仮面ライダー剣―Missing:IS   作:断空我

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いやぁ、詰め込みすぎた。

三部作だけで、A4のワード百ページいきそうです。本当の話。

いえるのはこれだけです。


では、最終章Ⅱ部 滅亡へのカウントダウンです。


第四十二話

ブレイド、ギャレン、カリス、レンゲルはそれぞれの愛機に乗って目的地に向かっていた。

 

誰もいない道路をバイクで進んでいると、進路先にゆらゆらと進軍してくる異形たちの姿が見える。

 

「邪魔だ、蹴散らすぞ!」

 

四人はプライムベスタを取り出してバイクのモビルラウザーにラウズした。

 

『サンダー』

 

『ファイア』

 

『トルネード』

 

『ブリザード』

 

雷、炎、竜巻、吹雪を四機のバイクが纏い、道を阻む異形を突き飛ばしていく。

 

攻撃を受けた異形は爆発し消滅する。

 

敵を蹴散らし続けていると彼らの視界の先に奇妙なドームが見えた。

 

四人はバイクの速度を全開にして建物の中に突っ込む。

 

ドームの中は薄暗くてなにがあるのかわからない。

 

『やーやー!よくきたね!!』

 

設置されているスピーカーから束の声が響く。

 

「束さん!」

 

『早速だけれど、ゲームの内容について説明するよ~』

 

束の声にライダー達は返事をしない。

 

『つれない反応だねぇ~。ま、ルールは至って簡単、キミ達の前にある四つの道に表示されているスートの道にそれぞれのライダーが入り、奥にあるカテゴリーKのプライムベスタを取り戻す事ができれば、キミ達の勝ち、敗北条件は世界が滅ぶ事かなぁ』

 

同時に暗かった室内が明るくなり、スペード、ダイヤ、ハート、クラブが表示された道が現れる。

 

『いっておくけれど、制限時間が存在するよ~。キミ達が蹴散らしたローチ達がIS学園に到着して、全員死んじゃったらキミ達の負けだからねぇ』

 

「なっ!!なんだそれ!」

 

ギャレンが驚きの声を漏らす。

 

「そういうこといって、プレイヤーの心情を乱すっていうのは問題なんじゃないんかねぇ?」

 

カリスの言葉に束は何も言わない。

 

「ま、さっさとカテゴリーK回収すればいいんだよ・・・・それと」

 

少し言葉を止めて、カリスは口を動かす。

 

「注意しろよ。相手は猫の皮かぶった悪魔みたいなヤツだ。何を設置しているかわからねぇしな」

 

「始のいうとおりだな。バラバラになっちゃうけれど、絶対に帰ろう!」

 

ブレイドは拳を前に出す。

 

ギャレン、レンゲルも続けて拳を出す。

 

最後にカリスが拳を突き出して四人は背を向けてそれぞれの通路を進む。

 

 

 

 

 

 

“吾輩は猫である”の中央制御室のような場所に篠ノ之束はいて、目の前に四つのモニターがあり、そこにブレイド、ギャレン、カリス、レンゲルを表示している。

 

「さてさて、楽しい楽しいショーの始まりだよ!箒ちゃん!」

 

後ろには何も言わずたたずんでいる篠ノ之箒の姿があるが、束の言葉に何の返事もしない。

 

箒は現在、操り人形同然、束の言葉に反応する事はないのに彼女は尋ねた。

 

「さてさて、どのくらい生き残るかな?束さんの予想だと一人かなぁ・・・・ま、いっくんにはこっちにきてもらうし、他の三人は命落としてもらうつもりだけれど、どうなるかな?」

 

それと同時に束は操作して“二人”に待ち受ける駒を起動させた。

 

「さ、キミも準備するんだよ?望みを手にしたければ・・・・ね」

 

「・・・・わかってる」

 

離れた所で様子を見ていたシャルロットは頷いて部屋を出て行く。

 

「一つ、聞きたいんだけれど」

 

「なにかな?」

 

