恐ろしい。
会場内には同じ高校生の決闘者から大学やプロリーグのスカウトマンに決闘雑誌の記者やただ単純に興味本位で来ていた一般人など様々な人々が観客となっていたがたった1ターン。星宮ルミのプレイングを見て全員が共通した感情を描いた。
場には攻撃力が13000となった《究極封印神エクゾディオス》にあらゆる効果を封殺する《崇光なる宣告者》。あとついでに《ラヴァルバル・チェイン》。
今までの試合でも星宮ルミの戦術は宣告者で相手のカードを封じて高攻撃力で蹂躙する。
単純であるが強力無比。並大抵の決闘者なら何もできずに踏みつぶされるだけだろう。
「続けるよ~。ルミは手札のカード3枚を伏せて終了だよ~」
残りの手札を全て伏せた。
全種のカードの発動を封殺できる宣告者であろうとも、手札にコストとなる天使族モンスターが存在しなければバニラも同然。それもフェイクすら無しに手札が無いと教えている。
「次は私のターンよ」
続いては涼香のターン。
今のままなら自由に行動できるところにルミはドローフェイズに1枚の伏せカードを発動させる。
「ドローフェイズに《補充要員》を発動させるよ~」
「っ、やっぱり」
なんとなく予想はできていた。
たった1ターンで主軸モンスターを並べる引きを見せた星宮ルミがエースとなる《崇光なる宣告者》をバニラで立たせるだけとは考えづらい。《補充要員》の効果でルミは墓地から《もけもけ》を3枚回収する。
《究極封印神エクゾディオス ATK/13000→10000》
墓地の通常モンスターが減ったことでエクゾディオスの攻撃力も変動する。
それでも攻撃力は十分すぎるほど。迂闊な動きをすれば一瞬で終わるだろう。
「メインフェイズに入るわ」
手札を見渡して戦術を練る。
ルミの【宣告者パーミション】相手に有用な切り札と成りうる《超融合》は手札に来ていない。自分の手札は6枚で相手は3回しか発動を無効にできないがいかんせんこの手札なら攻めきれずに次で終わってしまう。
「私はモンスターをセット、カードを3枚伏せてターン終了」
「ふーん、少しはできるって聞いたけどやっぱりルミの前では何もできないんだね」
相手を見下す半分、自信満々半分の表情でルミは笑う。
気に触ったのか涼香のこめかみがぴくりと動くが何もできないというのは実際に間違ってはおらず何も言い返せない。
続く第七決闘高校のタッグの2番手、剣崎勝が行動を開始する。
「俺のターンだ。まずは星宮が伏せた《闇の量産工場》を発動、墓地から《雲魔物─スモークボール》2枚を回収」
タッグルールの性質上、ルミがいくら天使族モンスターを持っていようとも剣崎のターンが回ってくれば次にルミのターンになるまで意味が無くなる。そのためにも彼に天使族モンスターが手札に来るようにとちゃっかり伏せていたのだ。
しかし、それも予想できる範囲のこと。涼香は即座に1枚の伏せカードを発動させる。
「そう来るとは思っていたわ! 《闇の量産工場》にチェーンして《強制脱出装置》を発動。宣告者には退場を願うわ」
「無駄だ。星宮が残したもう1枚《王宮のお触れ》を発動」
「なっ……!?」
対策となるのは相手が天使族を回収する前に場から退けること。
しかし、相手は一つ上を行き対策の対策も講じていたのだ。
「ちっ、さらにチェーンして《エネミーコントローラー》! 場のモンスターをリリースしてエクゾディオスのコントロールを得るわ」
ならばと涼香が発動した速攻魔法により一時的に相手の《究極封印神エクゾディオス》のコントロールを得る。自身の墓地には通常モンスターが存在せず攻撃力が0の神もとい紙の盾であるが相手の場に高攻撃力を立たせるよりかはマシだ。
仮に相手の手札に《所有者の刻印》があれば涼香たちはこの場で終わってしまうが使いどころが難しいカードであるゆえデッキに入ることも専用デッキで無い限り確立は限りなく低い。
「さらにリリースされ墓地へ送られた《E・HEROシャドー・ミスト》の効果でエアーマンを加えるわ」
「ふんっ、いいだろう。《ラヴァルバル・チェイン》の効果によりデッキから《スキル・プリズナー》を落としカードを3枚伏せてターン終了だ」
