弾は治療室で眠っている妹の姿を見ながら自問していた。
「(どうすれば、奴らに勝てる?)」
少し前、広瀬と一夏達の会話を隠れて聞いた弾は頭の中で考えていることがあった。
トライアルシリーズ。
倒すにはジャックフォーム以上、キングフォームの力が必要になってくる。
その会話を聞いて、弾の頭の中では仮想敵との戦いのイメージが繰り返されている。
ギャレンの使える技、プライムベスタのコンボ、そしてジャックフォーム、ジャックフォームからのコンボ技。
「(ダメだ!)」
仮想敵との戦いを何度繰り返しても、弾は決定打を見出せない。
そもそも過去の戦いにおいて、師である橘はジャックフォーム以外を使っていない。使う機会がなかったということもあるけれど、ジャックフォーム以上の力を用いておらず、自身の射撃の腕と冷静な判断で戦っていることが多いのだ。
「・・・・あれを考える必要がある」
弾の手元にない封印された一枚のカードの存在を思い出しながら険しい表情を浮かべた。
「(アレを使えばトライアルを倒す事が出来る・・・・でも)」
大きな力には大きな代償が伴う。
キングフォームを扱えている一夏も体に異変をきたしている可能性がある。簪もジャックフォームを使ったことで何かが起こっているかもしれない。
――それがどうした?
そんな中で自分まで未使用の力を使うなど、と冷静に考えている弾の頭にどす黒い感情の声が響く。
――妹や家族が傷つけられたんだぞ?奴らに戦うにはあの力が必要だ。
――仲間の心配をしている間も妹は苦しんでいるんだぜ。
――力は使ってこそ意味がある。躊躇うなよ。
――家族(みんな)を守れるのは俺だけ、なんだぜ?
「っ!」
ポケットにしまっていたアンデッドサーチャーが起動したことで弾は立ち上がる。
「・・・・いってくる」
眠っている妹の顔を見て、弾は治療室から離れた。
「アイツ!」
「あの時の!」
一夏と簪が現場に駆けつけると、トライアルDはコードを伸ばして襲い掛かってくる。
二人は左右に避けるとブレイド、レンゲルに変身してトライアルDに接近した。
ブレイドのブレイラウザーを受け止めたところで、レンゲルラウザーが繰り出されて、トライアルDは仰け反る。
「グ・・・・ウゥ!」
くぐもった声をだしながらトライアルDは数歩下がる。
追撃しようと二人が近づいた所で、トライアルDの両腕にサブマシンガンが現れ、放たれた。
無数の弾丸をアーマーに受けた二人は後ろに下がりながらも武器を構える。
「コイツ、武器を持っているのか!?」
「でも・・・・さっきまでそんな動きみせなかった」
二人はトライアルDの動きに警戒しながら会話をした。
トライアルDは首をかしげるような動きをして、マシンガンのトリガーを引く。
ブレイドが前に走り、続く形でレンゲルが後ろについた。
飛来する弾丸をブレイラウザーで受け流しつつ、体に受けながらブレイドの猛進は止まらない。
トライアルDはその間もマシンガンの発砲を続ける。
ブレイドがぴたりと動きを止めた。
その動きにトライアルDが首をかしげているとブレイドを踏み台にするように空高くジャンプするレンゲルの姿を捉える。
トライアルDは慌ててマシンガンの銃口を向けようとする。
『マッハ』
自らの脚力を上げたブレイドはトライアルDに肉迫しサブマシンガンの先端をブレイラウザーで斬りおとす。
『バイト』
『ブリザード』
『ブリザードクラッシュ』
上空でレンゲルはプライムベスタの力を解放する。
レンゲルから放たれた冷気がトライアルDの体を封じ込めた。
ブリザードクラッシュが放たれようとした瞬間、衝撃を受けてレンゲルは地面に落下する。
「簪!?」
「・・・・だ、大丈夫・・・・でも、なにが」
乱入者を見た二人は絶句した。
トライアルDを守るようにして立っていたのは彼らの予想を裏切る存在だったからだ。
「け、剣崎さん!?」
ブレイドの目の前、そこには剣崎一真が無表情で立ちはだかっていた。
彼はトライアルDに視線を向けてから、二人を見る。
「剣崎さん!なんでそいつらを」
「待って・・・・」
