●新堂創 LP3200 手札0
■unknown
●氷湊涼香 LP3500 手札0
□H─Cエクスカリバー(エクシーズ素材:0)
創対涼香の対決もすでに終盤へと差し掛かっていた。
創が勝てば、涼香が遊戯王部に入部し逆に涼香が勝てば遊戯王部は彼女のものとなるルールで行われ、彼女は途中で勝った後、遊戯王部を廃部にするなどと宣言したのだ。
そのため創は、このデュエルで絶対に負けられない。
だが、この場で涼香が《E・HEROアブソルートZero》の自爆特攻を行い効果を無理矢理使用する事で創の場のモンスターを一掃。そして、効果を使用して攻撃力が彼のライフポイントを上回る数値、4000へと達した《H─Cエクスカリバー》。
その攻撃が彼へと直撃したのだ。
「ぐっ……!?」
「勝った……!」
涼香は勝利を確信する。
例え、相手が遊戯王部の部長であろうがライフを上回る攻撃を受けて生き残る事などできまい。創のライフが減少していきデュエル終了のブザーが鳴り──響かなかった。
創 LP3200-2000→1200
「はぁっ……!?」
表示されたライフの数値を見て涼香が目を見開く。
当たり前の話だが、攻撃力4000の直接攻撃を受ければ4000分ライフが減少するはずだ。だが、今彼のライフが減ったのは、その半分の2000でしかなかったからだ。
「はは、こんなんじゃ俺は倒せないぜ! 《ブレイクスルー・スキル》を“エクスカリバー”を対象に発動させたんだ」
「ちっ……そういう事」
H─Cエクスカリバー
ATK/4000→2000
《H─Cエクスカリバー》は、自身の効果によって攻撃力を上昇させていた。故に、その効果を無効にさせる《ブレイクスルー・スキル》を受ければ攻撃力は元の数値へと戻ってしまう。
「へへっ……俺はまだ、生き残っているぜ!」
「ふんっ、ただの死に損ないじゃない。ターンエンド」
「まあ、そうとも言うな! 俺のターン!」
創は笑いながら彼女の言葉を肯定する。
彼は、後1度下級モンスターの直接攻撃を受けただけでも敗北を喫する。さらに彼の場と手札は0であり、墓地から発動できるのは《ブレイクスルー・スキル》のみ。もっとも、発動した時と同じく効果を無効にするだけで攻撃を止めることなどできない。
そのため、彼の引きに全てが託される。
「モンスターをセット、ターン終了だ」
引いたのは、何らかの下級モンスターだった。
これなら攻撃は防げるだろう。ただ、相手が新たなモンスターを出さなければの話だが。
「私のターン、ドロー……最後の《ミラクル・フュージョン》を発動! 墓地の水属性“バブルマン”と“Zero”を融合し3枚目の《E・HEROアブソルートZero》を融合召喚するわ!」
「っ……!?」
彼女の引きの強さに、傍観していた晃は再び戦慄する。
追い込まれていた状況を逆転したのにもかかわらず、追い打ちの如くもう1度、自身の切り札とも呼べるカードを召喚せしめてみせたのだ。彼から見て、もはや彼女は化け物とでも言うしかなかった。
「へへっ、ここまで来た奴ってのは久しぶりだ」
「アンタ、ここでも笑っていられるの? これで終わりよ! “アブソルートZero”で攻撃!」
XX─セイバーエマーズブレイド
DEF/800
氷の英雄が撃ち果たしたのは、“XX─セイバー”共通の赤いマントを纏ったモンスター。バッタのような風貌に双剣を携えていたものの、すぐさま討ち果てるのだが、この時、涼香は不満げな顔をした。
「ちっ……リクルーター」
「そうだ! 《
リクルーターとは、デッキからモンスターを特殊召喚できるモンスターの名称である。
その多くが、主に戦闘で破壊され墓地へ送られた時というのであり。今、使用した《XX─セイバーエマーズブレイド》もそれに属する。
彼のデッキには、おそらく“エマーズブレイド”は3枚積みなのだろう。ならば、まずは数を減らす事を考える。そのため涼香はさらに攻撃を行った。
「なら、“エクスカリバー”で攻撃よ!」
「そうか? なら、今度は“エマーズブレイド”の効果で“レイジグラ”を守備表示で特殊召喚!」
