遊戯王部活動記   作:鈴鳴優

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002.勝つぞ!

「さて、ルールも大体、理解できたか?」

「で、できましたとも。いや……ほんと、これでシャレにならないぐらい多いんッスけど……」

 

 1時間後。

 晃は、鈍器としても扱えるルールブックを熟読し終えすでに疲労の表情を浮かべていた。

 まずは、大まかなルールとしてターンの流れ方や各フェイズにおいての行動について。デッキ構築における基礎、勝利条件など遊戯王を行うのに必要不可欠な部分から、さらにチェーンの組み方やスペルスピード、ダメージステップの効果処理、タイミングを逃すなど、etc。すでに中級者クラスでも間違えてしまうようなところまで読まされたのだ。

 初心者どころか、それ以下の晃にとっては苦痛でしかなかった。

 

「とはいえ、知識なんてのは実際に決闘(デュエル)していけば身に着くもんだしな。後は、実戦あるのみだ!」

「あれ!? オレの1時間の苦労は!?」

 

 実戦で知識が身に着くのであれば、別にルールブックを隅々まで読まずに始めから実戦の方にして欲しかったと晃は思った。特に、延々と本とにらめっこをするのが晃にとってキツイと断言できる事柄なのだ。

 

「それで、実戦なんだが…………俺のデッキだと瞬殺だしなぁ。日向が相手してくれないか?」

「ええ、構いませんよ」

 

 またしても、物騒な言葉が出ていた。

 もっとも、今回は物理的でなく遊戯王での意味合いらしいがそれほどまでに実力差があるのか、などと思考しながらテーブルに座る。向い合う様に座る日向茜は、手にもっていたカードを手慣れた手つきでカードを混ぜる行為であるシャッフルを行う。それを真似するように晃も同じ事をしようとするのだが……。

 

「あ、あれ……」

 

 うまく混ぜることができずにカードが散らばってしまう。

 どうやら見た目以上に相当難しいようだ。

 

「橘……」

「……部長?」

 

 途端、晃の肩に創が手を置きトーンを低くして名前を呼んだ。

 

「もっと、丁寧に、な……でなければ本当に殺されるぞ」

「りょ……了解!」

 

 部室にデッキを残した先輩というのは、本当に恐ろしいのだろうか創は震えながらも真剣に晃の目を見て警告した。無論、それを晃も察したのか同じく震えて肯定の意味として返答した。

 そのまま、散らばったカードを拾い集め。先ほどとは違いゆっくりと慎重かつ丁寧にデッキを混ぜテーブルに上にデッキを置いた。

 

「では、始めましょうか。とりあえず、今回はコイントスで先攻後攻を決めます。100円玉を使いますけど、どっちにします」

「なら表にする」

「了解!」

 

 ピンッ、といい音を立てて指で弾かれた。

 百円玉はテーブルへと落下したのち跳ね回転したのち『100』と数字で描かれた方が上向きに落ちた。ちなみに、100円玉を『100』と書いた方が表だと勘違いする人が多いが便宜上年号が書かれた方が裏とみなされているため、桜が描かれている方が表である。

 そのため、晃は外した事になり茜の先攻から始まる。

 

「では、行きますよ! 決闘(デュエル)!」

「え? あ……デュ、決闘(デュエル)

 

 茜が始まりの合図としての掛け声を掛ける。

 それに合わせ晃も遅れながら同じように掛け声を掛けた。

 

「私のターン、ドロー! モンスターをセット、カードも1枚伏せてターンエンドですよ」

 

 最初の1ターン目がわずか10秒たらずで終了した。

 とはいえ、一番始めのターンにはバトルフェイズを行う事ができずメインフェイズ1まででしか行えないため、様子見に徹する事が多いため珍しいというわけでもない。

 そのまま、ターンは晃へと移る。

 

「お、オレのターン、ドロー」

 

 デッキトップよりカードを1枚引き手札に加える。

 その後、じっくりとカードを見て茜の時とは対照的に実に二十秒近く経過したのち、1枚のカードを不慣れな手つきで場に出した。

 

「まずは、これだ! 《武神器─ハバキリ》を召喚」

 

 武神器─ハバキリ

 ☆4 ATK/1600

 

