遊戯王部活動記   作:鈴鳴優

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034.これがオレの決闘なんだ

 晃が何かを掴んで二階堂へと勝負を挑む。

 場所は、生徒会グループが借りた一室で決闘盤を使用するわけでも無く、テーブルを使っての卓上で行っていた。激しい攻防もさながら決闘は終盤へと差し掛かっていたのだ。

 

「オレは、これでターンエンド!」

「ふんっ、貴様もやるようになったではないか。だが、小細工もここまで行くぞ! 僕のターン《大嵐》《サイバネティック・フュージョン・サポート》そして、運良くこのターンで引いた(・・・・・・・・・・・・)《パワー・ボンド》を発動して《サイバー・エンド・ドラゴン》を融合召喚する!」

 

 二階堂は、このターンで手札に加えたカードも含めて4枚中3枚を噛み合わせ最強のモンスターを召喚する。《パワー・ボンド》の効果によって強化された《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力は初期ライフと同数値の8000だ。

 

「っ、攻撃力8000!?」

「攻撃だ。貴様の《武神帝─スサノヲ》へ攻撃する!」

 

 圧倒的な攻撃力の差。

 しかし、二階堂はさらに最後の手札を継ぎ足した。

 

「灰燼と化すがいい。ダメージステップに《リミッター解除》を使用しサイバー・エンドの攻撃力をさらに2倍へと上げる!」

 

 攻撃力16000。

 《オベリスクの巨神兵》4体分の攻撃力は、《武神帝─スサノヲ》と手札にある《武神器─ハバキリ》を使ってもダメージを防ぐ壁にすらならないほどに、桁が違うのだ。

 

「っ……」

 

 たった一撃の攻撃で、8000と無傷であった晃のライフが0となってしまう。

 新たな戦略、戦術を思いつき駆使したが、それでも勝つことが出来なかった。

 

 駄目なのか。

 そんな気分で諦めそうになってしまう晃に対して彼は告げた。

 

「及第点だ」

「え?」

「無傷のまま、僕のライフを400まで削ったのだ。誇ればいい」

 

 そう言いながらライフ表示のために使用した計算機を見せる。

《サイバネティック・フュージョン・サポート》のライフコストで200と表示されていたものの晃は確実に二階堂のライフをそれほどまでに追い詰めたのだ。

 

「貴様に足りないのは、二つだ。まずは、そのデッキ。貴様の戦術とソレは完全に馴染んでいない。貴様の戦術を100%活かせるデッキに改良してみせろ」

 

 晃が行う戦術は、今まで扱ってきた【武神】の動きとは違うのだ。

 今のデッキでプレイしたところで力を全て発揮させることは不可能だ。

 

「それと、もう一つだが……貴様の決闘(デュエル)には観察力が必要不可欠だ。もっと相手を見ろ、不自然な仕草(・・・・・・)があれば見逃すな。絶対にな」

 

 何か含みのある言い方をしながら二階堂は注意を促す。

 

「用が済んだなら出て行け。迅速にな」

「ちょ、扱いが酷過ぎないッスか!?」

 

 目障りだから消えろ、なんて視線で語りながら晃を邪険に扱う。

 いったい何が彼の気を悪くしたのだろう、なんて考えてもわかるはずも無く晃は追い出されるかのように部屋を後にした。

 

「……フン」

 

 二階堂は自分のデッキトップのカードを捲る。

 緑色の枠の魔法カード《機械複製術》だったことが、彼の表情をさらに険しくさせた。

 

本来(・・)のドロー、はこいつか。手札が噛み合わず敗北していたのは僕だった、というわけか」

 

 もし、ここで晃が二階堂に勝っていたらどうなっていただろう?

