ACE COMBAT ZERO-Ⅱ -The Unsung Belkan war-   作:チビサイファー

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Mission20 -B7R制空戦2010-

 2010年12月16日。ISAF特務空母ヴァレーは、一週間の補給と整備を終えてファーバンティを出港し、今現在スプリング洋を南西に向けて航行中だった。目的地はオーシア南部の都市、ストックデール沖合数百キロ地点。情報収集船「ヒビキ」がオーシア側の協力者、「アンドロメダ」よりハーリング大統領救出の報告を受けての行動だった。

 まず、その地点を選んだ理由として、地形の良さが一番の理由である。ストックデールの沖合なら、オーシア、ウスティオ、さらにはベルカの一部までもが空中給油を加えて行動範囲内にする事が可能である。この件についてはハーリング大統領も承諾し、今後は到着すればストックデール沖が活動拠点になる予定だった。

 到着までしばらく時間がある。それまでゆっくりと船旅でもしようか。そう思っていたサイファーだったが、そうもいかない事態が出港から一日たった今日、ヒビキがベルカの暗号通信をキャッチし、これを解読。その内容はすぐに艦長芹川凪乃に伝達され、緊急収集となった。

「諸君、集まってもらったのは他でもない。我々は現在ストックデールを目指して航行中だ。到着まで一週間。辿り着けば我々はそこを拠点に出来ると言ったところだが、そうもいかない事態が発生した。これを見て欲しい」

 スクリーンに映し出されたのはミサイル弾頭と思わしき設計図。いたるところ意図的に破られた跡があり解読が難しかったが、それは間違いなくベルカ側の新兵器だろうと言う事は察することが出来た。

「これは以前君たちにも説明したトリニティ弾頭の巡航ミサイル搭載型の設計図と思われる。ユークトバニアレジスタンスが核兵器を無効化する際に発見されたデータが、アンドロメダ経由で送られてきた。奴らはこれを極秘に生産し、既に数発ほど完成間近まで漕ぎつけているようだ。そして、最悪な事に一発が完成しているらしい」

 次にスクリーンに完成予想図のトリニティ搭載巡航ミサイルが表示される。これは爆撃機に搭載して対象を破壊するタイプと思われるが、恐らく投下型でも設置して起爆しても使える万能型だろう。

「そして、その一発の標的が判明した。君たちの古巣、ヴァレー空軍基地だ」

 ブリーフィングルームにどよめきが上がった。何もサイファー達ヴァレー組だけでは無い、空母のクルーだって驚きを隠せなかった。当然だろう、こんなおぞましい兵器をヴァレーに向けて撃つと言うのだ。一体何の恨みがあってのことだろうか。

「待て、なぜヴァレーが狙われる。あそこはマッケンジー指令の身柄引き渡しで、兵士たちはむしろ表彰されるべきではないのか?」

 疑問しか浮かばないサイファーだった。ヴァレーを脱出してからの事は耳に入ってこなかった。エルジアだからあまりウスティオのニュースなんて届かないからだと思っていたが、それもベルカ過激派の仕組んだ事だと言うなら納得がいく。

 だがそれにしたって一体どう言う理由で彼らが標的にされるのか。それだけはピンとこなかった。いや、思い当たる節はあったが、まさかそれが本当に当たるとは本人は思ってもみなかった。

「それが残念なことに、その目論見はウスティオ軍部に入り込んだベルカスパイに潰されたよ。彼らは国家反逆罪で基地に閉じ込められ、そしてトリニティの標的にされる」

「だがそんな物を使えばウスティオ政府だって黙ってない! トリニティでの襲撃は一回経験しているんだ!」

「それについては、河城にとりの実験と言う理由で政府を黙らせたよ。このヴァレー標的も、彼女の作った弾頭で集団自決、とでも言えば政府は丸めこまれる。それ以上に、政府関係者にも内通者がいる。大統領を上手い事言いくるめるだろうさ」

「くそったれ目……」

 サイファーは天を仰ぐ。凪乃は黙ってスクリーンのリモコンを押し、今度はB7Rの地図を表示した。

「それだけじゃ終わらない。ベルカ側はウスティオに潜り込ませた航空隊を使ってヴァレーパイロットを一方的な空戦で撃墜すると言う情報も入った。もはやお遊びと言う名の虐殺だな。もちろんヴァレー側には武装一切無し。丸腰で拳銃持った人間を相手にするくらいアホらしい展開だ。さらには爆撃機一個中隊のおまけつきで完全に消し去る勢いだ。そこで」

 スクリーンが変わり、ウスティオから自分たちのいる所までの地図が表示されると、凪乃はレーザーポインタで自分たちの現在位置に円を描いた。

「我々の現在位置がここ。そしてヴァレーまでがここ。直線距離で行けば大して時間はかからない。そこでウェルヴァキア方面から侵入し、そのまま南側からウスティオへと突入。B7Rで敵航空部隊と交戦後、ヴァレー空軍基地爆撃編隊を撃破。トリニティ発射の前に撃墜する」

「撃墜しても上層部にはどう言うんだ?」

「なに、証拠なんていくらでもある。ヒビキの傍受した通信記録は発信地まで特定しているし、上層部は爆撃機の使用まで許可していない。つまり、使う機体はベルカの機体。それを写真に収めてついでに送りつけてやればもう動けないさ」

「事実上、既に証拠はあるんだな」

「ああ。それで作戦の決行だが」

「いつだ?」

「今からだ」

「今!?」

「このトリニティ発射の時間がちょうど五時間後を予定されている。B7Rでの処刑はそれより少し早目だろう。今出撃し、空中給油でウスティオへと飛び込んでもらう。とにかく時間が無い。詳細は追って通達する。ガルム隊の初任務だ、地獄の猟犬は健在している事を奴らに示してやれ。以上、解散」

 スクリーンが消え、ブリーフィングルームの蛍光灯が点灯すると、各セクションの担当が大急ぎで出ていく。そんな中サイファーはうーむ、と唸って背もたれに体重をかけて少し考え込んでいる様子だった。

「全く、急な話もいいところね」

 と、海里が頬づきながらサイファーを見つめる。そうだな、と返事をしてサイファーは腕を大きく伸ばして体を伸ばすと、椅子を押して立ち上がった。

「ま、行かない訳にも行かないさ。俺の家でもあって、お前の親父さんの古巣でもあるんだ。やらせはしねぇよ」

「そうね。頼んだわよ、隊長さん」

「冷やかすな。隊長なんて演習でしかやったことないんだぞ」

「なに、自信無いの?」

 にやにやと海里は「あんたがねー」と相変わらず冷やかした顔をする。海里は恐らく、自分の父と同じチームの名前を与えられて少しこそばゆくなっているサイファーの事を見透かしているのだろう。そして、サイファーも海里が自分の心境を見透かしているのを知っているからやれやれと溜め息を吐いた。

「ま、やるだけやりますか。なるようになれだ」

「そうね。あんたらしいわ」

 空母の昇降エレベーターの隅で、スザクは海の水平線をじっと見つめ続けていた。これから任務に行く人間の顔では無い、けだるそうな顔である。それでもフライトスーツを身にまとい、しっかりヘルメットを傍らに置いている辺り彼もまた、戦闘機乗りとしてのプライドは生半可な物では無かったと言う事を物語っていた。

「兄さん、エレベーターが上昇するから気をつけなさいよ」

「うい」

 ゴウン、とエレベーターが甲板に向けて上昇する。スザクの後ろには出撃準備の整ったXFA-27の後ろ姿。その姿はまるでやる気のない飼い主に呆れる犬の様な雰囲気を持っているなとやまとは感じる。実際機体に意思があるとするならそう思うだろう。やまとだってそう思っていたからだ。

「……大丈夫なの? これから大事な任務なのに」

「……結局、自分はどうしたいのか分からないんだよな」

「……そう」

「今日まで色々考えて来たんだが、一体何を考えたらいいのかも分からなくてな。ぶっちゃけモヤモヤしている物が残っている。けど」

 けど、と付け足したスザクはヘルメットを持ち上げて立ち上がると、やまとに向き直る。その顔はやまとが思っていたよりもしっかりした表情になっていて、どうやら自分の心配はあまり意味が無かったようだと悟った。

「取りあえず深く考えずに、ここに帰ってくることだけを考えて飛ぶことにした。今はそれだけで十分だ」

「…………そ。ならいいわ。思いっきりやってきなさい」

「あいよ」

 すれ違いざまに二人はハイタッチする。スザクはヘルメットを被り、機体に接続されたラダーに足をかけてコックピットに身を沈めると、予備電源の入った機体の細部をチェックする。コンディション最高。徹底的に中身を修復したXFA-27は大幅なアップデートを受け、処理速度の大幅の向上により機体の安定性を微調整するトリムの処理能力が上がったそうだ。

 エレベーターが甲板に到着し、スザクはメインジェネレーターに火を入れる。エンジンの回転数が大幅に上昇し、XFA-27の二つのエンジンが咆哮を上げる。その目の前に、発艦準備を終えたサイファーのX-02が目に入った。

「圧力上昇、60、70、80、90、グリーンゾーン。OKです!」

「ガルム1、発艦を許可する。幸運を」

「了解、ガルム1、サイファー出撃する!」

 X-02のERG-1000が唸りを上げ、直後に蒸気カタパルトで打ち出されてワイバーンをあっと言う間に空母の外へと放り出す。発艦したワイバーンはすぐさま車輪を持ち上げ、反時計回りに旋回して上空で待機へと移行する。続いてスザクの発艦である。

