遊戯王部活動記   作:鈴鳴優

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037.魂の一撃

 遊戯王部の団体戦の試合。

 TD(タッグデュエル)で勝利を収めた遊凪高校は1勝すれば勝ちぬけることが約束された次のSD(シングルデュエル)2。激しい攻防だがお互いが守備よりのデッキのために12ターン目へと移っていた。

 

「私は《火霊術-「紅」》を発動して《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》をリリースすることで攻撃力分のダメージを受けてもらいます!」

「やらせないよっ! 《魔宮の賄賂》を発動して無効にする」

「うっ……エンドフェイズに墓地の《ナチュル・チェリー》を除外してアマリリスを蘇生させて終了です」

 

 遊凪高校からは日向茜が、対する色条高校からは黄木(おうぎ)という選手が出場していた。バーンとビートをこなす茜のデッキは序盤は優勢であったものの黄木の使用する【エレキ】のキリギリスロックの前に対抗策がまったく無くじわじわと追い詰められていた。

 

「僕のターン。《エレキングコブラ》《エレキリン》《エレキマイラ》で直接攻撃(ダイレクトアタック)

「ひゃ、ひゃあっ!?」

 

 日向茜 LP3300→2300→1100→0

 

 3体の直接攻撃(ダイレクトアタックモンスター)が茜の場に立ちふさがるアマリリスを無視するように飛び越えて攻撃を行う。ロックと直接攻撃の戦術に成す術も無く残りライフを削られてしまった。

 

SD(シングルデュエル)2勝者。色条高校!」

 

 審判の宣言と共に色条高校から歓声の声が沸く。

 お互いに礼を言ったのちに戻るのだが

 

「ごめんなさい。負けちゃいました」

 

 元気が無く弱々しい口調で深く頭を下げながら申し訳なさそうに謝っていた。

 無論、茜も決して弱い訳で無く頑張っていたし相手に至っては最上級生の3年だった。

 

「ドンマイ。まだ負けたわけじゃないし気にしなくていいわ。かな──ちょっとだけ頼りないけど最後の橘が勝てばいいだけよ」

「おい、ちょっと待てくれ。今、かなり頼りないって言おうとしなかったか?」

 

 烏丸の一件以降、トリッキーなプレイスタイルで勝率が格段に上がった晃ではあるものの、今でも涼香や創の圧倒的な引きの前には追いつめることは出来ても負け越ししている。無論、敗北続きでは無いものの昔のイメージを完全には払拭できないみたいだ。

 

SD(シングルデュエル)1の選手は前へ!」

 

 インターバルも無くすぐに次の試合へと入る。

 審判の声に反応して晃と相手の選手が半歩ほど前へと出る。

 

「っと、それじゃあ行ってくるよ」

「橘くん、お願いします」

「負けたら承知しないわよ」

「頑張って」

 

 激励を受けながら対戦相手の目前へと進む。

 相手は上級生なのだろうか晃よりも背丈が一回りほど大きい。

 

「色条高校主将で3年の茶度(さど)だ。よろしく頼むよ」

「あ……はい。オレは──」

決闘場の詐欺師(トリックスター)の橘晃だろ」

「え……?」

 

 名乗ろうとした瞬間に、気が付けばついていた異名と共に名前を当てられたことにとまどいを隠せなかった。なんで知っているのかという顔をしていたのか、対戦相手である茶度は知っていると言わんばかりに語る。

 

「あの時の決闘(デュエル)を見ていたからね。目当ては、あの風祭高校の主将である烏丸の試合を見ることだったんだがね。まさか勝ってしまうとは……少なからず印象的だったよ」

 

 そういえば観客が結構いたなぁ、なんて思い出してみた。

 そもそも風祭高校は地区予選でベスト8にまで上った強豪校でその主将が試合をするんだ。大会間際なために対戦相手になるかもしれない選手の実力を見たいというのは当然なのだろう。

 

「けど、負けられない試合なんでね悪いけど勝たせてもらうよ」

「こっちだって負けないッスよ!」

 

 挨拶はここで終わる。

 友好的な挨拶を交わしたが、今この場では倒さなければいけない敵なのだ。

 デュエルのための距離を取る間に気持ちを切り替えて相手を倒すために集中する。

 

 このデュエルで敗北すれば文字通り敗退だ。

 晃が負けることができない勝負はこれで2度目。

 

決闘(デュエル)!』

 

 団体戦最後の決戦が始まる。

 決闘盤が起動し相手の茶度はカードを引き抜いた。

 

「俺の先攻。《召喚師のスキル》を使用し《クリフォート・ツール》をそのままペンデュラムゾーンへとセッティング。ライフを800支払い《クリフォート・ゲノム》を手札に加える」

 

 茶度 LP8000→7200

 

「なっ……【クリフォート】!?」

 

 晃が目を見開いて驚きの声を上げる。

 今までの対戦相手はずっと同じデッキに愛着を持ち使いこなしてきたのか、最新と言われるカード群の使用率は極めて低かった。しかし今、茶度が使うのは最新のペンデュラムモンスターを含むカテゴリであり環境上位の【クリフォート】だ。