出口で立ち止まってシャルロットは束に、否、束になりきっている相手に尋ねた。

 

「どうして、統制者なんて、いっているの?」

 

「んー、キミなんかに話すつもりはなかったけれど・・・・その方が盛り上がると思わない?」

 

「というよりも、怖かったんじゃないの」

 

「何が言いたいのかな?」

 

シャルロットの言葉に束の顔から笑みが消えた。

 

「別に・・・・いってくる」

 

言葉を濁して彼女は部屋から出て行く。

 

束は舌打ちをして指示を飛ばす。

 

 

 

 

 

 

通路を抜けた先、レンゲルは機械の中央部分に設置されているカテゴリーKのプライムベスタを見つける。

 

「・・・・嶋さん」

 

いつの間に嶋が封印されたのかはわからない。

 

封印されたものを助け出す手段をレンゲルは持っている。

 

だが、それよりも。

 

「・・・・ランス」

 

目の前にいるライダー。

 

それはかつて橘朔也が製作した新世代ライダーと呼ばれる三体の一体だ。

 

レンゲルと同じ槍を構えているランスを睨みながらもレンゲルラウザーを構える。

 

ランスは地面を蹴って接近した。

 

冷静にレンゲルラウザーを振るって、振るわれる槍をさばく。

 

的確な攻撃、けれど、レンゲルは仮面の中で疑問を抱いていた。

 

「(動きが機械的過ぎる)」

 

確かにランスの動きは的確で、隙がないように見える。

 

だが、その動きはあまりにも的確すぎて、レンゲルにはロボットと戦っているような気分だった。

 

「だったら・・・・」

 

繰り出された槍を避けて、詰め寄る。

 

わき腹に向けてレンゲルラウザーを振るう。

 

攻撃を受けたランスは仰け反りながらカードをランスラウザーにラウズしようとする。

 

「遅いよ」

 

『ブリザード』

 

ラウザーから冷気が放たれてランスの両足が凍りついた。

 

『マイティ』

 

インパクトスタッブを放とうとしたランスの足が固まり、技が失敗する。

 

『ラッシュ』

 

『ブリザード』

 

『ブリザードゲイル』

 

冷気を放ち、レンゲルがキックを放つ。

 

攻撃を受けたランスは爆発を起こして地面に倒れる。

 

「・・・・嶋さん、すぐに解放します」

 

レンゲルは機械のほうを見てラウザーにプライムベスタをラウズしようとした瞬間、リモートのカードがランスのほうに向かい、吸い込まれてしまう。

 

「え!?」

 

驚いたレンゲルが振り返った瞬間、鋭い爪がアーマーを貫いた。

 

「うっ・・・・ぁ・・・・」

 

爪は背中に貫通して周囲に血を飛び散らす。

 

「あ・・・・が・・・・」

 

ランスバックルが壊れて、そこから現れたのはアンデッドのような異形だった。

 

至近距離で両肩から炎が放たれ、レンゲルは爆発を起こし、壁に叩きつけられる。

 

地面を背にして崩れ落ちた途端、変身が解除されて、簪に戻った。

 

肉体にもダメージが蓄積されて、メガネ型のバイザーに亀裂が入っていた。

 

赤い液体がIS学園の制服を染めていく。

 

簪に不意打ちをした“ケルベロスⅢ”は唸り声を上げた。

 

 

 

 

 

富樫始が広い通路を抜けると、カテゴリーKのプライムベスタが視界に入る。

 

そして。

 

「始・・・・」

 

「ここで待っていたというわけか」

 

眉間に皺を寄せてこっちをみているシャルロットを見つけた。

 

「考えを改めるつもりはない?」

 

「ないね」

 

シャルロットの言葉を始は一蹴する。

 

「何度も言うが、あいつの言葉どおりに従って、この世界ぐちゃぐちゃにするくらいなら俺は自分の命を捨てるね」

 

「どうして、どうして、そこまで自分を蔑ろにするのさ!」

 

