遊戯王部活動記   作:鈴鳴優

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035.決闘場の詐欺師

「俺はメインフェイズ2に入る」

 

 まさか2枚目の《武神器─ハバキリ》を抱えていたという騙し討ちを受けながらも熟練の経験者である烏丸は、同様せずに《補給部隊》の効果でドローしながらプレイングを続行する。

 

「ゲイルとブラストで《BF─アーマード・ウィング》をシンクロ召喚。カードを1枚伏せてターンエンド」

 

《BF─アーマード・ウィング ☆7 ATK/2500》

 

「俺のターン、カードを1枚伏せ《カード・カーD》を召喚。効果により2枚ドローしエンドフェイズに移行。ヤマトの効果で最後のハバキリを手札に加えて捨てる」

 

 またしても《武神器─ハバキリ》を墓地へと送る。

 しかも、これで墓地に3枚全て出尽くしたのだ。

 

(いったい、何を考えている?)

 

 平静を尽くしながら烏丸は晃の思惑を予想する。

 今度は手札に《オネスト》があるのか、はたまた2枚目の《剣現する武神》か。

 

「だったら、種を割らせてもらおうか。ボチヤミサンタイ、俺は《ダーク・アームド・ドラゴン》を特殊召喚だ」

 

《ダーク・アームド・ドラゴン ☆8 ATK/2800》

 

「だったら召喚時に《エフェクト・ヴェーラー》で無効にする」

「無駄だ。《スキル・プリズナー》を発動する。そのままシュラを除外し伏せカードを破壊だ」

 

 前回と違わぬやり取りだ。

 ダムドを止めることは叶わずこのまま蹂躙する。

 

 なんて、烏丸を含む観客たちが思った瞬間に、黒い装甲の龍は茶色い竜巻によってズタズタに引き裂かれるのだった。

 

「何っ──!?」

「リョウ兄が破壊したのは《荒野の大竜巻》。破壊されたことによって《ダーク・アームド・ドラゴン》を破壊する」

「…………」

 

 烏丸は息を飲み得体の知れない感覚を覚えた。

 《ダーク・アームド・ドラゴン》が破壊されたことよりも、その前に《エフェクト・ヴェーラー》を発動した理由が不明だ。《荒野の大竜巻》を伏せていたのなら、そのまま好きに破壊させればいいだろう。なのに発動したのは、何のためだろうか?

 

 《スキル・プリズナー》を無駄に使わせる?

 前回使ったとはいえ、必ずソレとは限らなず合理的では無いだろう。

 

 単純にダムドを無効化させたかった?

 なら、その理由は?

 

 訳が分からない。

 まるで暗闇の中に手を伸ばす感覚だ。

 

「リョウ兄? まだターンの終了宣言を聞いてないけど?」

「っ、すまない。ダムドが破壊されたことで《補給部隊》でドローし、アーマード・ウィングでヤマトへ攻撃!」

 

 ハッ、と我に返り攻撃宣言を行う。

 アーマード・ウィングならば《武神器─ハバキリ》だろうが《オネスト》だろうがあらゆるコンバットトリックを受け付けることは無い。晃は何もカードを使用する素振りを見せずに攻撃を通した。

 

晃 LP8000→7200

 

「ヤマトが破壊されたことで手札から《武神器─イオツミ》の効果を発動してデッキから《武神器─ムラクモ》を特殊召喚」

 

《武神器─ムラクモ ☆4 DEF/600》

 

 ヤマトが破壊されても後続を残す。

 武神の獣戦士族モンスターでは無いのは、おそらくエクシーズ召喚のためだろうか。

 

「……ターンエンドだ」

 

 晃の不可解なプレイの連続に困惑を感じる烏丸。

 素人の単純なプレイミスなら話が早いが、晃からは何かを企んでいるような様子が伺える。最初に見せた二重の罠のように、幾重にも罠が張られているかのような。

 

「よし、カードを1枚伏せ《武神器─サグサ》を召喚し。2体で《武神帝─ツクヨミ》をエクシーズ召喚。素材のムラクモを取り除き手札を捨て2枚ドロー」

 

《武神帝─ツクヨミ ★4 ATK/1800》

 

