遊戯王部活動記   作:鈴鳴優

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017.証明してやるよ

 

 

●新堂創 LP9000 手札5

 

□ 閃珖竜スターダスト

□ナチュル・ビースト

□ナチュル・パルキオン

■unknwon

 

●二階堂学人 LP2000 手札7

 

<終焉のカウントダウン カウント6>

 

廃部を賭けた最終決戦も中盤。

【終焉のカウントダウン】を扱う二階堂に対し、創が取った戦術は“ナチュル”シンクロモンスターによるロックだ。これで相手の魔法、罠を封じ込めて防御手段を大幅に削る事だ。加えて、1体にだが破壊耐性を付与できる《閃珖竜スターダスト》の存在。

 これで創の勝利は揺るがないなどと思う観客も一人や二人いるだろう。そのような中、二階堂のターンが始まった。

 

「僕のターン……愚かだな。たかだか魔法と罠を封じるために展開するとは」

「何?」

「貴様のデッキが地属性の【X─セイバー】である事からこの程度は想定済みだ。貴様の2体のナチュルシンクロモンスターをリリースする」

「っ……!?」

 

 途端、創の場のロックを行うために呼ばれた2体のシンクロモンスターが光の粒子となって場から消え去った。破壊でなく、リリースであるため閃珖竜の効果も発動する事ができず二階堂は1枚のカードを創へと投げ渡した。

 

「《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》だ。さあ召喚しろ」

「成程……対策済みってことか」

 

 溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム

 ATK/3000

 

 二階堂のカードであるに関わらず、そのモンスターは創の場に出現した。

 4,5メートルはあるであろう巨大な体躯のために創の後へと配置され首元に付けられた鎖から伸びた檻に創が閉じ込められる。全身が溶岩で覆われたゴーレムは本来の持ち主に敵対する形で召喚されるという風変わりのモンスターだ。

 だが、実質的に相手モンスター2体をリリースというもっとも回避する事が難しい除去に加えて“ラヴァ・ゴーレム”の攻撃さえ封じ込めれば常に1000ポイントのバーンダメージを与えられるカードだ。

 

「やるなぁ生徒会長」

「当たり前だ。カードを1枚伏せターン終了」

 

 

終焉のカウントダウン 6→7

 

 7ターン目のカウント。

 まだは13ターンという半分以上も猶予があるに関わらず彼らの場には張り詰めた緊張感が漂っていた。二階堂は冷めたような感じで静かにプレイングを行うにも関わらず、この戦いには負けられないという気迫が込められている気がするのだ。

 

「俺のターン、ドロー……」

「おっと、スタンバイフェイズに《覇者の一括》を発動。同時に“ラヴァ・ゴーレム”の効果もな」

 

 創 LP9000→8000

 

 相手スタンバイフェイズに発動できるバトルフェイズをスキップさせるカードだ。ちなみにだが、このカード一括というのは誤字で正しくは一喝だと思われる。またしても攻撃抑制のカード。この勝つまで守り続けるという戦術に創ですら攻めあぐねるのだ。

 

「モンスターとカードを1枚ずつセットしてターン終了だ!」

 

 終焉のカウントダウン 7→8

 

「僕のターン。カードを2枚伏せてターン終了」

 

終焉のカウントダウン 8→9

 状況はまったく変貌しない。

 それでもターンが少しずつ進みにつれ二階堂の勝利条件が近づいてくるのだ。このまま逃げ切れるか、その前に防ぎきれずに敗北するかの2つしかこの決闘のシナリオにないだろう。

 

「よし、俺のターン、ドロー!」

 

 創 LP8000→7000

 

 創はスタンバイフェイズごとにもライフが削られて行く。それでも彼は常に防御に徹するためあまり意味はないであろうが。このまま彼は1枚の伏せカードを発動させる。

 

「《リビングデッドの呼び声》。これで呼び出すのは《ナチュル・パルキオン》だ!」

 

 一度は、《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》の召喚のためにリリースされたモンスターであるが《リビングデッドの呼び声》により場に舞い戻る。これで再び二階堂の罠を封じる事ができる。二階堂の【終焉のカウントダウン】攻略には相手の攻撃封じを封じるのが必須なのだ。

 

「行くぜ! 《ナチュル・パルキオン》で直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

「させるわけがないだろう? 手札から《バトル・フェーダー》を特殊召喚だ」

 

 バトル・フェーダー

 ☆1 DEF/0

 

