遊戯王部活動記   作:鈴鳴優

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009.廃部にしてやるっ!

●新堂創  LP4700 手札4

 

●氷湊涼香 LP8000 手札1

 

□交響魔人マエストローク(エクシーズ素材:0)

□M・HEROヴェイパー

■unknown

 

 6ターンが経過し、大量展開を行った時点で《マスク・チェンジ》で墓地に送られた《E・HEROアブソルートZero》の効果が炸裂した。これにて創の場にモンスターは存在しないどころか、次に使用した《貪欲な壺》での使いドローを行ったものの、魔法・罠がこなかったのか何も伏せなかった。

 完全に場はガラ空きである。

 

 しかも、次の7ターン目は氷湊涼香のターンだ。

 

「私のターン、ドロー」

 

 彼女は手札が少ないが、それでも有利である。

 現在、総攻撃力は4400とわずかに創のライフポイントを削りきるには足りない。そのため水増しするために、追い打ちの如く新たなモンスターを召喚させる。

 

「《E・HEROオーシャン》を召喚!」

 

 E・HEROオーシャン

 ☆4 ATK/1500

 

 この場、ただの下級モンスターとしてしか扱えないカードであるが攻撃力も十分だ。故に、創に攻撃を防ぐ手段がなければこのターンで決着となってしまうだろう。

 

「バトルフェイズに入るわ……《E・HEROオーシャン》、《交響魔人マエストローク》、《M・HEROヴェイパー》の順で攻撃するつもりだけど、何かある?」

「もちろんさ! 俺は、“オーシャン”の攻撃を受けたとき手札の《冥府の使者ゴーズ》を発動! 《冥府の使者ゴーズ》と《カイエントークン》が特殊召喚される!」

 

 創 LP4700→3200

 

 冥府の使者ゴーズ

 ☆7 DEF/2500

 

 カイエントークン

 ☆7 DEF/1500

 

 《冥府の使者ゴーズ》は遊戯王において有名なカードの1つだ。

 

 場にカードがない時、ダメージを受けることで特殊召喚でき戦闘ダメージであるならば受けた数値と同様の攻守を持つカイエントークンを生み出す。そのため、連続で直接攻撃を行うならば攻撃力の低い順から攻撃を行う事が多くなった。

 たった1枚で、2体ものモンスターを場に出すこのカードは強力であり1キル対策やカウンターとして扱われる。その使用条件故、場にカードを出さずに《冥府の使者ゴーズ》を手札にあると思わせるブラフすら生まれたのだ。

 

「ちっ……今度は握っていたのね……メインフェイズ2! 手札がこのカード1枚だけなら特殊召喚できる。《E・HEROバブルマン》を特殊召喚!」

 

 E・HEROバブルマン

 ☆4 DEF/1200

 

 2ターン前に、《E・HEROエアーマン》の効果にて手札に加えたカードを特殊召喚する。これで、《E・HEROオーシャン》と並びレベル4のエクシーズを行うことができるが既にメインフェイズ2であり攻撃は行えない。

 まして、“ゴーズ”は守備表示である彼女はエクストラデッキに入る“No.101”のカードを使用したかったと思ったがこのカードは攻撃表示にのみ有効。そのため守備として扱えるカードのうち1枚を使う。

 

「だったら、こいつ! レベル4“オーシャン”、“バブルマン”でエクシーズ。《No(ナンバーズ).39希望皇ホープ》!」

 

 No.39希望皇ホープ

 ★4 ATK/2500

 

 純白の鎧に黄金のフレーム、大剣に左肩のプロテクターには39を表す数値。遊戯王ZEXALの主人公が扱うエースモンスター。色々な派生カードが存在し、初心者向きのスターターデッキに収録されているために扱いはさして難しくない。

 

「ターン終了よ」

「そうか、じゃあ俺のターンだ……行くぜ!」

「……っ!?」

 

 この時、悪寒にも似た寒気を感じた。

 対戦している涼香だけでなく、近くにいた晃も。元々知っていたのか、茜だけは涼しい顔をしていた。気付けば、晃は自身の握りしめていた手から冷や汗を掻いている事に気づく。かつて茜と対戦したときも、似たような感覚に見舞われたが今回と前回では段違いに違うのだ。

 

「まずは《クレーンクレーン》を召喚!」

 

 クレーンクレーン

 ☆3 ATK/300

 

 形状が鶴に似たクレーンの機械型モンスターが召喚された。どうやら(crane)とクレーンを賭けているらしい。このモンスターが召喚に成功したとき嘴にも似た部分が伸び創の墓地へと突っ込んだ。

 

