遊戯王部活動記   作:鈴鳴優

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039.ルミも混ぜてよ

 

 

 

「あー、もう、つまんなーいっ!」

 

 現在、高校遊戯王部団体戦の会場となっている遊凪市総合運動場の中心あたり。

 小柄の身長、染めているのだろうか派手なピンク色のツインテールを揺らしながら第七決闘高校1年の星宮ルミは嘆いていた。

 

 大会登録人数が8名というために正レギュラー4人、準レギュラー4人という枠組みの中で第七決闘高校で唯一の1年で正レギュラーとして大会に出場するものの、対戦相手は歯ごたえも無い雑魚ばかりで飽き飽きしていた。しかも、ようやくまともな相手だと思っていた準々決勝の風祭高校での対戦の時には自分たちのかわりに準レギュラーが参加するという仕打ちを受けフラストレーションが爆発。

 応援などする気も無しに会場内をふらついていたのだ。

 

「嘆いていても仕方が無いであろう。俺たちに出来るのは次の試合に控えることだけだ」

 

 星宮ルミの隣には、次の試合でのTD(タッグデュエル)での相方。

 第七決闘高校3年レギュラーの剣崎勝(けんざきすぐる)が無表情にルミと歩幅を合わせて歩いている。試合に出れないことに不満を感じるルミに対して勝はまったく平然としている態度が気に食わずに頬を膨らませた。

 

「むぅ。だって──主将(キャプテン)たちは出てるんだよ。二人ばっかりずるいっ!」

「その二人の調整のためにTD(タッグデュエル)は捨て駒を入れたのだろう。監督の指示は聞いておけ」

「知ってるもん!」

 

 そもそも、準々決勝で参加できないのはSD(シングルデュエル)に参加する二人の調整のため。最初のTD(タッグデュエル)を捨ててまで行うものなのか、と普通の高校なら耳を疑うものの二人が敗北することは無い。そう確信を持てるからでこそのオーダーなのだ。

 

「ルミが言いたいのはそうじゃなくって──およ?」

 

 わー、とはしゃごうとした間際、首を傾げた。

 視線の先。そこには大会とは関係ないであろう指定された会場でない休憩所で決闘(デュエル)が行われているのだ。知りもしない制服を着た女子3人と別の制服を着た男子6人。

 女子の方からは危機迫るといった表情から知り合って記念に決闘をしているとか、そんな感じでは無いのがわかる。多分だが、面倒事の類なのだろう。それがルミの口元を緩めさせたのだ。面倒事は嫌い。だが、他人の面倒事に首を突っ込むのは好きだと言いたげだった。

 

「おい、まさかっ!?」

「ふふん。そのまさかよっ! ちょっと、遊んでくるね!」

「俺たちは他校との勝負は禁じられているはずだ。それを忘れたのか?」

「あー、あー、聞こえなーい。聞こえなーい」

 

 両手で耳をふさぎながら聞こえないフリをして小走りで向かう。

 その最中、もう決闘は終盤だったのか、とどめの場面にまで来ていたのだ。

 

「ったく、これで終わりよ! 《E・HEROアブソルートZero》で直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

 氷結の戦士が相手へととどめの一撃を放った。

 対戦していた男子生徒はなすすべもなく攻撃を受けて敗北したのだ。

 

「私の勝ちね。約束通り立ち退いてもらうわ」

 

 なんだ。もう終わってしまったのか。

 なんてルミはげんなりと肩を竦めたのだが、敗北し尻餅をついていた男子はニタリと気色の悪い笑みを浮かべていたのだ。

 

「カハッ、誰が俺に勝ったらって言ったんだよ?」

「え?」

「悪いな次はオレが相手になってやるよ」

 

 さっきまで勝負していた男子とは別の男子生徒が決闘盤を構えて少女の前に立ちふさがったのだ。彼女たちは驚きを隠せずに決闘をしていた彼女と別の女子生徒が抗議する。

 

「そんな、約束が違いますよ!」

「約束っつたって内容を確認しないアンタらが悪いんだぜ。俺が約束したのは『俺ら全員に勝ったら立ち退いてやる』ってことだったのによ」

 

 どうにも穏やかじゃない空気。

 気が付けルミのすぐ近くまで剣崎が近づいていたが、彼女を止めるというよりも目の前の揉め事に何か気になるとでも言いたげな表情で顔をしかめていたのだ。

 

「あいつら、今対戦しているはずの遊凪高校と黒栄高校の連中。しかも遊凪高校に至っては大会の出場メンバーだ。試合の時間だというのに、いったい何をやってるんだ」

「へぇ、詳しいじゃん」

「お前が無知なだけだ。選手、それも有力なメンバーぐらいは覚えておけ」

 

