異世界?での改変生活   作:松竹

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おそらく定期更新などすでに期待されていないと思いますがまたまた遅くなりました事をお詫びします。試しに少し書き溜めてから更新してみようと思ったのですがやはり時間がかかりすぎるので今まで通り行き当たりばったりで投稿させて頂きたいと思います。


イレギュラー

一触即発

 

今の状況を端的に表すのならそう表現するのが相応しいだろう。ヘラス帝国の一角にあるどこにでもあるのどかな公園に突如現れた修羅場。普段は子供たちの笑い声が絶えぬはずのそこは現在誰もが避けて通るほど殺伐とした空気に支配されていた。

 

「……もう一度言ってみろ。小僧」

 

公園内で殺伐とした空気を放つ3人の兵士。その中の一人が眼前で不遜な態度を取るナギに向かって言葉を放つ。低く怒りを押し殺した声を聞けば子供でもこれ以上刺激するのはマズイと解りそうなものだが未だに酒を片手に胡座をかいて座り込むナギが恐れ入る気配は無い。それどころか面倒くさそうな態度を崩さずチラリと怒れる兵士を一瞥した後こう言い放った。

 

「あん?聞こえなかったか?アンタラに言うことなんざねーって言ったんだよ」

 

そう告げるとダメ押しに「さっさと失せろ」とでも言いたげにシッシッと手を払う。

 

「きさ……」

 

「ハーハッハッハ」

 

自分たちを侮る生意気な子供に掴みかかろうと身を乗り出した兵士の行動は公園内に響き渡った笑い声に遮られた。声の主はナギの対面でこれまた不遜な態度を崩さずニヤニヤと楽しそうに酒を飲んでいた男だった。

 

「あ~笑った笑った。最高だぜ坊主」

 

「何笑ってんだオッサン」

 

なぜ笑われたのか分からないナギが怪訝そうに問い返す。

 

「わかってんのか坊主?こいつらこの国の兵士だぜ?お前さん帝国と揉める気かよ?」

 

「あ?んなこと知らねぇよ。オレはただこいつらが気に入らねぇだけだ」

 

笑いを堪えながら「状況を理解してるのか?」と問いかけてくるオッサンにナギは端的に答えを返した。

 

ナギは基本的に物事を深く考えず直感で行動する人間である。だがいくらナギでも誰彼構わず喧嘩を売るような言動を取ったりはしない。今のナギは敵地と言える場所に潜入している訳で揉め事を起こすのは不味いと考える程度の頭はある。それを理解していてなおナギは目の前に立つ兵士達が気に入らなかった。

 

「ほぉ~」

 

興味深そうな声をあげるオッサンに向けてさらに言葉を重ねる

 

「こいつらが何処の何奴だかなんて関係ねぇよ。相手が兵士だろうがどこぞの王様だろうが知ったこっちゃねぇ。オレはやりたくねぇ事は死んでもしねぇ」

 

太陽の如く快活であり誰に対しても分け隔てなく接するナギにしては珍しく本気で嫌そうな顔をしながらキッパリとそう言い放った。本当はもう一つ理由があったのだがそちらは明確な根拠がある訳でもなく何となく己の感が警鐘を鳴らしているだけなので言葉にする事は無かった。

 

「だそうだぜ?悪いがそういう訳だから失せな」

 

ナギより余程状況のまずさを理解しているだろうに楽しそうにナギの言葉を聞きまるでそれに同意するように兵士たちに告げるオッサン。

 

「…………」

 

自分たちを無視した会話。目の前で行われたあからさまな罵倒。挙句の果てに犬を追い払うかの様な言動。ここまでされて黙って引き下がるほど兵士たちは温厚では無かった。自分たちを侮る愚かな2人組に身の程を思い知らせなければいけない。すでに怒りを超え殺気すら纏いながら無言で2人を逃がさぬ様に展開した兵士たち。その様子を焦った素振りも見せず眺めながらオッサンはついでとばかりに言葉を重ねた。

 

「そうそう。一つ聞いていていいか?」

 

「……何だ」

 

まだわずかばかり理性が残っていたのか兵士の中の一人がオッサンの声に応える。あるいは今更ながら状況を理解し命乞いでもするのかと思ったのかも知れない。

 

「アンタら見たとこ帝都の守備隊みたいだがよぉ。それにしちゃ随分臭うぜ?」

 

「何?」

 

怪訝そうに問い返す兵士にオッサンがニヤリと笑い決定的な言葉を放った。

 

「自分たちじゃ気付かねぇのか?血の匂いだよ」

 