「大勢の命と自分の命なら、大勢の命だろう」

 

「・・・・大切な人を悲しませる事になっても?」

 

シャルロットの問いに始は少し止まる。

 

「・・・・・・・・あぁ」

 

小さい声で始は答えた。

 

「・・・・そう」

 

シャルロットはグレイブバックルを装着して、グレイブへ変身して攻撃を仕掛ける。

 

振るわれた刃を避けてカリスになるとカリスアローのソードボウで拮抗した。

 

「やっぱり、納得できない。始を犠牲にして終わるなんて、私は嫌だ!」

 

「だから、統制者気取りの甘言にのせられて、人間を捨てようっていうのか!」

 

シャルロットがグレイブとして戦っていたとき、微かだが、自分と同じ気配を始は感じ取っていた。

 

「ジョーカーの因子を体に埋め込んで俺と同じように怪物になるっていうのか!」

 

カリスの叫びにグレイブはこたえない。

 

「認めないぞ!俺はそんなことを認めない!お前みたいないい奴が化け物になって苦しい思いをするなんてことは絶対に認めない!」

 

「っ!それでも!私は大好きな始に生きていて欲しいんだ!」

 

「誰かに歪な命を与えられても俺は生きていたくねぇ!」

 

シャルロットは愛しい人に歪な命でもいいから生きて欲しいと願う。

 

始は最愛の人が化け物になってまで助けて欲しいとは思わない。そうなるなら命を捨てる。

 

互いを想いあっているのに、気持ちが重なっていなかった。

 

カリスは叫ぶと同時に横薙ぎにソードボウを振るう。

 

グレイブバックルに傷が入る。

 

「シャル!」

 

カリスは叫び、グレイブを引き寄せた。

 

「どうして、どうして、自分の命を捨てられるのさ!生きていて欲しいのに!」

 

何故、とシャルロットは問いかける。好きだから、愛しているからこそ生きて欲しい、共に生きたいと思うのに彼はそれを選ぼうとしない。それが嫌だった。

 

「捨てられるわけねぇだろーが!!」

 

腹の底から叫ぶ。

 

今まで心の奥深くに仕舞いこんでいた感情が爆発する。

 

「命を捨てられる?自分を蔑ろにする?俺は聖人みたいに綺麗な心持っているわけじゃない。強いようにみせているだけ。ハリボテをだしているだけだ」

 

グレイブは気づいた。

 

カリスの手が、始の手は震えている。

 

注視しないと気づかないが震えていた。何かに怯えているかのようにみえる。

 

微かな震えにグレイブは動揺した。

 

「どうして、なんで・・・・素直にいわないのさ!」

 

「いえるかよ・・・・そんなこと!」

 

鍔迫り合いを続けながら二人は叫ぶ。

 

相手を倒すから相手に訴えあうように叫んでいた。

 

「始は天邪鬼すぎるんだ!だから!わからないんだ!」

 

「天邪鬼上等!なんといわれてもこのスタイルを変えるつもりはない!」

 

二人は距離を置く。

 

「真剣な戦いのはずなのに、なんでこんなふざけた空気になっているの?」

 

「知るかよ」

 

「私は、始を死なせたくない」

 

「誰かを犠牲にしてまで俺は生きていたくないしシャルに化け物になって欲しくねぇ」

 

「お互い譲らないね」

 

「男なら殴って決着つけるところだが」

 

「女だからって差別しないでよ。怒らせると女性の方が怖いんだから」

 

「はっ!」

 

カリスとグレイブは同時に地面を蹴る。

 

『マイティ』

 

『スピニングウェーブ』

 

グラビティスラッシュとスピニングウェーブがぶつかり合う。

 

刃と剣拳がぶつかり衝撃が巻き起こる。

 

両者の位置が入れ替わった。

 

グレイブバックルに大きな亀裂が入り、ラウザーが弾き飛ばされて地面に落ちた。

 

カリスはゆっくりと振り返る。

 

