遊戯王部活動記   作:鈴鳴優

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040.この男には負けたくない

「オレのターン」

 

 始まった準々決勝の1つ。

そのSD(シングルデュエル)2の対戦は晃の先攻から始まった。

相手が元遊凪高校のメンバーだったとか、現部長である新堂創と肩を並べる存在だったとか聞いて少しは動揺したが目の前の敵ということには変わりなくいつも通りのプレイを始める。

「モンスター、伏せ(バック)を1枚づつ伏せてターン終了」

まずは手堅く守りを固める。

相手の戦術を知らず実力も不明という現状ではこれが最善だと考えた。

「俺のターンだ」

ドローフェイズにカードを引いたとき、霧崎は顔をニヤけながら笑みを浮かべた。

「なんだ。良い手札じゃねえか、せいぜいつまらないなんて思わせないぐらいに足掻いてみせろよ。《おろかな埋葬》を発動し《甲虫装機ホーネット》を落とし《甲虫装機ダンセル》を召喚」

《甲虫装機ダンセル ☆3 ATK/1000》

種族は昆虫族でありながら人間の姿をしたモンスター。

赤色のトンボを模した装甲を纏い銃を構えた戦闘員のような格好をしている。

このプレイだけで3枚のカードが露わになったがそれだけでも相手のデッキを特定するには十分だった。

「【甲虫装機】か?」

「その通りだ。ダンセルの効果でホーネットを装備。まずはモンスターをぶっ壊せ!」

霧崎の宣言により墓地へと送られた《甲虫装機ホーネット》と呼ばれるカードがダンセルの右腕に小型のパイルバンカーとして装着された。そこから杭を打ち抜くかのように蜂の棘が発射され晃の場の伏せたモンスター《武神器─オキツ》のカードをドロドロと溶かして行った。

「くっ……!?」

「おっと、これで終わりじゃねえよ。ダンセルの効果によりデッキから《甲虫装機センチピード》を特殊召喚。同じくホーネットを装備しもう1枚を破壊してやるよ」

《甲虫装機センチピード ☆3 ATK/1600》

2度目の効果により今度は魔法・罠のカードを溶かしていく。

晃の場を全損させ無防備にさせたと思いきや今度は一陣の竜巻がムカデの姿をした戦士《甲虫装機センチピード》をズタズタに引き裂いたのだ。

「は……?」

「破壊されたのは《荒野の大竜巻》。効果によりセンチピードを破壊する」

破壊されたことによる破壊。

スムーズにプレイができなかったというのに霧崎は声を上げて笑い出した。

「ハハッ、楽しませてやるじゃねえか。破壊されたとはいえセンチピードの効果によりデッキから《甲虫装機の魔剣 ゼクトキャリバー》をサーチ。ダンセルで直接攻撃だ」

 

 トンボを模した戦士は武装していた銃を晃へと構え光弾を放った。

 防ぐこともできずに晃はただ相手に先手を許すだけだ。

 

晃 LP8000→7000

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ」

「オレのターン。まずは《暗炎星─ユウシ》を通常召喚」

 

《暗炎星─ユウシ ☆4 ATK_/1600》

 

 しかし負けじと晃も巻き返そうとモンスターを召喚する。

 彼が使用するデッキの【武神】とは別のカテゴリのモンスターであるものの相性が良いモンスターだ。

 

「バトルフェイズに入り、ユウシでダンセルへと攻撃する……何か発動は?」

「いや、通してやるよ」

 

 2枚の伏せカードは何も発動することなくそのまま攻撃が通る。

 

終 LP8000→7400

 

「ユウシの効果。戦闘ダメージを与えたことでデッキから《炎舞-天璣》をセット。メイン2で発動し《武神─ヒルメ》をサーチし墓地のオキツを除外し特殊召喚。場の2体で《武神帝─カグツチ》へとエクシーズ召喚!」

 

《武神帝─カグツチ ★4 ATK/2500→2600》

 

 流れるような動きでエクシーズ召喚にまで繋いだ。

 青い炎と武装で纏った《武神─ミカヅチ》の進化形態であるモンスターだ。

 

「エクシーズ召喚に成功したことでデッキからカードを5枚墓地へと送る」

 