「このカードが召喚に成功したことで、自分の墓地のレベル3以下のモンスターを効果を無効にして特殊召喚できる! 戻って来い、“ダークソウル”!!」

 

 唯一、墓地から《貪欲な壺》でデッキに戻されなかったモンスターカードだ。実質、前のターンでデッキに戻してしまえばエンドフェイズでのサーチ効果を発揮できなかったのだが、さらに次への布石として創はすでに用意していたのだ。

 これでレベル3モンスターが2体。創はすでに、エクストラデッキから1枚のカードを取り出してそれらに重ねる。

 

「行くぞ! ランク3エクシーズ、《クレーンクレーン》と《XX─セイバーダークソウル》で俺は《M.X(ミッシングエックス)─セイバーインヴォーカー》をエクシーズ召喚!!」

 

 M.X─セイバーインヴォーカー

 ★3 ATK/1600

 

 場に現れたのは、“X─セイバー”でもなく“XX─セイバー”でもなく“M.X─セイバー”と言われるモンスター。本来“Xセイバー”は“XX─セイバー”それぞれ十人しかいなが、失われたという意味を持つ(ミッシング)の名を持つモンスターならば11人目として存在する理由となる。

 とはいえ、攻撃力は1600と涼香の場のモンスター全てに敵わない。

 

「“インヴォーカー”の効果発動! エクシーズ素材を一つ取り除き、デッキから地属性レベル4の戦士または獣戦士族を表側守備表示で特殊召喚できるぜ! これで《XX(ダブルエックス)─セイバーボガーナイト》を特殊召喚だ!」

 

 XX─セイバーボガーナイト

 ☆4 DEF/1000

 

 ケルト神話における精霊の名を持つ獣戦士族の屈強そうな戦士の姿のモンスターが出現する。下級アタッカーとして基準ラインとされる1900の数値ではあるが、特殊召喚の制限において守備表示である。だが、これで“X─セイバー”が2体となった。

 

「ちっ……こういう時、“ダークソウル”の効果が面倒ね」

「まあな! 俺は再び《XX─セイバーフォルトロール》を特殊召喚!!」

 

 前のターンで《XX─ダークソウル》の効果によりサーチしたカード。破壊だろうが、シンクロ素材であろうが場から墓地へ送られれば効果を発揮するカードだ。“X─セイバー”であれば他の指定はないが、エンドフェイズというタイムラグが存在するのだが、この様に次のターンでの巻き上げに丁度いい。

 

「けど、墓地に“X─セイバー”はいない……っ、まさか!?」

「そう! 丁度、このターンで引いたぜ……《おろかな埋葬》を発動! デッキからチューナモンスター《X─セイバーパシウル》を墓地へ送り、“フォルトロール”の効果で特殊召喚!」

 

 “フォルトロール”が号令をかけるかの様に、ブォンと剣を片手で振る。それに合わせ墓地へと送られた《X─セイバーパシウル》は場へと召喚された。

 

「っ……また、シンクロで来るわけ?」

「そうさ! レベル4の“ボガーナイト”とレベル2“パシウル”でシンクロ! レベル6、《XX(ダブルエックス)─セイバーヒュンレイ》だ!」

 

 XX─セイバーヒュンレイ

 ☆6 ATK/2300

 

 まるで、中国が清の頃に見られたシニヨンと呼ばれる髪型に似た形状のヘルメットを装着した戦士が現れる。片手剣の曲剣を手に、即座に涼香の場へと飛び込む。

 

「“ヒュンレイ”の効果は、シンクロ召喚の成功時に発動する。場の魔法、罠カードを3枚まで選択し、破壊できる! その伏せカードを破壊させてもらうぜ!」

「ちっ……」

 

 破壊されたのは、《聖なるバリア─ミラーフォース─》。

 かなり前のターンに伏せていたものの、攻撃を行わなかったり、“スターダスト”が存在し、効果を発動されれば、ほぼ無意味と終わってしまうため発動されなかったカードだ。

 

「おおっ、と……これで遠慮なく攻撃できんな。けど、その前にレベル6、“ヒュンレイ”、“フォルトロール”でエクシーズだ!!」

「っ……ランク6!」

 

 確かに、創の場にはランク3である“インヴォーカー”とレベル6の“ヒュンレイ”と“フォルトロール”が存在する。今までは、出しやすさがランクが3や4が多く出されたが、ランク5以上ともなれば難易度からエクシーズモンスターの強さも当然、上がってくる。

 

「来い! 《ガントレット・シューター》!!」

 

 ガントレット・シューター

 ☆6 ATK/2400

 