「戦闘機発進!」

「こちらフライトクルーからフライトデッキへ、次来るぞ、急げよ!」

「こちらフライトデッキ、了解しました!」

「第二発進終わりました、次の機確認してください」

 マーシャラーが手を動かして誘導する。スロットルを一瞬だけ全開で押しだし、すぐにアイドリングに戻してタキシング。フットペダルを丁寧に操作しながら発艦位置へと向かい、ど真ん中に機体を移動させる。周囲を取り巻いていた発艦作業員が一人、また一人と離れていき、マーシャラーの停止の合図で機体を停止させ、前脚を縮めて二ーリングの姿勢を取る。

 発艦前脚がカタパルトへと接続されるのを下部モニターから確認し、作業を終えた作業員がスザクに向けてサムズアップし、それに応える。続けて動翼の確認。ラダー、エルロン、エレベーター、各部異常なし。作業員からのOKサインが出て、バリアーが跳ね上がる。

「圧力確認、OK。発艦準備完了。バリアー上げろ!」

「ガルム2、発艦を許可する。幸運を」

「了解。ガルム2、出る!」

 フルスロットル。機体が獲物にとびかかるとらの様に沈み込み、直後にドン、と機体が急加速し、HUDの速度メーターがぐんぐんとその数を巻き上げていき浮遊感。すぐさま操縦桿を握って上昇。ギアアップ、上空で既に待機しているサイファーと海里の編隊に加わる。

「こちらガルム1、全機発艦完了。これよりウスティオに向けて飛行する」

「こちらタワー、全機発艦を確認。以降はラッキースターの管制下に入り、作戦行動を展開せよ。グッドラック」

 一年が終わろうとする真冬の空。その下を舞う翼を並べた三機の機体に宿る猟犬のエンブレム。鬼の名を持ち、鬼の再来と言われた者の再出撃。15年の時を経て、地獄の猟犬は再び現れた。

 鬼神の意思を受け継ぐ二代目ガルムチーム。その初の任務は皮肉か定めか、鬼神を生んだ地を救う事である。

 

 

 

 

 ヴァレー空軍基地を占領したウスティオ軍上層部特殊部隊は、正確に言えばその9割がベルカ過激派との内通者であり、非公式に言えばヴァレー空軍基地はベルカ現に占領されたことになった。15年前その地形を利用し、唯一敵の手に落ちる事が無かったそこは、内側から簡単に奪われてしまうと言う、何とも情けない結果となってしまった。

 

 ただ、この世に絶対はない。どんなに巨大な物でも、外側から破壊されることはそう多くないが、内側からの力ではいとも簡単に破壊されてしまう。

 では、内側も強化すればいいじゃないか。そう言う者も出るだろう。しかし、強すぎる力持つ者はいずれ自らの自壊を招く。過去のベルカがそのいい例だ。核と言う強大すぎる力を持ってしまったがために、自らをその炎で焼きつくし、挙句の果てに国土は一気に奪われてしまい、惨めな姿をその地図に晒している。

 

 これはその復讐なのだ。そう言ったウスティオ軍特殊部隊司令官は、格納庫に閉じ込めたヴァレー空軍基地のメンバーにそう言った。

 

 体のいい逆恨みじゃないか。皆がそう思った。狂っている。だが、狂いでもしなければそれでこそ国は崩壊したのだろう。正常と狂気がぶつかり合うことでお互いを保ち、国を守ろうとした結果でもある。そして、これがベルカ公国の総意ではないと言う事も忘れてはならない。

 

 だが、理不尽極まりない。ヴァレー空軍基地教官兼ティーグル隊隊長バム・アッサンは、エプロンに並べられた非武装状態の自分たちの機体を見る。その向こう側には、ミサイル弾薬を満載した特殊部隊の戦闘機部隊一個師団が鎮座し、そしてその約半分はウスティオのエンブレムではなく、ベルカ空軍のエンブレムが塗りたくられていた。

 

「やれやれ。いよいよ死刑執行か。まったくいい天気だ」

 

 脱出装置も外され、武装も無し、燃料も片道分で体当たりで叩き落とそうと思っても、センサーにより相手へそれが知れてしまい、遠隔操作でエンジンを切られる。随分と面倒な七面鳥撃ちじゃないか。お笑いだ。これから文字どおり死にに行くのだ。それも、まだ腕の足りない部下たちもろともだ。

 

 どうしてこんなことになってしまったのか。ベルカのこの一団のせいもあるだろう。だが、本音を言うならば恐らく脱出に成功したであろうサイファー達と、極秘に新型機の開発を許したマッケンジー指令も恨みたくなる。だが、今はどうこう言ったってもう遅いのだ。

 

「並べ。貴様らはこれより、実弾演習の標的機となってもらう。制限時間は無制限。我々に落とされなかった者は勝ちだ。商品は貴様ら反逆者の命だ。健闘を祈る」

 

 何が検討を祈るだ。殺す気満々じゃないか。ニタニタと腹の立つ笑みを浮かべる。部下たちは涙目になっている物もいれば、今にも殴りかかりそうな奴もいる。が、後ろで銃を突き付けられている以上何もできない。このまま死にに行くしかないのだ。

 

 しかし。アッサンはもちろんの事、この実弾演習で標的にされる全パイロットはハチの巣にされて落ちる事を一切考えてなかった。死ぬならこいつらに目に物を見せてから死のう。口にはしなかったが、全員がそう思っていた。

 

 その一人前の根性だけが、今彼らの理性を繋ぎとめている唯一の糸だった。

 

 

 

 

 空に上がって、仮想敵機と見せかけた本物の敵機が空域を離れ、戦闘開始の合図が出されると、全方位からのミサイルアラートががなり立てて一気に寿命が縮まるかと思った。どうにかかいくぐって第一波の回避に成功する。今のところ撃墜は無いようだ。当然だ、散々バカみたいな変態機動をする仮想敵機を相手にしてきたのだ。この程度で落ちてもらってはヴァレーの名など背負わせる訳にはいかないだろう。

 

「アッサン教官!」

「うろたえるな、最後まで生き残ってやれ、それが俺たちの出来る最強の抵抗だ!」

 

 とは言うものの、この状況が著しくよくないのはアッサンだけではなく、この場に居るヴァレー空軍基地パイロット全員が知っていた。だから、どうにか生き残るすべを見つけるための方法を探していた。まず敵機の全滅。武装一切無しのため不可能。一機でも撃墜。特攻しようにもセンサーで悟られエンジンを切られ蜂の巣。不時着。出来る訳が無い。脱出。そもそも装置と配線が無い。完全に詰んだ。

 

 だがそれでもだ。戦うしかない。せめて自分たちが少しでも長くこの空にとどまっていた事を奴らに知らしめてやるのだ。

 

 キャノピーをミサイルがかすめる。アッサンが長年のってきたF-15Cが、ここぞ問わんばかりにエンジンの咆哮を上げる。このパワーは現代でも通用する出力だ。このパワーがせめてもの支えになってくれる。

 しかし、相手は容赦してくれそうにない。なにしろウスティオ所属扱いのF-16XLが八機に加え、ベルカのマーキングが施されたYF-23が八機だ。

 

 そしてこちらは丸腰のF-15Cが二機、同じく丸腰のF-16Cが六機、やはり丸腰のミラージュ2000D六機、極めつけは訓練機のT-45六機に全パイロットが押し込められている。上等なEF2000やSu-35などは接取されてしまった。人が稼いで買った機体まで奪うとはくそったれ。

 

 旋回した先にヘッド音で突っ込んでくるF-16XLの二機編隊が機銃掃射してくる。とっさに右ラダーペダルを蹴り飛ばして進路を無理矢理捻じ曲げて回避。当たらなかったのが奇跡なレベルだ。

 

「各機損害を報告しろ!」

「こちらシャンパン3、尾翼に被弾! 戦闘機動は続行可能……うわっち!」

「こちらウィスキーセクション、何機か弾をもらったみたいですがまだ行け……くっそ回り込まれた!」

「こちらジントニック隊、各機生き残ってますが損害は不明、みんな逃げるので手いっぱいです!」

 

 これじゃあ何も確認出来やしない。当然と言えば当然だろうか。数では数機ほどこっちの方が有利だが、丸腰では話しにならない。せめて機銃が100発あれば四機は落とせる自信はあった。くそったれめ。

 

「どうしたヴァレーのパイロットたち? 逃げ惑うので限界か?」

 

 ほざけ。アッサンは操縦桿を捻って目の前をあざ笑うかのようにすり抜けたF-16XLの背後に食らいつき、レーダー照射を浴びせる。このま間とミサイルがあれば相手は撃墜されてただろう。それに腹を立てた向こうの一機が急旋回。仲間を呼び、アッサンの背中から機銃を浴びせた。

 

「くそっ!」

 

 左ロール、急旋回。鼻先を地面に向けながらジジジと鳴り響くレーダー照射を回避しようとする。奴らも本気で落としに来たようだ。ついにミサイルアラートが響き、レーダーを見れば四方八方からミサイルが接近してきていた。

 

「くっそ、いつまで持つか分からん!」

 

 首を曲げて見れば、敵味方の機体が入り混じり、いびつな形の雲を作り上げていた。その中に黒い煙も見え、誰かやられたのだと察する。無線機の中を怒号と悲鳴が飛び交い、時間が経つにつれてそれは増えていく。こんなときどうすればいいか。情けない事に、神様とやらに祈るしかないのだ。神よ、奇跡を起こしてくれと。何でもいいからこの地獄をどうにかしてくれと。

 

 被弾。レッドランプが点灯。左エンジン破損、黒煙が上がる。緊急消火装置作動、どうにか消火に成功する。が、推力は著しく低下した。ここまで来たらただの的だ。

 