 先陣を切ったのは、鳥の様なイラストが描かれたモンスターカード。

 攻撃力は、1600と決して低い数値ではないモンスターなのだが、それを見て晃以外の二人は疑問を抱いたかのように眉を細める。

 

「あれ、橘? 手札に“武神”とかサーチ系のカードがないのか?」

「え!?」

 

 創の疑問に、晃はぎょっとする。

 晃にしては、普通に攻撃力の高いモンスターを出したつもりであったが晃の使用するデッキにおいては、時と場合に寄るがプレイミスと呼ばれる時もある行為であったのだ。

 彼の驚い様な様子を見て創は、やれやれと嘆息し茜も無言で首を振った。

 

「あのな……お前が使う【武神】は、“武神”を中心に “武神器”を()()()()()()()()()()()()()()ようなデッキなんだぞ! 例えて言うなら剣士を後衛、魔法使いを前衛に配置したもんだぜ」

「そ、そうッスか……!?」

 

 ゲームの様な例えで晃は、始めて理解した。

 それも《武神器─ハバキリ》は手札から効果を発動するモンスターであり場に存在しては、その真価を発揮できないのだ。故に現状では、攻撃力がそこそこある効果のないモンスターでしかないのだ。

 

「け、けど……残りの手札はこんなもんしか……」

 

 と、創に残りの手札を見せる。

 その中に“武神器”はあれど“武神”のモンスターは存在しない。が、かわりに1枚の壺の様なカードが目に入った。

 

「それだよ! それ! まずは、そいつを使うんだよ!」

「え……じゃあ、この《強欲で謙虚な壺》を発動」

 

 晃が発動したのは、デッキの上から3枚めくり1枚を選んで手札に加えられるカードだ。

 手札の枚数は変動しないものの、望むカードを引く確率が上がるために採用率も高いカードである。

 晃は、デッキから1枚づつカードを表にしては《死者蘇生》、《武神降臨》、《武神─ヤマト》の3枚が選択される事となった。

 無論、その3枚を見て創はため息をついた。

 

「ほら、言わんこっちゃない……」

「じゃ、じゃあ……《武神─ヤマト》を選択して手札に加える……」

 

 これで晃が使っているデッキのキーカードが手札に加わった。

 しかし、もうすでに召喚を行っているため晃はソレを場に出すことが叶わず次のターンまで待つしかないのだ。

 

「けど、バトルフェイズは行える……ッスよね? “ハバキリ”で攻撃!」

 

 晃の攻撃宣言に対し茜の場にモンスターは1体のみ。

 実際には、何に対して攻撃を行ったわけでもないが直接攻撃をできる効果を持ちえないハバキリの攻撃に対し自動的に茜の場に伏せられたモンスターが対象となる。そのため伏せられたモンスターが表となり、さくらんぼの様なモンスターのイラストの可愛らしいカードが現れた。

 

 ナチュル・チェリー

 ☆1 DEF/200

 

「私のモンスターは《ナチュル・チェリー》。守備力は200なので戦闘で破壊されますよ」

 

 戦闘で破れたのに悔しく感じないのか、戸惑いなく墓地へと送る。

 晃はそれを疑問に思ったが、その様な疑問はすぐに解消されるのだった。

 

「ですが、このタイミングで《ナチュル・チェリー》の効果が発動します。相手によって墓地へ送られた時、同名カードを2枚までデッキから裏側守備表示で特殊召喚できます」

「い゛ぃ゛……!?」

 

 そんなんありか、と言いたげな表情で効果を聞いた。

 茜は、そのままデッキから同じくさくらんぼのイラストの《ナチュル・チェリー》を2枚取り出しては、デッキをシャッフルし裏返しにして置いた。

 

「攻撃したのに……モンスターが増えやがった……」

「まあ、これも軽い方ですよ。もっと酷い効果を持ったのがたくさんいますからね」

 

 遊戯王を知らない晃にとっては、《ナチュル・チェリー》1枚ですら驚く効果であったが、茜の言い分は確かだ。たった1枚で戦局を覆すカードなど遊戯王においては、山ほどあるのだから。

 

「えっと、終了宣言は……ターンエンドでいいんだよな……」

「あれ、何か伏せたりは?」

「あ……!?」

 