その言葉を引き金に3つの殺意が2人に襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テオドラがそれ(・・)に気付いたのはただの偶然だった。いつもの様に気分転換に人目をさけて城を抜け出し街を歩いていた時にたまたま目に付いたのだ。

 

「何じゃ?」

 

帝都の治安を守る兵士達。街を巡回している筈の彼らが路地裏に消えるのを目撃したのだ。基本的に兵士の巡回というのは住民の多くが使う街の大通りを中心に行われるものだ。勿論人通りの少ない裏路地を巡回しないという訳ではないが人が多ければそれだけ揉め事の起こる確率も多くなる。そもそも兵士による巡回と言うものは犯罪を未然に防ぐ抑止力としての意味合いも強い。

 

そう考えると先ほどの兵士たちはどこか人目を避ける様な素振りを見せていて少々不自然だった。そこまで考えた時にはすでに兵士の後を追い路地裏に向かって駆け出していた。

 

路地裏に消えた兵士をバレぬ様に追いかけ入り組んだ道を幾つも曲がる。そうしてたどり着いたのは一軒の朽ちた廃屋だった。外から覗けぬ様に窓も塞がれた見るからに怪しげな廃屋に消えた兵士たち。ここに来て疑惑を半ば確信に変えたテオドラは何とか家の中を覗けないかと家の周りを見回った。そうして見つけたのが子供がギリギリ入れそうな塀と壁との僅かな隙間の先にあった壊れた外壁だった。

 

「うぬぬぬぬ」

 

綺麗な服を汚しながらも塀の隙間に体をねじ込み壁に空いた穴の下までたどり着く。これで中の様子を伺えると喜び勇んで覗き込んで見たものの残念ながらそこは室内の荷物で塞がれてしまっていた。

 

「おのれぇ……」

 

せっかく苦労して入り込んだというのに無意味だった。無駄な労力を使ったという徒労感を感じ苛立ち紛れについつい穴を塞ぐ荷物を叩くと思いのほか簡単に動いてしまう。

 

「ひゃう!?」

 

予想外の事態に妙な声が出てしまったが幸い人の気配は無く誰にも気付かれ無かった様だ。しばしの間驚きに固まった後、再起動。慎重に荷物を押し込み隙間を広げ空いたスペースに入り込む。

 

「……っと。ふぅ……どうやらこの部屋には誰も居なかった様じゃな」

 

埃で汚れた体を払いつつ薄暗い室内を見回した後、軽く息をつきつつ小さな声で呟いた。

 

「さてと。あやつらは隣の部屋か?」

 

微かに聞こえる声にアタリをつけ。隣室へと繋がる扉に近づく。歩く度に軋んだ音を立てる床に内心ビクビクしつつ慎重に歩を進め、扉の隙間から隣室を覗き込んだ。

 

「…………だ!」

 

「……い……!」

 

「き……!……!」

 

隣室にいたのは全部で4人。一人は背を向けていて容姿が解り難いが声からしておそらく男性。その対面にいるのが自分が追ってきた兵士たちの様だ。隙間が小さく見づらい上、声も聞き取りにくく状況がイマイチ掴めないが何やら揉めている様だ。

 

「(何を揉めておるんじゃ?)」

 

何とか声だけでも聞き取れないかと息を潜めながら無意識に身を乗り出し時、隣室の状況が変わった。兵士たちが男に武器を突きつけたのだ。2人は手に持っていた槍を構え、残りの一人が腰に履いた剣を鞘から抜き放つ。目の前で兵士3人に武器を突きつけられていると言うのに対面の男は特に焦る素振りも見せなかった。

 

「……っ」

 

思わず息を呑む。このままではあの男は殺されるかもしれない。止めに入るべきだろうか?しかし自分にはいざと言う時に3人もの兵士を退ける力など無い。そもそも状況が掴みきれない上あの4人の関係も解らない。

 

「まぁ落ち着いて下さい」

 

どうするべきかと迷い逡巡するテオドラを尻目に兵士に詰め寄られている男は落ち着き払って話し出す。

 

「(むっ)」

 

どうやらあの男にとって今の状況は特に焦る事でもないようだ。

 

「(……もう少し様子を見るか)」

 

自分が手を出す必要がないのならそのほうが好都合である。それに身を乗り出したせいなのかあるいは彼らが声を荒げているのか先程よりハッキリと話が聞き取れる。ならば今はあの怪しげな男たちの情報を集めるべきだろう。

 

