遊戯王部活動記   作:鈴鳴優

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 今回の話は決闘無しです。
 そして、半分がギャグパートです。


004.私を怒らせた事、後悔させてあげるわ

 時は、西暦2×××年。

 

 地球という惑星を人類が支配していた時代が終わり、新たに進化を遂げた種族である魔族が代わって世界を支配する時代が来ていた。彼からは、人間には持ちえない魔力と言う概念を持ち魔法とも言える物理法則さえも無視した能力を有している。

 

 そのため人類が持ちえる化学兵器が一切通用しないのだ。

 追いつめられた人類は、常に魔族に怯えながら隠れ潜む日々を強いられている。

 

 このまま、人類は滅ぼされてしまうのか?

 怯える人々は、常に不安と恐怖で覆われていたが、その中で唯一の希望を見つけたのだ。

 

 それこそ遊戯王カードと呼ばれるカードだった。

 元はただのカードゲームであるそれは、起源をたどれば古代エジプトにまで遡る。かつては、神聖な儀式として扱われていたそれは、カードを介する事により現代にまでその力を引き出す事ができた。

 

 それ故、人類は皆、銃でもなく剣でもなくカードを手に戦ったのだ。

 決闘(デュエル)と呼ばれる儀式においては、何者にも阻害される事なく魔族の持つ魔力でさえも退ける。

 

 その中でも、より多くの魔族を倒し栄光を手にしたものは勇者と呼ばれ称えられた。

 加え、勇者を筆頭とする連合軍が結成される。

 

 だが、魔族とて黙ってやられているだけではない。

 魔力というアドバンテージを失った彼らも軍として集い、やがてその中でも秀でた実力者たちが魔族の王……魔王と名乗り出したのだ。

 

 勇者と魔王。

 それらのリーダーが束ねる闘いは、まさにかつて人間が巻き起こした戦争と同等の熾烈な争いに発展し、まさに数百年にまで及ぶ闘いとなり『決闘戦争』と呼ばれ、多くの勇者と魔王が散って行った。

 

 そして、人類と魔族の争い『決闘戦争』も最後の決戦を迎えたのだ。

 優勢なのは、人類だった。多くの勇者たちが散り行っていた中、最後に残された勇者の末裔。女勇者、『アカネ=ヒムカイ』率いる連合軍『紅華』が魔族、最後の砦とされる魔王城『神導』へと奇襲をかける。

 仲間は皆、リーダーのアカネ=ヒムカイに残された愛する友人、恋人、家族そして人類全員の命運を託し尊く散って行った。彼女もまた、皆の命を嘆きながらも振り返らず魔族の長であり、歴代で最強と謳われた『始まりの魔王』の前にまで辿りついたのだ。

 

「ククク、よくぞここまで辿りついたな、人類最強と称される勇者の末裔、アカネ=ヒムカイよ。まずは、ここまで来たことを褒めてやろう」

 

 玉座から立ちあがり歓迎でもするかのように笑いアカネを向い入れる始まりの魔王。

 彼は、ここまで追い込まれてもなお同様する気配がない。それほどまでに彼は、己の絶対的な力を信じ敗北はないと確信しているのだ。

 

「どうだ。ここまでたどり着いた貴様には、我が同胞として魔族の一員になる気はないか? 貴様になら、我が世界を支配したあかつきに世界の半分をくれてやろう」

 

 手を大きく広げ高らかに告げた。

 だが、彼女はその様な物に興味は無い様に表情一つ変えず、始まりの魔王を睨みつけるだけなのだ。

 

「いいえ。私はその様な物、欲しくもありません。私が欲しいのは、愛する人類の平穏ただそれだけです……故に、貴方を今ここで滅ぼします!」

 

 そう言いながら、彼女は己が剣であるデッキと盾である決闘盤を構える。

 彼女のその勇敢な姿を見ては一瞬、残念そうな顔をするがそれでも魔王は口元を釣り上げニヤリと笑った。

 

「よかろう。ならば、貴様を殺し愛する人類とやらを滅ぼしてやろうではないか」

 

 マントを翻し魔王が宙へと手をかざす。

 彼には剣となるデッキ、盾となる決闘盤を持たず代わりに彼の手には闇が収束された。

 闇は質量を重ねて行き、やがて五枚のカードとなった。それこそ歴代最強と呼ばれた魔王の能力、己の力で神聖な儀式と呼ばれた闘いのルールにさえ干渉し常に望むカードを手元へ手繰りよせるのだ。

