遊戯王部活動記   作:鈴鳴優

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026.お前の力を貸してくれ!

 

「クハハハッ、夕暮れとはまさに決戦に相応しい舞台ではないか!」

「…………」

 

 学校の屋上から見える遊凪市の風景に沈む夕日を見ては高笑いをしている始まりの魔王もとい遊凪市高校遊戯王部部長の新堂創。そんな中二病全開の彼の姿を見ては、本当に彼が部の長である部長でいいのかと思ってしまう晃であった。

 

「ふんっ、そんなことはどうでもいい……さっさと始めろ。着ぐるみが暑くてしかたない」

 

 じゃあ始めから着るなよ。

 そんなツッコミを口には出さずに心の中に留めるものの、アヒルの着ぐるみを着た怪鳥ニカイドウもとい二階堂。生徒会長と怪鳥をかけた一発ギャグだというのは言うまでも無いだろう。

 

「頑張ってください、有栖ちゃん」

「うん、頑張るよ!」

 

 そうして今回、晃の相方と言うより彼女メインで行われるだろう有栖は茜のエールによりやる気を増したのか両手を握り拳にして意気込む。茜から手渡された決闘盤を付けては晃の横へと並び二人のコスプレイヤーと対峙する。

 

「ったく、面倒な事になったスね……」

 

 晃が決闘盤を構える。

 タッグデュエルで相手は頭のネジが吹っ飛んでいるような姿とはいえ部長である創と生徒会長である二階堂である事は間違いない。実力は格段に向こうの方が上であり、パートナーである有栖もどこまで通用するのかは未知数なのだ。

 

 ならば彼にできることは一つだけ。

 全力を持って当たることでしかない。

 

決闘(デュエル)!!』

 

 デュエルを行う4人が叫んだ。

 ソリッドビジョンシステムが作動し、決闘盤が先攻のプレイヤーを選択する。一番最初に開始されるのは、始まりの魔王もとい創だった。彼は一度、自身の手札と相談してはいつもとは違う中二病染みた口調で開始した。

 

「先攻は我か……手始めに様子見と行こうではないかモンスター、伏せカードともに1枚づつ伏せターンを終了しよう」

 

 なんて口調は違うがプレイングは普通だ。

 創の使用するデッキ【X─セイバー】は墓地が肥えたり手札にキーカードがくれば爆発的な威力をもたらす中盤以降から強力になってくるデッキだ。彼の性質もスロースターターということもあり前半は際立った動きはしては来ないのが幸いだ。

 

「っと、次はオレのターンッスね」

 

 決闘盤が選定した次のプレイヤーは晃だ。

 これで必然的に次は二階堂、有栖の順でターンが回ることが確定した。

 

「ドロー。よし、手札は悪くない──《武神─ヤマト》を召喚!」

 

 武神─ヤマト

 ☆4 ATK/1800

 

 先陣を切るのは、晃の【武神】の主要モンスターだ。

 幸先よく初手の手札にあったため迷わず召喚を行う。

 

「ククッ、貴様にしてはお馴染みのモンスターだな!」

「……そのキャラやめてもらえないッスかね? とりあえず、バトルフェイズに入って《武神─ヤマト》で部長の伏せモンスターへ攻撃!」

 

 赤い甲冑を纏った戦士が創の場に置かれた裏側のカードへと殴りかかるように飛び掛った。彼のデッキには壁となる守備力の高いモンスターはほぼおらず、面倒なのはリクルーターの《X─セイバーエマーズブレイド》やサーチの《XX─セイバーダークソウル》程度だ。

 

 XX─セイバーダークソウル

 ☆3 DEF/100

 

「《XX─セイバーダークソウル》だ。そのまま破壊される」

 

 晃の読みは当たっていた。

 リクルーターであるエマーズブレイドならどうしようかと考えたが、《XX─セイバーダークソウル》ならエンドフェイズのサーチも兼ねて創のターンが回ってくるのは二階堂と有栖の2ターン分も後になる。その間に守りを固める準備は十分にできるつもりだ。