 《針虫の巣窟》と同じ効果を単体で発動できるこのカードは確かに強力だ。効果により墓地へと落ちたのは《武神器─ハバキリ》《激流葬》《武神結集》《武神─アラスダ》《サイクロン》の5枚だ。落ちた2枚と《炎舞-天璣》と合わせて攻撃力が2800まで上昇する。

 

「これでターン終了」

 

 もっとも、その効果は単なるオマケでしかない。

 相手が使用する【甲虫装機】というカテゴリは《甲虫装機ホーネット》のカードにより破壊効果が扱いやすい。除外すればいいものだが、その術が無い晃にとってはエクシーズ素材を取り除くことで破壊を免れる《武神帝─カグツチ》がこの場では最善の選択なのだろう。

 

「成程な。破壊耐性モンスターで凌ぐってことか。けれど、その程度の対策で防げるとでも思ったのか?」

 

 ターンが移り霧崎がドローフェイズでカードを引く。

 まずは1枚。伏せていたカードを表へと返すのだ。

 

「《リビングデッドの呼び声》発動。墓地のダンセルを蘇生」

「っ、またホーネットか……」

「いや、違うな。ダンセルの効果により手札から《甲虫装甲グルフ》を装備させ墓地へと送ることでレベルを2へと上げる。さらにセンチピードを特殊召喚し同じくグルフ効果でレベルを2上げるぜ!」

 

 レベル上げの効果によりダンセル、センチピードのレベルが5へと成る。

さらにセンチピードの効果によりデッキから《甲虫装機ギガマンティス》がサーチされた。

 

「レベル5となった2体で《甲虫装機エクサスタッグ》をエクシーズ召喚」

 

《甲虫装機エクサスタッグ ★5 ATK/800》

 

 青白く輝く合金の装甲に身を包みクワガタのような2本の角を持ったロボットを思わせるモンスターへと姿を変えた。召喚するにあたり半上級モンスターであるレベル5を必要とする召喚難易度の高いモンスターでありながら攻撃力800という貧弱なステータスでありながらそのモンスターを前に晃は自分の《武神帝─カグツチ》との相性の悪さを悟った。

 

「エクサスタッグの効果だ。エクシーズ素材を取り除いてお前のカグツチを装備カードとしてエクサスタッグへと装備させる!」

「まずいっ! 手札から《ビビット騎士》を発動。カグツチを除外して特殊召喚!」

 

《ビビット騎士 ☆4 ATK/1700→1800》

 

 いくら破壊耐性を持っていようとも破壊以外の除去には無力なもの。

 それを補うように対象となったモンスターを《亜空間物質転送装置》のように一時的に逃がすカード《ビビット騎士》によってなんとか回避することに成功した。

 

「だったらエクサスタッグをエクシーズ素材に《迅雷の騎士ガイアドラグーン》をエクシーズ召喚。バトルフェイズに《ビビット騎士》に攻撃する」

 

《迅雷の騎士ガイアドラグーン ★7 ATK/2600》

 

 晃 LP7000→6200

 

「っ……」

「ターンエンドだ」

「オレのターン、スタンバイフェイズにカグツチは戻ってくる。《武神器─ハバキリ》を召喚し《烏合の行進》を発動し2枚ドロー」

 

《武神器─ハバキリ ☆4 ATK/1600》

 

 本来、戦場となるモンスターゾーンに赴くことが無いモンスター《武神器─ハバキリ》を迷うことなく召喚する。加えて手札補充とアドバンテージを稼いでいく。

 

「バトルフェイズ。カグツチでガイアドラグーンへと攻撃!」

 

 本来、《武神帝─カグツチ》の攻撃力は2500とガイアドラグーンとはたった100ポイントでありながらも敵うはずも無いステータスでありながら晃の場の《炎舞-天璣》によってその差を埋めていた。

 おかげで戦闘は互角。カグツチの持つ剣とガイアドラグーンの緑色のランスが交差し互いに攻撃を受け消滅する。

 

「続けてハバキリで直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

 終 LP7400→5800

 

 鶴の形状をしたハバキリが翼を広げ滑空飛行しながら霧崎へと突進をする。

 ライフを削り数値としての差はわずか400となった。

 

「2枚伏せてターン終了」

 

 晃の場には下級モンスターでありながら《武神器─ハバキリ》に2枚の伏せカード。

 そして1枚の手札に残りライフは5800。

 