 更にミサイルが迫る。よもやこれまで。ならせめて、エンジンが無くなっても、翼がもげても一機だけでも叩き落としてやる。

 生きてる動翼が機体の向きを捻じ曲げる。その先には練習機相手に本気の戦闘機動で機銃掃射を楽しむようにして叩き込んでるYF-23の二機編隊。だったらその背中にこの機体を突き刺してやる。残り少ない推力を絞り込み、一気に解放。その中へと突っ込む。鳴り響くミサイルアラート。誰が売ったのか分からない機銃掃射が機体を蝕んでいく。だが散るなら貴様らもろとも道連れだ。

 

「貴様ら、覚悟ぉおおおおおお!!」

 

 次の瞬間だった。突如としてミサイルアラートが鳴りやみ、スピーカーに強烈なノイズが響き渡った。レーダーも砂嵐で覆われてしまい、まるで役に立たなくなる。敵は電子戦機まで用意してたのか? いや、雑音の混じった無線機の向こうから、敵の混乱する声が聞こえる。奴らではない? アッサンは急に頭が冷えていく感じがした。と、

 

 頭上で何かが光った。とっさに顔を上げる。空の真ん中まで登った太陽が、円卓を見降ろしていた。そしてその中から召喚されるかのように、三つの影がその姿を現す。それと同時にレーダーが回復。IFFに反応。最初こそ『UNKOWN』の表示だったが、それはすぐに味方だと認証された。

 それを見てアッサンは驚愕した。何と言うことだ。確かに神に祈った。奇跡よ起これと祈った。だがどう言うことだ。

 

 私は、『鬼』を呼んだ覚えは無いぞ!

 

 

 

 

 空中給油を受けたガルム隊は、給油後全力飛行でB7Rへと急行していた。道中レーダー網が敷かれている所は、今回Y/CFA-42に搭載された新型ECMのおかげで、捕捉されることなく突っ切る事ができ、これが無かったらあと二時間ほど到着が遅れただろう。

 

「こちら空中管制機ラッキースター、ガルム隊全機のエリアB7R進入を確認しました。既に戦闘は始まってます、時間がありません!」

「了解、敵機の数はどれくらいだ?」

「ステルスも混じって合計十六機です。ガルム3は上空にてECM援護のため、推定戦力比は八対一です」

「おーう、なんて燃えるシチュエーション。で、作戦は?」

「そうですね……」

 

 数秒ほど、ラッキースターオペレーター小早川ゆかたは考え、そして何か面白い事をひらめいた子供のように明るい声で、こう言った。

 

「ぶっ潰しちゃってください☆」

 

 これほどに無い、純粋で笑顔たっぷりな宣言だ。今彼女は間違いなく、天使の様な悪魔の笑みを浮かべ、右親指を高らかに突き立ててるに違いないと感じ、現にゆたかはそうしていた。

 

「最高だ、ゆたかちゃん。おっと失敬ラッキースター」

「ではおしゃべりはここまでです。ガルム3アテナ、ジャミング展開お願いします」

「了解、ダミーターゲットジャマー、展開します」

 

 ダミーターゲットジャマー、ヴァレー脱出時に使った相手に架空のターゲットを表示させるジャミング。今回はY/CFA-42の上部二つとエンジンの間に配置されている下部一つの計三か所のマルチウェポンベイにこれを搭載している。使えばあたかも敵は百機の敵機を相手にしていると思わせることができ、それに加えてミサイルも使い物にならなくなる。ただ、欠点として相当な電力を使うので、エンジンのパワーを持って行かれてしまい、戦闘機動が出来ないと言う所だ。

 

 だが、今の海里ことTACネームアテナに、それは必要ないことだ。頼れる番犬二匹が彼女に付いているのだから。

 

「展開確認。さぁ二人とも、頼んだわよ」

「了解だ。行くぞスザク、花火の中に突っ込むぞ!」

「ああ、尻拭いはご免だぞ」

 

 言ってくれる。サイファーはやれやれと溜め息をつきながら増槽パージ。機体をロールさせ、スプリットS。主翼が折りたたまれて高速飛行形態へと移行する。HUDの向こうにはベイパー、ミサイルの白煙、損傷の黒煙が入り混じるエリアB7R円卓。15年前に繰り広げられた空戦。それが時を超えて、現代へと蘇る。

 

「円卓よ、俺たちは帰って来たぞ!!」

 

 

 

 

 急降下で一気に交戦エリアに飛び込んだサイファーとスザクは、ミサイルを発射して一気に二機を仕留めた。突然の介入者にベルカ側は混乱状態に陥った。突然敵機が数十倍に増え、撃っても当たらず、更には非武装の部隊しか居ないのに二機落とされたのだ。しかし相手も精鋭だ、すぐに第三者の介入があったのだと察して戦闘態勢に入った。

 

「違うのが混じってるぞ、気をつけろ!」

「レーダーがきかない、各機目視による戦闘、および赤外線ミサイルでの撃墜を優先。七面鳥どもは無視して脅威の排除を優先しろ!」

「敵さん早速俺たちに気づいたみたいだ。スザク、気をつけろよ」

「お前が一番気をつけろ」

「うぇえ」

 

 急上昇しながら敵の動きを探る。第二次世界大戦さながらの目視戦闘だ。少しでも後ろの警戒を怠ったらアウトだ。サイファーは右旋回しながら上昇する。首を曲げて自分たちの追いすがろうとする敵機を確認する。

 

「ヴァレー空軍基地所属機、聞こえるか!」

「その声はサイファー!?」

「説明は後だ、全機上空へ退避。こちらの空中管制機の誘導に従って上空へと待避しろ。上に行けばこっちの三番機がジャミングを展開している。そいつを先頭に上空待機。燃料が無くなりそうな機体は南東に給油機を待機させてる。敵機は任せろ、以上だ」

「お、お前一体どうして……」

「細かい事は気にするな! 今は生き残ることだけを考えろ。こっちの三番機はとびっきりの美人だぞ」

「傭兵のみなさーん、女神様のキスが欲しかったらこっちにいらっしゃいな」

「おおお! 声だけで分かるぞ、こりゃ美女だ! みんな行くぞ」

「あっ、お前抜け駆けするな、隣は俺だ!」

「いいや俺だ!」

 

 我先にとにヴァレー空軍基地所属機たちは急上昇に入り、海里のY/CFA-42へと群がる。まったく元気な奴らじゃないか。サイファーは呆れ半分、その根性が潰れてない事の嬉しさ半分で後ろに張り付いたF-16XL二機編隊を振り切る。

 

「スザク、そっちはどうだ?」

「ベルカ過激派の事だけあって結構動きが厄介そうだ。ツーマンセルをしっかり守ってやがる」

「だよな。こっちは基本散開しての戦闘だしな。確実に仕留めようとしてくる。とても肩幅狭いくらいにな。とくれば」

「大乱闘、だな」

「御名答。さて」

 

 サイファーはアフターバーナーを点火させて機体を空へと押し上げる。おしゃべりはここまでだ。本気で行くぞ。

 ウェポンベイ解放。エンジンインテーク後方部分が展開し、サイドワインダーが顔をのぞかせる。急旋回。緩旋回中のYF-23にシーカーダイヤモンドか重なる。ロックオン、発射。二本の白煙が伸びる。着弾を確認したいが今度は前方十一時方向からロックオンアラート。直後ミサイルアラート。フレア放出、バレルロール。向こうも無理な角度から発射したせいか、ミサイルは孤空へと消えていく。右ロール、急旋回。その進路先にスザクに攻撃しようと旋回中の敵機の背中。ガンモードチェンジ、ファイア。着弾。

 

「こちらガルム1、更に一機撃墜!」

「こちらラッキースター、確認。しかし依然敵の体制が崩れる気配は無し。結構お堅いみたいです」

「だろうな。徹底的にかき回してやるか」

 

 サイファーは雲の中に突っ込み、その中で反転。それを追いかけようと雲に突っ込む三機。その背中に向けてスザクがサイドワインダーを二発ずつ発射。そして三機目にQAAMを発射。そこへ後方から機銃掃射。ガツンという嫌な音が響く。どうやらかすったらしい。メインモニターが損傷の警告を出すも、下部尾翼のかすり判定のため損傷軽微。舌打ちしながら機体を急減速させながらバレルロール。オーバーシュートを狙うも敵はそれを読んでいたようだ。深追いせずすぐさま反転。後方からもう一機が突っ込んできた。

 

「めんどくせ」

 

 スザクはもう一発のQAAMシーカーの冷却を完了させて後方に居る敵に無理矢理ロックオンする。発射。一度母機から切り離されたミサイルはアホみたいな直角機動で反転すると後方に居た敵に向けて爆進していく。慌てた敵は無理矢理機体を捻らせて回避する。後方に無理矢理ロックオンしたからロックが甘く、ついでに推進剤も切れたため早めにミサイルは力尽きる。

 

 その間に先に撃ったミサイルが命中したようだった。三機中二機の撃墜判定。いい調子だ。

 

「残り十一機、こちらが押してます!」

「やるねースザク。だが負けてられんな」

 

 サイファーも雲から飛び出すと、XLAAを選択してロックオン。四機同時捕捉、フォックス3。続いてサイドワインダーに切り替えてスザクのミサイルを回避した一気に狙いを定めて追い打ちを仕掛ける。高速で接近し、超至近距離で発射。避ける間を与えず二本のミサイルはF-16XLの背中に突き刺さり、真ん中からへし折れて燃料に引火し、バラバラに砕け散った。

 

「もう一機、これで三機!」

「サイファー、上下から挟まれてます。回避を!」

 

