登録人数 最低5名 最大8名
※指定日までに登録を済ませること。当日に都合などにより参加人数に達していなくても参加は問題なく行える。
団体戦は
1勝1敗1引き分けなら補欠の選手でのシングルデュエルの勝負となる。
※オーダーは試合ごとに登録メンバーで変更可能。
デッキの変更も自由。
036.頼れるパートナー
烏丸亮二の一件から数週間が経った。
晃の勝率が格段に上がり戦力として数えることができるようになっては、一層に部活の練習が大会向けへと成って行った。実戦練習にプレイングの勉強、あらゆる相手を想定してのシュミレーションなど。
その間にあった出来事で、一学期の期末テストもなんとか回避。
学年トップクラスの成績を持つ涼香。茜と有栖も問題無く平均より上の学力だ。
晃は、なんとか三人がかりで教えて赤点をギリギリにして逃れることに成功した。
一番の問題であり学年が違う創に関しては、遊戯王部内で手の打ちどころも無いが『赤点を取られて腑抜けられても困る』と言いながら生徒会長であり3学年の二階堂が創を生徒会室で缶詰の刑に処したおかげでギリギリで赤点回避できた。
当の本人はげっそりとして数日間、真っ白に燃え尽きていた。
そうして大会当日。
夏休みに入り始めた7月の下旬という頃に遊戯王部の大会が開催された。
場所は、市の総合運動場全体を借りるという大掛かりな催し物となっていた。体育館だけでなく、野球場、サッカー場などの競技場に仕切りを用意して決闘スペースを確保したりと参加校が100に近いために当然といえば当然なのだろうか。
遊凪高校のメンバーは現地集合ということで総合運動場の入り口の一つに集合をしていた。周りには同じ考えなのか他校の生徒もちらほらと見られる。服装に関しては学校の見わけが付ければ良いということで制服やらジャージなど様々だ。
8時という決めていた集合時間になった頃だ。
緊張ゆえか言葉が少ない中で涼香が疑問を口にした。
「それで
「あ、ええと、まだ、来ないですね」
集合していたのは創を除く4人。
前の合宿で遅刻して見せたように時間にルーズなのは知っていたが、さすがに大会にまで遅刻をするとは予想していたわけでも無く全員が様々な感情を露わとする。
苛立ちを見せる1名。
不安と焦りの表情を見せる2名。
やっぱりかと呆れる1名。
「で、電話してみましょう!」
すぐさま茜はスマートフォンを取り出して創へと掛けた。
耳元に近付けながら彼が出てくるのを待つのだが十数秒という間を空けたのち、諦めたかのように仕舞っては残念そうに告げる。
「……電池切れのようです」
「っ、あの馬鹿……」
涼香はさらに怒りゲージを溜めて拳をわなわなと震わせていた。
遅刻した挙句に連絡にさえ出ない。大会はどうするのだ、と随分お怒りのようだ。
「仕方ないですね、それなら──」
茜が何か語ろうとした瞬間だった。
突然、不穏な空気に包まれる感覚と周囲から息を飲む音が聞こえるのだ。
得体の知れない緊張感の正体を探れば一つのバスが目に映る。
「見ろよ、第七決闘高の専用バスだぜ」
「ああ、去年の地区大会の優勝校で全国ベスト4の高校か」
「バスで会場まで来るのかよ」
「なんでも部員は100名を越えてるなんて聞くぜ」
「うわっ、多いよな。そのトップが試合に出るなんてそら強いわけだ」
なんて、ひそひそと情報漏洩の如く噂が流れ込んでくる。
確か生徒会長の話では去年の団体戦で遊凪高校と初戦であたり惨敗したという話をかつて聞いた覚えがある。
バスの扉が開けば4人の男女が会場へと歩き出す。
先頭を歩く眼鏡をかけた柔らかい表情の男性。
セミロングの赤褐色の髪にやや背の高いどことなく見覚えがあるような女性。
一番背が高くガタイも良いが無表情の男性。
地毛に見えない派手なピンク色のツインテールの少女。
「っ……」
晃は思わず息を飲んだ。雰囲気、貫禄と言った類のものだろうか。
対峙していないのにも関わらず一目みただけで、あの4人がかなりの実力者だとわかるのだ。ただ視界に映るだけでも息が詰まるような感覚に体が震える。