 ゴーンと鐘を鳴らす小さな悪魔が二階堂の場に現れる。

 相手の直接攻撃時に特殊召喚できバトルフェイズを強制的に終了させるそのモンスターもまた二階堂が用意した相手の攻撃を退けるカードだ。

 いいかげんにしてくれ。そんな焦燥感が対戦している創ではなく晃や涼香、茜が思っている中、創だけは笑っていた。

 

「ははっ……面白ぇ」

「ふんっ、この状況でも笑っていられるとは。阿保の極みだな」

「阿保って……けれど、強ぇぜ生徒会長。ここまで攻撃が通らないなんて久しぶりだし、それをどう突破するか考えるだけでもワクワクする!」

 

 なんて高らかに大らかに語る。

 子供っぽい笑みを浮かべる創は、いつしか氷湊涼香と対戦した時と同じような雰囲気を見せていた。それとは対照的に二階堂は不快そうに顔を歪める。

 

「いいから。さっさと続けろ」

「おっと、わりい……ターンエンドだ」

 

終焉のカウントダウン 9→10

 

 ようやく半分が来てしまった。

 上空に灯る赤い炎は半円を描くような形で留まっており、もう半分で円の形になった瞬間に創は敗北を喫するのだ。たった半上級クラスの直接攻撃で終わるのにもかかわらずそれを削るのは果てしなく遠い。

 

 状況は総合的に見れば創の方が有利だろう。二階堂の残りライフが2000という事を考えれば残りのターンでそれを削りきるのに少しだけ押し切れば勝てるのだ。それも場に《ナチュル・パルキオン》がいる今となっては決して難しい事ではない。

それは承知のはず。二階堂学人は、不利の状況でありながらも焦燥感を欠片も見せることなく己のターンへと移した。

 

「僕のターン……こいつは、前の試合と状況が被るな……《時戒神メタイオン》を召喚する」

 

 時戒神メタイオン

 ☆10 ATK/0

 

 攻撃力が0とは思えない巨大なモンスターが出現する。

 前の椚山と涼香の試合で【チェーンバーン】の椚山が見せたモンスターだ。強力なモンスターを並べ場において有利な状況を作り出した状況を覆した凶悪なモンスター。

 

「《時戒神メタイオン》で《ナチュル・パルキオン》を攻撃」

「っ……」

 

 《時戒神メタイオン》は攻撃力0でありながらも、戦闘ダメージを0にする効果と戦闘、効果において破壊されない効果を持つため戦闘で変わった状況など1つもない。しかし、問題なのは《時戒神メタイオン》が戦闘を行ったバトルフェイズ終了時だ。

 

「バトルフェイズを終了し《時戒神メタイオン》の効果が発動。さあ、戻せ」

 

 途端に創の場から1枚の裏側のカードが手札、《閃珖竜スターダスト》、《ナチュル・パルキオン》が創のエクストラデッキへ《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》は元々の持ち主である二階堂の手札へと渡ったのだ。さらに、戻した数だけ創にダメージが入る。

 

 創 LP7000-1200→5800

 

「く……くはは、どうだ新堂。貴様はこれでも楽しいデュエルなどと言えるか?」

 

 ガラ空きとなった創の場を見て大声で二階堂は笑う。

 どんなに攻めようとしても防がれ、対策を行おうとしても悉くに潰されて行くのだ。これをやられたらどのような人物でも立ち直るのは難しいだろう。かくいう創もこの場を見ては苦笑いだ。

 

「ははっ……こりゃ、さすがにキツイぜ」

 

 ただし、彼は最後に「けれど」と言葉を付け加えた。

 

「まだ勝負は決まっていない! 最後の1秒が来るまで俺は諦めることはないぜ」

「ふん……ターン終了。これで11ターン目だ」

 

終焉のカウントダウン 10→11

 

「俺のターン、ドローだ」

 

 こうして12ターン目が開始された。

 場にカードは表側であるだけで意味を成さない《リビングデッドの呼び声》1枚のみであるが、代わりに手札は6枚と潤っている。決闘者の可能性は手札の数だけあるなんて言葉があるためにここから彼は新たな戦術を練っていく。

 

「……」

 

 ──最後の1秒が来るまで俺は諦めることはないぜ。

 そんな事を言っておきながら創は考え込んでいた。《終焉のカウントダウン》の残り猶予は8ターンだが、実際に自分のターンは4ターンしか回ってこない。その貴重なこのターンもモンスターのバウンス目的で出したはずだが破壊不可、戦闘ダメージ無効の《時戒神メタイオン》が存在する。

 

 創のデッキには、この場で直接攻撃を行えるような効果を持つカードは入っていない。

 このターンも攻撃不可なのだ。

 

