「まずは《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の効果により攻撃表示の《炎王神獣ガルドニクス》をエクシーズ素材として吸収」
「やはり、そう来ますよね」
効果破壊をすれば次のターンに蘇生し戦闘破壊であればデッキから『炎王』モンスターをリクルートすることができるがそれ以外の主に破壊以外の除去には無力だ。攻撃表示モンスターをエクシーズ素材にしてしまう効果は凶悪でありながらも相性も悪い。
おかげで茜の場が完全にガラ空き状態だ。
「バトルフェイズ。リシュンキ、インフィニティ共に攻撃」
「うっ……!?」
茜 LP8000→6000→3500
シンクロ、エクシーズモンスターの連撃を受けライフが大幅に減少してしまう。
「カードを2枚伏せてターン終了」
(やはり姉さんは強いです)
別に侮っていたわけでは無い。
圧倒的なまでの実力差を見せライフすら削られずに終わりを迎えることさえ珍しく無いほどだ。自身と彼女では勝負において致命的とも言えるほどに実力の差があるのは自負している。
「ですが、負けるわけにはいきませんっ! 私のターン、ドロー!」
勢いよくカードを引く。
相手がいくら強くても闘志は十分に燃え盛っておりそれに呼応するかのように彼女の決闘盤の墓地から炎が溢れ出るような演出がされた。
「墓地より前のターンで破壊された《炎王神獣ガルドニクス》の効果が発動します!」
対抗策は十分にある。
まず蘇生しモンスター全てを破壊するガルドニクスの効果は間違いなくインフィニティの効果により無効にしてくるだろう。1ターンに1度という制約があるために隙が生じる。そこを狙えさえすれば十分に相手の布陣を突破できる。
「墓地から──」
「
だが、そんな希望を容易く打ち砕く。
「《
「そんなっ……!?」
燃える闘志に水が指すように1枚のカードが現れた。
敵味方関係無く特殊召喚を封じるこのカードはガルドニクスの蘇生を阻止しただけでは無い。茜の【炎王】だけにとどまらず大半のデッキは特殊召喚を戦術の要にしているためにこの1枚だけで機能不全になってしまうことも珍しく無い。
もっとも使用者の場かデッキからカードが墓地へと送られると自壊するという脆いデメリットを持っているものの制圧力の高い《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》と並ぶと破壊される確立が格段に低くなる。この状況で詰むことさえある。
「ガルドニクスの蘇生は不可。貴女のターンだけど?」
「っ……!? 私はモンスターとカードを2枚伏せます」
思わずよろめきそうになった体をなんとか持ち直す。
反撃の手段さえも潰された今では成す術が無い。できることは場にカードを残すことぐらいだ。何の手段も講じられない今、茜は悔しそうにターンの終了を宣言する他なかった。
「ターンエンド、です」
「そう。私のターン」
対する焔は相手が悔しそうな声を上げたとしても表情一つ変えはしない。
ただ淡々とまるで作業のように対戦相手を駆逐するのみだ。
「墓地の《ギャラクシー・サイクロン》を発動。表側で存在する《炎王の孤島》を破壊する」
墓地から旋風が巻き起こり茜のフィールド魔法を吹き飛ばす。
ただ単純に相手のフィールド魔法を破壊しただけでは無い。このとき瓦解した《炎王の孤島》は使用者のモンスターを道連れにしてしまうのだ。
「くっ……《炎王の孤島》が破壊されたとき私の場のモンスターが破壊されます」
破壊されたのは前のターンでサーチした《炎王獣バロン》。
効果により破壊されたために次のスタンバイフェイズに効果が使用できるものの場の壁モンスターが存在しなくなったがために焔の場の2体のモンスターだけで茜のライフを削りきることができるようになってしまった。
「バトルフェイズに入る」
「そうはさせませんっ! メインフェイズ終了時に伏せていた1枚の《ブレイクスルー・スキル》を《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》に対して発動します!」
「エクシーズ素材を一つ取り除くことで無効にする」
相手モンスターの効果を無効にする効果を使用することで無理矢理効果を使用させた。
それも、茜の場に残された最後の1枚を使用するための布石だ。
(正直、これは賭けですが手はそれしかありません)
茜に残されたカードには今、この場で相手モンスターを除去するどころか攻撃を防ぐ手立てすら無い。1枚だけの手札は【炎王】とは別カテゴリでありながら意表を突くために入れた最上級モンスター。場に残された1枚はこれからの運に頼るしかない1枚だ。
「なら再びバトルフェイズに入る」
メインフェイズの終了時というタイミングのために一度、メインフェイズに巻き戻りもう一度バトルフェイズに入る宣言が行われる。タイミングは今しか無いと茜は最後の伏せカードを発動させた。
「バトルフェイズ開始時に《裁きの天秤》を発動します。私の手札とこのカードで所持カードは2枚。姉さんの場の5枚の差。3枚をデッキからドローします!」
使いどころは難しいがうまく使えば大量のドローが行えるカード。
だが所詮はドローソース。それだけで相手が止まるはずも無い。
(お願い。来てくださいっ!)