数秒ののち、あの4人が行ってしまえば緊張が解ける。深呼吸をして乱れた呼吸を整えたあとにわかったのだが、晃だけでなく遊凪高校のメンバー全員が同じような緊張を感じていた。
「ふぅ、やっと行ったわね。さすが全国クラスと言ったところかしら……そう言えば日向さんは何て言おうとしたの?」
空気が落ち着いてきた頃、涼香は第7決闘高校の面々が到着する前に茜が何か言いかけたことを思い出してきこうとする。だが、茜はそれに返答するどころか反応することも無くただ先ほどの4人が向かった先へと視線を向けるだけだ。
「……日向さん?」
呼びかけるも反応が無く呆然としている。
涼香は手のひらを彼女の顔へと近付けて軽く振ってみた。
「ひゃ、な、何ですかっ!?」
「それはこっちの台詞。どうしたのよ?」
ハッ、と我に帰り大きなリアクションで驚く。
視線を右往左往させながらあたふたと茜は答える。
「い、いえ、なんでもありませんから……それよりも部長が来ないと言うなら仕方ありません。私たちだけで出ましょう」
+ + + + +
会場番号26番。
場所が足りずに確保するためなのかテニスコートを決闘フィールドに変えたような場所が初戦の舞台だった。下にはテニスコートのラインがそのままでネットだけが取り除かれた場所で遊凪高校の遊戯王部が4人。対する相手校の色条高校は6人が対峙していた。
「それでは開始します。まずは
審判らしき人物の言葉に従い各校2名づつを残して他はコートの隅へと移動しようとする。移動しすれ違う間際に茜は今からデュエルを行う二人へと声をかける。
「それではお願いしますね。涼香ちゃん、有栖ちゃん」
「任せておきなさい」
「うん、頑張るから」
創がいない今、残りのメンバーで初戦に挑むオーダーだがタッグデュエルにおいて茜の【アマリリスビートバーン】や有栖の【ガスタ】は正直な話、向いていない。デッキだけならば晃が一番向いているのであるが彼のプレイスタイルはあまりに異色だ。
最初に決まった涼香は誰とパートナーを組むかで有栖を指名する形で落ち着いた。
涼香と有栖は最初の挨拶として相手選手目前に歩み寄っていた。
そこには不敵に笑う赤髪と青髪の男子生徒。
「まさか初戦でリベンジできる事になるとはね」
「待っていたぜ、この時をなぁ!」
まるで知り合いであるかのように突っかかってきたのだ。
いったい何のことやらと涼香と有栖は顔を見合わせて一言だけ
「誰だっけ?」
二人の男子生徒は大きくよろけた。
リベンジとか、なんとか燃えて意気込みも十分に見えるが知らない人は知らない人だ。
「くっ、まさか忘れられていたとは……俺だ。赤松だ!」
「そして僕は青柳だ!」
涼香に対して指を指しながら堂々と名乗ってくる。
頭に手を当てて記憶を巡らすような仕草をする涼香だが
「ごめん全然、わからない」
「っ……舐めた真似しやがって
「そして、君のパートナーはあのさえない彼だった!」
青柳は晃を指差してはパートナーだったと告げる。
そもそも、涼香はタッグデュエル自体回数が少なく晃とパートナーだったことなんて滅多に無い。そこにカードショップという場所なら、なおさら
「あっ……」
思い出した。
まだ遊戯王部に入る前に思わず来ていたカードショップで突如、晃と組まされてタッグデュエルを行ったことを。この後に
今、思えば涼香が遊戯王部に入ることになった最初の原因なのだ。
「思い出したようだな。あの時は、ほぼお前一人の力で敗北したようなもんだが今回はそうはいかない」
「僕たちは君に負けてから、さらに実力を磨いてきたんだ」
まるで涼香だけに負けたような言い方。
実質、彼女の最後のターンによる巻き返しが印象過ぎて晃の活躍など覚えていないらしい。涼香はほんの少し溜め息を吐いたかと思えば対戦相手の二人を見る。
「そう、そういえば私も借りがあるし遠慮なくやらせてもらうわ!」
ちなみにだが、あのデュエルがなければ涼香の自称である