 ラッキースターの警告と同時にミサイルアラート。ラダーペダルを蹴り飛ばして急降下ダイブする。

 

「落ちろ、鬼のなり損ないめ!」

 

 B7Rの険しい山肌が迫り、ギリギリで急上昇。曲がり切れなかったミサイルが地面に突き刺さり、小さな炎を上げる。挟み込んだ二機が追いかける。だが、その背中をスザクは見逃さず、怒涛のミサイル四連射をお見舞いして蹴散らす。撃墜無し。だがサイファーはそこを突く。

 

「何だと!?」

「けっ、それでも熟練かよ」

 

 エアブレーキ展開。機首を跳ね上げてダブルロックオン。迷わず発射。片方外すももう片方が命中。

 

「四機目! ノルマまであと半分だ!」

 

 サイファーのミサイルを回避した一機は、孤立しそうになっている編隊に加わろうとしていたが、そのど真ん中をスザクが突き抜け、混乱させる。二機で一機を貫いてきた統制が崩れ始めているのは明確だった。

 

「おやま、避けた方は確かに熟練だったかな。分かってはいたが、やっぱりステルスが残っちまう」

「目に付いた奴片っぱしからだからな。それにYF-23の方は相当な練度の様だ」

 

 まぁ、そうなるな。サイファーは機体を立て直して再加速。スザクがそれをカバーして二人は再び敵編隊へと突っ込む。赤外線ミサイルが迫る。アフターバーナーカット、フレアを二人で散布。より強い熱源に向けてミサイルが突っ込む。二人は左右にブレイク。そして再び反転して至近距離で交錯する。一番近い距離で本一冊広げた状態よりも狭い感覚だった。この二人ならできる芸当だった。

 

「なんて奴らだ、人間業じゃない!」

「あれが……あれが鬼神の再来……」

「無理だ、俺たちじゃ敵わない!」

「バカ、15年前の本人じゃないんだ。俺たちでも勝てる! 数で押しきれ!」

 

 残存する敵はF-16XLが二機とYF-23が七機。有視界戦闘という物はなかなか首に負担が掛るなと、サイファーは急上昇して雲を突っ切る。追いすがる一機、F-16XLが機銃を撃ちこむ。射線上から退避。空を切り裂く主翼からベイパーが引き延ばされる。機体水平、エンジンカット。エアブレーキ開、ピッチアップ。

 

 ワイバーンの背中が立ち上がり、機体そのものが大きな空気抵抗となって急減速。その際に一発が右カナードを貫通するも、ぐっとこらえてそのまま機体をぶつける勢いでF-16XLに近づく。相手も予想外で慌てて急旋回する。待ってた。

 

「いただきます!」

 

 ラダーを蹴り飛ばして機体をスライド、機首を真下に向けると回避した敵機の姿。そのまま反転すればよかった物を、降下して増速を選んだか。まぁ間違ってはいない。だがサイファーはこの選択をして背後から何度ミサイルの雨を食らったことだろうか。師匠である元祖鬼神直伝の技である。

 

「バカな!?」

 

 敵の悲鳴が無線越しに聞こえる。もう遅い。失態を悟ったらそれは負けだ。

 

「ごちそうさま」

 

 次の瞬間には、敵機は既に火だるまになって落下していった。まったく骨が折れる。サイファーは索敵。が、思っていたよりも数は減っているようで、残機数は六機に減っていた。スザクがスコアを伸ばしてきた。同点くらいだろうか。

 

「サイファー、これで並んだぞ。勝った方が今日の酒奢りな」

「けっ、言ってくれるな。なら俺は産地直送握り寿司だ」

 

 残機数YF-23が六機。さぁ、仕上げだ。流れは完全にこちらへと来ている。このまま押し切れば円卓の制空権は自分たちの物だ。

 

 そう言いたいところなのだが、この円卓はどうやらサイファーたちにまで最高の舞台を用意してくれているようだ。まったく迷惑この上ない。楽に終わってくれればいい物を。

 

「レーダーに反応! 北東から高速で接近する微弱な機影を捕捉……数は二機、こちらに真っ直ぐ近づいてきます!」

「おいでなすったか……」

 

 敵が一旦空域から離れ、接近する二機へと合流する。恐らくこれは爆撃機の護衛機だろう。一番重要な物を守る奴がこっちに来た、という事は。

 

「スザク、編隊を組め。アテナ、今どこに居る?」

「空域から出てるわ。現在燃料が足りない機体の給油作業中。手助けいる?」

「いや、いい。お前はそっちの護衛を頼む。俺たちで相手しよう。スザク!」

「言われずともだ」

 

 上空二万フィート、マッハ1.3のスーパークルーズで接近する二機。ヴァレー爆撃機部隊護衛機のF-22ラプター。ベルカ国防空軍第114戦術飛行隊兼ベルカ特務遊撃航空団第24飛行隊、ブラウ隊。

 

 ベルカ戦争時、七つの核を起爆させるために防空につき、それまでは開戦時にB7Rの制空権を奪うのに貢献したエース。公式記録では機体整備不良のまま終戦とあるが、一説では非公式の戦闘で撃墜されたとも言われている。

 

「やり手だ、多分さっきの戦い方は通じない」

「だろうな。損害は?」

「右カナードをやられた。穴が開いただけだが、にとりに怒られるな」

「俺は尾翼を焦がしたみたいだ。お前の方がひどいな」

「被弾したことには変わらん。五十歩百歩って知ってるか?」

「お前より語学はあるつもりだ」

「ぺっ、言ってろ」

 

 残存の敵機が合流する。さぁこれで八対二。円卓は部隊を舞う役者たちに、惜しみのない演出とキャストを送り込む。山岳地帯を覆っていた雲が消えていき、高空の薄い雲もゆっくりと広がり、円卓の部隊をスポットライトの様に照らし出す。あたかも、鬼神の再来を待っていたかのように、B7Rはその舞台を整えた。

 

 

 

 

 ウスティオ側の内通者から回された二機のKC-135から、腹ペコ状態だったヴァレー空軍基地所属機の燃料タンクは腹いっぱいになり、安心したパイロットたちは編隊を組み直して長距離レーダーで戦闘を見守っていた。

 

 その少し上空から、海里は警戒と同時に索敵、ジャミングを同時進行で行い、神経を尖らせている一方でサイファーの事を少しだけ心配していた。

 いや、彼ならきっと大丈夫だとは思う。が、待つ身としてはやはり不安で仕方ない。まったく、せっかく同じ空に上がったのにやはり待つ羽目になるなんて。海里は軽くため息をついた。

 

 ジャミングは正常に稼働中である。ヴァレーのパイロットたちは安堵する一方で、半分は目視での警戒を続けていた。

 

 海里も同じくレーダーに神経を集中させて、他に近づく敵機が居ないかを索敵する。無線の傍受はラッキースターに任せられるから集中できる。ただ、電子戦をやるならやはりレーダー士官か、より高度なコンピューターの支援が必要だなと感じる。Y/CFA-42はマルチロール機として開発されているため、それぞれに特化することが出来ない。万能だが、深く性能を追求することが出来ないのが欠点でもあった。

 

(メーカー側にこの欠点の報告書書かないとね。実用化にはまだ少し時間が必要だわ)

 

 後でやっておこうと、頭の片隅に残す。そう思い、ふと目に無線の周波数変更のダイヤルが目に入る。それに何気なく手を伸ばし、海里は無線の周波数を変更する。入力したのは父から教えられた暗号回線だ。本当に小さい頃に一回だけ教えられたコード。一体何の意味があっての行為かは知らないが、試しに入力してみる。

 

 何も聞こえない。まぁ当然だろう。どうやら父が15年前に使っていた回線らしいのだが、何故この周波数を教えたのかは分からない。何か意味があるとは思うのだが、一体父は自分に何を伝えたかったのか。

 

「……まったく、こういうことは教えてくれないのね」

「ほう、お嬢さんこの回線を知っているのか」

 

 誰にも聞かれることのないと思っていた無線機の向こうから別の声がしたことに海里は驚愕した。思わず声が漏れそうになり、とっさに無線のスイッチを見ると、誤って送信のボタンを押しこんでいた。

 続いて首を曲げると、自分の右真横にF-15Cが並び、そのキャノピーの中のパイロットは軽く手を上げていた。

 

「この回線を知っている事は、お嬢さんが彼の娘か」

「彼って……父さんを知ってるんですか?」

「ああ。私の先輩だよ。最も、付き合いは国境なき世界が活動を始めた辺りだからそう長くはないがね」

 

 無線機の向こうはアッサンだった。懐かしそうな声色で、事実彼はサイファー達が交戦するB7Rへと目を向けて、アヴァロンダムへと向かうためにサイファーと共に通過した円卓を見つめる。

 

「彼と会話したことはそうは無かったが、私の頭の中に焼きつくには十分すぎる男だった。円卓で待ちかまえるクーデターのエース部隊全てを蹴散らし、次々と落とされていく連合軍の中からまるでそこに道があるかのように渓谷を突きぬけ、壮絶な戦いをした彼の姿は本当によく覚えているよ」

 

 少し感傷に浸るアッサンだったが、すぐにこれではつまらない話をする年寄りだと思い直し、苦笑しながら海里の方を向いて手をひらひらと振る。

 

