異世界?での改変生活   作:松竹

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思ったより遅くなってしまいました。本当はもう少し早く投稿できる予定だったのですがやはりそううまくはいかないようです。というか当初考えていた流れとだいぶ変わってしまいました。やはり思い付きだとそんなものですかね?

とりあえず今回で試合終了です!結果は……本文で。


話は変わりますが感想を送って下さって有難うございます。自己満足で書いてる作品ですがやはり応援して頂くのはうれしいですね。今後も出来るだけがんばりたいと思います。


まだまだ戦闘中!

数万の観客に囲まれたオスティア闘技場。観客たちの視線の先には縦横無尽に飛び交いぶつかり合う2つの人影があった。1人はナギ=スプリングフィールド。オスティア防衛戦での活躍で街中にその名を知らしめた若き英雄。もう1人はサイ=ローウェル。女王アリカに特別に取り立てられた男であり、こちらも先の戦いでは常人ならざる戦い振りを見せた。2人の戦いは既に観客たちのほとんどが何をしているかも理解できない領域に突入していた。

 

ナギが追いかけサイが逃げると言う展開から始まった2人の戦いは、現在も同じ状況を繰り返す膠着状態にあった。

 

「ガッ!?グッ!?この……チョコマカすんじゃねぇ!」

 

さっきから攻撃が全く当たらず一方的に殴られている。何度も拳をくりだし蹴りを放ったにも拘らず自分は一度もサイを捉える事が出来ない。速さでは自分が優っているのに捉えきれない理由は相手の動きが今まで自分が見た事の無いものだからだ。互いに瞬動術を使っている筈なのにサイは自分の攻撃が当たる瞬間に瞬動の直線軌道を変化させかわしていく。分身して囲もうとしても一瞬で本体を見極められて潰される。ならばと相手の攻撃にカウンターを合わせてもそれを読んだかのように受け流される。逃げるサイを瞬動で追いながら繰り返される鬼ごっこに苛立ちが溜まってしまう。

 

「てめぇ何だその動きは!男なら正々堂々殴り合えコノ野郎!」

 

「ハッ!お断りだ!悔しかったら当ててみな!」

 

イライラしながら怒鳴りつけても鼻で笑って挑発してくる始末だ

 

「コノ野郎ぉぜってぇぶん殴る!」

 

ままならない状況に苛立ちを感じながらもナギは見た目ほど冷静さを失っている訳では無かった。いかに年若く未熟な少年に見えようとナギは既に幾つもの戦場を潜り抜けた戦士だ。未だ経験不足な感は否めないが、だからと言って戦闘中に本気で癇癪を起こすほど子供じゃない。イライラしながらもナギの頭は高速で回転し状況の打開策を練っていた。

 

「うぉ!?(何なんだあの動きは?なんで瞬動中に軌道を変えれる?)」

 

自分の攻撃をいなしカウンターで打ち込まれる拳を紙一重でかわしながら冷静に相手の動きを見極める

 

「(瞬動じゃねぇのか?いや動き自体は瞬動と変わらねぇ。確かに動きの軌道は変わるけどそれもあくまで直線的だ。オレの攻撃が当たる直前にいきなり曲がって逃げやがる。瞬動じゃねぇってよりは……試してみるか)」

 

今まで遮二無二サイを追い回していたナギが唐突にその動きを止めた。相手の動きを警戒しサイも距離を置いて間合いを保つ。元々格上の相手だ。たとえ状況が自分に優位だろうとサイにナギを侮る気など欠片も無い。

 

「どうした?もう鬼ごっこは終わりか?(何か策でも思いついたか?相手はあの(・・)ナギだ。このまま押し切れるってのは虫が良すぎるよな)」

 

「いや?このままじゃ何時まで経っても当たりそうもねぇし……オレもちょっと真似してみようかなってなぁ!!」

 

再び瞬動による突撃を開始したナギ。今まで通り瞬動で相手の軌道上から身を翻したサイ。これまでなら攻撃をいなされた後サイに逆撃を受けていた訳だが今回はそれに変化が生じた。

 

「なに!?(俺の動きに着いてきた!?)」

 

