!!」

「い、いやそうだけど……くくく、いや面白いわ」

「からかわないで!」

「すまんツボに入ったわ、はははは」

「いい加減にして!」

「あでっ」

 

 ぼふん、とやまとはスザクの後頭部に枕を投げつけ、スザクは不意打ち同然でそれを食らってしまい、そろそろやめないと怒られるだろうということから、やめる事にした。

 

「分かった分かった、悪かったよ。でもお腹空いてるんだろ?」

「そ、それは……そうだけど……」

 

 それだけは否定できない事実だった。やまとは口をもごもごとさせてどういい訳をしたら自分のプライドの被害が軽くなるのかを考える。だが、残念ながら現実と言う物は非情である。

 

 そんなやまとの反応を見て、スザクの脳内で閃いた。ああ、今この自分のスキルを使うチャンスではないかと。

 

「うし、なら待ってろ。三十分くらいな」

「え?」

 

 やまとはスザクが何を言っているのか一瞬理解できなかった。と数日の空腹、そして長期に渡りまともに動かしてないことが重なって、彼女の脳髄はスザクの意図をつかむまでにかなり時間が掛った。

 

 結局、スザクが部屋を出て行くまで、やまとは彼の意図が掴めず、三十分後に返ってくるまで理解できなかった。

 

 

 

 

 

「え? じゃあサイファーさんはそろそろ解決するって分かってたんですか?」

「なんとなくだ。まぁ正直この手の可能性は少ないかと思っていたんだが、案外人間って単純だったわ」

 

 昼である。食堂でゆたかと昼食を終え、サイファーはデザートタイム。ゆたかは食後の紅茶を飲み、サイファーは炭酸を飲みながら談笑していて、その途中でスザクが現れて二人が顔を合わせると、軽く唇を釣り上げたため、二人は甲斐性ありと知って事後談話へと移行していた。ちなみにスザクは厨房に入りこんで作業中である。

 

「俺も色々失敗して凹んだ事くらいあるさ。でも一日落ち込んでれば、腹減った、泣くのに疲れた、落ち込むのに飽きたって戻るんだよ。四日も飯食わないなら、そうなるんじゃないかって」

「なるほど……確かに私もあります。すぐに前向きになるようにしてますけど」

「いい心がけじゃないのゆたかちゃん」

「マイナス思考になってもいい事ありませんしねー」

 

 はむはむとサイファーの奢りのケーキ頬張り、ゆたかは幸せそうな顔になる。ああ、懐だけが痩せていくと少し嘆きながらも自分もティラミスを頬張って美味いと堪能した。

 

「ところでスザクさん何してるんですか?」

「あの分だと飯作ってあげてるんだろ。放置された朝食食べさせるのもあれだし」

 

 確かに、とゆたかは思う。まぁ数時間ラップなしで放置された食べ物に手をつけたくないのはだれでも同じであろう。食べるなら出来たての温かい物がいい。しかも精神的にダメージを受けている時ならなお効果的である。ああ、偉大かな食事文化。

 

「あいつの家事スキル高いしなー」

「部屋いつも綺麗ですもんね」

「あれあれ~? ゆたかちゃんスザクの部屋にしょっちゅう入るの?」

 

 興味津津、そして意味深にサイファーは聞いてきた。前のゆたかだったら、「そんなんじゃないです!」と言って「俺まだ何も言ってないぞ?」と墓穴を掘るところだったが、気づかれないようにフォークを指でつかんだ。

 

「ええ、まぁ。それなりに」

「…………夜這い!!」

 

 次の瞬間、サイファーの脳天に厨房方面からスザクのお玉が飛んで、セミアクティブ空対空ミサイル並みの精度で命中し、さらにゆたかの投げたフォークがレールガンの様な正確な直線移動で額に突き刺さり、次いで出された左ストレートがみぞおちに入ってサイファーは完全に沈黙した。

 

(ああ……俺ついにゆーちゃんにまで負けるようになったかぁ……)

 

 そう思うサイファーだったが、ゆたかが強くなっただけ、という結論に達することは向こう一年ほど無かった。

 

 轟沈したサイファーを見て、ゆたかはケーキの最後の一口を飲みこむと、刺さったフォークを抜いて返却口に食器を置き、スザクの様子を見に行くことにした。

 

 見てみれば、スザクは左腕がギプスで動けなかったが、丁寧に片手で包丁を使っていた。だが、やはりどうも危なっかしい面があるから、ゆたかは手近に合ったエプロンを着ると、スザクの左手の代わりに切っていたネギを抑えた。