戸惑うブレイドに待ったをかけて、レンゲル―簪は目の前の剣崎に違和感を覚えた。
それは確定できるものではなかったけれど、おかしいという気持ちが簪の中で起きている。
剣崎の視線は二人に向けられていない。
向けられているのは一夏の腰に装着されているブレイバックルだ。
「・・・・」
剣崎の手がブレイバックルに伸びた瞬間、眩い光が掌から放たれる。
光がブレイバックルに当たり、しばらくすると消えた。
「え!?」
「ウソ・・・・!」
そして、剣崎の前にはもう一つのブレイバックル、そしてスペードスートのカテゴリーAのプライムベスタが現れる。
「変身」
カテゴリーAのプライムベスタをブレイバックルに入れて、剣崎はターンアップハンドルを引く。
呆然としているブレイドとレンゲルの前にオリハルコンエレメントが現れて、二人を弾き飛ばす。
剣崎はオリハルコンエレメントを潜り抜けてブレイドへと変身した。
「そんな・・・・バックルはちゃんとあるのに!?」
「どうして!」
戸惑っている二人にブレイド(剣崎)はブレイラウザーを抜いて襲い掛かる。
レンゲルが振るわれたブレイラウザーの攻撃を受けてしまい、庇うようにブレイド(一夏)が前に出た。
「何やっているんですか!?剣崎さん!」
ブレイド(一夏)の叫びにブレイド(剣崎)は応えずブレイラウザーを振るう。
振るわれた刃を避けながらブレイド(一夏)は叫ぶ。
「やめてください!剣崎さん!」
拳を受けて地面に倒れたブレイド(一夏)にブレイド(剣崎)は刃をつきたてようとする。
瞬間、蜘蛛の糸がとんできて、ブレイド(剣崎)の体をがんじがらめに拘束した。
「一夏君!」
動きを封じたブレイド(剣崎)を突き飛ばして現れたのは嶋が姿を見せる。
「彼は剣崎君じゃない!彼の姿をしたトライアルだ!」
「え!?」
動揺しているとトライアルDがコードを嶋に向けて放つ。
嶋はアンデッドの姿に戻ろうとしたがレッドランバスに乗った弾がトライアルDを引き飛ばす。
「すまん、遅くなった!」
ヘルメットを置いて弾は転がっているトライアルDを睨む。
ギャレンバックルを装着する。
「変身!」
ギャレンへと変身して起き上がったトライアルDとブレイド(一夏)にギャレンラウザーを撃つ。
「いってぇ!?弾!俺!一夏だから!敵はあっち!」
「・・・・あ、すまん」
片手をあげて謝罪してギャレンはレンゲルへ近づく。
「簪、あのカードを渡してくれ」
「・・・・あ、はい」
突然の事にレンゲルはつい、ギャレンへ一枚のラウズカードを渡してしまう。
「サンキュ」
ギャレンはラウズアブゾーバーに二枚ラウズする。
『アブゾーブ・クィーン』
「っ!いけない、やめるんだ!」
嶋が気づいて止めようとするが間に合わない。
『エボリューション・キング』
「ぐっ・・・・がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
カテゴリーKのプライムベスタをラウズした瞬間、異変は起きた。
ギャレンの体を緑色の電撃がかけめぐり、しばらくしてゆらりとギャレンが顔を上げる。
だが、キングフォームへはなっていない。
ブレイド(一夏)とレンゲルが警戒しているとトライアルDに殴りかかる。
殴られたトライアルDは地面に体を打ちつけた。
追い討ちをかけるようにギャレンはその顔を踏みつける。
何度も、何度も、地面が陥没するまでギャレンは踏み続けた。
「いけない、すぐに彼を止めるんだ!」
嶋の言葉にギャレンの顔が動いて二人を見る。
ギャレンの目、緑色の複眼はおそろしい輝きを放っていた。
ブレイドとレンゲルの二人は本能的に恐ろしいと感じてしまう。
二人を敵と認識したのか、ギャレンはトライアルDを放置して攻撃してくる。
「やめろ!弾!」
ブレイド(一夏)がブレイラウザーでギャレンラウザーの光弾を弾き飛ばして殴りかかってくる拳から逃げる。
味方を攻撃できないブレイドに対して、ギャレンは躊躇いもなく、ブレイラウザーを奪い取るとその武器で仲間を切った。
躊躇いもなく仲間に斬りかかったということにブレイドはショックを受ける。
