仮面ライダー剣―Missing:IS   作:断空我

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第三十四話

織斑一夏はがむしゃらに竹刀を振るう。

 

それを千冬は冷静に裁く。

 

「動きにムラがありすぎる」

 

繰り出された突きを避けて、一夏の腕に竹刀を振り下ろす。

 

腕が痺れて、竹刀が地面に落ちた。

 

「隙ありだ!」

 

「まだだ!」

 

振り下ろされる刃を一夏は避ける。

 

連続で繰り出される竹刀の刃をぎりぎりのところで避け続ける。

 

だが、それも長くは続かなかった。

 

千冬の繰り出した突きが一夏の喉下に迫る。

 

神がかり的な速度に一夏は避けられず、衝撃を受けた。

 

「うがっ!?」

 

後ろに仰け反りながらも、地面に転がっている竹刀を手に取る。

 

「・・・・まだ、立つか」

 

「当然!俺は、負けない。こんなところで立ち止まるつもりは毛頭ない!」

 

一夏は壁に掛けられている竹刀を蹴り飛ばし、左手に構えた。

 

「二刀流か・・・・できるのか?お前に」

 

「やったことはない・・・・・でも、剣と拳で戦っているんだ。これぐらい、やってみせる!」

 

刀を一本使うのと二本使うのとではその差は大きい。

 

使いこなせればかなりの速さの剣技を会得したといえよう。

 

だが、負担が大きい。

 

鍛えていない人間なら竹刀一本振り回すのがやっと、二本をもてば左右に力を分散するために威力、スピードも半減してしまう。

 

その中で一夏は二刀を構える。

 

地面を蹴って千冬に迫った。

 

彼女は冷静に一夏の繰り出す刃を竹刀で受け流す。

 

「一本で私に勝てないお前が、はじめての二本で勝てるわけがない!」

 

「やってみねぇとわかんないだろ!!」

 

一本目の竹刀を受け流し、二本目の刃とぶつかりあう。

 

「ふん!」

 

思いっきり踏み込まれ、一夏はバランスを崩しそうになるのを堪える。

 

その隙を千冬は逃さず鋭い一撃が迫った。

 

二本の刃を十字に交差させて刃を阻む。

 

「(まだだ!)」

 

一夏の心は折れていない。

 

生身の体でまともに勝ったことのない千冬に二刀流は無理がある。

 

「(速く、速い連撃を!)」

 

千冬の攻撃を最低限の動きで避けつつ、竹刀を繰り出す。

 

彼女は少し目を開きながらも同じように受け流す。

 

だが、さっきよりも剣を振るう速度が互いに上がっていた。

 

「(もっと、もっとだ!もっと速く!)」

 

「(さっきよりも動きが!?)」

 

千冬は大きく竹刀を振り上げる。

 

同じように一夏も竹刀を振り下ろした。

 

バチンと大きな音が響いて二つの竹刀が地面に転がる。

 

「・・・・」

 

「ぷはぁ・・・・!」

 

一夏は残りの竹刀も地面に投げ捨てて後ろに倒れた。

 

「まさか、二刀流を使いこなすとはな・・・・」

 

「ただがむしゃらに振るっていただけなんだけど・・・・これなら、なんとかできるかもしれない」

 

少し休んでから一夏は体を起こす。

 

その目に迷いはない。

 

「・・・・私は教師だ。ここでお前を待つことしかできん。無茶はするなよ。ちゃんと帰って来い。ここはお前の居場所なんだからな」

 

「わかってる。いってくる!」

 

出て行った一夏の背中を見送って千冬はため息を吐く。

 

置いてあった通信端末に連絡が入った。

 

 

 

 

 

視界がぐらついている中で富樫始はゆっくりと意識を覚醒させる。

 

どうやら、数十分ほど意識を失っていたようだ。

 

「(男達は?)」

 

痛む体に影響を与えないように目を開けて周りを見るが拷問していた奴らの姿は見えない。

 

「(なにかうるさいな・・・・訓練でもやってんのか)」

 

