遊戯王部活動記   作:鈴鳴優

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028.みんなと一緒にいたい

 

 ●橘晃&風戸有栖 LP200

 晃  手札1

 有栖 手札2

 

 □励輝士ヴェルズビュート

 

 ●新堂創&二階堂学人 LP5100

創   手札1

二階堂 手札3

 

 沈みかけていた夕暮れも落ち、空は上から徐々に紫の様な黒へと変わってきていた。最初は有栖のための決闘だったものの、現在は二階堂の発言によって部室を賭けた決闘という重大な件にまで発展してしまった。その等の本人である二階堂学人のターンが開始される。

 

「僕のターンだ!」

 

 などと、間抜けなアヒルの着ぐるみを着たままデッキからカードを引く。

 現在、二階堂たちの場にはカードが1枚も無い状況であるものの相手のデッキは高火力自慢の【サイバー・ドラゴン】。8000あったライフを一瞬で削るその高火力ではあるものの晃の場には除去効果を持つ《励輝士ヴェルズビュート》がいる。なんとしてもこのターンは凌がなくてはならない。

 

「手札から《サイバー・リペア・プラント》を発動! この効果は2つあるが墓地に《サイバー・ドラゴン》ないしそのカードとして扱うモンスターがいるため両方を使用しデッキから最後の《サイバー・ドラゴン・ドライ》を手札に加え墓地の《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》をエクストラデッキに戻す」

 

 前の彼のターンにて《サイバー・ドラゴン・コア》の効果でサーチしたカードだ。効果は二つ。機械族、光属性モンスターをデッキから手札に加えるか墓地からデッキに戻す。墓地に《サイバー・ドラゴン》が存在しなければ発動できないが、3体以上存在する場合は二つ使える。

 二階堂の墓地にはエクシーズに使った《サイバー・ドラゴン》2体に墓地で《サイバー・ドラゴン》として扱う《サイバー・ドラゴン・コア》が存在するため条件は満たしている。

 

「さらに墓地から《サイバー・ドラゴン・コア》の効果を発動する! 《サイバー・ドラゴン》の特殊召喚条件を満たしているときに墓地から除外することでデッキから〝サイバー・ドラゴン〟と名の付くモンスターを特殊召喚できる。呼び出すのは《サイバー・ドラゴン》だ!」

 

 再び現れる機械仕掛けの龍。

 このモンスターだけならば戦闘が通ったとしても100のダメージのみ。ギリギリ生き残ることはできるが、それだけで済ませるはずもない。

 

「それだけで終わると思うなよ。僕はさらにサーチした《サイバー・ドラゴン・ドライ》を召喚!」

 

 サイバー・ドラゴン・ドライ

 ☆4 ATK/1800

 

 ツヴァイに次いでドイツ語で3番目を現すドライの名前のサイバー・ドラゴン。

 より鋭利的で凶暴さが増したデザインとなっている。

 

「ドライには召喚時にサイバー・ドラゴン全てのレベルを5へと統一させる効果を持つ。ドライのレベルが5となる」

 

 サイバー・ドラゴン・ドライ

 ☆4→5

 

 これでレベル5機械族2体が出揃う。

 しかも、《サイバー・リペア・プラント》の2つ目の効果で現在、場に出すことができるモンスターもエクストラデッキにてスタンバイしているのだ。

 

「レベル5となったドライと《サイバー・ドラゴン》をエクシーズ素材とし再び現れろ《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》!」

 

 攻撃力2100でありながら効果でオベリスクさえ倒すことのできるサイバーの新兵器である《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》。さらに破壊をトリガーにして効果を発動するモンスターは現状で晃の《励輝士ヴェルズビュート》と相性が非情に悪い。

 

「ふんっ、本来はヴォルカザウルスで終わらせることもできたが、ドライのレベル変更効果を使用したために機械族した特殊召喚できないからな。それでも、こいつで十分だ。ノヴァの効果を発動しエクシーズ素材を取り除くことで墓地から《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚」

 

 墓地から何体目になるやら《サイバー・ドラゴン》が出陣する。

 これで総攻撃力4200。火力といい状況といい晃にとっては絶対絶命だ。

 

「バトルフェイズに入る。《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》で《励輝士ヴェルズビュート》に攻撃だ」