 手札を全て捨てることで2枚のドローができる《武神帝─ツクヨミ》。

 晃は捨てる手札を最小限に調整して尚、ちゃっかりと捨てた1枚は墓地から発動できる《ブレイクスルー・スキル》だ。

 

「墓地のムラクモの効果でアーマード・ウィングを破壊する」

「ちっ……無駄だ墓地の《スキル・プリズナー》を除外で無効にする」

「だったら、もう1枚伏せてターン終了」

 

 晃の場には2枚の伏せカードと2枚の手札。

 普通ならなんてこと無い状況なのだろう。

 

「俺のターンだ」

 

 しかし、プレイングミスを装った不可解なプレイが恐怖心を煽る。

 彼の手の中には何らかの罠が待ち構えているかもしれない。見えない手札と伏せカードに少々、たじろぐ烏丸だが冷静に分析する。

 

今まで罠にかかったのは、深読みし過ぎたからだ。

相手の戦術の意図を読もうとすれば、するほどドツボに嵌まる。

 

おそらく、あの手札や伏せカードもこちらが何か対処しようとした時にこそ嵌めるための罠なのだろう。ならば話は簡単だ。力押しで事済む話。

 

「2枚目のシュラを召喚。旋風で2枚目のブラストを加えバトルフェイズに入る。アーマード・ウィングで攻撃!」

 

 アーマード・ウィングにコンバットトリックは通用しない。

 今までのプレイングで単純な攻撃誘発もしてこないだろうと呼んだ。

 

 しかし、それは間違いだ。

 

一般的な戦術を表、晃の戦術を裏と例えるなら

 

表が有るからでこそ裏が活きる。

そして、裏が有るからでこそ表もまた活きるのだ。

 

「罠カード発動、《聖なるバリア─ミラーフォース─》!」

「なんっ、だと!?」

 

 アーマード・ウィングの攻撃がバリアに当たり乱反射する。

 2体の黒翼は無残にも消滅した。

 

 本来なら真っ先に予想しなければいけない単純な罠。

 烏丸は理解していなかった裏の裏は表だということを。

 

「くっ……《補給部隊》の効果でドロー。カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

 プレイは続行するものの、表情には焦りのような苦い感情を浮かべている。

 動揺を隠しきれずに晃の術中に嵌まっているのだ。

 

 

 

「……すごい。すごいですよ、橘くんっ! このままなら行けますっ!」

 

 観客側から見ていた茜は興奮気味で喜んでいた。

 格上の相手でありながらも、戦略が見事に通用して彼のペースなのだ。このまま行けば勝てるかもしれないという事実に喜びを隠せない茜と同じように涼香も口元が緩み、有栖もホッとしている。

 

「いや、それはどうだろうな?」

 

 だが、創はそれを否定した。

 まだ勝負はわからないと言わんばかりな表情で状況を見守っている。

 二階堂も同じ意見なのか口を挟んだ。

 

「並みの相手ならこのまま押し切れるだろう。だが、奴は遊戯王部で主将を務めるほどの実力者だ。このまま終わるとは思えん」

 

 こういうやり取りをしている間にも、決闘は続いて行く。

 

 

 

「俺は墓地のヤマトを除外し《武神─ヒルメ》を特殊召喚。ツクヨミの効果で1枚だけの手札を捨てて2枚ドロー。そして《武神─ミカヅチ》を召喚しヒルメと共に《武神帝─スサノヲ》をエクシーズ召喚」

 

《武神帝─スサノヲ ★4 ATK/2400》

 

 ここで晃のデッキのエースモンスターが出現する。

 完全な反撃の好機に、2体のエクシーズモンスターが並ぶ。

 

「バトル。ツクヨミで攻撃!」

 

 烏丸 LP7200→5400

 

 烏丸は立ち尽くしながら黙って攻撃を受け入れた。

 弟分だと、守られる側の人間だと思っていた晃から無様にも罠に掛かり、今もこうして直接攻撃さえ受けたのだ。

 

──自分はいったい何をしているのか?

 ──守ると思っていた自分はいったい何なのか?

