仮面ライダー剣―Missing:IS   作:断空我

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第三十六話

「なんだよ・・・・これ」

 

全員が驚きに顔を染めて目の前の建物を見ている。

 

黒い煙を上げて、ところどころに炎がまだ残っていた。

 

目を見開いて、全員が言葉を失っている。

 

ギラファアンデッドを倒し、一段落が着いたみんなは食事でもとろうと考えて弾の実家である五反田食堂にやってきた、だが、五反田食堂は半壊していた。

 

「じ、爺ちゃん!母さん!蘭!?」

 

「弾!」

 

震えた声で弾は建物の中に向かう。

 

少し遅れて一夏も追いかける。

 

「・・・・ん」

 

始も中に向かおうとしたが動きを止める。

 

簪も同じ方を見ていた。

 

「出て来いよ。みているのはわかってるぞ」

 

「始?」

 

「お姉ちゃん、シャルロットは離れていて」

 

「うん」

 

二人が警戒しているとゆっくりと、異形が姿を見せる。

 

現れた怪物に始は戸惑いの表情を浮かべた。

 

「(なんだこいつ?アンデッドに近い感覚がするが・・・・アンデッドではない)」

 

考えていると、目の前の怪物は体のコードを振り回す。

 

二人は左右に攻撃を避けるとプライムベスタを取り出す。

 

「敵意アリだな・・・・こいつが主犯かもしれないな」

 

「・・・・許さない」

 

『チェンジ』

 

『オープン・アップ』

 

カリスとレンゲルに変身した二人はそれぞれの武器を構える。

 

異形はコードを放つが、レンゲルとカリスは同時に前に飛び出し、ソードボウとレンゲルラウザーの二つで同時に攻撃を繰り出した。

 

同時攻撃を受けた異形はくぐもった声をあげながらもコードを振るう。

 

「単調な攻撃だな」

 

『チョップ』

 

「これで決めます!」

 

『スクリュー』

 

『ラッシュ』

 

『スクリューラッシュ』

 

ダブルライダーの同時攻撃を受けた異形は爆発を起こして地面に倒れこむ。

 

倒れた異形の腰部分が音を立てて開く。

 

「・・・・封印してみるか」

 

カリスがプロバーブランクを投げる。

 

プロバーブランクは異形の腰部分にあたる、今までどおりならプロバーブランクに吸い込まれてプライムベスタとなるはず。

 

だが、二人の目の前でプロバーブランクが吸い込まれてしまう。

 

プロバーブランクを吸い込んだ異形はゆらりと起き上がる。

 

「なに!」

 

「・・・・封印できない?」

 

ふらふらと起き上がった異形はコードを振るう。

 

さきほどよりも威力を増した攻撃を二人は避けられず体に火花を起こして地面に倒れる。

 

「始!?」

 

「簪ちゃん!」

 

「ソコマデダ・・・・トライアルD」

 

「アァ・・・・ァ」

 

二人が戦っていた異形とは別の異形が姿を見せる。

 

「トライアル・・・・だと?」

 

「今の声、橘さん・・・・だった」

 

「カリス、レンゲル・・・・コレハケイコクダ」

 

現れた異形は橘の声で警告、だという。

 

「コレイジョウ、オマエタチノナカマガキズツイテホシクナケレバ、モッテイルアンデッドノプライムベスタヲホウキシロ・・・・サモナケレバ、サラニキズツクヒトタチガデルダロウ」

 

「なんで・・・・なんで!」

 

レンゲルが目の前の怪物に叫ぶ。

 

簪は叫びたかった。

 

どうして直接、自分達を狙わず周りの人を傷つけるというのだろうか。

 

そんな酷いことができるのか、と叫びたかった。

 

「ケイコクハシタ。イクゾ」

 

橘の声をした異形はいいたいことだけをいうと、アームガンを地面に発砲する。

 

カリスとレンゲルは二人を守るように構えた、しばらくして土煙が消えるとそこに二体の異形の姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸い、にも五反田家の人達は無事だった。

