遊戯王部活動記   作:鈴鳴優

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006.瞬間氷結の戦乙女

●橘晃&氷湊涼香 LP4500

 晃  手札2

 涼香 手札5

 

■unknown

 

●青柳&赤松 LP6100

 青柳 手札2

 赤松 手札3

 

□海皇龍ポセイドラ

□エヴォルカイザー・ラギア(エクシーズ素材:2)

■リビングデッドの呼び声(対象:無し)

■unknown

■unknown

 

 勢いと流れで始まったタッグデュエルも3ターンが経過した。

 状況は、青柳&赤松のタッグが優勢であり、現在“生きた神宣”こと《エヴォルカイザー・ラギア》に、場ではバニラモンスターだが《海皇龍ポセイドラ》も攻撃力2800と最上級クラスの打点を誇る。自身の効果では、出しにくさが目立つものの決して弱いカードとは言えないだろう。

 対して、晃と涼香の場には晃が伏せた1枚のみ。

 

 最悪……と、まではいかないが、決して良くはない状況なのだ。

 この状況で4ターン目。氷湊涼香のターンがやってきた。

 

「やっと、私のターンね。ドロー」

 

 カードを引くと、彼女は現在の場の状況と今、引いたカードを見比べ笑みを浮かべる。

 さらに晃が伏せたカードを確認する。それも現在の彼女にとって御誂え向きのカードだった。

 

「まずは、《E・HEROオーシャン》を召喚するわ」

 

 E・HEROオーシャン

 ☆4 ATK/1500

 

 青く海の戦士と思わせる様な姿のモンスターが現れる。

 とはいえ、このモンスターどっちかというと名前が“オーシャン”でありながら色が青系統である“オーシャン”よりも“アクア”と呼ばれる色の方が近い気がする。

 

「チッ……【HERO】かよ」

 

 彼女の召喚したモンスターを見ては、赤松は舌打ちをする。

 

 【HERO】も遊戯王におけるカテゴリの一種であり、原作『遊戯王GX』の主人公、遊城十代が使用するカテゴリなのだ。そのため種類も豊富であり主に“融合”を主体とするのが特徴だ。

 派生からデッキの種類は、数多く存在するが融合召喚における爆発的な攻撃力を誇るデッキは、過去の大会でも多くの結果を残しているのだ。

 次いで、彼女が使用するのはドローフェイズにて引いたカードだった。

 

「じゃあ、手札を1枚捨てて《超融合》を発動」

「げぇ……!?」

 

 涼香の発動したカードに対し赤松は、驚きの声を上げて絶句した。

 彼女が発動したのは、アニメの『遊戯王GX』において特別なカードとされOCGにおいても【HERO】の切り札となるカードだ。

 

 手札コストこそ必要なものの、本来自分のカードのみで行う“融合”を相手のカードまで選択する事が可能であり、相手モンスターを除去しながら自分は強力なモンスターを出せるのだ。

 加えて、これに対してカードの発動を行えない。実質的に、魔法効果を無効にするカードが場に無ければ無効にされないのだ。例え、《神の宣告》や《エヴォルカイザー・ラギア》がいたとしてもだ。

 

「私は、《E・HEROオーシャン》と水属性《海皇龍ポセイドラ》を融合、《E・HEROアブソルートZero》を融合召喚させる」

 

 場、全体を包むような強大な渦が巻き起こり、選択された2体のモンスターが吸い込まれて行く。瞬間、涼香の場に、巨大な氷柱が出現しては砕け散り、中から純白の鎧とマントを身に纏ったHEROが出現した。

 

 E・HEROアブソルートZero

 ☆8 ATK/2500

 

「ぜ、“Zero”だと……」

 

 このモンスターがどうかしたのか、赤松が顔色を青ざめながらそのモンスターの略称を呟き。相方の青柳も体を震わせている。対する涼香は、より一層笑みを濃くしており、晃だけが効果を知らずきょっとんとしていた。