 

 そのような感情が渦巻き困惑をしている。

 

「続いてスサノヲで──」

 

 続けての攻撃を行おうと宣言しようとする。

 

 ──パシンッ

 

乾いた音が決闘場に響き渡った。

 

 気が付けば烏丸は両手で自分の頬を叩いていたのだ。

 赤く腫れ痛々しく見えてしまうが、当の本人は気にする様子も無い。

 むしろ、目が覚めたと言わんばかりに瞳には決意が宿った。

 

「俺はどうやら、思い違いをしていたみだいだな」

「……え?」

「お前はお前なりの強さがある。もう約束なんてどうでもいい……俺は一人の決闘者として、橘晃! お前を倒す!」

 

 今の彼は、目の前の相手を助けるとか救うとか、余計なことを考えるのをやめた。

 純粋に屈服させる敵と見なし、己の力を全て尽くして粉砕するために。

 

「だったらオレだって! スサノヲで直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

「罠カード《針虫の巣窟》!」

 

 スサノヲを除去するわけでも無く、攻撃を止めるわけでも無い。

 このカードの効果は、ただ純粋にデッキトップ5枚を墓地へと送るだけの効果だ。

 相手の攻撃に対して意味の成さないカードでありながら烏丸は絶対に望んだカードを落とせると自信に満ちた目でデッキトップ5枚を墓地へと送った。

 

「けど、攻撃は止まらない!」

 

 烏丸 LP5400→3000

 

 スサノヲが振り下ろす剣が烏丸を掠めた。

 ライフが大きく削られる最中、烏丸は不敵な笑みを浮かべながら墓地から1枚のカードを抜き出して発動させるのだ。

 

「直接攻撃で2000以上のダメージを受けたことで《BF-天狗風のヒレン》《BF-白夜のグラディウス》を墓地から特殊召喚する」

「なっ!?」

 

《BF-天狗風のヒレン   ☆5+ DEF/2300》

《BF-白夜のグラディウス ☆3  DEF/1500》

 

晃で無く観客たちも目を見開いて驚きを隠せなかった。

5枚も墓地を肥やせるとはいえど、カードを指定しない分、運に頼る要素も大きい《針虫の巣窟》を攻撃のタイミングで発動させ見事に今、特殊召喚した2体を落としたのだ。デッキを信じ、自分を信じた末の結果。

 これが晃には持ち得ない才能だ。

 

「……メイン2にスサノヲのエクシーズ素材を取り除いて《武神器─ハチ》を手札に加えターンエンド」

「俺のターンだ。もうお前の手には乗らない! 罠だろうが、何だろうが真っ向から打ち破るまでだ! ヒレンとグラディウスをシンクロの素材として──」

 

 当然の如く2体のモンスターをシンクロのために扱う。

 8レベルといえば強力なモンスターが多々、ある中で烏丸は1体のモンスターを呼び込んだ。

 

「これが俺の覚悟の現れだ! 《魔王龍ベエルゼ》!」

 

《魔王龍ベエルゼ ☆8 ATK/3000》

 

 3つの頭を持ち禍々しくも巨大な龍の姿。

 魔王と呼ばれる名前に相応しい効果を持つモンスター。

 

「このカードはあらゆる破壊を受け付けない。お前の戦術を真っ向から粉砕できるカードだ」

 

 今まではハバキリによるコンバットトリックやミラーフォースのカード効果による破壊で対処してきたが、今回に限ってそれらが通用しないモンスターだ。《強制脱出装置》などでなら対処できるものの、生憎と今の手元には無い。

 

「ブラストを通常召喚し、旋風により2枚目のゲイルをサーチ。特殊召喚することで《ブラック・リターン》を発動! スサノヲをバウンスし、攻撃力分回復する」

「っ……!?」

 

 烏丸 LP3000→5400

 

 追い打ちと言わんばかりにモンスターの展開とエースモンスターのバウンス。

せっかく削ったライフも回復までされたのだ。

 

「ゲイルでツクヨミのステータスを半減させ、場のブラストとゲイル、墓地のヴァーユとアーマード・ウィングで《BF─アーマード・ウィング》と《BF─孤高のシルバー・ウィンド》を場に出す!」

 

 武神帝ツクヨミ

 ATK/1800→900

 