 

「ん、さんきゅ」

「片手じゃ厳しいですよ。私が切りますから、スザクさんは他の作業してください」

「ああ。ありがとうな」

 

 ゆたかにネギの解体をまかせ、スザクはあらかじめ準備していた油の中に、衣をまぶした豚肉を入れた。その次に片手で卵を割り、箸をとりだしたところでゆたかの作業が終わり、卵の入った容器を抑えてくれた。

 

 ちなみにゆたかはこの時点でスザクが何を作っているのか察しがついた。うむ、女の子に合った物かと言われればそうとは言えないが、それでもお腹が空いたら喜んで食べるであろう丼物だとすぐに分かった。

 

 

 

 

 ぴったり三十分。スザクは丼を片手に帰ってきて、その時間の正確さにやまとは驚きつつも、次いで鼻孔に届いた匂いに釣られて、また腹の虫が騒ぎ出してしまう。それを悟られないようにお腹を押さえるが、スザクは分かってると言いたげにやまとに丼を渡した。

 

「…………何よ、これ?」

「丼物だ」

「いや、見ればわかるけど……」

 

 女ががつがつと丼物を食べるのはいかがなものかと思ったが、それよりもこれ以上何かと抵抗を重ねると腹の虫が爆発しかねないから素直に受け取って、蓋を開けた。

 

 カツ丼である。誰が何と言おうと、どう見ようとカツ丼である。しかも物すごくおいしそうだから、やまとは思わずよだれが出るかと思ってしまったが、ぐっとこらえて割り箸を割り、まず一口。

 

「…………!」

 

 数回ほど噛んで味わうと、卵とカツの風味が口の中すべての感覚器官へと叩きつけられ、一口目を飲みこむ前に二口目を口に入れ、三口目、四口目と続いて、まるで我慢できないと言うかのように一気にかきこんだ。

 

 お前本当に女か、と言いたくなるような食いっぷりである。スザクは自分の料理の出来に満足し、ベッドに座って隣で我を忘れていたひたすらカツ丼を食べるやまとを見つめた。

 

 やまとがカツ丼一つをすべて食べ終わるのに何ら時間は要らなかった。十分も掛らず、食べ終わったやまとの顔は満足そのもので、ただまた一粒涙を流していた。

 

「…………食事って、こんなにもいい物だったのね」

「当たり前だ。食うのが生きる目的みたいなものだしな」

「そうね……まったくだわ」

 

 その時、スザクはやまとが唇を釣り上げて、柔らかい笑顔を浮かべていることに気が付いた。満面の笑み、という訳ではないが、それでも本当に幸せそうな顔をしていて、その姿にほんの少し違和感というか心臓のちょっと奥のあたりに違和感を覚えて、すぐに気のせいだと考え直した。

 

「ところでこれ、あなたが作ったの?」

「ん、ああ。ちょっと食堂借りて余った食材で少々。極端に言うなら卵と肉とネギだけでいいからな」

「意外な一面ね。男ってみんなガサツなイメージだけど」

「サイファーは典型的だ。家庭スキルのない男の典型パターンの決定版」

 

 そうね、とほんの少し笑ってカレンダーをちらりと見てみる。その次に卓上に置かれた電波時計の日付を見てああ本当に四日間部屋にこもっていたのかと再認識した。

 

 ん? 四日間部屋から出ていない? やまとは何か重要なことを忘れてる気がした。四日間何をした? ひたすらベッドで泣きじゃくって、後悔して、というかそれだけだ。食事もしてないくらいなのだ。だが何か、何かを忘れてる気がしていた……。

 

 やまとは部屋を見回す。スザクがどうしたと言いたそうな顔をしていたが、気にせず何かヒントを探して、ふと壁に掛けられている鏡に映る自分が目に入った。

 

 何ともひどい有様である。髪はぼさぼさで寝ぐせびっしり、顔の肌も荒れ気味で、何やら自分がすすけて汚れてるかのようだった。湯船で洗い流さないと色々と…………。

 

「!!」

 

 やまとはついに思い出した。そうだ、四日間部屋にこもっている。つまり風呂になんて入ってない。どういうことか。

 

「ちょ、ちょっと!!」

「ん?」

 

 ずささ、とやまとはまたもベッドの隅っこに逃げ込み、スザクはなんだと言いたげな顔になる。

 

「どうした? まだ何かあるか?」

「ち、違うわよ! 取りあえず出て行って!」

「はぁ?」

「いいから来ないで!!」

 

