遊戯王部活動記   作:鈴鳴優

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 連続投稿。
 2章に入ってやっとデュエルパートに入りました。
 ただし、今回はまともではないですが……。


013.ごめんなさい!

「なんで……いないのよ?」

 

 試合開始より数分前、観客たちの喧騒が聞こえる中で涼香は、小さく呟いた。それも廃部を賭けて生徒会との3対3の勝負を行うのに参加する事となっている日向茜がいないからだ。

 理由もわからないまま、彼女の呟き喧騒の中に溶けて消えていくと、突如機械的な電子音が鳴り響く。数秒後、創のポケットから携帯電話の着信音だと気付いた。

 

「なんだ、こんな大切な時に……って、日向からだ」

「……え!?」

 

 と、当の本人からの電話だった。

 創はすぐにボタンを押し通話機能を使っては、自身の耳に携帯電話を押しあてるように彼女と会話を行う。

 

「ああ、日向……お前、今どこに……って、ああ、そういう事か。まあ、なら仕方ないしなぁ。こっちは任せておけ!」

 

 なんて合槌を打ったり、納得したり最後には任せておけなどと言う言葉を述べては携帯を切る。のちに、どうしたものかと頭の後頭部を掻いては一度、咳払いをして事情を述べた。

 

「あー、なんつーか日向は図書委員の仕事が急に入ったとかで出れなくなったらしい」

「はぁ!? こんな大切な時に!?」

 

 などと呆れを通り越して苛立ちを見せる涼香。

 それも、そうだ。廃部を賭けての試合の当日に用事が出来てこれない……などと言うのが起これば、誰だって苛立ちを見せてもおかしくない。

 

「どうやら、そちらは一人出られなくなったみたいだな。まったく運がない奴らだ……」

 

 と、他人の不幸はなんとやらと軽く鼻で笑う二階堂。

 笑う彼を見て、ふと遊戯王部のメンバーは一つの仮定を浮かべてしまう。相手は、生徒たちの代表とでも言える生徒会なのだ故に、委員会に仕事を回すタイミングも操作する事自体簡単なのではと。

 そのような発想を浮かべては、黙っていられないと涼香が二階堂に突っかかる。

 

「っ……アンタたち! そんな、卑怯な手を使って……」

「ふん、卑怯な手? 何の事を言っているのかまったく心当たりがないな」

「っ……この!」

 

 しらを切る様な口調にシビレを切らしたのか、彼女は握り拳を大きく二階堂とは真逆の方向へと引き殴りかかろうとする。もっとも、その握り拳は二階堂へと届くことはなかった。

 

「待て……まあ、まだあいつらがやったて言う証拠もないだろ?」

「っ……」

 

 手で押さえ創が彼女を止めていた。

 確かに証拠がない、それにどちらにせよ殴りかかった時点で遊戯王部が何かしらのペナルティを負うのは明らかだろう。

 しかし、創はいつもの様な笑みを消しいつもに増して真剣な表情で二階堂を睨む。

 

「ただ、氷湊の言っている事が本当だったなら……気に食わない手段を使うようになったな……」

「ふん……何とでも言え、どっちにしろ貴様らは敗北すれば廃部になるという事実は変わらないだろう? もう、時間だ……始めるぞ」

 

 どう言われようが生徒会長、二階堂は微動だにしない。

彼は、一歩前へと踏み出し試合の開始を促す。それを聞き納得がいかない表情をしながらも涼香は創に問う。

 

「で、どうするの。日向が出れないなら、アレに出てもらうしかないけど……」

「おい、アレって言うのは酷いじゃないか……」

 

アレとまるで物扱いの様に指を指す涼香に、晃は項垂れる。もっとも、人数としては晃を含めれば足りる。そのため、創も晃に向って告げる。

 

「そうだな……というわけで晃、悪いがお前も出てくれ!」

「了解ッス……」

 

 試合へとの参加。

 それは、晃だって望んでいた事だ。あの生徒会長は気にくわないし、ひと泡吹かせてやりたいし、何より廃部が賭けられているのだ。彼だけ何もできないというのが歯がゆくてしかたなかったのだ。当然、晃は迷いなく了承の返事を行ったのだ。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