「へっ、それでこそリベンジしがいがあるぜ」
「さあ、始めようか!」
挨拶はここまで。
お互いに十数メートルという距離を取って対峙する形となる。
勝てばもう1勝で勝ち抜け、負ければ1敗もできない窮地という大事な勝負。
『
第一試合のタッグデュエルがここで開始された。
先攻は色条高校決闘部の赤松から。
設定の確認をすれば次の相手ターンで回ってくるのは氷湊涼香となっているのだ。それを確認した青柳はニタリと笑っては彼に合図を飛ばす。
「赤松君。作戦Dだ!」
「おうともさっ! 《ジュラック・グアイバ》を召喚。さらに《二重召喚》を使い《ジュラック・ヴェロー》を追加召喚し《エヴォルカイザー・ラギア》をエクシーズ召喚だ!」
《エヴォルカイザー・ラギア ★4 ATK/2400》
何が作戦Dなのだろうか、流れるかのように2体の恐竜を召喚しては1体のドラゴンへと姿を変えた。生きた《神の宣告》であるこのモンスターは、かつて晃とタッグデュエルでも対峙した赤松のエースモンスターだ。
「さらにカードを伏せてターン終了」
「私のターン」
次いでは涼香のターン。
ラギアと伏せカード1枚という動きづらい陣形でありながらも涼しい顔をしながらデッキからカードを引く。ほんの数秒の間を空けたのちに1枚のモンスターを召喚しようとした。
「まずは《E・HEROオーシャン》を召喚するわ」
「させねぇ! ラギアの効果で無効だっ!」
「ちっ……」
思わず舌打ちをしてしまう。
かつてのデュエルにおいて《エヴォルカイザー・ラギア》が存在しながら《E・HEROオーシャン》の召喚を許してしまった故に《超融合》を発動させられた。融合素材にはされなかったものの、結果的には効果を発動できずに葬られたのだ。
舌打ちをした涼香も狙っていたのか手札には《超融合》が握られていた。
前回とは違い今の赤松、青柳は完全に涼香を警戒している。
「だったら、4枚セットし手札から《E・HEROバブルマン》を特殊召喚。伏せた《ミラクル・フュージョン》を発動して──」
「させねえよっ! 《神の忠告》!」
赤松・青柳 LP8000→5000
今の赤松は彼女の一挙一動を見逃さない。
水属性を主体とした【HERO】デッキに彼女のキーカードを把握している今では、動きを徹底して封じてくる。いくら引きが強く才能を持ったとしても使えるカードにも限りがあるために涼香も思ったように行動が出来ない。
「っ……ターンエンドよ」
残る伏せカード《超融合》、《リビングデッドの呼び声》、《神の警告》だけでは動くこともできずに歯噛みしながらターンの終了を宣言した。
ちなみにだが。
青柳が言っていた作戦Dとは、ただ単純にDefenseのDである。
「僕のターンだ。《大嵐》を発動し全てのカードを吹き飛ばす!」
「なっ……!?」
涼香が伏せた3枚のカードが暴風により吹き飛ばされた。
手札0、場のもカードもバブルマン1枚だけだ。
「さらに《深海のディーヴァ》召喚。《真海皇トライドン》を特殊召喚し《海皇龍ポセイドラ》を特殊召喚!」
《海皇龍ポセイドラ ☆7 ATK/2800》
これもかつてのデュエルで青柳が使用していた戦術だ。
前回と違うのは、意気込みと涼香に対する対策が十分に練られていた事だろう。
「シングルデュエルなら僕らは君には勝てないだろう。けどタッグは違う! 僕らのコンビネーションが成す必殺カード《
《氷炎の双竜 ☆6 ATK/2300》
墓地のディーヴァ、トライドン、グアイバが除外され氷と炎、相反する二つの首を持つ竜が姿を現した。今の彼らには3体の上級モンスターが立ち並ぶ。
「《氷炎の双竜》の効果で手札を1枚捨てバブルマンを破壊。バトルフェイズに入って総攻撃だ!」
「っ……やってくれるじゃない」
涼香・有栖 LP8000→5700→3300→500
たった2ターンでこの有様。
全てのカードを葬られ、ライフを大きく削られた。
赤松が相手の行動を封じる。
青柳が猛攻を仕掛ける。
