遊戯王部活動記   作:鈴鳴優

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016.実力だけは認めている

『最終戦! 生徒会側はやはりこの人! 現生徒会長、堅物眼鏡と名高い二階堂学人先輩!』

 

 2回戦目は相性が悪いながらも涼香が椚山の【チェーンバーン】を破り辛勝した。これで1勝1敗となったおかげで最終戦へと突入を果たす。勝敗が委ねられた最後の1戦に出て来るのは、生徒会長でありこの件の発端となった人物。二階堂学人。

 

 彼は、数歩前へと歩いては体育館の中央で立ち止まり対戦相手である遊戯王部部長の新堂創を氷の様な冷たい視線で睨む。

 

「ふんっ、まさか僕の出番が来るとはな……いいだろう。現実という物を見せてやろう」

 

 二階堂の言葉は、勝者は自身だと告げるのと同義だ。

 ならばと、これから対戦を行う創も前へと歩む。

 

『続いては、遊戯王部の部長にて校内遊戯王大会の優勝者、神童の異名を持つ天才と名高い新堂創先輩!』

「生徒会長……アンタ、変わったな。俺が知ってる頃よりも随分と冷たくなった」

「現実を見る様になっただけだ」

 

 体育館の中央でこれから決戦を迎える様に二人は対峙する。冷たい視線の二階堂に対し、創は真逆。二階堂を見ているのにも関わらず、敵に向けるような物ではない穏やかな視線を向けた。

 二人の言葉のやり取りは、まるでお互い知り合いであるかのように思える。もっとも、この会話だけではどのような関係だったまでかは知りえる事はできない。

 

「まあ、いい。夢だの努力だの……いくら費やしても無駄だと言う事を僕が貴様らに教えてやる」

 

 宣戦布告をするかのように吐き捨て、腰のデッキホルダーから取り出したデッキを決闘盤へと装着する。晃や涼香から見れば実力が未知数の生徒会長。だが、彼が決闘盤を構える風格は明らかに経験者の域であり弱いはずがないのだけはわかる。

 

「そうか……」

 

 ならば、と一度目を閉じる創。

 再び見開いた時には、穏やかだった視線は消え闘士を秘めた瞳。彼がいつもデュエルを行うような目で敵である二階堂を見る。

 

「どっちにしろ、俺がやるべき事は決まっている……始めようぜ」

「無論だ」

 

 数秒の間、静かな空気が張り詰める。

 静寂ののちそれを切り裂くように二人の声が折り重なった。

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 先攻は、生徒会長二階堂学人。

 彼は5枚の手札を確認したのち、目当てのカードがなかったかのかつまらなそうに舌打ちをする。

 

「僕のターン、ドロー……まずは《一時休戦》を発動」

 

 最初に発動した《一時休戦》は、両者がカードを1枚引き相手のエンドフェイズまであらゆるダメージを0にするカードだ。ドローソースと使便利な防御系カードとしての両立などで現在では、制限カードとなっている。

 

「互いにドローし、《成金ゴブリン》を発動。1枚ドローし、貴様はライフを1000回復させる」

 

 創 LP8000→9000

 

 またもドローソース。

 1枚ドローは、手札の総数が変わらないがデッキの圧縮でキーカードが引きやすくなるためコンボを狙うデッキや一つのキーカードに依存するデッキには貴重である。ならば、彼のデッキもそのような系統のデッキだと思われるが──。

 

「生徒会長、アンタもデッキを変えたのか?」

「変えた? 正確に言えば違うな……貴様らの目を覚まさせてやるために今回だけ使用するデッキだ。続いて《強欲で謙虚な壺》を発動」

 

 これは、晃のデッキにも入っている擬似サーチとデッキ圧縮を行えるカードだ。

 今まで生徒会のメンバーが使ったデッキは、1キル特化の【歯車デミス】にバーンを行う【チェーンバーン】。ガチデッキとして大会で見かけるようなデッキではないが、意表を突かれれば簡単には対応できないだろう。

 ならば、二階堂もそれらに似たようなデッキを使うと創は睨むのだが。

 

「ふんっ、1枚目は《活路への希望》、2枚目《和睦の使者》、3枚目──」

 

