遊戯王部活動記   作:鈴鳴優

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※この話は特別編です。
 60話の続き晃と創の決闘の話となっています。


特別編 晃と創

 物語は終わらない。

 まるで止まっていた時間が動き出すかの如く、それは始まった。

 

 数多(あまた)と呼べるほどの高校生決闘者が集まる市内高校決闘個人戦の会場。

 一度に数十、数百と呼べる決闘が行われるたった一つの勝負に二人が揃った。

 

 一人は、遊凪高校遊戯王部のルーキー、橘晃(たちばなあきら)

 高校から遊戯王を始めた故に経験歴はわずかの4カ月程度。

 経験が浅く本来なら初心者を卒業して中級者程度だろうが、彼は相手の意表を突く決闘を行うことにより決闘場の詐欺師(トリックスター)と呼ばれるようになり、さらには大きな敗北をきっかけに一度は挫折しかけたが心の底から決闘を楽しむというスタンスを得た今、まぎれもない強者の領域に足を踏み入れた。

 

 もう一人は同じく夕凪高校遊戯王部に所属し、部長を務める新堂創(しんどうはじめ)

 何よりも決闘を、遊戯王を好きでいて常に楽しむプレイスタイル。

 相手が強者であれば強者であるほどに闘志を燃やし彼はどこまでも強くなる。かつてに中学時代にはインターミドル大会全国で準優勝を果たしたほどの結果を残しており高校生の枠組みでも紛れも無く全国で通用する実力を誇る。その彼も今回は、使用を封じていたデッキを使う。出し惜しみも彼を縛る物も存在しないこの勝負は、新堂創の全力を超える全力が出されるはずだ。

 

 部員と部長。

 後輩と先輩。

 

 仲間同士である二人ではあるが、対峙する二人の瞳には闘志が燃え上がっている。

 決闘者として遠慮無く全力を出すと語るかのように。

 

「行くッスよ! 部長!」

「ああ、遠慮なんていらないぜ!」

 

 先攻は、晃からだ。

 5枚の手札を確認し思わず笑みがこぼれた。

 手札は最良。繰り広げられる戦術を頭の中で組み立てる。

 今回に限り創が使用するデッキも戦術もわからない。だが、それを迎え受けるのに十分な手立てが与えられた5枚には存在するのだ。

 

「まずは、ペンデュラムカードとして《武神─ヒルコ》《竜剣士ラスター(ペンデュラム)》を発動!」

「おっ! こいつは……」

 

 晃のフィールドにはモンスターとしてでは無く永続魔法の扱いとして2つの光の柱がそびえ立った。その中には空中に浮遊するかのように2体のモンスターが制止している。その光景に創は目を輝かせた。

 

「ラスターPのペンデュラム効果。もう片方の《武神─ヒルコ》を破壊することで同名カードを手札へと加える。2枚目のヒルコを手札に加える」

 

 まずは下準備と語るようにカードを駆使する。

 光の柱の一つが消滅する代わりに、新たにカードが晃の手札へと加わる。

 

 そして、一呼吸の間をおき

 彼は目を見開き、新たな戦術を披露する。

 

「スケール3《武神─ヒルコ》と、セッティング済みのスケール5《竜剣士ラスター(ペンデュラム)》でペンデュラムスケールをセッティング! これでレベル4のモンスターが同時に召喚可能!」

 

 一度は、消滅した《武神─ヒルコ》が再び光の柱によって浮上する。

 二つの柱にはそれぞれ3と5の文字が描かれ、その間には水晶のような振り子が右へ左へと左右へと揺れる。

 

「さっそくだな。魅せてくれ晃!」

「ええ、言われなくても! ペンデュラム召喚! 顕現せよ、俺のモンスターたち!」

 

 手を大きく上空へと振り上げる。

 二つの柱の間の空から大きな孔から4つの光が場へと駆り立てた。

 

「手札からレベル4、《武神─ヤマト》《武神器─サグサ》、《武神器─ヘツカ》、そしてエクストラデッキより《武神─ヒルコ》!」

 