 訳分からんと言った顔なのだが、見る間に赤くなるやまとの顔と、守るかのように肩を抱く腕、そして女の子がどんな条件でこうも男子を拒絶するかと考え、それでなんとなく察しがついた。

 

「…………ああ。浴場なら多分もう開いてるぞ」

 

 よっこらせと立ち上がり、スザクはやまとに気を使って部屋の外に出る。それを見送り、やまとはまた盛大な溜息を吐き、そして軽く自分の腕に鼻を近づけて、ああこれはダメだと判断し、すぐさま自分の着替えを引っ張り出し、廊下に誰もいないことを確認すると全速力で浴場へと駆け抜けた。

 

 

 

 

 四日ぶりの湯船は最高だった。まるで体の疲れと垢とかが一気に消え、まるで一種の快楽の様な感覚に、ため息が漏れた。

 

 髪の毛のダメージは何とか許容範囲で済んだものの、それでも痛々しい毛先を見ると、今度は違うため息をつきたくなった。

 

「……少し切ろうかしら」

 

 そういえば基地に来てから髪の毛を切っていないから、結構伸び放題だった。毛先を切ってもう少しまともにするか、と決定した。

 

「体、大丈夫ですか?」

 

 不意に声をかけられ、やまとはほんの少し体が跳ね上がって、視線を変えたら濃い湯気の先にゆたかが変わらない天使のような笑みを浮かべていた。

 

「ゆたか……」

「うん、いつものやまとさんですね。しかもバージョンアップしましたね」

「バージョンアップ?」

「はじめて私の事名前で呼んだじゃないですか」

 

 そう言われて見て、やまとは自分がゆたかの名前を口にした事に初めて気が付いて目を見開いてしまった。ゆたかは、そんな面白い反応をするやまとを見てくすくすと笑った。

 

「ちょ、ちょっと、笑わないでよ……」

 

 顔を厚くしながら、やまとはそっぽを向くが、照れ隠しなのは目に見えていたので、ゆたかはもう少しだけその反応を楽しんで改めて話を戻すことにした。

 

「ごめんなさい。けど、今のやまとさんの方がずっといいですよ」

「まだほとんど話してないじゃない」

「分かるんですよ、雰囲気とその一言だけで」

「…………」

 

 そう言われると、そんな非現実的な事があるかと言いたくなるが、全く否定的にもなれないのが人間の第六感というものである。やまとだってあるし、戦闘機乗りは戦闘になるとほぼ直感で相手の殺気を察知して回避したり有意なポジションをとるのだからむしろ現実的である。

 

「よかったら背中、流しましょうか?」

「えっ……」

「もう四日もお風呂に入っていなかったんですから、お手伝いしますよ」

「い、いやだけど……」

「お風呂で恥なんてありませんよ、ほら」

 

 少々強引に、ゆたかがやまとの腕を引っ張って動かした。というかやまとが驚いたのは、ゆたかの力が見た目よりも違って、かなり強い力でひかれてしまっていた。

 そのせいで対応が遅れて、やまとはさっさと湯船からあげられ、もはや受け入れる以外の選択肢がない状況に追い込まれてしまった。

 

「……分かったわよ」

 

 降参だ、とやまとは大人しく椅子に座り、ゆたかはボディソープを泡だててやまとの背中をこすり始めた。

 

「ところで、やまとさんは何で整備士になろうと思ったんですか?」

「唐突ね」

「いいじゃないですか、仲間なんですし。まぁよほど言いづらいことがあれば聞きませんけどね」

 

 仲間、という単語に、やまとは少しだけ反応してしまった。そういえばそんな風に言われたのは久しぶりだった。今頃ユージアにいる親友の事を思い出し、ああ、自分は結構寂しがり屋なのではと少なからず感じてしまった。

 ずっと否定していたことなのだが、最近どうも否定できなくなっている気がする。自室に一人でいると落ち着かなくて、誰かがいる格納庫に行けば落ち着く。そんなことが最近多くなっていた。

 もっとも、この四日間は部屋にこもっていたが、正直な感想風呂でゆたかと遭遇したことが少し嬉しかったのではと考え、そして事実わずわらしいと感じなかったから正解なのかもしれなかった。

 

 ただ、やまとの今までの性格やプライドの関係上、認識するまでに、時間がかかったが。

 

「で、どうなんです?」

「…………そうね。今はちょっと整理する時間がほしいわ。けど、気が向いたら話すわ」

「くす、やっぱりそう簡単には教えてくれませんね。けど、そういうところもやまとさんらしいです」

 