 彼の反則級の力に、一瞬恐怖を感じ足が震える。

 しかし、彼女は負けられないのだ。人類の命運が彼女の肩に託された今、諦めるわけにはいかない。

 

「さあ、行きます魔王!」

「来い、勇者よ!」

 

 二人の最後の決戦。

 人類と魔族の命運を掛けた最終決戦が今、始まる。

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「って、なんだこれはぁあああああああ!!」

 

 

 晃が遊戯王部に入部してから1日後。彼の怒声が放課後の遊凪高校の中庭に響き渡る。

 それと同時に彼は、一冊の緑色のA4サイズのノートを力一杯地面に叩きつける。そのノートの表紙には、油性マジックでやや汚くも大きく堂々と台本(ナレーション:橘晃用)と記されているのだ。

 気付けば、周囲からすでに下校し始めている生徒たちが怯えていたり、白い目を向けているのが確認できてしまっている。

 

「あー、なんだせっかく最終決戦ってのによ。勘弁してくれよ」

 

 水を差された事が不愉快なのか、不機嫌そうに『始まりの魔王』……でなく、暗幕をマントっぽく見立てた新堂創が頭を掻きながら唸る。しかも、周囲の目などお構いなしだ。

 その彼に対立するように決闘盤を構えていた女勇者『アカネ=ヒムカイ』……でなく、白いカーテンをマントに見立てて腰に、勇者の剣(ダンボール製)を携えた日向茜が創の意見に賛同するように口を尖らせて言った。

 

「そうですよ! せっかく、ここから台本なしのアドリブ勝負だったのに……」

 

 二人はやれやれと言った感じで仕切り直し距離を取る。

 茜は決闘盤を構え、創は机の設置されていたプレイマット型の決闘盤を整え直す。

 

「さあ、行きます魔王!」

「来い、勇者よ!」

「だーかーらー、何やってるって言ってるんだろがぁああああ!!」

 

 二度目の怒声、完全に雰囲気をブチ壊しにされたためか二人は、不満げにある方向を指差したのだ。そこには、自作であろう大きな看板──

 

『君の入部が世界を救う。今日から君も勇者の仲間入りだ! 遊戯王部、部員熱烈歓迎(初心者でも大丈夫!)』

 

などと、どこかのキャッチコピーのような言葉が大きく描かれていたのだ。

 

「え……これって?」

「部員勧誘の看板ですよ。一応、部員勧誘はいつでもやっていい事になってますから」

 

 それでも理解が及ばない晃に茜がわかりやすく解説した。

 つまりこれは、ただの悪ふざけではなく実演を入れた部員勧誘のつもりでやったのだろう。

 

「部員、勧誘……?」

「そうです! 我々には、さらに部員を勧誘するという使命がありますから!」

 

 小さな握りこぶしをつくり眼に炎を灯しながら、いつもと丁寧な口調ながら変な喋り方で熱く語る。どうやら今だ、精神の中に『女勇者アカネ=ヒムカイ』が残っているようだ。

 

「その通り! 我々には後、部員を三人揃えなければならんのだ!」

 

 こちらも『始まりの魔王』が残っている。

 二人の変なテンションにあてられていたのか、晃は項垂れていたが創の発言に一つの疑問を抱いた。

 

「あれ……そういや、オレが入ったから部員数が3人。もう廃部の危険もないッスよね?」

「ああ、そうだな。けど大会には出れないだろ?」

「出れないだろって……大会の事だって何も知らないッスけど?」

 

 ここで、創と茜は顔を見合わせた。

 二人は『あー、そういえばそうだなぁ』なんて顔をしては晃に大会についての解説をする。

 

「橘くん、私たち遊戯王部には二つの大会があるんですよ。一つは、個人戦。こっちは別にいいんですけど。肝心なのは、団体戦です」

「団体戦?」

 

 晃は首を傾げる。

 とはいえ、なんとなく察しは付いているのだが。

 

 スポーツで卓球やテニス、剣道と言う個人種目にも団体戦は存在する。シングルスやダブルスをオーダーを決めて試合を行い勝敗数で結果を決めるのだ。それ故、個人で負けても団体で勝てば結果的に勝ちとなる種目。

 

「つまり、今の俺たちでは参加できないって事だ。エントリーに必要なメンバーは最低5人。つまり、後二人ほど足りないんだよ」

「後、二人っスか……」

 

 大抵、団体戦となると基本的に5試合。

そのうち3勝した方が勝ちと言うのが多い。

遊戯王に関しても、その様なルールで団体戦が行われるのだろう。

 