「何も契約を反故にしようと言っているんじゃないんですよ?ですが現状では予定の半分にも満たない」

 

「ふざけるなよ。俺たちは言われた通りにしたんだ。お前の都合なんか関係ないだろうが!」

 

「ですからもう一働きしませんか?と提案しているんじゃ無いですか」

 

「冗談じゃねぇ!ただでさえ危ない橋渡ってんだ。これ以上はゴメンだぜ!」

 

飽くまで落ち着いた口調で話す男とは対照的にどんどん声を荒らげ興奮していく兵士達。彼らの様子を伺うテオドラの脳裏に彼らの関係が描き出される。

 

「(どうも兵士達(あやつら)はあの男から碌でもない仕事を依頼されておった様じゃな)」

 

自国の兵のモラルの低さに顔をしかめつつ考えを纏めていく。

 

「(問題は一体何を依頼されておったかじゃが……。ありがちなのは内部情報の漏洩。あるいは非合法の品の売買と言った所か)」

 

出来ればもう少し情報が欲しい所だがあまり深入りしすぎて自分の存在がバレても不味い。少なくとも叩けばホコリが出る事はほぼ間違いないのだから後は専門家に任せて自分はこの辺りで引くべきか?。

 

 

「(もう少し粘るべきか?それとも引くべきか?悩ましい所じゃな)」

 

どうするべきか悩むテオドラだったが直ぐにその悩みは解消される。今まで淡々と話していた男の口調が楽しげに切り替わり廃屋の中に響く。

 

「それなら仕方ありませんねぇ。では最後にネズミ(・・・)狩りだけお願いできますか?」

 

口唇を釣り上げた男が振り返る。男はこれといって特徴のない凡庸な顔立ちをしていた。その男の視線がテオドラを射抜く。

 

「(なっ!?バレておったのか!)」

 

視線が絡み息を呑む。背筋に凍り付く様な寒気を感じた瞬間すぐさま逃走を選んだ。

 

そこからのテオドラの行動は迅速なものだった。こみ上げる恐怖を押し殺しすぐさま身を翻す。肌に傷を負うのも厭わず壁の穴に体を捻じ込み塀の隙間から飛び出すと脇目も振らず駆け出した。自分を静止する怒鳴り声を背に全速力で走り続ける。それなりに運動は得意なテオドラだったが相手は大人の男で鍛えられた兵士だ。まともに足の速さを競い合っても勝ち目は無く元きた道を辿る余裕も無い。何とか追っ手を撒こうと目に付く道を幾つも曲がる。

 

「はっはっはっ」

 

そうして自分が今何処にいるのかも解らなくなった頃、暗い路地を抜けた先に見えた公園に辿りつく。そしてそこで奇妙な2人組と出会う事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんと……」

 

無関係な者を巻き込んでしまったと後悔しつつ屋台の影から(店主は物騒な気配を察したのかすでに姿を消していた)ハラハラと様子を伺っていたテオドラは目の前で巻き起こった出来事に目を剥いた。

 

3人の兵士達が動いた瞬間、今まで座り込んでいた赤毛の少年が動いた。手に持っていた串を空に放り投げ、消えたと見まごう速度で踏み込み一瞬で間合いを詰める。兵士たちが少年を見失っている一瞬の空隙を逃さず迅雷の速度で打ち込まれる拳。テオドラに認識できたのは少年が何処か腑に落ちなさそうに首を傾げながらも空から落ちてきた串を掴みとり美味しそうに肉を頬張る姿とその周りに落ちてきた兵士達が呻き声ひとつ漏らさず這いつくばる姿だけだった。

 

 

瞬殺

 

 

そんな言葉が脳裏をよぎる。大国ヘラスの皇女として強者と呼ばれる達人たちを幾人も見てきたつもりのテオドラだが少年の強さは彼らと比べても何ら遜色無い。それどころかそれ以上だと見て取った。自分よりいくらか年上の様だがまだまだ子供と呼べるような少年の年に見合わぬ力量はテオドラの好奇心をいたく刺激した。

 

「よもやこのような所でこれほどの強者の出会うとはのう」

 

少々街を散策する程度のつもりが思わぬトラブルに巻き込まれ(正確には自ら首を突っ込んだ)あろう事か自国の兵士に追い回されせっかくの気分転換が台無しな所だったが結果的にとても興味深い存在と出会えた。

 

「……うむ。やはりここは礼をせねばなるまい!」

 