「負け・・・・たくない。私は始を失いたく、ないんだ!」

 

グレイブラウザーを構えて、シャルロットは仮面の中で叫ぶ。

 

シャルロットにとって始は失いたくない存在だ。

 

閉鎖的な自分の世界を壊してくれた最愛の人。

 

そんな人を失ってまで、世界に生きていたくはない。

 

シャルロットの感情(こころ)は爆発した。

 

「嫌だ!嫌だ!絶対に」

 

「・・・・いい加減にしろ!」

 

変身を解除して始はグレイブの顔を殴り飛ばす。

 

仮面が揺れただけで大きな痛みはない。むしろ、痛みを感じるのは始のほうだ。

 

殴った手から血が流れている。

 

それをみて、痛みを感じた。

 

体に攻撃を受けたわけじゃないのに、シャルロットの何かが傷んだ。

 

「あれ・・・・なんで」

 

ぽろぽろ、と涙が零れ落ちる。

 

涙を拭おうとするが仮面が邪魔で止まらない。

 

「私、私は・・・・」

 

始はため息を吐いて、シャルロットに触れようとした瞬間。

 

刃が始とシャルロットの心臓を抉り取る。

 

「なっ・・・・!?」

 

――何が起こった!

 

驚愕に染まりながら始は襲撃者を睨む。

 

立っていたのはアンデッドのような異形、ケルベロスⅣだ。

 

ケルベロスⅣの手にはシャルロットが地面に落としたグレイブラウザーが握られており、それが二人の体を貫いている。

 

いつの間に、現れたのか。

 

まるで気配を感じなったことに始は戸惑う。

 

ケルベロスは刃を深く突き立てる。

 

始はそれを止めようと刃を押し戻そうとするが背を向けていることから戻せない。

 

深く突き刺さって、変身が解除されたシャルロットは血を吐く。

 

「はじ・・・・め」

 

「シャル・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャレンは狭い通路をゆっくりと進んでいく。

 

仮面の中で呼吸を整えつつ考えていた。

 

「(かなりの距離があるみたいだが、どのぐらいあるんだよ?)」

 

ギャレンラウザーをいつでもホルダーから抜けるようにしながら通路を進む。

 

しばらくして広い空間に辿り着いた。

 

ギャレンは見つけた。

 

奥の機械の中央、そこにダイヤスートのカテゴリーKが設置されている。

 

そして、カテゴリーKを守るようにギャレンとは異なるデザインのライダーがボウガン手に持ち、立ちはだかった。

 

「(・・・・ラルク)」

 

亡き烏丸の後を継いだ橘が考え、開発にこぎつけた新世代ライダーシステムの一つ、ラルク。

 

それがギャレンの前にいる。

 

ラルクは敵を認識すると顔を上げてラルクラウザーで攻撃を仕掛けてきた。

 

「ちっ!」

 

ギャレンはホルダーからギャレンラウザーを抜いて、飛来する攻撃を避けながら反撃を仕掛ける。

 

ギャレンラウザーから光弾を放つがラルクは華麗に避けた。

 

「そこだ!」

 

地面に着地した所をギャレンラウザーで発砲、光弾を避けられずラルクの装甲に連続して火花を散らす。

 

光弾を撃ち、仰け反るラルクをみながらギャレンはオープントレイを展開してプライムベスタを二枚取り出す。

 

『ドロップ』

 

『ファイア』

 

『バーニングスマッシュ』

 

「うぉおらぁ!」

 

炎を纏った蹴りを放つ、仰け反っていたラルクは対応できない、そう思っていた。

 

『マイティ』

 

「っ、ぁぁぁ!」

 

ラルクは冷静にラルクラウザーにマイティのカードをラウズしてレイバレットを放つ。

 

光矢がギャレンのアーマーを貫く。

 

「ぐがっ!?」

 

火花を散らして、ギャレンは地面に倒れた。

 

「く・・・・そ」

 