剣崎のデッキは不明だが、おそらくこのターンで勝負を付ける速攻系のデッキではないのだろう。攻撃する素振りどころかモンスターを出すこと無くカードを伏せただけでターンを終了する。
そしてエンドフェイズにエクゾディオスのコントロールが元の所有者たちの場へと変える。
《究極封印神エクゾディオス ATK/8000》
「よしっ! ようやく俺のターンか。いくぜ!」
最後のプレイヤーである創は待ちわびたと言いたげにプレイを開始する。
「まずは《サイクロン》を発動。《王宮のお触れ》を破壊するぜ!」
「無駄だ。宣告者の効果で無効にする」
罠を封じるお触れは宣告者と組み合わせれば無効にする数を少なくするだけでなく弱点であるカウンター罠を封じることができる。それを破壊しようとするのは当然だが、当然のように無効にされてしまう。
《究極封印神エクゾディオス ATK/8000→9000》
「舐めているのか? そんな単調に通用するわけないだろう」
「いや、俺はいつだって本気さ。手札の《カードガンナー》を捨て《ワン・フォー・ワン》を発動する。無効にするか?」
「ちっ、当然だ。こちらも無効にする」
《究極封印神エクゾディオス ATK/9000→10000》
2度目の宣告者の無効効果により2枚目の回収された《雲魔物─スモークボール》が墓地へと送られる。これが意味することは《闇の量産工場》で加えた天使族モンスターが存在しなくなったこと。
今ならば自由に動ける。
「
(ノーデン。確かあいつらの墓地にはレベル4のシャドー・ミストがいたな。狙いはおそらくビュートか)
創&涼香 LP8000→7000
剣崎は思考する。
墓地に《スキル・プリズナー》が存在するためにまず対象を取るエクシーズモンスターは無意味だ。対象を取らないモンスターでこの場をひっくり返すの必要と考えれば必然と出て来たのは《励輝士ヴェルズビュート》だ。
効果さえ決まってしまえばこの鉄壁とも呼べる状況が瓦解してしまう。
「却下だ。手札の《
だが、それは無意味に終わった。
「哀れだな。優れた選手でさえ読み違えで無様に終わるとはな」
剣崎が回収した天使族モンスターはもう無いためにこれ以上、効果は無効にできずにヴェルズビュートを呼び出しその効果が炸裂することも無くなり創の思惑は失敗に終わる。
これで決着はついたと剣崎は考える。
「いいや、ここまでは予想通りだぜ」
だが創は否定した。
「なに?」
「相手が相手だ。単に手札に回収した天使族だけって考えるのも簡単すぎるって思ってな。そもそも俺のデッキにはヴェルズビュートは入っていない。そもそも、今のこの状況を打破することはできないんだ」
そもそも創の【X─セイバー】はレベルにばらつきがあるためにレベル4が並ぶという状況はあまり多く無い。それ故に彼のエクストラデッキにはランク4モンスターの種類も少ないのだ。
「悪いけど今の俺に出来ることは繋げることだけだ。《クレーンクレーン》を召喚し墓地から《カードガンナー》を蘇生。効果が無効にされるがコストは別だ。デッキトップ3枚を墓地へ──っと、ラッキーだ墓地へ送られた《ダンディライオン》で綿毛トークン2体を特殊召喚」
「お前が囮だと!? 舐めた真似を」
《クレーンクレーン ☆3 ATK/300》
《カードガンナー ☆3 DEF/400》
《綿毛トークン ☆1 DEF/0》
《綿毛トークン ☆1 DEF/0》
守りを固めるようにモンスターを並べて行く。
彼の手札にはもう天使族モンスターは無く展開を黙って見過ごすことしかできなかった。
そもそも遊凪高校においての一番の注意人物だと考えていた新堂創をこの決闘中最大限注意しようとしていたというのにも実際はただ次へと繋げるためにプレイするというのが気に食わなかった。
「《クレーンクレーン》と《カードガンナー》でランク3《発条機雷ゼンマイン》をエクシーズ召喚しターン終了するぜ」
《発条機雷ゼンマイン ★3 DEF/2100》
2体の綿毛トークンと破壊耐性を持つゼンマインの布陣を築く。
苛立ちを見せる剣崎に対してルミは愉快そうに笑った。