 自分らしい。そう言われて、やまとは悪い気はしなかった。いい意味であれ悪い意味であれ、やまとには不快ではなかった。だが、人がいるというのは、いい物なのだろうと、そう思うようになっていた。

 

 

 

 

 XFA-27の調整は大詰めを迎えていた。後は機体の劣化個所の再点検、整備完了個所のチェック、コンピューターのバグ排除だけであった。

 

 にとりはようやく終わる見込みが見えて、久々にだらしなくベンチの上にうつ伏せで寝ることにした。

 は、いいのだが、いかんせん自分の胸元の膨らみが呼吸を困難にさせてしまうため、やっぱり仰向けでごろごろする程度にした。何より、仕事が終わらないと眠れない性分だから眠れるとも思っていなかったが。

 

 隣には解体作業を八割型終えたベルクートが佇んでいて、どことなく寂しそうな表情になっている気がした。もう明日には輸送機で工場に送られる予定だった。と、格納庫の入り口付近から見覚えのあるポニーテールが見えて、にとりは跳ねるように起きた。

 

「やまとちゃん!」

 

 立ち上がってダッシュでやまとに近づき、にとりはそのままの勢いでやまとに飛びつくと、頭を自分の豊満な胸に押しつけて、ぐにぐにと押し込んだ。

 

「ちょっ、主任苦しいです!」

「よかったよぉ! もう出て来ないのかって心配だったよぉ!!」

 

 心配してくれるのはありがたいのだが、こうも胸囲の格差を思い知らされると少々複雑な気分になるし、というかそれ以前に息ができない。しかし、にとりは構わずやまとを抱きしめ続けて満足して力を抜いた瞬間にやまとは顔を上げて盛大に酸素を取り込んだ。

 

「主任、大げさですよ全く……」

 

 泣く程の事かと思ったが、それだけ自分が迷惑をかけたのだろうとやまとは反省し、深呼吸をして取りあえず謝ることにした。

 

「取りあえず、ご迷惑をおかけしてすいませんでした。今日から通常通りの業務に戻ります」

「うん、でも無理しなくてもいいからね? 疲れてるならいつでも言いなよ」

「はい、ありがとうございます」

「じゃあ、取りあえずあそこの機体整備を軽く整備してもらおうかとおもうけどいい?」

「あ、ある程度の事は聞いています。マニュアルでもあれば何とか」

「オッケー、じゃあこのページの電気系統の取り付けと、配線を繋いでもらいたいけどいい?」

 

 にとりから分厚い整備マニュアルを手渡されて、複数貼られた付箋の中から指定された個所に目を向け、数十秒ほど読んでから大丈夫だと言った。

 

「うん、よろしくね。終わったら報告するように」

「はい、行ってきます」

 

 腰の工具用ポケットからスパナを取り出し、整備されているXFA-27の元へと近づいて、電気系統用の配線がある場所のメンテナンスカバーを開けた。

 

 そのタイミングで、格納庫にスザクとサイファーがやまとの様子を見にやってきて、それに気がついたにとりが手を軽く上げて挨拶。サイファーが同じく手で返事をして、スザクは瞬きで返事をした。

 

「よっ。やまとちゃんの様子どうだ?」

「元気そうだよ。と言ってもたった今から整備に取り掛かったからまだどうとも言えないけどね」

「うーむそうか。まぁ元通りみたいで何よりだな」

「…………」

 

 解決解決、と頷くサイファーに、にとりは肯定的な表情にはならなかった。少し思いつめるような、何か不安があるような、そんな顔だった。スザクはいち早くその変化に気づき、迷わず指摘した。

 

「なんだ、にとり。何か不安でもあるのか?」

「…………ちょっと、ね」

 

 その時、格納庫に硬い金属が落下する音が響き渡り、音がした方へと全員の視線が向いた。

 

 その先にはやまとがいた。だが、様子がおかしい。足元にはねじを締めるためにとり出したであろうドライバーと、スパナが転がっていた。手が滑って落とした? だが、様子がおかしい。スザクはやまとの方と手が震えているのを見逃さなかった。

 

 気になってスザクはやまとに足早に近づき、声をかけてみる。返事がない。それからすぐにやまとの後ろに立って、もう一度呼ぼうとしたとき、彼女の首筋が汗まみれで、息が大きく荒れていることに気が付いた。

 

「…………やっぱりか」

 

 にとりは小さくつぶやいた。

 

 

 

 越えなければならない壁はまだ、残っていた。

 

 

 

 


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