 《強欲で謙虚な壺》の効果で捲られる最後のカードが明らかになる。

 これが二階堂の目当てのカードだったのか、彼はにやりと笑い。逆に初心者である晃を除き創に涼香、観客たちが彼のデッキコンセプトを知った瞬間でもあった。

 

「僕は、最後のカードを手札に加え──ライフを2000支払う。《終焉のカウントダウン》を発動だ!」

「っ──!?」

 

 二階堂 LP8000→6000

 

 突如、創と二階堂の周囲を中心として暗雲が立ち上る。黒く不気味な雲はまるでフィールド魔法の様に体育館の壁や天井を覆うとおぞましい空気BGMが流れ出す。

 

「な、何だ……このカードは!?」

 

 決闘盤の用いてのデュエルを数度、行った程度ではあるが晃もある程度の演出を見て来た。それでも、今発動した《終焉のカウントダウン》はフィールド魔法にも匹敵するほどの異常の演出を見せるため驚き慌てふためいた。

 驚く彼に解説するように隣から声が聞こえる。

 

「《終焉のカウントダウン》は、ライフを2000支払う事が発動条件ですが20ターン後に発動プレイヤーが勝利するというカードです」

「勝利って……特殊勝利カード!?」

 

 ルールをあらかた覚えた晃も特殊勝利においては知識があった。

 相手のライフを0にする、相手がカードを引けなくなるというのに付け加えた3つ目の勝利条件であり、おそらくもっとも困難だと思われる勝利方法だ。

 

 現在の速攻型が重視される遊戯王の環境でも20ターン。実際に《光の護封剣》などのカウントでなら半分の10ターンであるがそれでも時間がかかる。それ故、相手の攻撃を封じ続けなければならないが、創など強者に対し晃はできる自信がない。

 

「……つーか、いつのまに来てたんだ日向?」

「あはは、ごめんなさい今さっきです」

 

 本来、試合に参加するはずだった茜は申し訳ない気持ちがあるため苦笑いをして謝る。もっとも、彼女自身遅刻した理由が委員会の仕事という理由のため晃や涼香は責めようとは思わない。

 

「別にそんな事はどうでもいいわ。肝心なのは、アッチじゃないの?」

 

 茜の方に意識を向けていたものの、涼香の一言によりデュエルしている二人へと視線を戻す。《終焉のカウントダウン》が発動されてしまった今、創には20ターンの猶予があるがそれを越えさえすれば敗北となってしまう。

 このまま、デュエルを続いて行く。

 

「これでターンエンドだ」

 

 終焉のカウントダウン 0→1

 

 気がつけば上空に赤い炎の球が燈った。

 おそらく《終焉のカウントダウン》のカウントだろう。この炎の球が20個に満たされれば特殊勝利の条件が揃う演出らしい。

 

「そうか、けどソレより先に倒せばいいって話だ! 俺のターン、ドロー。モンスターをセット、カードを2枚伏せてターン終了だ」

 

 終焉のカウントダウン 1→2

 

 《終焉のカウントダウン》の条件を満たすより早く倒せばいい。

 もっともな話だし、発動した効果を止める事ができない以上ソレしか手が無いのも確かだ。だが、創のデッキは性質上墓地が溜まった後やサーチ効果で手札に揃えた時にこそ真価を発揮する。

 前半よりかは中盤以降から実力を見せるのも、彼がスロースターターと呼ばれる理由の一つだろう。

 それにこのターンは、すでに《一時休戦》の効果によりダメージを与える事ができない。そのため場を整えるだけでターンを終えた。

 

「僕のターン……カードを1枚伏せ、《ゼロ・ガードナー》を召喚」

 

 ゼロ・ガードナー

 ☆4 ATK/0

 

 プロペラを付けた青い小さな機械のような見た目だが、これでも立派な戦士族。

 攻守共に0であり吊っている模型も0に似ているのが名前のゼロの由来かもしれない。

 

「ターンエンドだ」

 

 終焉のカウントダウン 2→3

 3つ目の炎の球が灯る。炎は良く見れば直線でなくまるで曲線を描くように繋がっているのが確認できた。それはどうでもいいが、残り17ターンでありデッキの性質上当たり前だが、二階堂は完全に防戦に徹するつもりのようだ。

 ならば、と創はカードを引く。

 

「これならどうだ! 《XX(ダブルエックス)─セイバーダークソウル》を召喚」

 