2枚目の“エマーズブレイド”の効果で現れたのは、カメレオンの風貌の《XX─セイバーレイジグラ》だった。1度、シンクロ素材として使われたっきりであり場に出るのは2度目だった。
「“レイジグラ”が特殊召喚に成功した事で、墓地から《XX─セイバーフォルトロール》を回収だ!」
そして、回収したのは場に“X─セイバー”が2体以上存在する時のみ、場に出すことのできる《XX─セイバーフォルトロール》である。現在では、出す条件は満たされておらず次の引きによって出せるかどうかが決まる。
「ふんっ、次に“X─セイバー”を引くつもりの様だけど、そう簡単に行くかしら? でも、ゴキブリ並みにしつこいわね! ターンエンドよ!」
「……ゴキブリ扱いは酷いな」
どんなに攻め手も、生き残る創にフラストレーションを感じたのか暴言と共にターン終了の宣言をする涼香。さすがに、これは効いたのか創もがくりと項垂れた。
「まあ、俺のターンだ、ドロー……」
「“X─セイバー”は引けたかしら?」
「……いいや、引いたのは“X─セイバー”じゃないな!」
創は、引いたカードを確認する。それは、名前に“X─セイバー”と付かないカードだった。もっとも、それは彼がこの場で一番望んだカードでもあった。
「コイツを待ってたんだ! 俺は《デブリ・ドラゴン》を召喚! 召喚に成功した事で、墓地から攻撃力500以下の《X─セイバーパシウル》を特殊召喚だ!」
「っ!?」
引いたのは、前に《貪欲な壺》でデッキに戻した1枚だ。このカードは創が言った通り自身の墓地から攻撃力500以下のモンスターを特殊召喚できる効果を持つ。そのため、この効果を使い場に“X─セイバー”を2体揃えたのだ。
「行くぜ! このターンで
蘇生効果を兼ね揃えた上級モンスター《XX─セイバーフォルトロール》が場に現れる。これで、場には4体のモンスターが揃ったことになるが正直、このターンで終わらせるのは難しいのだ。
場に《E・HEROアブソルートZero》が存在する中で、相手ライフ3500を削りきるには、あまりに打点が足りなさすぎる。
「馬鹿じゃないの? 出来ない事を、よく簡単に──」
「できるさ! まずは、“レイジグラ”と“パシウル”でシンクロ! 来い、《霞鳥クラウソラス》!」
霞鳥クラウソラス
ATK/0
緑色の怪鳥のモンスターが場に出る。
ただし、そのモンスターのレベルは3。攻撃力に至っては無の0である。
「“クラウソラス”……確か、そのモンスターの効果は──」
「選択したモンスターをターン終了時まで攻撃力を0、効果を無効にするんだ! “アブソルートZero”を対象にするぜ!」
E・HEROアブソルートZero
ATK/2500→0
これで場で存在するアブソルートZeroが完全に無力化された。ただし、これで無力化したのは場のみであり、場から離れた時に発動する効果までは無効化しきれない。
「続いて、“フォルトロール”の効果を発動! 墓地から“ボガーナイト”を特殊召喚する!」
次いで、蘇生効果持ちの《XX─セイバーフォルトロール》の効果で特殊召喚したのは、チューナーでなく、ただのレベル4モンスターの《XX─セイバーボガーナイト》だ。
「っ……エクシーズね」
「ああ! 今度は、レベル4“ボガーナイト”と“デブリ”でエクシーズだ。現れろ、《
No.101S・H・Ark Knight
ATK/2100
現れたのは、水族でありながら戦艦のような機械族を思わせる姿のモンスターだった。
攻撃力は、ランク4にしては普通であるが、その効果は驚異的でもある。
「えっ……そのカードって、まさか!?」
彼女も、そのカードを持っているが故、効果も知っているし使い方も熟知している。
故に見えてしまったのだ、このデュエルの結末を──。
「行くぜ! まずは、”Ark Knight”の効果でエクシーズ素材を二つ取り除き場の“エクスカリバー”を吸収! エクシーズ素材とする!」
「くっ……」
戦艦の周囲を纏う緑と茶色の球体が消滅しては、涼香の場の“エクスカリバー”が黄色に輝く球体へと変換して戦艦の周囲を浮遊する。これで残すは、《E・HEROアブソルートZero》のみ。