 

「よし、カードを2枚伏せてターン終了ッスよ」

「ククッ、ならばエンドフェイズだ。破壊された《XX─セイバーダークソウル》の効果が発動するがチェーンして《トゥルース・リインフォース》を発動する! デッキよりレベル2以下の戦士族《X-セイバーパシウル》を呼ぼうではないか」

 

 X-セイバーパシウル

 ☆2+ DEF/0

 

 戦士族レベル2チューナーであるカードだ。己の身の半分ほどはあろう大剣を構え守備の構えを取るもののその守備力は0ではあるが、彼は戦闘では破壊されないモンスターであるため壁としては固い。

 場にモンスターがいる、いないでは大きく違う。次の二階堂のターンでそのモンスターを利用することができるため今の《トゥルース・リインフォース》は十分に厄介ではあるのだが、このとき二階堂が叫んだ。

 

「新堂ぉ! 貴様、僕のデッキを知ってモンスターを残したな? 動きづらくなるかもしれないんだぞ!」

「はは、そう怒んなって生徒会長。今回の俺たちの目的は勝つことではねーし、まだデュエルは始まったばかりだぜ?」

 

 なんて抗議を素に戻った創が流す。

 かつて二階堂は【終焉のカウントダウン】を使っていたが、逆に壁を残したことで怒りを示したのならおそらく使うデッキは違うのだろう。

 

「まあいい、今回の手札なら問題なく動けるが」

「なら、怒らなくてもな……おっと、クハハッ、加えて我は続けて《XX─セイバーダークソウル》の効果によりデッキから《XX─セイバーボガーナイト》を手札へと加える!」

 

 加えたのは、展開力を持つ下級アタッカーのXX─セイバーのモンスター。おそらく彼のターンが回ってきたときに出すであろうが、まずは次にターンが回ってくる二階堂の方を見なければいけない。

 

「だったら、こっちも《武神─ヤマト》の効果で《武神器─ハバキリ》を手札に加え《武神器─ヘツカ》を捨てるッスよ」

 

 なんて《武神─ヤマト》に耐性を守るカードと打点強化のカードをそれぞれ機能させる場所へと運ぶ。このカードならば次の有栖のターンまで問題無く運べるだろうなんて晃は考える。

 

「ふんっ、僕のターンか」

 

 エンドフェイズに発動する効果も終えたことで晃のターンが終了し、次に二階堂学人のターンへと移った。彼は着ぐるみの羽ともいえる右手からカードを手札に加えたのだが、それには指が無い。どうやって手札を持っているのか後で聞いてみたいなんて思う中、彼のターンが開始される。

 

「初手は《サイバードラゴン・コア》を召喚しようか」

 

 サイバー・ドラゴン・コア

 ☆2 ATK/400

 

 小さな蛇のような細長い体に赤い目をした機械のモンスターだ。

 攻撃力、レベル共に晃のヤマトには及ばないがここで召喚したのだから意味が無いはずはない。

 

「このカードの召喚時サイバーかサイバネティックと名の付く魔法か罠を加えることができる。《サイバー・リペア・プラント》を手札に加え──手札から《機械複製術》を発動! 攻撃力500以下の《サイバー・ドラゴン・コア》を選択することで同名モンスターをデッキから特殊召喚する。現れろ2体の《サイバー・ドラゴン》!」

 

 サイバー・ドラゴン

 ☆5 ATK/2100

 

 ドンッ、と悠々と姿を現した2体の蛇みたいに長い胴体を持った機械仕掛けの龍だ。先ほどの《サイバードラゴン・コア》との違いは鋭利的であり銀色に輝くボディに、圧倒的な威圧感を放っているところだろうか。

 

「……あれ? 同名モンスターッスよね?」

 