《武神─ヤマト  ☆4 ATK/1800》

《武神器─サグサ ☆4 ATK/1700》

《武神器─ヘツカ ☆4 ATK/1700》

《武神─ヒルコ  ☆4 ATK/1000》

 

 戦いの序幕。

 様子見などいざ知らずに晃は大々的に新たなる戦術を披露した。

 それは、彼の決闘場の詐欺師(トリックスター)の名に相応しい開幕だ。

 

「いきなりトップギアだな! 熱いぜ、晃!」

 

 それを、目前と見ていた創は思わず子供のようにはしゃぐ。

 対する晃もまた笑みを向けてさらなる戦術を魅せる。

 

「さあ、これからッスよ。レベル4武神、《武神─ヤマト》と《武神器─サグサ》。同じくレベル4光属性、《武神─ヒルコ》と《武神器─ヘツカ》で連続エクシーズ召喚! 現れろ、《武神帝─スサノヲ》《武神帝─ツクヨミ》!!」

 

《武神帝─スサノヲ ★4 ATK/2400》

《武神帝─ツクヨミ ★4 ATK/1800》

 

 ペンデュラム召喚からの連続エクシーズ召喚。

 2体の武神帝が戦場へと舞い降りた。

 

「スサノヲの効果発動。デッキより《武神器─ツムガリ》を手札に加え、ツクヨミの効果発動。手札を全て捨て2枚ドロー。そしてペンデュラムゾーンの《武神─ヒルコ》のペンデュラム効果を発動!」

 

 先んじてペンデュラムカードの《竜剣士ラスターP》が効果を発動していたが、次には《武神─ヒルコ》の効果が発動される。

 

「このカードを除外し、場の武神エクシーズモンスター《武神帝─ツクヨミ》を素材に新たなエクシーズ召喚を行える。エクシーズチェンジ、《武神姫─アマテラス》!!」

 

《武神姫─アマテラス ★4 ATK/2600》

 

 ヒルコが光の粒子へと変化しツクヨミを包み込み新たな渦を描き出す。

 渦が光と共に爆ぜ新たなモンスターを生誕させた。

 

「残りの手札、2枚を伏せてターン終了ッスよ!」

 

 晃のターンが終了する。

 実際にはただ、先攻の第1ターンが終わっただけだというのに創の胸はこれほどかと言うほどに高なっていた。

 

「──そうか。嬉しいぜ、お前も出し惜しみなく全力を出してくれて!」

 

 いきなり予想だにしないペンデュラム召喚からの連続エクシーズ。

 大々的なまでに派手に魅せたと思えば墓地には対象無効のヘツカ、破壊無効のサグサ、疑似オネストのツムガリが落ちており、さらには2枚の伏せカードと手堅く盤石とさえ呼べる布陣を築き上げているのだ。

 

「こんなにも手厚い歓迎をしてくれたんだから、こっちだって、それ相応に魅せてやらなくちゃな! 俺のターンだ!」

 

 創は曲線を描くかのように大きく孤を描いてカードを引く。

 

「俺のデッキはペンデュラムはできないが、展開は負けないぜ! 手札から《(ヒロイック)(チャレンジャー)強襲のハルベルト》を特殊召喚。さらに《ゴブリンドバーグ》を通常召喚し《幻蝶の刺客オオルリ》《(ヒロイック)(チャレンジャー)サウザンド・ブレード》を特殊召喚だ!」

「っ、モンスター効果で同じ4体を!?」

 

《H・C強襲のハルバルト   ☆4 ATK/1800》

《ゴブリンドバーグ      ☆4 DEF/0》

《幻蝶の刺客オオルリ     ☆4 DEF/1700》

《H・Cサウザンド・ブレード ☆4 ATK/1700》

 

 晃が駆使したペンデュラム召喚に負けず劣らず同じ数のモンスターを場へと現る。

 

「こっちもエクシーズ召喚だが、2体のモンスターじゃない。俺はレベル4戦士族のモンスター、4体同時にエクシーズだ! 出番だぜ《No(ナンバーズ).86(ヒロイック)(チャンピオン)ロンゴミアント》!!」