残された手札の1枚に次のターンで《炎王獣バロン》の効果の発動。それと墓地の《ブレイクスルー・スキル》の3枚でなんとか状況を打破する算段はついている。だがそれもこの場を凌げればの話だ。
引けば攻撃を防げるカードは入っている。後はこの3枚のドローに賭けるしかないのだ。
「ドローっ!」
曲線を描くように3枚のカードをデッキから手札に加える。
それを興味なさげな表情で焔は攻撃宣言を降す。
「何枚引こうが関係無い。まずは《罡炎星-リシュンキ》で──」
「いいえ! このドローで来てくれました。手札から《速攻のかかし》を捨てることでバトルフェイズを終了させます!」
髪から繋がるような黒い麒麟の形をした炎が茜を襲うがそれを阻止するように機械仕掛けのかかしが割って入り攻撃を受け止める。同時にバトルフェイズが終了することによりこれ以上の追撃も不可能にしたのだ。
「そう。ならターン終了」
このターンで終わらせられなかったとはいえ想定内なのか彼女はあくまで冷淡なままだ。
「私のターンっ! このターンで覆します。スタンバイフェイズに前のターンで効果破壊された《炎王獣バロン》の効果発動です。デッキから2枚目の《炎王の孤島》を手札に加えます」
加えるのは前のターンで破壊されたのと同じフィールド魔法。
「そして墓地から《ブレイクスルー・スキル》を発動します! 当然、無効にするのはインフィニティです」
「……インフィニティの効果を使用し無効にする」
前のターンで墓地から魔法の《ギャラクシー・サイクロン》を喰らったお返しの如く今度は茜が墓地からの罠カードを発動させる。無効にされたものの1ターンに1度の効果を使わせた今、このターン中はもう使用できなくなる。
「これで布石は全部整いました! いきますよ。私は再び《炎王の孤島》を発動し第一効果を発動させますがこれにより私が手札から破壊するのは──」
手札から1枚のカードを抜き出す。
いくら《虚無空間》や《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》で制圧していようと関係無いと語るようにそのカードを相手である焔へと見せた。
「《地縛神Ccarayhua》です!」
「っ!?」
瞬間、この決闘中表情一つ変えない彼女の表情がわずかながら揺らぐ。
目を見開き一矢報われたように。
「このカードが自壊効果以外で破壊されたとき場のカード全てを破壊します。当然、手札からの破壊でも、です。そしてデッキから《炎王獣ヤクシャ》を手札に」
「コカライアの効果にチェーンし《マインドクラッシュ》を発動。《炎王獣ヤクシャ》を選択!」
これから場を吹き飛ばされるのならと《虚無空間》の自壊などもう気にすることも無く罠カードを使用する。茜が加えた《炎王獣ヤクシャ》を落とすのと同時にピーピングの役割も果たし残りの手札《熱血獣士ウルフバーグ》《炎王炎環》《神の宣告》が確認された。
「ですが、もう止まりません! 場をまとめて一掃します!」
フィールド全体を包み込むほどの巨大な爆発が起きた。
茜の《炎王の孤島》だけでなく焔のモンスターも魔法・罠ゾーンのカードだって容赦無く吹き飛ぶ。相手を制圧する布陣も全てが焼け野原と化した。
「これで遮るものは何もない。自由に動けます! 《熱血獣士ウルフバーグ》を召喚して効果により墓地から《炎王獣バロン》を守備表示で蘇生します」
「ウルフバーグの効果にチェーンして《増殖するG》を発動」