「はは!もう逃がさねぇ!」

 

ナギの瞬動に合わせてその軌道上から身を翻した筈のサイの目の前にナギがいる。在り得ない状況に一瞬焦りが生じる。何とか距離をとろうと再び瞬動。ナギと向かい合ったまま弾ける様に真後ろへ移動するサイだがナギはそれにも着いてくる。

 

「こいつ!?」

 

「今度こそ貰ったぁ!!」

 

完全に見切られた。拳を振り上げるナギに焦りを感じながらも相手の発動限界(・・・・)を見極めるためにサイは再び瞬動を発動。今度は真横に移動する。再び追撃するかに思われたナギだが悔しそうに顔をしかめてその動きを止めた。

 

「っち!ミスったぜ」

 

なんとかナギの攻撃を凌ぎ10mほど間合いを空けたサイだがその顔は苦い。

 

「(その内ばれるとは思ったけど早過ぎる!しかもアッサリ真似しやがるし。こっちはそれなりに時間かけて練習したってのに……これだからチートは!!お前は何処のう〇は一族ですか?写〇眼でも持ってんのかコノ野郎!!)」

 

「よくあんな何度も発動できるな?結構むずいぜコレ?」

 

「……アッサリ真似しといてよく言う」

 

何処か感心したように話しかけてくるナギにサイは憮然として言葉を返す

 

「まぁなんとなくコツは掴んだし次はもうちょいイケルぜ」

 

「……」

 

「それにしても成る程な。正直お前の見なけりゃ思いつかなかったわ。確かに魔力集めんのが足の裏じゃなきゃいけない理由もねぇよな?」

 

つまりはそう言う事だ。本来は足の裏に集中させた気や魔力を爆発させる事で推進力を生み出し目にも止まらぬ高速移動を可能にする瞬動術。サイはそれをただそれ以外の場所で行なっただけ。瞬動は足裏に集めた気や魔力で行なうモノという固定観念ゆえに生まれた余りにも単純すぎる盲点。さらには瞬動中に再び瞬動を発動させる超高速の魔力運用。永久機関と呼べるほどの魔力(気)の回復力による持久力と世界最高の制御技術を持つサイにのみ可能な筈の移動術だった訳だが……流石はナギだ。アッサリ真似してくれやがる。

 

「それが解ったからってそこまで簡単に真似出来るほど安い技じゃ無いはずなんだけどな」

 

人が足で歩き移動する以上瞬動が生み出された時に足裏に魔力(気)を集め爆発させるようになったのは必然だろう。しかし当然その過程で他の部位に魔力(気)を集める事も試された筈だ。サイが考えるにそれが定着しなかった理由は主に2つ。

 

1つは魔力(気)が集めにくい事。手や足などの四肢に比べて他の部位に魔力(気)を集めるのはハッキリ言ってイメージし難いのだ。別に不可能というほど難しい訳でもないが手足に比べるとどうしても集め辛くそちらに気を取られてしまう。戦闘中に使用する事を考えると手足以外に集めるメリットは多くない。

 

もう1つは少し考えれば誰でも解るがバランスの取り難さだ。少々極端な例えだが仮に額に魔力(気)を集めて瞬動を発動させたとする。するとどうなるか?恐らく目にも止まらぬ速さで後頭部を地面に打ち付ける事になるだろう。つまり魔力(気)を爆発させるのが何処でも言い訳じゃ無い。あくまでも自身の重心を崩さない部位に集めなければ爆発させた瞬間にバランスを崩し地面とキスする破目になるのだ。実際サイは何度も失敗を繰り返しながらそれを検証し何年もかけて習得したのだ。

 

それを始めて使っていきなり成功させるなど在り得ないチートっぷりだ。足りない技術を魔力量のゴリ押しで無理矢理補い、魔力の収束点は恐らく只の勘でなんとなく正解を掴んで見せた。やっぱりナギの才能は異常だ。このまま同じように戦い続けてもまだ(・・)俺の優位は保てるだろうが時間をかければナギの圧倒的な戦闘センスはそう遠くない内に俺を捉えるだろう。

 