「っ……!?」

 

 晃は思わず息を飲む。

 かつては初心者としてカードの効果をまったく知らない無知を克服するために多くのカードを学ぼうとした彼には創が召喚するエクシーズモンスターの効果を知っているからだ。

 

 《No.86H─Cロンゴミアント》はエクシーズ素材により効果が増えるモンスターだ。その中でも厄介なのは3つ以上素材を持っていればあらゆる効果を受け付けなくなる効果を持つ。1つでも持ってさえいれば戦闘破壊を免れる効果と合わせても強固な壁となるのだ。

 相手のエンドフェイズごとに素材を一つ取り除くデメリットも持つが、今の素材は4つ。少なくとも2ターンは除去が出来ないと考えた方が良い。

 

 ──だからでこそ、即座に思考し伏せカードを発動させた。

 

「悪いけど、それは無理ッスよ! 伏せ(リバース)カード《神の宣告》を発動。ライフを半分払うことでそのエクシーズ召喚を無効にする!」

 

晃 LP/8000→4000

 

 いきなりライフを半分も支払うことになったが、それでも相手は4枚ものモンスターカードを使用してでのことだ。今後の展開を返り見ても決して高い買い物だったと言うわけでもない……はずだった。

 

「成程な。1枚は《神の宣告》だったか」

 

 スンと音を立てては、まるで匂いを嗅ぐかのように嗅覚を凝らす。

 創は晃の場と墓地の布陣という情報と今までの経験、そして野性的な勘でもう1枚の伏せカードを予想する。

 

「だったら流れからすると多分、それは攻撃反応型ってところだな。なら、邪魔されないな。行くぜ!」

「──っ!?」

 

 空気が変わる。

 鋭く研ぎ澄まされた刃を向けられているかのような殺気。

 ここで悟った。ロンゴミアントはただの前座にすぎない。これから繰り出すカードこそが本命なのだと。

 

 しかも、晃の伏せもう1枚のカードは読み通りに攻撃反応型の《聖なるバリア─ミラーフォース─》。攻撃時ならいざ知らずこれから行うであろう創の動きを阻害することはまず不可能と見てもいい。

 

「《簡易融合(インスタントフュージョン)》を発動。ライフを1000支払いエクストラデッキから《旧神ノーデン》を特殊召喚し、効果により墓地からハルベルトを蘇生」

 

《旧神ノーデン ☆4 DEF/2200》

 

創 LP/8000→7000

 

 カップ面のような容器から1体のモンスターが出現する。

 貝殻を模した戦車にのる白髭白髪の神。三又の矛を振り払い墓地より新たなモンスターを呼ぶ。

 

「レベル4《旧神ノーデン》《H・C強襲のハルベルト》の2体でエクシーズ召喚。希望の使者《No(ナンバーズ).39希望皇ホープ》。さらに《CNo(カオスナンバーズ).39希望皇ホープレイ》。──そして魔法(マジックカード)RUM(ランクアップマジック)─リミテッド・バリアンズ・フォース》を発動しホープレイをランクアップ! 光を砕く暗黒の騎士《CNo(カオスナンバーズ).101(サイレント)(オナーズ)Dark Knight(ダークナイト)》!!」

 

《CNo.101 S・H・Dark Knight ★5 ATK/2800》

 

 目まぐるしくも白い戦士から黒い戦士、そして黒色の騎士へと。

 手札を全て使い切り呼び出したエクシーズモンスターは晃の場のモンスターを上回る性能を誇るが進化前とされるモンスターを出しておらず、さらには晃のモンスターは武神器のサポートを得られるために現状ではおそらく上回れているだろう。

 わずかな違和感に晃は目を細める。

 

(なんで《No.101  S・H・Ark Knight》からで無くホープからエクシーズ召喚したんだ?)