 

「バトルフェイズ! “Zero”で“ラギア”に攻撃よ!」

「くそっ……ただでは、やられねえぞ! 俺は《次元幽閉》を発動するぜ!」

「ふんっ……」

 

 炎を纏った竜に向かう氷の英雄は、その間から現れた次元の隙間に攻撃を阻まれ吸い込まれて行く。攻撃モンスターを除外するこのカードは、当然の如く《E・HEROアブソルートZero》を場から消って行く。

 その様子を見ても彼女は、ただ鼻で笑うだけだった。

 

「けれど、“Zero”が場から離れた事で効果が発動するわ……相手のモンスター全てを破壊する!」

「なっ……!?」

 

 驚きの声を上げたのは、唯一効果を知らなかった晃だ。

 場を離れた場合という条件を持つが、相手モンスター全てを破壊するこの効果は禁止カードである《サンダーボルト》と違わぬ効果だ。

 あらゆるカードを無効にできる《エヴォルカイザー・ラギア》とて穴がある。効果モンスターの発動に対しては、無力なのだ。もし彼が《エヴォルカイザー・ラギア》と対になる《エヴォルカイザー・ドルカ》を出していれば結果が違ったかもしれないが、それはただの結果論でしかない。

 

 “Zero”が次元の隙間に消え去った瞬間、猛吹雪が視界を遮った。映像のため寒さを感じる事はないが、辛うじて見えたのは炎を纏っていた竜の全身が氷漬けとなり風化するように少しづつ砕けていく光景だった。

 

「“ラギア”がいとも容易く……」

「ふん、当然の結果よ。けど、これで終わりじゃないわ……橘が伏せた《リビングデッドの呼び声》を発動。“オーシャン”を特殊召喚するわ」

 

 晃が伏せていたカードを発動する事で、融合素材として墓地へ送られた海の名を持つ英雄が帰還する。バトルフェイズの途中の蘇生のため、“オーシャン”も攻撃権を持ち己の武器を構える。

 

「行くわ! 《E・HEROオーシャン》で──」

「チィ……直接攻撃だけは、させねえ! 永続罠《バブル・ブリンガー》を発動! これでレベル4以上のモンスターは直接攻撃できなくなる」

 

 青柳が伏せた最後の伏せカードが公開され、両チームの間の下から大量の泡が発生し、レベルが丁度4の“オーシャン”の攻撃を阻む。これで、このターンのバトルフェイズは終了……と、この場の誰もが思ったとき、彼女は新たにカードを使用する。

 

「そう。それなら、仕方ないわね──《マスク・チェンジ》を発動! 《E・HEROオーシャン》を墓地に送りエクストラデッキから《M・HEROアシッド》を特殊召喚する!」

「《マスク・チェンジ》っ!?」

 

 E・HEROアシッド

 ☆8 ATK/2600

 

 途端、《E・HEROオーシャン》が高く飛び立つ。

 上空で光を纏い着地をする時には、“海”の英雄を思わせる姿が完全になくなり同じ青でありながら銃を持った別の英雄の姿へと変貌していた。

 

 新たなカードの発動に、赤松と青柳は目を見開く。

 《マスク・チェンジ》とは、ただ単純に場の“HERO”を同じ属性の“M・HERO”へと変化させるだけのカードだ。問題なのは、水属性から成る《M・HEROアシッド》の効果であった。

 

「《M・HEROアシッド》が特殊召喚に成功したとき、相手の魔法・罠を全て破壊する!」

 

 “アシッド”が上空に銃を乱射する。弾は、実際の銃のような鉛の弾でなく水の様な青い光線であり天高く飛んでは、重力により落下するように下降し青柳&赤松の場に存在する、すでに対象を無くした《リビングデッドの呼び声》と《バブル・ブリンガー》の2枚を撃ち貫く。