「ははっ、まさか剣崎先輩の《オネスト》を読んでたなんて面白いね。でもこの程度の守りなんてルミが簡単に蹴散らしちゃうよ!」
ターンが一周し再び最初のルミのターンが訪れる。
「まずは手札に加えた《もけもけ》を通常召喚してさっき引いた《馬の骨の対価》を発動! 2枚引いて《儀式の準備》! デッキから《神光の宣告者》と墓地の《高等儀式術》を加えて《神光の宣告者》を出すよ!」
《究極封印神エクゾディオス ATK/10000→14000》
《崇光なる宣告者》に続けて《神光の宣告者》までが並ぶ。
召喚のために墓地へ送られたのは《ギャラクシー・サーペント》《神聖なる球体》2枚だ。
「それと対価で引いたもう1枚。《思い出のブランコ》で場に出す《ギャラクシー・サーペント》と《神光の宣告者》で《スターダスト・ドラゴン》をシンクロ召喚!」
「っ、ここでスターダストまで!?」
《スターダスト・ドラゴン ☆8 ATK/2500》
涼香が目を見開いて驚きの声を上げる。
高攻撃力にパーミション、続いては破壊耐性を付与するモンスターまで並べるのだ。
状況はさらに悪くなっていく。
「さあバトルフェイズ! 攻撃表示にした《崇光なる宣告者》とチェインで綿毛をぶっ潰してスターダストとエクゾディオスでゼンマインを攻撃するよ~!」
「だが、ゼンマインはエクシーズ素材を取り除くことで破壊は免れるぜ」
ゼンマインは2つのエクシーズ素材を持つためになんとか攻撃を耐え抜く。
4体のモンスターの猛攻をなんとかこのターンは耐え凌いだ。
その間にもエクゾディオスの攻撃によりデッキから通常モンスターが墓地へと送られさらに強化される。
《究極封印神エクゾディオス ATK/14000→15000》
「ルミはこれでターンエンドだけど効果が発動するよね?」
「ああ、ゼンマインの効果で破壊効果が発動するが──」
「ふっふっふ、スターダストで無効だよ~」
破壊効果を発動しようとしたゼンマインだがスターダストが星屑の光へと変貌しゼンマインを包み込み破壊した。そのままエンドフェイズのためにスターダストは帰還する。
これで全滅。それどころか状況は最悪と言えるほどになってしまった。
「さぁて、このターンで終わらせなかったけど、そっちの部長に人も無駄にターンを繋げただけ無意味なだけだったけど、他には何も残してくれなかったね~」
《究極封印神エクゾディオス》《崇光なる宣告者》《スターダスト・ドラゴン》《ラヴァルバル・チェイン》の4体の布陣の前にはただ単純に1ターン生きながらえることができただけだ。
「いえ、そうでも無いわ」
しかし、涼香は否定する。
「
「ふふんっ、その程度なら通してあげるよ」
「そう。じゃあ《E・HEROバブルマン》を手札に加えて3枚セットし特殊召喚。そして2体の戦士族で《H─Cエクスカリバー》をエクシーズ召喚するわ!」
《H─Cエクスカリバー ★4 ATK/2000》
ルミがエアーマンのサーチ、バブルマンの特殊召喚を見逃し場に出そうとしてのは打点4000に成ることができる《H─Cエクスカリバー》だ。このカードを召喚しようとしルミは目を細めた。
「ふーん、攻撃力4000かぁ。ルミのエクゾディオスの前ではごみ屑みたいなもんだけど宣告者を破壊されちゃうのも困るし効果で召喚を無効にするよ」
そう言って手札の天使族《もけもけ》を捨てて特殊召喚を無効にしようとする。
だが、その瞬間に涼香は1枚のカードを墓地から使用するのだ。
「なら、その無効をさらに
「んにゃ!?」
途端、ずっと余裕に満ちていたルミは声が裏返るほどに声を荒げた。
宣告者にとっての弱点の一つである墓地から発動する魔法・罠に加えフィールドの効果を無効にする《王宮のお触れ》さえもすり抜けて《崇光なる宣告者》を止める。
「っ、なんで!? そんなカード使ってもコストでも落としていなかったのに」
「いや、落ちてたわよ。あいつの《カードガンナー》のコストでね」
圧倒的なまでに有利な状況。
それ故に慢心が生じ確認を怠ってしまった。
(まさか確認していなかったとはな……阿保か)