「まずはDark Knightの効果だ。スサノヲを対象にこのカードのエクシーズ素材として吸収する」

「さすがに、それはさせないッスよ! スサノヲが対象になったことにより墓地から《武神器─ヘツカ》の効果を発動。その効果を無効にする!」

 

 吸収されようとしたところを墓地から半透明な鏡の甲羅を持った亀により防ぐ。

 これによりDark Knightの効果は失敗に終わった。後は、選択肢は攻撃をするか否かのみ。墓地の《武神器─ツムガリ》で迎撃が可能な今、完全に晃のペースになっている──と、思われた。

 

「ここまでは想定内だぜ。さあ、本番はこれからだ! カオスオーバーハンドレッドナンバーズ《CNo(カオスナンバーズ).101(サイレント)(オナーズ)Dark Knight(ダークナイト)》を素材とし、さらにエクシーズチェンジ! 希望(きぼう)ならざる冀望(きぼう)CX(カオスエクシーズ) 冀望皇バリアン》!!」

 

《CX 冀望皇バリアン ★7 ATK/0→5000》

 

 創のモンスターはさらなる進化を果たす。

 真紅の鎧を身にまとい巨大な矛と盾を纏う姿はまさに騎士。

 彼の周囲を浮遊する5つの素材は力を与え、超越した攻撃力を誇らせている。

 

「冀望皇バリアンッ!?」

「行くぜ! バリアンは墓地の『No(ナンバーズ)』の名前と効果を相手エンドフェイズまでコピーできる。墓地から《No(ナンバーズ).86(ヒロイック)(チャンピオン)ロンゴミアント》をコピー」

 

 まずい。

 瞬間、晃は悟った。

 

 ロンゴミアントの効果はエクシーズ素材の数だけ効果を増す。それは、コピーしたバリアンにも適応されることとなる。そして現在のバリアンの素材の数は5つ。先ほど召喚しようとした4つをさらに超える完全体の力を発揮することとなる。

 

《CX 冀望皇バリアン ATK/5000→6500》

 

 効果が成立し5つの効果を得る。

 1つは、戦闘破壊耐性。

 2つは、攻撃力・守備力の1500上昇。

 3つは、あらゆるカード効果を受け付けない。

 4つは、晃の召喚と特殊召喚を封じる。

 

 そして、5つだと──。

 

冀望皇バリアン(ロンゴミアント)の5つ目の効果。相手フィールドの全てのカードを破壊する!」

「くっ、《武神姫─アマテラス》の効果を発動し除外されているヒルコを回収し、墓地から《武神器─サグサ》の効果によりスサノヲの破壊を無効にする」

 

 矛を大きく震わせることで晃の場が吹き飛ぶ。

 アマテラスも、伏せていた《聖なるバリア─ミラーフォース─》も、ペンデュラムゾーンの《竜剣士ラスターP》も。かろうじて《武神帝─スサノヲ》のみが生き残ることができたが、その破壊力は凄まじかった。

 

「さあ、バトルフェイズだ! 冀望皇バリアン(ロンゴミアント)で《武神帝─スサノヲ》を攻撃!」

 

 2体のモンスターの攻撃力差は4100。

 《神の宣告》を使った今では、通れば一瞬にして残りライフが消し飛ぶ。

 

「くっ……だったら墓地から《武神器─ツムガリ》の効果を発動。攻撃してくる冀望皇バリアン(ロンゴミアント)の攻撃力をスサノヲに上乗せする!」

 

《武神帝─スサノヲ ATK/2400→8900》

 

 圧倒的な力の差を前にスサノヲは都牟刈大刀(つむがりのたち)を手に取り迎撃を行う。矛の一撃を回避し懐に飛び込んでの必殺の一撃を叩きつける。

 

創 LP/7000→5800

 

「そう来たか。だが、戦闘では破壊されないぜ!」

 

 ツムガリのデメリット効果により与えられるダメージは半分。

 しかも必殺の一撃を喰らったとしても冀望皇バリアンの鎧には傷一つ付いていない。

 

「これでターンエンドだ」

 

 第2ターンが終わる。

 状況を確認すれば晃が揃えた布陣は創のプレイングによって瓦解した。唯一、スサノヲのみが残ったが他のカードは全て破壊され墓地に溜めた武神器も全て使い切ってしまった。

 

