遊戯王部活動記   作:鈴鳴優

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注意:事情により今回は前回の禁止制限を使用しエラッタ前の効果も使用します。
つぎの章より現在の禁止制限に以降します。


042.決闘者でも無いお前に遠慮はしない

 

 

 地区大会の準々決勝の一つ。

 遊凪高校と黒栄高校の団体戦の試合は結果として遊凪高校が勝利した。

 TD(タッグデュエル)は不戦敗で黒栄高校の勝利。

SD(シングルデュエル)2は晃が苦戦しながらも辛勝。

SD(シングルデュエル)1は捨てていたのか相手も大した実力者ではなく創が快勝を迎えていたのだ。

 

次の準決勝へと駒を進めることができた。

しかし、参加校の数が多いために時間も既に17時を過ぎていることもあるが、元々時間配分上、準決勝からは1週間後で行われている予定になっていたのだ。

 

地区大会の試合が全て終わったと事を告げる場内放送が流れ出し試合の参加者や応援していた人々が帰る支度をしていた。大半は途中で敗北してしまったものの後学のために試合を観戦していた選手たちが多い。

次の試合に出ることができるのは100校を超える中でわずか4校のみなのだ。

その中の1校である遊凪高校のメンバーも帰り支度を済ませていた。

 

「忘れ物は無いな?」

 

 手に持つのリュックサックを片手に持ち全員に忘れ物が無いかと聞く。

 それぞれ『無いわよ』『確認したッスよ』『問題ありません』『大丈夫だよ』と返答を聞いたのち問題は無いと判断した。

 

「それじゃあ帰るぜ!」

 

 片手を上げて誘導するように創は一歩歩き出した。

 彼らは現地集合であったが帰る時は途中まで一緒に行くということになり5人全員で帰ることにした。この付近にあるバス停に乗り遊凪高校の付近まで向かう予定となっている。

 ところが、1歩2歩と踏み出したところ、何か違和感を覚えたかのように先頭を歩いていた創が突如、歩みを止めたのだ。

 

「…………?」

「ん、どうしたのよ?」

 

 ぴたりと止まった創に対し涼香は何があったのかと問う。

 すると創はすぐさま半笑いで告げるのだった。

 

「悪い悪い、どうやら忘れ物をしたみたいでさ。先に行っててくれないか」

「……聞いてきたアンタが忘れ物してどうすんのよ」

 

 はぁ、と軽くため息を付きながら涼香は呆れ果てる。

 そもそも今日の地区大会においても彼は興奮して眠れなく一回戦目を遅刻してしまうという事態があったのだ。こんなのが部をまとめる部長であっていいかと言いたげだった。

 

「わかりました。まだバスまで時間はありますし早く戻ってくださいね」

「おう!」

 

 しかし、そんな彼のことなど慣れっこだと言うかのように茜が承諾し彼の代わりに先頭を歩きだした。そんな彼女らに対して創は歩き出すこと無く姿が見えなくなるまで見送っていたのだ。

 遠ざかりやがて見えなくなったころに創はあたりを見渡した。

 

「さて、どういうことだ霧崎?」

 

 建物の物陰へと視線を向けながら創は言葉を投げかけた。

 視線の先から姿を現したのは準々決勝で彼らに敗れた黒栄高校の選手の一人である霧崎終が無言でしかしただならぬ空気で十人ばかりの同じ黒栄高校の制服を着た生徒を連れていたのだ。

 その数人の中にはバットや鉄パイプのようなものを武器のように持っており不穏な空気を漂わせているのだ。

 その主格とも思える霧崎はただ冷たい声で創に語りかけた。

 

「よく気付いたじゃねえか」

「少しとはいえ同じチームだったからな。それにお前の独特の空気はわかるからな」

「ハッ、相変わらず勘のいい事で」

 

 小馬鹿にするように霧崎は笑う。

 創は彼の笑いなど気にすることも無く静かに、しかし怒りを抑えるかのように普段の遊凪高校のメンバーには見せないような冷たい声で語りかけたのだ。

 

「いくつか聞きたいことがある」

「なんだ?」

「一つ目は、お前たちとの試合で涼香たちが来なかったことだ。お前たちの仕業だろ?」

 

 彼らの試合では遊凪高校側のTD(タッグデュエル)は不戦敗になった。

 それはまだいい。もしも彼女らの身に何かあったらと創は不安でたまらなかった。

 霧崎終という男の性格を知っている創はありえると考え試合に来れなかった彼女らの話によれば黒栄高校の制服を着た連中に足止めを受けたと言う証言だってある。

 

 霧崎は創の問いに対して一歩も引かない。

 むしろ隠す気なんて無いと笑みさえ見せるのだ。

 

「ご明察」

「そうか、だったら次だがお前たちは何をするつもりだ?」

 

 十数人という人数を引き連れ、しかも武器のようなものを持ってピクニックなんてあるはずも無い。穏やかなんて言葉が似合うはずも無い彼らはあまりに危険に見えた。

 創の問いに霧崎はさらに顔を歪めたような笑みを見せた目が笑っておらず、それは邪悪とでも表現できるように見えた。

 