大会についてと現在の部員勧誘(?)の理由を理解する事ができた。大会への参加条件をいまだ満たしていない遊戯王部だからでこそ、こうして新たな新入部員を集めるために出向いていたというわけだ。

 

「いや、だったら普通に勧誘しろよ!」

 

 とはいえ、晃はここで至極真っ当な意見を述べた。

 

「それじゃ、面白くないだろ!」

「それじゃ、面白くないですか!」

 

 晃の意見にハモって反論する二人。類は友を呼ぶなどという言葉が存在するが、これは現在のこの二人のためにあるような言葉だろう。そう考えていた晃だった。ここで一つ彼は、見落としていた事に気付いた。

 

「……あ、そういや、もう1年の入部期限が過ぎてるんッスけど、今さら入った部活を抜けて入ろうなんて考える人はいるんスかね?」

「「……あ!?」」

 

 またしても、ハモる。

 どうやらこの二人は、まったくもってそのような事を考えていなかった様だ。晃の言葉を聞いて先に慌てたのは茜の方だった。

 

「ど、どどどうしましょう? 確か、部活の掛け持ちも禁止でしたよね!?」

「あれ……?」

 

 晃は、首を傾げて記憶を手繰りよせる。前に入る部活が決まらずに呼び出しを受けた日に担任の真島千尋から入る部活を決めなければ運動部を全て掛け持ち入部させるなどと言っていた記憶があった。

 なのだが、生徒手帳には確か部活の掛け持ちを禁ずるなどと書いてあった様な気がした。

 

「(ひょっとして、騙された……?)」

 

 晃は今さらとなって脱力した。

 うまく真島千尋の口車に乗せられたのだ。……いや、もしかしたら万が一にもやりかねないかもしれないのだが。座りこむ晃を無視して創は、茜へと語る。

 

「いや、まだ可能性は0じゃないだろ日向? やれる事は、全部やってからだ!」

「っ!? そうですね部長!」

 

 二人は、再び身につけていたマントという名の暗幕とカーテンを整え所定の位置へと戻る。茜は、外していた決闘盤を再び装着し創もまたプレイマット型の決闘盤の電源を入れる。

 

「さあ、行きます魔王!」

「来い、勇者よ!」

 

 そして、やれる事とは魔王と勇者ごっこだった。。

 さすがに付いて行けなくなった晃は、『はぁ』とため息をついて付近に置いてあった鞄を手に取る。どうやら二人は、すでに決闘(デュエル)を始めているようで晃の事など意に介してもいないらしい。

 

「すんません、オレ先に帰りますよー」

 

 そう言いながら二人を残して後を立ち去って行く。

 二人は完全に、集中しているのか晃の言葉に気付かずに勇者と魔王という中二病臭い台詞を使っての決闘(デュエル)を続けていた。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 元々、橘晃という人間は何かに関心を抱くというのは少ない方だった。

 特に興味のなく惹かれない存在であったのなら、目に入ったところで大した認識も持たずに、数秒でただの視界に収まった記憶として消去されるだろう。だが、逆に惹かれた物には、とことん興味を抱くのだ。

 

 故に彼は、ふと家の近所にも関わらず存在さえ大して認識していなかったカードショップを発見した時、まるで夢遊病患者の如く無意識のうちに足が運ばれていたのだ。

 

 遊戯王カード専門店、カードショップ『遊々』。

 カードショップにしては特にひねりもなく、ありきたりな店の名前だと思いつつ辺りを見渡せば、そこは商売が繁盛しているような賑わいを見せていた。カウンター付近には、遊戯王OCGとされるカードパックのパッケージが並べられ、万引き対策なのだろうレジにて購入したいパックを告げる形式だった。

 さらに、近くにはガラスケースが並べられ中には、輝きを見せるレアカードが華々しく飾られるように並べられていた。さすがにレアカードは高いものが多い。特に高額なのは晃の一カ月分の小遣いを越えるものだってあるのだ。

 ガラスケースの中、晃は見知ったカードを見つけ驚きの声を上げた。

 

「うげ……《武神─ヤマト》が2000円!?」

 

 ちなみに、現在【武神】にとって必須ともされる《武神─ヤマト》だが、卒業生が残し現在では晃が使用するデッキにも当然存在する。3枚積みでだ。もし、このデッキを実際に購入するのであれば6000越え。さらに多々のカードも含めれば金額は、間違いなく一万を優に超えるだろう。

 

 ふと、晃は鞄からデッキケースを取り出しては、このデッキを残した人がそれほどの金額がするデッキだというのに、何を思って遊戯王部に残したのだろう。などと、考える。ちなみに、晃は自分なら絶対にもったいなくて誰かに譲渡などしないだろうなどと考えた。