 今の彼の手札には《武神─ヒルコ》のみ。

 そして、召喚・特殊召喚を封じられ完全的な耐性を持ち圧倒的な攻撃力を誇る冀望皇バリアンがそびえ立つ。

 

 これからの引きで、勝敗が決まるだろう。

 

「オレのターン、ドロー」

 

 デッキトップからカードを引く。

 確認するが晃の表情は、嬉々でも悲嘆でも無くポーカーフェイスのように変えず読み取りづらい。続いてスサノヲの周囲に浮くもう一つの素材を使う。

 

「スサノヲの効果を使いデッキから《武神器─ムラクモ》を落とし──ターン終了」

 

 ロンゴミアントのデメリット効果としてエクシーズ素材を取り除かなければならないが、これと同じタイミングで冀望皇バリアンのコピーが解けるために素材は減らない。

 

(スサノヲを守備表示にもしないか。手札から《オネスト》か、それとも……)

 

 創は思考する。

 不可解なのは、スサノヲが攻撃表示のままなのだ。再び冀望皇バリアンの効果でロンゴミアントをコピーして攻撃してしまえば終わりだというのにも関わらずだ。

 

 まるで、コピー効果を使わせようと促しているように見える。

 

(そう思わせるのが怖いんだよなぁ)

 

 思わず苦笑する。

 仮に警戒してロンゴミアントの効果を使わないで攻撃を行ったとする。

 そこで《オネスト》なんて握られていたらそれこそ思う壺だ。

 

 相手の策略を読もうとしても晃がカードを引いたときの表情はポーカーフェイスを通してわかりづらい。

 

「まあ、どっちにしろ俺は俺の決闘(デュエル)をするだけだぜ! 再び冀望皇バリアンの効果を()()し墓地のロンゴミアントを──」

()()、ッスね」

「──っ!?」

 

 瞬間、創は地雷を踏み抜いたことに気が付いた。

 本来の創のデッキ。その最強モンスターが突如、音を立てて爆散したのだ。

 

「手札の《幽鬼うさぎ》の効果。カード効果を発動した冀望皇バリアンを破壊させてもらったッスよ」

「そうか、《幽鬼うさぎ》を引いていたとは流石だぜ」

 

 思わず深読みし過ぎてしまったが、彼の引きも格段に引き上げられている。

 冀望皇バリアンを除去したいという場面でのピンポイントの引きは称賛に値するだろう。

 

「だったら続いて行くぜ! 手札から《RUM(ランクアップマジック)千死蛮巧(アドマイヤー・デス・サウザンド)》を発動! 俺と晃の墓地より同じランク……ランク4の《No.39希望皇ホープ》《CNo.39希望皇ホープレイ》《武神帝─ツクヨミ》《武神姫─アマテラス》を選択しそれよりランクの一つ高い(カオス)モンスターを呼び出す。現れろ勝利を掴む希望《CNo(カオスナンバーズ).39希望皇ホープレイ・ヴィクトリー》!!」

 

《CNo.39希望皇ホープレイ・ヴィクトリー ★5 ATK/2800》

 

 創のエースモンスターを倒したと思ったのも束の間に、さらなる切り札級モンスターを創は呼び出す。希望皇ホープのさらなる進化形態。白く猛々しい騎士は両手の剣を構えてスサノヲを獲物に向けるような視線で睨みつける。

 

「千死蛮巧で特殊召喚したモンスターは、俺が先ほど選択した4体のエクシーズモンスターをエクシーズ素材にする。そしてこのカードが攻撃宣言する際に希望皇ホープを素材にしているため素材を一つ消費しスサノヲの効果を無効にし、その攻撃力分アップだ!」

 

《CNo.39希望皇ホープレイ・ヴィクトリー ATK/2800→5200》

 

 元々、上回っていた攻撃力がさらに上昇。

 効果を発動しさらに腕が4本となり4つの剣がそれぞれにスサノヲへと襲いかかる。

 