「決まっているだろ。報復……だよ」

「なんだと」

「俺はあんなマグレの敗北なんて認めない。もう俺たちが試合に出れないのなら、お前たちも出れなくしてやろうってな。言っただろ、トラブルは付き物だってなぁ」

 

 そのための人数と武器かと創は納得した半面、心の中では激しい怒りに見舞われた。

 普段は無邪気に振るまっていた彼も今回ばかりは怒りで熱くなるのを通り越して体中に冷たさを感じるほどだった。

 それでも、と彼は激昂を押さえながらまだ聞きたいことを問う。

 

「なら、最後の質問だ。お前にとって遊戯王は何だ?」

「俺にとって……だと、なんにもねえよ。ただの弱者をねじ伏せるための暇つぶしだ」

「そうか」

 

 これで質問は終わったのか創は手に持っていたリュックサックを地面へと降ろした。

 そこから取り出したのは決闘盤(デュエルディスク)。彼は腕に装着し敵を見るように霧崎を睨んだのだ。

 

 この質問の中で得た結論は一つ。

 目の前の男、霧崎終は決闘者(デュエリスト)なんかでは無い。

 

「俺と決闘(デュエル)しろ霧崎。俺が勝ったらそんな二度と俺たちに関わるな」

「そうかよ。そういえばお前と一緒にいた頃は直接対決なんてしてなかったからな。別にいいがお前が負けたらどうなるんだ? だったらお前のデッキでも貰おうか」

「……わかった」

 

 霧崎の突然の要求に創はただ冷淡な一言だけで承諾したのだ。

 創の返答を聞いた彼は口元を釣り上げて決闘盤を取り出して腕に装着したのだ。

 

「その言葉、忘れんなよ」

「お前もな」

 

 互いに険悪な空気を持ったまま距離を保ち決闘盤を構える。

 霧崎は手荷物のカバンから取り出したデッキを装着し、創はリュックサックにしまっているデッキケースに手を伸ばさずに制服の内ポケットに大切にしまってあったデッキへと手を伸ばしたのだ。

 

決闘(デュエル)!』

 

 夕暮れ色が一面を染める中、二人は勝負を開始した。

 先攻は創から。彼は霧崎のデッキと戦術を知っているが故に5枚の手札の中から相手に合わせた戦略を頭の中で構築して行く。

 

「俺はカードを1枚伏せてターン終了だ」

 

 霧崎の【甲虫装機】に対して生半可にカードを出して行くのは危険だ。

 まずは相手の様子を窺うと伏せたのは《神の警告》だ。

 だが、次の霧崎のターンで創の読みが間違いなのだと証明された。

 

「俺のターン。まずは《強欲な壺》だ!」

「は……《強欲な壺》だと!?」

 

平然と発動してのけたのは、デッキからカードを2枚ドローできるというシンプルながらも強力な効果を持つ禁止カードなのだ。本来、決闘盤には禁止カードやドローや効果で加えたカード以外を受け付けない機能があるというのに、それがまったく働いていない。

 

「甘いんだよ。決闘盤だって万能じゃねえ。制限解除の改造なんて簡単にできんだよ!」

「決闘盤の違法改造。噂は本当だったんだな」

 

 創は驚愕しながらも何か合点が行ったと思えるような表情を見せた。

 元々、霧崎終という男は遊凪高校にいたのだが、突如第七決闘高校のスカウトを受けて転入したのだ。しかしながら、彼はそこで連敗を繰り返し決闘盤の違法改造に手を出して退学となったと聞いた。

 その結末として今の黒栄高校にいるのだろう。

 

「2枚ドローだ。続けて《ハーピィの羽根箒》でお前の伏せカードを全て破壊し《苦渋の選択》を発動。《カオスソルジャー-開闢の使者-》2枚と《混沌帝龍(カオスエンペラードラゴン)-終焉の使者-》、《クリッター》2枚を指定する。さあ、選びな!」

「っ……そこまでするのか。《クリッター》を選択する」

 

 禁止カードのオンパレードの創は嫌悪し拳を強く握りしめた。

 選択された《クリッター》が手札に加えられ残りは全て墓地へと送られる。

 

「そもそも公式な勝負じゃねえからな。そら、続けるぜ! 《死者転生》で手札の《クリッター》を捨て《混沌帝龍-終焉の使者-》を手札に加える。《死者蘇生》を発動して墓地の《クリッター》を蘇生だ!」

「っ、《死者蘇生》にチェーンして《増殖するG》を発動してカードをドローする」

 

 即座に相手が特殊召喚するたびドローできるカードを発動して手札を補充する。

 しかし特殊召喚した《クリッター》に手札に加えた《混沌帝龍-終焉の使者-》の組み合わせからもうすでに凶悪なコンボが完成していることを知らされている。

 