鈍痛に顔をしかめながら始はすこし考える。

 

「(そろそろ・・・・いいか)」

 

扉の向こうから靴音が響いているのを聞き取ると始は体を起こす。

 

あっさりと拘束具を解除して、体の自由を取り戻した始が立ち上がるのと、男達が入ってくるのはほぼ、同時だった。

 

「貴様!?」

 

「おっせぇよ」

 

一人が警棒を振り上げるよりも早く、顔面に始の拳が炸裂する。

 

強烈な一撃に男は声をあげる暇もなく沈黙した。

 

もう一人が警棒を振り上げて始の頭を殴る。

 

「ん、なんかした?」

 

「っ!?」

 

男の持っている警棒が折れる。

 

だが、始の体から血が流れる事はない。

 

「一発で済ましてやるから大人しくしろ」

 

瞬殺、男の顔に一発叩き込んで意識を奪い取る。

 

「・・・・人間半分やめると、ここまで頑丈になっちまうもんだな」

 

殴られた箇所を触りながら始は独房の外に視線を向けた。

 

気配はない。

 

「さて、飛行機でも適当に奪取」

 

「動かないで」

 

出ようとした始にナターシャは拳銃を向ける。

 

「おっとぉ・・・・」

 

「貴方、何者なの」

 

「何に見える?」

表情を変えず始は尋ねた。

 

ナターシャは拳銃を構えたまま口を動かす。

 

「人間、にみえるわ」

 

「見えるけれど、中身は化け物っていったら信じるか?」

 

「・・・・私は」

 

「はい、時間切れ」

 

二人の間の壁が壊れて、そこからISが姿を見せる。

 

ナターシャは土煙に視界を奪われてしまう。

 

視界が回復した頃には富樫始の姿はなかった。

 

 

 

 

「それで、なんでお前らはこんなところにいるんだ?」

 

脱出した富樫始は自分を抱えているシャルロットに尋ねた。

 

「えっと・・・・」

 

「どうせ、隣でこっちをみている阿呆に色々いわれて焚きつけられたんだろーが、まさか軍隊に喧嘩売るとは思わなかったぞ。いいのか、国家代表?」

 

「愛の為に私は全てを捨てる覚悟はある!」

 

ため息を吐いて、始は黒い幽霊とミステリアス・レイディを纏っているシャルロットと楯無を睨む。

 

「それにしても、まさか地図にない島に始がいるなんて思わなかったよ!何もされていない?」

 

とある国家が秘密裏に作っている軍事基地。

 

長い歴史の間に地図から抹消され、公式的に島はないとされる場所に存在する施設、それが地図にない島であり、要人保護や表に出してはいけない人間の処分などをしている場所でもあった。

 

「屈強なだるまさん達と遊んでた」

 

「私もそのだるまさん達と遊ぼうかしら」

 

「(変な扉開きそうだな・・・・)それで、これからどうするつもりだ?」

 

「日本へ戻るわ。虚ちゃんがハッキングして私達が抜け出している事はばれていないから」

 

「おいおい・・・・いいのかよ、日本の暗部が私利私欲で」

 

「いいのよ、色々とやっているんだからこれぐらいの見返りはあっていいものよ・・・・ちなみに貴方でも」

 

「寝言は眠っている間に言ってね。それとも今から眠る?」

 

ライフルを展開して楯無の頭部へ向けながらシャルロットは微笑む。

 

楯無も水を出して攻撃できる体勢になっていた。

 

「・・・・めんどくせー」

 

 

 

 

五反田弾は海岸に来ていた。

 

「まさか、ここにいるとは思わなかったぜ」

 

かつて、この海岸にて先代ギャレンこと橘朔也とギラファアンデッドが死闘を繰り広げた場所、そこに五反田弾と向き合うようにして男がいる。

 

「この場所は俺にとって恥ずべき場所だ」

 

憎悪の視線で弾を睨む。

 

「この計画が成功すれば、お前たちは社会的に抹殺できる」

 