 

晃 LP/4000→1200

 

 荒れ狂う斬撃をいなし切れずにスサノヲが切り刻まれる。

 同時に衝撃が晃を襲い大きなダメージを負うことになった。

 

「これでターン終了だぜ。さあ、()()()お前の番だ!」

 

 何度、戦略を練り策略を巡り攻め入ったとしても、それを上回る力で凌駕される。

 新堂創。今の彼は晃が知るよりも遥かに強い。その事実が思わず晃の口元を緩ませた。

 

「ふ、()()()──ッスか。いいッスよ。期待に添えるようにやってみます! ドロー!」

 

 創と同じように孤を描くように大きく曲線を描く。

 手札は1枚だけだとうまく機能しない《武神─ヒルコ》のみ。

 この引きに全てが掛けられたわけだが

 

「よしっ、オレが引いたのは《エクシーズ・リベンジ》! 相手に素材を持ったエクシーズモンスターがいるとき墓地からエクシーズモンスター《武神帝─スサノヲ》を蘇生し素材を一つ奪う!」

 

 ホープレイ・ヴィクトリーの周囲を徘徊する3つの球体のうちの一つが軌道を変えて晃の場へと移る。瞬間、墓地より《武神帝─スサノヲ》が復活し球体を掴む。

 

「おおっ、スサノヲを復活させたか!」

「スサノヲのモンスター効果! 素材を使いデッキから《武神─ミカヅチ》を手札に加えて召喚。さらにペンデュラムゾーンに《武神─ヒルコ》をセットし効果を発動! スサノヲを2枚目の《武神姫─アマテラス》へとエクシーズチェンジ!」

 

 スサノヲは姿を変え再び武神を司る姫が出現する。

 

「アマテラスの効果により素材を取り除き除外されている《武神器─サグサ》を特殊召喚。そしてもう1度、アンコールだ! 武神レベル4、ミカヅチ、サグサの2体で《武神帝─スサノヲ》をエクシーズ召喚!」

 

 流れるような動きの中、さらにエクシーズ召喚で現れたのは素材を二つ持った完全な状態の《武神帝─スサノヲ》だ。ターンの開始前にはたった1枚の手札しかなかった状態から2体のエクシーズモンスターが立ち並ぶ。

 

「墓地から《武神器─ムラクモ》の効果を発動しホープレイ・ヴィクトリーを破壊。さらにスサノヲの素材、サグサを取り除くことでデッキから《武神─ヒルメ》を手札に加えヤマトを除外し特殊召喚してバトルフェイズだ!」

 

《武神─ヒルメ ☆4 ATK/2000》

 

 創の最後の砦。ホープレイ・ヴィクトリーを除去することで彼は完全に無防備となった。その瞬間を見計らうかのさらなるモンスターを呼び込む。

 

「行くッスよ! ヒルメ、スサノヲ、アマテラスで直接攻撃(ダイレクトアタック)!!」

 

 完全な勝機にと怒涛のラッシュを行う。3体のモンスターの総攻撃力は──7000。

 創の残りライフである5800を上回っている。

 

 連続攻撃が通り攻撃の余波で爆発したかのように煙が立ち込める。

 勝った。──そう思った瞬間、煙から影が浮かび上がり未だ立ちはだかる創の姿があった。

 

創 LP/5800→3800→1400→100

 

「っ、残りライフが100!?」

 

 どういうことだと晃は目を見開く。

 確かに晃の場のモンスターの総攻撃力は創のライフを上回っている。そして、彼の場も手札も存在しないこの状況で攻撃を防ぐのは無理なはずだった。

 だが、それを指摘するかのように創は語る。

 

「見落としてねえか。俺が最初のターン、ロンゴミアントの素材にした1枚。《(ヒロイック)(チャレンジャー)サウザンド・ブレード》があったのを」

「っ!?」

 

 そういえばと晃は思い出す。

 墓地に存在する時、ダメージを受けることをトリガーとし墓地から攻撃表示で特殊召喚できるモンスター。本来ならば忘れるはずは無いが、創から放たれる少しでも気を抜けばやられるような気迫。互いに繰り広げられる全力同士の攻防によって完全に意中の外だった。