 なんて注意を促す。

 正レギュラーの中で唯一、部でのミーティングをサボっているのだ。

 これを気に少しは勉強しろと促すものの、彼女は頬を膨らませて駄駄をこねるだけだ。

 

「なんでルミが、知りもしない有象無象を覚えなくちゃいけないのよ?」

「…………」

 

 『駄目だこいつなんとかしないと』なんて言葉が脳裏に浮かんだ。

 1年で正レギュラーの座を獲得した星宮ルミの決闘センスは剣崎とて認めている。

 しかしながら、やたらと態度がデカくて傲慢。そんな欠点があるからでこそ、彼はそれを直させたいと思っているのだ。

 

 彼女のため。

 と言うわけでは無く、タッグを組むパートナーとして足を引っ張られたくないだけだからだ。

 

「そんじゃ、行ってくるよ! さらばっ!」

「あ、おいっ!?」

 

 不意を衝くかのようなフライングダッシュ。

 ふと手を伸ばしたものの、それは空を切るばかりで彼女はといえば、もう引き返せないとわかるぐらいに決闘盤を持っている二人の間に割って入ってしまったのだ。

 

「ちょっと待った! ルミも混ぜてよ」

「はぁ……馬鹿が」

 

 思わずため息が漏れた。

 仕方が無いと思いながら、同じように剣崎も揉め事の中に割って入ったのだ。

 

「なんだお前らは!?」

 

 偶然割って入られたことに先ほど敗北した男が戸惑いと怒りを混ぜた表情を見せる。

 ところが、今度は次に対戦しようとしていた男が二人を指しながら知っていると言いたげに震えて答えたのだ。

 

「あ、あいつら第七決闘高校のレギュラーですよ! アイドルデュエリストの『歌姫』星宮ルミと冷酷無比な『処刑人』剣崎勝……なんで、こんなところに!?」

 

 まるで猛獣に出くわしたみたいな表情で語る。

 有名人なのだろうが名前やら個人情報が漏れているが二人はさほど気にした様子は無い。突然割って入られ戸惑いや怒りを見せる者、二人の実力者が現れ怯える者など様々であるが、そんなこと知ったことじゃないとルミは指をさしながら黒栄高校のメンバーを数えだしたのだ。

 

「ひーふーみ、と6人かぁ。ルミと剣崎先輩で3人ずつだね」

「待て。俺を入れるな」

 

 冷ややかなツッコミも彼女には通用しない。

 傍若無人にどんどんと話を進めていく。

 

「と言うわけで相手をしてよ。3人ずつ相手でいいからさ」

「おいっ、何を勝手に!? そもそもお前と戦って俺たちにメリットがあるのかよ?」

 

 もっともな事を言うリーダー格の男。

 勝手に割って入ってきて勝負しろと言われて素直に従う男では無い。

 そんな彼らに対して『じゃあ』とルミは呟きながら答える。

 

「あんたたちが勝ったら……ルミのこと好きにしていいよ?」

 

 色気を出すようにスカートの端を抑えながらモジモジと恥じらいを見せるかのような仕草と共に語る。ちなみにだが、黒栄高校は男子高校であり餓えた男どもはそんな軽い誘惑であろうとも魅力的に見え下種な笑みを浮かべた。

 

「へへ、だったらいいぜ。その条件忘れんなよ」

「ちょ、先輩。いいんですか?」

「いいんだよ。もう試合は始まってんだし俺たちの目的は済んでるだろ」

 

 リーダー格の男が決闘盤を構え残りのメンバーも渋々と言った感じでありながらも同じように構え出したのだ。1対3というあまりにも不利な状況でありながらもルミは新しい玩具を手に入れたように目を輝かせていたのだ。

 

「ふふんっ。それじゃあ満足させてもらうよ!」

 

 しかし、喜ぶ彼女とは対照的に相方の剣崎は顔を曇らせ明らかに不機嫌だ。

 彼女と同じように別の3人が相手をしようとしてくる完全にとばっちりだ。

 

「星宮ぁ……これが片付いたら次はお前を潰すぞ」

「おー、怒ってるね。けど、返り討ちだよ?」

「っ、お前ら何勝ったつもりで話をしてんだっ!」

 

 二人の会話が神経を逆なでされ激昂するリーダー格の男。

 そんな中、剣崎はちらりと事が勝手に進んで戸惑っていた遊凪高校の女子生徒へと声をかけるのだ。

 

「この件は俺たちが引き受けた。もう試合には間に合わないが、行ったらどうだ?」

「恩に着るわ」

「あ、あの、ありがとうございます」

 

 決闘をすることになり包囲していた形も滅茶苦茶となった今、3人は走り抜けることで黒栄高校の連中から逃げ出すことができた。それを下っ端の男が目で追うものの、彼らを従えるリーダー格の男は目も当てないのだ。

 