 

擦り傷や打撲などの軽傷がほとんど。

 

だが、一人だけ、意識を失っている者がいた。

 

「・・・・蘭」

 

集中治療室で眠ったままの妹の姿を見て弾は顔をしかめる。

 

――悔しい。

 

拳を握り締めて弾は思う。

 

守れる力を持っているのに、何も出来ない事がとても歯がゆかった。

 

「(兄貴は妹を守らないといけない・・・・でも、俺は!!)」

 

何も出来ない。

 

なにより、妹を守れなかった事が許せない弾は自分を責め続ける。

 

 

「だ・・・・」

 

「やめておけ」

 

弾を慰めようとした一夏を始は止めた。

 

「今のアイツに言葉をかけることはマイナスでしかない・・・・そっとしておいてやれ。それに俺達にはやる事があるはずだ」

 

「でも・・・・」

 

「あのアンデッドもどきは封印する事ができない・・・・そもそも、アレはなんだ?」

 

「トライアルシリーズよ」

 

「千冬姉・・・・えっと?」

 

「はじめまして、私の名前は広瀬栞、名前ぐらい聞いたことあると思うけれど、BOARDの関係者で協力者の一人よ」

 

待合室に千冬と一緒にやってきた女性は一歩前に出る。

 

「あ、織斑一夏です」

 

「富樫始です・・・・それで、トライアルシリーズというのは?」

 

「・・・・あれはアンデッドの細胞の一部を用いて作られた人造生命体よ。橘さんが立ち上げる前のBOARDの連中が作り上げた。彼らはライダーシステムで封印する事はできない。しかも、ライダーの攻撃を食らわせても少ししたら復活する」

 

「アンデッドより性質が・・・・悪い」

 

簪が小さくうめく。

 

アンデッドは不死身だが、ライダーシステムにより封印する事ができる。

 

だが、広瀬の言葉どおりだというのならトライアルはアンデッドよりも厄介すぎた。

 

「対策はないんですか!広瀬さん!」

 

「あるわ・・・・」

 

「本当ですか!?それは」

 

「その前に!」

 

一夏の声を遮って広瀬は真っ直ぐに見つめる。

 

「織斑君と簪ちゃん、富樫君の三人はすぐに検査を受けて」

 

「え、検査?」

 

「話はその後!」

 

「俺はパス」

 

広瀬の言葉に戸惑う一夏達とは別に始は手を振って外に出て行こうとした。

 

「待て、富樫」

 

出て行こうとした始を千冬は呼び止める。

 

「・・・・なんですか?」

 

「そろそろ、一夏達にも話してやったらどうだ?お前の体の事を」

 

「え?」

 

「どういう・・・・」

 

「なんのことっすか?俺は検査が嫌いなだけで」

 

「富樫始・・・・お前、人間ではないだろう」

 

千冬の言葉に全員が固まる。

 

いや、広瀬は知っていたのかただ、目をそらす。

 

「・・・・そんなん、ジョーカーになった時から」

 

「・・・・お前は何年生きていられる?」

 

始は堅い表情をつくると、ため息を漏らす。

 

「いつから、気づいていたんですか?」

 

「確証はない。ただ、検査の時におかしな数値がでていると山田先生が教えてくれたのと橘さんから教えてもらっていた」

 

「何年生きられるかに関してははっきりいうとわかりませんよ」

 

「どういうことだよ・・・?」

 

「一夏、前に話しただろう?誘拐され体に色々されたって、以前から俺の体はボロボロで、何時死んでもおかしくない状態だ。十三体のアンデッドと融合し、銀の福音の力によって、辛うじて人間で、命を繋いでいる状態だ。だが、いつかは死ぬ。それが明日なのか十年後なのかはわからない・・・・とにかく、お前たちよりは長生きできないっていうのは確かだ」

 

「どうして・・・・どうして、黙っていた!!」

 

一夏は声を震わせて始に叫ぶ。

 