 今度は、禁止カード《ハーピィの羽箒》と同等の効果。

 これで、相手の場は《サンダーボルト》と《ハーピィの羽箒》の2枚を撃たれた様に場のカードが全て消滅してしまった。

 

「これで邪魔なカードは消えた。“アシッド”で直接攻撃(ダイレクトアタック)よ!」

 

青柳&赤松 LP6100-2600→3500

 

 今度は、そのまま相手目がけて銃を発射する。

 防ぐ手段もなく主導権プレイヤーである赤松が攻撃を受ける事となるが、これによりライフポイントも晃と涼香が優位に立ち、《M・HEROアシッド》がいる分ボードアドバンテージもひっくり返したのだ。

 

 ──すごい。

 

 晃は、彼女を見てはそう思った。

 実際には、カード効果も凄まじいのだが、それでも効果を最大限に発揮した彼女もそれ相応の実力を持つのだ。たった1ターンで相手の場を蹂躙し、直接攻撃まで与えたその力は、味方として限りなく頼もしいのだ。

 

 もし、これがタッグデュエルだけでなく遊戯王部での味方となったら?

 数合わせでなく、確実な戦力となるだろう。

 

「私はカードを2枚伏せて、ターン終了よ」

「っ、僕のターン……《ジェネクス・ウンディーネ》を通常召喚」

 

 ジェネクス・ウンディーネ

 ☆3 ATK/1200

 

 主に水の入った瓶とチューブで構成された人型のロボットが出現する。

 攻撃力は、到底《M・HEROアシッド》におよばないはずなのに、このカードを見た涼香は一瞬、嫌そうな顔をした。

 

「《ジェネクス・ウンディーネ》が召喚に成功したことで、僕はデッキから《海皇の重装兵》を墓地へ送り、《ジェネクス・コントローラー》を手札に加えるよ」

 

 水属性モンスターをデッキから墓地へと送るという変わったコストを支払うことで、デッキから通常モンスターのチューナーである《ジェネクス・コントローラー》を手札に加えるという効果。

 だが、彼のデッキは《ジェネクス・コントローラー》を中心とする【ジェネクス】でなく【海皇】なのだ、故に彼が重宝するのはコストの方である。

 

「《海皇の重装兵》が水属性、《ジェネクス・ウンディーネ》の効果のためのコストになったことで効果発動! 相手の表側表示のカードを1枚破壊できるため、《M・HEROアシッド》を破壊!」

 

 鎧に2枚盾を装備した魚人が上空から“アシッド”へと落下し押しつぶす。

 デッキから墓地へとコストとして捨てる効果に、コストとして墓地へ送られる効果がうまく噛み合い、もはやコストどころかアドバンテージでしかないだろう。

 

「バトルフェイズに入って、《ジェネクス・ウンディーネ》で攻撃するよ」

「ちっ……」

 

 晃&涼香 LP4500-1200→3300

 

 水の精の名を司る機械が、ただ単純に突進を行う。

 実質、攻撃力1200と下級モンスターでも低い打点ではあるものの、アタッカーがやられた事もあり、涼香は不機嫌そうに舌打ちをする。

 

「僕は、カードを2枚伏せてターン終了!」

「なら、オレのターンだ、ドロー! オレは《武神─ミカヅチ》を召喚する!」

 

  武神─ミカヅチ

 ☆4 ATK/1900

 

 《武神─ヤマト》は、赤い甲冑を纏っていたが今度は、青い甲冑に身を纏ったモンスターが出現する。同じく“武神”の“獣戦士族”のため晃は、前のターンで“ヤマト”の効果から墓地へ送った1枚の効果を起動させる。

 

「墓地の《武神器─ムラクモ》の効果を発動! 除外し《ジェネクス・ウンディーネ》を破壊!」

 

 角が刃となった獣、《武神器─ムラクモ》も姿を変え刀剣へと成る。天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)。別名、草薙の剣とされるそれは、八岐大蛇の尾から出て来た太刀という逸話を持つ。