 真っ赤な装甲の巨大ロボットが出現した。

 攻撃力だけで言えば、“フォルトロール”と同等。さらに“ヒュンレイ”がいなくなったことを加えれば、総攻撃力は大幅に激減した。しかし、効果を見れば……むしろ攻撃力は十分な水増しとも言える。

 

「《ガントレット・シューター》の効果! メインフェイズ時に、エクシーズ素材を一つ取り除き、相手モンスターを1体破壊できる。“ホープ”を破壊だ!」

 

 瞬間、彼の右手が爆音と共に発射された。

 所謂、ロケットパンチと言える攻撃を行い相手モンスターである《No(ナンバーズ).39希望皇ホープ》を粉砕する。そして、今度は残った左腕が場に残り続けている“マエストローク”へと向けられた。

 

「《ガントレット・シューター》の効果の発動に制限はない! もう一度、使用し今度は“マエストローク”を破壊する!」

 

 大抵、遊戯王の効果では1ターンに1度と言う制約が多い。

 効果によるが、何度でも使える効果においては無限ループが発生しうる事態がある。《ガントレット・シューター》はエクシーズ素材を取り除くというコストがあるため無制限とはいかないが、それでも1ターンに2度も発動できるのは驚異的だ。

 後に残ったのは、唯一《ガントレット・シューター》の効果を含め、カード効果で破壊される事のない《M・HEROヴェイパー》1体だけだ。

 

 事態は、有利だった状況を完全にひっくり返した。

 この光景を不愉快そうに涼香は歯噛みした。

 

「さて、反撃の時間だ! まずは、“ゴーズ”で“ヴェイパー”を攻撃!!」

 

 涼香 LP8000-300→7700

 

 このデュエルにおいて創の初ダメージだ。

 もっとも、それだけではなく涼香の場に残っていた唯一のモンスターを撃破した事により彼女の場にはカードが何も無くなったのだ。加えて、手札もないと来れば攻撃のチャンス到来である。

 

「行くぜ! “インヴォーカー”、“シューター”の順で攻撃だ!」

「ちっ……通すわ」

 

 涼香 LP7700→6100→3700

 

 残りライフが、創と同じ3000台まで落ちた。

 さらに、彼の場には3体のモンスターと圧倒的アドバンテージを得たのだ。それも前のターンまで、敗北寸前だった状況ではないだろう。

 

「よしっ! カードを1枚伏せてターンエンドだ!」

「っ……」

 

 創のターン終了の宣言により涼香のターンへと移る。

 だが、彼女の場にはカードが1枚もなく手札すら無い状況だ。必ずしも逆転できないとは言い難いが、それでもここで勝つことは限りなく難しい。並大抵の人物であれば、ここで諦めるのが普通だ。だが、彼女──氷湊涼香は、決闘者としてのプライドは人一倍強い。この場で諦めを付けられるほど、潔くもないのだ。

 

「調子に……乗らないで! 私のターン、ドロー! 《戦士の生還》発動!」

 

 引いたのは、通常魔法カード《戦士の生還》だ。ただ、単純に墓地から“戦士族”モンスター1枚を手札へ回収する効果であるが、彼女の場にはここから逆転に繋ぐカードがある。

 

「“バブルマン”を選択して、手札に戻す。そして、手札がこのカードのため特殊召喚!」

「お、っと……ここで“バブルマン”かよ!?」

 

 晃は、ここでデジャブを感じた。

 彼女と一緒に戦ったタッグデュエルのラストターンと似たような状況だ。圧倒的不利な状況で出した《E・HEROバブルマン》のドロー効果での大逆転劇。それが、今のこの場と重なって見えた。

 

「《E・HEROバブルマン》の特殊召喚時、場と手札がこのカード以外存在しないため2枚ドロー……《死者蘇生》を発動。墓地の《E・HEROオーシャン》を特殊召喚するわ」

 

 引いた1枚目のカードは、万能蘇生カードの《死者蘇生》。特殊召喚でも効果を発揮する《E・HEROエアーマン》はすでに《ミラクル・フュージョン》で除外されているため墓地にはおらず、選択しとして彼女は他の“戦士族”、レベル4の“オーシャン”を選択したのだ。

 

「まずは、レベル4、“戦士族”の“バブルマン”、“オーシャン”でエクシーズ。《(ヒロイック)(チャンピオン)エクスカリバー》をエクシーズ召喚!」

 

 H-Cエクスカリバー

 ★4 ATK/2000

 

 圧倒的不利な状況を切り裂かんばかりに剣を構え君臨する。

 ランク4であるにかかわらず、4000打点を叩きだす高火力モンスターだ。

 

「“エクスカリバー”の効果。エクシーズ素材を二つ取り除き、攻撃力を倍に!」

 