「バトルフェイズ! “フォルトロール”で《E・HEROアブソルートZero》で攻撃」
「……」
涼香 LP3500-2400→1100
本来ならば、攻撃力が100上回っていたはずだが、《霞鳥クラウソラス》の効果により戦闘力が皆無になっていた。そのため涼香は直接攻撃同様のダメージを受けてしまう。もっとも、これがトリガーとなって《E・HEROアブソルートZero》の効果が発動する。
「”Zero”の効果が発動するわ……相手のモンスターを全て破壊する」
「……ああ、“
3度目の効果の“アブソルートZero”の効果が発動される。これで、《XX─セイバーフォルトロール》、《霞鳥クラウソラス》が凍結し消滅する事になるが、彼が宣言した様に1体の《No.101S・H・ArkKnight》のみが場に残っていた。
これが、“No.101”の効果。1つは、エクシーズ素材を2つ取り除く特殊召喚された表側攻撃表示の相手モンスターをエクシーズ素材にする効果。そして、2つ目は、エクシーズ素材を1つ取り除く事で自身の破壊を防ぐ効果だ。
一度、エクシーズ素材を使いきったが、1つ目の効果でエクシーズ素材にした“エクスカリバー”をコストに2つ目の効果を使用した。これで、《E・HEROアブソルートZero》の効果を防いだのだ。
「さて、まだバトルフェイズは続くぜ!」
これで残るは、攻撃力2100の“ArkKnight”のみ。
そして涼香の残りライフは、それよりも1000を下回る1100なのだ。
「アンタ、いったい何者なの?」
「俺か? 遊戯王部部長、新堂創だ。覚えておいてくれよ、新入部員!」
「っ!? 新堂……創……!?」
この時、涼香は創の名前を聞いて目を見開いて驚きを見せた。それは、まるで彼の名前を知っていたかのように。その表情を見て晃は尋ねた。
「部長の事、知っているのか氷湊?」
「当然よ! 私より、有名じゃない!」
「え!?」
半ば叫ぶように答えた涼香に、晃は逆に驚く。
彼が知っている新堂創は、デュエルを見れば状況に的確な引きを見せる涼香ですら、攻撃を凌ぎ強さを見せてはいたものの……呆れる様な馬鹿な行動を行うただの阿保にしか見えていなかった。
「いいですか、橘くん……結構、昔の話ですけど前に数年に1度の日本全国規模でのデュエル大会があったんです。日本遊戯王大会とか言ってましたが、多くの人の要望で現在では『バトルシティ』と言われています」
と、ここで解説する様に茜が答えた。
晃も、その『バトルシティ』という単語には聞きおぼえがあった。彼が小学生の頃、まだ遊戯王に興味を持たなかった時期では、あるが当時はニュースでよく『バトルシティ』などという記事で持ちこしだったのだ。
「参加者は数千と越えましたが、当時その中でも5人の小学生が決勝リーグ、それもベスト8入りを果たしたんです……5人の天才のうちの一人、“神童”の異名を持つのが、遊凪高校遊戯王部部長、新堂創です!」
とりあえず、同じ読みの“神童”と“新堂”を掛けているのか、なんてツッコミはしない。とはいえ、なんとなくだが彼は思った。
人間には、いろんなタイプが存在するが、一定の分野で凄まじい才能を見せるが、それ以外は全く駄目などというのが稀にいるのだ。おそらく彼こそが、その様な代表格的な存在なのだろう。
「そう言う事だぜ! これで終わりだ。“ArkKnight”で
最後と宣言した通り、もはや彼女に攻撃を防ぐ術はないのだ。もし、次のターンまで持ち越せたならば彼女は、さらなる引きを見せて逆転劇を見せたのかもしれない。ただ、それを見せるには後、一歩だけ足りなかったのだ。
涼香 LP1100-2100→0
こうして、創対涼香のデュエルは終わりを迎えた。
※ ※ ※ ※ ※
「っ……」
デュエルが終わった瞬間、これでめでたく涼香が遊戯王部の部員……とは、いかず突然、彼女は走り出し屋上から去ったのだ。これは、逃げるというよりも、まるで感情任せに走り出したみたいな感じで。
「あ、おい!?」
「まー、そうなるよな」
慌てる晃に、対して創はまるで予想していた様な口ぶりで呟いく。
次いで茜も創と同意見なのか、落ち着いた様子で晃に教えるように語った。