 

「手札に加えた《クリフォート・ゲノム》を妥協召喚。《機殻の生贄(サクリフォート) 》を装備させカードを2枚伏せターン終了だ」

 

《クリフォート・ゲノム ☆6→4 ATK/2400→1800→2100》

 

 上級モンスターでありながらリリース無しで行える妥協召喚を行ったために《クリフォート・ゲノム》はレベルおよび攻撃力が減少する。

 2枚の伏せ(バック)カードにスサノヲと同じ攻撃力のモンスターという手堅い布陣の中、晃はどのように戦術を組み立てるか思考する。

 

「オレはカードを3枚伏せる。さらに《愚かな埋葬》で《オネスト》を落として《カード・カーD》を召喚して効果を発動。2枚ドローすることでそのままエンドフェイズに移行して終了」

「ほぅ……」

 

 手堅い布陣の前に攻め入るよりも同じように地を固めるプレイングに 茶度は軽く声を漏らした。

 わざとプレイングミスを犯して隙を作っては、罠を張るという奇怪な戦術を行う彼においては3枚も伏せれば必ず1つは罠が含まれているのだろう。加えて墓地に落とした《オネスト》も気になる。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 それでも彼のやることは変わらない。

 例え罠を張っていたところで【クリフォート】はサーチが豊富でアドバンテージを取るのが容易く、大量に除去されようとペンデュラムモンスター主体のためにエクストラデッキから何度でもペンデュラム召喚で蘇る。そしてクリフォートと相性が良い《スキルドレイン》なのだ。

 

「ツールで《クリフォート・ディスク》をサーチ。《機殻の生贄》の効果で2体分として扱いゲノムをリリースしディスクをアドバンス召喚。そして《機殻の生贄》、ゲノム、ディスクの順で発動して行く」

 

 茶度 LP7200→6400

 

 アドバンス召喚を行うことで生贄にしたモンスター、装備魔法、場に出したモンスターの効果がそれぞれ発揮しようとする。《クリフォート・ゲノム》の効果の対象で選んだのは一番左のカード。

 ドンピシャで《聖なるバリア─ミラーフォース─》を打ち抜いた。

 

「チェーンの逆処理でディスクの効果によりデッキから《クリフォート・アクセス》《クリフォート・エイリアス》を特殊召喚」

 

《クリフォート・ディスク  ☆7   ATK/2800》

《クリフォート・アクセス  ☆7→4 ATK/2800→1800》

《クリフォート・エイリアス ☆8→4 ATK/2800→1800》

 

 たった1体のモンスターの特殊召喚しただけで3体のモンスターが並ぶ。

 幸いなのは特殊召喚した場合でも妥協召喚と同じ扱いで攻撃力が下がることだろう。

 

 

「ゲノムの効果は不発。《機殻の生贄》で《クリフォート・アーカイブ》をサーチして《EMトランポリンクス》をペンデュラムゾーンへとセッティングする」

 

 2枚目のペンデュラムモンスターがセッティングされる。

 この2体のスケールは4と9と大抵のクリフォートモンスターならば場に出すことが可能だ。

 

「手札のアーカイブ、エクストラのゲノムをペンデュラム召喚として場に出し、トランポリンクスの効果でペンデュラムゾーンのツールをバウンス。バトルフェイズに入ってゲノムから直接攻撃(ダイレクトアタック)をするが何かあるか?」

 

《クリフォート・アーカイブ ☆6→4 ATK/2400→1800》

《クリフォート・ゲノム   ☆6→4 ATK/2400→1800》

 

「だったら《フォトン・リード》を発動。手札から《武神器─ハバキリ》を攻撃表示で場に出す」

 

  《武神器─ハバキリ ☆4 DEF/1600》

 

 鶴の姿をした晃の【武神】デッキの主力カードが《フォトン・リード》の演出により光の中から舞い降りるかのように出現する。本来、場に出しても無意味なカードを場に出す。それこそが晃の戦術において必要不可欠な行動だ。

 

「さて、ここで場に出したのは他に出せるモンスターがいないためか、もしくは何か狙いがあるかはわからないが続けさせてもらう。念には念を入れて《スキルドレイン》を発動だ!」

 

 茶度 LP6400→5400

 

《クリフォート・ディスク  ☆7   ATK/2800》

《クリフォート・アーカイブ ☆4→6 ATK/1800→2400》

《クリフォート・ゲノム   ☆4→6 ATK/1800→2400》

《クリフォート・アクセス  ☆4→7 ATK/1800→2800》

《クリフォート・エイリアス ☆4→8 ATK/1800→2800》

 

 途端、たった1枚のカードで空気さえも一変した。

 自身の効果の枷により下級モンスターと化していた機械たちが本来のレベルと攻撃力を取り戻して元々持っていたであろう威圧感さえも取り戻したのだ。モンスターゾーンを埋め尽くす上級、最上級のモンスター群は決闘場を非情な戦場へと染め上げたのだ。

 