ふらふらと起き上がったギャレンに向けてラルクは光矢を撃ち続けた。

 

連続してアーマーに攻撃を受けて、ギャレンはダメージを受ける。

 

「ぐ・・・・・・がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

バチバチと連続して爆発を起こし、膝を地面につけた。

 

「ぐ・・・・このまま、終わってたまるか!」

 

『アブゾーブ・クィーン』

 

『フュージョン・ジャック』

 

「俺は帰るんだ!みんなと!」

 

孔雀の紋章がアーマーに装着され、ギャレンはジャックフォームへとなる。

 

ディアマンテエッジが付与されたギャレンラウザーを構え、背中のオリハルコンウィングを展開し低空飛行しラルクに接近した。

 

ラルクは冷静にラルクラウザーから光矢を放つ。

 

ギャレンは上昇し矢を避ける。

 

プライムベスタをラウズして、一気にラルクへ接近した。

 

接近するギャレンに対して、ラルクがハイキックを繰り出す。体を捻ることで回避して、ディアマンテエッジが付与された刃をラルクに突き出し、空中に上昇して炎を纏った光弾を連発する。

 

『バーニングショット』を受けたラルクは爆発して炎に包まれ、地面に落ちた。

 

動かなくなったラルクを確認してギャレンジャックフォームは機械に設置されているカテゴリーKに近づいて、取り出そうとする。

 

機械に手を伸ばした瞬間、ギャレンがぴたり、と動きを止めた。

 

「・・・・な・・・・」

 

苦悶の声を漏らし、ゆっくりと下へ視線を向ける。

 

アーマーの胸部から腕が伸びていた。

 

その腕は人間のものではない、化け物の腕だ。

 

血に染まった腕をみて、後ろを振り返る。

 

倒したはずのラルクが立っていた。

 

「なん・・・・で」

 

――動いている!?

 

ギャレンが動揺していると亀裂の入っているラルクの仮面の中が見えた。

 

「なっ!?」

 

白い骸骨のような顔に一つ目。

 

トライアルBがラルクの正体だった。

 

血まみれの手を引き抜いて、ギャレンを投げ飛ばす。

 

投げ飛ばされたギャレンは仮面の中で吐血しながらふらふらと起き上がりギャレンラウザーを構えようとする。

 

だが、トライアルBはラルクラウザーを構えて、ギャレンに攻撃する。

 

いくつもの光矢を受けてギャレンラウザーを地面に落としてしまう。

 

『マイティ』

 

ラルクラウザーにカードをラウズする。

 

レイバレットがギャレンの体を貫いた。

 

「・・・・ぐ・・・・か・・・・え・・・・る・・・・」

 

口からさらに吐血、

 

変身が解除されて、弾は地面に崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブレイドが抜けると、そこには紅椿を纏った篠ノ之箒が待ち構えていた。

 

「箒!」

 

瞬時加速を使い、箒は間合いを詰める。

 

空裂をブレイラウザーで受け止めた。

 

刃同士がぶつかる。

 

「箒ぃ!」

 

「無駄だよ。いっくん」

 

押し戻してブレイドは距離を置く。

 

室内に束の声が木霊する。

 

「束・・・・さん!」

 

「箒ちゃんを元に戻したかったら紅椿を倒すしか方法はないよ?そうしないと戻せないように設定してる」

 

「くそっ!」

 

悪態をつき、接近する箒から距離をとり続ける。

 

ブレイドの力だけでは紅椿を倒す事なんて不可能だ。

 

ISを倒すにはISしかない。

 

変身を解除して、一夏は白式を纏う。

 

雪片弐型を構えて、接近してくる紅椿とぶつかる。

 

相手が二刀流なのに対してこっちは刀一本。

 

紅椿の性能は白式より上だといえる。

 

そんな箒に勝てるか?という疑問が浮き上がった。

 

「(考えるのは後回しだ!箒を助ける。それだけを考えろ!!)」

 