 うっかりしていた。

 晃の手札には緑色の枠や赤紫色の枠のカードもあるのだ。

 当然、ルールブックを読んだ彼も赤紫の罠カードは例外はあれど伏せなければ使えないのが大半だと記憶しているのだが、どうやら現状ではそれを忘れるほど一杯一杯らしい。

 

「作戦……だ」

「見え見えですけどね。今なら巻き戻してもいいですよ」

「いや、いい……」

 

 冷や汗をかきながら強がりを言うもバレバレであった。

 初心者である事から、エンド宣言を取り消しても言いと言う茜に対しても何かプライド的なもので彼は拒んだのだ。

 

「そうですか。では、私のターン! まずは《超栄養太陽》を発動します」

 

 茜が繰り出したのは、緑色の枠の魔法カードと呼ばれるものだ。まして魔法カードと書かれる横に∞のマークがついた永続魔法とされる物であり、それを伏せてあるモンスターより一間隔後ろに置いた。

 

「《超栄養太陽》……?」

「これは、自分の場のレベル2以下の植物族モンスターをリリースして発動します。《ナチュル・チェリー》はレベル1の植物族モンスターのため条件を満たしているので、リリースしそのレベルより3つ上まで……つまりレベル4以下の植物族モンスターを手札、デッキから特殊召喚できます」

 

 そう言いながら、デッキを手に取り1枚のカードを抜き取り場に出した。

 

「その効果で《ローンファイア・ブロッサム》を特殊召喚です。あ、《超栄養太陽》が破壊された時、この効果で特殊召喚したモンスターは破壊されますよ。まあ、関係ないですけど」

 

 ローンファイア・ブロッサム

 ☆3 ATK500

 

 それは、《超栄養太陽》のカードが破壊されないという断言だった。もっとも、晃の場には《武神器─ハバキリ》のみ。魔法、罠を破壊する代表格《サイクロン》等のカードを伏せてない今となっては、このターン中に破壊できるのは無に等しい。

 ちなみに、《ローンファイア・ブロッサム》はレベル3の植物族。《超栄養太陽》の条件は問題なく満たしている。

 

「《ローンファイア・ブロッサム》の効果を発動します。このカードをリリースし、デッキから《姫葵(ひまり)マリーナ》を出します」

 

 《ローンファイア・ブロッサム》は、自身を含む自陣の場の植物族モンスターをコストにデッキから植物族モンスターをレベルの制限なく呼ぶ効果を持つ。故に、今回のように《超栄養太陽》などから経由する事でレベルの制限なく呼べるため植物族においての必須カードとも言えるだろう。

 

 姫葵マリーナ

 ☆8 ATK/2800

 

「うわ……攻撃力2800のモンスター!?」

 

 呼び出した《姫葵マリーナ》の数値を確認して晃は、戸惑いの声を上げた。

 先ほど茜が言った“もっと酷い効果を持ったのがたくさんいる”というのは、本当だったらしいと実感した。

 

「ですが、このモンスターは攻撃力だけじゃありませんよ。もう1体の《ナチュル・チェリー》を反転召喚して、魔法カード《フレグランス・ストーム》を発動し、表側表示の《ナチュル・チェリー》を破壊です!」

「自分のモンスターを破壊?」

 

 茜の行動に晃は首をかしげた。

 いくらステータスが低かろうと前のターンの様に1度は、攻撃を塞ぐ壁に使えるものをわざわざ破壊するなんて何かあるのだろうかと。

 もっとも、それはすぐに身に持って体験するのだが。

 

「そして、カードを1枚ドローし、それが植物族だったらさらに1枚引けます。私が引いたのは植物族《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》! よって追加ドロー……この瞬間、《姫葵マリーナ》の効果も発動します!」

「っ!?」

 

 晃は思わず身構えた。

 最上級モンスターの効果だ。先ほどのレベル1の《ナチュル・チェリー》やレベル3の《ローンファイア・ブロッサム》でさえ驚いたのだ。ならば、レベル8の《姫葵マリーナ》にはそれ以上の効果があるのか、と。

 

「このカードが表側表示の時、このカード以外の自分の植物族が破壊され墓地に送られる度に相手の場のカードを破壊できます。この効果で《武神器─ハバキリ》を破壊です!」

「なぁっ!?」

 