『それでは、第一戦を開始します! 実況は、この1年、遠山和成(とおやまかずなり)が僭越ながらやらさせていただきます!』

 

 などと司会進行役を務めているであろう遠山という人物が観客たちに告げた途端、周囲から『ワァアアアア!』と歓声が鳴り響いた。それに合わせ遊戯王部から一人、生徒会からも一人、たがいに決闘盤を腕に装着しては前に出る。

 

『では、生徒会チームから……先鋒を務めるのは、密かに隠れファンの多い美少女! ちなみにボクもファンの一人です。生徒会書記2年の初瀬小桃先輩!』

 

 この時、開始の宣言以上の歓声が沸いた。

 特に多いのは男子からで『小桃ちゃーん』、『今日も可愛いよー』などの言葉が多い。酷いのであれば、『好きだー!』などこの場で愛の告白を行う人物も多い。隠れファンとは言うが、もうこれは隠れを取った方がいいのではと晃は思う。

 それと同時に、生徒会書記、初瀬はおどおどしながら体育館の中央へと歩みを進める。周囲の歓声のせいか今にも目を回して倒れそうだ。

 

『続いて遊戯王部チームからは、あれこんなヤツいたっけ? 実力未知数のルーキー橘晃!』

「…………」

 

 もはや差別に近い実況に、晃は無言で中央へと歩み言った。

 それどころか、彼女の紹介とは逆に周囲の歓声がピタリと止んだのもある意味酷いものだった。若干、テンションを落としたもののそれでも負けられない勝負には変わらないと悲嘆にくれるのは後でいい。

 

「ま、まぁ……どちらにせよ本気で行くッスよ!」

「あ、あの……その、こ、こちらこそ」

 

 晃と初瀬はお互いに決闘盤を構えては起動し展開される。

 ソリッドビジョンシステムが作動しすでにいつでもデュエルに入れる状況だ。

 

『よぉし! 二人とも準備はいいな、それではデュエル開始ィ────』

 

 と、高らかに開始する遠山。

 このとき創や涼香、また遊戯王無印の原作を知っている人物は『磯野だ!』などと言う感想を抱いたのは晃が知らぬ事である。

 

 決闘盤のターンプレイヤーを表すランプがついたのは晃の方だ。よって彼が先攻としてプレイングを開始できるのは幸先が良い。加えて手札を確認するが、今までデュエルした中でも比較的良い方の手札だった。

 

「よし! オレのターン、ドロー! まずは永続魔法《炎舞-天璣》を発動! デッキから獣戦士族、《武神─ヤマト》を手札に加え召喚!」

 

 武神─ヤマト

 ☆4 ATK/1800→1900

 

 颯爽と現れる晃の主軸モンスターである《武神─ヤマト》。今までのデュエルでも彼は1ターン目から出せば善戦できていたモンスターであり、今回は永続魔法である《炎舞-天璣》により100ポイント強化されている。

 たった100とはいえ、これで1800から1900と《ライオウ》などの下級優良のアタッカーと同等の数値であり決して侮ることはできないだろう。

 

「さらに、カードを1枚伏せる……エンドフェイズに入るッスけど、これで“ヤマト”の効果を発動! 《武神器─ハバキリ》を手札に加えて《武神器─ヘツカ》を墓地に送る……これで本当に終了!」

 

 デッキの回しも上々。

 モンスターの戦闘では最上級モンスターさえも凌ぐ攻撃力へと変貌させる《武神器─ハバキリ》に墓地には1度のみだが、“ヤマト”が対象になった場合、無効にすることができる《武神器─ヘツカ》。

 さらに伏せカードは蘇生カード《リビングデッドの呼び声》であり、手札には相手ターンのメインフェイズのみだが効果を無効にできる《エフェクト・ヴェーラー》があるのだ。

 この手札であれば、遊戯王部メンバーであれそう簡単に対処しきれない……などと、考えながら初瀬小桃のターンが開始された。

 

「わ、わわ、わたしのターンです……」

 

 おどおどと言うより緊張でガチガチで彼女はターンを開始する。

 もっとも、カードを引く手つきはまるで、手慣れているようで初心者である晃とはえらい違いだ。

 