 

 ろくな勝利を経験していない彼が、この場で勝利を経験してしまえば歓喜と共に酔いしれてしまう可能性もあるだろう。だが、それだけはさせてはいけないのだ。

 

 二階堂学人はあくまでも凡人の延長でしかない。

 約束の相手である烏丸亮二よりも格下だという自覚があるのだ。

 新たな戦術を身に付け、少しはマシになったとはいえ彼はまだまだなのだ。さらに上を目指して貰わなければ、勝てない試合がさらに勝率が下がる一方なのだ。

 

「世話が焼けるな」

 

 小さく呟くと、二階堂は左腕につけていた慣れないリストバンドを外した。

 不機嫌そうに宙へと投げ上げるのだった。

 

 

 

 + + + + +

 

 

 

 たった7日間。

 短いようで長い時間だった。

 

 合宿を終え帰宅。

 翌日には月曜日として普通に授業を受けるが、今日この日だけは授業がまったく身に入らず先生に隠れては授業中に机の下でカードをいじってばかりだった。おかげで今日の授業の内容どころか、何の教科だったのかさえ覚えていない。

 

 そうして、放課後。

 今日に限って部活はしない。

 

 遊凪高校の校門前に創、茜、涼香、有栖と晃が集合して約束の場所へと向かうのだ。

 緊張からか創も無駄にふざけた話もせず、全員が全員会話が少ない。何せ晃がこれから遊戯王を続けるかが懸っているのだから。

 

 約束の場所であるカードショップ『遊々』へと辿りつく。

 客は、放課後であるために学校帰りなのか制服を着た学生がちらほらと目に付く。

 カードを買う者、干渉している者、店の外でトレードの交渉をしている者など様々で放課後ということもあり気が緩んでいるような人ばかりだ。

 

 そんな中で一人だけ。

 店内のテーブルでのデュエルスペースで重い空気を漂わせている人物がいた。

 相手である烏丸亮二だ。まるでウォーミングアップでもしているように他の学生と対戦している真っ最中であったが烏丸は余裕なのか表情を変えずにいる。対して対戦相手は追いつめられているかのように険しい表情だ。

 勝負もそれから彼の表情を変えることなく、圧勝で終わった。

 

「やあ、これは勢ぞろいで……って、ところかな?」

 

 晃たちに気付いた烏丸は、まるで友達を迎え入れるような口調で挨拶を交わす。

 しかし、表情はまったくの別だ。最初に創に会ったような人の良い爽やかな笑顔を浮かべるわけでも無く、顔を強張らせこれから死合いに挑むかのような歴戦の戦士の顔だ。

 

「リョウ兄……」

 

 晃が一歩、前へと出る。

 今日の主役(メイン)の二人が視線を合わせた。

 

「せっかくの決戦の舞台だ。こんな、場所で勝負をしても風情も何もないだろ? 場所は用意している。ついて来い」

 

 そう言いながら立ち上がり、決闘盤を使用できる有料スペースへと迎え入れた。

 もう既に支払いは済んでいるのかフィールドに晃と烏丸の二人は入り、決闘盤を腕へと装着するのだ。こうして烏丸は確認をする。

 

「約束は覚えているよな?」

「オレが負けたら遊戯王をやめる……そうだろ」

「ああ、お前には才能が無い。例え、今やめる意思が無いにせよお前はいずれ後悔することになるだろう。だから俺が──」

 

 ──お前を救ってやる。

 

 口にはせずに、視線だけで晃へと語る。

 それが伝わったのか、晃はほんの数秒間、息を止めて黙るものの、軽く深呼吸をして反論をするかのように語る。

 

「確かに、リョウ兄の言う通り、人には向き不向きがある。努力したって何でもできるわけじゃないことも知っている。けど、絶対に実らないとも限らない!」

 

 晃は腰のデッキホルダーからデッキを取り出して決闘盤へと装着する。

 決闘盤を構えて対戦相手を睨むかのように相手(烏丸)へと視線を向ける。

 

「……ほぅ」

 

ここで烏丸は、対峙しただけであるがほんの少しだけ晃を見直した。

 

 肝が据わっている。

 まるで殺気のような何としても勝つという決闘者としての気迫を感じる。

 

 たった7日間という少ない日数ではあるものの、始めて彼と決闘を行った時には何も感じなかった。《No.101S・H・ArkKnight》を出された時でも、動じることが無かったのは彼が空っぽの決闘をしていたからなのだ。

 

 だが、今は違う。

 ほんの少しだけ心の中で用心しながら、烏丸もデッキを決闘盤へと装着をする。

 