「(ここは此方から仕掛けるべきか?正直今のまま何十発殴っても倒せる気がしないしな。もう十発は入れてんのに全然堪えてねぇし。やっぱり俺じゃ攻撃が軽すぎるって事か)」

 

ナギと会話をしつつ戦況を見極めていたサイは今のままだと遠からず自分が敗北する事を確信する

 

「さてと。このまま追いかけっこの再開も良いんだけどあんまり時間かけても客も飽きるだろうし今度はこっちから行かせて貰おうか?」

 

「なっ!?」

 

会話の終わりと同時に放たれたのは100を超える<魔法の射手(サギタ・マギカ)>。半身に構える事でナギの死角に右手を隠しそこから後ろ手に円を描く様に放たれる。突然上下左右の空間を埋め尽くす様に襲い掛かる魔弾の雨に流石のナギも驚愕する。

 

「っちぃ!?」

 

包み込むように包囲しながら迫り来る魔弾の雨を避けるため咄嗟に距離をおこうと背後に飛び退ったナギは更なる苦境に陥る

 

「言ったろ?今度は俺の番だ。逃がさねぇよ」

 

一瞬注意を逸らした隙にナギの後ろに回りこんだサイがそこでも新たな<魔法の射手>を撃ち出す。その数さらに100!

 

「な……めんじゃねぇ!!」

 

完全に逃げ道を塞いだ回避不能な全方位攻撃を圧倒的な魔力をもって纏めて薙ぎ払う

 

「どうだ……ってまたかよ!?」

 

迫る魔弾の雨を纏めて吹き飛ばし危機を脱したかに見えたナギだがサイもそう簡単に逃がす気は無い。先に倍する<魔法の射手>がいつの間にか撃ち出され再びナギに襲い掛かる。

 

「<雷の暴風>×5」

 

ナギが<魔法の射手>に気を取られている間にさらに仕掛けられたのは<遅延呪文(ディレイスペル)>を利用した<雷の暴風>の多重同時発動。僅か数秒でナギを囲むように仕掛けられたソレが魔弾の雨ごと消し飛ばすように放たれた。

 

「……<開放>」

 

ナギを包囲し襲い掛かる<雷の暴風>が直撃するかと思われた瞬間ナギから絶大な魔力が解き放たれた

 

「ゥォォオオオオオオオオ!!」

 

「これは!?」

 

発動は一瞬でほとんど形を成して無かったし術の構成も力任せ。ハッキリ言って俺の知るそれとは見た目も規模も桁違いすぎて自信は無いが恐らく今のは<風障壁>かそれに類する魔法だろう。俺の魔法が直撃する寸前にナギから解き放たれた絶大な魔力の奔流は文字通りに天を衝き、襲い掛かる<魔法の射手>も<雷の暴風>も全部纏めてかき消してしてしまった。

 

「……流石にありえねぇ」

 

何だそりゃ!?ナギの魔力量が桁違いなのは知ってたけど……コレは無い。桁違い?そんな可愛いモンじゃない。俺の考えが甘かった。ハッキリ言って次元が違う。

 

「要するに……この前の戦争の時も今までも全然本気じゃ無かったってことか?」

 

「まぁな。でも別に手ぇ抜いてたって訳じゃねぇんだぜ?お師匠に会ってから色々教えてもらったんだけど正直チマチマした技術とか?そういうの性に合わなかったんだわ。元々火力っつうか魔力量には自信が在ったからソッチを伸ばす事にしたらこんな感じになっちまってよ。ぶっちゃけ自分でも制御できねぇから普段は封印してんだ」

 

まるで枷がとれてスッキリしたとでも言いたげに首や肩を回すナギを見ながらサイは今まで考えて無かった1つの可能性にやっと思い至る。原作のナギ=スプリングフィールドは大戦期にジャック=ラカンと出会い戦った時こう言っていた「俺に並ぶ奴に会えて」と。この言葉はつまり自らが師と慕うゼクトや仲間として信頼していた青山詠春やアルビレオ=イマですら、こと戦闘においては対等な存在では無かったことを意味する。

 