 “ミカヅチ”はそれを片手で握りしめると《ジェネクス・ウンディーネ》へと投擲し撃ち貫いた。

 

「さらに! 手札を1枚捨て《D・D・R》発動! 今、除外した《武神器─ムラクモ》を特殊召喚だ!」

 

 武神器─ムラクモ

 ☆4 ATK/1600

 

 流れる様にカードを展開する。

 相手の場はガラ空きで残りライフは、3500。晃の場には、ちょうど合計攻撃力が3500となる様に《武神─ミカヅチ》と《武神器─ムラクモ》が出揃う。

 ただ、それを見ているだけで終わる相手でもない。

 

「バトル! 《武神─ミカヅチ》で──」

「っ、待った! 僕はこの瞬間、《海皇の咆哮》を発動するよ」

 

 攻撃する手前、青柳が1枚の速攻魔法を発動させる。

 どこからともなく龍が吼えるような咆哮が鳴り響き、それが合図なのか青柳の場に3体ものモンスター《深海のディーヴァ》、《真海皇トライドン》、《海皇の重装兵》が守備表示で出現する。

 

「っ、3体のモンスターが出てきたっ!?」

「《海皇の咆哮》は、墓地からレベル3以下の海竜族を3体特殊召喚できるんだ」

 

 前のターンで、《ジェネクス・ウンディーネ》の効果のコストで《海皇の重装兵》が墓地へ送られた事で丁度3体となっていた。これにより、晃の場のモンスターよりも多い壁として彼に立ちふさがる。

 

「なら、“ミカヅチ”で“トライドン”を……“ムラクモ”で“ディーヴァ”を攻撃!」

 

 宣言したモンスターが、それぞれ対象とするモンスターを撃破する。

 晃は、チューナーである《深海のディーヴァ》、そして“ムラクモ”と同等の攻撃力を持つ《真海皇トライドン》の2体を破壊する事を選択した。

 

「バトルフェイズを終了してメインフェイズ2に入る。レベル4“武神”の“ミカヅチ”、“ムラクモ”でエクシーズ。《武神帝─スサノヲ》をエクシーズ召喚!」

 

 武神帝─スサノヲ

 ★4 ATK/2400

 

 雷を身に纏い《武神─ヤマト》があらゆる“武神器”を装備したとされる姿のエクシーズモンスターにして、晃が持つ【武神】の切り札とされるモンスターだ。

 

「“スサノヲ”の効果、エクシーズ素材を一つ取り除いてデッキから《武神器─ヤタ》を手札に加える」

 

 次は、赤松のターンだ。

 また《ジュラック・グアイバ》が出て戦闘破壊をされては“ラギア”が出て来ては、涼香に何を言われるかわかったもんじゃない。故に、戦闘を一度だけ無効化できる《武神器─ヤタ》を手札へと加える。

 

「ターンエンド」

「よし、俺のターンだ。ドロー……《サイクロン》、右のカードを破壊するぜ」

 

 『フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。』などという簡潔なテキストのカードだが、シンプルかつ強力な1枚のカードだ。このカードの効果により晃は、赤松から見て右のカード《強制脱出装置》が破壊される。

 

「って、フリーチェーンを見す見す破壊されてどうすんのよ!」

「え……?」

 

 ちなみに、通常罠の中で《強制脱出装置》などは、相手の《サイクロン》などで破壊される時にチェーン発動する事ができる。実際、ここで相手の《海皇の重装兵》を手札に戻す事ができたのだが、破壊された今では遅い。

 しかし、いくらここで彼を責めても破壊されたカードは戻らず、ただデュエルを遅延させるだけになってしまうだろう。

 

「まあ、別にいいわ……」

「続けるぜ。《ワン・フォー・ワン》を発動し、手札からモンスター《フレムベル・マジカル》を捨てデッキから《ジュラック・アウロ》を特殊召喚」

 

 ジュラック・アウロ

 ☆1 DEF/200

 