雪片弐型を構えて瞬時加速で箒に間合いを詰めようとすると展開装甲が襲い掛かってくる。

 

迫る刃を避けながら紅椿の間合いに入り込む。

 

「っ!」

 

入った途端、神速と錯覚するほどの雨月と空裂が繰りだされた。雪片弐型の刃で受け止めるが、一撃を貰い、白式の翼に傷が入る。

 

「ぐっ(強い!)」

 

箒の強さに一夏は舌を巻いた。

 

何度もIS学園で模擬戦をしてきて、箒の強さはわかっていたつもりだった。

 

だが、今戦っている箒は学園で戦った彼女とは別人のような強さを持っていた。

 

雪片弐型を振るえば、受け流され、片方の刃で反撃され、雨月を受け流したら空裂が襲い掛かる。

 

別人のような動きに一夏は苦戦していた。

 

「(どうする?雪羅でも使うか?でも、アレを使えばエネルギーが残り少なくなってしまう)」

 

思考の海に沈んだ隙をつくように瞬時加速を使って、箒が攻め込む。

 

「(しまった!・・・・避けられ)」

 

刃が当たり、白式を纏った一夏は地面に叩きつけられる。

 

倒れた一夏に箒は足を乗せて地面に押し付けた。

 

起き上がろうとする一夏へ無情にも刃を叩きつける。

 

白式のシールドエネルギーが減っていく中、打開できる手段を一夏は考えた。

 

零落白夜、雪片弐型、雪羅。

 

これらを使えば箒を倒せるだろう。

 

だが――。

 

奥の手を使うことに一夏は抵抗がある。

 

一撃必殺を使うことに何故か、抵抗感があるのだ。

 

悩んでいる一夏の頬に水滴が落ちた。

 

「・・・・ぇ?」

 

目を動かして、落ちてきた方を見る。

 

「・・・・箒」

 

情け容赦なく攻撃をしている箒の瞳から涙が零れていた。

 

表情に変化はない。

 

泣いている。

 

だが、涙は流れている。

 

それを見た、一夏の中で何かが燃えた。

 

「うぉぉぉぉおおおおおおおおおお!」

 

何かを形にするように叫んだ一夏は雪羅を使って振り下ろそうとしていた雨月を弾き飛ばす。

 

色々と考えるのは後にする。

 

とにかく、動く!

 

――幼馴染が、大切な仲間が泣いているんだ。

 

――メリットは後に考える!

 

雪片弐型を紅椿に振るい、距離を置いて、一夏は白式を解除する。

 

「箒・・・・すぐに助けてやるからな」

 

ブレイバックルを装着して、一夏は腕のブレスレットへ視線を向けた。

 

「(原理はわかっていない。うまくいく保証もない。でも・・・・俺は箒を助けたいんだ。泣いているアイツを救う為に力が必要なんだ・・・・だから)」

 

ターンアップハンドルを引いてオリハルコンエレメントを潜り抜ける。

 

「俺の気持ち(おもい)に応えてくれ、白式ぃ!」

 

ブレイドへ変身すると同時に背中、各部に白式の装甲を纏い、紅椿とぶつかり合う。

 

落ちた雨月を回収して振るわれる二刀流とブレイラウザーと雪片弐型の二刀流の剣戟がぶつかる。

 

シールドエネルギーが残り僅かしかないはずの白式は不利、になると思えた。だが、現実は違う。

 

紅椿を圧倒していた。

 

紅椿がソードエネルギーを使おうとするのをみて、ブレイラウザーのオープントレイを展開しプライムベスタをラウズし強力な攻撃を叩き込む。

 

『キック』

 

『サンダー』

 

『ライトニングブラスト』

 

雷撃を纏ったキックが紅椿の展開装甲を破壊する。

 

「そこだぁ!」

 

雪片弐型をレーザー刀へと変形させて、紅椿に振るう。

 

「戻れ!箒いぃ!」

 

レーザー刀が紅椿のシールドエネルギーを刈り取り、0になる。

 

白式のエネルギーも0になり、白式が解除された。

 

「箒――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

篠ノ之箒は真っ暗な闇の中にいた。

 

アリーナで訓練に励んでいた時に歌のようなものが聞こえたのだ。

 

誰かが音楽でも流しているのかと視線を動かすが誰もそんなことをしていない。

 

――では、なんなのか?