「っ……」

 

 この光景にほんのわずかに晃も息を飲んでしまう。

 

「さあ攻撃と行こうか。ゲノムでハバキリを、そしてアーカイブ、アクセス、エイリアス、ディスクの順で攻撃するが何かあるなら遠慮なく発動してくれ」

 

 晃 LP8000→7200→4800→2000

 

 攻撃力の低い順からの怒涛の攻撃を晃はゲノム、アーカイブ、アクセスと黙って受けて行く。

 無傷だった8000のライフはほんの4分の1にまで追い詰められて行きさらに最上級2体の攻撃が控えている時だ。後、一撃で決着が着くという《クリフォート・エイリアス》がとどめを刺しに攻撃態勢を取った瞬間に晃は眼を見開いて1枚の伏せカードを発動させた。

 

(トラップ)発動《ピンポイント・ガード》。墓地のハバキリを蘇生させる!」

 

 墓地から蘇り盾となるかのように立ちはだかる《武神器─ハバキリ》。

 実質、今のハバキリは《ピンポイント・ガード》によりあらゆる破壊耐性を持った強固な盾だ。

 

 だが、ここで違和感を感じた。

 何故《武神器─ハバキリ》が破壊された次の攻撃で《ピンポイント・ガード》を発動させなかったのか。アーカイブから連続で攻撃宣言を行ったせいだと考えたが、それならディスクの攻撃時に発動させたのが不可解だ。

 

 何か企んでいるように見える。

残りの2枚のカードだが、その中の1枚は墓地に《オネスト》が落ちているために確実に1枚は《光の召集》だと判断する。

 

「ターン終了時にディスクで特殊召喚したアクセスとエイリアスは破壊される」

 

 《クリフォート・ディスク》のデメリット効果で破壊されるもペンデュラムモンスターのためにエクストラデッキへと送られる。また次のターンでペンデュラム召喚で出せるとなるとデメリットと言うほどでも無かった。

 

「オレのターンだ。《武神─ミカヅチ》を召喚して場のハバキリと共に《武神帝─スサノヲ》エクシーズ召喚」

 

 《武神帝─スサノヲ ★4 ATK/2400》

 

「ここでエースを召喚してくるか。けど無意味だな」

 

 不利なこの状況でエースモンスターを出現させる。

 だが、この場では茶度の《スキルドレイン》により効果を失い今の《武神帝─スサノヲ》は体を重そうに跪いているのだ。効果が使えずに攻撃力が2400となればせいぜいゲノムやアーカイブと同士討ちが関の山だ。

 

「いや、やってみなきゃわかんないッスよ。手札の《武神器─ヤツカ》の効果を発動してこのターンスサノヲが2回攻撃できるようになる!」

 

 おあつらえ向きに連続攻撃まで足した。

 やはり、彼が狙っているのは明白だ。

 

「スサノヲで《クリフォート・ゲノム》へと攻撃!」

 

 攻撃宣言を行う最中に茶度は見た。

 今、晃の右腕は1枚の伏せカードへと伸ばされているのだ。

 

(いいぜ。来いよ)

 

 勝利を確信する。

 茶渡が最後に伏せた1枚は偶然にも彼のデッキとは相性の良い《真剣勝負》というカード。ダメージステップに発動するカードを潰すというコンバットトリックキラーだ。

 

 しかしながら茶度は勘違いしていた。

 晃が最初のターンに伏せた3枚のカード。

 《フォトン・リード》《ピンポイント・ガード》の2枚に加えて最後のカードは必ず《光の召集》のはずだ。だが、それは彼の罠だったのだ。

 

「攻撃宣言時に《魂の一撃》を発動!」

「なんだとっ!?」

 

 晃 LP2000→1000

 

《武神帝─スサノヲ ATK/2400→5400》

 

 予想外のカードの発動にに目を見開いて驚きの声を上げる。

 いくらダメージステップにカウンターできるカードを伏せていても攻撃宣言時に発動するカードでは意味が無い。

 

 茶度 LP5400→2400

 

「くっ……このライフは、マズいッ!?」

 

 予想を大きく外して戸惑いながら残りライフを見た。

 《クリフォート・ツール》《スキルドレイン》と大きく減らし過ぎたのだ。

 

「ヤツカの効果によりもう1度、スサノヲで《クリフォート・アーカイブ》へと攻撃!」

 

 最初のターンに《オネスト》を落としていた意味なんてなかった。

 おそらくは最初から警戒させておいて、この状況を狙っていたのだろう。

 

 茶度 LP2400→0

 

 決着。

 最後の最後まで晃の戦術に騙され茶度は敗北したのだ。

 警戒すれば警戒するほどドツボに嵌る。決着が着いた時点で決闘場の詐欺師(トリックスター)の本当の恐ろしさを理解したのだ。

 茫然と立ち尽くしたまま、2つ年下の彼を見ながら愚痴るように呟いた。

 

「マジかよ……想像以上じゃないか」

 

 団体戦の1回戦。

 結果は、2勝1敗で決着が着いたのだった。

 

 

 


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