 青柳と赤松の場に一つの巨大な卵が現れては、一部が欠け恐竜の子供が姿を見せた。

 おそらくアロサウルスであろう。攻守ともに200と“スサノヲ”の敵ではないが、赤松は特殊召喚した《ジュラック・アウロ》はシンクロ召喚に必須のチューナーなのだ。

 

「さらに、《ラヴァル・ランスロッド》はリリース無しで召喚できる!」

 

 ラヴァル・ランスロッド

 ☆6 ATK/2100

 

 岩石のような体な炎を帯びた槍を携えた戦士が姿を見せる。

 リリース無しで場にさせる半上級モンスターであるが、このカードはその場合エンドフェイズに墓地に送られる効果を持つ。

 赤松のデッキは間違いなく炎属性恐竜族の【ジュラック】だ。まして《フレムベル・マジカル》、《ラヴァル・ランスロッド》など別カテゴリが入っている事からおそらく《真炎の爆発》軸としているのだろう。

 

 手札を全て使いきり、赤松の場には3体ものモンスターが並ぶ。

 レベルは、まちまちで攻撃力も到底、《武神帝─スサノヲ》には及ばない……はずなのだが、涼香はここで彼のモンスターの合計レベルが9である事に気づく。

 

「っ……橘、何としても防ぎなさい!」

「え……?」

「今さら、遅いぜ! 俺は《ジュラック・アウロ》、《ラヴァル・ランスロッド》、《海皇の重装兵》でシンクロ! 現れろ、《氷結界の龍トリシューラ》!」

 

 氷結界の龍トリシューラ

 ☆9 ATK/2700

 

 冷気を纏った青い三つ首の龍が場に現れる。

 攻撃力はレベル9から見れば、そこそこだがこのカードの恐ろしさはシンクロ召喚に成功した時にあるのだ。

 

「《氷結界の龍トリシューラ》がシンクロ召喚に成功した時、相手の手札、場、墓地のカードをそれぞれ1枚選択して除外する!」

「っ!? くっ……《デモンズ・チェーン》発動!」

 

 《氷結界の龍トリシューラ》の恐ろしさは、合計3枚ものカードが対象を取らない挙句除外される事だ。強力なアドバンテージを取れるこの効果を持つ事で1度は、禁止カードとされたが現在では制限カードとして戻ってきている。

 それを、何としても防ごうと晃は涼香が伏せた、永続罠《デモンズ・チェーン》を発動させた。この効果で対象となったモンスターは効果を封じられる故、決まれば防ぐ事ができる。だが──。

 

「へっ……そりゃ、無理な話だ。ライフを1000払い《盗賊の七つ道具》を発動!」

 

青柳&赤松 LP3500-1000→2500

 

 しかし、それは青柳が伏せたもう1枚のカウンター罠。1000のライフポイントを支払う事で罠カードを無効にできる《盗賊の七つ道具》によってかき消された。

 

「っ……」

「これで、効果は有効だ。手札、場はそれぞれ1枚づつ……後は、墓地から《武神─ヤマト》を除外させるか」

 

 “トリシューラ”の瞳がそれぞれ赤く光る。光線が晃の手札と《武神帝─スサノヲ》、墓地から透過して現れた《武神─ヤマト》を撃ち貫いた。涼香のターンとは真逆に、今度は晃たちの場が全滅したのだ。

 

「バトルフェイズに入るぜ! “トリシューラ”で直接攻撃(ダイレクトアタック)だ!」

 

 晃&涼香 LP3300-2700→500

 

 手札0、場0と来て墓地には《ネクロ・ガードナー》など墓地から発動する効果のモンスターも存在しない今、防ぐ手段は完璧な0であった。攻撃を真っ向から受け、ライフが大きく減少していき残りはたったの500。レッドゾーン突入であった。

 

「俺も手札は0だ。これでターン終了だが……俺たちの勝ちだな」

 