もはやテオドラの頭に兵士達に追い回されていた時の焦燥は欠片も存在しない。例の廃屋で会った男と視界の先で転がっている3人の関係は気になるがその辺は3人を捕らえて追々調べればすむ事だ。今優先するべき事はすでに兵士達の事を気にかける素振りも見せずにぎゃあぎゃあと口論している2人組だ。

 

「おいこらオッサン!!アンタ俺の肉食っただろ!」

 

「あん?なんのことだか解らねぇな?」

 

喚く赤毛にとぼけるオッサン。先程までの殺伐とした修羅場はどこへやら。あっという間に空気が緩んでしまった。

 

「とぼけんじゃねーよ!オレの皿から肉が消えてんじゃねーか!」

 

「オイオイ。とんだ言いがかりだぜ。何か証拠でもあんのかよ?」

 

「アンタが今咥えてる串だよ!」

 

事件の犯人を暴いた名探偵のごとくビシッと動かぬ証拠を指差すナギだったがその程度でオッサンは動じない。

 

「???」

 

「何で「意味分かんねぇ」みたいな面してんだ!」

 

「こいつはただの楊枝だぜ?」

 

「んなデカイ楊枝なんざねーよ!!」

 

おっさんのしょうもない嘘にネギのテンションも急上昇である。

 

「はっ!これだからモノを知らねぇお子様は。世の中にゃ俺よりデカイ楊枝もあるんだぜ?」

 

「誰が使うんだよ!つーかそれはもう楊枝じゃねぇよ!」

 

「俺のダチが飯食ったあとに何時も使ってるぜ?」

 

「どんだけデカイんだよ!そんな人間がいるか!」

 

オッサンの言葉につっこみつつもオッサンの全く動じない態度に「本当にそんな人間がいるのか?」とちょっと気になるナギ。

 

「いや人じゃなくて龍樹だ。飯食った後そこらの木を引っこ抜いて。こう……な?」

 

「な?じゃねぇ!てか何で龍樹とダチなんだよ!」

 

「昔ちょっと殴り合ってな」

 

「マジで!?」

 

「マジだ」

 

「まことか!?」

 

「「は?」」

 

イカンイカン。あまりに衝撃的な発言に思わずつっこんでしまった。本当は皇族としての気品と礼節を見せつつも友好的な感じで話しかけるつもりじゃったのに。まぁ良いか?話が本当ならこちらの少年だけで無くこっちの大男も実に興味深い。これは是非とも話の真偽を確かめねばなるまい。

 

「龍樹と言えば我が帝国が誇る最上位の<魔>じゃろう!?お主本当にかの守護聖獣と殴り合ったのか!?」

 

「何だこのジャリは?」

 

「お前さっきのガキか?あのままどっかに逃げたと思ってたんだが……まだいたのか?」

 

おそらく周りに転がっている兵士達に追われていただろう子供。しばらく近くで様子を伺っていた事には気付いていたが追っ手の兵士と自分が揉めて足止めを食らっていた辺りで何処かに逃げたと思い意識から外していた。そんな相手が話しかけてきた事にナギは少し驚いていた。

 

「ム?無礼者…と言いたい所じゃが主らは妾の恩人じゃし…まぁよいか。妾はガキでは無くテオドラじゃ」

 

「ておどら?どっかで聞いたことがある様な……?」

 

「ん?ああ。そりゃ確かこの国の皇……」

 

脇で2人のやり取りを見ていたオッサンがそこまで言いかけた時、完全に伸びていた兵士たちから強大な魔力が放たれ緩みかけていた周囲の気配が一変する。

 

「やべぇ!?オッサン!!」

 

「オウ!」

 

2人の緊迫した様子に戸惑うテオドラをナギが抱き寄せ瞬時にその場を飛び退く。オッサンもナギの動きに遅れること無く追従する。突然ナギに抱きしめられ混乱していたテオドラの意識は次の瞬間、閃光と轟音に包まれて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうつもりだい?」

 

そう問いかけるのは白い貴公子。それは精巧に作られた人形のように整った容姿を持つ男だった。一見ただの優男にしか見えないが見るものがみれば直ぐに悟るだろう。その身からにじみ出る強大な力を。普段はその強大な力に対する自負ゆえか自信に満ちた表情を浮かべる不敵な男だったが現在は整った眉をしかめその秀麗な顔を険しくしていた。

 

彼の問いに答えたのは遥か遠方に見える破壊されたヘラス帝都の一角を眺める男。

 

「どういうとは?」

 

その男はとても凡庸(・・)に見えた。これと言った特徴も無い容姿を持ち、特に強大な氣も魔力も感じさせ無い平凡な男。整った容姿と強大な力を併せ持つ白い貴公子と比べれば余りにも普通すぎる男。