 《BF-大旆のヴァーユ》なんて、いつ墓地に送ったのだろうと考えるがおそらくは《針虫の巣窟》の時に落ちたのだろう。場に立ち並ぶ3体の上級シンクロモンスター。策を巡らせて立ち向かう晃とは、真逆だ。

 

 烏丸亮二は、ただ純粋に強い。

 

「バトルフェイズだ。アーマード・ウィング、シルバー・ウィンド、ベエルゼの順で攻撃!」

「くっ……墓地の《武神器─サグサ》の効果でツクヨミの破壊を1度だけ無効にする」

 

 晃 LP7200→5600→3400→400

 

 たった1ターン。

 それだけで、初期に近いライフが一気に削られたのだ。

 限りない破壊力の前に、ギリギリで踏みとどまることが出来たが5000のライフ差に加えて相手には3体のシンクロモンスターが立ち並ぶのだ。

 

 状況は最悪と言ってもいい。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド。さあ、お前は俺の本気を乗り越えられるか?」

「っ……俺のターン」

 

 今の晃の手札は3枚。

 しかし、それらはまるでバラバラの歯車のように噛み合わない。

 

 この状況を打開するには、1枚だけ晃のデッキに眠っているのだ。

 祈るように、けれど運命を切り開くかのように晃はデッキからカードを引き抜いた。

 

「ドローッ! っし、《武神降臨》を発動。墓地から《武神─ミカヅチ》、除外から《武神─ヤマト》を特殊召喚し、もう1度《武神帝─スサノヲ》をエクシーズ召喚だ!」

 

 絶望的な窮地の中、晃はもう1度、自分のエースモンスターを場へと駆り立てた。

 攻撃力は相手のシンクロモンスター1体にも及ばない。破壊耐性も持ち、このカードだけでは状況が打破するのは不可能な状況でも尚、晃は戦術を立てる。

 

「スサノヲの効果で《武神器─ヘツカ》を手札に加え、墓地の《ブレイクスルー・スキル》を発動し《BF─アーマード・ウィング》の効果を無効にする」

「何?」

 

 晃のプレイングを見て烏丸は違和感を感じた。

 ここから逆転なんて不可能に近いと言うのに、まるで勝負に出るかのような下準備だ。

 

 烏丸の勘ではあるものの、この晃のターン。

 これを凌げさえすれば勝利は確定すると感じた。

 

「バトル! 《武神帝─スサノヲ》で《魔王龍ベエルゼ》へと攻撃する!」

 

 烏丸は思考する。

 攻撃力が低いモンスターが上のモンスターへ攻撃をするときに自爆特攻を除けば、必ずステータスを変動させるカードを発動させるのが定石だ。いくら予想外の罠を張り巡らす晃といえど、この場ではソレしか手は無い。

 

 だが、並大抵のカードでは戦闘破壊できない《魔王龍ベエルゼ》に攻撃する意味が無い。

 つまりは並みでは無い強力なカードが握られていることになる。

 

「……そうか」

 

 烏丸は一つのカードに思い当たった。

 いや、ソレしか思い浮かばない。

 

 《オネスト》

 

 戦闘モンスターの攻撃力を上乗せするあのカードと《武神帝─スサノヲ》の全体攻撃効果を組み合わせれば確実に、全てのモンスターの攻撃力を圧倒的なまでに上回り烏丸の残りライフも全て削れるというゲームエンド級の必殺技だ。

 

 止めなければ敗北は確実。

 故に、何としてもこれだけは止めなくてはならない。

 

「やらせんぞ晃ぁっ!! 《マインド・クラッシュ》を発動。選択するのは、《オネスト》だ!」

 

 本来、《マインド・クラッシュ》は相手がサーチしたカードに対して使うのが定石だ。

 外れれば手札を捨てるデメリットがあるからだ。

 

 だが、晃の割れている手札は《武神器─ハチ》《武神器─ヘツカ》ともに墓地にあることで効果を発揮するカードだ。墓地へ送る意味が無い。

 

 そもそも、この布陣の前で《オネスト》さえ止めれば勝てる自信があるのだ。無かったらなかったで負けるハズも無い。これは賭けでも何でもない。勝利を確実にするための一手なのだから。