胸倉を掴んで一夏は尋ねる。

 

「言った所で、お前達を不安にさせるだけだ。それに・・・・実を言うと、俺は夏に死んでいるはずだったんだよ・・・・ジョーカーの因子、体に埋め込まれて、細胞のほとんどがいつ壊死してもおかしくはない状態だった。今も生きていられるのは奇蹟なほどにな」

 

「・・・・始」

 

「このこと・・・・おねえちゃんやシャルロットさんは?」

 

「二人ともおおよそ、見当はついているみたいだ。ま、この先については覚悟しているしどうこういわれてもかわらないんだ。検査を受けたとしてもな」

 

始は広瀬と千冬を見る。

 

「だから、検査はパスだ。的確な検査でアンタは何年後死にますなんて判定くだされたらたまらないし、俺は自由気ままに生きたいの、オーケー?」

 

「・・・・わかったわ・・・・とにかく、織斑君と簪ちゃんは今すぐ検査を受けて!」

 

「なんで・・・・私達?」

 

「織斑君は剣崎君と同じキングフォーム、簪ちゃんは睦月君が使わなかったジャックフォームの使用・・・・全盛期の彼らよりも融合係数が高い、貴方達の体に今回の戦いがどのような影響を及ぼしているかわからない・・・・だから、今すぐ検査を受けて」

 

「わかったら、さっさといくぞ。逆らえば広瀬さんに教えてもらった鉄拳制裁だ」

 

「え、わ、わかったから千冬姉、肩引っ張らないで!てか、鉄拳って、何故!?」

 

「ま、待って!」

 

二人を抱えるようにして千冬は出て行く。

 

始もいつの間にか姿を消している。

 

広瀬は誰もいなくなってから小さく呟いた。

 

「誰がトライアルを作ったかわからないけれど・・・・こんな勝手な事、許さない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園へ向かう一本道、そこをトライアルシリーズの一体、トライアルFが歩んでいた。

 

彼の頭には襲撃する標的、篠ノ之箒、セシリア・オルコット、凰鈴音、ラウラ・ボーデヴィッヒ、布仏本音、布仏虚、山田真耶などのリストが表示されている。

 

「・・・・」

 

トライアルFの道を阻むように市販のバイクに乗った富樫始が待っていた。

 

あの後、アンデッドの力を少し引き出して、感知能力を引き上げ“アンデッドに近い”存在を探し出していたのだ。

 

「悪いが」

 

プライムベスタを取り出して始は睨む。

 

「ここから先へはいかせられないな。あいつらを傷つけて織斑のヤツが暴走された困るし、俺もすこーし、虫の居所が悪いんだわ」

 

『チェンジ』

 

変身に連動してバイクが漆黒のシャドーチェイサーへと変わる。

 

バイクのアクセルを回しながらカリスはトライアルFを威嚇した。

 

「・・・・」

 

トライアルFの前に粒子変換されたバイクが現れる。

 

黒いバイクに跨りトライアルFはカリスを見た。

 

二人は同時に動いた。

 

先に動いたのはトライアルF、腕の三枚刃でカリスに攻撃を仕掛ける。それに対してカリスアローのソードボウを振るっていなす。

 

地面に着地すると同時にエネルギーアローを放つ。

 

トライアルFは飛んできたアローを三枚刃で叩き潰す。

 

アクセルを回して両者のバイクは併走して進む。

 

ほんの少し、トライアルFのバイクが速い。

 

カリスは知らなかったがトライアルFの乗っているバイクはかつてBOARDで設計されたブルースペイダー、レッドランバスのデータを基に作られた最速のバイク、ブラックファング。

 

ブラックファングの速度に舌を巻きながらもカリスはシャドーチェイサーの速度を上げて無理やり併走させる。

 

三枚刃とソードボウが互いにぶつかりあう。

 

片手で操作しながらも速度が衰えないまま二人はぶつかり合っていた。

 