 

 ガラスケースから視線を外し、次は……と一歩を踏み出した時だった。

 晃はふと、自分の視界に見知った人物がいたのに気がついた。

 

「あれ、氷湊じゃないか……」

「え……?」

 

 ほんの一瞬だけ目が合った。

 氷湊涼香(ひみなとすずか)。特に晃とは関係が深いというわけではないが、彼と同じ遊凪学園の1年の生徒であり、しかも同じクラスで隣の席である人物だ。髪を結び短めのポニーテールをつくっている。また、一般よりはややつり目気味の目が印象的な女生徒だ。

 

 名字を呼ばれた事で、振り向き彼女は晃の存在に気付いたはずだ。

 だが、しかし彼女は目が合ったにも関わらずそっぽを向く様に晃から視線を逸らしては、スタスタと逃げるように歩き出した。

 

「って、ちょっと待て! なんで、逃げるんだよ!?」

「逃げてないわ。ちょっと、急用を思い出しただけよ」

 

 さすがに、無視されて気分がいいわけでもない晃は反射的に涼香を追いかけた。それに対し、涼香は晃の問いを否定するかのように攻撃的な口調で返す。

 

「いや、さすがにカードショップの中で急用って──」

 

 言い訳にしては、あまりに露骨だった。

 彼女は、明らかに苛立ちを見せた態度で攻撃的な拒絶を取る。実際、晃と彼女の中はそこまで悪いというわけではない。ただ席が隣同士という以外に、関わりがなく話す事も特にないのだ。そのため、さすがに見かけて声を掛けたからという事でここまで拒絶の意を見せる理由がわからないのだ。

 

「はぁ……そこまで嫌う事ないだろ、ってか氷湊も遊戯王をやるんだな」

 

 晃の何気ない台詞。それに、涼香はぎょっとした様に驚きを見せた。驚きは、何に対してかはわからないものの、すぐに表情を戻し同じ様に攻撃的に言葉を返した。

 

「別に、遊戯王に興味はないわ。ここには……そう、ただの散歩よ。散歩!」

 

 腕を組み、晃から視線を逸らしながらの返答。

 それを聞いては、さすがに晃も『それはないだろ』と思い彼女が、何かを隠すかの様に嘘をついているのがわかった。

 

「いや、別にいいんだけどさ……って、あれ?」

 

 どうしたものかと、晃が思考をしていると突如、大きな歓声が響き渡った。

 その大きな声に、反射的に振り向くとそこには『決闘盤無料貸し出しコーナー』と書かれた看板が設置されており、遠巻きから見ても広いとわかるスペースに人だかりができていた。

 

「な、何だ?」

「さあ? 知りたいなら見てくればいいじゃない」

 

 まるで、『私は興味なんてないわ』などと言うかのような冷めた言葉。

 なのだが、行動は真逆に、彼女が歩みを進めるのは出入り口の方向でなく晃が視線を向けた人だかりの方角だった。どうやら、彼女も知りたいから見たい……ということらしい。

 

「お、おい、ちょっと待てよ」

 

 ここで置いていかれるのは、何か納得がいかずに晃も追いかける。

 もちろん、彼もあの人だかりに何があるのかは興味があり、元々見に行くつもりだったから追う追わないにしても、向うつもりだったのだが。

 

 人だかりの間を縫うようにして進む、涼香に晃も後を追って行く。気がつけば二人は、人だかりを潜り抜け最前列より一歩手前まで出てしまっていた。

 そこには、晃たちとは違う学生の制服の男子生徒が二人。それぞれ朱色に近い茶色に、濃い青い色をした髪の色の男子生徒が二人、決闘盤と呼ばれる機械を装着しており、彼らの前には同じ様に二人の男性が決闘盤を腕に装着しているのだが悔しそうに項垂れているのが見えた。

 

『凄いぞ! 色条高校の赤松と青柳、これで3連勝だ! ──おおっ、とここで新たな挑戦者の登場だぁー!!』

 

 マイクを片手にMCの様に実況を行っているのは、どうやらここの店員みたいだ。

 さらに人だかりの理由は、そこの二人が連勝し実力を見せつけていたのだ。そのため周囲の人々は、赤松と青柳と呼ばれていた二人の少年に視線を注がれていた。

 なのだが、新たな挑戦者の登場とMCが言った瞬間、気がつけば最前列より一歩手前に来ていた涼香と晃へと皆が視線を移し替えていたのだ。

 