つまりナギにはそれまでライバルや競い合う相手が居なかった訳だ。勿論それなりに努力はしたんだろう。だが始めから頂点に立ち、誰一人自分に並ぶ事が無い絶対の強者がわざわざそれまで以上に強さを追い求めるだろうか?真剣に修行に打ち込めるだろうか?おそらくそれは無い。他者と隔絶した圧倒的な才能ゆえそれなりに努力すれば人並み以上の結果をだし、ただそれなりに強い相手と戦えばそこから100を学ぶ。多分原作のナギはそこまで真剣に修行に打ち込んでいた訳じゃ無い筈だ。そうじゃなければ戦闘時でもアンチョコ片手にしなければ碌に使える魔法も無いなんてアホな事にはなって無い。

 

「(よく思い出して見るとこの前も今もアンチョコなんて持ってる所見てないしな)」

 

この違いは何処から来たのか?多分俺の所為だ。本当に未熟でまだまだチートな才能を開花しきる前の子供の頃のナギに俺は勝ってしまった。それからやたらと俺をライバル視して突っかかってきたのも今となっては懐かしい思い出だが、おそらくそれが原因でナギは原作よりも真面目に修行に打ち込んだんだろう。生まれ持った才能だけで世界最強になれる筈の存在が幼い頃から明確な目標を掲げて必死に努力する。その結果が【最強】がさらに高みに至った【無敵】が今ここにいる。

 

 

元々ナギに勝てるなんて思って無かった。だってそうだろう?ナギは最強だ。強大な魔力、圧倒的な戦闘センス、ハッキリ言って俺がナギに優る所なんて何も無い。それでも心の何処かで思っていた。俺にも少しくらいは、ほんの1%くらいでも勝てるチャンスが在るんだと。

 

 

 

 

努力してきた

 

 

 

 

ナギよりも誰よりも努力してきたつもりだ

 

 

 

 

生まれてから今まで他の全ての時間を捨てて強くなろうと鍛えてきた

 

 

 

 

元々原作に関わりたいなんていう不純極まる理由で始めた事だがそれでも真剣に修行に取り組んできた。別に最強になりたかった訳じゃ無い。努力すれば必ず報われるなんて夢を見ていた訳でもない。それでも例え僅かでも俺はナギに届く力を得たと思いたかった。

 

「いくぜ?この状態だと加減なんかできねぇけどちゃんと着いてこいよ?」

 

「……つまり最初から俺に勝ち目なんか無かったって事か」

 

闘技場を覆い尽くす絶大な魔力を感じながら俺の心が折れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

矢継ぎ早に放たれているのは<雷の暴風>。お世辞にも洗練されているとは言いがたい荒い術の構成だがそれを力で補い無理矢理発動させている。途切れる事無く撃ち出される砲撃が地を砕き客席を守る障壁に突き刺さる。異常なまでの威力を秘めたソレは<千の雷>などの上位魔法すら容易く防ぎきるゼクト謹製の障壁をも貫きかねない威力だ。

 

「あの馬鹿弟子が。射線くらい考えて戦わんか」

 

ナギの魔法に揺らぐ障壁を補強する為に魔力を込めつつゼクトの口からぼやき漏れる。

 

「それよりも……」

 

射線も考えず魔法を放ち続ける不肖の弟子に頭を痛めながらゼクトの視線がナギに相対する人影に注がれる

 

「……どうやら折れたかのぅ?」

 

まぁ力量差を考えればよくがんばった方かのぅ?諦めの表情を浮かべながらも自分から勝負を降りぬ程度の気概は保っているのか砲撃の雨からなんとか身をかわしているサイの姿を見ながらゼクトはそう考えていた。元々勝敗の見えた戦いだった。別にゼクトはサイを評価していない訳ではない。むしろある意味ではナギ以上にサイを評価していたと言ってもいい。

 

才能を努力で補っているのは初めて見た時から解っていた。そうでなければあれ程の技術は得られない。人並か少し上程度の魔力しか持たぬ身でオスティアに襲い掛かる数千の軍勢を押し留める。いかに騎士団に守りを任せていたとはいえそれがどれほどの難事か。サイの魔法は長きを生きる自分ですら目にした事が無いほど洗練され研ぎ澄まされていた。その術の精緻さ構成の美しさには感動すら覚えたほどだ。