「まずは、《マンジュ・ゴッド》を召喚……です」

 

 マンジュ・ゴッド

 ☆4 ATK/1400

 

 それは、頭から足まで全てが『手』であると表現すべき様な異形のモンスターだ。

 このモンスターの効果は召喚、反転召喚時に“儀式モンスター”または“儀式魔法”をデッキから手札に加える効果だ。同じ条件で“儀式モンスター”のみを対象とする《センジュ・ゴッド》の上位モンスターであり、それを表すためか千手を越える万手を自身を使って再現するモンスターだ。この様な異形のナリではあるが、それでも“光属性”、“天使族”である。

 

「しょ、召喚に成功したので効果発動、です。デッキからわたしは“儀式魔法”《高等儀式術》をて、手札に加えます!」

 

 《マンジュ・ゴッド》の効果により1枚の“儀式魔法”がサーチされる。そのためこのカードは、サーチが豊富は【リチュア】を除く儀式中心デッキに必須とされ、さらに彼女が手札に加えた《高等儀式術》もあらゆる“儀式モンスター”に対して使用する事ができる儀式の優良カードだ。

 

「そ、そして手札に加えた《高等儀式術》を発動……です! 手札の儀式モンスターと合計で同じレベルの通常モンスターをデッキから墓地に送るため、わたしは《青眼の白龍(ブルーアイズホワイトドラゴン)》を墓地に送ります」

 

 ちなみに、彼女が送った《青眼の白龍》だが、世界にたった4枚しかなく金額は億すら超えると言う超レアカード……と、言うわけでもなく小学生のお小遣いでカードショップに行けば初期版などの貴重な種類を除いて買うことができるカードだ。

 これで墓地へ送ったのはレベル8。故に手札から同じくレベル8の儀式モンスターが出て来るわけで……。

 

「わ、わたしはこれで手札から“儀式モンスター”《終焉の王デミス》をと、特殊召喚します!」

「え゛゛っ……!?」

 

 終焉の王デミス

☆8 ATK/2400

 

このとき、晃はありえないと言いたげな表情で初瀬を見た。

いまだ初心者である彼自身、《終焉の王デミス》は知らない。それどころか“儀式モンスター”を他の遊戯王部メンバーが使わないため対峙するのは初めてだ。だが、彼がありえないと思ったのは《終焉の王デミス》だった。

 

厳つい鎧を纏い、巨大な戦斧を構えた髑髏をも思わせる顔は凶悪ともいえる風貌だ。《マンジュ・ゴッド》の様な下級モンスターであれば仕方なくとかで入るであろうから、まあ許せる。だが“デミス”は可愛らしく気が弱そうな彼女が扱うには、あまりに不釣り合いだったのだ。

 

「つ、続いて……“フィールド魔法”をセット、です」

「セット……?」

 

 さらに違和感を抱くプレイを行う彼女。

 フィールド魔法もまた遊戯王部メンバーは使わない。けれど、それが場全体に効力を表す系統のカードだというのは彼も承知であり発動しなければ意味がないのも知っているのだ。故に、発動でなく伏せるだけというのが理解できない。

 晃は考えながら頭をひねるが、この時創が叫んだ。

 

「気をつけろ橘! 来るぞ!」

「デ、“デミス”の効果を発動です。ライフポイントを2000支払い……このカードを除く全ての場のカードを破壊します!」

「なぁっ!?」

 

 初瀬 LP8000→6000

 

 2000ポイントのコストという決して安くない数値ではあるが、それに見合う破壊力を持った効果だった。“デミス”以外の場を一掃するというリセット効果は、凶悪な風貌に見合う力であるが、さらに彼女自身とは違和感バリバリである。

 

「くっ……手札から《エフェクト・ヴェーラー》を発動! “デミス”の効果を無効に……」

 

 だが、晃も黙って見ているわけではない。

 手札から彼女のモンスターを無効にする術を持っているのだ。そのカードを使用し“デミス”さえ無効にできれば“ハバキリ”もあるしなんとか対処できるだろう。

 

──そう、無効にできれば。

 

「ご、ごめんなさい! チェーン、です。《月の書》を発動して“デミス”を裏側守備表示にします!」

「《月の書》……?」

 