「だ・・・・弾・・・・」
「彼はカテゴリーKに操られている。強制的に変身を解除させないと、彼の体がもたない!」
「でも!」
仲間を攻撃する、ということに二人は躊躇い、隙が生まれる。
ギャレンラウザーから光弾が放たれ、次々と襲い掛かった。
弾丸の雨を受けて倒れる二人。
「――ちゃん」
二人に止めを刺そうとギャレンラウザーを構えて近づいて行く途中、声が身に届く。
ギャレンが声の方へ視線を向けると、地面に倒れている男の子の体を揺らしている女の子がいた。
「お兄ちゃん・・・・・起きて、おきてよぉ・・・・」
倒れている男の子は頭を打ったのか動かない。
「ふぇぇえええええん!」
動かない兄の体をゆすっていた女の子はぽろぽろ、と涙を零し始める。
「ぐ・・・・」
泣いている女の子を見ていたギャレンは頭を抑えて苦しみだす。
苦しみだしたギャレンの腕に装備されているラウズアブゾーバーから緑色の電撃が走る。
くぐもった声をあげて地面に座り込むと、オリハルコンエレメントが現れギャレンから弾へと戻った。
「・・・・戻った?」
「弾!」
変身を解除した一夏と簪が座り込んでいる弾へ近づいた。
「弾!大丈夫か!?おい!」
「・・・・」
一夏が弾の肩を揺らした途端、糸の切れた人形のように地面に倒れる。
「お、おい!?」
「いかん、すぐに病院へつれていくんだ」
「はい!」
「手伝う」
嶋は地面に落ちたラウズアブゾーバーとギャレンバックルを手にとって難しい表情を浮かべる。
「(封印は完璧、問題なのは弾君の方か・・・・)」
カテゴリーKの封印は嶋からみても完璧だった。
だが、ギャレンが暴走したのは弾の心が不安定からくるものだろう。
アンデッドと融合することにおいては適合係数も重要だが、カテゴリーKと融合することにおいては装着者の精神の強さも重要になってくる。
妹が襲撃を受けたことで不安定のまま、キングフォームになろうとした彼の心はアンデッドの闘争心に飲まれて暴走した。
「(全ては弾君次第ということか・・・・)彼らだけに苦しい思いをさせるつもりはない」
「どういう状況なの!?」
「富樫さん!教えてください」
「一夏は無事なのか!?」
「教えてくれ!」
IS学園の入口、富樫始達が戻ってくると待っていたように箒達が詰め寄ってくる。
最初に始が戻ってきた事に喜んでいたが、一夏がいないことに気づくとこうなったのであった。
恋する乙女というのは凄まじいものだと始は思う。
「落ち着け、馬鹿者共」
「あう!」
「きゃっ!」
「ぐっ!」
「むぅ!」
そんな四人を千冬は出席簿アタックで無力化させる。
「それで、富樫。状況はどうなっている?」
「はっきりいって最悪なことには変わりないですね」
始はうんざりした表情で告げた。
トライアルの出現、
奴らの狙いは自分達の関係者であるということ、
「そういうわけだ。篠ノ之たちは学園で待機、不審者を見かけたらすぐに知らせろ。非常時での場合はISでの応戦を許可する」
「織斑先生!一夏のところへいかせてください!」
「ダメだ」
「何故ですの!」
「お前たちもターゲットに入っているというのに織斑の所に行かせて余計な負担となったらどうする・・・・それに、狙われている相手を分散させればさせるほど、そっちの危険が増す」
「でも!」
「富樫がここにいる意味を考えろ」
「意味・・・・?」
「・・・・そうか、富樫始がトライアルと戦える戦力でありここにいれば少なくとも嫁は私達の心配をする必要がない」
千冬は大きく頷いた。
始が戻ってきたのは一夏達の関係者が多く集っているのがIS学園だからという一番の理由があったからだ。
トライアルの狙いは52枚のプライムベスタ、それを回収する為なら関係者を狙うというのなら一箇所に集めて、被害がおきにくいようにすればいい。
「(危険でもあるがな)」
始は空を見上げる。
分厚い雲が空を覆っていた。
「(嫌な天気だ)」
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