 XX─セイバーダークソウル

 ☆3 ATK/100

 

 死神の様な怖い見た目をしておきながら攻撃力はたったの100しかないモンスター。アタッカーとしては扱いには攻撃力があまりに低すぎる故、彼が狙うのは戦力でなく素材だ。

 

「裏側の《X─セイバーパシウル》を反転召喚し、地属性2体でシンクロ! 来い《ナチュル・ビースト》!」

 

 ナチュル・ビースト

 ☆5 ATK/2200

 

 体毛の代わりに木々と草で覆われた虎柄の獣が現る。

 素材全てに地属性が限定されるため、デッキによっては難しいが地属性で統一される【X─セイバー】にとっては造作も無い条件のモンスターだ。その召喚難易度故に出せば任意で魔法カードを無効と墓地肥やしを行う非常に強力な効果を持つモンスターだ。

 

 相手のデッキ【終焉のカウントダウン】もドローソースなどで魔法を使用する事があるが、それを封じるだけでも違うだろう。ただ、先手で出せれば《終焉のカウントダウン》を潰し楽に勝てたかもしれないという仮定は言ってはいけない。

 

「まあ、バトルフェイズに入るが──」

「させん。僕は《ゼロ・ガードナー》をリリースしこのターンのダメージを0にする」

「そうだよなー」

 

 生きた《和睦の使者》とも言える《ゼロ・ガードナー》はスペルスピード2のフリーチェーンと言うことに加え自身をコストとしてリリースする事で発動する。《スキルドレイン》などで止める事もできず効果を止めるのは困難だ。

 そのため、このターンもまた攻撃が無意味となる。

 

「ターン終了だ。エンドフェイズに《XX(ダブルエックス)─セイバーフォルトロール》を手札に加えるぜ」

 

 終焉のカウントダウン 3→4

 

 さらに4ターン目。

 除々にだが創の敗北が近づいてきているような感覚を晃たちは肌で感じて来ていた。

 

「僕のターン、ドロー……カードを1枚伏せてターン終了」

 

終焉のカウントダウン 4→5

 

「ああ、やっぱ攻める気は毛頭ないってわけか」

「悪いか?」

 

 創は、項垂れるかのように小さく呟くが気に触ったのか皮肉げに二階堂は問う。

 それを創は頭を振って答えた。

 

「いいや、悪くないぜ。ただ俺は好きじゃないな」

「好き嫌いだけでデュエルをする輩にはわからんだろうな。貴様の……実力だけは認めている。悔しいながらも僕より上だ」

 

 この時だけは、皮肉な口調ながらも珍しく敵意を持たなずどこか遠くを見るような目で二階堂は語る。彼は、実際に自身が創に敵わないという現実を受け入れてデュエルを行っていると告げながら。

 

「だが、真っ向勝負を行う貴様に絡めてで行けばどうだ? ただ単純に気合や努力だけでどうこうなる世界ではないんだよ。それを僕は証明してみせる」

「証明か……確かに、結果を得なければ正しく伝わらない事だってあるさ。けれど、俺はそれ以上に大切な物があると思うんだ!」

「大切なものか……くだらん。勝利以外に求めるものがあるか。もし、あるとするな貴様が結果で示してみろ、貴様のターンだ!」

 

 早くターンを進めるようにうながす。

 彼、二階堂学人は相手である新堂創の実力を知り客観的な立場で己との実力差を受け入れたからでこそ、現在の【終焉のカウントダウン】を使っているのだろう。それこそ決闘者としての誇りを捨ててまで。

 

「そうかい、俺のターン! 来い《(エックス)セイバー─エアベルン》!」

 

 X─エアベルン

 ☆3 ATK/1600

 

 爪を武器にした猫背の獣の戦士。

 直接攻撃によってダメージを与えればハンデスを行えるという最小限の手札でプレイングを行う現在の相手などには嬉しい効果であるが、攻撃が通るかどうか定かではないこの場では効果はオマケ程度でしかない。

 

「続けて! 罠カード《ガトムズの緊急指令》を発動し、墓地の《X─セイバーパシウル》と《XX─セイバーダークソウル》を──」

「ふん、そう簡単にさせると思うか《神の宣告》で無効だ」

 