 

「何故この様な真似を?今はまだ我々が表立って動く時ではないはず」

 

貴公子は苛立っていた。突然自らの属する組織に現れたこの男はどういう手を使ったのか己の(あるじ)に取り入り、いつの間にか自分すらも容易に制することが出来ない地位に、組織の幹部に上り詰めた。

 

別によくいる権力者のごとく己の地位を脅かす存在が疎ましいわけではない。そもそも彼らの組織には絶対者たる主を頂点とする事以外に明確な上下関係がある訳でもない。今まで貴公子は主の理想を叶えるための計画を遂行する際の指揮官として動いていたが、だからと言って彼に他の幹部たちに対する強権が存在する訳でも無いのだ。

 

そんな少々曖昧な指揮系統をしていても今まで何の問題もなく組織が回っていたのは彼を含め組織の幹部の大半が【世界最高の魔法使い】たる主に生み出された存在であり、そもそも計画遂行以外の我欲などほぼ存在しないからだろう。それ以外の古参の幹部にしても組織内での権力争いなどに興味は無い。

 

「回りくどいんですよ。貴方達のやり方は。不確定要素や邪魔なモノは速やかに排除するべきだ。違いますか?」

 

だがこの男は違う。常に感情の読み取れない薄い笑みを貼り付け表向きは組織の意向に従っている様にも見えるがその裏で今回の様な真似を平然と行う。彼には男が「自分達とは違う思惑で動いているんでは?」と言う疑いを捨てることが出来なかった。

 

「それで我々の存在が露見すれば計画遂行に支障が出るとは考えないのかい?」

 

「その程度で躓く様ならそもそも世界を変える大業(・・・・・・・・)など成せないと思うのですが……まぁ見解の相違ですねぇ」

 

険しく顔を歪め己を睨む貴公子の殺気を受け流しながら男の笑みは崩れない。それどころか貼り付けたような笑みに亀裂が走りさらに口唇が釣り上がる。この男は世界最強の一角とも言える力を持つ貴公子の殺気を感じ取りながらも彼の苛立つ様を楽しんでいた。

 

「それに今回の件などちょっとしたお遊び……可愛い悪戯の様なモノですよ」

 

巫山戯た態度を崩さずそう言うと言葉にせず呟く。

 

「お遊び?ヘラスの皇女を巻き込んでおきながら随分な物言いだね」

 

「最近我々の周りを羽虫が飛び回っている様ですし。これでヘラス上層部の反戦派の弱腰な文官達も勢いを削がれる事でしょうね」

 

「この状況を利用しろと?」

 

「さぁ?指揮官は貴方でしょう?」

 

「どの口で……っ!」

 

今までも自分に黙って好き勝手に動いてきた男に「決めるのはお前だ」などと言われれば彼でなくとも腹が立つだろう。

 

「クックックッ!冗談ですよ。さてそれでは私はこの辺で失礼します。これから人と会う予定がありますので」

 

「人と?」

 

男の言動に対する怒りを押し殺し問いかける。別にこの不快な男の交友関係など好き好んで知りたくはないが個人的な感情で身中の虫になり得る相手の情報収集を怠ることも出来ない。主が認める以上今は手出しする事は出来ないがいずれは……と彼は考えていた。

 

「ええ。以前から気にかけてはいたんですが。どうやら同郷の者らしいので少々挨拶をと思いまして」

 

「ほぅ。……それは僕も興味があるね」

 

「いずれ顔を合わせる事になりますよ。いずれね」

 

そう告げると転移魔法の光とともに男の姿は消えた。

 

「チッ!相変わらず不愉快な男だ」

 

らしくない舌打ちとともに毒づくと気を取り直し彼も行動に移る。男の勝手な行動で少なからず計画を乱されたがすでに起きてしまった事に悪態をついていてもしょうがない。もともと感情的になるなど彼らしくないのだ。

 

「経緯は気に入らないが仕方ない。精々利用させて貰うとするさ」

 

そう呟くと貴公子の姿もその場から消え失せた。

 

 

 

この日ヘラス帝国帝都の一角を破壊した魔法は連合(・・)が行った魔法攻撃によるテロとされ数百の帝国民と偶然(・・)その場に居合わせた第3皇女が犠牲になったと報告された。数百人の犠牲と第3皇女の突然の訃報は多くの帝国の民の怒りと悲しみを呼び両国の戦争を激化させる事になる。

 

 

 


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