 

 サウザンド・ブレードの攻撃力は1300。

 その数値分、ダメージが軽減されたためにギリギリ創のライフは100残った。

 

「くっ、ターン終了ッスよ」

「──だが、見事だぜ」

「え……?」

 

 今のは、完全に晃のミスだ。

 それでも創は晃を褒め称えた。

 

「俺の本来のデッキを使ってここまで押されるのは始めてだ。だというのに、橘晃! お前はいまだ発展途中だ。もしかしたら俺を追い越すかもしれない。だから、見せてやるぜ! 俺のもう一段階先を!」

「っ……もう一段階、先!?」

 

 空気が変わる。

 先ほど感じた鋭い刃のような感覚とはまったく違った。

 今の新堂創から放たれるのは気迫。それも果てしなく巨大でいて重い。

 

「俺のターン、このドローが最後の引き(ラストドロー)だ。俺はここで《死者蘇生》を引くぜ!」

 

 引くカードを大々的に宣言した。

 いくら引きが強い創だからと言ってできるのだろうか。

 普通ならありえないであろう事体だが、《死者蘇生》を引くのだろうと今の創の気迫から思わせてくる。

 

「さあ、ドローッ!!」

 

 もう1度、綺麗な孤を描くようにカードを引く。

 そのカードは──。

 

「引いたぜ。俺は《死者蘇生》を発動し墓地から《No.39希望皇ホープ》を蘇生!」

「っ、本当に引いた!?」

 

 宣言は当たり創は墓地から黄金のフレームを纏った白い戦士を場へと呼びもどす。

 

「これで終幕(クライマックス)だぜ。希望皇ホープを進化させ《SNo(シャイニングナンバーズ).39希望皇ホープONE(ワン)》そして──迅雷纏いし希望の使者《SNo(シャイニングナンバーズ).39希望皇ホープ・ザ・ライトニング》へとエクシーズチェンジ!」

 

《SNo.39希望皇ホープ・ザ・ライトニング ★5 ATK/2500》

 

 電光を纏って希望の名を持つ戦士は姿を変える。

 かつて涼香も使った【武神】における天敵に近いモンスター。

 破格の効果を持つこのカードは終幕を飾るに相応しい。

 

「さあ、バトルだ! 《SNo.39希望皇ホープ・ザ・ライトニング》で《武神帝─スサノヲ》へと攻撃! この瞬間、素材を二つ取り除くことでライトニングの攻撃力は5000へと固定される!」

 

《SNo.39希望皇ホープ・ザ・ライトニング ATK/2500→5000》

 

 有無を言わさない雷撃を纏った必殺の一撃がスサノヲへと襲いかかる。

 攻撃を防ぐようなカードも無くあったとしてもライトニングの前では無力でしかない。防ぐ術も無くスサノヲは切り裂かれそのまま晃へと攻撃の余波が届く。

 

「うあぁぁ──」

 

晃 LP/1200→0

 

 後方へと跳び尻もちをつくように地面へと倒れ込む。

 その後にライフカウンターが0となり決着のブザーが鳴った。

 

 晃は全力を尽くした。

 己の全てを闘志に変えて挑み、新たな戦術を駆使したにも限らずに及ばない。

 全てをつぎ込んでも届かない高い壁。

 

 それでも、晃は口元を緩めるように笑った。

 

「──いつか、超えさせて貰うッスよ」

「ああ、望むところだぜ」

 

 気が付けばすぐ近くにまで創は近付き手を差し伸べていた。

 それを晃は掴み起こされるような形で立ち上がる。

 

「今、負けたとしてもこれはスイスドロー形式だからな。終わりじゃないぜ。次に戦うとしたら勝ち上がった本戦のトーナメントだな。だから、楽しみにしてるぜ」

「勿論ッスよ」

 

 互いに軽く拳をぶつけ合う。

 こうして──晃と創。二人の勝負は終わった。

 

 

 

 


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