 二階堂 LP6000→3000

 

 二階堂の発動したカウンター罠《神の宣告》で無効にされる。

 しかし、発動に必要としたライフ半分というコストで既に彼のライフは半分を切った。それも全てライフコストでだ。それでも、このライフで彼はなんとも思わない。

 

「ダメージさえ受けなければライフなどさして重要でない。続けろ」

「そうかい。《ガトムズの緊急指令》は無効にされちまったけど《死者蘇生》を発動し《XX─セイバーダークソウル》を特殊召喚!」

 

 これで、創の場の“X─セイバー”は2体。

 前のターンでサーチしたカードの条件を満たすが、二階堂はそれとは別に創の場のモンスターのレベルと属性を見て1枚のカードを発動した。

 

「地属性で合計レベルが6になるか……ライフを1000支払い《活路への希望》を発動。ライフ2000の差につき1枚ドローする。ライフ差は6000よって3枚ドロー」

 

 二階堂 LP3000→2000

 

 一気に3枚ものドローを行った。

 その分、彼のライフは半上級クラスのモンスターの直接攻撃で終わる程度の数値まで下がったのだ。それでも、宣言した通り彼は創からダメージを受けるつもりは毛頭無いからだ。

 

「ここで手札補充か……まずは《XX─セイバーフォルトロール》を手札から特殊召喚するぜ!」

 

 XX─セイバーフォルトロール

 ☆6 ATK/2400

 

 おなじみの《XX─セイバーフォルトロール》のキーカード。

 ここで創は、“X─セイバー”が2体必要とした条件を終わらした事で2体をシンクロ召喚させる。

 

「地属性、レベル3“ダークソウル”と“エアベルン”でシンクロ! 現れろ《ナチュル・パルキオン》!」

 

 ナチュル・パルキオン

 ☆6 ATK/2500

 

 大地を削って出来たかのような肉体の龍。

 創が出した《ナチュル・ビースト》と同系統のモンスターであっちが魔法ならこちらは罠カードを自身の墓地から2枚除外する事で無効にする効果を持つ。コストは違えどこれで魔法と罠の二つを封じるロックが完成した。

 【終焉のカウントダウン】にとっては、このロックは致命的であるが。

 

「やはりそう来るか。たかだか、魔法と罠を封じた程度で良い気になるな」

「別に良い気になってないぜ。さらに“フォルトロール”の効果で墓地の“パシウル”を蘇生! レベル6の“フォルトロール”とレベル2の“パシウル”でシンクロ! 、《閃珖竜スターダスト》!!」

 

 閃珖竜スターダスト

 ☆8 ATK/2500

 

 加えて破壊耐性を付与するカードを場に出す。

 大抵の相手ならば《ナチュル・ビースト》、《ナチュル・パルキオン》、《閃珖竜スターダスト》の3体のシンクロモンスターの布陣の前に逃げ出したくなるだろう。それでも二階堂は涼しい顔をしてそれらを眺めていた。

 

「行くぜ! 《ナチュル・ビースト》で──」

「させるわけがないだろう。直接攻撃時に《速攻のかかし》を発動し攻撃を無効。バトルフェイズを終了させる」

 

 またもや攻撃を無効にされた。

 モンスターとか攻撃力とか二階堂にとっては不要なもの。彼は、ただ攻撃を防ぎ続けるだけで勝利を得るのだ。

 

 後、16ターンまで防げば彼の勝利となる。

 

「ちぇー、そう簡単にいかないか。ターン終了!」

「これで5ターン目だ」

 

 終焉のカウントダウン 5→6

 

 後、15ターン。

 魔法、罠、モンスターの全ての効果で攻撃を防ぐデッキである二階堂だが、その魔法と罠を封じられたというのに顔に動揺の色は微塵もない。このまま、彼は自身のターンへと移行させた。

 

「あ……」

 

 この時、ふと茜は二階堂の顔を見て何かを思い出す様に声を上げた。

 

「どうした日向?」

「思い出しました。そういえば私、この学校に入学する以前にここの遊戯王部を見たのですが……」

 

 少し溜めを置く。

 まるで重要な事かのように彼女はゆっくりと語った。

 

「あの生徒会長の人……昔、この学校の遊戯王部にいた人です」

 

 

 

 

 

 

 


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