 

「さあ、手札に《オネスト》はあるか?」

 

 烏丸の問い。

 晃はたった一言だけ答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 途端、決闘場は静まり返ったのだ。

 誰もが絶句し、この場の対戦相手である烏丸に観客たち。

 味方であるはずの創、茜、涼香、有栖、二階堂さえもが晃が敗北すると理解してしまったのだ。もう、この場ではどうしようも無いのだから。

 

 

 

 ──変わりたかった。

 

 

 

 最初は、ただ流されるように遊戯王を始めただけ。

 それでも、勝てそうになればドキドキして負けてしまえば悔しかった。

 

 だから、次こそ勝とうと心に思い諦めることなく続けた。

 

 しかし、その結果はどうだろうか?

 

 涼香が遊戯王部に殴りこみに来た時には、彼女の実力を知り臆病にも戦えなかった。

 生徒会との勝負には、あまりにも無様な1ターンキルで敗北した。

 有栖のためのタッグデュエルでは、二階堂の圧倒的な攻撃の前に心が折れそうになった。

 

『オレは……無力だ』

 

 平気に見えるように振る舞っていたが、内心では平気では無い。

 無力な自分は嫌だ。役に立てない自分は嫌だ。

 だから変わりたいと願った。

 

 

 

 ──けれど、それは間違いだったんだ。

 

 

 

 願うだけでは駄目。

 変わりたいのなら、自分から変わらなくてはならない。

 

 

 

 ──だったら、どうやって変わる?

 

 

 

 答えは簡単だ。

 まずは最初の一歩として、この決闘に勝つんだ。

 

 

 

 

「オレは伏せカード──」

 

 静寂の中、晃はこの場に残された1枚の伏せカードへと手を伸ばす。

 これは彼が変わりたいと願ったのと似ており手札を変えてくれるカードだ。

 

「《光の召集》を発動!」

「何っ!? 《光の召集》で手札を変えたところで《オネスト》は加えられな……いや、待てよ?」

 

 これは序盤からの仕込み。

 晃が最初のターンから仕込んでいた最後の切り札だ。

 

「オレは《オネスト》を含む3枚の手札全てを墓地へと送り──3枚の《武神器─ハバキリ》を手札へと加える!」

 

 再び、周囲からは声が失われるが無理も無い。

 なにせ絶望という状況から希望が現れたのだから。

 

「馬鹿なっ!?」

「一打目、ハバキリの効果を使用し《魔王龍ベエルゼ》への攻撃を続行!」

「ぐっ……」

 

 烏丸 LP5400→3600

 

 天羽々斬へと成ったハバキリを片手に持ち《魔王龍ベエルゼ》を切り裂く。

 魔王の名を持った龍は呻き声を上げるものの、烏丸が覚悟の現れと言ったかのように倒れることは無く攻撃力を上昇させたが、もう意味は無い。

 

「二打目、再びハバキリの効果を使い《BF─アーマード・ウィング》へと攻撃!」

 

 烏丸 LP3600→1300

 

 本来なら戦闘で無敵のはずのアーマード・ウィング。

 今は《ブレイクスルー・スキル》で無力化されたことにより見事にスサノヲとハバキリの攻撃により破壊された。《補給部隊》の効果でドローするものの、それも相手のターンでは使うことができないカードだった。

 

三打目(ラスト)、最後のハバキリを使い《BF─孤高のシルバー・ウィンド》へと攻撃!」

「……晃」

 

 最後の攻撃宣言を行うと同時に烏丸が名前を呼ぶ。

 その表情は決闘者としてでは無く、とても清々しそうだ。

 

「何、リョウ兄」

「強く、なったな」

 

 烏丸 LP1300→0

 

 烏丸が晃を認めたのと同時に決着のブザーが鳴り響く。

 歓声が沸き上がり、この場で橘晃という人間は誰の力でも無く、運なんかでも無い。己の実力だけでの勝利を始めて手に入れたのだ。

 

 

 

 その日を境に一つの噂が流れた。

 遊凪高校の遊戯王部には相手を惑わし変幻自在なプレイングを行う決闘者『決闘場の詐欺師(トリックスター)』がいるということに。

 

 

 


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