遊戯王部活動記   作:鈴鳴優

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020.いい加減しつこいねそれ

 ●橘晃&遠山和成 LP5200

 晃  手札3

 和成 手札5

 

□武神─ヒルメ

■unknwon

 

 ●氷湊涼香&日向茜 LP6000

 涼香 手札5

 茜  手札2

 

「私のターン、ドロー……む?」

 

 ターンの順番が回ってきて涼香のターン。

 彼女がドローフェイズにカードを引いたものの、不機嫌そうに唇を尖らせたのだ。それもこれも今回に限って彼女の手札があまり良くない。悪いと言うほどでもないが、いつものような爆発力を期待する事はできないだろう。

 

「まあ、いいわ……《フォトン・スラッシャー》を特殊召喚よ!」

 

 フォトン・スラッシャー

 ☆4 ATK/2100

 

 光子を纏った光り輝く戦士型のロボットのイラストのカード。

 晃の場の《武神─ヒルメ》の攻撃力を上回る攻撃力を誇る。

 

「加えて《E・HEROエアーマン》を召喚。効果によりデッキから《E・HEROバブルマン》を手札に加えるわ!」

 

 デッキから《E・HEROバブルマン》のカードを抜き出し手札に加えた。

 手札が無い時に特殊召喚が可能。己が戦士族である事も踏まえて、打点が高い戦士族ランク4エクシーズモンスターを呼ぶ素材になりうるカードであり彼女の重要カードの一つだ。

 

 しかも、もう一つの効果。

召喚時に他の場と手札にカードが無い時に《強欲な壺》と同等の効果を発動する確率が彼女の場合、異常に高い。

 

「行くわ! 戦士族レベル4、《E・HEROエアーマン》《フォトン・スラッシャー》でエクシーズ! 《H─Cエクスカリバー》をエクシーズ召喚!」

 

 H─Cエクスカリバー

 ★4 ATK/2000

 

 戦士族ランク4モンスターの1枚。

 彼女のデッキの打点上げの担当モンスターだ。

 

「さっそく《H─Cエクスカリバー》の効果を発動するわ。エクシーズ素材を二つ取り除くことで攻撃力を2倍にする!」

 

 H─Cエクスカリバー

ATK/2000→4000

 

 攻撃力の倍加。

 《オベリスクの巨神兵》と同士討ちとなるほどの力を持ったモンスターならば下級モンスター相手では話にならないだろう。

 

「バトルフェイズに入るわ。《H─Cエクスカリバー》で《武神─ヒルメ》に攻撃よ!」

「っ……通す」

 

 晃&和成 LP5200→3200

 

 手札に《武神器─ハバキリ》があれば《武神─ヒルメ》の攻撃力を同等の4000へと上昇させ相打ちに持ちこめただろう。それでも無いものは仕方が無いし、今この攻撃を防ぐ手段もないのだ。

 残りライフが半分の4000を切ってしまった。

 

「カードを1枚伏せてエンドフェイズ。墓地から《姫葵マリーナ》を除外して日向さんの《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》を特殊召喚するわ」

 

 ライフ差3800とおよそ初期ライフ半分だ。

 状況は明らかに晃と和成が不利であり、さすが遊戯王部副部長と瞬間氷結の戦乙女の異名を持つ2人だ。

 

 しかし、この勝負は負けたくない。

 いや、負けられないのだ。

 

 ブロマイド(盗撮品)の取引を見逃してもらいたい一心で勝負に持ち込んだこの決闘で負ければいったいどのような恐ろしい罰が待っているのやら考えただけでもゾッとする。だからでこそ遠山和成は必死だった。彼なりにこの場を切り抜ける術を探る。

 

「だったら……ボクのターン、まず《聖剣アロンダイト》を《H─Cエクスカリバー》を装備させる!」

「聖剣!?」

 

 戦士族に装備可能なカードだ。

 漆黒の剣の絵が描かれた装備魔法を相手の場のモンスターへと装備させる。装備魔法の大半は攻撃力の増減が主であるが、このカードは効果を付与したりする類のカードのため装備した《H─Cエクスカリバー》の攻撃力は変化しない。

 

「《聖剣アロンダイト》の効果だ。《H─Cエクスカリバー》の攻撃力を500下げることで左の伏せカードを割らせてもらうよ」

「っ……」

 

H─Cエクスカリバー

ATK/4000→3500

 

本来の使い方は、自分の場に存在するモンスターに装備させ相手のバックを割ったりするのが主だが、《聖剣アロンダイト》においては条件さえ合っていれば相手モンスターに装備させ攻撃力の減少と伏せカードの破壊の二つの利点となる。

 それでも《磁石の戦士マグネット・バルキリオン》《メテオ・ブラック・ドラゴン》などと同じ数値なのだ。

 

悔しげに1枚の伏せカード《奈落の落とし穴》が墓地へと送られた。

 

「次に《聖騎士アルトリウス》を召喚!」

 