 

しかしゼクトは弟子の力を他の誰より良く知っていた。短絡的で勉強嫌いと欠点は多いがそれら全てを補って余りある破格の才能。ナギを弟子に取った時はこの珠玉の原石をどう磨こうかと年甲斐も無く心躍ったものだ。残念ながら自分の持つ技術の全てを伝えるにはナギの性状は大雑把すぎた訳だが。ナギは自身の技術(欠点)を伸ばす事より単純に(長所)を伸ばす事を望んだ。それゆえゼクトはナギに最低限必要な知識や技術を教えながらとある術を施した。

 

術の効果は魔力量の増加。対象の心身に負荷をかける事で通常成長過程で得られる以上に魔力量を増大させる今では使える者はおろか知る者さえほとんどいない失われた術。

 

現代までこの術が伝えられず時の流れと共に忘れられていった理由はそのリスクの高さ故だろう。通常以上に魔力の増加を促すこの術は要するに対象の潜在能力を無理矢理限界以上に引き出すものだ。それには当然それなりの苦痛をともなうし体が術の負荷に耐えられなければ最悪魔力そのものを失ってしまう事もある。ゼクトとしてもナギほどの才能を失うリスクを犯してまで好き好んでそんなモノを使いたくは無かったが他ならぬナギ自身がそれを望んだ。

 

強情なナギに根負けして仕方なく術を施した(勿論リスクを徹底的に減らし考えうる限りの安全措置を施した上でだが)結果は見ての通り。恐らく人魔問わず歴史上でもほとんど並ぶ者のいない史上最高クラスの魔力を手に入れた。史上最高クラスの魔力を持つ戦闘の天才。それが今のナギ=スプリングフィールドだ。今のナギに勝てる者など世界中探しても果たして見つかるかどうか。

 

「ワシとしてはこんな所で潰れて欲しくは無いんじゃが」

 

平凡で在りながら今の高みまで至ったサイ=ローウェルという存在を惜しみながらゼクトは障壁を補強し続ける。どんどん威力が上がるバカ弟子の魔法から客席を守りながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら勝負はついた様ですね」

 

「……」

 

隣に座る妹からの何処か失望を感じさせる声も遠く聞こえる

 

「なるほど……ナギは強いですね。確かに最強を名乗るだけはあります」

 

「……」

 

アルナの言葉を聴きながらも闘技場から視線を逸らせない

 

「ですがサイには少々がっかりです」

 

「……」

 

自分でも驚くほどの怒りが湧き上がっている。

 

「ナギに及ばないのは仕方ないにしても試合の途中で勝負をなげるとは」

 

「……ッ」

 

意図せず奥歯が軋むのを感じる。もはやその身を包む激情を抑えられない

 

「あの体たらくではとても姉さま達の身を任せられませんね。これはアスナの護衛も……」

 

或いはその言葉が引き金となったのか最後までアルナの言葉を聴く事無くアリカはその場から駆け出して行く。

 

「……っと。私の声もほとんど聞いてませんでしたねアレは。姉さまがあれ程感情的になるとは思いませんでした。……これはもう一波乱くらいはあるかもしれませんね」

 

貴賓室を飛び出していったアリカを見送りながらアルナは楽しげに微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

通路を走り抜け階段を駆け下りる。人影とすれ違う度送られる驚愕の視線にも気付かぬほどアリカの体は怒りに支配されていた。通路を抜け一般の客席にたどり着いたアリカの視線の先で遂にサイが撃ち落された。咄嗟に張った障壁ごとナギの魔法に撃ち抜かれ闘技場を囲むフェンスに激突したサイの元へ一直線に走っていく。ようやく辿り着いたその場所でアリカは感情のまま声を張り上げた。

 

「何をしておる……この馬鹿者が!!」

 

「……アリカ?」

 

恐らくギリギリで魔法の直撃を避けたのだろう。ボロボロになりながらも何とか意識を保っていたサイがアリカの声に反応して身を起こした。

 

「何じゃその体たらくは!何故戦わん!何故諦める!」

 

不甲斐無い!情けない!悔しくて堪らない!