「っ……」

 

 《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》の口元より赤色のエネルギーのような塊が集中する。このままヴェルズビュート目がけて放射されるのだろう。《励輝士ヴェルズビュート》の効果を発動するならこのタイミングであるが、ノヴァの効果のトリガーとなってしまう。

 しかし、それでも二階堂のエクストラデッキにまだ機械族の融合モンスターが存在する場合に限ってだ。もしかしたら、これはハッタリで出したのかもしれない。だからでこそ晃は賭けに出る。

 

「《励輝士ヴェルズビュート》の効果を発動! このカード以外の場のカードを破壊する!」

 

 剣を振り下ろし、闇が周囲を覆った。

 見えない暗闇の中、機械の龍の悲鳴と共に鈍い金属音が鳴り響く。次に二つの爆発音が鳴り響いては闇が晴れた後には、2体の機龍は無残なガラクタとなっていた。

 

「ふんっ、さしずめ僕のエクストラデッキに機械族融合モンスターがいないことでも望んだのだろう。だが、無意味だ! あるからでこそ、この戦術を取ったのだ。相手のカード効果で破壊されたため《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》の効果によりエクストラデッキより《サイバー・エンド・ドラゴン》を特殊召喚だ!」

 

 サイバー・エンド・ドラゴン

 ☆10 ATK/4000

 

 単純な攻撃力だけならば最強のサイバーモンスター。

 3つ首にして最高レベルを持つこのモンスターは今までのモンスターよりひとまわり、ふたまわりも巨大な体躯で宙を舞う。

 

「っ……攻撃力4000!?」

「終わりだ。《サイバー・エンド・ドラゴン》で再び《励輝士ヴェルズビュート》に攻撃!」

 

 3つの首からそれぞれエネルギーが凝縮されていく。

 エクシーズ素材はもう無い。手札も《武神結集》で手札に加えた《武神─ミカヅチ》のみなのだ。

 

「(あれ、《武神結集》?)」

 

 そうだ。

 と、晃は1枚のカードのことであることを思い出したのだ。《武神結集》の発動には手札を全て捨てること。その中に1枚、武神器を捨てていたことも。

 

「なら、これでどうだ! 墓地から《武神器─オキツ》の効果を発動。墓地から除外し手札から武神と名の付くモンスターを捨てることで、このターン自分が受けるダメージが全て0となる!」

 

 3つ首から高エネルギーの光が放射される。

 ヴェルズビュートへと着弾し溶かしていくものの《武神器─オキツ》の効果のために、晃にまで及ぶ光線であるものの何かに阻まれるかのように届かない。そのためダメージは0となり攻撃は終了した。

 

「悪足掻きを……僕はカードを2枚伏せてターン終了だ」

「…………」

「お、おい風戸のターンだぞ?」

 

 気が付けば風戸有栖はわなわなと体を震わせては、泣きそうな顔をしていた。

 前に晃とデュエルした時と同じだ。肝心な勝負どころになれば有栖は逃げ出したいとでも言いたげな表情でプレイミスと言うよりも、わざと勝負しないような選択を行う。

 

 創が生徒会に依頼して調べた結果では、彼女は強かった。だが、他を一際抜いて強かったために孤立してしまった。だから、創が出した結論から言えば──。

 

──風戸有栖という人物は勝利することに恐怖を抱いている。

 

 でも、この場は負ければ部室が無くなってしまう。

 負けられない決闘なのだ。そんなこと彼女は理解している。それでも勝つのが怖いからでこそ、板挟みになるような感覚で有栖は体を震わせているのだ。

 

「うぅ……」

 

 逃げ出した。

 そんな感情が渦巻く中、有栖は小さく蹲ってしまう。勝ちたいのに勝てない。負けられないというのに勝つためのプレイができない。そんな矛盾が彼女の脳裏を過る。

 怯えるように頭を抱えて涙がぽつりと地面を濡らす。

 

「風戸……?」

「ったく、ちょっとタイムいいかしら?」

 

 手を上げてやれやれとでも言いたげな表情で涼香がデュエルを中断させようと述べる。それに晃はもちろん、創や二階堂も異論を唱えず、じっと涼香の姿を見る。了承したためにそうしたのだろう。

 

「風戸さん、いいから聞きなさい!」

 