ルミとは対照的にしっかりと確認を行い《ブレイクスルー・スキル》の存在に気づいていた剣崎はいつか彼女の慢心からこうなると予測していたものの思わず顔に手を当てた。
「さあ、これで心おきなく暴れられるわ! エクスカリバーの効果を使用し攻撃力を倍に! そしてこのターンに伏せた《ミラクル・フュージョン》を使用し墓地のバブルマン、シャドー・ミストで《E・HEROアブソルートZero》を出すわ!」
《H─Cエクスカリバー ★4 ATK/2000→4000》
《E・HEROアブソルートZero ☆8 ATK/2500》
「バトルフェイズ! エクスカリバーでスターダスト、Zeroでチェインへと攻撃!」
「うっ……」
ルミ&剣崎 LP8000→6500→5800
攻撃を受け2体のモンスターが散りライフも削られる。
しかし涼香が出した2体のモンスターが攻撃したのはルミの主力モンスターたちでは無いためにいまだに健在だ。
「うっ、効いたけどその2体は攻撃を終えたよね? まだルミのエクゾディオスも宣告者もいるなら次でぶっ潰してあげるよ!」
「そう。
《M・HEROアシッド ☆8 ATK/2600》
攻撃を終えたアブソルートZeroが高く飛び上がり別のモンスターへと姿を変える。
「さあ、行くわ! Zeroの効果でモンスターをアシッドの効果で魔法・罠を破壊する!」「ちょっと! それって全滅じゃん!?」
涼香の必殺コンボであるアブソルートZeroからアシッドへの変身召喚。
アブソルートZeroの効果かルミ・剣崎の上空に巨大な氷塊が出現し銃を構えたアシッドが水色の光線で打ち抜く。氷塊は豹となり相手の場へと振り注ぎ全てを押しつぶしたのだ。
ルミの主力となる《究極封印神エクゾディオス》に《崇光なる宣告者》、《王宮のお触れ》や剣崎が伏せ発動の素振りがなかった3枚の伏せカードも。
形勢逆転。
そう思った矢先に重く響くような声が渡った。
「──そこまでだ」
「え……?」
「星宮ルミ。お前の戦術は瓦解し崩れ去った。もう貴様の役目は終わりだ」
声の主。剣崎勝は仲間に向けているとは思えない鋭い視線でルミを睨む。
用済みだと語る彼の前ではこの二人はタッグパートナーなんかでは無くただ単純に個人同士で相手と戦っているのでしかないと思わせる。
「待ってよ。ルミはまだやれるもん!」
「手札に通常モンスター1枚しかないお前に何ができる? 後はただ俺の言う通りに行動してればいい」
「うっ……」
視線だけでない。
口調まで完全に仲間とは思えない。
二人のやり取りの中、涼香は口を挟むように告げた。
「悪いんだけどまだアシッドの攻撃が残っているから続けていいかしら?」
「ああ悪いな。もっとも、そのモンスターは攻撃できないがな」
「え……?」
思わず視線を自分のモンスターへと向ける。
先ほどまで圧倒的な破壊効果の演出をを見せた《M・HEROアシッド》の胸元には大剣が突き刺さっていたのだ。貫通しそれが人間ならば致命傷だというのは明白だ。
「【アーティファクト】のカテゴリは当然、知っているだろう。魔法・罠としてセットでき相手ターンに破壊されれば特殊召喚し効果を発動する。今、発動したのは《アーティファクト─モラルタ》だ」
《アーティファクト─モラルタ ☆5 ATK/2100》
モラルタは本来片手剣だと言い伝えられているが、それを超越するような巨大で太い刀身はまさに大剣だ。それを携えるように水色の人の形をした幽霊のような何かが両手で構えている。
「さらにお前のアシッドの効果で破壊されていた《アーティファクト─デスサイズ》《アーティファクト─アイギス》も場へと特殊召喚されている」
《アーティファクト─デスサイズ ☆5 ATK/2200》
《アーティファクト─アイギス ☆5 DEF/2500》
剣だけで無い。
同じように鎌、盾も全てが破壊された場に佇んでいる。
「っ……【アーティファクト】ね」
剣崎のデッキは知らなかったとはいえ完全に意表を突かれた。
星宮ルミの派手な戦術で彼はあまり目立てはいなかったが、今ここで彼の異名を思い出した。
──処刑人。
今まで、鳴りを潜めていた処刑人がこの場で牙をむき始めた。
「さあ、処刑開始だ」