 

視線を動かしていると、それは紅椿の中から聞こえている事に気づいた箒はシステムを操作して原因を探ろうとした。

 

そして、ある項目が箒の前に表示された。

 

『子守唄』と現れたそれを見た箒は突如、闇の中に消える。

 

それから、ずっと闇の中にいた。

 

どれだけ声を枯らそうと。

 

駄々をこねる子どもみたいに暴れてみても。その闇から脱出する事はできなかった。

 

闇といっても、体の所在が確認できなくなるほど暗いわけではない。

 

自分の存在だけを認識できる事が苦痛だった。

 

闇の世界に一人だけ、

 

箒は独りぼっちでいることが苦痛だった。

 

ISが普及され、家族と引き離されて独りでの生活。

 

各地を転々と移動していたために心許せる友達もできない。

 

――孤独。

 

理解者もいない、心休める場所もない。

 

人間にとって孤独と休める場所がないということは苦痛でしかなかった。

 

そんな箒にとって唯一の救済といえたのが幼馴染の一夏達との思い出。

 

バカみたいに明るくて優しい一夏。

 

悪人みたいな笑みを浮かべながら自分達をからかう始。

 

そんな二人と一緒の、短い間の記憶が箒を孤独から救い、唯一の繋がりと言える剣道に打ち込んだ。

 

しばらくして、一夏がISを動かした事がわかり、箒は再会できると喜んだ。

 

それからの時間は苦もあれば楽しい時間の方が多かった。

 

一夏と始だけだったのに、IS学園にて心許せる友達ができる。

 

セシリア。

 

鈴音。

 

ラウラ、

 

簪、

 

シャルロット、

 

彼女達と触れて、幸せだと箒は思った。

 

だからこそ、余計にこの闇の世界で孤独なのが箒の心を蝕んでいた。

 

「誰も・・・・いない」

 

――また、独りぼっち。

 

闇の世界は、幼馴染も、友達もいない。

 

昔よりも孤独に怖れた。

 

「一夏・・・・」

 

箒が呟いたのは幼馴染であり、愛しい人。

 

いつから愛しいと思えるようになったのかわからない。

 

自覚したのは小学生の頃、その想いがより深くなったのは始とのゴタゴタが終わった後だ。

 

小学生の頃よりも再会した一夏は強くなっていた。

 

心も、技も、強くなっていた。

 

「助けてくれ・・・・」

 

言葉にしてしまったから余計に孤独が、目の前の闇に震えて体を縮こめる。

 

涙が零れる。箒にとって涙を流す事は負けだと思って、どんなことがあっても泣かなかった。

 

けれど、箒の心は限界だった。

 

――怖い。

 

――独りは嫌だ。

 

――もうあんなの味わいたくない。

 

抱きしめて丸まった箒の前に光がさした。

 

とても暖かい。

 

箒は顔を上げる。

 

白い光が闇を消し去っていく。

 

その先に、いる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――篠ノ之箒が目を開けると、体から血を流して鎌の刃に貫かれている一夏と歪んだ笑みを浮かべている篠ノ之束の姿がそこにあった。

 

 

「一夏ぁぁぁぁ!」

 

「ん、目が覚めたのか」

 

箒の悲鳴に気づいた束は白い鎌から一夏を引き抜くと地面に投げ捨てる。

 

音を立てて地面に倒れる一夏の体から血が広がった。

 

箒は疲労も忘れて駆け寄り、一夏の体を揺らす。

 

「一夏!一夏、しっかりしてくれ、おい!」

 

「無駄だ。心臓を貫いたから少ししたら死ぬだろう。ISのシールドエネルギーもないから白騎士の治癒システムが起動することもない」

 