「そうですねー。氷湊ちゃんもかなり強くて、プライドもあれだけ高いんですから。相手が誰にせよ、負けて悔しくないなんて、無いはずですからね」
「そうだな。橘、悪いけど追いかけてやってくれないか?」
「え、何でオレっすか?」
突如、創から涼香を追いかけるように頼んできた。
ただし、何故自分なのかと、疑問として聞くのだが。
「いや、勝った俺だと話がこじらせるだけだし?」
「私だと、きっと追いつけませんよ?」
ある意味、正論を付き付けられた。
確かに、走りだした原因が、負けた事ならば勝者である創が掴まえても意味がないだろう。まして、彼女は見た目や行動から運動神経が高めなのだろう。それは、攻撃を受けた晃と創が体験済みだ……故に、同じ女子でも茜では無理だと思われる。
「それに、知り合いみたいだったしな。頼む」
「あー、もうわかったッスよ!」
と、いいながら彼も走り出した。
正直な話、運動部に所属経験の無い晃は運動神経に自信はない。けれど、彼は制服の上着を脱いで全力で彼女を追いかけようとする。
その姿を見ては、創と茜は思った感想を正直に述べる。
「あー、まるで青春の1ページを見てるようだなー」
「そうですねー」
などと、呑気だった。
※ ※ ※ ※ ※
遊凪高校の屋上から階段を駆け下りた1学年の廊下の前に涼香はいた。普段はたいして気にならないが地味に重い決闘盤を付けたまま全力疾走をしたためか、肩で息をしながら背中を柱にかけ体重を預けていた。
「あ、おい……氷湊!」
「っ……!?」
もっとも、晃が追いかけてきたのを見ては、まるで人に懐かない野良猫の様に逃げ出した。それを追いかける晃だが、やはり性別の違いか晃の方が若干速く、階段を下りる手前で彼女の左腕を掴まえたのだ。
「っ、離して!」
「いや、離したら逃げるだろ?」
ここで晃は気付いた、手を掴まれたのを嫌そうに振りほどこうとする涼香だが、彼女が涙目だった。創や茜が言っていた通り、負けて相当悔しい思いをしたのだろう。
そう思ったのが、晃にとって隙となった。まして、それと同じタイミングで涼香も無理矢理引き離そうとするのが災いした。
「離してって……言ってるでしょ!!」
「えっ……あべしっ!?」
顔面をグーパンで殴られた。
さらに、その衝撃で軽く後へと飛び階段にある防火扉へと後頭部から激突したのだ。前と後ろの両方からの激痛に晃は、頭を押さえ蹲った。
「あ、ごめん」
さすがに、今回は自分が悪いと感じたのか涼香も思わず謝ってしまった。
だが、少しは落ち着いたのか逃げようはせず床と顔を合わせる晃の姿を見下ろしていた。
「けどさ、氷湊……負けるって、そんな格好悪いことなのかよ?」
「え……?」
今だ、痛みで顔を上げられないが晃は、そのままの体勢で涼香へと語る。正直、その姿は滑稽としか言いようがないが、彼の言葉に涼香は呆気に取られた。
「オレも遊戯王を始めて日向に負けてさ、悔しく思ったんだけど……次は勝ちたいって思ったんだ。重要なのは、負けてもまた立ちあがる事なんじゃないかって思うんだけどさ」
「っ……!?」
晃の言葉は、的を射ていた。
無論、彼女だって最初から強かったわけじゃない。最初は負けて、また次を頑張って繰り返しているうちに現在に至る強さを得たのだ。誰だって負けを経験した事のない人物はいない。
もっとも、それを涼香は、晃の言葉を素直に受け止める事はできなかった。
「……馬鹿じゃないの! そんなこと、言われなても知っているわよ!」
「痛っ、痛いって、蹴るな。わかったから蹴らないでくれ!」
今だなお、蹲る晃に対して前と同じようにローキックの連打を行う。ドスッ、と鈍い音が何度も鳴り響いたが数度、蹴ったのち彼女は蹴りをやめて嘆息と同時に落ち着いた口調で語った。
「まあ、賭けで負けたのは私だし、遊戯王部に入ってあげる」
「……そうか」
これにて一件落着なのだろう。
どうやら彼女も、もう逃げ出したりはしない。
「あ、それと橘。今のアンタ、最っっ高に格好悪いわよ!」
「……ほっといてくれよ」
このまま涼香は、屋上へと戻るように歩いて行ったが、晃だけはいまだ痛みが引かずこのままの体勢を後、数分持続していたのだった。