――だが、それだけでは足りない。

 

男は憎悪の目で弾を睨む。

 

「ギャレン、貴様だけは俺の手で潰す。装着者など関係ない、ギャレンという存在を俺は潰す」

 

「悪いけれど、負けるつもりはねぇよ」

 

『ターン・アップ』

 

オリハルコンエレメントを潜り抜けてギャレンへと変身する。

 

男もギラファアンデッドへと姿を変えた。

 

先に攻撃を仕掛けたのはギャレン、彼はホルダーからギャレンラウザーを抜いて光弾を放つ。

 

だが、ギラファアンデッドは二本の刃で次々と光弾を受け流していく。

 

「無駄だ、そんなもの通じない!」

 

「だからって止めるつもりはねぇ!!」

 

近づいてくるギラファアンデッドを睨みながらギャレンは光弾を撃ち続ける。

 

 

 

扉の向こうが騒がしい。

 

「(どうでもいい・・・・私はもう、なにもできないから)」

 

ドンドンと誰かが叩いている。

 

だが、更識簪は布団の中から出てこようとしない。

 

出たくないと考えていた。

 

彼女はギラファアンデッドに襲われた時のトラウマで何も出来なかったことにショックを受けて、部屋に閉じこもっている。

 

幸いな事に部屋の都合で一人部屋になった簪が閉じこもっても隣のベッドは困る事がない。

 

だから、余計に――部屋から出ようという意思がなくなっていた。

 

ドンドン、と響いた。

 

さっきよりも音が強くなっているような気がする。

 

だが、簪は動かない。

 

「(私が居ても、足手まといになる・・・・それに、いたって役に立てるとは思えない)」

 

自分以外にもライダーはいる。

 

剣崎一真以外なれなかったといわれるキングフォームに到達した織斑一夏がいる。

 

同じようにハートスート全てのアンデッドと融合したワイルドになれる富樫始がいる。

 

橘の指導を受けて、冷静に戦おうとする五反田弾がいる。

 

彼らと同じくらい強い意思を持っているがギラファアンデッドのトラウマのせいでそのことを頭の外に置いている簪は気づかない。

 

「(そうだ、私がいなくても、ライダーは戦える。私なんて・・・・)」

 

「だぁぁ!鬱陶しい!!」

 

――バコン!

 

何かが外れたような音がして、床が揺れた。

 

床に重たい何かが落ちたような揺れだ。

 

簪はそれでも布団の中から出ないでいると、靴音が響いて布団を剥ぎ取られる。

 

「こんなところでなにをしているの!」

 

開口一番、目の前にいた女性は怒鳴った。

 

怒鳴られたのは久しぶりで、いきなり自分以外の人間が現れたことで戸惑って何を言えばいいのか思いつかない。

 

「貴方が更識簪さんね?私は広瀬栞、貴方に話があるの、とにかく外に出るわよ」

 

 

広瀬という女性につれられて簪は食堂に来た。

 

席に座るようにいわれて渋々従うと、彼女は目の前に大量の食事を置く。

 

「部屋に閉じこもって何日も食べてないでしょ。さ、沢山食べる!」

 

「・・・・いら」

 

いらない、と拒否しようとしたところで鋭い眼光と目があって大人しく従う。

 

定食、どんぶり、麺類、沢山の食事を見ていると、いままで忘れていた空腹感が襲い掛かってくる。

 

我を忘れて簪は目の前の食事にとびついた。

 

 

「本当に何も食べていなかったみたいね」

 

目の前の食事を全て平らげたことに広瀬は驚きながらも同時に凄いと思ってしまった。

 

――フードファイトとかあったら優勝するんじゃないだろうか。

 

どうでもいいことを考えながら満足な表情を浮かべている簪に話を切り出す。

 

「確認だけれど、貴方がレンゲルを受け継いでいるのよね?」

 

「・・・・はい」

 

満足な表情から一転して消沈する簪に広瀬は同情を抱くが優しくはしない。

 