 

「誰が相手でも関係無い!相手の強さなど関係無い!」

 

そうじゃ!そんな事はどうでもいい!

 

「誰より強く在る必要など無い!誰より弱くても構わぬ!」

 

そんな事で選んだ訳じゃない!そんな理由で信じた訳じゃない!

 

「されど誰より誇り高くあれ!何者にも屈さぬ心を持て!」

 

様々な感情が入り乱れ最早自分でも訳が解らなくなりながら声を上げ続ける

 

「……アリカ」

 

「お主は私の騎士じゃろうが!!」

 

呆然するサイを見据えるアリカの声が闘技場中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わかったら立ち上がらんか!馬鹿者が!!」

 

体中が痛い。直撃は避けた筈なのにそれだけで全身ボロボロだ。

 

「勝てとは言わん!負けても構わん!だから最後まで諦めずに戦え!!」

 

だけどそんな事は気にならなくなる程強烈な感情が湧き上がる。

 

「サイ=ローウェルこそアリカ=アナルキア=エンテオフシュアの騎士じゃとこの私に誇らせて見せよ!!」

 

俺を真っ直ぐに見据えるアリカ。ただ呆然とそれを見返しながらサイの体を猛烈な羞恥が襲う。

 

「……情けねぇ」

 

今まで生きてきてこれ程自分を不甲斐無く思ったのは初めてだ。ナギの強さなど最初から分かっていた筈だった。にも関わらず少しばかり力の差を見せられた程度でアッサリ心が折れた。あげく自分の半分も生きてない少女に叱咤される始末。余りの見っとも無さに顔から火が出そうだ。穴があったら入りたいと言うのはこういう心境なのかもしれない。

 

「聞いておるのかサイ!!」

 

「(ああ。……聞こえてるよアリカ)」

 

ああ。よく聞こえている。本当に俺はどうしようもないアホだ。アリカの騎士を名乗りながら今の今までその意味を理解する事すらしていなかった。アリカがどれ程俺を信じてくれていたのか解ってなかった。

 

「アリカ!!」

 

「!?」

 

ただ呆然と見返すだけだった俺が突然声を上げた事に目を見開くアリカ。

 

「悪かった!見っとも無いとこ見せた。お前の騎士失格だ」

 

「全くじゃ!お主の失態は主たる私の失態。お主が無様を晒せばそれは私の恥であると知れ!」

 

国ではなくアリカ個人に仕える俺が情けない所を見せればそれは当然俺を重用するアリカにも返る。にも拘らずオスティア中が注目する場で醜態を晒した俺をそれでもアリカは信じてくれているらしい。

 

「もう二度と無様は晒さない。だからもう一度だけお前が誇れる騎士になるチャンスをくれ!」

 

「当たり前じゃ愚か者が!お主はこの私が選んだ唯一無二の騎士じゃぞ!」

 

本当に俺には勿体無い主だ。なら俺もそれに相応しい騎士にならなければいけない。

 

「ナギ!!」

 

「あん?もう良いのかよ?」

 

どうやら俺とアリカのやり取りが終わるまで待っていてくれたらしい。少し退屈そうにしていたナギが俺を見やる。

 

「お前にも謝る!ガッカリさせただろ?」

 

「いや?だってお前はサイ(・・)なんだろ?だったらこの程度で折れる訳ねぇ。諦める訳がねぇ。お前はこのオレのライバルなんだからな!」

 

どうやらコイツも俺を信じてくれていたらしい。誰も彼も俺を買い被っていてこれじゃ本当に情けないところは見せられない。

 

「ってかやっぱりバレてたんだな?」

 

「当然だろ?何で黙ってたのかは知らねぇけどな」

 

当たり前か。偽名名乗ってた訳でもないし。

 

「まぁその話はまた後でな。取り合えず今は……ケリをつけよう」

 