 対して相手の場は対象の無い《リビングデッドの呼び声》のみ。

 手札は4枚、ライフも6200と晃よりも多い。

 

 だが状況を見てはどうだろうか。

 互いに差が無くほど互角の勝負を繰り広げていた。

 勝負の前に彼がかつて遊凪高校にいて現部長である新堂創に並ぶ存在と言っていたことに多少の不安を感じた今では晃は、この状況に多少の安堵を感じていた。対する霧崎終と言えば──。

 

「ハ、ハハッ」

 

 顔を俯かせて笑っていた。

 何かがおかしいように。狂ったかのように。

 

「カハハッ、想像以上だよ橘晃! 取るに足らない雑魚かと思っていたが、中々に骨がある。さすが今の遊凪高校の遊戯王部にいることだけあって新堂(あいつ)並みに目障りだ」

 

 感情が溢れたかのように霧崎は語り出す。

 

「おかげで計算が狂ったよ。まさか、お前ごときに本気を出さなくちゃいけないなんてな!」

 

 瞬間、空気が変わった。

 まるで纏わりつくような気味の悪い感じから一転し、冷たく鋭い殺気にも似た決闘者(デュエリスト)として相手を倒すと告げる空気。今、この場で霧崎終は晃を完全に敵とみなした。

 

「俺のターンだ。《無欲な壺》を発動し2枚のセンチピードをデッキへと戻し《死者蘇生》を発動。墓地からダンセルを蘇生し効果によりホーネットを装備してお前の伏せカード1枚を破壊する」

 

 打ち抜かれたのは《聖なるバリア─ミラーフォース─》。

 続けて彼は、さらにダンセルの効果を発動させた。

 

「ダンセルの効果によりセンチピードを特殊召喚。同じくホーネットを装備させ、手札の《甲虫装機ギガマンティス》をダンセルへと装備させる」

 

 前のターンでセンチピードの効果によりサーチしたモンスターをダンセルへと装備させる。巨大な刃が付いた緑色の籠手を装着し効果によって攻撃力が上級クラスの2400へと引き上げられた。

 

「ホーネットを再び墓地へ送り、装備カードのギガマンティスを破壊する」

 

 だが、ダンセルを強化したギガマンティスを霧崎は惜しげも無く破壊した。

 もっとも、それが霧崎の狙いだ。

 

「装備カードが墓地へ送られたことでダンセルの効果がまた発動する。2枚目のセンチピードを特殊召喚し、また1枚目のセンチピードの効果で2枚目のギガマンティスをサーチ。ダンセルと1枚目のセンチピードで《No.17リバイス・ドラゴン》をエクシーズ召喚」

 

《No.17リバイス・ドラゴン ★3 ATK/2000》

 

 流れるかのようにモンスターを回していく。

 その回しは晃どころか、新堂創すらも上回り彼とかつて並んでいたと言う言葉を納得させるのに十分な動きだった。

 

「リバイスの効果を発動。素材のダンセルを取り除き、手札のギガマンティス。墓地のホーネットをセンチピードへと装備しホーネットによりギガマンティスを破壊する。今度は破壊されたギガマンティスの効果を発動させ墓地のダンセルを特殊召喚。センチピードの効果で今度は2枚、最後のギガマンティスと《甲虫装甲ギガウィービル》を手札に」

「っ……」

 

 またしても《甲虫装甲ダンセル》が場へと戻る。

 幾度とない展開に晃は悪寒を感じずにはいられなかった。

 

「さて、そろそろ終わりだ。ダンセルで再びホーネットを装備し伏せカードを破壊」

「だったら対象となった《剣現する武神》を発動。除外されている《武神器─オキツ》を墓地へと戻す」

「ハッ、所詮は悪足掻きだ。ダンセルの効果で3枚目のセンチピードを特殊召喚し再びホーネットでお前の最後のカード、ハバキリを破壊。そしてゼクトキャリバーをサーチだ」

 

 晃の場にあった3枚のカードは全滅。

 加えて霧崎の場にはたった1ターンでダンセルにセンチピード2体、リバイス・ドラゴンが並んだ。

 

 総攻撃力は6700と晃のライフを上回る。

 