 なんて《機械複製術》の効果の説明をしていたため晃は疑問を抱く。なにせ選択したモンスターが《サイバー・ドラゴン・コア》のため同じく《サイバー・ドラゴン・コア》が2体出てくるのが当然なのだ。そんな疑問を解消するために茜が彼へと語った。

 

「橘くん! 《サイバー・ドラゴン・コア》は場と墓地では《サイバー・ドラゴン》として扱うんです。だから《機械複製術》でも《サイバー・ドラゴン》が出て来るんです!」

「そう言うことだ……だが、貴様は手札に《武神器─ハバキリ》を握っていたな。ならば場のレベル5機械族である《サイバー・ドラゴン》2体でエクシーズを行おう! ねじ伏せろ《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》!」

 

 サイバー・ドラゴン・ノヴァ

 ★5 ATK/2100

 

 2体の機械仕掛けの龍が重なることで誕生した新たな《サイバー・ドラゴン》。様々なパーツが付加され元々持ち得なかった翼まで装着したモンスターはステータスは変わらずとも迫力はケタ違いだ。

 

「さあ邪魔者を排除しようではないか! 僕はバトルフェイズへと移行させ《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》で《武神─ヤマト》へと攻撃を行う!」

「っ……攻撃!?」

 

 《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》の攻撃力は2100と現状では《武神─ヤマト》を上回っているものの、手札には攻撃力を倍の3600まで引き上げる《武神器─ハバキリ》があるのだ。二階堂もそれを承知しているのにも関わらず攻撃を行ってきた。それを彼自身が付け足すように解説する。

 

「ふんっ、無知な貴様に教えてやる。《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》は場か手札から《サイバー・ドラゴン》1枚を除外することで攻撃力を2100上昇させる効果がある」

「っ、そういうことッスか……」

 

 彼の場には《サイバー・ドラゴン》として扱う《サイバー・ドラゴン・コア》が存在する。そのカードを除外することで攻撃力を上げれば4200と《武神器─ハバキリ》で強化された《武神─ヤマト》ですら葬ることが可能なのだ。

 ならば、殺られる前に殺るしかないだろうと、晃は1枚の伏せカードを使った。

 

「だったら、《聖なるバリア─ミラーフォース─》を発動ォ! 攻撃される前に倒す!」

「ふんっ、これで《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》は破壊される……か」

 

 口元から青白いブレスを吐く機械仕掛けの龍の攻撃は見えないバリアによって防がれた挙句、反射され龍の元へと戻ってくる。自業自得とでも言わんばかりに二階堂のモンスターは《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》とついでに《サイバー・ドラゴン・コア》が消滅して行く。

 

「よしっ!」

「──甘いな」

 

 素直に破壊されたことを安堵する晃だったが、二階堂の冷たい一言が場を過った。

 

「大甘だ橘晃。カードの知識を学ぼうとするならば、最新のカードから学ぶべきだったな──《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》は相手のカード効果で墓地へ送られることによりエクストラデッキから機械族融合モンスターを特殊召喚する効果もあるのだ。《サイバー・ツイン・ドラゴン》を特殊召喚する」

 

 サイバー・ツイン・ドラゴン

 ☆8 ATK/2800

 

 現れるは二頭の首を持つ機械竜。

 《サイバー・ドラゴン》2体を素材とされる融合モンスターではあるものの、今回に限っては融合条件を無視した特殊な条件での召喚となった。

 

「バトルフェイズを続行する! 《サイバー・ツイン・ドラゴン》でこのまま《武神─ヤマト》へと攻撃を行う!」

「っ……また攻撃力が低いというのに」

 

 いくら融合モンスターといえど攻撃力は2800止まりであり、このままいけば《武神器─ハバキリ》の効果を使って返り討ちだ。いくら最近のカードの知識は無い晃とて《サイバー・ツイン・ドラゴン》ぐらいまでの知識は学んでいる。