「あの、行っちゃいましたけど?」

「いいんだよ、もう試合には間に合わん。それよりも勝てれば、あのアイドル決闘者を好きにできるんだぜ。ヘマすんじゃねえぞ」

 

 ギラギラと野獣のような目を見せつけるものの、それはルミにまで届いていない。

 彼女の視線は、後に控える仲の悪いパートナーへと注がれている。

 

「ふーん、他校の生徒に塩を送るなんて優しいじゃん」

「彼女らは次の対戦相手になるかもしれん。俺たちのプレイを見せたくないだけだ」

 

 素っ気ない返事の言葉にルミは『あー、こっちが本心かぁ』なんて内心呟いた。

 堅実というよりも勝利に貪欲。知りあってから数カ月しか経っていないもののルミに対する剣崎勝という男は勝利するために手を尽くす人間という評価である。

 

「お待たせ。さあ、始めようか!」

「へっ、じゃあ行くぜ」

 

 星宮ルミ。剣崎勝と二人にそれぞれ三人の男が決闘盤を構えて向き合ってくる。

 あまりに不利な条件でありながらも楽しげに笑うルミに、平然とした顔でいる剣崎はそれぞれ決闘盤から手札となる五枚のカードを抜き出した。

 

「行くよ! イッツ、ショータイムッ!」

「処刑開始だ」

 

 このときまで黒栄高校の6人は気が付かなかった。

 人数というアドバンテージを持ちながらも第七決闘高校のレギュラーにおいては皆無に等しいほどの圧倒的な実力差があったことを。このときまで余裕に満ちていた男たちの表情は、ほんの数分後にはまるで悪魔にでも出会ったかのような恐怖で顔を歪めるのだ。

 

 

 

 + + + + +

 

 

 

『遊凪高校、黒栄高校、準々決勝の試合を開始してください』

 

 審判が淡々とした発音で言葉を述べる。

 しかし、今の遊凪高校の状況においては無慈悲とでも言えるかもしれなかった。

 

「ハハッ、どうしたんだい? 君たち二人しかいないじゃないか?」

 

 それもこれも、遊凪高校の選手は晃と創の二人しかいないのだ。

 

小馬鹿にでもするかのように指を刺しながら黒栄高校の霧崎終が笑う。

よく見れば彼以外にも他人の不幸を喜ぶかのように他のメンバーもニヤニヤとした笑みを見せているのだ。嘲笑われる中、創は手を握り拳にし震わせながら涼香たちが戻ってこないのは彼らのせいだと確信しているかのように問う。

 

「霧崎、何をしたんだ?」

「おいおい、勝手に俺のせいにするなよ。言っただろ、トラブルは付き物ってな」

 

 おどけたような声と態度に思わず創は歯ぎしりをした。

 相手を不快にさせるような態度と仕草。何より仲間に何かあったかもしれないと思わせるだけでも平静を保つなんてことは難しいだろう。

 

「まあ、安心したまえよ。きっと、怪我をするほどのことじゃないさ。せいぜい遅刻が関の山だろう」

「お前っ……」

 

 珍しく怒りを見せる創に対し、晃が彼の肩を叩いた。

 

「部長。相手のペースに乗せられたら駄目ッスよ。氷湊たちはきっと大丈夫。まずは目の前のことに集中しましょう」

「っ……ああ、そうだな。SD(シングルデュエル)2頼むぜ」

 

 メンバーが二人しかいないためにTD(タッグデュエル)は不戦敗。

 晃がSD(シングルデュエル)2、創がSD(シングルデュエル)1で戦うという単純なオーダーになったのだ。

 

『ではSD(シングルデュエル)2の選手は前へ』

 

 審判の声と共に、晃が前へと出る。

 対する黒栄高校の選手はいったい誰が出て来るかと思ったら、彼の前に立ちはだかったのは出会ったばかりの人物である霧崎終だ。気味の悪い雰囲気を持った男が相手ということに晃はほんの少し体を硬直させたが呼吸を整え相手を見据えた。

 

「へぇ、まさか君が相手とはな」

「こちらこそ、あんたが相手とは思ってもみなかったッスよ」

 

 ニタニタと笑う霧崎。

 その彼は晃の顔を見ては、一つ面白いことを考えついたと言わんばかりに問いかけだしたのだ。

 

「そういえば君は新堂創……今の君の部長と勝負して勝ったことはあるか?」

「……? いや、無いッスけど」

 

 質問の意図がわからない。

 ただ、今まで創と勝負して勝ったことが無い。

 それだけは事実だ。

 

 晃の答えに、霧崎はくすりと笑いだした。

 

「そうかそうか。だったら良い事を教えてやろう。俺はな、去年まではお前たちの遊凪高校にいたんだよ。それも、そこの彼、新堂創と俺とで1年のエースとまで呼ばれていたんだからなぁ!」

 

 

 

 


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