 H-Cエクスカリバー

ATK/2000→4000

 

 構えた剣から膨大な光が溢れだす。

 上級モンスターでさえ凌ぐ攻撃力を帯びたものの、創の場のモンスターに攻撃を行ったとしても彼のライフを削りきることはできないだろう。ならば、と次いで出されたカードは晃にとってやはりと言えるカードだった。

 

「2枚目の《ミラクル・フュージョン》を発動! 墓地の“Zero”と水属性“ヴェイパー”を融合! 現れなさい、《E・HEROアブソルートZero》!!」

「っ……こいつは、ちょっとハードだな」

 

 彼女の引きの強さに、さすがの創も苦笑いを浮かべた。

 これは、もはやかつてのタッグデュエルの再現だ。

 

 遊戯王においてデッキは、デュエルが始まった時点でランダムにシャッフルされあらかじめどのカードがどの位置にあるか決定されている。特にカードの効果などでシャッフルされ直す事があるが、そう大差はない。

 故に、遊戯王自体が大きく運が絡まるゲームである。

 

 だが、その運……または運命すら支配する様な引きがある事もある。原作を知っている人間であれば、きっとそれをこう言うだろう。ディスティニードロー、と。

 ソレを引き起こした彼女は、まさに強者だ。そんな彼女に晃は、ただ茫然と見つめては驚愕していた。

 

「凄い……これが、瞬間氷結の戦乙女(フリージングバルキリー)と言われた氷湊の力か……」

 

 ただ、無意識のうちに晃は声に出していた。

 彼の声が聞こえていたのか、気付けば傍らで歓声していた茜に、デュエルの真っ最中であった涼香と創も目を見開いて驚いた様な表情をしていたのだ。ただし、涼香だけは驚いた内容は違うが。

 

「は……ははっ、成程! 道理で強えーわけだ! まさか、隣町のチャンピオンが相手だとはな……それに、返しのターンで“バブルマン”のドロー効果からの繋いで戦士族エクシーズと融合を行う逆転技、氷雪剣舞(ブリザード・ソード・ダンス)だっけか? まさか、それまで見れるとはな!」

 

 口は災いの元とは、この場での意味を表すだろう。

 まさか、無意識に出してしまった言葉で、また新たに彼女の隠し通したいであろう恥ずかしい過去の一旦が暴露されたのだから。無論、それを聞いた涼香は──。

 

「きゃああああ違う、違う、違ってば!! あれは、私じゃない……私じゃない別の私よ!」

 

 やはりというか、顔を真っ赤にしては悲鳴を上げていた。

 その姿と創の発言から、晃はまさか二つ名以外にも中二病的な名称があったなんて……などと考えていたが、途端、背筋が凍りような悪寒に見舞われた。

 

 気付けば、顔を両手で覆い隠そうとしながらも隠し切れていない片目だけであるが、晃を睨んでいたのだ。まるで『こんなことになるなら、記憶が無くなるまで殴っておけばよかった』と言わんばかりに。

 などと、簡単なやり取りがあったが、今度は意外にも彼女は冷静に持ち直した。

 

「ふぅ……決めたわ」

「何をだ?」

「ここの部活に興味はなかったけど、私が勝ったら本当に貰うわ! そして、すぐに廃部にしてやるっ!」

 

 まるで駄駄をこねる子供に宣言をする涼香。

 事の発端は、晃であるが、これはほぼ八つ当たりと言ってもいいだろう。それを聞いては創も少しばかり困った様な表情を浮かべた。

 

「それは、困るな……もっとも、俺が勝てばいい話だけどな!」

「っ……舐めないで! ”アブソルートZero”で”ゴーズ”に攻撃よ!」

 

 涼香 LP3700-200→3500

 

 彼女が行ったのは、自爆特攻と言える行動だった。

 攻撃力が劣っていながら攻撃を行うその行動は、破壊されれば効果を発動するモンスターで行うものであり、当然の如く”アブソルートZero”も場を離れる事で発動するのだ。

 

 《冥府の使者ゴーズ》に攻撃を仕掛けたものの、返り討ちに合う氷の英雄だったが突如、氷の暴風が創の場を襲い創のモンスター全てを無に帰したのだ。

 

「くっ……」

「これで、アンタを守るモンスターは消え去ったし、残りライフも”エクスカリバー”の攻撃に耐えきれないわ! これで、とどめよ!」

 

 彼女の宣言と同時に、攻撃を行う《H-Cエクスカリバー》。

 この攻撃が通れば、彼女の勝利であり……創は、その攻撃を──

 

 ──真正面から受けたのだった。


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