 聖騎士アルトリウス

 ☆4 ATK/1800

 

 王を選定する岩に刺さった剣を引き抜こうとする青年のイラストが描かれたカードだ。

 『アーサー王と彼の高貴なる円卓の騎士』に出てくるアーサー王本人をモチーフとされたカードだ。

 攻守ともに1800とバランスが良い通常モンスターであるが攻撃力が下がったといえ《H─Cエクスカリバー》には攻撃力が倍にでもならない限り敵わない。

 

「光属性、通常モンスターを墓地に送ることでこのカードは墓地から特殊召喚できる。《聖騎士アルトリウス》を墓地へ送り、《魔聖騎士ランスロット》を墓地から特殊召喚!」

 

 魔聖騎士ランスロット

 ☆5 ATK/2000

 

 漆黒い鎧とマントを携えた邪悪な雰囲気の騎士。

 アーサー王伝説においてアーサー、ガウェインを凌ぐとされる実力者でありながらグィネヴィアとの不義から対立し円卓の騎士の崩壊を招き、円卓の騎士を抹殺して武器を手に入れた裏切りの騎士と悪役とされたランスロット本人だ。

 

「墓地から……《手札抹殺》の時ね」

 

 そういえば、と涼香が思い出したように呟く。

 第1ターンの茜が一番始めに使用したカードであり、その時に効果を受けたのは和成の方だ。この効果を受けたことにより手札を墓地に送ったが、その中にあった1枚だろう。

 

「そうさ! けれど、それだけじゃない。墓地から《湖の乙女ヴィヴィアン》の効果を発動! レベル5の《魔聖騎士ランスロット》のレベルを1つ下げることで墓地から特殊召喚する!」

 

 魔聖騎士ランスロット

 ☆5→4

 

 湖の乙女ヴィヴィアン

 ☆1 DEF/1800

 

  アーサー王にエクスカリバーを授けた水の妖精もしくは湖の中に立つ城で暮らす魔法使いとされるカード。レベル1であり《レベル・スティラー》の様に《魔聖騎士ランスロット》のレベルを下げて特殊召喚されたがそれに意味がある。なぜならこのカードはチューナーだからだ。

 

「よし、レベル4となった《魔聖騎士ランスロット》とレベル1《湖の乙女》でシンクロ。《魔聖騎士皇ランスロット》をシンクロ召喚!」

 

 魔聖騎士皇ランスロット

 ☆5 ATK/2100

 

 元々邪悪に見える姿がさらに禍々しくなった姿のランスロットだ。

 攻撃力はたったの100のみしか上がっていないが、そのテキストの効果は《魔聖騎士ランスロット》の効果を上回る。

 

「《魔聖騎士皇ランスロット》がシンクロ召喚に成功したことでデッキから”聖剣”1枚をこのカードに装備できる。《聖剣ガラティーン》を《魔聖騎士皇ランスロット》に装備させる!」

 

 魔聖騎士皇ランスロット

 ATK/2100→3100

 

《デーモンの斧》と同等の1000アップ。

 ガウェインが愛用したとされる聖剣の効果だ。これで《青眼の白龍》さえ倒せる攻撃力を得たものの、あと少しだけ足りない。

 そのため和成はさらに1枚のカードを付け足した。

 

「これならどうかな? 《聖剣カリバーン》を続けて装備!」

 

 魔聖騎士皇ランスロット

 ATK/3100→3600

 

 黄金の剣。かつてアーサー王が王に成るために岩から引き抜いた剣の名を持つ聖剣だ。

 効果は、二つ。その一つである装備者の攻撃力500の上昇により《魔聖騎士皇ランスロット》の攻撃力がやっと《H─Cエクスカリバー》を上回った。

 

「まずは《聖剣カリバーン》の効果でライフを500回復させる。そしてバトルフェイズ!」

 

 晃&和成 LP3200→3700

 

 500のライフ回復。

 決して高くは無いとはいえ、時としてライフ100、200が残り生き長らえる場面だって決して無いわけではない。気休め程度だが、使わない手は無いだろう。

 

「攻撃力が上がった《魔聖騎士皇ランスロット》で《H─Cエクスカリバー》を攻撃!」

「ちっ……」

 

 涼香&茜 LP6000→5900

 

 《聖剣アロンダイト》での攻撃力減少。

 《聖剣ガラティーン》《聖剣カリバーン》の2枚での攻撃力上昇。

 

 結果、3つの聖剣を用いることで神にも匹敵する攻撃力のモンスターを倒すことができた。【聖騎士】の真骨頂は聖騎士と聖剣が噛み合うことで発揮する。

 それは晃が使う武神と武神器を組み合わせる【武神】と類似していた。

 

「そのまま墓地へ送られた”アロンダイト”を《魔聖騎士皇ランスロット》に装備。エンドフェイズまで行くけどバトルフェイズ終了時に戦闘破壊に成功した《魔聖騎士皇ランスロット》の効果でデッキから《聖騎士ガウェイン》を手札に加える」