 このとき、美しい青い書物が“デミス”の姿を消した。

 それに合わせ瓦解するように《マンジュ・ゴッド》に《武神─ヤマト》、カードとしてソリッドビジョンで写されている《炎舞-天璣》、晃と初瀬の伏せカードがそれぞれ風化し消滅して行くのだ。

 このとき、晃は『何故だ』と軽く呟いた。

 それを創が解説した。

 

「橘! 《エフェクト・ヴェーラー》の効果は表側表示にのみ有効なんだ。だから、効果解決時に《月の書》で裏側表示にされていれば無効にできない!」

「っ……マジッスか!?」

 

 そのため《終焉の王デミス》の効果は有効。

 他のカードは、揃いもそって墓地へと送りこまれ唯一残った《終焉の王デミス》が裏側守備表示で攻撃できないのが救いなのだろう……と、思った矢先墓地へと送られた1枚が効果を発動した。

 

「それで、墓地へ送られた“フィールド魔法“《歯車街(ギア・タウン)》が発動します」

「ぼ……墓地から発動の“フィールド魔法“!?」

 

 発動せずに伏せた初瀬のフィールド魔法である《歯車街》。実質、発動していれば“古代の機械(アンティーク・ギア)”と言うカテゴリのアドバンス召喚のリリースを1体減らす役割を持つが、この真価は破壊される事で発揮されるのだ。

 

「ギ、《歯車街》が破壊され墓地へおくられた時、デッキから《古代の機械巨竜(アンティーク・ギアガジェルドラゴン)》を特殊召喚、です!」

 

 古代機械の巨竜

 ☆8 ATK/3000

 

 ズドド、と音を立てながら場に現れる残骸の様な機械仕掛けの竜が出現する。

 実際は、“ガジェット”をリリースしてのアドバンス召喚で効果を得るモンスターであるが《歯車街》のもう一つの効果で特殊召喚できるモンスターの中で最高打点を誇るためこちらでの召喚が主である。これで、ガラ空きの晃に3000の高攻撃力モンスターの攻撃がぶち込まれることが確定した。

 ただし、初瀬のデッキはそれだけでは済まさなかった。

 

「お、《思い出のブランコ》を発動、します! わたしの墓地の通常モンスター《青眼の白龍》を特殊召喚、です」

 

青眼の白龍

☆8 ATK/3000

 

 さらに、初瀬の場に純白にして青い瞳に美しい龍が舞い降りる。《終焉の王デミス》よりかは幾分、マシではあるがそれでも、まるで目の前に獰猛な肉食獣がいる様な迫力をもたらす龍も、彼女とは不釣り合いだ。

 彼女には、もっとファンシーなモンスターが似合うと思ったが、今はそれどころでない。打点3000が2体とさらに倍の6000を喰らうハメになった。

 

「さ、最後です! 装備魔法《巨大化》を発動して《青眼の白龍》に装備します!」

 

青眼の白龍

ATK/3000→6000

 

 《巨大化》は装備したモンスターの元々の攻撃力を倍、または半減する効果を持つ。

 自身のライフが相手より低ければ倍、上なら半減という不安定に変動するカードであるが相手モンスターの攻撃力を下げたりする使い方もあるカードだ。

 これにより、《青眼の白龍》の姿が文字通り巨大化し攻撃力もステータス表記では5000が最大のため規格外の6000まで成る。

 

「は……?」

 

 ぶっちゃけ、この光景を見て晃は声が出なかった。

 攻撃特化とされる涼香でさえ、最初のターンでここまでする事はないのだ。それゆえに、おどおどと謝っていた彼女がここまですると誰が思えようか。

 

「ご、ごめんなさい! 《青眼の白龍》、《古代機械の巨竜》の順で攻撃です!」

「はぁああああああああああ!?」

 

 晃  LP8000→2000→0

 

 純白の龍のブレスと機械の竜の砲撃に対し、彼の手札では防ぐ術を持ち得なかった。

 最良とされる手札ではあったが、さすがにここまでは対処しきれず晃は全ての攻撃を受けたった1ターンでライフが0となってしまったのだ。

 これで、遊戯王部対生徒会の第一戦は晃の敗北で幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 


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