「貴方はどうして部屋に閉じこもったままなの?」

 

「・・・・もう、戦えないから」

 

「どうして?それは誰かが言ったの」

 

「・・・・アレを前にして、私は」

 

体を震わせて簪は言葉を紡ごうとする。

 

感情の整理がつかず、何を言えばいいのか思いつかないそんな様子だった。

 

「状況ははっきりいって、最悪すぎるわ。このままだと負ける」

 

「私には、もう、関係ない」

 

「関係はあるわ。貴方がライダーシステムを持っている限り」

 

「じゃあ、捨てます!」

 

簪は震える声で叫んだ。

 

「これをもっていても私はもう、何も出来ない!アレを前にしたら動く事ができない!その間に弾やみんなが傷ついてしまう!それなら、私は戦わない方がいい!」

 

「逃げるの?」

 

広瀬の声に簪は動きを止めた。

 

目の前の彼女の声に感情がこもっていない。

 

冷めた目で見ていた。

 

「貴方の気持ちも、トラウマもわかったわ・・・・でもね、剣崎君達はそれよりもきつい戦いを繰り広げてきたのよ」

 

広瀬は語る。

 

ライダーとして戦い続けた剣崎たちのことを。

 

戦うことへの恐怖心から融合係数が低下しアンデッドに操られて、戦う事をやめようとした橘朔也の苦悩。

 

戦いの中で理解し、共闘しつつも、最後にはお互いの命を賭けて戦い、全てのアンデッドを封印することで人類の勝利を収めたことに罪悪感を抱える剣崎一真。

 

“人間”と触れあい、ただ戦うだけの存在から変わろうとしつつも、運命から逃れられず戦いの中に身を投じた相川始の無念。

 

憧れからライダーとなり、邪悪なアンデッドに操られ、戦いが終わった後も何かが欠けたような気持ちを抱く上城睦月の違和感。

 

「みんな、戦いの中で色々なものを失っている・・・・でも、貴方はまだ失っていない!失うかもしれないというだけでなにもせずに震えているのはただの逃げよ」

 

「でも・・・・」

 

「目の前の敵から逃げても、いつかは対峙するときがくるわ。そのときも貴方は逃げるの?逃げて、逃げて逃げ続けていたら何も変わらない、何も出来ないままよ?」

 

言葉一つ、一つが簪の心に突き刺さる。

 

「だったら、どうしたら」

 

「――戦いなさい」

 

広瀬は告げた。

 

――戦え。

 

――戦うんだ、と。

 

「逃げずに立ち向かう事も苦難の道かもしれない。でも、剣崎君達は戦うことで少しでも変えようとした。何かを変えるという事は戦うことと同じ、簪ちゃん」

 

覗き込むようにして広瀬は尋ねた。

 

――貴方はなに?と。

 

「私は」

 

――更識簪、

 

そして。

 

――レンゲルを継いだ者。

 

「私は、ライダー・・・・」

 

「五反田君があのアンデッドとここで戦っているわ」

 

広瀬はアンデッドサーチャーを取り出してみせる。

 

「弾が・・・・」

 

簪は立ち上がる。

 

手が少し震えていた。

 

その震えている手に広瀬はあるものを渡す。

 

「これは・・・・」

 

「貴方が変わるための、力よ。戦って、簪ちゃん!」

 

「っ、はい!」

 

簪は叫んで食堂を出る。

 

広瀬はその後姿を見送った。

 

「私って、相当嫌な女になっていますよね」

 

「いい女だと思いますが?」

 

いつの間に現れたのか広瀬の後ろには千冬がいた。

 

「有名人に言ってもらえると嬉しいわね」

 

「申し訳ありません、橘さんから何かあったら貴方に頼れといわれていたので」

 

「もう、橘さんや剣崎君達はなにをしているのよぉ、せっかくバカンス楽しもうと思っていたのにぃ」

 

体をほぐして広瀬は立ち上がる。

 

「さ、黒幕のところにいくわよ」

 




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