 後残り自分が行動できる3ターンを使って勝つには、相手の攻撃抑制カードを悉く潰すだけでは足りないのだ。もっと前提的なものを潰さなければいけない。一つ、創は己のエクストラデッキをちらりと見て思い当たった。

 

「そうか……この手があったな」

 

 創が思い当たった手段ならば、攻撃抑制のカード自体を封じられる。

 ただし今の手札ではその手段を実行するには足りないのだ。

 

「モンスターを伏せてターン終了だ」

 

終焉のカウントダウン 11→12

 

12ターンが経過し二階堂の13ターン目へと移ろうとする。

彼がカードを引こうとデッキトップに手を置くが途端に手の動きは止まり、視線を創へと移したのだ。

 

「僕のターンだが……その前に、一つ話をしようか」

「話?」

「そうだ。僕が遊戯王部をやめた理由は貴様も知っているな」

 

生徒会長、二階堂学人が遊戯王部をやめた理由。

学年は違えどかつて一緒の部活にいた現、部長の新堂創は知っているものの晃たち1年生はその理由を知らない。ごくりと息を飲み彼らの次の言葉を待った。

 

「確か……去年の団体戦、第七決闘高校との対戦で負けたからだっけか?」

「ふんっ、貴様も相変わらずいい加減だな。だが、そうだ。僕が出た試合……僕が負けた事でチームも敗退した。まして……これが橋本部長の最後の大会だったからな」

 

責任みたいな事だろうか。

 晃は昨日の昼に聞いた話を思い出す。かつて遊戯王部にいたメンバーで現部長の新堂創に当時の部長で既に卒業してしまったという橋本部長という人物。後、もう一人いたと聞いたがそれが生徒会長、二階堂学人なのだろう。

 

 その3人と知り合いを誘っての団体戦を挑んだ結果、彼が言っていた日本第七決闘高校に1勝もできずに敗退したと聞いた。そのチームとしての勝敗を賭けた戦いで二階堂は戦い敗北した事で団体戦として負けた……つまり彼は自分の責任だと思ってやめたのだろう。

 

「別に、俺は責任を感じる事なんてないと思うぜ」

「ふんっ、貴様にはわかるまい。当時、最後の試合を任せられ出る事なかった者が……それも貴様の様な才能を持った天才ならなおさらだ」

「天才ね。そんな肩書、俺は別にどうでもいいんだが」

 

 このとき、二階堂は小さな声で「だからだ」と呟いた。

 それはまるで自身に言い聞かせるかのように。

 

「僕のせいで終わってしまったんだよ。橋本部長だって、もう居ない……それに貴様らも団体戦に参加すらできないだろ。もう、現実を見ろよ……お前らは第七決闘高校には勝てないんだ。僕は戦ったからわかる……あいつらは化け物だ。こんな寄せ集めみたいなメンバーで勝てるものか」

「生徒会長……」

 

 棘々しく、常に不機嫌そうな表情で語る二階堂だが一瞬だけそれ以上の悲しみという感情を露わにしたように見せた。

 

「僕が……終わらせたんだ。もし、僕が勝っていればまだ続けていられたかもしれない。けど、もうこの部では勝つという夢を見る事すら不可能だ。もう夢も見れなくなった部活、ならば僕の手で終わらせる。それが僕のけじめのつけ方だ」

 

 これが二階堂が遊戯王部を廃部にさせようとした理由なのだろう。

 けれど、そんなけじめのつけ方間違っていると晃は思った。

 

 勝手に責任を背負いこんで、勝手にもう勝てないと決めつけて。

 自分の中だけで完結させたのだ。自分勝手も甚だしい。

何を考えているのか、創は二階堂の言葉を聞いては軽く笑みを浮かべた。

「もしかしたら、アンタの言い分は正しいかもな。誰だって勝てない相手の一人や二人ぐらい存在するもんさ……けどさ──だからって戦う前から勝てないって決めつけるのも良くはないぜ。前を向かなきゃ、できるもんもできなくなるさ」

「…………」

「だから、な──」

 

 創は睨むかのような鋭い視線で二階堂を見た。

 二階堂へと向けたのは敵意ではない。闘志だ。

 

「アンタは、この決闘で自分が正しいって主張するんだろ? だったら、俺もだ! 俺はこの決闘で勝って──証明してやるよ! 俺たちがやっているのが決して無駄ではないってことを!」

 

 叫ぶような大声で堂々と宣言した。

 彼の言葉を聞いた二階堂は、悲しみの感情を露わにしていた表情はいつの間にか消え、いつもの敵を見るかのような冷たい目で創と対峙する。

 

「いいだろう。なら、やってみせろ」

 


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