《熱血獣士ウルフバーグ ☆4 ATK/1600》
《炎王獣バロン ☆4 DEF/200》
焔のときは茜が使用した《炎王の急襲》を使用したが今度は焔の使用した《熱血獣士ウルフバーグ》を茜が使う。【炎王】と【炎星】は同じ炎属性に獣戦士モンスターが使われるという共通点から似て非なるカテゴリのためだ。
「ドローソースですか。ですが攻撃の手を緩めませんっ! バトルフェイズに入ってウルフバーグで
焔 LP8000→6400
なんてことは無いただの下級モンスターでの直接攻撃だ。
だがこの瞬間、観客席から見ていた観客たちから小さな歓声が沸いた。日向焔はこの大会中、烏丸亮二のような名のあるプレイヤーですら直接攻撃を受けたことは無くほぼノーダメージという形で完封していたためだ。
「さらに追撃です! 《炎王炎環》を使用し場のバロンと墓地のガルドニクスを入れ替えます!」
茜の場のバロンが炎に包まれては不死鳥は不死身だと言うかのように再び《炎王神獣ガルドニクス》は場へと舞い戻る。これで相手に1枚分ドローを許してしまうが攻められる好機をみすみす見逃すつもりは無い。
「いきますよっ! 続けて攻撃です!」
焔 LP6400→3700
攻撃は再びクリーンヒットする。
ライフを大きく削り窮地だった状況から一転しボードアドバンテージを取り戻したどころかライフアドバンテージさえもほぼ並んだ。
「最後の手札を伏せてターンエンドです」
一矢報いた巻き返しもこれで終わり。
ターンの終了が宣言され今度は焔のターンだというのに彼女は俯きながら微動だにせず人形のように制止していたのだ。まるで直接攻撃でライフと同時に精神的にも大きな打撃を受けたかのように。
「…………」
直接攻撃を受けた。
その事実が頭から離れなかった。
いくら実の妹、格下が相手だと言っても手を抜かず情報を収集し研究を怠らなかった。対戦相手の茜の使用するカードや引きの傾向も完璧なまでに予測したはずだ。その結果として導き出されたのは勝率97%以上。それもほぼ完封して勝てるはずだった。
それを覆したのは《地縛神Ccarayhua》を使用してからだ。
彼女の引きは新堂創や氷湊涼香ほど強いというわけでは無い。それ故にデッキ構築も無駄が無く効率の良い構築で挑んでくると読んでいた。だがその予測を彼女は上回ったのだ。
侮っていた。
プレイングも相手に合わせた最善の手を講じてはいたものの、心の片隅のどこかでわずかながら侮りがあったかもしれない。あらゆる手を尽くして来たものの心の中では驕りがあった。
「──わかった」
「……?」
途端、焔は何かを理解したかのように呟いた。
「貴女は私の予想を超えた。これが日向茜という決闘者の戦いという事も」
このとき決闘中に幾度となくカードを使用する度に語ってはいたものの始めて茜自身に語りかけていた。だがそれも途端に重く冷たい声へと変わる。
「だからでこそ貴女を敵として迎え入れる価値がある」
「……っ!?」
その言葉と同時に茜は悪寒を感じた。
今までは研ぎ澄まされた刃を向けたような敵意だったがそれとはまるで違う。あまりに巨大で重く得体の知れない物が目の前にあるような感覚だった。
いったい何が起こっているのかはわからない。
ただ体から冷や汗が止まらず本能か何かが警報を鳴らしているのだけはわかる。
恐怖にも似た感情が渦巻いているようにも感じた。
「後、5ターン」
「……え?」
小さく呟く彼女の声がやけに鮮明に聞こえる。
「次の私のターンから数えて5ターンでこの