 言い聞かせるかのようなやわらかい口調で無く。鋭いようないつもデュエルを行っている時のような強気の口調だ。その涼香の言葉に『ひっ』と小さな声で怯えた態度を見せるが、遠慮なく言葉を続ける。

 

「勝つのが怖いって馬鹿じゃないの? 遊戯王ってのは勝負事だから勝ち負けが決まって当たり前の競技じゃない。怖いからって、怯えて中途半端な気持ちでやられては迷惑なだけよ。そんななら、やめた方がいいんじゃない?」

「お、おい氷湊……それは言い過ぎ──」

 

 そもそも誘おうとしておいて、やめた方がいいとか。

 さすがにそれは言い過ぎだと晃が止めようとしたが、それより早く異論を唱えるように有栖が目元に涙を浮かべながら手を強く握って答える。

 

「で、でもわたしは独りが嫌、だから……」

「それが間違っているっていってんでしょうがっ!」

「っ……!?」

「あんたが昔、どんな環境でどんな気持ちだったかはわからないわ。けど、昔は昔、今は今よ。わたしたちとあんたを見捨てた奴らとは一緒にしないで。それに、私は風戸さんにも負けるつもりなんて毛頭ないわ」

 

 言いたいことは全て言った。

 涼香はそんな表情で、一息分の間を空けたのち今度は表情を和らげて穏やかな口調で語った。

 

「風戸さん。貴女はどうしたいの?」

「わ、わたしは──」

 

 言いたい事は決まっている。

 けれど、どう口にしたらいいのかわからないと言いたげなような言い淀みを見せる。ひとまずは立ち上がりポケットに入れていたハンカチで涙を拭う。そのまま、真っ直ぐな瞳で彼女は心から思った言葉を口にした。

 

「に、逃げたくない! 新しい場所で、み、みんなと一緒にいたい、です」

 

 あまり大きな声を出さない彼女が精一杯の声で語る。

 彼女の意思を聞き。創は安心したように肩をすくめ、晃も黙って頷く。茜は彼女に対して微笑むように笑った。

 

「やっと、本当の言葉を聞いた気がするわ。後はどうすればいいか、わかるでしょ。見せてやりなさい!」

「う、うん」

 

 涼香の言葉に頷いて有栖はやっとデュエルに戻る。

 手札は2枚。そのうち1枚は《ダイガスタ・スフィアード》の効果で回収した《ガスタの神裔ピリカ》だ。相手の場には攻撃力4000の《サイバー・エンド・ドラゴン》が存在する。

 

「わたしのターン、ドロー!」

 

 引いたのはガスタというカテゴリでは無いモンスターだ。

 本来ならばピリカの召喚から《ダイガスタ・スフィアード》まで繋いで高攻撃力を利用してダメージを与えようなんて考えていたが、変えることにした。このターンで終わらせる。

 

「うん。《ガスタの神裔ピリカ》を召喚、効果で墓地の《ガスタ・ガルド》を守備表示で特殊召喚するよ」

「合計レベルは6か……スフィアードへ繋げるつもりか?」

「ううん、スファアードはこっちです。《死者蘇生》を使って墓地から特殊召喚します」

 

 場には《ガスタの神裔ピリカ》と《ガスタ・ガルド》、《ダイガスタ・スフィアード》の3体が並んだ。これで戦闘ダメージの反射効果を使ったとしても合計で5000のダメージになるが相手のライフは5100と後、100ポイント足りない。

 《ガスタの神裔ピリカ》の効果で特殊召喚するのは表側守備表示に限定されるが、それがなければこのまま自爆特攻の連打で勝利しただろう。それでも、有栖は最後の1枚となった手札。それを使う。

 

「場の《ガスタの神裔ピリカ》と《ガスタ・ガルド》……それと墓地から橘くんの《武神─ヒルメ》を除外するよ」

「むっ……除外だとっ!?」

 

 場のモンスター2体と墓地から1体のモンスター。合計3体の除外。

 そんな変わった条件を使うモンスターは1体のみ。

 

「お願い《Theアトモスフィア》!」

 

 Theアトモスフィア

 ☆8 ATK/1000

 

 風が吹き荒れる。

 その中心には鉤爪で緑色のスフィア(球体)を持つオレンジ色の美しい鳥の姿。

名前は地球の大気圏の意味を持つ。

 