 2回攻撃が可能とされる効果は確かに驚異的だが、《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》の様な攻撃力上昇の効果が無いのは承知済みだ。

 

「だから貴様は駄目なんだよ。ダメージステップに手札から速攻魔法《リミッター解除》を発動! 機械族の攻撃力を倍にする!」

「は……?」

 

 サイバー・ツイン・ドラゴン

 ATK/2800→5600

 

 いきなりの攻撃力の飛躍的な上昇に晃だけでなく、パートナーの有栖や創、茜に涼香も小さく驚きの声を上げていた。暴走したかのような鈍い鳴き声を上げる機械仕掛けの二頭龍は厳つい視線で標的である《武神─ヤマト》を睨む。

 

 だが、それ以上に恐ろしいのは連続攻撃可能なモンスターの攻撃力上昇だ。この攻撃で《武神─ヤマト》を倒すのと同時に超過ダメージである3800が通ってしまう。そしてガラ空きとなった場に5600の攻撃が通れば9400と現在、無傷である8000のライフなど一瞬で無に還ってしまう。

 しかも今、彼の場に伏せてあるもう1枚のカードでは攻撃を止めることなどできない。

 

「っ……洒落にならないッスよ! ダメージ計算時《武神器─ハバキリ》の効果を発動し《武神─ヤマト》の攻撃力を倍に!」

 

 武神─ヤマト

 ATK/1800→3600

 

 《武神─ヤマト》も攻撃力を倍にするが、当然ながら攻撃力が倍になった同士ならば元々の数値が高い方が勝つ。カードの効果により天羽々斬を手にし迎撃を行おうと立ち向おうと果敢に特攻するものの、敵の圧倒的戦力に敵うこともなく青いブレスを身に受け無残にも塵に還ってしまう。

 

 晃&有栖

 LP8000→6000

 

「だが、これで終わるはずがないだろう? 二撃目を喰らうがいい──《サイバー・ツイン・ドラゴン》で直接攻撃(ダイレクトアタック)だ!」

「ぐっ……!?」

 

 先ほどは《武神─ヤマト》を介してのダメージだったが、今度は直接ターンプレイヤーである晃を狙っての攻撃だ。攻撃力5600という桁外れの攻撃の前に立体映像であるものの、衝撃を受けては晃は尻もちをついてしまう。

 このまま一気に彼らのライフが減少して行く。

 

 晃&有栖

 LP6000→400

 

 なんという破壊力だろう。

 たった1度のバトルフェイズでライフを20分の1にまで削られてしまった。いや、なんとか400までで耐えたという表現もできるかもしれないが、あの二人相手で7600のライフ差は厳しい。

 

 今、晃は己の無力さに唇を噛みしめていた。

 

「僕もカードを1枚伏せてターンを終了するが、エンドフェイズに《リミッター解除》の効果を受けた《サイバー・ツイン・ドラゴン》は破壊される」

 

 限界以上の力を出し酷使したためか機械仕掛けの二頭龍は声を上げながらその身が崩壊していく。だが、それでも晃たちのライフを風前の灯にまで追い込んだのだから役目といえば十分だろう。

 

 これで次は風戸有栖のターンだ。

 だが、その前に晃は悔しさで拳を震わせながら語った。

 

「悪い風戸──悔しいけどオレじゃあ、あの二人の足元に及ばないんだ。このままだと勝てない……だから、お前の力を貸してくれ!」

 

 なんて語る。

 確かに晃の実力では1対1のデュエルであろうと、あの二人のどちらにも勝つことはできない。そんな無力さを噛みしめながら晃は風戸有栖に頼るしか現在、あの二人に立ち向かう術は無いのだ。

 彼の本心からの言葉を彼女はどう受け取っただろうか?

 ただ、有栖は晃の言葉を聞き入れるかのようにコクリと頷いては真剣な顔つきで場を見据えるのだった。

 

「うん、わたしのターンだよ──」

 

 

 

 


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