「いいだろう。お前を決闘者として認めて真っ向から叩き潰してやるよ」

「っ……!?」

 

 しかし、決闘者なのは相手も同じ。

 肌がピリピリと焼けつくような殺気にも似た気迫を烏丸から感じる。

 晃を敵として見なしたからでこそだ。

 

 カチッ、カチッ。

 二人が黙り、遊凪高校遊戯王部のメンバーや周囲の観客たちも黙りこむ。

 静寂の中、時計の音だけが大きく聞こえる中、一際大きな時計の針の音が聞こえた。

 

 カチリッ。

 それは、秒針より大きな針が動いた証。

 烏丸が指定した時刻、17:00へとなった瞬間に、静寂に包まれていた二人は動きだした。

 

決闘(デュエル)!』

 

 決闘盤の自動選考機能により先攻は前回と同じ晃に決まった。

 晃は右手にカード()、左手に決闘盤()を構えてプレイングを開始した。

 

「オレのターン」

 

 まずは、手札5枚の確認。

 『例え死んでも絶対に勝つ』そのような心構えをした晃が引いた初期の5枚の手札は心なしか今までよりも、良くなっているかのように思えた。武神、武神器、それをサポートするカードたち。

 彼の戦術を行うのにも、文句の無い手札だ。

 

「まず1枚目、《成金ゴブリン》を発動!」

 

 烏丸 LP8000→9000

 

 最初は、ドローソースと共にデッキ圧縮。

 相手に1000ポイントのライフを回復させてしまうが、それ以上のメリットがあるならば良しとするために採用した。

 

「あれ、橘くんのデッキに《成金ゴブリン》って入っていましたっけ?」

 

 なんて今まで対戦した中で、1度も見たことの無いカードの登場に驚きと共に確認をするかのように茜が皆に聞いた。どうやら皆も同じ意見だと言いたげな表情の中、一人の男が声を上げる。

 

「ふん、あいつは自分の決闘(デュエル)を始めたんだ。当然、デッキが変わるのも当然だろう?」

「生徒会長、来てたのか?」

「当然だ。遊戯王部(きさまら)を倒すのは生徒会(僕ら)だ。こんなところで一人減って、腑抜けられても困るからな」

 

 なんて言うが、決闘中にアドバイスも何も禁じられている。

 この場に二階堂が居ようと晃に何かしてやれるというわけでも無いのだ。

 彼は愛用している眼鏡をクイッと掛け直しながら晃を見て告げる。

 

「──だが、今からのあいつは見物だぞ」

 

 そう、語りながら晃はプレイを継続させて行く。

 

「オレは手札から《武神─ヤマト》を通常召喚」

 

《武神─ヤマト ☆4 ATK/1800》

 

  晃の【武神】デッキにとっては中核を担うモンスターだ。

  常にこのモンスターを出し、中心とした戦術を行ってきた。

だが、それでも勝てずにいたのだ。

 

「カードを1枚伏せ、エンドフェイズ」

 

まるで、今までプレイしていたのと同じように《武神─ヤマト》を場に出してサポートカードを伏せるという戦術。加えて、ここからヤマトの効果でお馴染みの如く《武神器─ハバキリ》を手札に加える、と全員が同じように予想する。

 

「《武神─ヤマト》の効果により、デッキから《武神器─ハバキリ》を手札に加える」

 

 当然、予想は当たる。

 後は手札を1枚捨て無くてはならないのだが、いつもなら墓地から耐性を付与できる《武神器─ヘツカ》《武神器─サグサ》あたりなのだろう。

 

 皆が予想するように晃の手札には《武神器─サグサ》がある。

 これを捨てることで《武神─ヤマト》は破壊耐性を得て攻撃力を倍化させる術を持つ盤石の布陣を築くことができるだろう。

 

 そっと、晃は手札の《武神器─サグサ》を手に取る。

 

(いやいや、違うだろ)

 

 しかし、晃は一度手に取った《武神器─サグサ》を外したのだ。

 ここで《武神器─サグサ》を墓地に落としたところで、いつもと同じ。除々に追い込まれて行き最終的にはなす術も無くなってしまうだろう。

 