本当はこんな所で使う気は無かった。数に限りがある上にコレは俺の奥の手。最大の切り札だ。こんな多数の人の目がある場所で使えば必ず情報が漏れる。情報は力だ。知らないと言う事はそれだけで脅威になる。知っていることなら対策が練れるが知らなければそれが出来ないからだ。いずれ今日の事を後悔するかも知れない。なぜ自分の手札を人目に晒したのかと。だがそのリスクを負う事になろうとも今はそれより大事な事がある。

 

「ナギ!俺はお前より弱い!俺はお前に勝てない!だけど俺はアリカの騎士だ!守るべき矜持がある!守るべき誇りがある!俺は……アリカが誇れる騎士でなきゃいけない!」

 

そして取り出されたのは複数(・・)の魔石。それに秘められた魔力を同時(・・)に開放する。

 

「はは!?すげぇ……やっぱりお前はおもしれぇ」

 

サイが取り出した石から強大な魔力が放たれている。それらの魔力が合わさり一つ(・・)の巨大な魔方陣を描いている。そこから感じる魔力の強さはあるいは今の自分に匹敵する!

 

「これが……俺の切り札だ」

 

ナギを警戒しすぎて同時に起動させた魔石が多すぎた様だ。自分に扱える限界以上の魔力を全力で制御する。ハッキリ言って他の事に気を払う余裕も無い。これが実戦なら今の内に術の発動ごと叩き潰されて終わりだろう。だがこれは試合だ。どうやらナギは俺に合わせてくれるらしい。

 

「おもしれぇ!どっちが上かケリつけようぜ!」

 

ナギの魔力が際限なく上昇していく

 

「---契約により我に従え高殿の王」

 

「---集え終局の使徒」

 

高まる魔力が闘技場をオスティアを揺さぶる。観客たちはもはや言葉も無く戦いの終わりを見守るだけだ。

 

「---百重千重と重なりて 走れよ稲妻!!」

 

「---滅びを導く極光!!」

 

そして互いに放たれた極大の一撃。ぶつかり合う2つの究極が闘技場を覆い尽くした。   




前書きで結果は本文で!と書きましたがあいまいに終わってすみません。本当の結果は次回という事で。


今回はサイ君に少々へたれて貰いました。サイはそれなりに強敵と戦った事はありますがナギほど圧倒的な相手は初めてです。師匠は例外です。かなり手加減されてますしそもそも試合ですらないただの稽古なので勝とうとしていた訳でもないです。理由は元々一般人なら一度くらいへたれるべきかな?と思ったからです。さっさと立ち直ったので少し軽く感じるかも知れませんが長々ウジウジやってもウザイのでアッサリ目にしました。

私の考えではこの話の主人公であるサイにはあんまり主人公さを出さないようにしたいと思ってます。もしかしたら主人公っぽいだろ!という方もいるかも知れませんがその辺はかんべんして下さい。素人なので。

様はあんまりカッコいい感じにしたくないという事です。元一般人が転生?したのがサイなのであまり物語の主役みたいに強靭な意志や精神を持ってるのはおかしいんじゃ?と思うからです。賛否はあると思いますがそういう方針でいくつもりです。

・ナギについて

この作品のナギは原作より強化されています。理由は本文で書いたので省きますが簡単にどの辺が強化されたか書いておきます。

1:アンチョコいらず

2:多少魔法技術の向上

3:魔力量の増加

主に上記の3つが強化されています。2については本文では判り難いと思いますのでそういうモノだと思ってください。

ナギを強化する事はかなり前から考えていました。これも理由は本文に書きましたが話の流れからナギが原作と変わらない強さしか持たないのは不自然かな?と思ったからです。

なぜ魔力量を増やす事にしたかというとそれが私的に一番しっくりきたからです。まずただ漠然と強化されました!だと何処がどう強くなったのか判り難い。ならばものすごい技術が向上して精緻な魔法を駆使する!とかだとそんなのナギじゃないと感じました。何を強化したらナギっぽいかな?と思い(あくまで私の独断と偏見ですが)考えた結果シンプルなのが一番いい!となり単純に火力の強化になりました。

本文中のゼクトの術ですがナギの強化の為に考えただけの思いつきなので矛盾点などはスルーして下さい。他のオリジナルっぽいモノもそんなもんだ!と深く考えずにお願いします。

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