ハンドルを握っている手を離してトライアルFは腕からレーザーを放とうとする、瞬間。

 

ブラックファングの進行上の地面が爆発してトライアルFはバイクから体を放り投げる。

 

「「ダーリン!いまだよ!」」

 

「誰が、ダーリンだ!」

 

援護してくれた二人に感謝しつつ、カリスはプライムベスタをカリスラウザーにラウズする。

 

『エボリューション』

 

十三体のアンデッドと融合してワイルドカリスへと姿を変えて、ワイルドスラッシャーで間合いを詰めてトライアルFに連続攻撃を仕掛けた。

 

連続攻撃にトライアルFは体から火花を散らして仰け反る。

 

腕からレーザーを放とうとするがそれよりも早くワイルドスラッシャーが両腕を斬りおとす。

 

「このまま倒してやるよ」

 

ワイルドスラッシャーをカリスアローに合体させ、十三枚のプライムベスタが合体したカードを読み取らせる。

 

『ワイルド』

 

「食らえ」

 

ワイルドサイクロンがトライアルFに放たれた。

 

光の濁流から逃れられず大爆発を起こす。

 

爆煙がしばらく漂う中、槍が飛んでくる。

 

「っ!」

 

ワイルドカリスはその槍を避けた。

 

「・・・・」

 

煙を裂くようにしてトライアルFとは別のトライアルが姿を見せ、地面に刺さった槍を引き抜く。

 

両者はしばらくにらみ合いをしていたが、乱入してきたトライアルは踵を返していなくなる。

 

「・・・・逃げられたか」

 

新たなトライアルが姿を消したのを確認して、ワイルドカリスは変身を解除する。

 

「大丈夫、始?」

 

「あぁ、援護サンキューな」

 

「ずるい!シャルロットちゃんだけにいうの!?」

 

「・・・・助かったよ。楯無」

 

始が言うと二人の少女は頬を赤らめる。

 

「・・・・言ってすぐにIS学園を攻めようとするなんて驚いたよ」

 

「気をつけないと学生に被害がでるかもしれない」

 

「それだけじゃねぇよ」

 

始は忌々しいと顔を歪めながらトライアルのいた場所を睨む。

 

「あいつらはプライムベスタ全てを手に入れるためなら手段を選ばない。その気になれば俺達と関係のない人たちを傷つける事も厭わない可能性がある。残念な事に俺意外の面子はそうなると我を忘れる奴らばかりだからなぁ・・・・これは結構パンチが効いている」

 

自分以外、織斑一夏達は人間を守る為にライダーとなっている。

 

そんな彼らの覚悟に泥を投げつけるような行為は今の彼らの精神を追い詰める事この上ないだろう。

 

ただでさえ、先代のライダーがまだ帰ってきていない上に比較的冷静でいないといけない五反田弾が危うい状態だ。

 

「前途多難というか・・・・最悪なこと続きだな」

 

始の言葉どおり、最悪なこと続きだった。

 

そして、別の所でも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐはっ!?」

 

攻撃を受けたブレイドがアーマーから火花を散らして地面に倒れる。

 

「一夏!」

 

「ふん!」

 

倒れたブレイドに気を取られたところをブレイラウザーでレンゲルは攻撃を受けて後ろに仰け反った。

 

ふらつきながらもレンゲルラウザーにプライムベスタをラウズさせようと手を伸ばすが光弾がレンゲルの体に突き刺さる。

 

「がっ・・・・うぅっ!」

 

体からいくつもの火花を散らしてレンゲルは片膝を地面につけた。

 

「やめろ!頼むから!」

 

ブレイドは腕を押さえながらゆっくりと体を起こして叫ぶ。

 

しかし、返事は光弾だった。

 

避けられずブレイドは地面に倒れる。

 

「弾!目を覚ましてくれ!!」

 

黒い煙の中ゆっくりと、禍々しい緑色の瞳を輝かせたギャレンが現れる。

 

 

そして、ギャレンラウザーで発砲した。

 




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