 だからでこそ、晃はいつもとは違う道を選ぶのだ。

 

「今、手札に加えた《武神器─ハバキリ》を墓地へと送る!」

「えっ……!?」

 

 驚きは誰の声からだろうか。

 だが、今の彼のプレイで驚きを感じない人などいるのだろうか。手札から効果を発動できるカードを手札から加えてわざわざ墓地へと送るなんて、普通はありえないミスプレイなのだ。

 

「エンドフェイズも終わる。リョウ兄のターンだ」

「ああ……」

 

 烏丸は晃がわざと《武神器─ハバキリ》を捨てた理由を思考する。

 晃を見れば、落ち着いており彼がミスをしてしまったとは思えない。何らかの戦術、策略だと思うのが一般的だ。

 思い当たる限りのカードと【武神】というカテゴリから導き出した結果、彼はある一つの結論へと思い当たった。

 

(《剣現する武神》か?)

 

 晃の1枚の伏せカード。

 あれが、墓地の武神を手札に加えることのできる《剣現する武神》という可能性も少なくは無い。攻撃宣言をした瞬間にハバキリを手札に加えダメージ計算時での逆襲。

 成程、悪くは無い手だと感心した。

 

「だが通用しない! 俺は《ナイト・ショット》を発動する。伏せカードを割らせてもらう!」

 

 静かに1枚のカードを打ち抜く。

 伏せカードは、予想した通り《剣現する武神》だ。

 

「やはり、な。悪くは無い手だ……が、見え見えだな。《補給部隊》を発動して《黒い旋風》を発動! カモン、《BF─蒼炎のシュラ》《BF─黒槍のブラスト》《BF─疾風のゲイル》!」

 

《BF─蒼炎のシュラ  ☆4  ATK/1800》

《BF─黒槍のブラスト ☆4  ATK/1700》

《BF─疾風のゲイル  ☆3+ ATK/1300》

 

 前回とまったく同じ3体の召喚。

 それは、奢りでも無ければ油断でも無い。

 

 晃が本当に成長したのか、試すのと同時に今回も絶対に負ける事が無いという意思表示なのだ。前回と同じであれば、シュラに先陣を切らせ戦闘破壊によって《BF-大旆のヴァーユ》を呼び出して2体のシンクロモンスターへと姿を変えるだろう。

 

「ゲイルでヤマトのステータスを半減させ、バトルだ! シュラでヤマトを攻──」

 

 瞬間、3年間遊戯王を続けて来たからでこそ烏丸は正体不明の悪寒を感じた。

 この攻撃はマズイ。今すぐ中断しなければ、と。

 

「っ、げき!」

 

 だが、脳裏に感じたとしても口を止めることはできずに攻撃宣言を完了してしまう。

 主の命令に従い相手の《武神─ヤマト》を蹴散らしに《BF─蒼炎のシュラ》。だが、その先には獲物を狙うような目をした晃と《武神─ヤマト》待ち構えていたのだ。

 

「ちっ……」

 

烏丸 LP9000→7200

 

 戦闘破壊するつもりが、逆にカウンターとして《BF─蒼炎のシュラ》が戦闘破壊されたのだ。その超過分である1800のダメージを受けるが、それは些細な問題なのだ。それよりも問題なのは、今彼が行ったプレイングだ。

 

「……やってくれるよな。まさか、二枚目(・・・)があったなんて」

 

 今、シュラを戦闘破壊できたのは手札にあった2枚目の《武神器─ハバキリ》の効果だ。

 確かに晃はヤマトの効果で《武神器─ハバキリ》を捨て《剣現する武神》のカウンターも狙っていたが、相手は実力者である烏丸亮二だ。

 読まれる可能性も考慮して、ちゃっかりと二重の罠を用意していたのだ。

 

 普通にやっては駄目。常識的な方法で勝てない晃が導いた結論。

 相手の裏をかき意表を突く戦術が見事に決まった。

 

「ったく、見事に騙されたな」

「悪いなリョウ兄、これがオレの決闘(戦い方)なんだ」

 

 

 


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