 条件付きとはいえ、相手のカードを破壊する効果。

 しかも先ほど、墓地に送られる度と言っていたため一度きりでなく条件さえ満たせば何度でも使える効果。確かに、これも酷い。

 そうして晃はしぶしぶ“ハバキリ”を墓地とされる場に置く事になり彼の場には、カードが存在しない無防備な状況へと陥ってしまった。

 

「バトルフェイズ……に行く前に、《トレードイン》を発動しておきましょう。手札のレベル8《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》を捨て2枚ドローです」

 

 さらに、手札交換カード。

 レベル8限定だが、手札のモンスターを墓地へ送り2枚のカードを引けるこのカードも優良とされるカードの1枚だ。

 

「では、バトルフェイズに入ります。《姫葵マリーナ》で直接攻撃(ダイレクトアタック)です」

「っ……直接攻撃(ダイレクトアタック)だと攻撃力そのもののダメージ……だったよな?」

「ええ、そうですよ」

 

 晃LP8000-2800→5200

 

 手元の電卓を操作し、《姫葵マリーナ》のATKと書かれている数値2800が晃の初期ライフである8000から削られる。まだ、半分を切っていないということもありまだ余裕があるように思われるが、実際遊戯王はそこまで甘くないのだ。

 

「では、エンドフェイズに入ります。この時、墓地の《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》は他の墓地の植物族を除外する事で守備表示で特殊召喚できるので《ナチュル・チェリー》を除外して特殊召喚です」

 

 フェニキシアン・クラスター・アマリリス

 ☆8 DEF/0

 

 それは、彼岸花のような植物のモンスターカード。

 レベル8でありながら守備力0のカードだが、墓地に送られたはずなのに場に召喚されるカードもまた油断ならない。

 

「橘くんのターンですよ」

「え、ああ、そうか……オレのターン、ドロー」

 

 引いたカードは、《おろかな埋葬》。

 テキストには“自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地に送る”という効果であり、今までのカードの効果と見比べればデメリットにしか思えないカードだった。

 

「なんで、こんなカードがデッキに……って、あれ?」

 

 この時、自分がミスプレイで“ハバキリ”を出したときの創の台詞を思い出した。

 

『あのな……お前が使う【武神】は、“武神”を中心に “武神器”を()()()()()()()()()()()()()()ようなデッキなんだぞ!』

 

 手札や墓地(・・)

 つまりは、墓地から使えるカードを墓地へ送るためのカードなのだと。

 

「そうか! オレは《おろかな埋葬》を発動……墓地に送るのは──」

 

 デッキを取り出し、中のカードを見て行く。

 特に武神器と名の付いたカードを念入りに見て行くと目当てのカードはすぐに見つかった。

 

「これだ! 《武神器─ムラクモ》を墓地へ送る」

「“ムラクモ”……ですか」

 

 当然、【武神】の事を知っている茜もこのカードを見て顔をしかめる。

 まして、前のターン《強欲で謙虚な壺》の効果により“ムラクモ”の発動条件を満たすカードも手札に加えているのだから。

 

「《武神─ヤマト》を召喚!」

 

 武神─ヤマト

 ☆4 ATK1800

 

 晃が使用する【武神】の中核を担うモンスター。

 ステータスこそ普通のアタッカーであるものの、このカードの存在意義は“武神”と付く名前と種族である“獣戦士族”から由来するのだ。

 

「…………」

 

 茜は、一瞬伏せてあるカードに手をかけた。

 このカードであれば相手の《武神─ヤマト》を阻害する事が可能だ。だが、ソレには大きなリスクを伴うのだ。それに、ここで使ってしまえば彼の成長のためにもならないだろう……そう判断して彼女は、そっとカードにかけた手を戻した。

 そのまま、晃のプレイは続いて行く。

 

「《武神器─ムラクモ》には、“武神”と名の付いた“獣戦士族”が存在する場合と書いてあるから、それを満たす《武神─ヤマト》がいるなら使える……んだよな?」

「ええ、使えますよ」

「よしっ! なら、“ムラクモ”の効果! 墓地からこのカードを除外し、相手の表側表示の《姫葵マリーナ》を破壊する!」

 