 

《魔聖騎士皇ランスロット》のもう一つの効果は、戦闘でモンスターを破壊したバトルフェイズ終了時に”聖騎士”か”聖剣”をサーチする効果だ。どちらもサーチできるというのは【聖騎士】としてかなり優れた効果だろう。

 

「では、私のターンですね。《コピー・プラント》を召喚します」

 

 コピー・プラント

 ☆1 ATK/0

 

 かつて晃と対戦した時にレベルを変化させ《No.107銀河眼の時空竜》をエクシーズ召喚したカードだ。チューナーでレベルのコピーを行えるこのカードはシンクロ、エクシーズともに扱える。

 

「それでは《コピー・プラント》の効果で《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》のレベルをコピーしますね」

 

 コピー・プラント

 ☆1→8

 

 これで茜の場にはレベル8となった《コピー・プラント》と《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》の2体が揃った。当然の如く、茜はエクストラデッキへと手を伸ばした。

 

「レベル8《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》《コピー・プラント》でエクシーズです! 《森羅の守神アルセイ》をエクシーズ召喚!」

 

 森羅の守神アルセイ

 ★8 ATK/2300

 

 森精の名、アルセイドを司るカード。

 ランク8にしては低い攻撃力だが、守備力は固い3200だ。それでも攻撃表示であるのは何か理由があるはずと思った矢先、さっそく効果を使用した。

 

「《森羅の守神アルセイ》は1ターンに1度、カード名を宣言しデッキトップを捲り該当するカードであれば手札に加える事ができます。私が宣言するのは……そーですね適当に《ワイト》でも宣言しときますね」

 

 なんて適当にカード名を一つ宣言した。

 彼女のデッキは植物族や炎属性と言ったカードが入った【フェニキシアン・クラスター・アマリリス】だ。なぜ闇属性アンデット族モンスター。それもレベル1のバニラモンスターなのだろうか。そもそもデッキに入っているのか。

 茜が捲ったカードは、当然の如く《ワイト》ではなかった。

 

「《超栄養太陽》ですね……違った場合は墓地に送ります。まあ、もともと《ワイト》なんて入っていないのですが」

 

 入ってないのかよ。

 など心の中で晃がツッコミを入れる。

 

「ですが、これで”アルセイ”の第二効果が発動します。私のデッキからカードが墓地へ送られたことでエクシーズ素材を一つ取り除き、場のカードをデッキの一番上か下におくことができます。それで《魔聖騎士長ランスロット》をバウンスします」

「うわっ……そう来たよ……」

 

茜は重ねていた《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》を取り除いて効果を発動させる。《魔聖騎士皇ランスロット》はシンクロモンスター故、デッキの上下は関係無い。普通にエクストラデッキへと戻された。

 当然装備していたカードも墓地へと行く。

「ではバトルフェイズに入りますね。《森羅の守神アルセイ》で直接攻撃(ダイレクトアタック)です!」

 

 ああ、成程ねと和成は感心した。

 茜の墓地にはバーン効果を持つ《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》が存在する。破壊されるたびに800のダメージを与えるカードだが、今の直接攻撃を受ければ残りライフは1400と2回効果を通すだけで負ける。

 元々、彼女のデッキは長期戦などで発揮するようなタイプであるがこの場の様なライフ差があり攻められる時点ならとことん攻める。よく考えているなと呟いた。

 

「まあ……勿体ないけど《リビングデッドの呼び声》を発動。《魔聖騎士ランスロット》を蘇生させる」

「そうですか、けれど攻撃は続行しますよ?」

「どうぞ」

 

 晃&和成 LP3700→3400

 

 この場で《リビングデッドの呼び声》を使うのは勿体ないと感じたものの、それでもダメージを減らさなければと思った一心で発動させた。おかげで受けたダメージは直接攻撃より2000減少の300ダメージだけだ。

 

「カードを2枚伏せて、エンドフェイズに入ります。墓地の《コピー・プラント》を除外して《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》を特殊召喚します」

「いい加減しつこいねそれ。なんとかならないの?」

 

 などと皮肉げに語る。

 3度蘇ったことになるが、破壊すればダメージを受け破壊しなかったらエクシーズ素材になったりで散々だ。ちなみに、それは晃も体験済みである。

 

「そーですね。除外に弱いですけど……2人のデッキではできると思いますか?」

「「無理」」

 

 口を揃えて答えた。

 【武神】を使う晃は、自身のカードを除外したりはして活用することがあるが《次元幽閉》《ブラック・コア》などのカードは入れていない。【聖騎士】を使う和成も攻撃重視のデッキであり聖騎士、聖剣などのバランスを考え入れる余裕が無い。

 結果、不可能だと判断された。

 

「まー、オレのターンからか」

 

 うじうじしても仕方が無い。

 続いて晃のターンから開始された。

 

 

 




 

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