「すまない、これではただの年寄りの話だな。失敬失敬」

「いえ、父の事が聞けてうれしいです。もう長いこと会って無いので」

「噂は聞いてるさ。まぁ、こうもベルカが動いているのでは、鬼神も身を隠さなければならないだろう」

「はい。私たちも目立たないとはいえ護衛がいましたし、仕方ないと割り切ることにしてました」

「強い子だ。その辺りはお母さんに似たかな」

「行動力は父譲り、ですね」

「まったく、彼の言った通りだ。確かに出来た娘さんだ」

「父からは一体どんな話を?」

「ああ、九割君らの自慢話だ。やれ料理が美味いだのやれ妹の面倒をよく見るだの、やれシミュレーターの上達が早いだの、やれずば抜けてかわいいだの、やれ旦那を見つけただの」

 

 やっぱりか。海里は溜め息をつきながらうな垂れた。根っからの親バカ。溺愛されているのは知っていたが、ヴァレーでそう言い振らされるのはさすがに少し恥ずかしいのだが、やれやれ勘弁してほしい。

 

「その、父がどうもすいません……」

「そうだな、だからよく覚えていたよ」

「あ、印象にあるってそう言う……」

「もちろん戦闘面でも印象的だったよ。ただ娘の話の密度が濃過ぎて、ね。しかし驚いたよ。親子二代で戦闘機乗りとはな。父親の意思を継いだ、と言ったところだろうか?」

「……いえ。父の遺志を継いだのは私ではありませんよ」

 

 海里はレーダーに目をやる。サイファーとスザクが交戦し、一進一退の空戦が繰り広げられているようであった。さっきからレーダーフィリップの入れ替わりが激しすぎで、何が何だか分からなくなりそうだった。

 

「私は自分の意思でここに来ました。父の意思は、彼が継いでくれてますよ」

「……そう言うことか。今のサイファーが、彼の言っていた見込みあるパイロットだったか」

 

 どうりで鬼神と似た動きをする訳だと、アッサンは納得が行った。自分が知らない所で色々な物が交錯し、それはまさしくカオスを生み出した。しかしそれは同時に救済でもあり、カオスに混じり合ったと思った運命は見事な噛み合いを見せていた。

 

「と言うことは、再来の方のサイファーが君のお相手かな?」

「自慢の旦那です」

「ほう、言いきるか。最近の若いのはなかなかやるな」

 

 そうでもないと思うんだけどな。たぶん自分たちが異常なだけであろう。こんなにお互いが分かりあってる奴なんてそうは居ない。

 

「私は今まで待つことには慣れていたつもりでした。けど、いざ待たされてみると毎日毎日不安に押しつぶされそうで、自分が保てなくなりそうで、気付いたら父を追っていった母と同じような事をしていました。妹は何で母まで行くのか納得いかないと言ってましたが、その気持ちがよく分かりました」

「時代は変わったのだな。女性も自ら戦地に赴く。15年前の彼らはそれこそ異端だったが、ここまで来ると私の考えはただの時代遅れな物なのだろう。引退も近いな」

 

 そうだ、自分たちは受け継がなければならないのだ。過去の呪縛に囚われ続け、現代に生きる歴史とならないために、そして歪んだ歴史となって現代に現れてしまった者を葬り去らなければならない。このB7R制空戦は、その第一歩にもなるだろう。過去と現在。表立ってこそいないが、この一戦は歴史に大きく刻まれる戦いになるのだ。

 

 海里は視線を上げ、その先にいるであろう幼馴染の身を案ずる。絶対に負けるな。私はここにいる。だから、必ず戻ってこい。私の唯一の夫になる男よ。私は、ここにいる。

 

 

 

 

 ブラウ隊と合流したベルカ残党戦闘隊の統制は、これまでにないほど厄介なものとなり、数で劣るガルム隊は必然的に苦戦を強いられていた。向こうには歴戦の指揮官が二人、そして比較的若い世代とは言えベルカの執念の子とも言えるパイロット四人が彼らの手足のように包囲してくる。散開しての乱戦を誘おうにもそれには乗ってくれず、サイファー達は苦戦を強いられていた。

 

(くそったれ、指揮官が加わるとこうも変わるのか。今までフリーで戦ってきた分、指揮系統のはっきりした戦闘に慣れていないと言うのはいささか厳しいか)

 

 だが、もう自分たちもフリーな訳ではない。非公式とはいえども名を持った飛行小隊だ。だから自分がどうにかするしかないのだ。腹をくくるべきだろう。

 

「スザク、自由戦闘は避けろ! 俺の後ろに続け!」

「策でもあるのか?」

「特にない!」

「だろうな」

 

 スザクがサイファーの左後ろに位置したのを確認すると、バーナーを点火して向かってくるYF-23を迎え撃つ。

 

「ヘッドオンで集中砲火だ、合図と同時に熱源ミサイルに切り替え、被弾は覚悟しろ!」

「全く無茶な戦法だがどうせ動きが無いなら派手に行くべきだな」

 

 付き合いも察しもいい相棒で助かる。二機編成でミサイルを撃ってきたYF-23の攻撃をどうにかかいくぐり、続いてきた機銃掃射の雨をすり抜けて同じく機銃で撃ち返す。相対速度は音速を超えている。そしてその後ろで待ちかまえていたF-22ブラウ隊の一番機をロックオンする。

 

 フォックス2。ミサイル発射と同時に散開して離脱。横目にミサイルがどうなったかを確認するが、誘導目標を失って離れていくミサイル達を見て軽く舌打ちをする。まぁ、この程度で終わるとは思っていない。

 

 ロックオンアラート。太陽の中からブラウ隊2番機が後ろにYF-23一機をひきつれて牙を剥く。スプリットSで地面に向けてダイブ。レーダーロックの警告音はミサイルアラートへと変貌。これは熱源ミサイルか。バーナーカット、フレア散布。操縦桿を引いてそのまま急上昇。ビリビリと機体が震えてGの影響で血液が足元に溜まっていく。視界が徐々に暗くなるがしつこいミサイルがもう一発残っているようで、機体を半回転させて左急旋回。ようやく推進剤を切らしたミサイルは勢いを失って地面へと落下した。

 

 回復した視界で状況を再確認。スザクも上手い事やってくれていて健在だった。取りあえずは安心するも、状況は悪い方向のままである。敵は編成を変えて三機編隊を作って三対一で相手をするようだ。

 

(まったく光栄なことだな……)

 

 薄い雲を突き抜けて、再び高空へと舞い戻る。ブラウ隊率いるベルカ変態は様子をうかがいながら緩旋回をしていつこちらに噛みつこうかと再び様子をうかがっていた。

 

「スザク、聞こえるか?」

「ああ、全く厄介な連中だ。ストレスマッハで毛根死滅しそうだ」

「さらば髪よ」

「はげてねーっての」

 

 まだスザクには余裕があるようだから負ける可能性が大きくなった訳ではないと安心できた。今の一撃で、生半可な攻撃は全く効かないと言う事が把握できた。経験も数も向こうの方が上だ。せめて一番機を落としての指揮系統の破壊が出来れば可能性はぐっと近づくに違いない。それを可能にするには、自分たちしか持ってない物で相手を圧倒するしかないのだ。

 

 自分たちしか持ってない物。それは何か。

 

「……こいつしかないよな」

 

 そう、スザクと自分が乗っているこの最新鋭機の技術だ。いかにこの機体の性能を発揮するかで大きく変わる。よく実力があれば機体なんて関係ないと言う台詞を聞くが、正直な話それは夢物語な方が多い訳で、事実今現代MiG-21でF-22と空戦しろと言われたらMiG側の射程外からミサイル乱舞で終了である。

 

 こちらは超長距離射程のミサイル、そして空力学を追求した機体設計の万能機と、ただひたすらに凶悪な性能を求め、瞬間的な高火力を備え合わせたやや対空寄りの万能機。あいにく只今大絶賛ドッグファイトの真っ最中なので長距離ミサイル射撃は不可。となれば、この機体の空力で勝負するしかない。

 

「スザク、やや無茶な作戦だが付き合ってくれ」

「お前の作戦はいつでも無茶しかないけどな」

「ごもっともだ。行くぞ!」

 

 二機は散開。それを待っていたかのようにブラウ隊も二つに分散してレーダロックをしてくる。構わない、そのままついてこい。サイファーはアフターバーナーを点火させて機体を高空へと押し上げる。主奥が収納されて高速飛行携形態へ。ブラウ隊から加速力に安定性があるYF-23二機が飛び出してくる。

 

 雲一つない空は飛んでもなく青く透き通り、真上に機首を向ければまるで宇宙のように濃い青色が広がって、サイファーは吸い込まれそうな錯覚に陥る。まったく、俺たちが偵察するときはいつも曇りや雪だったくせに。そんなに何もない円卓が嫌か。

 

 ミサイルアラート。熱源ミサイルがX-02のアフターバーナーめがけて突っ込んでくる。だが構うな、まだだ。まだもう少しだ。

 

 被弾するかしないか、緊張が走る。キャノピーのバックミラーをちらりと確認すると、二発のミサイルがみるみる距離を縮めてきているのがよくわかった。これだけ出力を上げるとフレアを撒いても誤魔化せない。だがついてこい。もう少しだ。

 

 アラートの間隔が短くなる。来る。ミサイルが来る。だがもう少しだ。もっとだ、もっと来い。そう、そうだ、そのままだ、来い……来い……今だ!!