 まずは、もっとも険しい壁でなるだろう《姫葵マリーナ》の撃破を優先した。

 高い攻撃力に加え他の植物族を破壊する度に自分のカードを破壊されるのであればジリ貧だ。だからでこそ、破壊できるのならば優先度はかなり上位に位置される。

 加えて、残されたのは守備力0の《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》。

 効果を全て把握しているわけでないものの、エンドフェイズに墓地から特殊召喚された効果を鑑みればこの効果だけ……もしくは、何かあるとしても《姫葵マリーナ》以上であるはずがない、というのが晃の読みだ。

 

「除外……なら、これが使えるかな。《(ディファレント)(ディメンション)(リバイバル)》を発動! 手札からカードを1枚捨て除外されている《武神器─ムラクモ》を表側攻撃表示で特殊召喚し装備させる。また、このカードが破壊されたとき装備モンスターも破壊される」

 

 武神器─ムラクモ

 ☆4 ATK1600

 

 最後の効果は茜が発動した《超栄養太陽》と類似していた。

 どうやら、カードによっては似たようなデメリットがあるらしいと晃は察した。

 

「バトルフェイズに入る。まずは、“ムラクモ”で攻撃するよ!」

「“アマリリス”の守備力は0なので破壊されます……ですが、このカードが破壊され墓地へ送られた時、相手に800のダメージを与えます」

「っ……そういうカードか」

 

 晃LP5200-800→4400

 

 この効果で、なんとなく《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》のカードの察しがついた。自分のターンのエンドフェイズに墓地から特殊召喚できる効果に破壊されれば相手にダメージを与える効果。つまりは、破壊と再生を繰り返しながら相手のライフを削るカードなのだ。ならば、ステータスの低さにも納得がいく。

 しかし、晃は“アマリリス”が攻撃した時に自壊する効果を知らない。もっとも、知ったところで彼が察した役割なのは変わらないのだが。

 

「けれど、これでモンスターはいない! 《武神─ヤマト》で攻撃だ!」

「通します」

 

 茜LP8000-1800→6200

 

 “アマリリス”が破壊された今、茜の場に攻撃を塞ぐモンスターはいない。

 対して、晃の場にはまだ攻撃を行っていない“ヤマト”が存在するため直接攻撃を行った。それを、茜はカードを1枚伏せているのにもかかわらず発動する気配すら見せずに受けた。

 

「っし、初ダメージ!」

 

 実際には、ただダメージを与えただけだ。

 しかし、遊戯王を始めてやる晃にとっては本当の意味での初ダメージなのだ。

 この喜びは、かなり大きいだろう。

 

「オレはカードを1枚伏せて、ターンエンド……だけど、“ヤマト”はエンドフェイズに効果を発動するから、ここで発動する……よな?」

 

 それは、《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》の効果の発動タイミングで学んだのだ。彼女は、ターンの終わりの手前に効果を使用させた。ならば、エンドフェイズに発動できる《武神─ヤマト》の効果もこのタイミングで発動するのだと踏んだ。

 それらを肯定するように二人は頷き。晃も『よしっ』と心の中で安堵し、効果を発動させる。

 

「デッキから“武神”と名の付いたモンスターを手札に加える……オレは《武神器─ヤタ》を手札に加え1枚捨てなければいけないため《武神器─ヘツカ》を捨てる」

 

 《武神─ヤマト》の効果はわかりやすく言えば、サーチと墓地肥やしの両立だ。

 今の様に、手札から発動できる“武神器”を手札に加えたり墓地から発動するために落としたり。または、その二つが行えるのだ。

 これで手札に加えた《武神器─ヤタ》は一度のみだが、“武神”の攻撃を無効にする効果を持ち墓地へ送った《武神器─ヘツカ》“武神”と名の付いたモンスターが対象となった効果を無効にする能力を持つ。

 

「成程……悪くない手ですね」

 

 たった数ターンでは、あるものの最初に“ハバキリ”を召喚したターンと比べれば随分と見違えるプレイングだと茜も実感していた。

 少しずつであるが、彼は成長しているのだ。

 

「これで本当にターンエンドだ!」

 

 強く宣言してターンの終了を告げる。

 コツは掴んだ。後は、掴んだコツに従って戦うのみだ。

 

 『勝つぞ!』。

 小さくだが、晃は胸の中で自分に言い聞かせるように呟いた。

 

 

 


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