 しれっと勝利宣言をする赤松。

 それも、晃と涼香の場にはカードが1枚もなく、涼香も前のターンで手札を全て使いきっているのだ。次のターンで使用できるのは、ドローカードのたった1枚のみであり、残りライフの余裕もないのだ。

 

 だが、そんな赤松に対し涼香は鼻で笑った。

 

「ふん……ここで勝利宣言ね。アンタ、それって完全に死亡フラグよね?」

 

 追いつめられた涼香だが、彼女はこの状況で遠まわしに自分のターンで倒すと言ってのけたのだ。このまま、彼女のターンへと移り、デッキトップからカードを引く。

 

「ドロー……私の場にモンスターが存在しないため《ヒーローアライブ》を発動。ライフを半分支払い、デッキからレベル4以下の“HERO”、《E・HEROバブルマン》を特殊召喚!」

 

  晃&涼香 LP500→250

 

 E・HEROバブルマン

 ☆4 DEF/1200

 

 ライフを半分支払うコストは重くないが、今のライフで言えば支払ったところで大差がない。この効果で特殊召喚されたモンスター《E・HEROバブルマン》を見ては、青柳に赤松は表情が青ざめて言った。

 

「う、嘘だろ……?」

「現実よ。“バブルマン”の効果……特殊召喚して私の場と手札に他のカードがないとき、2枚ドローできる」

 

 新たにカードを引く涼香。

 この効果は、原作の遊戯王GXで良く使われていたものだ。ただし、その時は《E・HEROバブルマン》の効果は場のみ他のカードがなかった場合なのだ。それ故、『強欲なバブルマン』などと言う呼び名があったがOCGにおいては、その効果は限りなく発動しづらくなってしまった。

 

「さらに、《白銀のスナイパー》を通常召喚」

 

 白銀のスナイパー

 ☆4 ATK/1500

 

 防寒着を纏った狙撃兵、《白銀のスナイパー》はモンスターでありながら魔法、罠ゾーンにセットできるという珍しいカードだ。だが、通常で召喚したとなると効果を持たないバニラとしかないが……今の現状、“バブルマン”と共にレベル4の戦士族だ。

 

「行くわ。レベル4戦士族、“バブルマン”と“スナイパー”でエクシーズ。《(ヒロイック)(チャンピオン)エクスカリバー》をエクシーズ召喚!」

 

 H-Cエクスカリバー

 ★4 ATK/2000

 

 アーサー王伝説に登場する世界的有名な聖剣の名を持った剣士のモンスター。

 攻撃力は2000と低めだが、涼香はここでこのカードの効果を発動させる。

 

「“エクスカリバー”の効果。エクシーズ素材を二つ、取り除いてこのカードの元々の攻撃力を倍にする」

 

 “エクスカリバー”の周囲に浮かぶ青と茶の球体が彼の剣へと吸い込まれて行く。瞬間、剣から光が溢れ攻撃力は神のカードと呼ばれる《オベリスクの巨神兵》と同等の攻撃力を得たのだ。

 

「くっ……だけど、まだライフは残──」

「残念ね。これで終わりよ、《ミラクル・フュージョン》を発動。墓地の水属性《M・HEROアシッド》と《E・HEROオーシャン》を融合し2枚目の《E・HEROアブソルートZero》を融合召喚!」

 

 本来、手札と場から素材を融合させるのが普通だが《ミラクル・フュージョン》は場と墓地のカードを除外し融合させるカード。それ故、これ1枚で強力なモンスターが呼び出せるという凶悪なカードとも言える。

 

 “Zero”の第二効果によりこのカード以外の水属性、“トリシューラ”がいるため攻撃力が500上昇し、総攻撃力は7000となった。前まで、場と手札が0だった状況だとは到底思えない。

 

「っ……思いだした!」

「ど、どうした青柳!?」

 

 この光景を見て青柳は、ふと何かを思い出す。

 氷湊涼香という人物を指差し、怪物か何かを見るかのように怯えた声で語る。

 