「……え?」

「……は?」

 

 二人は、一瞬わけがわからない顔をしてお互い顔を見合わせたがMCの台詞に目の前の決闘者二人組。加えて周囲から集まる視線に自分たちが置かれている今の状況を理解したのだ。ただ、興味本位で来たはずがなぜか挑戦者として迎え入れられたのだ。

 

 納得がいかない。

 そのような声を上げたのは、晃でもなく涼香でもない。現在、連勝を続ける二人組の決闘者である赤髪の少年、赤松という人物からだった

 

「畜生! なんで今度は、男女のペアなんだよ。カップルかっつーの。俺たちなんて、彼女もいないから男二人でタッグデュエルをしにここまで来てんだぞ!?」

「いや、知らんがな……」

 

 納得がいかないのは、妬みという理由だ。

 とはいえ、二人はカップルでも何でもなく、ただ単純に出くわし知らぬまに挑戦者として駆り出されていただけである。晃から見れば理不尽な言いがかりであった。

 

「赤松君! だったら見せてやろうよ僕たち二人の実力を! そして、コテンパンに叩きのめして帰る時、二人の雰囲気をちょっと気まずくさせてやろうよ!」

「へぇ、いいじゃねえか……よぉし!! やって、やんぜぇ!!」

 

 と、二人組は逆にやる気満々テンションも高く盛り上がっていた。

 それとは対照的に晃は、呆然と立ち尽くしており涼香に至っては不機嫌そうに『なんでこんな事に』と言いたげな目をしている。

 

『では、挑戦者に決闘盤を貸し出そう。さぁ、存分に戦ってきたまえ!』

「え……あ、ども」

 

 流れでついMCから決闘盤を受け取ってしまう晃。

 しかし涼香は、不貞腐れた表情で決闘盤を受け取らずにいたのだ。

 

「私は……出ないわ。橘、アンタ一人で挑んできなさい」

「えぇ!?」

 

 まるで、刃の様に鋭く冷たい声で晃に告げこの場から立ち去ろうとする。その予想外の展開に周囲の観客たちからの歓声もぴたりと止む。しん、と静まり返ったこの場だったが、それをお構いなく語りだしたのは赤松からだった。

 

「へへ、そうか……逃げんのか?」

「っ……!?」

 

 一瞬、涼香が動きを止め硬直する。

 足を止め赤松を睨みだしたのだが、それでも赤松は臆することなく挑発を続け出したのだ。

 

「まあ、俺達は今、勢いに乗って連勝中だしな……負けると思うのもわかる。だからさ、逃げたいのなら逃げてもいいんだぜ?」

 

 この言葉を聞いて晃は『安い挑発だな』と嘆息した。少なくとも彼は、この程度の言葉で挑発に乗るはずもなく、まして彼女に対しても効き目はないと思っていた。だが、その当の本人は握りこぶしをつくってはわなわなと肩を震わせているのがわかった。

 

「(え……この、挑発に乗るのか!?)」

 

 などと、思う晃。

 涼香はMCからひったくる様に決闘盤を取り上げ自身の腕に装着し出した。そのまま、前に進み晃の横へと並ぶ。

 

「いいわ。やってやろうじゃないの……」

 

 この時、晃は少し前に言った彼女の発言を思い出した。

 

『別に、遊戯王に興味はないわ』

 

 などと、告げていたが彼女もちゃっかり自身のデッキを持っており、それを決闘盤へと装着したのだ。『いや、遊戯王やってるじゃん!?』などと晃は、心の中で叫んだものの彼女に合わせ同じ様に決闘盤を装着しては、大きな窪み……デッキの差し込み口に、自分のデッキを装着させた。

 

「橘、これはタッグデュエルよ。別に協力しろとは、言わないけど足を引っ張たりしたら……殺すわよ」

「え!? こ、ころ……?」

 

 どうやら、あの挑発で彼女は随分と御立腹の様だ。

 だが、創の時といい、今の涼香といいどうにも物騒な言葉を聞くような気がしてならない。そんな風に思う晃だった。

 そのまま、彼女は一歩だけ踏み出して告げる。

 

「私を怒らせた事、後悔させてあげるわ」

 

 それが開始の合図だったのか決闘盤に供えられた中で、最大の機能ともいえるソリッドビジョンが起動し展開される。晃に涼香、赤松に青柳……それぞれ4人の決闘盤から出る薄い虹色の光が周りを覆う様に広まり何もない空間からライフ表示のゲージが出現する。

 こうして、晃にとって二度目にして初のタッグデュエルが開始された。

 






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