 

 全エアブレーキ展開と同時に折りたたんでいた主翼も強制的に展開。体が前に押し出されそうになってハーネスが全身を締め付ける。それをこらえてバーナーカット、操縦桿を右に倒してハーフロール、急減速についてこれなかったミサイルがエンジンノズルぎりぎりを通過して追い抜く。

 そのまま操縦桿を思い切り引いて機体はその場で半回転。機首が地面を向く。それと同時にバーナー再点火。地面に向けてダイブ。衝突を恐れ、慌てたYF-23が散開。だがそれでいい。横から敵に追われながらもこの瞬間を狙っていたスザクが散開した片方に向けてQAAMを発射し、もう片方に機銃掃射を浴びせた。サイファーとスザクがすれ違う。その距離、メートルにして0.5。サイファーなおも加速。機銃を浴びせられたYF-23は煙を吐きながら降下。やがてキャノピーが吹き飛び、パイロットが脱出した。

 

 サイファーは降下を続けてその先にいたブラウ隊二番機へとロックオンする。だが相手は山肌すれすれを飛び、このままサイファーが上から攻撃すれば地面に衝突するように仕向けていた。減速して背後に回り込もうとしても、その間に形勢が逆転されるだろう。それを狙っていた。

 

 だがサイファーは速度を緩めることはしなかった。緩めるどころか重力も使ってさらに加速させる。もう通常の引き起こしでは間に合わない。ブラウ2もこれには焦った。特攻する気なのか?

 

 ロックオン。ミサイル発射。減速するだろうと思っていたブラウ2の判断は完全に外れ、ロックオンアラートががなり立てる。急旋回。しかし山間にいたのが致命的だった。逃げ場がない。上しか、ない!

 

 急上昇。真上から迫るミサイルはブラウ2のF-22の脇をすり抜けて地面に突き刺さる。冷や汗が出た。だがこれで相手の回復も間に合わない。

 

 だが、そう思ったブラウ2は次の瞬間に衝撃を受け、右エンジンが被弾したという警報を見た。そんな馬鹿な、あれで助かるわけがない。とっさに後方を見れば、衝突コースにいたはずのX-02がしっかり背後に食いついてるではないか。

 

 サイファーは地面との衝突7秒前に再び主翼を展開し、機首を持ち上げて機体の腹そのその物をエアブレーキにして地面と接触メートル前で機体を持ち直したのだ。その際にかかるGは強烈なもので、実際接触寸前の時点でサイファーの視界はゼロだった。それでも寸前で地形を頭に叩き込み、回避運動をとったのだ。

 

 さらに、そこへ反転したスザクが機銃を浴びせてエンジンを破壊したのだ。そんな段取りをしてる素振りはなかったのに、この二機のコンビネーションは一体何なのだ。

 

 そう思った瞬間った。視界を回復し、ガンレティクルにF-22を重ねたX-02ワイバーンからの機銃掃射。その弾丸は垂直尾翼をへし折り、主翼に大穴を開けるとそこから漏れ出した燃料に引火し、猛禽の名を持った機体は一秒も経たないうちに飛龍に食い尽くされ、爆散した。

 

「次!」

 

 荒い呼吸をしながら、サイファーは酸欠でくらくらしている頭に鞭を打ってスザクの加勢に加わる。スザクがこちらに向けて突っ込んでくる。ミサイル切り替え、こんな近距離で当たるとは思えないがともかく多くの敵をロックしたいからダークファイアでレーダーロック。ウェポンベイ解放、フォックス3。切り離された黒いミサイルたちが一斉に群がる。スザクがすれ違う。それを見て機銃掃射。YF-23の一騎のコックピットを貫き、真っ赤に染まった。

 

(ちっ、嫌なもん見ちまった!)

 

 離脱。これで三機を撃ち落として差を縮めた。しかし相手にはまだ一番機が残っているからどうなるかまだ分からない。が、僚機が動揺を見せているのは間違いなかった。そこを突けばあるいは。と、

 

「若者が、やるじゃないか」

(オープンチャンネル!)

 

 一際野太い、低い声がスピーカーから聞こえた。間違いなくあのF-22のパイロットとみて間違いない。その声色からしてベテランだということが、サイファーにははっきり分かった。

 

「鬼神の再来と呼ばれている男がどんな奴かと思ったが、あながち伊達ではなかったということだな」

「そりゃどうも。ならさっさと諦めて帰ってくれるとありがたいんだがな」

「そうはいかない。我々にも意地とプライドがあるそれを邪魔されては困るのだよ」

「それが関係のない人間を巻き込むことでもか?」

「巻き込んだのはそちらであろう。これは当然の報いなのだ」

「当然の報い? ほう、それは面白いじゃないか…………俺は今からあんたのことを嫌いになるって決めた」

「それは残念だ。君ほどの腕ならこちらに来ても十分力を発揮できただろうに」

「俺にそんな意志は、根っから無いんでな!」

 

 急接近。ブラウ1が単機でサイファーへと接近する。なるほど、騎士道の心は持ち合わせているか。だが復讐に取りつかれた騎士が、騎士道に乗っ取るのはいささか矛盾である。復習という概念を持ち合わせた時点で、彼らは誇り高きベルカの騎士でもなんでもない、ただの醜い復讐者なのだ。

 

「そんなに憎いのか、核を使ったのはお前たちだろ!」

「使わざるを得ないほど、我々を惨めにしたのはお前たちだ! お前たちが我々を惨めにしたのだ! 我々が守ってきた物を破壊し、奪い、全て燃やしつくした……全てを奪ったのはお前たちだ!」

 

 ヘッドオン。まずは高速ですれ違う。残ったYF-23がスザクに狙いを定めた。馬鹿な奴らだ、さっさと逃げるなり黙って見てるなりすればいいものを。おかげでサイファーはこちらに集中できそうだとHUDを睨み付ける。

 

「だからと言って、15年になった今になって関係ない奴を殺すことが正義だとでも言うのか! それはもはや一方的な逆恨み、なにが騎士道だ! 例えお前たちが15年前に名を馳せたエースだとしても、そんなクソみたいな理由で復讐に囚われ続ければそんなものは関係ない、今のお前らは復興しようとするベルカの汚点だ!」

「何も知らない若造が、黙れ!」

 

 お互い旋回をしてシザース状態になる。首を挙げてその視線の先に、F-22の黄金のキャノピー。その向こうには同じく敵のヘルメットがこちらを見ていた。どちらが先に動くのか、やたらと長く感じるせめぎあいが続く。それが一分なのか一秒なのか、一時間続いたのかはわからない。だが、どちらも目を離さずに、お互いを睨み付ける。さすがは15年前のエースだ、離れているのに眼光が違いすぎる。サイファーは身震いした。心臓の鼓動が早くなる、体中の血管を高密度の血液が流れる。呼吸が自然と激しくなり、それに合わせてX-02の振動が強くなっていく気がした。

 

 だが。だが、である。それでもサイファーがただ一度だけ経験した『鬼』の視線。その眼光。それは文字通りサイファーを固まらせた。本当に何もできなくなるような鋭い眼光は、サイファーの闘争心を叩き潰すには十分すぎるほどだった。それに比べれば、15年の復讐に取り憑かれ、誇りも国への想いも腐りきった戦闘機乗りの眼光など。

 

 どうということはなかった。

 

 スザクのXFA-27がシザース軌道をする二機のど真ん中を突っ切った。ゴウ、という衝撃波と振動、それを追いかける二機のクロゴケグモ。その一派が突き抜けた瞬間、サイファーは動いた。向こうもほぼ同時に動く。バーナーが炎を上げる。飛龍の咆哮が上がる。その翼を縮め、獲物である猛禽を狙う。猛禽もまた、自分よりも巨大な獲物をしとめ、自分が高い地位であるということを知らしめるべくその爪を剥き出す。

 

 真正面からの交錯。機銃がキャノピーをかすめる。お互い着弾なし、同時に反転して第二射。着弾なし、反転からの接近、第三射。サイファー、左安定翼被弾。操縦に支障はなし。

 

 無言の戦闘。ミサイルをロックする暇もない、交錯0.58秒のその瞬間を狙っての攻防。サイファーがわずかながらに削られていく。一見不利に見える。だが、エンジンだけは絶対に、絶対に破壊させていなかった。それが、ブラウ1にとっては厄介で仕方がなかった。

 

(どう言うことだ、経験ではこちらの方が勝っているのに、なぜこうも追い詰められている気がするのだ! まるであの時と同じじゃないか!)

 

 地面が近づき、互いに山肌ぎりぎりで機体を立て直すと、縫うように飛ぶ。サイファーのやや後ろにF-22が陣取る。機銃が飛ぶ。左旋回で回避。円卓中央にそびえる山を飛び越えて再び急上昇。そのままループ。速度計の数値が目まぐるしく変わり、音速の壁を突き破る。マッハコーンがワイバーンを包み込み、ラプターも同じようにそれをまとう。まるで、ほんの一瞬だけ現れるドレスのようだ。

 

 サイファーはこのすべての動作が現実ではない気がしてきていた。確かに自分は戦っている。だが、なんというかまるで映像を見ている気分だった。こうすればいい。こうすれば勝てる。ここを右に旋回すれば攻撃が回避できる。そう思えばその通りに動いてくれる映像のように、サイファーはワイバーンを操る。かなりの無茶な機動でも、ワイバーンはサイファーの動きにしかと答えていた。

 

 機銃が飛ぶ。だが焦りはしない。そう、サイファーはまるでその先が見えるような気がした。実際に見えているわけではない。体に宿るすべての感覚が、溢れ出すアドレナリンが、ワイバーンの示す電子音のすべてがサイファーの第六感に注ぎ込まれる。まだだ、まだだ。そういう声が聞こえた気がした。いつの間にか自分がそう呟いていたことにサイファーは気づかない。だが、その次の瞬間。まるで手が叫んだかのように動いた。『今だ』と。

 