「確か2年ぐらい前……アマチュアのプロまでもが参加した隣町の市大会で僕らと年代の近い一人の女の子が優勝したって話。水属性のHERO……主に《E・HEROアブソルートZero》を主軸に戦う女の子なんだけど……」

「えっ……?」

 

 その言葉に、赤松、晃……そしてMCや周囲の観客たちも彼女へと視線が行ってしまう。水属性のHERO使いの女の子。そして《E・HEROアブソルートZero》と言ったキーワードは今の決闘で確実に彼女に当てはまってしまうのだ。

 

「その、圧倒的攻撃性から幾人もの実力を持つ決闘者を地に這わしたという確か彼女の通り名は──」

「っ……!?」

 

 怯えながら語る青柳であったが、それ以上に氷湊涼香が怯えた様に表情を硬直させて体を震わせていた。まるで、今の青柳の語りをそれ以上続けて欲しくないかのように──。

 

「(自称)瞬間氷結の戦乙女(フリージングバルキリー)・氷湊涼香だ!」

 

 この言葉を持って確信へと変わった。

 元より名前を知っている晃だけでなく、決闘盤には名前を入力することでライフポイントのゲージにも表示されるのだ。残りライフ250の下には『AkiraTatibana』と『SuzukaHiminato』と二つの名前がすでに表示されているのだから。

 それを聞き、涼香は──

 

「きゃぁあああああああ!! 違う、人違い、人違いよっ! 人違いですからっ!!」

 

 まるで知られたくなかった過去を掘り下げられた挙句、吊るし上げられたかのように彼女は赤面し、両手で顔を覆い隠しながらブンブンと全力で否定した。それは、まるでなどではなく完全に彼女の精神的外傷(トラウマ)的なものなのだろう。

 

「あー、あの氷湊さん? 別にオレはそういうのがあっても別にいいと思うんだけど?」

 

 この時、晃は彼女を慰めようと声をかけた。ただ、彼女があまりに錯乱しているので声をかけづらいためか無意識に彼女をさん付けで読んでしまった。

 それは、もはや彼女にとって逆効果でしかない。

 

「さん付けで呼ばないでっ!! 何よ、急に距離を取って私だってね……こんな中二病な通り名を忘れたくて遊戯王から離れた挙句、遠い隣町の学校に通うことにしたのよ!」

「えー」

 

 『遊戯王に興味はないわ』などと晃に語っていたが、それは彼も彼女の行動を見て嘘だとわかっていた。はず、だったが……なにも、その嘘の果ての理由と言うのが、コレだったのは、予想外を通り過ぎて言葉も出ない。

 

「もう、最悪っ!! 橘、アンタ……このデュエルが終わったら記憶が無くなるまで殴るから」

「え゛っ!?」

 

 凄い剣幕で睨まれた。

 彼女も一杯一杯なのか、すでに涙目だ。

 

「あー、もうどうにでもなれ! “エクスカリバー”で“トリシューラ”を“Zero”でとどめ!」

 

 青柳&赤松 LP2500-1300-2500→0

 

 もはや、完全にぐだぐだになってしまったがモンスターたちは律儀にも手を抜かず普段と同じような演出で攻撃を行う。最後の《E・HEROアブソルートZero》が拳を振り下ろすと同時に、彼女の想いに答えるかの様に、青柳&赤松ペアだけでなく周囲までを氷漬けにするかのように氷柱が出現した。

 予想外の演出の大きさに、対戦相手だけでなく観客たちまでが慌てふためく。その間にと、彼女は決闘盤からカードを全て回収しては、そっと床に置く。

 

「橘、アンタも来なさい!」

「えっ……ちょっ!?」

 

 突如、首根っこを掴まれ引っ張られる。

 仕方なく彼女に付きそう形で、晃はカードショップから出て行くこととなり彼にとっての二度目のデュエルも終わりを迎えたのだった。

 

 

 

 


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