「さてセンチピード1体にギガマンティス、ゼクトキャリバーを装備させバトルフェイズだ。まずはダンセルで直接攻撃(ダイレクトアタック)だ」

 

《甲虫装機センチピード ATK/1600→3400》

 

「くっ、墓地の《武神器─オキツ》を発動。手札の《武神─ヤマト》を墓地へと送り自分が受けるダメージをこのターン0とする」

 

 残りライフを上回る総攻撃を一時的にだが免れることができた。

 しかし、《武神器─オキツ》の効果で最後の手札を捨てたことによって晃は実質、手札・場と共に0となってしまったのだ。

 

「手札も場も失ったお前に何ができる? 装備カードを持たないセンチピードとダンセルで《発条機雷ゼンマイン》をエクシーズ召喚しカードを1枚伏せターンエンドだ」

 

《発条機雷ゼンマイン ★3 DEF/2100》

 

 場には攻撃力2500のリバイス・ドラゴンと3400のセンチピードに加え破壊耐性と破壊効果を持ったゼンマインの布陣。さらにこのターンに伏せた霧崎のカードは《ブラック・ホール》など大量除去を封じる《大革命返し》なのだ。

 

「っ……」

 

 晃は悔しく俯きながら歯を噛みしめた。

 

目の前の相手、霧崎終は強い。

いくら工夫を重ねて強くなることができたとしてもそれすら上回る格上だ。

 

 現在、半分以上のライフが残っているとはいえ相手の場の圧倒的なアドバンテージに対し勝つためには、次のドローフェイズで引くカードに頼るしかない。それ故に晃は怖かった。かつて対峙した強敵である烏丸や茶度と言った相手にも同じように引くカードに頼らなければならない状況があったにせよ今のプレッシャーの比では無い。

 

「オ、オレは……」

「ハッ、嫌だったらサレンダーしてもいいんだぜ?」

 

 思わず霧崎の言った通りにサレンダーをしてしまいたいと思ってしまう。

 そんなとき、聞き覚えのある声が晃の耳を過った。

 

「何、項垂れてるのよ! このヘタレ!」

「あっ……氷湊!?」

 

 声のした方を振り向けば氷湊がフェンス越しに叫んでいたのだ。

 さらにその隣には茜と有栖も晃を励まそうとしていた。

 

「最後まで諦めないでくださいっ!」

「が、頑張って橘くん!」

「日向に風戸まで……」

 

 急な応援に戸惑いを隠せない晃。

 そんな中、涼香は霧崎を睨み始めた。

 

「試合に出られなくてごめん。それよりも黒栄高校。あんたのとこの学校よね? その生徒が私たちに絡んできたのだけどどういうわけ?」

「さて、何のことやら。ただのトラブルを俺たちのせいにされるってのは困るなぁ」

 

 隠す気がないのか、霧崎はまるで言葉でははぐらかしながらも表情は下種な笑みを浮かべているのだ。まるで『自分が主犯です』と言いたげなほどだ。

 しかし、それを突き付ける証拠が無い。だからでこそ霧崎は笑うのだろう。

 

「あぁ、そういうことか。大体わかった」

 

 今のやり取りを見てなんとなくではあるが、涼香たちが試合の時間に来れなかった理由とその原因を理解した。目の前の相手である霧崎たちが仕組んだこと。それを知った晃には先ほどまでの恐怖や不安と言った感情は消し飛び、静かな怒りを感じていた。

 

 勝つために卑怯な手段を用いる相手。

 その相手の前では圧倒的に不利な状況とか、自分の引くカードに全てが託されるとかそんなことはどうでも良くなった。

 

 ──ただ単純に、この男には負けたくない。

 

 その感情だけが晃を動かしていた。

 デッキトップに指を掛け引きぬく仕草を取る。

 

「絶対に負けられない! オレのターン!」

 

 

 




 
 橘晃  LP5800 手札0

 霧崎終 LP6200 手札3
 ◇No.17リバイス・ドラゴン
 ◇甲虫装機センチピード
 ◇発条機雷ゼンマイン
 ◆リビングデッドの呼び声(対象:無し)
 ◆伏せカード(大革命返し)
 ◆甲虫装機の魔剣ゼクトキャリバー(対象:甲虫装機センチピード)
 ◆甲虫装機ギガマンティス(対象:甲虫装機センチピード)

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