 気づけばスロットル出力は最低位置に引き戻され、エアブレーキが展開し、主翼を強制展開させる。ラダーペダルを蹴り倒し、機体のバランスがやや崩れて下方に逸れる。敵の視界から消えるには、瞬き一回分だっただろう。それは消えたのと等しく、ブラウ1は突如として消えたX-02の動きに驚愕した。

 

 そしてとっさに後ろを見た。そこには、機体を90度横に傾け、今まさに機銃の砲身が展開、そして回転を始めたX-02ワイバーンの姿。刹那、火を噴いた。

 

 最初に撃ち出された弾丸二発は命中しない。だが第三射、第四射が垂直尾翼とエンジンバーナーを吹き飛ばす。続いてエンジン部の装甲を引き剥がし、剥き出しになったコンプレッサーをその次の弾丸が剥ぎ取ると、排気口に入り込んだ弾丸が中身からエンジンを粉砕し、炎が上がり、神経とも言えるF-22の操縦系統すべてを燃やしつくした。

 

「ばか……な……」

 

 燃え盛るコックピットの中で、ブラウ1は飛び去る青い翼を見つめる。何と言うことだ。確かに伊達ではないと思った。だがこんなにもあっさりと自分が蹴散らされるなんて思ってもみなかった。

 

 最初は優勢だった。数でも勝っていた。僚機もしっかりと訓練されたエリートたちだ。押し込めば勝てた。そう、平然と勝てたのだ。

 

 なのに、負けた。自分が、落とされた。たった二機の戦闘機に、壊滅まで追い込まれた。まるであの時と同じじゃないか。

 

 15年前。連合軍掃討のために送りこまれたB7R制空戦。敵の損失は7割だった。もう勝ったも同然だった。なのに、たった二機の戦闘機によってその戦況は覆され、援軍にやってきたベルカの誇るエース部隊も粉砕された。

 

 同じだ。あの時と。奴は再来じゃない。奴は…………。

 

 鬼神その物じゃないか。

 

 

 

 

 炎を吐き出しながら落下していったF-22は、やがて燃料に引火して木っ端微塵になり、破片を撒き散らしながら消えていった。脱出は無し。サイファーは機体を傾けながらそれを確認し、大きく息をついた。体力的に大きな疲れが出ている訳ではないが、精神的に大きく疲れた気がした。何とも言えない、憐みの様な気分。戦果を上げはしたが、いい気分にはなれない。

 

「サイファー、こっちも片付けた。お互い何機落としたよ?」

「あー、すっかり忘れちまった。後でガンカメラチェックだな」

 

 接近するスザクを確認すると、サイファーは機体を捻って作戦空域が居にいる海里と合流するコースを取る。周波数を切り替えると、ヴァレー組の盛大な歓声がスピーカーを包み込んで思わずヘルメットを脱ぎ捨てたくなった。

 

「イヤッホゥ! 最高じゃねぇかサイファー!」

「スザクなんかその機体すっかり使いこなしやがって!」

 

 全く、さっきまでやけくそで死にかけていた連中とは思えないテンションだ。サイファーとスザクは苦笑してしまう。編隊に近づけばヴァレー組は飛んで跳ねて回りまくってはっちゃけていた。

 

「ったく、死にかけた連中とは思えないな」

「なんだとぉ! こっちは必死になりまくってたんだよ!」

「そうだそうだ、来るならもっと早く来やがれ!」

「おいおい、ゆたかちゃんは無事なんだろうな!? 俺たちの妹は!?」

「はーい、元気ですよ皆さん。ご安心を」

『うおおぉおおおおおお!!』

 

 グレードアップする歓声。こいつら全く変わって無い。もし降りれる時間があるなら一発殴りたいのだが、ヴァレー上層部の調査団に先の戦闘の報告がされているだろうからそれも叶わないだろう。

 

「でも、あまり喜んでもいられませんよ。ガルム隊に緊急通達、敵爆撃機編隊はB7Rを迂回してヴァレーに向かった模様。ヴァレー到着まで残り二十七分!」

「ちっ、少し時間をかけ過ぎたか。アテナ、引き続き護衛頼む。スザク、全力飛行!」

「了解」

 

 アフターバーナー点火。主翼を折りたたんで急加速。スザクのXFA-27もそれに続く。

 

「お前ら、うちの三番機の言うことしっかり聞いとけよ! お前ら美人好きだろ!」

「あの、我々を救ってくれたそこのお嬢さんよろしかったら連絡先を教えて頂けないでしょうか?」

「あ、てめ! 抜け駆けなんてずるいぞ! 私にもぜひ!」

「いやまて、そんな回りくどい奴なんかほっといて俺と食事に行きませんか!?」

「いや、私は顔を拝んでみたいのです! お嬢さんどうかバイザーを上げてお顔の拝見を……!」

 

 こいつら全く、人の嫁をナンパするとはいい度胸だ。というか海里も微妙に乗りよくサービスしているらしい。バイザーの上げる音と、パイロットたちの『おお~!!』という声が聞こえる。

 

「間違いない美人だ! 飛びきりの美人!」

「あああああの、よろしかったら私と交際をしていただけないでしょうか!?」

「てんめぇ言いやがったな!! 我らヴァレーで鍛えられた者です、今こそ守られてる側ですがあなたを生涯お守りすると誓うので私と!」

「皆さんのお気持ちは嬉しいですが、ごめんなさい。サイファーともう婚約済みなので」

「あいつ殺ぉぉおおおす!!」

「あんにゃろ、嫁自慢のために戻って来やがったな!! おい誰かあいつを撃ち落とせ!」

「ばか、誰もミサイルなんて持ってないし第一あいつに勝てる訳ないだろうが!」

 

 お元気そうで何よりだ。やれやれと溜め息をつきながら、サイファーは無線の向こうで軽く笑っているスザクの声を聞きながらレーダーを広域に設定する。自分たちの東側を飛んでいるようだ。爆撃機の機数は四。その中の一機がトリニティを積んでいる。

 

「スザク、横から仕掛けるぞ」

「了解だ、先手は任せる」

 

 シーカー解放。さぁ出番だと、ダークファイア超長距離射程ミサイルをセットする。レーダーロック、AWACSラッキースターとデータリンク、HUDに爆撃機のカーソルが表示される。

 

「データリンク開始、目標捕捉しました。解析データをガルム1へ送信、誤差修正0.275、修正完了です」

「レーダーロック、ガルム1フォックス3!」

 

 ミサイル発射。ゴトン、とミサイルが切り離される感覚から、ワイバーンの腹に抱えられたミサイルがその先にいる爆撃機編隊に向けて一気に直進していく。レーダーで見る限り護衛機もいる。そいつらもついでに潰しておこうと次弾装填の準備をする。

 

 レーダーの光点が四つ消える。それとほぼ同時に前方に小さな火球が四つ見える。サイファーは一瞬トリニティの二次爆発に備える。が、続いての爆発の気配はなく、一瞬そのまま抱えて落ちて行ったのかと思う。

 

「……あっけないな」

「ああ……それに爆撃機が四機ってのも気になる」

 

 スザクの四機という言葉に、サイファーは疑問符を浮かべる。

 

「どう言うことだ?」

「そうか、お前はベルカの爆撃機部隊は機種によっていくつかの爆撃パターンがある事についてはあまり知らなかったな。と言っても俺もそこまで詳しいとは言わないが、ラッキースター、今の爆撃機編隊の機種は分かるか?」

「待ってください……完了しました、熱源、排気からしてTu-160ブラックジャックです」

「となると、ますます四機ってのが納得いかない。ブラックジャックを使う部隊は五機目が居るはずだ」

「まさか……」

 

 そう、そんな簡単に事が運びはしない、という事を思い知るのは二秒後のことだった。ラッキースターから緊迫した声が入った。

 

「緊急! 情報収集船ヒビキから入電! サイファーが先ほど撃墜した敵爆撃機編隊は囮、本命の一機がヴァレーの南側から接近中です!」

「なんだと!?」

 

 やられた、敵もバカじゃなかった。進路変更、南に急行する。しかし敵爆撃機とかちあうにはまだ距離が足りない。このままではすれ違うだけである。

 

「サイファー、このままだとすれ違うだけだぞ!」

「それでいい! 真正面から迎撃した所で当たる訳が無い、一旦回り込んで後ろから撃ち落とす! ラッキースター、レーダー誘導頼む!」

 

 万が一ミサイルが発射された場合、真正面での相対速度はマッハ10を簡単に超える。ミサイル、機銃を撃った所で狙いをつける間もなく撃ち漏らすのが関の山である。幸いトリニティ弾頭搭載型ミサイルには弱点があり、弾頭が重くて最大速度で飛行できないことだ。最高速度、予測ではマッハ5。ワイバーンのミサイルなら十分に追いつける。

 

 一番いいのは発射前に爆撃機を撃ち落とすことだ。だがレーダーを見る限り間に合う確率は低そうだった。今から進路を修正して爆撃機を射程に入れれば撃ち落とせるかもしれないが、かなりぎりぎりだった。予定を早めて発射されてしまえば、完全直撃とはいかずとも被害が出ることは間違いない。

 

「ルート検出完了しました! 送信します!」

 

 データリンク受信。同時にスザクにも誘導データーが行き渡り、二機は進路の微修正に入る。サイファーはスロットルをさらに押し込んで出力を振り絞り、全力運転するワイバーンのERG-1000に更に鞭を打つ。温度が限界ギリギリである。これが夏場だったら問答無用でオーバーヒートを起こしていたに違いない。再び音速の壁を突き破り、更にワイバーンは加速する。X-02の最高速度はマッハ2.5。XFA-27よりも速いのだ。XFA-27が遅れを取り始める。だがいい、スザクには近接迎撃という仕事がある。今の最優先の目標はトリニティ一つ。サイファーはレーダーを睨む。今、真横にTu-160が位置した所だった。今だ。