「そうか、こいつが風戸のエースモンスターってわけか」

 

 創がアトモスフィアの姿を見て頷くように語る。

 攻撃力は下級モンスターのレベルである1000なのだが、このモンスターには一つの能力が備わっている。この効果を使って終わらせるつもりなのだ。

 

「アトモスフィアの効果。相手の場の──《サイバー・エンド・ドラゴン》を装備カードとしてアトモスフィアに装備させるよ」

 

 Theアトモスフィア

 ATK/1000→5000

 

 風が3つ首の機龍を包みアトモスフィアが持つ球体の中へと押し込んだ。

 途端にアトモスフィアの攻撃力が劇的な上昇を果たしたのだ。相手モンスター1体を吸収することによってそのモンスターのステータス分、上昇させる効果だ。

 

「ふんっ、戦闘ダメージを反射させる《ダイガスタ・スフィアード》や吸収効果の《Theアトモスフィア》か。まるで高攻撃力を相手に強いカウンター型のデッキじゃないか」

 

 その高攻撃力を主軸とする二階堂のデッキとは相性が悪いためか皮肉下に語る。

 総攻撃力7000。それをたった3枚の手札で行ったのだ。

 

「えっと、バトルフェイズ! 《ダイガスタ・スフィアード》、《Theアトモスフィア》で攻撃……します!」

「ふんっ」

 

 悪態を付きながら2体のモンスターが連続で攻撃を行うのを黙って見る二階堂。

 この2体の攻撃を通せば敗北であるものの、カードを発動させる素振りなどまったく見せない。

 

 新堂創&二階堂学人 LP5100→3100→0

 

 二つの緑色の風が二階堂へと届きライフを0まで削る。

 同時にデュエルの終了を告げるブザーが鳴り響いてはソリッドビジョンシステムが終了して2体のモンスターは姿を消した。

 

 そんな中、生徒会長の二階堂学人は軽くため息を吐くかのように息を吐く。決闘盤から使っていたカードを取り出してデッキに戻しては懐へとしまう。

 

「ったく、手のかかる奴らだ。馬鹿馬鹿しくなった──僕は帰るぞ」

 

 などと言いながら、屋上を後にする。それでも着ぐるみだから格好が付かない。

 そんな姿を見ながら彼の態度に不満を感じた涼香が呟く。

 

「部室を取り上げられなかったからってあんな態度はないでしょ」

「いや、そうでもない見たいだぜ」

 

 けれど、創は彼がカードを回収する時に見えたのだ。

 最後の最後で二階堂は手札に1枚。伏せカードも1枚あった。

 

 手札にはモンスター効果を無効にする《エフェクト・ヴェーラー》。

 場には《神の警告》が伏せられていたのだ。

 

 そのどちらかを使うだけでもこのターンで決着など付くはずもなかったのだろう。

 

「生徒会長は置いといて、改めて聞くぜ。風戸有栖──お前はまだ仮入部という扱いだけど、どうする?」

「…………」

 

 創の言葉に全員が有栖へと視線を向ける。

 急に視線が集められたことから小さく驚きを見せるものの、今までのおどおどとした様な素振りは見せず、しっかりと創へと視線を向けて答える。

 

「あ、あの……これから、よろしくお願いします」

「わぁ……有栖ちゃん。よろしくお願いしますっ!」

「うわわっ!?」

 

 新しいメンバーが加わったのが嬉しいのか茜は突然、有栖へと抱きつく。それに驚きの声を上げる有栖だったが満更でも無い。そういう表情だった。

 そんな二人は涼香がやれやれと言った表情で見ていた。

 

そんな風に女性陣がわいわいとやっている中、創と晃は数歩離れた場所でそんな彼女らを見た。

 

「やっとだな。5人揃った」

「そうッスね」

「まだ問題は残るが、これで団体戦は出場できる……これからは、さしずめ新生遊凪高校遊戯王部ってところだな」

 

 創はほんの少し空を見上げた。もうすでに夜になっており星空が映っている。

 これから団体戦で勝つために色々と活動をしなくてはならないが今は素直に部員が集まったことを喜ぶべきだろうと笑った。

 

──遊凪高校遊戯王部、部員数5人。

 

 

 


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