「なんで、なんでこんなことを!姉さん!」

 

「・・・・そういえば、まだこのままだったな」

 

束が笑うと周囲に霧が漂い始める。

 

突然の霧に箒が戸惑っていると、どさりと音を立てて束が地面に倒れた。

 

倒れた束の場所に蜃気楼のようにゆらゆらと揺れている白い異形が立っている。

 

「誰だ・・・・お前は!なんで、姉さんの体から」

 

突然の事に箒は動揺して声が出ない。

 

『少し長い話になるが・・・・まぁ、作業をしながらでいいか』

 

異形は一夏から奪い取ったカテゴリーKを機械に設置する。

 

設置した機械が稼動するのを確認しながらくぐもった声をだす。

 

『さて、どうして、俺がなんなのか・・・・、それは数年前の話しにある』

 

最強の力を手に入れた異形は次の瞬間には体を失った。

 

辛うじて残っていたのは頭だけ。

 

不死身ゆえに死ぬ事はない。

 

だが、このままでは死んだも同然といえる。

 

その中で異形は近くの人間に憑依することに成功した。

 

憑依した体は偶然にも人間とは思えないほどの頭脳を持っていた。

 

コイツを使えば肉体を取り戻せると考えた異形は様々な計画を練り始める。

 

肉体を取り戻すためにはもう一度、バトルファイトを行わないといけない。あの力を起動させるにはそれしかないのだ。

 

計画を練る過程で異形は統制者と遭遇する。

 

統制者は異形に賛同して計画を協力した。

 

統制者という後ろ盾を得た異形の計画はとんとん拍子に進んだ。その中で異形は密かに統制者の意思を排除し力を掌握する事に重点を置いた。

 

計画に同意した統制者と唯一意見が食い違ったものがある。

 

“ライダー”という存在だ。

 

統制者はライダーを加入させる事を望んだ。異形はライダーの加入を拒んだ。

 

失われたジョーカーの力を人間の間に流出させて、統制者は新たなジョーカーを誕生させるきっかけを作っていた。

 

この意見の食い違いから異形は統制者の力だけを手に入れることだけを決めた。

 

異形は統制者にウィルスを仕込んだ。

 

うまくいくかは五分五分だったが、成功した。

 

力だけを手に入れ、疑似統制者となった異形はバトルファイトをはじめる。

 

バトルファイトにおいて、やはり、というべきなのか、ライダーも姿を見せた。

 

その中で、ライダーにファイトを終わらせる事を考え、最後に徹底的に潰すことにする。

 

運が良かったのはライダーが異形を倒した者たちではないということだ、人間は脆い。

 

あの闘いの後遺症でアンデッドの力を使うことが出来なかった。

 

奴らを比べれば今のライダーは弱い。

 

だが、油断は出来ない。異形は体の殆どを失っている。戦えば負けるのは目に見えている。

不利だからこそ、異形は憑依している体を本格的に乗っ取ることにした。

 

憑依していた人間は少し抵抗を見せたが無事に奪い取り、裏で暗躍しはじめる。

 

『そして、計画は成功し、俺は体を取り戻す!』

 

機械が作動して四枚のカテゴリーKから放たれるエネルギーが異形に集っていく。

 

エネルギーがおさまるとそこにはジョーカーが立っていた。

 

ただ、前に箒がみたジョーカーとは大きく異なる。

 

始がなったジョーカーを剛と例えるなら目の前の白いジョーカーは柔。

 

緑の部分が赤紫に近い色など差異がある。

 

ジョーカー、アルビノジョーカーは自分の体を触り不敵に笑う。

 

「体を取り戻した・・・・この世界の終わりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界は終わる。




最終回予告


あの人のようになりたいと思った。

誰かを守る為の力を望んだ。

友を助けたいと思った。

誰かの為に戦い続けると誓った。

そして、俺は――。







最終章 Ⅲ部 仮面ライダーブレイド




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