 

 サイファーは左旋回を始める。だがかなり慎重に操縦桿を傾ける。マッハ2.5で急旋回しようものなら300ノットの時に左旋回するのとは全く話にならないほど強烈なGが襲いかかる。もはや潰れるだろう。ワイバーンの操縦系統はフライ・バイ・ワイヤで、自動的に操縦桿の制限が設けられる。しかし、それでも一歩間違えれば一瞬で意識を失ってしまうのだ。

 

 ぎりぎりと歯を食いしばり、コンクリートが圧し掛かったかのように重い腕を動かして操縦桿を捻る。大周りの旋回だ。旋回半径は50km近くになる。だが、ラッキースターの誘導のおかげでぴったりと背後に回り込むことができそうだった。

 

 呼吸が荒くなる。脳に酸素が行かなくなって常時立ちくらみの状態になる。まだだ、まだ我慢だ。全身の筋肉に力を入れて、意識を繋ぎとめる。中央のマルチモニターの情報が頼りなのだ。

 ルート上を寸分の狂いもなく飛び、ついにサイファーはTu-160の背後に回り込むことに成功した。しかし、その直後にTu-160から小さな機影が現れ、高速で離れていく。

 

「こちらラッキースター、トリニティの発射を確認!」

「くそったれ!!」

 

 まだこちらのロックオンの準備が出来ていない。射程には入ってる、だがラッキースターのリンクがまだ来ていない。あと四秒ほど待てば来るだろうが、それでは初期加速で一気に引き離されてしまう。

 

 迷わずガリウムレーダーを最大出力に設定した。これを本気で使うのは初めてだったが、元よりそれがワイバーンの本骨頂である。強制的に巡航ミサイルを探知して、ロックオン可能状態まで持ちこむ。だが、まだ完全ではない。距離があるから電磁波が薄く、完璧に捉えることが出来ない。

 

 だが、もう迷ってる暇はない。これだけは阻止しなければならないのだ。レーダーロック、フォックス3。二発発射。それとほぼ同時に母機のTu-160を一瞬にして追い抜く。二機の護衛機が邪魔しようとしたが数秒も経たないうちに振り切る。

 レーダーに表示されたミサイルのフィリップが距離を縮めて行く。間に合え、間に合ってくれ。

 

「トリニティ、ヴァレー弾着まで57秒!」

 

 こちらのミサイルの弾着まではあと15秒。当たれば間に合う、迎撃行けるか? 

 トリニティにダークファイアミサイルが接触するまであと7秒……5、4、3、2、弾着、今!

 

 レーダー上のミサイルがトリニティのすぐ近くで消失する。近接信管が働いたのだ。どうだ、間に合ったか? 思わず息を飲む。だが、トリニティのフィリップは消えない。撃ち落とせなかった。

 

「トリニティ健在してます! このままでは!!」

 

 ゆたかの焦りの声が響く。分かっている。だから次の手は打っている。そう、これは無駄じゃないのだ。

 

「弾着まで……え、予想より4秒遅い? 目標、なおも速度低下中!」

 

 トリニティの速度が落ちたのだ。近接信管で爆発したミサイルの破片が弾道ミサイルの安定翼をごく僅かだが破壊し、空気抵抗を生んで速度を落としたのだ。

 

 これが最後の攻撃だ。残った最後の長距離ミサイル二発、発射。サイファーはミサイルロックオンの音や、エンジン音、ミサイルの発射の衝撃よりも、やたらと自分のマスクを経由した「コォォ――」という呼吸音の方が、大きく聞こえていた。

 

 

 

 

 ヴァレー空軍基地は、異常なほど静まり返り、山間を飛び交う風の音だけがそこを支配していた。ヴァレーの兵士たちは一機も居なくなった戦闘機のエプロンに繋がれた状態で集められ、大した上着も切る事も出来ずにトリニティミサイルの弾着を待つだけだった。

 

 見張りのヴァレー上層部派遣兵という皮を被ったベルカ過激派の兵士はとっくに退去し、占拠からは事実上解放された。しかしこれでは何もできない。逃げるための手段はすべて破壊され、仮に今徒歩で逃げられるようになったとしてもこんな僻地だ。無事に逃げ切れるはずが無い。

 

 そして、ついに迫りくるトリニティミサイルの光が見えた。ベルカ戦争時、最強の砦と言われたこの基地も高もあっけなく終わるのか。寒さと絶望、落胆が支配する彼らにはもはや叫ぶ気力もなかった。

 

 来た。俺たちを葬る死の光が。やつらの復讐が果たされる。言うなれば悪が勝利を手に収める瞬間だ。自分たちはその犠牲になるのだ。

 

 誰かが死にたくないと叫んだ。誰かが母を、娘の名を、恋人の名前を叫んだ。しかしもう遅いのだ。

 

 そう思った彼らの予想は、その刹那に裏切られることになる。

 

 向かってきていたトリニティが、突如として爆発し、その禍々しい炎と煙を撒き散らした。ヴァレーよりもはるか遠く、爆風の影響はあれども直接的な被害が無い場所でだ。一体なぜ? 基地のメンバー誰もが思った。呆然とその煙を見、その次に爆風と衝撃波が基地を包み込む。

 

 やがてそれも収まり、ゆっくりと顔を上げるころになると一機の戦闘機のエンジン音が聞こえて来た。まるで龍の咆哮の様な、甲高い特徴的なエンジン音。男たちは、一度だけその音を聞いたことがあった。

 

 轟音を撒き散らしながら、X-02ワイバーンが一筋の雲を引きながらヴァレーの真上を通過する。青い翼、機首に氷の妖精のエンブレム、機体番号009。そして新たに描かれた垂直尾翼の地獄の猟犬。そう、誰もが一瞬で理解した。奴が、帰って来たのだと。

 

「サイファーだ……」

「鬼神だ……あいつだ、あいつが帰って来たんだ!」

「やった……サイファーがやったんだ!」

「やっぱりあいつは円卓の鬼神の再来だ! 俺たちの英雄だ!!」

 

 意気消沈していた男たちが立ち上がり、その一機の戦闘機を目に焼き付けようと身を乗り出す。X-02はゆっくりと旋回を始め、ヴァレーの真上を優雅に飛行して見せる。

 どさくさにまぎれ、ナイフを持ちこんだ整備士が拘束を解いていく。資材不足のためロープで結ばれていた程度が幸いだった。全員の拘束が解かれるまで十分と時間は要らなかった。

 

「やったぞ! 鬼神の再来に敬礼!」

「ガルムの再来、鬼神の再来だ!」

『サイファー! サイファー! サイファー! サイファー!』

 

 いつしか歓声は基地を、山を巻き込んで包み込まれる。それは上空を飛ぶサイファーにも聞こえそうな勢いで、現に彼も地上の彼らが自分を呼んでいる事を知っていた。

 

 爆撃機と護衛戦闘機を軽く捻り潰してきたスザクが編隊に加わり、基地を周回飛行する。見降ろす限り、みんな無事なようだった。

 

「あいつら無事みたいだな」

「ああ、間に合ってよかった」

「ったく、冷や冷やさせるぜ。外した時はもうだめかと思ったぞ」

「正直賭けだった。本命は第二射の方だったからな。一発目でダメージが入らなかったら正直無理だった」

「博打打ちが好きだな、本当に。だが、お前の強運は味方になれば心強い事この上ない」

 

 二機のガルムはゆっくりと古巣を見降ろす。自分たちを送りだしてくれていた仲間たちが大きく腕を振り上げて叫びを上げている。涙を流している奴もいた。それだけ、自分たちのしたことは大きいと言うことだろう。

 

「ガルム隊へ、任務完了です。ウスティオ軍の調査隊がそちらに向かっていますので、離脱を開始して下さい。円卓にいる航空隊は彼らに引き継ぎさせてます。アテナとサピン国境付近で合流して下さい」

「あいよ。任務完了。RTB」

 

 サイファー、スザク、一度距離を置いて再旋回。ヴァレーの真上を低空でフライパスし、翼を振り、加えて地上の男たちに向けて敬礼。アフターバーナー点火、離脱コースへ。

 

 その日、ほんの十分に満たない間ではあったが、地獄の猟犬は生まれ故郷にその姿を現した。古巣を守るために、自分を生んだ親の故郷を守るためにその姿を現した。

 

 古巣の男たちは、いつしかガルムの歓声を上げながら、飛び去っていく二機の戦闘機を見送り続けた。その轟音は山肌を反射し続け、反射する度に削られていく。その音はやがて小さくなり、遠吠えの様な音をヴァレーの男たちの耳に残し、そしてその目に大きな希望を残しながら、透き通った青空の向こうへと消えて行った。

 

 

 

 

 2010年12月16日、ウスティオ軍総司令部は、ISAFの極秘回線から送られてきた証拠をもとに灰色の男たちに加担、および買収されていた官僚や士官たちを一斉摘発。ヴァレー空軍基地所属の兵士たち全員の無罪がほぼ確定し、極刑を言い渡されていたマッケンジー指令も無罪となり、今後のスパイ排除の重要人物としての扱いが決定した。

 

 B7R付近で飛行していたヴァレー空軍基地航空隊も、無事に帰還。損失は0機。救助に来た飛行隊からは、あんな状況下で武装も無しにどうやって生き残り、どうやって撃墜したのか疑問で仕方が無く、パイロットたち全員に聴取した。しかし、これと言っての答えは無く、ただ皆が口をそろえてこう言っていた。

 

 鬼が、再び現れたのだ、と。

 

 

 


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