「さらに墓地の開闢と終焉を除外することで特殊召喚だ!そして混沌帝龍の効果だ。ライフを1000ポイント支払い場と手札の全てを墓地へと送り枚数×300のダメージを与える!」

 

《混沌帝龍-終焉の使者- ☆8 ATK/3000》

 

 霧崎 LP8000→7000

 

 実際バーン効果はただのオマケ。手札と場という破格のリセット効果だけでも十分すぎるほどだ。さらには場に《クリッター》がいるために禁止カードで成せる特有のヤタロックまでもが成立してしまうのだ。

 だが彼は《混沌帝龍-終焉の使者-》の特殊召喚時に《増殖するG》の効果で引いたカードを即座に使用させた。

 

「却下だ! 《エフェクト・ヴェーラー》を発動しカオスエンペラーを止める!」

「相変わらず引きの良い奴だな。気に食わねえ……バトルフェイズで《クリッター》、カオスエンペラーで直接攻撃だ!」

「っ……」

 

 創 LP8000→7000→4000

 

 たった1ターンでライフが半分にまで削られてしまう。

 元々凶悪な効果で薄れてしまってはいるが《混沌帝龍-終焉の使者-》は、かの《青眼の白龍》と同等のステータスを誇る。アタッカーとしても申し分ない強さを持つのだ。

 

「カードを1枚伏せてターン終了だが、てめえの決闘(デュエル)の癖は知っている。立ち上がりが遅いお前に乗らせる間も無く潰してやるよ」

 

 新堂創という男の決闘は基本的に立ち上がりが遅い。

 それは彼が使用する【X─セイバー】のデッキの性質ということもあるが、彼自身が決闘で徐々に調子を上げていくという性質があることが霧崎だけでなく遊戯王部メンバーにも知られている事柄だ。

そんな彼に序盤から攻撃力3000の《混沌帝龍-終焉の使者-》は倒せないという結論を霧崎は出していた。

 

「霧崎、お前は勘違いをしているぜ」

「あん?」

 

だが、それは誤りだった。

創が霧崎のデッキを読み間違えたように霧崎もまた彼を読み間違えたのだ。

 

「俺が徐々に調子を上げてくのは別に性質とかデッキの問題じゃないんだ。相手の強さを感じれば感じるほど、燃えてくるんだ。だがな──今の俺は違うお前へと怒りでこれでもかって言うほどに燃え盛ってるんだ!」

 

 それと同時に彼のターンへと移った。

 ドローフェイズにカードを引き初期手札と同じ5枚から反撃を開始する。

 

「このカードはサイドラと同じ特殊召喚条件を持つ。《H・C強襲のハルベルト》! さらに《増援》を発動して《H・Cサウザンド・ブレード》を手札に加え召喚し効果により手札のヒロイックを1枚捨てデッキから《H・Cエクストラ・ソード》を特殊召喚!」

「馬鹿な【H・C】だと!?」

 

《HC─強襲のハルベルト   ☆4 ATK/1800》

《H・Cサウザンド・ブレード ☆4 ATK/1300》

《H・Cエクストラ・ソード  ☆4 ATK/1000》

 

 場に並んだのは新堂創という男が扱う【X─セイバー】のモンスターではなかった。

 今まで、霧崎が遊凪高校にいたときだけでは無い。創はあらゆる場面で彼が【X─セイバー】以外のデッキを使った記録なんて無いのだ。

 それ故に今の彼が別のカテゴリのデッキを使うなんてありえない出来ごとだった。

 

「誰が【X─セイバー】しか無いって言った。このデッキはな、昔の俺が使っていたんだ。もっとも、昔の俺は勝つことしか考えて無くて友人から遊戯王を奪ってしまったデッキだ」

 

 かつて晃に語った昔話で創は言っていた。

 才能に恵まれ勝ち続け、負けること無く数多と勝負を続けた結果に一人の友人が遊戯王をやめたと。

 

「本当はもう使わないと決めていたんだが……悪いが、今回に限って使わせてもらう!」

「ちっ、だがこれで俺の禁止デッキに勝てるものか!?」

「勝ってやるさ! 俺は3体のモンスターで《No.86 H-C ロンゴミアント》をエクシーズ召喚だ!」

 

《No.86 H-C ロンゴミアント ★4 ATK/1500→3000→4000》

 

 創の号令により3体のモンスターは1体へと纏まる。

 エクシーズ素材の数により得る効果が増えるロンゴミアントは自己強化能力を発動しさらにはエクストラ・ソードの効果によりさらに1000ポイントの上昇を果たしてオベリスクと同等の攻撃力を得たのだ。

 

「バトルフェイズ! ロンゴミアントでカオスエンペラーへ攻撃!」

「ちっ」

 

 霧崎 LP7000→6000

 

 創の攻撃宣言によりロンゴミアントは一閃の斬撃を放った。

 その一太刀により例え禁止カードのモンスターであろうと問答無用で切り伏せる。

 

「悪いが霧崎。決闘者(デュエリスト)でも無いお前に遠慮はしない!」

 

 

 


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