単純でありながらも理想的なコンビネーションだ。
「1枚伏せてターンエンド。これが僕らが君を倒すために編み出した戦術だ」
「そうね。認めてあげるわ、私一人だけだったら勝てない」
正直な話、涼香はタッグデュエルを侮っていた。
勝ち抜く実力があったとしても単体で強くては意味が無い。二人の戦術を組み合わせて本来の実力以上を発揮させることがタッグデュエルの真骨頂なのだ。今の二人相手に涼香は一人で挑んでも勝ち抜くことできないと認める。
「もっとも、あんた達が違うのと同じでこっちも違うのよ」
二人の涼香に対する対策と戦術は完璧だった。
ただ一つの誤算があるとすれば──。
「
前回の晃とは違い、涼香にも頼れるタッグパートナーがいることだ。
風戸有栖はカードを引いてプレイングに入る。
「わたしのターン。サイクロンを発動して伏せカードを破壊してから手札を捨てて《クイック・シンクロン》を特殊召喚。捨てた《ガスタ・グリフ》の効果で《ガスタの疾風リーズ》を出して2体で《No.61ヴォルカザウルス》をエクシーズ召喚するよ」
「なにっ!?」
《No.61ヴォルカザウルス ★5 ATK/2500》
【ガスタ】には似つかわしく無い高熱の炎に装甲を纏った赤く荒々しい恐竜。
このモンスターにある凶悪な効果と現在の状況を考えて赤松と青柳は思わず口を空けて驚きの表情を見せた。
「ヴォ、ヴォルカザウルスでポセイドラを破壊……します」
両胸の突起部分が開き激しい音と共に高熱の熱線が発射される。
その音に思わず有栖は「ひゃ!?」という声と共に両耳を塞いで一瞬だけ縮こまる。
赤松・青柳 LP5000→2200
「《ガスタ・ガルド》を召喚して《強制転移》を発動」
「っ……僕はラギアを選択する」
ガルドとラギアのコントロールが互いに入れ替わる。
先ほどまでライフを一気に削り大型モンスターを並べていたアドバンテージが嘘のように変わってくるのだ。
「え、と……バトルフェイズに入ってヴォルカザウルスで《氷炎の双竜》を攻撃。ラギアでガルドを攻撃です」
「く、そっ……」
赤松・青柳 LP2200→2000→100
今の青柳の残された手札には攻撃を防ぐカードなど無い。
もとより手札誘発のカードがデッキに入っていないこの状況で確信に至ってしまったのだ。このデュエルでは完全にマークを外していた彼女によって敗北する事に。
「ガルドが破壊されたことでわたしはデッキから《ガスタの巫女ウィンダ》を出すよ」
《ガスタの巫女ウィンダ ☆2 ATK/1000》
緑色のポニーテールの幼げな少女。
リクルーターと言われるこのカードは相手の戦闘によって破壊されることでガスタチューナーを呼べるという壁的扱いにしかならない。けれど、今のこの状況ではそのような効果など関係無くに攻撃表示。そもそも壁モンスターすら必要ない状況だからだ。
「ウィンダで
今まで様々なモンスターの攻撃を見てきた。
剣を振り下ろしたり、魔法を使ったり、ブレスを吐いたりと立体映像ならではの派手な演出のエフェクトを持った攻撃たち。しかしながらウィンダの攻撃力が1000しか無いからなのだろうか、彼女は持っている杖を大きく振りかざしてポコンッと可愛らしく青柳を叩いただけだ。
赤松・青柳 LP100→0
威力な無くとも充分。
残りライフが100しかなかった相手のライフを削りきり勝敗が決したブザーが鳴り響いた。
大型モンスターを並べて優位を感じていたのがそもそもの間違いだ。
風戸有栖が使用するのは《No.61ヴォルカザウルス》や《強制転移》だけで無く《Theアトモスフィア》や《ダイガスタ・スフィアード》など高い攻撃力を持ったモンスターがいるほどに際立つカウンター型のデッキなのだから。
二人の敗因は涼香にしか警戒をしていなかったためだろう。
デュエルが終わり最後の挨拶を済ませる。
控えている晃や茜の元へと戻ろうとする際に立ち止まり
「助かったわ。ありがとう、風戸さん」
「うん……」
二人はハイタッチを交わした。